少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

死者の蒼白【3-4】

 

 

「誰かが死体を持ち去った? 何の目的で」
黒焦げになった作業小屋の前で結城は唖然とした声を出した。
「うーん」
都は考えた。
「死体を持ち去る理由はともかく、犯人が小屋を燃やした理由がわからないんだよね」
「そりゃ、死体の痕跡を隠すためだろう」と長川。だが都の疑問は払拭されないようだ。
「でも死体を持ち去って血を拭きとれば、その場所に死体があったかどうかもわからないわけだから、そもそも作業小屋なんか調べられないよね。佑衣子ちゃんたちに見つかって焦ったとも考えられるけど、それなら犯人は確実にあのカメラを何とかしたと思うんだよね」
都は啓介が仕掛けた人感カメラを見つめた。
「このカメラの解析は」
長川が言うと所轄の刑事は「既にデータは取り出して警察署でチェックしていますが、一度だけ犯人らしき人物が映っていました。データが消された形跡はありません」とスマホを翳して見せた。小屋の中に不気味な表情の男が映り込んでいた。
「待てよ。これって」
長川は自分のスマホをチェックする。
シャツに血を付けた状態で堤防を歩いていたという男にそっくりだ
長川は目撃者が書いた似顔絵を都たちに見せた。
「確かに似ているけど」都は考え込んだ。
「だけどやっぱり変だよ。この人死体を持っていないよ。返り血を浴びて手ぶらで堤防を逃げていたとしたら、死体はどこに持って行っちゃったんだろう」
「川かもしれん」
長川は真っ暗な川面を見つめた。
「群馬の方で相当雨が降ったらしくてな。結構流れが速くなっている。犯人は咄嗟に死体を川に投げたのかもしれない」
「だとしたら、犯人もずぶぬれになっていないとおかしいよね」
都は思案した。
「まさか都は犯人が別にいるとでも考えているのか」
長川が聞くと「それはわからないけど」と黒焦げの作業小屋の何もかもが溶け落ちた入り口を見つめた。
「この入口、かがめばカメラの視界に入らないように出入りは一応できるし、密室って事はない。それにもしかしたら、そもそもこの作業小屋に最初から死体なんてなかった可能性があるんだよ」
「どういうことだ」
勇気が声をあげると都は黒焦げの作業小屋を見つめた。
「この作業小屋には救護用の人体模型とペンキ缶があったからね。これを使って死体をでっち上げる事は可能なんだよ。つまり死体を回収しなくても自動発火装置みたいなトリックを使えば、摩訶不思議な事件を作り上げる事は出来るんだけど。火をつけるって重い罪なんでしょ。いたずらとかでそういうことまでするかな」
「確かに妙な話だな」
結城はため息をついた。
 
 翌日既に30度越えの朝。勝馬の家がある文具店2階の仏間で、勝馬は「ナンマイダーナンマイダー、どうか都さんと千尋が女のお化けに呪われませんように、何なら結城が全部身代わりに憑りつかれてもかまいません。アーメン」とひたすら変な御経を読んでいた。
勝馬君、今忙しい?」
不意に声がして振り返ると青いノースリーブにハーパンの高野瑠奈がシャツパンの勝馬の背後から声をかけてきた。
「どああああああああああ」勝馬がびっくらこいて振り返る。
「こ、これは瑠奈さん。どうかなされたのですか」
実はちょっとバイクで連れて行って欲しいところがあるんだよね」
瑠奈はパンと勝馬に手を合わせてナムナムした。
 
 瑠奈を後ろケツして勝馬のカブが到着したのは坂東市市議会だった
「やぁやぁ、ようこそ来てくれました」
昼食の時間に瑠奈が1人で食堂で会った市議会議員、荒木廉太郎(55)は赤ら顔の眼鏡のおじさんで、キルギス辺りで大統領をしていそうな男だった。
「お忙しい中時間を作っていただき感謝します。常総高校探検部の高野です」
瑠奈は丁寧にお辞儀をした。荒木は「いやいや」と手を振ってから瑠奈に顔を近づけた。
「どうも妙な事件が滑走路の方で起こっているみたいだね。人が死んでいるとか返り血のついたシャツの男が歩いているとか、テレビで放送されていたよ。このような場所は危ないから閉鎖するように行政に求めているのだが」
「荒木議員は、議員活動の傍ら、子供向けのキャンプも主催されているんですよね」
瑠奈が質問すると「ああ、子供たちの健全な成長に貢献したくてね。今日も午後からキャンプに行くんだ」と和やかに言う荒木。瑠奈は「そこで大勢の子供たちとUFOを見たとブログに書かれていたのを見ました」と笑った。
「山の発光現象自体は科学的に説明できる現象だよ」
荒木は話を続ける。「三角形の山は山頂付近に地下水から発せられるイオンが集中しやすく、それが原因で夜に青白く光る現象は他の山でも確認されている。皆UFOだと騒いでいるが、実際は模型で再現実験も可能な現象だよ」
でもその後宇宙人に攫われたと主張する女の子が1人いたようですが」と瑠奈。
「恐らく、UFOを見たという恐怖が悪夢を見せてしまったんだろう」荒木はため息をついた。
「凄く怖い夢ですよね。宇宙人に体を調べられるなんて夢見たら、私も夜寝るのが怖くなってしまうと思います」瑠奈が表情を曇らせる。
彼女のように宇宙人に胸や性器を調べられたと主張する思春期の少女はアメリカにも多いようだね」と荒木。
個人的には二次性徴時の体の変化がこのような幻想を見せる作用となっていると考えているんだ。例えばトイレの花子さんや赤い紙、青い紙も、学校で性器を外に晒す緊張感が生んだ都市伝説という分析もあるし…おっと、女子高校生にしていい話ではなかったな。民俗学にも興味があって、ついつい話してしまうのだが」
荒木は苦笑した。
「いえ、とても参考になります。でも学校の怪談や宇宙人が民俗学に関係しているなんて驚きでした
瑠奈が感心したように言うと、荒木は「それは大ありなんだよ。民俗学は何も古い伝説や迷信だけではない。宇宙人や口裂け女花子さんも民俗学を構成する要素なんだ」とまた楽し気に話しだした。
 
「瑠奈さん、お帰りなさい」
ロビーに展示されているスズメバチの巣の前で勝馬は一礼した。
「随分長く話していましたね。何の話をしていたんすか」勝馬が聞くと瑠奈は「宇宙人と民俗学について…かな」と苦笑した。
「はぇー、それってバルタン星人とか、X星人とかの話ですか」
勝馬はきょとんとした声をあげた。「政治家って変な話をするんですね」
「嘘嘘、本当は都に頼まれた調査をしてきたんだよ」瑠奈が苦笑しながらボイスレコーダーを手にした。
ほら波田君の妹さんのキャンプの先生が市議会の荒木って市議だから。いくら何でも税金を使って宇宙人の話は…」
市役所の前で演説している政治家の声が聞こえてきた。
バイデン大統領も岸田首相も全員爬虫類型宇宙人であるレプテリアンです。今行われているのは光と闇の戦いで、光の戦士がトランプ大統領プーチン大統領
そして聴衆が「1,2,3,4、光の戦士」と叫んでいる。
「いたね」と瑠奈が呆然と立ち尽くす。
 
 炎天下の昼間、地元の警察署の会議室で、都、結城、千尋の3人は長川警部に会った。
「だああああああ、クーラー天国だあああああああ」
と結城がだらしのない声でパイプ椅子に座る。
「あ、長川警部。温度もっと下げてぇ」とさらにだらけ切った都。
「まず結論から言おう」
長川はぐてーしている都に向かってため息交じりに言った。
「恐らく作業小屋にあったのはマネキンではなく、本物の人間だった事は間違いないと言える」
「やっぱり」
都は長川を見た。
「やっぱりってお前」結城が都を見ると、都は「私ちょっと考えてそうじゃないかって思えてきたんだよ」と目をぱちくりさせた。
「だってあの作業小屋にマネキンがあるって事は、佑衣子ちゃんたちも当然知っていたよね。って事は死体が転がっていたらマネキンかもって事くらいは予想したはずなんだよ。って事は確認くらいはするんじゃないかな。3人もいるんだし」
「ああ」
長川は頷いた。
「3人にはいろいろ聞いたんだが、死体の顔を確認した結果、やはり40代前後の男性が死んでいたらしい。警察もプロだからな。3人が口裏を合わせていたとしても、絶対ぼろが出る質問テクニックは心得ている。だが佑衣子さん、啓介君、平太君の証言に矛盾はなかった。やはり3人が見た死体はマネキンなんかではないという事だ。それに堤防で他の目撃者が返り血を浴びた男の証言もあるしな。警察はこの事件は殺人事件の可能性もあるとして情報を公開し、市民に情報提供を呼び掛けたよ」
「さすが」
結城が感心したように言ったが、長川は頭を抱えた。
「それがかなり微妙な結果になってな」
「犯人の情報がさっぱり集まらないとか?」千尋が言うと、長川は「その逆だよ」とため息をついた。
「自分が殺したと主張する人間が3人も自首してきたんだ」
「なにぃ」結城が素っ頓狂な声を出した。千尋も「えー」と声を出した。
「1つの殺人事件なのに、3人も」
都は目をぱちくりさせた。
 
4
 
「全く、予想外だ」
長川警部は「まいった」と言わんばかりに両手を挙げた。
「まず1人目は、西本理名。22歳。上司を殺したと言っている。この写真の人物なんだが」
長川は都の前の机にマグショットを置いた。逮捕時はスーツ姿だったらしく、いい会社のOLという感じだった。
「これを波田佑衣子に見せたところ、彼女こそが滑走路で裸で踊っていた女性そのものだったんだ」
長川は「びっくりしたよ」と言う。
「え、こんないい会社のOLみたいな人が? ストレスでも溜まってつい自分を開放したくなっちゃったのかな」
千尋の感想に長川は「そんな呑気な話じゃなかった」とため息をついた。
「彼女は営業成績のペナルティとして、職場近くの滑走路で裸踊りを強要されていた。それを上司が鑑賞していたようだ。大体上司が座っていたのは滑走路に面した作業小屋の前。だから佑衣子さんから見て死角になったんだな」
「は、何その上司…どんな奴だったの?」千尋が憤怒の表情を見せる。長川はため息をついた。
「榎本謹二。44歳。堤防に面した榎本加工の社長だよ。従業員に給料を支払わず会社に寝泊まりさせて精神的支配。男性従業員には道行く女子高生に卑猥なナンパをさせたり、コンビニや駅前で女装させて躍らせたり、とにかく羞恥心を感じる事を外でやらせて社会とのツールを絶たせる。女性従業員はエロサイトに裸を投稿させていた。そうやって尊厳を徹底的に奪ったうえで精神支配を完成させ、無償で食事としてドッグフードを支給する形で長時間労働をさせていたようだ。今警察が強要の容疑で逮捕したよ」
「逮捕って。殺されたんじゃないのか?」
結城が声をあげた。長川は「普通に生きていたよ」と言った。
「会社に乗り込んだら事務机に普通に座っていた。金髪のヤクザシャツを着ていたが、警察手帳を見せて取調室で任意で話を聞いていたら、半泣きしておしっこまでしてくれたよ。どんだけビビリなんだよ」
「弱い人にハラスメントする人はみんな弱虫だよ。弱虫だから誰かを支配しないと怖くて怖くて仕方がないんだから」
と都。
「でもまぁ、榎本が生きているってわかったら、西本って女の人も釈放されているだろ」
「それが西本理名は自分が殺したと言い張っているんだ」長川はため息をついた。
彼女曰く裸踊りをさせられるのが苦しくて怖くて記憶が飛んでしまい、気が付いたら服を着て近くの公園に座っていたそうだ。翌日街をさまよった挙句にたどり着いた家電量販店で殺人事件かもしれないとニュースがあり、自分が犯人に違いないと今日警察に自首してきたよ。釈放しようにも天涯孤独で家もなく、精神的にも不安定だからなぁ。今とにかく精神鑑定をしている所だ。もしかしたら全く無関係な人間を殺してしまったのかも知れないしな」
「2人目は?」結城が聞くと長川は頭をかいた。
「皆口広江。63歳。自分の息子の皆口良平、31歳を殺したと言っている」
長川は写真を見せた。普通のおばちゃんと言う感じだが、白髪で痩せている。眼にはクマが出来ていた。
「会社をバックレて実家に帰ってきた息子にあきれ果てて殺し、川に流したと言っている。だがその息子が勤めていた会社と言うのが榎本の会社なんだ。榎本は息子の職場でのミスや実際には存在しない横領を理由として、この女性から500万円を受け取り、最近は金が足りないと言って皆口広江の自宅で暴力を日常的に振るっていたらしい」
「従業員の母親にDVするのかよ」結城はドン引きした。
「家族以外の誰かが家を乗っ取って支配していたり、従業員だけじゃなく家族までブラック企業が支配している例が増えているんだ。最近は少子高齢化で親戚縁者もほとんどいないって人が多いからな。従業員の子供や年老いた親も一緒に支配して、無償労働の強要や金銭の恐喝、性的虐待をするってブラック企業は、全国規模で見れば割とあるんだよ」
長川はため息をついた。
「皆口広江は『泣きながらもう耐えられなかった。息子も殺して自分も死のうと決心した』って言っていたよ」
「でも息子の死体は見つかっていないんだろ」
結城は言った。
「ああ、それに取り調べでは割と事件の基本的な情報がすっぽ抜けて居たりしてな。嘘をついているのはほぼ間違いないって判断をこっちはしているんだが」
「まさか、息子を逃がすために」
結城が声をあげた。長川は頷く。
「ああ、榎本は相当執念と言うか執着心が強くてな。北海道まで逃げた従業員を連れ戻して、他の従業員に殴らせ、一本ずつ足の指を切断させていたらしい。その従業員は今警察が保護しているよ。ただちょっと奇妙な点なんだが。皆口母に榎本の会社に警察が入っていて、暴力からはもう解放されたと告げても、自分は息子を殺したとかたくなに言い続けているんだよな」
長川は腕組をして考え込む。
「もう一人の犯人さんは?」
都の質問に長川はもう一枚、痩せたチー牛みたいな顔の男性の写真を提示した。
「曾我部正明、29歳。やっぱり榎本の会社の従業員。営業回りの途中にふらっと警察に出頭してきたよ。彼もまた昨日の午後3時に滑走路の作業小屋で人を殺したと主張している。彼曰く動機は無差別殺人で、その辺にいる人間を殺したそうで、相手の名前も年齢も知らず。殺した後川に捨てたと言っている」
「証言の内容は信ぴょう性があるものなのか」と結城。
「それが微妙なんだよ」長川はため息をついた。
「言っている事が支離滅裂でな。一見すると訳の分からない事を言っているが、まぁ刑事の私から言わせてもらえば、からあげくんが好きな森の妖精と同じ。あれは間違いなく演技だ」
長川は言った。
頭のオカシイふりをして証言の矛盾をごまかそうとしているのか」
「嘘をついているのだとしたら、やっぱりブラック企業から逃げるためか」と結城の言葉に長川は「恐らくそうだろう」と言った。
「さっきも言った北海道から連れ戻され、足の指を全部切られた従業員と言うのが、曾我部だからな」
長川の言葉に「マジで」と千尋が唖然とする。長川はため息をついた。
「曾我部の奴は相当怯えているようだった。榎本謹二を国家権力とアクセス可能な超能力者だとでも思っているようでな」
そこで長川は都を見つめた。
「一応聞いてみるが、この中に真犯人がいると思うか。都」
長川の質問に都はふと目を開けた。
「なるほど。この怪事件の裏にはこういう話があったんだ」
都は結城を見つめた。
「全ての事件は、波田君が探検部で見せてくれた滝の写真と同じだったんだよ」
「ん」結城は都を訝し気に見つめた。
 
「お」
警察署のロビーに降りてきた千尋は、ロビーの椅子に座っている波田佑衣子に声をかけた。
「あれ、都ちゃんと結城君は」と佑衣子はしょんぼりとした顔を上げる。
「事件の真犯人が分かったみたいで、長川警部と行っちゃった。佑衣子ちゃんこそ、いつもの2人は」
「キャンプ」佑衣子はぼそっと言った。
「あのキャンプすっごいつまらないんだよね。荒木って先生怒ってばっかだし。だから私も啓介も平太も次は絶対参加しねーって言っていたのに。2人だけで勝手に行く約束して。私はまた宇宙人に攫われるから待ってろーって」
佑衣子はつまらなそうにしていた。その時警察署の自動ドアから「おお、薮原。お前も警察のお世話になったのか」と迎えに来た波田直人が千尋にケラケラ笑った。
「やめてよ、その表現」
千尋はため息をつきながら、直人の肩に手をやった。
「ああ、波田っち。妹さんの為に美味しいファミレスに連れてってくれる? わぁ、なんて優しいお兄ちゃんなのぉ」
わざとらしい千尋の声に「ぬ?」と声を出す波田直人。そしたら佑衣子が「お兄ちゃん大好き!」とわざとらしく腕に飛びついた。
「じゃぁ、今日は回転ずしに行きたいなぁ。美味しいものをいっぱい食べてやるんだから」
「え、いや…お、おう」
困惑しながらも波田直人は佑衣子に引っ張られて警察署から炎天下に出て行った。
「やれやれ」
千尋は腕組をしながら見送った。
 
「食べた食べた」
兄のバイクからぴょんと飛び降り、自宅の団地のバイク置き場の前に着地する波田佑衣子。
「10皿も良く食えるなぁ」呆れたような声を出す兄直人。「じゃぁ、兄ちゃんバイクかたしてくるから、家に先帰ってろ」
「はーい」と佑衣子は手を挙げてるんるん家のある棟に歩いていく。その時、家の前の来客駐車場に駐車した赤いオフロードワゴンから、一人の男性がニコニコ笑いながら降りてきた。
「佑衣子ちゃん。実はさっきお母さんから是非って同意を貰って来たんだけど。やはり今回のキャンプは腕白な子が多くて。君みたいなまとめ役の子がっやっぱり必要なんだよ。そこでお願いなんだけど、佑衣子ちゃん。今からでもキャンプ来てくれないかな」
荒木廉太郎がにこやかに笑っていた。
 
「ワワワスレモノーで遅くなっちまった」
団地の前を歩く波田直人。その横を赤いオフロードワゴンがすれ違った。