少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

少女探偵島都の殺人❸【解答編】

 

5

 

【容疑者】

・津川周一(16)常総高校1年

・崔麗花(15)朝鮮高等学校1年

・朴愛子(16)朝鮮高等学校1年

・全一(55)朝鮮高等学校校長

・白星蘭(23)朝鮮高等学校教諭

・内藤亮介(59)警備員

・檜森倫(30)運転手

 

 都は夜の公園をスタスタ歩きながら笑顔でスマホに電話をした。結城が「おーい、どこへ行く」と背中から声をかけた。

「まずあの朝鮮学校補助金とか何かでいろいろ裁判とかしてて、反対派の人からテロとかを予告されて、一方で賛成する人が応援の為に文化祭に参加していた…千尋ちゃんはともかく、大人の世界ではそんな構図があったんだよね」

-う、うん…。

「と言う事は」

都はスマホの先の千尋に笑顔で言った。

「犯人は千尋ちゃんがこの朝鮮学校に来ることをそもそも予測なんかする必要はなかったんだよ。だって自分を批判するTwitterの人の誰かが朝鮮学校の文化祭に来ている訳でしょ。その中で『文化祭なう』って呟いている人のアカウントを見つけて、その人を殺すために爆弾を爆発させると職員室に電話すればいいんだから」

と都。

 千尋は一人きりの廃墟の部屋で涙で濡れた目を見開いた。

「犯人は千尋ちゃんを殺すために爆弾を仕掛けたんじゃない。最初から朝鮮学校に爆弾を仕掛けてから、ゆっくりとTwitterで文化祭に来ている人を探したんだよ」

都はスマホに話しかけた。

「な、何でこんなことを」

すたすた歩く都の背後から、結城が話しかけた。

「嫌がらせだよ。16歳の女の子に自分の考えを笑われたり馬鹿にされた事がよっぽど悔しかったんだろうね。ただ千尋ちゃんが学校に来ていなければ、別の学校に来ている人をターゲットにしたんだと思う」

都はガラゲーを顔に当てたまま喋った。

「病院に薮原がいるって事はどうやって予測するんだ。負傷者は別の病院にも搬送されているし、薮原が怪我をするかどうかもわからんだろ」

と結城。

「ううん」

都は首を振った。

「犯人は千尋ちゃんを病院で見かけた。つまり千尋ちゃんが病院にいる事を知っていたんだよ。もしそうじゃなければ、誰か別の人間を名指しして病院に脅迫電話をしたんだと思うけど。偶然廊下とかで千尋ちゃんが私たちと歩いているのを見て、さらに千尋ちゃんを追い詰める方が楽しい…そう考えたんだろうね」

都はスマホに向かってしゃべりかけた。結城は呆然とした。

「な、何でこんな事を犯人はしたんだ」

と結城は声を震わせた。

「障害を持っていたり、ゲイだったり、民族とかが違うって理由で人を殺そうとする人はいるみたいだからね」

都は結城を見た。

「そう、犯人は爆弾の準備が終わった後で、文化祭に来ている人の中から誰にしようかなってTwitter千尋ちゃんを選んで、その千尋ちゃんの名前を職員室に電話をかけただけ。だから千尋ちゃんがTwitterにトッボキをアップして、その数分後に犯人が職員室に電話。その直後に爆弾を爆発させたんだよ。つまり犯人は千尋ちゃんが今どこにいるかを予想して、行くところ行くところに爆弾を仕掛け続ける事は、もう出来ないんだよ」

と都はスマホに言った。

 廃墟の部屋で蹲っていた千尋スマホ片手に目を見開いた。

「そして犯人は内藤さんに守られる形で、ギリギリ自分が被害を受けないところで起爆スイッチを入れた。自分に疑いがかからないようにする事を目的にね。そしてあの木にセットされたカメラもフェイクだったんだと思う。

 都はロープの封鎖を突破し、廃墟になった団地の前に立った。

千尋ちゃん。迎えに来たよ。千尋ちゃんのいる団地にね。一緒に帰ろ」

都は笑った。

-な、何で…私が廃墟の団地にいるってわかったの。

千尋がびっくらこいた声をする。

千尋ちゃんの電話越しのヘリコプターの音、パトカーのサイレン、市の広報車…。その音と今私がいる場所から聞こえる音を聴き比べれば、大体わかる事だよ」

と都がスマホに笑いかけた。

「わからねえよ」と結城が突っ込む。

(ま、まさかこいつ抜群の記憶力で頭の中に瞬時に地図を作り上げたのか)

結城は愕然とした。

「でもどこの部屋にいるのかわかるかな」

と都。

「待って。2階にいるのはわかるんだけど。怖くてパニくっちゃっててさ」

千尋団地の廃墟の窓ガラス越しに外を見る。

「ははは、腰が抜けちゃった」千尋は涙声でスマホに向かって笑った。

「じゃぁ迎えに行くね」

都は笑って電話を切った。

「じゃぁ私はあのビルを探すから、結城君はこっちを探して」

と都は結城に指示を出した。結城はため息をついて頷いた。

 

「はー」

千尋団地の廃墟の部屋でため息をついた。やがて階段を上がってくる足音が聞こえた。

 

「そうか、見つかったか」

長川警部はセダンを運転しながらスマホにスピーカーに話しかける。

「今都が犯人とにらんだ野郎の所に鈴木がガサを入れていてな」その時通知音が聞こえた。

「どうした鈴木か」

と長川。

 

「警部! 奴の部屋で押し入れに縛られ監禁された男を保護しました。命は大丈夫そうですが、かなり衰弱していてあと12時間遅ければ危なかったと救急隊員が。おそらくこのまま餓死させるつもりだったと思われます」

鈴木刑事がアパートから救急車で運ばれていく人物を見ながらスマホで連絡した。

「良かった。生きていたか。となるとあの男はやはり偽物」

長川の表情が緊張する。女警部は思い出していた。都の話を。

 

「その人は薮原千尋って女性の名前を聞いて、女子高生って答えたんだよ」

と都は病院の会議室で長川を見上げていた。

「でも朝鮮高等学校で事件があったから女子生徒を連想しても」と長川。しかし少女探偵は首を振った。

「でも全校長はこの学校の関係者に薮原千尋はいないって言ったんだよ」

都の言葉に長川の目が見開かれた。

「つまり犯人は、檜森倫!」

 

 廃墟の部屋で千尋の前に現れた人物。檜森倫。だが今までの朴訥な印象は全くなく、金髪に染めた髪の毛に刺青の首。そして狂った笑顔。手には軍用ナイフを持っていた。

「やっと会えたね。千尋ちゃん」

その狂人の表情に千尋は恐怖に戦慄した。「あ、あ…」

 狂人の金髪の男は大麻煙草を気持ちよさそうに吸いながら笑った。

「ああ、気持ちいい。大麻はやっぱり世界を救うんだ。ひひひひひ」

 

 長川はセダンを県道で転回させ、パトランプを出して都が知らせてくれた団地に向かわせた。運転席で彼女は都の推理を反芻する。

 

-まさか第二の事件で知的障碍者の女性に爆弾を運ばせたのは。

-自分を被害者だと思わせるための心理的スリードだよ。彼自身も騙されて爆弾を運び込んだって思わせるためにね。でも彼は障害者じゃない。多分本物と入れ替わっている偽物だよ。

-偽物?

-うん。犯人はあの車をレンタカーで借りたんだと思う。そしてその時には必ず運転免許証を見せなければいけないよね。そして黒い車を借りた人間は上松星斗。この人が本名で堂々と借りたんだよ。そしてそれを檜森倫という人物に成りすまして学校に乗り付け、そして知的障碍者であるという身分を心理的なガジェットとして別人に成りすました。運転免許証も全て爆弾で吹っ飛んでしまったことにすれば、一時的にも入れ替わることが出来るんだよ。

-な、なんて奴だ。

-自分で計算した爆発の威力から警備員の内藤さんを盾にする形で助かり、そしてゲームのように千尋ちゃんを巻き込んで追い詰めたんだよ。自分のせいで学校でも病院でも大勢の人が傷ついたってね。

-動機は何なんだ。

朝鮮人だから。それと自分をTwitterで馬鹿にしたから。

長川の回想の中で、島都は長川警部を緊張した表情で見上げた。

ヘイトクライムって奴なのか。

長川は都から話を聞いたとき、戦慄を隠せなかった。

 

「あ、あんたなの」千尋は部屋の壁に追い詰められ腰を抜かした。

「あんたが爆弾で学校を壊したの?」

「そうだよ」笑顔の檜森、いや上松星斗は言った。

「あの女子高生探偵が邪魔しなければ大勢人を殺せたのに。そうなったら日本はもっと良くなるところなのに」

さっきの大麻の影響だろうか。上松は喜悦の表情を浮かべる。

「へへへ、怖いか。怖いよな」

上松は恐怖で震え硬直する千尋のブラウスの胸をナイフで舐った。千尋は「ひっ」と目を閉じて怯える。

「そうだよ。女なんて言うのはそうやって本物の男の暴力の前ではこうやって怖がるしかないんだよ。ケケケケ。でも人権って言葉に甘えて、一丁前に議論を吹っ掛けるんだ。君みたいな馬鹿がのさばる世の中になるくらいなら、人権なんてない方がいいんだ」

ホクホク笑顔の上松。

「俺はな。お前を殺したら今度は養護学校を襲うんだ。ケケケ。今度こそ20人か30人は殺してやるんだ。役に立たない障害者をいっぱい殺して、そして警察に自首する」

「狂ってる…死刑になるから…」

千尋は両手で胸を庇いながら震える声で言って、きっと涙にぬれた目で上松を見上げた。

「ならないよ」

上松は笑った。

「きっと『命はみんな平等』とかほざいている人権派が助けてくれる。『この世界にこんなヘイト思想が蔓延する理由を知る為には生かしておかないといけない』とか言ってね」

上松は千尋の恐怖に震える頬の涙に刃先を這わせた。

「そして『命は平等だ』と言っている人が僕に会いに来て、僕の話をいっぱい聞いてくれる。『上松の思想は特別な思想ではなく世の中に蔓延している』とか言って僕の思想を広めてくれる。そして、僕の思想が正しいと証明されれば、僕は英雄として釈放されるんだ」

上松は千尋の目の前でナイフをチラチラさせた。

「反吐が出る」千尋は吐き捨てるように言った。

「あんたは本当は世の中がよくなるとか何も考えていない。『命は不平等』『殺してあげるべき』とか、そういう考えも本当は持っていない。ただ過激な行動をとって、周りがドン引きしているのを勘違いしているバイト先によくいるクソ客の劣化版みたいな奴だよ。『命の大切さ』とかそういう当たり前を持った人に甘えているどうしようもないね」

千尋はじっと上松を見つめた。上松の表情が一瞬強張った。

そして突然千尋の顔のすぐ横の壁紙にガンと軍用ナイフを突き立て、千尋は「きゃっ」と声を上げる。

「この僕がレクチャーしてあげているのにわからないんだな。お前怖がっているじゃないか。甘えているのはお前だろ。今までママに大事にされて、ぶっ殺されないでいられたのは僕みたいな存在が見逃してあげていた事を忘れていた。その甘えのせいでお前は殺されるんだ」

上松はねちゃっと笑った。

(こんな奴に、私殺されるんだ)千尋は思った。上松は醜悪で下品な笑顔で本当に楽しそうに千尋を見つめる。

「僕は刑務所で働くのは嫌なんだよ。そしてみんなが僕に注目し、僕の意見を聞いてくれる人が現れるためには、僕は死刑判決を受けなきゃいけない。君はその礎になるんだよ。エヘヘヘヘ。後悔しろ。女でしかないお前が、俺みたいな男に意見した事を。たっぷり苦しんでな」

千尋の目に振り上げられた刃が映った。次の瞬間薮原千尋は「いやぁあああっ」と絶叫した。

 

6

 

 団地廃墟の部屋で真犯人上松星斗の振り上げたナイフに千尋が絶叫したその瞬間に、既にその部屋には鉄パイプを振り上げた小柄な少女、島都が走り込んできた。

千尋ちゃん伏せて!」

千尋が身を伏せた瞬間、瞬間的に間合いを詰めた小柄な女子高生島都が鉄パイプを思いっきり上松の後頭部に叩き込んだ。男なら確実に上松を撲殺できていただろう。上松の手からナイフが滑り落ちる。頭から出血し、脳震盪状態でフラフラ顔を上げた上松の今度は顔面に都の金属棒が叩き込まれる。仰向けに倒れ込んで顔を抑える上松の膝のお皿に都は金属棒を突き立て、全体重をかけて膝の皿を割る都。千尋は「ぎゃぁああっ」と足を抑えようとする上松の顔面を都が思い切り蹴り潰すのを見て戦慄した。

 都は金属棒を投げ、上松の上に馬乗りになると、その顔面を何度も拳で殴りつける。その声は最早ひらがなでは表現不可能な獣のような唸り声だ。

「あああっ、ああああっ、アアアアアアッ」

都は自分の指の骨の激痛も忘れて、頭蓋骨と顎のつなぎ目や脳を入れる骨のつなぎ目辺りもかまわず殴り上げた。都の拳が振り下ろされる。

 

 病院の手術室の前で、長椅子から朴愛子が立ち上がった。

「선생님, 난 역시 치히로 씨를 찾는 데 도움이됩니다(先生、私はやっぱり千尋さんを探す手伝いをしてきます)」

「당신(貴方)」と白先生が立ち上がる。

「쓰가와 군 옆에 없어도 되나요?(津川君のそばにいなくてもいいのですか)」

朴愛子は白先生を振り返る。

「내가 쓰가와군의 입장이라면, 그렇게 하고 싶다고 생각합니다. 치히로씨와 그 친구는 목숨을 걸어 우리 동포를 지켜주었습니다. 일본인인데. 그러니까 나도 치히로씨의 수색에 공헌해야 합니다. 그것은 민족, 아니, 인간의 올바른 형태입니다.(私が津川君の立場なら、そうして欲しいと思います。千尋さんとその友達は命がけで私たち同胞を守ってくれました。日本人なのに。だから私も千尋さんの捜索に貢献すべきです。それが民族の、いいえ、人間の正しい形です)」

愛子は白を真剣な表情で見つめる。

「그런데, 나는 조금 심한 것을 말해 버렸습니다.(それなのに、私はさっき酷い事を言ってしまいました)」

「알았어(わかりました)」と白は立ち上がった。

「나도 함께 찾아보자(私も一緒に探しましょう)」

 

「うわああああああっ、うわあぁあああああっ」

団地の廃墟の部屋で千尋の見ている前で、都は何度も何度も上松の顔面を殴りつけた。上松の顔がどんどん腫れあがり、ぼこぼこになっていく。150㎝未満の都が170以上はある男に馬乗りになって狂ったようにボコボコにしていく。上松は殴られるたびに口から血を噴出させる。

 不意に都の体が蹴飛ばされ、壁に叩きつけられる。上松は必死で起き上がりナイフを探すが、そのナイフは立ち上がった都の手に握られていた。

 ナイフを手にした都の目はギラリと光り、温厚で明るいかわいらしさはどこにもない、凄まじい憎悪の表情だった。千尋はその表情にゾッとする。

 その表情に本気を感じて、上松は部屋から逃げ出した。必死で足を引きずり、階段から転げ落ちるようにして何とか廃墟の団地の前の敷地内にある道路に出る。そして這いずるようにして逃げようとするが、その背後に軍用ナイフを持った都が立っていた。

「じょ、女子高生探偵島都」

と上松が恐怖の笑いを浮かべた。

「高校生探偵は憎しみに捉われちゃいけないだろう。復讐殺人だって止めてきたはずだ」

都は聞いていなかった。彼女は今まで必死で押し殺していた感情が燃え上がっていた。傷つき苦しむ人々、お母さんに助けを求める少女、自分を助けようとした津川周一、彼が図書室で見せた笑顔、手術室に消えていった姿、そしてこんな奴の下らない遊びの為に恐怖し怯え、傷つく薮原千尋。事件解決の為に押し殺してきた怨念が、ヘラヘラ笑って許しを請う外道を前に憎悪と言う形で都の表情に現れた。

「私の小さい体ではお前を捕まえられない」

都は言った。その表情は岩本承平すら連想させるほど冷徹だった。

「でもお前を逃がせばお前は今度こそ人を殺す」

都は軍用ナイフをゆっくり振り上げた。

「や、やめて…殺さないで」と本気で死の恐怖に怯える上松。だが都の脳裏には「好きです」と告白してきた津川周一、そして自分を庇って瀕死の重傷を負い、血の海の中で倒れている津川周一…それがぐるぐる回っていた。

「お前を逃がす訳にはいかない」

都の目が赤くギラリと光り、口元が歯ぎしりした。そして思いっきり上松の心臓めがけて刃物を振り上げた。

 だがその手首は強い力で握られた。結城竜が都の横に立っていた。都は結城を物凄い形相で見つめた。結城はそんな都の形相をじっと見つめていた。都の表情はやがて呆然とした表情に変わっていた。

結城は小さくうなずいた。言葉はいらなかった。都はナイフを持つ手を降ろした。

 千尋が階段入口で安心したように座り込んだ。

 上松は座り込んで失禁し、涙を流して震えていた。団地の敷地にパトカーが入ってきて、サイレンが団地の古い建物を照らし出す。長川が鈴木と西野に指示すると、鈴木が上松の両手に手錠をかけた。上松の手に手錠がかかるガチャンという音を都は呆然とした表情で見ていた。

長川の部下はそのまま腰を抜かした上松を引きずるように車に乗せて連行して行った。

 都はナイフを持ったまま向かい側の団地を見ていた。結城も長川も彼女の表情を見る事は出来なかった。だが2人ともわかった。

 少女探偵島都は、泣いていた。

 

 3週間後-。

 結城竜のマンションのソファーで結城は寝転がっていた。テレビではBの部屋でカエル肉を選んだ映す価値のない芸能人が発狂している。

「お兄ちゃん」結城秋菜が結城竜に声をかける。

「師匠の返事。気にならないの」と秋菜。

「気になるわけないだろうが。あいつが誰と恋愛しようが俺には関係のない話だ」

と結城はポテチをモシャモシャしている。

「じゃぁなんで物凄い貧乏ゆすりしているの?」

秋菜がジト目で結城を見つめる。結城は貧乏ゆすりを止めた。

「気のせいだ」

結城は秋菜にそう言うが、1分後にはまた貧乏ゆすりを再開した。秋菜は呆れたように結城を見つめる。

 

 病院のベッドから窓を津川周一は見つめていた。ドアがノックされ、高校の制服を着た1人の小柄な少女が笑顔で部屋に入って来た。

「おはよ」と笑顔の島都。都は病室の横におみかんが入った段ボールを置いた。

「お見舞いと、それから返事に来ました。津川君がしてくれた告白の返事に」

都はじっと津川を見つめた。そしてそれから彼の足を見つめた。布団で隠れて見えないが、彼の右足は切断されていた。都を助けるために、彼はそうなってしまった。

「返事を聞く前にお願いがあるんだけど」

津川周一は都を見た。

「何かな」と都が目をぱちくりさせる。

「まず絶対に『ごめんなさい』と謝らないでほしいんだ。僕は島さんを助けられてよかったと思っている。でもそれは島さんが僕の彼女になってくれるかどうかは関係ないんだ。それともう一つ」

津川は都を見て笑った。

「どんな返事であったとしても、英語の時間はまたコミュニケーション・トライ…してほしいんだ」

都は津川を悲し気に見つめた。津川はそれを見つめてから、言った。

「島さんは僕の彼女にはなれないんだね」

都は頷いた。

「私、恋とか、そういうの全然考えたことなくて、それで家でいっぱい自分の気持ちとか考えました。私、好きな男の子がいるんです。だから私は津川君とは付き合えません」

都は津川周一の顔を見た。

「ありがとう」津川は都を見た。

「僕の事をこんなに一生懸命考えてくれて」

「当り前じゃん!」都は少し声を大きくしていった。

「私の事を津川君は凄く考えてくれたんだから…」

都は立ち上がった。

「学校で車椅子を押すのは私と探検部のみんながやるから。何でも言ってね。それじゃぁ、お大事にね」

都は顔を真っ赤にして一生懸命笑うと、病室から出て行った。津川少年は笑顔で笑った。

「島さんらしいなぁ」

 

 島都はぼーっとしながら病室の廊下を歩いていた。

「都!」とすれ違っても気づかれなかったお見舞いに来た薮原千尋に声をかけられ、都は「ふえ!」と焦った。

「あわわわ。千尋ちゃん」と都。

「津川君に返事したの?」と千尋。都は「うん」と頷いた。

「そっか…」

都の表情からその決断を察し、千尋は小さな声で言ってから、都に抱き着いた。

「ごめんね。私がネットでトラブってしかもてんぱって病院からいなくなって」

千尋は声を震わせた。

「私のせいで都がもう少しで探偵でいられなくなるところだった」

「そんなことないよ。千尋ちゃんはずっとみんなことを思っていたじゃん。悪いのは全部あの犯人だよ」

都はあの事件から一度も上松を名前で呼んでいない。千尋は笑った。そして都の肩を持って向かい合った。

「都も同じだよ。今『自分が告白された時にテンパっていなければ、ちゃんと返事をしていれば津川君も命がけで自分を助ける必要はなかったのに』って思っていたでしょ」

千尋。都はΣ(゚д゚lll)ガーンとなった。

「ち、千尋ちゃん、エスパー?」

「今どんな気持ち? 都」

千尋に問われて、都は「なんだか、胸がきゅーーーーっと痛い」と都。

「わかるww」千尋は笑った。

千尋ちゃんもそんな気持ちになったことが」と都が訝し気に千尋を見る。

「そこ疑わない! あっちに休憩室あるからさ。しばらく休んでな」

千尋は都に休憩室を指さした。

千尋ちゃん…ありがと」都が振り返らずに言った。

「何が」と千尋はそう言って津川の病室に向かった。

 

 病院の自販機がある誰もいない休憩室。その場所に一人小柄な女子高生島都が立っていた。ショートヘアの美少女だった。

 彼女はその場で学生バッグを床に置くと休憩室の扉を閉め、それを背に胸を押さえた。その顔は真っ赤になって涙が大粒になってポロポロ落ちていく。歯ぎしりするように都は笑った。

「いい人過ぎるよ」

 やがて彼女は「うわああああああん」と号泣した。

 

おわり