少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

正月SP】少女探偵島都誘拐殺人事件❶


1

 生まれた時から、僕は愛とか優しさとか、そのようなものを貰った事がない。
 どうしてーー。どうしてみんな僕を憎むの?

 一人の少年は父親と母親に殴られ、ボコボコになってベランダに座り込みながら自問自答していた。
 学校で同級生に裸にされて落書きされ、体育の時に先生に蹴られながら、中学校の時虫やゴミを食べさせられながら、自問自答していた。

 青年になった彼は、包丁で後3本しか残っていない左足の中指を悲鳴を上げながら切り落とした。
「うわぁあ」
「わはは、本当にやりましたよ」
和田俊哉(34)という爽やかサラリーマンの男性が手を叩いた。
「これで三本目だから、慣れているんじゃない」
と深井真澄(31)というセミロングぱっつんのOLがからかうように言う。その真ん中で仁王立ちして見守る清水比呂志(43)という眼鏡で貧相な顔の会社社長。
 株式会社シミズブックスのオフィスの床で、足の指を詰めた眼鏡の青年江曽島豊(22)は肩で息をしていた。顔は真っ青だった。
「これで終わりだと舐めるなよ」
清水社長はそういうと、オフィスで母親にしがみついていた7歳の少女を乱暴に掴み、ベランダに乱暴に放り投げた。
「かなえ、かなえ!」
母親の富田雪(28)が窓ガラスをバンバン叩くが、清水は
「大変だな、お母さん」
と富田の胸ぐらを掴んで江曽島に引き合わせる。
「こいつのミスで大事な娘が寒い冬の外に放り出されたんだからよ
清水の残虐な笑みに、新入社員の多田明日美(17)がドン引きしていた。
 娘を放り出された富田は、江曽島を物凄い目でみる。
「さぁ、仕事を取り戻そうか」
清水社長は「開けて開けて」と悲鳴が聞こえるベランダを背中ににっこりと笑った。
「仕事を早く終わらせないと、今日はマイナス6度まで寒くなるぞ
江曽島は激しい憎しみの表情の富田に「早く終わらせましょう」と言った。富田は凄い表情で江曽島を見ていたが、やがてオフィスの机に座った。
(何で、何でこうなるんだ)
江曽島は痛みに耐えながらも仕事を再開する。
(何で、何で)
富田が自分に向けた表情にフラストレーションが溜まる江曽島。パソコンに向かいながら、ひたすら自答自問する。

 


 2024年1月3日。
「明けましておめでとう」
都は神社で勝馬と結城にキノコとタケノコのチョコを渡した。
「ありがとうございます。家宝にします」
勝馬は頭を下げた。都は「早く食べてね」と言った。
「あー」
結城はタケノコチョコを見ながら、
「今日はバレンタインじゃねぇぞ」
と結城。
「ほえ?」都は目をぱちくりする。
「正月に渡すのは年賀状」
結城に言われて都は「そうだっけ」と首をかしげた。
「でも私お母さんにお正月にチョコ貰っていたよ」
「!」結城が唖然とした。
「そう言えば、ハロウィンの日に私の家にサンタコスの都のお母さんが来たような」
結城の横で瑠奈が苦笑する。木枯らしが吹いた。
「都~、あっちでお餅を投げるって」
原千尋が都を呼んだ。都は両手を広げて「お餅~」とダッシュていく。
「良いじゃないかよ」
勝馬はチョコを泣きながらボリボリ食べる。
「女の子からチョコ貰えるなら、クリスマスでもお正月でも海の日でも山の日でも天皇誕生日でも! おっとお餅」
勝馬と都は本堂前で、禰宜が投げるお餅をクマ牧場の熊みたいにキャッチする。

「でへへ、こんなにお餅貰っちゃった。探検部でお雑煮パーティーしよう」
都は結城のリュックに戦利品をドバドバ入れる。
「ずいぶん拾ったな」
「コツがいるんだよ」
都は白州の上で足で地を踏みしめる。
「まず、ポジションを確保して、投げられるお餅の放物線を瞬時に計算、ジャンプだよ。スラムダンクみたいでしょ」
都の言葉に結城は「いや」と否定した。
「クマ牧場の熊さんにしか見えなかった」
「ぶー」と口を尖らす都」
しっかりものの瑠奈が腕時計を見る。
「さて、そろそろ帰ろうか。千尋のお兄さんも撮影会終わるって言ってたし。都。トイレ行ってきた方がいいよ。甘酒のんだし」
「しこたま飲んでいたよな」
と結城。都はお腹を押さえて恥ずかしそうに結城を見ながら、ダッシュでトイレに向かう。
「まあ、去年もいろいろあったが、まー、新しい年を迎えられて何よりだぜ」
結城はどっこいしょとベンチに座った。そしてトイレを見つめる。
「おい、結城、何お前都さんのトイレをチラチラ見ているんだよ」
勝馬
「そうだよ」と千尋
「気になる女の子の大小が気になるのはわかるけど」
「何を言っているんだお前は」
結城は千尋に向かってわめいた。
「俺は、あいつが迷子にならないか見ているんだよ。あいつ、面白そうなものがあるとフラフラついていっちゃうからな」
結城はため息をついた。その時だった。
「ママ~」
突然目の前で七歳くらいの女の子がセーターにジーンズ姿で号泣していた。
「ぬ」
結城が声の方向を見た時には、勝馬が女の子に駆け寄った。
「お嬢ちゃん、お腹すいたのかな。チョコレートあげようか」
怖い顔のゴツい男が話しかけてきたので、女の子は真っ青になって立ち尽くした。
「ハイハイ、怖がらせてる怖がらせてる」
千尋がΣ(゚д゚lll)と涙目の勝馬を引っ張っていき、代わりに瑠奈が「お母さん、いないのかな」と声をかけた。
「うん、でも知らない人についていっちゃったらダメだって」
女の子は小さな声で言った。
「じゃあ、あそこのインフォメーションまで一緒に歩こうか。もし私が他の大人のいない場所に行ったりしたら、いつでも逃げていいからね。私は一メートル離れるから」
「うん」
(うまいな)
結城は女の子が瑠菜によりインフォメーションセンターに誘導されるのを見守った。戻ってきた瑠奈は探検部のメンバーに笑顔で言った。
「お母さん、インフォメーションセンターにいた」
「おー、素晴らしい」勝馬は瑠奈に拍手をした。
「都は戻ってきた?」
瑠奈に言われて、結城は「やべぇ」と神社のトイレの方を見た。都の姿は見えない。
「都イカとかも食べていたし、お腹痛くなっているんじゃね。ちょい見てくるよ」
千尋はトイレに向かって歩いていく。
 トイレの中に入った千尋は、「都」と声をかける。4つある個室を見つめたが、出入りするのはおばさんや巫女さん、女の子。4つ全ての個室に都はいなかった。
「あたー」
千尋はため息をついてスマホ時計を見た。15時47分だった。
「都がいない? しまった」
結城は頭を抱えた。
「とにかく、その辺を探してみようか。勝馬くんはここで待機」と瑠奈。
「俺も探しにいきますよ」
勝馬が立ち上がると「勝馬くんは二次災害のリスクが」と千尋。Σ(゚д゚lll)とする勝馬に瑠奈は
「都がここに戻ってくる可能性もあるから。大事なポジションだよ
と言われ、「なるほど」と俄然やる気を出す。
「しかしトイレはすぐそこなのに迷子になるかね」
結城がため息をつくと、千尋
「怪しいおじさんにパフェがあるよと言われたのかも」
と結城に言って、結城は「冗談じゃねぇ」と走り出した。瑠奈は都スマホにかけるが、すぐに首をふった。
「多分電池切れだと思う。都すぐ充電忘れるから」
千尋は考えた。
「とにかく、もし都がフラフラ歩いていったとしたら、裏手の駐車場にいく道か、あそこの参道に降りる道か。私たちはあっちを探そう」

 都は
「うへへ、明日美先輩にこんなところで会えるなんて、すごく嬉しいよ」
と黒いワゴン車の中で、多田明日美という黒髪ロングのつり目の少女に抱きついた。快活そうな中学の時の美人の先輩は都の憧れだった。
「私も、都ちゃんは相変わらず元気な女の子って感じだね」
「でへへ」と笑う都。
「でも明日美先輩も偉いね。お正月なのにいなくなったバイト探しまでするなんて」
「お世話になっているからね。でも本当に助かった」
と明日美は両手を合わせて都に向かって拝みまくった。
「本当に急にアルバイトを受けてくれてありがとう」
と明日美。
「先輩のためなら頑張っちゃうよ。でもバーベキューの準備とかすればいいんだよね」
「そうそう、簡単なバイトだから、みんな優しいから。後明日まで泊まりで、4万円出るから」
「パフェ50個食べられる」
都の目がキラーンとなった。その直後、女の子の手を引いた若いお母さん、富田雪が戻ってきた。七歳の娘は後部座席に座ると、都を見てさっと明日美の後ろに隠れる。
「ごめん、この子人見知りだから」
明日美は苦笑した。だが都は少女のセーターのアップリケを見て「わぁ、魔法少女未来ちゃんだぁ」と目を輝かせた。
「都ちゃん、あの背の高い男の子と美人の女の子二人ずつだよね。話してきたらオーケーだって。ごめんね。急で」

「いえいえ、パフェ40個のためですから」と都。
 そして車が発車した直後、結城は駐車場に到着した。
「くそっ。ここじゃないのか」
その時、チャイムが神社の境内に響き渡った。
守谷市からお越しの、島都さん、島都さん。お連れ様が探しています。至急神社のインフォメーションセンターにお越しください」
結城はそれを聞きながら、都がいなくなったトイレの前に戻ってきた。ふと見上げた鉄のポールの上に、監視カメラがこちらを見ているのが目についた。

「へへへ、間抜けなやつ」
監視カメラに映った結城を見て勝馬が笑う。
「その前、25分くらい前」
結城が神社の事務室でPCを操作する巫女さんに指示を出す。
「ビンゴ」
千尋が24分前にトイレに入る都を確認した。2分後に都が再登場。すると長身の女の子が都に近づいて何か話している。
「な、なんだぁ、この怪しい女は」
勝馬
「でも何だか楽しそうに話しているよ」
千尋
「一緒にぴょんぴょんしているね」
と瑠奈がキョトンとした表情。そしてパソコン画面の中で、都と少女はスキップしながら画面から駐車場方向に消えた。
「何だぁ、懐かしいダチと偶然再会して私たちは置いてきぼりか」
千尋はやれやれとため息をついた。
「誘拐じゃなくて安心しましたよ」
勝馬。しかし瑠菜はじっと考え込んだ。
「都ってさ、あっちこっちで迷子になるけどさ、今まで人を置いてきぼりにした事なんてあった?」
瑠奈は探検部のメンバーを見回した。
「同感だ。あいつは誰かを置いてきぼりにすることは一番気にする奴だ」
と結城。
「でもこの映像見ていると、明らかに知り合いだよね」
千尋。結城は納得いかない感じで「うーん」と考え込んだ。
「あれ」
ふと瑠奈がパソコンの画面を見る。
「この人」
瑠奈がふと思い出したように監視カメラの左下に映り込んでいる女を指差した。
「この人、インフォメーションセンターに迷子の女の子を迎えにきたお母さん似ているんだけど」
「何」
結城は前のめりになってPC画面を凝視する。
「なんか、都と迷子を保護している私たちをチラチラ監視しているように見えない?」
瑠奈が指摘した。結城の顔が青ざめる。
「まさか、あの迷子と母親は俺たちから都への注意を背けさせるために」
と結城が立ち上がる。
「言われてみれば、7歳くらいなのに4歳くらいの迷子みたいな泣きだったよね」
千尋
「それが本当なら、こいつは計画的な誘拐だぞ」
結城はスマホを取り出した。

 土浦市のタワマンの汚部屋で甚平着用の長川警部はスマホに出た。
「結城くんか。丁度良かった非番の私に酒買ってきて…どうした。うん、うん。わかった。すぐいく」
長川はそう言って立ち上がり、膝を炬燵にぶつけていたがった。
 
2

 愛車のワゴンRに乗って神社にやってきた女警部長川は出迎えた結城と瑠奈に説明しながら神社の階段を登った。
「大体話は聞いたが、あの映像だけだと友達に会ってどこかに遊びに言ったって話だけで終わるから、警察が組織として動くのは難しいぞ」
「わかっている」結城は言った。
「長川警部が来てくれるだけでも心強い。悪かったな非番の中で」
「まず、聞いておきたいのは高野さん」
境内に出て問題のトイレの前で、長川は瑠奈に聞いた。
「問題の母子ですね」
瑠奈はすぐに察して長川に言った。
「インフォメーションセンターに言った時、私が名前を聞いたら、彼女はトミタカナエって答えました。ミステリー漫画の登場人物の名字と声優の名前で覚えていたんです。そうしたらすぐにお母さんがインフォメーションセンターにやって来て。サクラ、サクラって別の名前を口にしていて。変だなって思ったんですけど、お母さんの名前だったかもしれないとその時は思ったんです」
「なるほ」長川はそれをメモすると、「お母さんの顔については神社の防犯カメラの映像を高精度化しよう。もしかしたら顔認証で前科で引っ掛かるかもしれない。それと都を連れ去った少女だが、その高精度映像も高野さんには見てもらうよ
「あ、そっか」
千尋がポンと手を打った。
「都の古い友達だとすれば、中学とか小学校の友達かもしれないよね」
「そう」
長川は指摘した。
「私は駐車場の防犯カメラをチェックする。おそらく車で都を連れ去った可能性が高いから、車種やナンバーを特定出来るかもしれない」
「すげー、プロだ」
勝馬が感心したように言った。
 黒いワゴン車は暗闇の中を走っている。もう二時間走って県北の山に入っていた。道路がかなりぬかるんでいる。
車は渓谷の橋を渡ると、川沿いの立派な木造の別荘の前に停車した
「それで、魔法未来ちゃんはヒゲネズラ怪人の悲しい気持ちを理解してあげて、前に」
「ついたわよ」
富田雪が運転席から振り返った。外を見ると、別荘の前に一人の痩せた目付きの悪い男が立っている。
「岳史さん、車の方お願いします」
富田が目付きの悪い管理人の清水岳史(45)に車の鍵を渡す。
「明日ダムの放水があるようです。気を付けてください」
清水はボソッと声を出すと、車に乗り込む。清水岳史の後ろから眼鏡の社員、江曽島豊が車に乗り込んだ。車が発車する。
「島都さん」
富田雪が娘のかなえの手を引っ張りながら、別荘の入り口で都に声をかけた。
「ごめんね」
「いえ、パフェ40個のためですから」
小柄な女子高生、島都はグーを天に突き上げた。

 玄関からリビングに入ると「これはこれは、よく来てくれました島都さん」
と爽やか眼鏡の清水比呂志社長が都を出迎える。
「私は社長の清水比呂志、そして」
「今回清水社長と商談をさせていただく、ムッシュ・カトーです」
ヒゲデブの怪しい外国人が名刺を渡す。
「島都さんは今回の商談を成立させるわが社の救世主です」
清水社長は都を料理が既に並んでいるテーブルのオレンジジュースのグラスを都に渡す。そして全員がグラスを手に取り、
「では今回の商談に乾杯」
と全員でスコールした。都はきょとんとしながらもオレンジジュースをグイグイする。
「ぷはー、日本人はやっぱりオレンジジュースですね」
そう言った時、急に都の頭にズキッと何かが来た。
「あっ」
都の指から力が抜け、グラスが床に落ちる。
(あ、もしかして、私今大変なことになっている?)
都は頭を押さえた。彼女の記憶はそこからない。

 

「とりあえずだ」

長川警部は神社の事務室で結城と千尋勝馬スマホ画面を見せた。
「恐らく都の誘拐に関与したと思われる女は彼女で間違いないだろう、富田雪、28歳。シングルマザー。2年前に横領の容疑で逮捕されている」
「お、横領? ひょっとして難解なトリックが使われてそれを都さんが大胆な推理でバシッと暴いて、その逆恨みで」
勝馬がデカい顔を長川に近づけるが、長川は首を振った。
「働いていたコンビニの賞味期限切れの弁当をくすねていた容疑だよ。しかも店長は未払いの給料を彼女に支払うよう労基に訴えられて、それを免れる為にスラップ的に訴えたってのが実情のようだ。起訴猶予になっているよ」
「もう一人の都の友達らしき女の子ですが」
瑠奈が報告する。
「多田明日美って人だと思います。私と都より1学年上で小学校5年生の時サマーキャンプで仲良くなった子でした。住んでいた場所は取手市だったと思います。都と同じ野生児タイプの女の子で、中1くらいまでは待ち合わせて虫取りとかしていたんですけど、でも受験とかで疎遠になったみたいですね。今都と同じようにサマーキャンプに参加していた子に確認したら、間違いないって言っていました。サマーキャンプの時の写真です」
瑠奈のスマホの画像とPCの画面を長川と結城は見比べた。
「同一人物だな」
長川はため息をついた。「高野さんありがとう」
「しかし女子高生の多田明日美とシングルマザーの富田雪に何の共通点があるんだ?」
結城は考え込む。長川警部は結城に向かって指を立てる。
「ヒントになるかも知れないのが、防犯カメラで撮影された、都がいなくなった時間に神社の駐車場から出て行った車で、富田雪と同じ服装の人物が運転しているのがこの黒いワゴン。そこそこ値段のする車だ。富田雪が買える車ではないし、レンタカーかあるいは所有者が別にいるのか。2人の足取りは役所を調べれば分かるだろうが、今日は休みだしな」
女警部はもどかしそうに頭をかいた。
「何で都さんのお友達と子供がいる女の人が都さんを連れて行っちゃうんでしょうか」
勝馬がおどおどする。
「まさか、パフェを食べさせてあげるとか言われて騙されて連れて行かれて、今頃壺を買わされているんじゃ」
「宗教団体じゃない事は間違いない」
長川は言った。
「今車のナンバーの照会結果が出た。土浦にある出版系の企業のシミズブックスの社用車だ」
 
 都はふと目を覚ました。窓の外は真っ暗だった。
「都ちゃん、都ちゃん」目の前で多田明日美が都の顔を覗き込んでいる。リビングの様子が見える。都は目をこすろうとして気が付いた。両手が後ろ手に縛られている。
 慌てて左右を見ると「うう」と苦し気な表情の清水社長、ムッシュ・カトー、そして富田母子が倒れている。全員後ろ手に縛られ、足にもロープがかかっていた。
「ふふふふ、みんなおはよう」
機械で極限まで太い声に変えられた、不気味な声が響いた。
 都が顔を上げると白いゴムマスクを着用し、黒いマントを着用した不気味な人物が立っていた。
「だ、誰だお前は」
清水社長が声を上げる。
「僕は君たちの死刑執行人。君たちはこれから僕に処刑されるんだ」
不気味な怪人はそう言うと、手にした拳銃を人質に向けた。
「ママッ」とかなえが母親に顔を埋めた。
「お前たちの会社に身代金要求をした時、警察に言うなって言ったのに、お前たちの部下は警察に通報した。だから人質を処刑する事にしたんだ」
怪人はテーブルの上に置かれた電話機のスピーカーボタンを入れた。
-わかった。すぐに引き上げるから、人質は殺さないでくれ。
 慌てるネゴシエーターの声が聞こえる。
「ダメ。今から人質を処刑しまーす」
太い声の怪人は楽しそうに言うと、戦慄する都に銃を向けた。
「やっぱりここはレディーファーストだよね」
怪人の銃が発射された。
 
つづく