少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

少女探偵島都の殺人❷

 

3

 

【容疑者】

・津川周一(16)常総高校1年

・崔麗花(15)朝鮮高等学校1年

・朴愛子(16)朝鮮高等学校1年

・全一(55)朝鮮高等学校校長

・白星蘭(23)朝鮮高等学校教諭

・内藤亮介(59)警備員

・檜森倫(30)運転手

 

「み、みんな大丈夫?」

千尋が立ち上がる。その声は怯えていた。

「大丈夫だ」結城はフラフラ立ち上がる。勝馬は座り込んだまま気絶している。

「な、何なの」と崔麗花(15)が眼鏡を飛ばされたまま辺りを見回す。

「結城君」高野瑠奈が煙の向こうを指さして戦慄した。

割れた窓ガラスや壊れた外壁とともに大勢の人間が蹲っていた。

「痛いよー」「お母さん」という声。血だらけで動かない人間。体を震わせて呆然自失しているチマチョゴリの少女。

「結城君」瑠奈は怯えた表情をしていたが、すぐに

「私たち、応急処置とか部活で勉強したよね。部長命令。一人でも応急処置をするよ」

ときりっと結城を見た。

「ああ」

と結城は声を震わせた。

「ねぇ」

頭から血を流した朴愛子(16)が結城に縋り付くように言った。

「津川君、見なかった」

「都!」

結城は爆発があった方を見た。

「結城君行ってきて」瑠奈は涙を流しながらもきりっとした表情で結城を見た。

「それで、都に何かがあったら、私に何も言わないで。私たちはこの人たちを助ける義務があるから」

と瑠奈は声を震わせながら結城に頼んだ。

 

 結城は煙の中を走った。玄関の広場に巨大な穴が開いていて、玄関が崩れ落ちていた。朴愛子が結城の後からついていく。爆心地なのだろう。だがその周辺には人影はなかった。吹っ飛ばされたのか避難が間に合ったのか。

 何もかもがスローモーションに見える。結城がようやく見つけた都は、全身を血みどろにしながら、必死で津川周一少年を止血していた。

 

 ニュースキャスターがスタジオで原稿を読み上げている。

「速報です。茨城県南茨城市にある利根川朝鮮学校高等部で大規模な爆発があったという情報が入ってまいりました。繰り返します。朝鮮学校で大きな爆発があり、多数の負傷者が出ているという情報が入ってきました。現場からの映像です。朝鮮学校の校舎と思われる玄関先に煙が上がり、周辺の家の屋根瓦が吹き飛ばされている様子が確認出来ます」

と画面がヘリカメラに切り替わった。

 

 長川朋美警部は巨大な爆発のクレーターを見つめた。

「鑑識の結果、農薬物質などが発見されたよ」と牛乳瓶眼鏡の女性鑑識、加隈万梨阿が女警部の長川を見上げる。

「となるとアンホ爆弾か」

「威力や被害状況から見て間違いないね。おそらくオクラホマオスロに匹敵する量の爆薬が使われているよ。今までの被害状況は重体1、重傷30、軽傷者は100人を超えてる」

と加隈。長川は「なんてこった」と言うが、加隈は

「これでも死者が出ていないだけ奇跡だよ。もし都ちゃんたちが避難誘導をしていなければ、間違いなく数十人から下手すりゃ100人の死者が出ていた。それに一命を取り留めた被害者の何人かは都ちゃんの友達やその場にいた人たちの応急処置で助かっている。なにもされなければヤバかった人もいるらしいよ」

とため息をついた。

「犯人は結城君の言った通り、木に括り付けた監視カメラで都ちゃんが避難誘導をした事を確認したんだろうね。本当ならメールを受けてから爆破するつもりだったんだろうけど、万が一爆弾だと気づかれた時にも備えていたんだろうね」

加隈は校庭まで歩き、ビデオカメラを見た。

 

 都は病院の手術室の前でその赤いランプを見つめていた。表情がぼーっとしている。衣服は血だらけだ。

「都!」振り返ると都の目の前に知り合いの長川警部が立っていた。

「結城君から着替えの差し入れだ」長川は優しく笑った。

 

 病院の会議室には校長や女性教諭。頭に包帯を巻いた朴愛子と眼鏡をなくした崔麗花、そして運転手で神経質そうにガタガタ震えている運転手や警備員がいた。

「まず運転手の檜森さん。貴方は正体不明の人間から車を朝鮮学校に運ぶように言われていたんですよね」

「は、はい」と檜森倫(30)が声を震わせる。

「不審な依頼だとは思いませんでしたか」

「わ、わかりません!」と檜森が声を震わせて頭を抱える。

「檜森さんが知的障害を持っている事は間違いないそうです」と西野刑事が補足する。

「彼が犯人だということはないと思いますよ」

落ち着いた表情で警備員の内藤亮介(59)が述べた。

「私と彼が逃げる事が出来たのは本当にギリギリでしたから。私より遠くにいた人だって被害者が出ているんです」

「檜森さんが嘘を言っている事はないと考えられます」と若い西野唯刑事が報告した。

「まず島都さんが目ざとくナンバーを記録してくれたおかげでワゴン車が特定できました。レンタカーだそうです。借りた人間の名前も店に残っていました。上松星斗。29歳。無職。店員が免許証を確認したそうです」

「よし、重要参考人として手配だ」

長川は命じた。

「それより刑事さん。一つお話ししたいことが」

校長の全一(55)が長川に向かって手を挙げた。

「実は私たちの学校に爆破前にこんな電話が来ていたんですよ。この学校に来訪している薮原千尋を殺す…という。こんな誰かもわからない人の名前でのテロ予告は初めてですよ」

長川、そして都、麗花の目が見開かれた。

「な、何で…」という麗花を都はクワイエットフィンガーで制してから校長先生を見た。

「あの校長先生」

都はどんぐり眼をぱちくりさせた。

「ひょっとしてテロとかは前からあったんですか」

「ああ、朝鮮学校補助金対象外の裁判とかがあったばかりだからね」

と全校長は言った。

「所謂ネット右翼と言われる人たちからテロ予告は毎日かかって来ていたよ。だから警察からは学園祭を中止するように指導されていたんだが、是非参加したいと応援してくれる日本人の方もいてね。テロに屈しない意味でも開催を決めたんだ」

「その」女性教諭白星蘭(23)が声を震わせた。

「その薮原千尋って誰ですか。私たちの学校の関係者にそんな女性の方はいませんけど」

長川は都に目配せしてから「その女性についてメールの相手は何か言っていませんでしたか」と檜森倫運転手を見つめる長川。

「い、いえ」と檜森。

「そんな女子高生、メール相手とは一切会話していません。確かめてもいいですよ」

と檜森はスマホを震える手で長川に見せた。

「感謝します。そのアカウントを作ったPCを特定するんだ」

長川は西野に命じた。

 都はじっと6人の関係者を見つめていた。

 

「わ、私の…私のせいで」

千尋が別の会議室で長川警部の話に目を見開いて声を震わせた。顔が戦慄している。瑠奈と勝馬、秋菜が心配そうに見つめる。

「違う…君には全く責任はない」

と長川は手で千尋を制した。

「でも犯人は私を殺すために学校で爆弾を爆発させたんですよね」

千尋は顔面蒼白となって震え笑った。

「犯人はそう学校に電話した。学校関係者、来場者に他にヤブハラ・チヒロはいない。つまり君が殺人の標的だと犯人は名指しした事になる」

長川警部はじっと千尋を見つめた。ポニーテールの少女は「何で」と震えていたが、そのまま腰を抜かしそうになり瑠奈に支えられる。

「それを早く解き明かさないといけない」長川は言った。

「何かここ最近誰かとトラブルになった事はないかい」

「と、トラブルはTwitter上ではしょっちゅうあったと思います」千尋は瑠奈に椅子に座らせてもらい声を震わせる。

「あいつはTwitterでは口が立つことでそこそこ有名で、失礼なTERFとかネトウヨとかツイフェミとはしょっちゅう揉めているんだ。と言っても積極的に論争に参加するタイプではなくて、千尋とその友達が展開している趣味線に無理やり押し入ってきた糞リッパーとかを遣り込めるタイプなんだけどな」

結城が長川を見る。

「薮原に絡んできた奴は相当おかしい奴らだからな。薮原を恨むあまりに過激な行動をとる奴がいてもおかしくはねえ」

「なるほど。ネット上のトラブルか」長川は少し考え込んで千尋を見た。

「薮原さんはTwitterにこの文化祭に参加する事を事前にツイートしたりはしていたかい」

「それが」千尋は考え込んだ。

「そんな記憶はないんですよ」千尋スマホをスワイプさせ、自分のツイートを長川警部に見せた。千尋のアカウント名は「茨城BLよしよし女王様」になっている。

「毎回思うんだが、なんつーアカウントだ」

と結城。

「一応本名は伏せているんですけど、アニメのオフ会系統から漏れた事は1回あって、学校にヤバい奴が電話してきたことはあります」

千尋は頭をカキカキした。長川がチェックする。

「韓流文化祭にゃう」という文字と女子高生らしい絵文字にトッポギの画像がアップされている。

「これが爆発の10分前くらいです。待ち伏せされたら嫌ですし。事前に私の行動はアップしないことにしています」

千尋

「ちょっと待て。ツイート時間が11:57。職員室に電話があった時間の4分前じゃないか。って事は犯人が薮原さん殺害をTwitterなどから事前に予測して爆弾を準備する事は不可能だ」

「って事は犯人は千尋の行動をTwitter以外で知ったって事?」と瑠奈。

「ちょっとやめてよ」千尋の声が震える。

「私探検部のみんなと5組のクラスと朝鮮学校の子にしか知らせてない」

瑠奈、結城、秋菜の顔が戦慄し、勝馬は口をあんぐり開けた。

その時だった。長身の精悍な顔立ちの院長が部屋に入って来た。

「長川警部。少しよろしいでしょうか」

院長が警部を廊下に呼び出す。

「あの…警察に薮原千尋さんという関係者はいませんでしょうか」

と院長。

「どうしてそのような事を」と警部。

すると院長は「さっき病院に連絡があったんです。薮原千尋という女性を殺すためにこの病院を爆破すると」と院長。

「何ですって」長川は驚愕した。それを開いた扉から呆然と見つめる千尋。それに気が付いた長川ははっとして扉を閉めた。

「しかし避難は無理です」と院長は言った。

「この病院には例の感染症の重傷患者を治療する特別治療室があるんですから」

「警部…」

いつの間にか長川警部の横に立っていた都は言った。

「学校で爆発があったのは電話から5分後」

その直後に都は走り出した。「都!」長川が都に手を伸ばす。

 

4

 

 病院の廊下を走りだした都を見ていた勝馬は「結城!」と喚いた。

「お前は瑠奈さん、千尋ちゃん、秋菜ちゃんを守れ!」

勝馬は言うと窓ガラスを開けて自転車置き場の屋根に飛び降りた。

勝馬君!」

千尋が声をかけると、勝馬は自転車置き場のアスファルトに飛び降り、バイクで走りだしていた。

 

 都は病院のロビーにいた。大勢の負傷者が簡易的なマットの上に寝かされていた。そして看護師が慌ただしく処置をしている。都はそのロビーの真ん中に立って辺りを見回した。

 ここでもし爆発が起こったら今度こそ大勢の死者が出るだろう。

「ねぇ、ママ」

包帯を巻かれて寝かされていた少女が母親に縋り付いている。

「私たちが爆弾で殺されるのって、私が朝鮮人だからだよね」

少女はパニックになって母親に縋り付いていた。

「もう朝鮮民族やめようよ。怖いよ、痛いよ」

それを号泣しながら抱きしめるしかない母親。都はそれをやるせない表情で見つめ、すぐに首を振った。神経を研ぎ澄まして、負傷者が簡易的な治療を受けている病院のロビーを見渡す。都には全てがスローモーションに見えていた。

 その時、病院の自動ドアが開いて眼鏡の若い女性が段ボール箱を持ってトコトコ入って来た。

「あのーーーあのーーーー」と若い女性は都に言った。

「ここは、みなみ・いばらぎ・せんと病院ですか?」

そのぎこちない声。都の目が見開かれた。その直後だった。病院の自動ドアの窓ガラスをぶち破って北谷勝馬がヘルメットをかぶってロビーに突っ込んできた。都の目がびっくりする。勝馬は都と女性の前でマックスターンすると、女性から段ボールを奪って外に出て行った。

「大事なお届け物――――」女性は号泣しながら追いかける。

 勝馬は報道陣に向かって「どけどけーー」とウイリーしながらカメラをなぎ倒して道路に出る。段ボールは股に挟んでいた。勝馬のバイクは見事に旋回して住宅地の道路を最高時速で突っ走り、住宅地がそびえる丘から斜面にかけて最高時速でバイクを走らせ、そしてコンクリートで固定されて平らになった場所をジャンプ台に調整池のフェンスを飛び越えてバイクごと調整池にダイブした。その直後だった。調整池の水が水爆実験のように爆発し、巨大な水柱が上がった。

 近くの道路を走っていた長川警部のセダンがその水しぶきを確認して、住宅地の道路をターンする。津波のように波打つ調整池の水。長川警部と都は車から飛び降りると都はフェンスにしがみついた。

「そ、そんな…」

都は目を見開いた。声が震える。その直後、調整池の水面から何かが飛び上がった。派手に呼吸する北谷勝馬だった。

「ぶああああああああああああ」

勝馬君!」都の笑顔。見開かれた目から涙が出てくる。都はヤモリのようにフェンスをよじ登り、調整池にダイブした。

「こいつらは本当に」

長川はため息をついて座り込んだ。その時長川のスマホが鳴った。

「警部! 警部! 大丈夫か。今デカい音が聞こえたが」と結城の声が聞こえる。

「生きてるよ」長川警部はため息をついた。

「都も勝馬君も無事だ。ただ派手にダイブしたからスマホはつながらんだろうが。被害者が出るのを防ぎやがった」

と長川。

「そうか…」

結城は電話口で息を吐いて座り込んだ。

「あのバカ野郎が」

結城は病院の会議室でスマホを切ると心配そうな瑠奈に親指でグッドマークを作って見せる。瑠奈は口元を押さえて座り込んだ。そして秋菜と抱き合う。

「あれ」

結城はふと立ち上がって部屋を見回した。

「薮原は…薮原はどこだ」

 

「あのバイク思い入れがあったんだろう」と長川は調整池のフェンスのない場所から勝馬を引き上げながら言った。

「人の命と引き換えならまぁ納得です。最後は格好良く散ってくれました」

と言ってから「うおああああああああああああああああ、俺のバイクぅうううう」とメリーに別れを告げるルフィみたいに号泣した。都は勝馬の頭をなでなでする。

 その時長川のスマホが鳴った。

「どうした西野…」

「警部。申し訳ありません。病院がパニックになって、重要参考人として監視していたあいつを見失いました」

部下の女性刑事が申し訳なさそうに言う。

「何?」

「それと結城君がさっき知らせてくれたのですが…薮原千尋さんもいなくなったと…」

「何だって?」

長川警部の目が見開かれた。

「それと報道が今大変なことに」

 

「どうして、薮原千尋の事を、マスコミに漏らしたんですか」

と病院の会議室で瑠奈が物凄い剣幕で全一校長に喚く。

「そ、それは次の爆破を防ぐためだ。さっき院長先生が話してくれたよ。私の学校でも、この病院でも、犯人は薮原千尋という人物がいる場所を狙って爆弾を仕掛けているようじゃないか」

全は声を震わせる。

「私は次の被害者を出さないために、マスコミにリークしただけだ」

瑠奈は埒が明かないとでもいう様に会議室を出た。

「今勝馬の舎弟に薮原を探すように頼んでおいた」結城は病院の廊下を歩きながら言った。

「に、逃げたのよ」

と廊下に立っていた朴愛子が声を震わせた。

「津川君は命を懸けてみんなを守ろうとしたのに、あの子は自分が助かりたくて逃げたのよ」

愛子は顔を覆って泣き出した。

千尋はそんな子じゃ」と瑠奈がそういうのを結城は手で制した。

「津川の事が心配で混乱しているんだ…当然だ」

「でもインターネットとか見ると千尋先輩の個人情報がアップされているよ」

秋菜はスマホを翳した。

-死を呼ぶ女子高生薮原千尋

-全部千尋のせい。

 結城は目を見開いた。

「そんな。千尋は何も悪くないのに」と瑠奈。

「だがあいつからしてみれば、犯人はなぜかピンポイントで薮原のいるところを把握し、前もって知的障碍者を利用して爆弾を送りつける段取りを整えている。そんな訳の分からない犯人の為に大勢の人間が巻き込まれている。だからあいつは姿をくらましたんだ」

と結城。

「ちょっとそれって、自殺とかもあり得るって事だよね。お兄ちゃん」と秋菜は顔をこわばらせる。

「急ごう。長川警部もあいつの保護を最優先で動いてくれている。出来る事を考えるんだ」

と結城は言った。

「あの」

突然結城の後ろから少女の声がした。

「私も探すよ。千尋は私の大事な友達だから」と崔麗花がじっと探検部を見つめた。

「今日の学園祭、ネトウヨとかもいっぱい来てさ、凄く嫌な思いをするのかもってわかっていたのに、千尋来てくれたんだよね」

麗花は声を上げる。

「それなのに、千尋は一人ぼっちにならなきゃいけない理由がわからない。私だって友達を助けたいよ」

真剣な表情の麗花を結城は見た。

「わかった。頼む」結城は頷いた。

 

 黒い影はにやりと笑った。

(薮原千尋、お前にはこれから死の恐怖をたっぷり味わってもらう。この国の未来の為に考えた私の素晴らしい思想を愚弄した罪を死によって償うのだ)

 

 結城竜はみんなと別れて病院の周辺を歩き回った。周辺の住宅地や誰もいない公園、遊歩道を必死で探した。

(糞!)

結城は自分に腹が立っていた。あの津川って奴は都を命がけで守り、勝馬の馬鹿だって自分のバイクを犠牲にしてまで命がけで病院の人間を守った。なのに俺は何をやっている。

 結城は勝馬が女子たちを守るように言った言葉を思い出した。こんな話になっちまったら、薮原にとって怖いに決まっているじゃないか。訳も分からず自分の行くところ行くところで爆弾が爆発し、大勢が巻き添えになる。大切な友達も死んでしまうかもしれない。そんな得体のしれない状態になったら、一人でどこかに消えるしかないだろうが。なんで薮原をちゃんと見ておかなかったんだ。

 結城は歯ぎしりしていた。その時だった。

「結城君お化けだぞーーー」と懐中電灯を顔の下から照らした島都が立っていた。

「お前…何やってるんだ」と結城が呆然と立ち尽くす。

千尋ちゃんを探していたんだよ」都はにっこりと笑っていた。

「ベンチで座ってお紅茶飲みながら」

と公園のベンチにハンカチが敷かれて飲みかけの午後ティ。

「随分とまったりしてやがるな。非常時だろうが!」

と夕方になりつつある公園で結城は喚いた。

「大丈夫だよ」都はガラゲーを取り出す。

「この子の所にきっと千尋ちゃんから連絡が来るから。すぐに」

「何でわかるんだよ」と結城がほわほわな都に喚く。

千尋ちゃんなら絶対勝馬君が無事かどうか心配しているから」

都はにっこり笑った。その時都の携帯が鳴った。

「ほら来た」都は笑顔で言った。結城が呆気にとられる。

「もしもし、千尋ちゃん」と都が笑顔で電話に出た。

-都、ごめん。

千尋の声はきっと涙で震えている。

勝馬君、大丈夫なの。

「大丈夫だよ。今千尋さああああんと言って板倉君のバイクで探し回ってるよー」

-良かった。

千尋は震える声で言った。

 公園の空を報道のヘリが飛び、遠くでパトカーがサイレンを流し、住民の屋外待避を呼びかける市の広報車が走っているのが聞こえる。都は耳の穴に指を突っ込みながら言った。

千尋ちゃん、今どこにいるのかな」

-ごめん、言えない。

千尋

-私のせいで、これだけ大勢の人が大けがしちゃっているんじゃん。それに犯人は私の行動を監視して、私がどこで何をしているのかも預言者みたいに予測して…

千尋の声は震えていた。

-お母さん…

「わかった。言わなくてもいいよ。どこにいるのかは」都は言った。

「ちょい待て」結城が横から声を出した。

「犯人は薮原の居場所を知っているんだろう。少なくともそれを予想する手段を持っている。早く保護しないと、今度こそ薮原が爆弾で」

「大丈夫だよ」

都は笑った。

「犯人は千尋ちゃんが今どこにいるか、今は予測出来ていないから」

その言葉に電話口で千尋は目を見開いた。

「私はもうわかっているよ」都は笑顔で言った。

「この事件の犯人が誰なのかも。そして千尋ちゃんの行く先々で爆弾が爆発する意味もね」

 

【挑戦状】

さぁヒントは提示された。千尋が行く先々で犯人にピンポイントで爆弾で狙われる意味とは。そして犯人は。

 

・崔麗花(15)朝鮮高等学校1年

・朴愛子(16)朝鮮高等学校1年

・全一(55)朝鮮高等学校校長

・白星蘭(23)朝鮮高等学校教諭

・内藤亮介(59)警備員

・檜森倫(30)運転手