少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

逃亡者北谷勝馬7-8

 

7

 

勝馬君! 勝馬君!」

佐久間直はライトを「くかーくかごおおおお」と派手ないびきをこく勝馬の顔面にライトを当てた。

「ふがふがごおおおおおお、むが、むが?」

勝馬が目を覚ます。「ごめん」佐久間直が笑った。「僕、トイレに行ってくる」

「お、おう」

勝馬がぼーっと座りながら返事をする。廊下に出る佐久間。だが突然、恐怖を帯びた「か、勝馬君」と言う声に、勝馬が飛び起きる。勝馬は廊下に出ると目を見開いた。

 廊下に黒服にサングラスの痩せた大男、上岡が立っていた。

「佐久間。こっちだ」

勝馬は佐久間の手を取り、お姫様抱っこすると走り出した。

「男子としては屈辱的だが我慢しろよ」

勝馬は大急ぎで階段を上るが、上岡は無表情のまま追跡してくる。勝馬は2階の美術教室に咄嗟に飛び込む。そこにはマネキンが2つ青いカバーで隠されて写生用のイーゼルに囲まれている。勝馬はその中の一つのカバーを外すと、マネキンが倒れるのも構わず、佐久間に被せて「このままじっとしていろ」とテンパるが、その時既に目の前に上岡が立っていた。間に合わなかった。

「この中に佐久間直がいるんだろう」

上岡は黒い手袋を外した。佐久間は自ら自分を覆っていたカバーを外した。じっと上岡を見つめて目をそらすまいという決意を見せている。

「彼は無関係のはずだ。捕まえたいのは僕だろう」

佐久間は言ったが、上岡は鼻で笑った。

「君と彼は一緒にいる時間が長すぎる。2人揃っていなくなってもらう。それが先生からの指示だ」

「先生って誰だ」勝馬が言った。「暴力教師なら何人か殴ったことあるから誰だかわからねえ」

「田杉先生だよ。国会議員の」

「はったりこくんじゃねえよ。お前みたいなスミス野郎が、こんな偉い先生とつなっがっているわけないだろう」

上岡は不気味に笑ってスマホを懐から出して、スピーカーモードにして見せた。

-田杉だが…。

スマホからしゃがれた声が漏れた。

「先生がお気に入りだった佐久間直とそいつを助けようとした少年を確保しました。殺してもいいでしょうか」

わざとらしく電話に向かって喋る上岡。電話の向こうからしゃがれたヒヒ声が聞こえた。

-ああ、直ちゃんの顔も乳房も名残惜しいが、正しい日本を残すためだ。仕方がない。ふぇえふぇ。

「お前は何を言っているんだ」

勝馬は上目遣いに上岡を見つめる。上岡は電話を切って勝馬を見て、無表情だった顔からは信じられないほど三日月のように口をゆがめた。

「先生は直の体にご執心で。熱心に治療をしていらっしゃった。トランスジェンダーを治療する一番手っ取り早い治療。強姦療法だよ」

勝馬の顔が顔面蒼白になる。その教室の時間が一瞬止まった。

「あ、あ、あ、あ」勝馬の背後で佐久間が着用している瑠奈のブラウスの乳房を掴んで痙攣したような声をあげた。

「うわぁああああああああああああああああああああああ」

佐久間が絶叫して座り込んだ。それを楽しげに見つめる上岡。

「考案したのは現在教育評論家になった木本先生。女の体を持っているのに男だと思い込んでいる女の子には、女として強姦して体を反応させてやれば、女の快感が脳のシナプスを正常化し、トランスカルトに歪められた性指向を叩きなおすことが出来ると」

上岡は「ケケケケ」と笑いながら床に座り込んだ佐久間を囃し立てる。

「男の体を持った自称女は千代川先生が担当したり、あと生徒同士でも強要したなぁ。ハハハハ。それでみんな元に戻ったよ。二度とトランスジェンダーなどと言わなくなったと、両親からも高評価だ。本人にとっても幸せだろう。もう気色悪い変態指向に悩まなくて、普通に結婚して幸せな家族を作っていけるのだから」

「人間としても生きられなくなるだろが」

勝馬は歯ぎしりした。

「そうだ…思い出した…僕は…僕は…強姦魔だったんだ!」

佐久間は体を抱きしめたまま床に崩れ落ちた。

「あの議員に犯されるのはまだ良かった。だけど僕は殴られるのが怖くて、強要されるままに中学生くらいの女の子を…犯した。僕は被害者じゃなかった。酷い事をされて、記憶をなくしたんじゃないっ! 誰かに酷い事をして、その罪から逃れるために記憶を失ったんだ。僕は正真正銘の性犯罪者だったんだ。あ、あああああああああああああ」

佐久間は目を見開いて絶叫した。

「そうだ」上岡は嬉し気にヘラヘラ笑った。

トランスジェンダーの本質は変態なんだよ。それをただ俺のフリースクールは教えているだけだ。当たり前のことを教えているから、政治家も、財界人も、アスリートも、みんな俺を支持してくれる。わかっていないのはお前らなんだよ!」

「黙れ、変態!」

勝馬は上岡の笑いを一喝で止めた。そして唐突な自分語りを始める。

「俺はな。母ちゃんに警察署に迎えに来てもらったことが何十回もあるがな。これだけは言われているんだ。自分の為に怒るなと」

「なんだ?」

上岡はニチャっと顔をゆがめる。

「今は佐久間が苦しんでいる。それが一番大事な事だ。それをそっちのけで俺が怒り狂って暴れても、それは佐久間を悲しませるだけ」

勝馬はそこで相撲取りのように四股を踏んだ。佐久間の目が勝馬に向かって見開かれる。

「ありがとうよ。佐久間。話してくれて」

勝馬は某世紀末漫画みたいな手のひら踊りをしながら言った。

「今は佐久間を守るために戦おう」

「ち」上岡は眉間に黒を作って醜悪に顔をゆがめると、いきなり勝馬を蹴飛ばした。その強い蹴りに勝馬が佐久間の横に吹っ飛ぶが、勝馬は「ぐぅ」と言いながらも立ち上がり、佐久間の前に立ちふさがる。その頬を上岡のストレートが決まり、185㎝の勝馬のガタイが机と椅子に混ざり合って凄い音を立てる。

「粋がっているんじゃねえぞ」

倒れている勝馬の頭を足首に乗せて無理やり座らせると、さらに顔面を蹴り倒す上岡。

「あ…あ…」

それを見ていた佐久間が体を震わせる。

「俺は陸自にいたんだ。人を殺す訓練受けているんだよ。お前も佐久間も殺してやる。死体なんてドラム缶で煮込めばどうにかなるんだ」

無抵抗の勝馬をさらに蹴りまくる上岡。

「何が佐久間が大切だ、佐久間を守るだ。本気で俺に勝てると思ったのか。ああん! 死ね」

「ひひひひひ」

突然笑い声が教室に響き渡った。勝馬でもない別の人間の声だ。ぎょっとして辺りを見回す上岡。

「マジで笑えたぜ。俺に本気で勝てると思ってるのか、ああん! とかさ。これを道化と言わずに何を道化と言えるんだ」

掃除用具入れが中村悠一の声で喋っていた。いや、中にいる結城竜が喋っているのだ。颯爽と扉を壊してジャージ姿で参上する結城。

「何故だ。なぜおまえがここにいるんだ」

「お前何勝馬さんをボコボコにしてくれているんだよ‼」板倉と毬栗が教室のスライドドアを思いっきり開けて入ってくる。結城が上岡に意地悪な顔で嘲るように言葉を続けた。

「お前ら、メイド服の変態を載せたバイクが陽動かも知れないって事には気が付いていたみたいだな。だけどまさか中の人が入れ替わっていた事には気づかなかったろ。俺たちは目立たないようにつくばで薮原の兄ちゃんが運転するレンタカーでこっそり移動してきたの!」

「いやぁ。千尋たんの為ならお兄たん何でもしちゃう」

チャラそうな兄が板倉の後に続く。板倉と毬栗が千尋兄に「チューッス」と頭を下げる。

「あのバイクは…」上岡が呆然とした顔で声を上ずらせる。

勝馬の舎弟だよ」結城は呆れたように言った。

「あのバイクはお前らに勝馬の居場所を錯覚させるためのものじゃねえ。俺らの位置を錯覚させるためのものだったんだよ。俺らはお前がここを見つける1時間も前に勝馬や佐久間さんと合流。お前をここにおびき寄せるための作戦を伝えたんだ。俺らのバックには頭の切れる名探偵がいるんでな」

「お前ら」上岡が怒りで顔を歪ませる。

「俺を囲んで倒せると思っているのか…。俺には物理的な力も、権力もあるんだぞ。俺の犯罪は先生にもみ消してもらう。俺の事業は政財界の重鎮に認めて貰える。お前らの命と俺の価値は全然違うんだ。この場でぶっ殺してやる、全員」

「はぁああああああ」

結城はここで一番長い溜息をついた。

「だからお前は本当にバカチンなんだよ」

結城はむっくり起き上がった勝馬を見た。

「こいつがお前に負けるわけないだろう。わざと負けてやっていたんだよ。お前が逮捕される口実を作るためにな」

「何‼」と上岡。結城はイーゼルに囲まれたカバーを取ると、そこにはマネキンではなく高野瑠奈がいた。瑠奈は物凄い目つきで上岡を睨みつけている。手にはスマホがあって、まっすぐ上岡を翳していた。

「カバーの穴からバッチリ撮影させてもらいました」

と瑠奈。結城は「俺も掃除用具入れから撮影したぜ」と笑い、板倉も薮原の兄ちゃんも「ドアの隙間からバッチリ」と笑った。

「ちなみにこの動画は千尋たんのアカウントに同時送信され、千尋ちゃんは佐久間さんの情報とかそういうのを削除したうえで…」

 

佐久間直の自宅のPCを借りて、千尋はヘラヘラ笑いながら「ぽち」と言いなら投稿ボタンを押した。

「やったっ」

と西野佳苗と坂口夢愛が抱き合って泣いた。

勝馬君、瑠奈ちん、ありがと」都が画面を見つめた。

 

「…複数の動画サイトから全世界に配信されましたーーーー」

千尋兄がばんじゃーいして上岡が呆然とする。瑠奈は自分のスマホを胸に抱いた。

結城は上岡ににっこり笑いかけた。

「つまり、お前にはもう腕力も権力もないって事だ。お前らのバックにいる人間は一斉に逃げ出しにかかるだろうな。ちなみにお前の手下2人は見張っていた玄関と裏口でとっくにこいつらの頭突きでおねんねしているぜ」

「弱かったなぁ」と板倉。「西高の番長の方がずっと張り合いがあったぜ」と毬栗。

「さて、やるというなら、俺が相手してやるが…どうする?」

と結城の顔から一瞬で嘲笑が消え、ゾッとするくらい冷たい怒りを纏った。

「まてぃ!」

結城の後ろから北谷勝馬が立ち上がる。ボロボロの状態で。そして怒り狂った真っ赤な目で上岡を見つめた。

「こいつは俺が倒す」

 

8

 

「はひゃやひゃひゃ。何を言っているんだ。こいつは俺が倒すとか」

上岡は狂ったように笑っていたが、勝馬は上岡の前に仁王立ちになっていた。

「レイプ…だと…佐久間は変態だと? もういっぺん言ってみろ」

「言ってやるさ」

上岡はゲラゲラ笑った。

トランスジェンダーは変態だ。女子トイレに入りたがる。だから強姦療法でその変態性が明らかになっただけぇ。ああ、怒ったか?」

上岡はそう言ってから、全く微動だにしない勝馬にイラついたようだ。

「何か言えよ!」

勝馬の顔を何発も殴るが、勝馬の体に軸が出来ているかのように動じない。パンチが硬いものに弾かれる感触に、上岡の顔に焦りが広がる。

「さ、佐久間だって、女自称の男中学生とヤッタ時は‥‥」

「バカモノオオオオオ」勝馬のビンタが上岡の横っ面に直撃。上岡の体が回転してイーゼルと一緒に散らばった。サングラスが吹っ飛び、貧相な顔で鼻血ブー状態で勝馬を見上げる上岡。

「や、やめろ」

情けなく腰を抜かして後ずさりする上岡に何かに変身しそうなオーラを纏って迫る勝馬

「は、話し合おう」

示談の条件を必死で提示する怯え切った上岡の胸倉を勝馬は掴んで立ち上がらせる。

「佐久間の事も中学生の事も、お前が全部悪い。お前が変態だ。お前が悪魔なんだ」

そしてもう片方の手で拳を握り上げ、大きく振りかぶって上岡の眼鏡なしだと貧相な顔面に狙いをつけた。

「誰が悪魔と話し合うか!」勝馬の拳は上岡の左目で寸止められたが、勝馬の怒りオーラに上岡は気を持つ事も出来ず、口から泡を吹き、失禁した状態で崩れ落ちた。

「シャバいんだよ」

勝馬はひっくり返った上岡を一瞥した。そしてそのまま座り込んで大の字に倒れ込んだ。そして呆然としている佐久間直に親指を立てた。佐久間は泣きながら頷いた。

 

 パトカーとセダンの捜査車両が廃校の校庭敷地に入ってきた。警官が廃校校舎に駆け付けるのを、茨城県警長川朋美警部、そして勝馬の母親北谷道子が見守った。

無茶しやがって

長川は腕組をしながらボロボロになった勝馬を昇降口に座らせた。

「あー、あんたにしては派手にやられたね」道子が勝馬の顔を指でツンツンする。

「ま、都ちゃんの提案とかでわざと相手に殴らせたんだろうけど」

「都さんは、悪くないからな!」

勝馬はそっぽを向いてむくれる。

「わかっているよ。あの子が一生懸命考えて、あんたや佐久間ちゃんを助けるためにした事だって」

勝馬母は勝馬の頭をひたすらぐりぐり撫でる。

 

 計画前に、廃校の教室にいる勝馬に都はスマホで話をしていた。

-このまま警察が当てにならない状態で逃げ回っていたとしてもいつか捕まっちゃうし、そうなったら勝馬君も佐久間さんも殺されてしまうかもしれない。だからここは逃げる方法ではなく逆転の方法を考えないといけないと思う。今言った方法が今私が考えた一つの方法。でも勝馬君がたくさん殴られるって事だから、もし断ったとしても勝馬君は弱虫じゃないし、ここはレンタカーで逃げて別の方法を考えるって事でも…。

勝馬はここで都の話をさえぎって言った。

「この方法でなら、佐久間を助けられるんですよね。佐久間が酷い奴らに追いかけまわされる側じゃなくて、奴らが追いかけまわされる側になるんですよね」

-うん。

「わかりました。俺やります」

勝馬は電話を切ると全員を見回した。

「いいですか、瑠奈さん。そしてそれ以外の野郎ども」

勝馬は教室の床に座り込みながら、結城、板倉、千尋兄、毬栗、瑠奈、佐久間を見回した。

「俺がどれだけ殴られても、佐久間がどれだけ酷い事を言われても、絶対に助けようとするな」

馬鹿王勝馬の真剣な顔に全員圧倒される。

「俺の母ちゃんは言っていたんだ。自分の為に怒るなって」

 

「あの話は」

母親に薬塗られてイチチチする勝馬を見ながら瑠奈はぽつりと言った。

「上岡の話にショックを受けていた私たちへのメッセージだったんだ」

その時、上岡と2人の手下が手錠をかけられ、鈴木、西野刑事に連行されていくのが見えた。2人とも上岡の外道ぶりに怒り心頭なのか、突き飛ばすように連行している。

「こいつ上岡っていうんだろ」

と結城が横に立っている長川に言った。女警部は「知っていたのか」と感慨深げな声を出した。

「上岡光秀42歳。元陸上自衛官。現在はフリースクールの代表になっているが、実は前があった」

「前科って事ですか?」と瑠奈が聞く。「それって7年前」

「ああ、7年前に発達障害やその親に育てられた子供を治療するとか言うフリースクールをやっていて、アスペルガーの女の子にわいせつ行為を働いて4年実刑食らっている。子供の障害を受容できない親が頼ってくるケースもあったようだが、学校とかに奴を信奉する教師や、障害児をフリースクールに押し付けたい校長がいて、個人情報を流していたらしくてな。発達障害者の家庭に訪れて親を何時間も罵倒して精神的に疲弊させ、高額な契約を結ばせて劣悪な施設に子供を連れ去り、虐待まがいの施術をしていたらしい。刑務所を出所した後、主な標的を発達障害からトランスジェンダーの子供に変えて、似たような商売をしていたって事だ。おっと」

長川警部はパトカーに乗せられた上岡にドア越しに話しかけた。

「お前さ。お前のスマホのパスワード教えてくれよ」

「誰が教えるか」上岡は丸めたティッシュを鼻に詰め込んだ間抜け面で長川を罵倒した。

「パスワード教えないと、お前死ぬことになるぞ。脅しでもなく」

長川は目を細めてじっと上岡を見下ろした。

「お前勘違いしているけどさ。お前の権力で警察がお前の味方をしていたんじゃないぜ。お前の先生の権力があったって事だ。で、お前の先生にとってお前はヤバい秘密をいっぱい知っているって訳。今なら私みたいな優しいお姉さんに確保されているけどさ。そのうち手遅れになるぜ」

上岡の顔が恐怖に痙攣した。長川は続ける。

「口封じの意味がなくなるくらい全部喋っちゃった方が身のためだと思うけどなぁ。今はお前が命狙われる立場だぞ!」

 

パトカーを見送ってから長川は小さくため息をついてスマホの写真をチェックする。そこに映っていたのは、裸でピラミッドを作らされたトランスジェンダーの少年少女の前で笑う千代川珠代、木本太郎、そして田杉議員、上岡だった。性行為を強要されている写真、犬みたいに鎖で弾かれている写真、長川は冷静な表情で写真をチェックしながら、「千代川」「田杉」「木本」「千代川」「千代川」「木本」「警察官もいる」と呪文のように喋っていた。だが突然セダンのパトカーの屋根に拳を叩きつけた。彼女は校庭に降りる階段に勝馬母に見守られるように座る佐久間直を見つめた。

「何が警察官だ。都たちがいなければ、今頃あの子は」

女警部は歯ぎしりしてパトカーの前で座り込んだ。それを結城はじっと見つめた。

 

「やった」

西野佳苗は佐久間直の部屋のベッドに座り込んで天井を見た。

「これで直、涼も戻ってくるよね」と夢愛。

「でも高田さんはどこで…。まさかあいつらに誘拐されたんじゃ」

と内郷智子が不安そうに千尋と都を見る。

「それは大丈夫だと思います」PC画面をチェックしながら千尋は言った。

「高田涼さんが行方不明になったのは2週間前。でも高田涼さんは昨日の朝に守谷駅のロータリーで見かけて私たち一緒にマック行っているんで。だから行方不明の理由は誘拐ではないと思います。多分あの田杉って政治家を調べるためにうろついていたと思うんで、佐久間直さんが帰ってくることを知ったら、きっと戻ってくると思います」

「私も涼からはちょくちょく心配無用メッセージは来ていたし」

佳苗が言う横で、都は何か考え込んでいた。

「どうした、都」

千尋が都を見つめる。

「高田涼ちゃんと佐久間直さんが上岡に狙われている理由、2人の共通点を考えていたんだけど」

そういう都に千尋は「それなら結論は出たじゃん。2人ともマイノリティ要素を持っていて、そこから変な団体に狙われていたんだって」と都の頭をてしてしする。

「だとすると…」

ここで都はTシャツの胸を押さえた。

「何か、私とんでもない見落としをしているんじゃないかな」

「見落とし?」千尋が小首をかしげる

「ひょっとしてこの事件は終わっていない。何かとんでもない罠が仕掛けられているのかもしれない」

都は深刻な表情で目を見開いた。