少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

吸血鬼復活事件 導入編

 

1

 

 雷鳴が鳴った。山奥の洋館のある特殊な部屋が一瞬光に包まれる。それは蝋燭の光。

「苦しい…お願い助けて」

苦し気な息をしながら裸で磔にされた少女は苦悶していた。彼女は悶えながら真っ青な顔で苦し気に目を閉じて身をよじりながら「うっ」と声をあげ、「お母さん」と声をあげていた。

 そんな磔の少女を前にバスタブに入る豊満な肉体のマダムはうっとりとした表情だ。

「ああ、肌に処女の血がしみ込んでいく、しみ込んでいくわ。そして私は少しずつ美しくなっていく…」

「あ…あ…」少女は虚ろな表情で助けを求めようとしていたが、やがてガクッと項垂れた。

黒髪のその少女の虚ろな死相が再び雷に照らし出される。

 

「‼」

高野瑠奈は自室のベッドでピンク色のパジャマの胸を押さえた。そして小さくため息をついた。スマホを見つめると朝の3時50分だった。

「微妙な時間に目が覚めちゃったな」

寝汗をかいてしまった。高校1年生の瑠奈はパジャマ姿でベッドから出ると、1階のバスルームへ向かう。そこでパジャマのボタンをはずし、ブラのホックを外し、バスルームでシャワーを浴びる。そのすりガラスに映り込む少女の均整の取れた裸体。そしてそんなバスルームにゆっくり近づく影。そしてバスルームのドアが開き、瑠奈はその音に胸を抱きしめて驚愕し振り返る。

 目の前に立っていたのはぼけーっと寝ぼけていた小柄な少女だった。

「あれ、お便器がない」

島都はむにゃむにゃ顔で瑠奈を見つめると「おやすみようございます」と言ってドアを閉めた。

「はぁ」

瑠奈はため息をついた。そして胸を押さえて「びっくりしたー」とため息をつく。

 その時、再びすりガラスのドアが開いた。ごっついゴリラ顔のおっさん否高校生がむにゃむにゃ顔で立っていた。

「あれ、便器が」

「きゃぁあああああああっ」瑠奈が胸を抱きしめて蹲る。直後に北谷勝馬の「ぎゃぁああああああああああああ」という悲鳴と何かが凹らられる音が響き渡った。

 

「マダムの夢?」

学校の制服姿の千尋が瑠奈に食パンかじりながら聞いた。

「うん、また今日も同じ夢見ちゃって」

「あの、マダムが女吸血鬼になって瑠奈を殺しちゃうって言う?」

千尋。ソファーでは勝馬がたんこぶの山の下で死んでいた。

「ここ3日連続でそれを見ちゃってて」

「大丈夫だよ」都が明るく笑った。「私ジャイアントパフェの夢10日連続で見たことあるもん」

「あの時は金欠でパフェ欠乏状態だったからな。都」

結城竜がハムエッグを口に入れる。

「つまり瑠奈ちんもマダム欠乏症なんだよ」と都が結論を出す。

瑠奈が「都、ちゃんと制服を着なさい」と窘める。

「でも3回も夢に出るっていう事は何かあるんじゃねえの。予知夢とか」

と中学生の弟の陸翔が味噌汁を飲みながら姉を見つめる。

「どういうシチュエーションでそんなエリザベート・バートリーなマダムが高野をクッパの城みたいな場所に連れ込んで生贄にするなんて未来が確定するんだよ」

結城はツッコミを入れた。

「多分2回同じ夢を見たのは偶然で、それを気にしてしまったから3回目の夢を見たんだよ」

「多分そうだと思うんだけど、でもマダムの顔とか鮮明に覚えているんだよね」

瑠奈は少し不安そうに言った。

「となると、どこかで見た顔って事なんだよな」

結城は考え込む。「芸能人とかそういう顔ではないって事だよな」

「うん」

瑠奈は言った。

「瑠奈ちんの夢に3回も出てくるマダムかぁ」都は考え込んだ。

 

 雨がザーザーと降っている。灰色のモノクロの世界の洋館の前に警察と救急車が集まっている。ストレッチャーに乗せられ意識のない少女に、小学生の島都は「瑠奈ちん、瑠奈ちん」と大声をあげて縋っていた。

 

「都…都…」

結城が高校の探検部の部室でぽげーとしているのを結城が揺り動かす。

「あ、瑠奈ちんは‼」

都が素っ頓狂な声をあげてきょろきょろする。

「部長会議だよ。千尋も同じだ。勝馬はベッドで死んでいる」

結城は紙コップに麦茶を入れて都の前に置いた。

「ひょっとして、そのマダムという奴に心当たりがあるのか?」

「結城君凄い名推理だね」都が感心したように目をぱちくりさせる。

「いや、見てればわかるよ」と結城はツッコミを言えた。

「マダムと言うのは羽鳥エリザベスというライターだよ。4年前かな。私が6年生の時にそのマダムは女の子の血を体に浴びせれば美しい体でずっといられると考えて、それでこの町で女の子を物色。その時に誘拐されたのが瑠奈ちんだったんだ。羽鳥は瑠奈ちんの事を中学生くらいだと思っていたらしいけど、それで誘拐してお母さんから相続した洋館に連れて行って、裸にして十字架にかけるとか酷い事をした。そして体に注射をして血を抜き取っていたんだよ」

都は当時を思い出して戦慄していた。

 

 モノクロの世界。蝋燭の光で照らされる洋館に長川警部補が突入。女警部補はバスタブから立ち上がった裸のマダムを後ろ手に捕まえて取り押さえ、都は幼い裸で小さな乳首に刺さっている針を抜いて吹き出した血をタオルで抑えた。瑠奈は虚ろな表情のままだった。

 

「もう1時間遅れていたら、助からなかったみたい」

都は部室の棚を見つめた。

「凄く怖かったんだと思う。瑠奈ちんは自分が誘拐された時のことをすっかり忘れていて、お父さんとお母さんも警察や私に無理に思い出させないようにしてほしいと言っていた。だから裁判とかで証言できなかったのと、マダムの頭がおかしいという事で、4年だけ刑務所に行く事になったんだよ」

「4年って…じゃぁもう」

結城が声をあげると、都は頷いた。「多分先週あたりに出所した事になると思う」

「わかった」結城は察した。

「このことは話題にしないようにしておくよ」

その時、部室のドアが開いて都と結城はあわああわする。千尋が「へへへー」と仁王立ちでピースした。

「今度の合宿費結構ガメテきたよ」

「活動日誌をつけるのが大変そうだけどね」

瑠奈が苦笑した。

「血が欲しい…血が欲しい」

しゃがれた皮膚、くぼんだ眼窩にぎょろりとした目、抜け落ちた歯。老婆のような存在は閑静な住宅地の道路に座り込んでいた。それをヘルメットを着用した自転車姿の中学生結城秋菜が通りがかる。

「大丈夫ですか」

と秋菜が声をかけてその老婆のような存在に駆け寄り助け起こそうとする。その時だった。まるでAKIRAに出て来そうなしゃがれた顔が凶器に満ちた笑顔が、純情な女子中学生に向けられた。

 次の瞬間、その少女のブレザーの間の胸にスタンガンが押し当てられ「あっ」と秋菜は苦しげな声を出して崩れ落ちた。壊れた老婆の笑顔が立ち上がった。

「どうせ生贄にするのなら、瑠奈ちゃんのようにかわいい生贄にしなくっちゃねぇ」

 

「あれ、秋菜の奴まだ帰っていないのか」

結城はマンションのドアを開けた。

「それともどこかに買い物に行ったのか。牛乳切れていたしな」

「それはないと思うよ」

都は玄関の靴をチェックした。

「だって秋菜ちゃん学校帰りに買って来るって言っていたもん」

「それを忘れて買いに行ったんじゃねえの」と結城。

「だとしたら自分で買いに行くより、私たちにLINE送った方がいいよね」

都は秋菜と自分の部屋を開けると、秋菜の部屋には制服がかかっていなかった。

「ん、LINE来ているぞ」

結城がLINEを開ける。するとそこには動画URLが添付されていた。それをクリックすると突然オペラが流れ出す。そしてしゃがれた老婆のような女が白い服を着て立っていた。

「生贄だ。生贄が必要だ」

老婆は左右の眼の焦点がカメレオンみたいにばらけている。どう見ても正気には見えなかった。

「都‼」結城は反射的に都を呼ぶ。

都が結城のスマホの動画を覗き込んだ時、老婆は口裂け女みたいに笑いながら動画を自撮りする。背景は暗い部屋で蝋燭の光が逆光してよく見えない。

「私には、私には血が必要だ。高野瑠奈の血が…やっぱり必要なんだ。高野瑠奈を夜の11時までに呼んでこい。もし私の生贄の儀式に高野瑠奈を連れてこなければ、警察に知らせたりすれば…」

女は血走った目をカメラに見せると、次に画面には手術台のような場所に両手両足を固定された中学校の制服の少女、結城秋菜が恐怖する姿がアップされた。13歳の少女に見せ槍のようにナイフが突きつけられる。女は秋菜が「やだ、いやだ…」と声を震わせるのも構わず、制服のブラウスのボタンを切って、キャミの上から胸の膨らみを刃先で舐った。

「やめてっ、お兄ちゃん!」秋菜が顔を滅茶苦茶に振って泣き叫んだ。

「お前の妹を生贄にしてやる」

そしてビデオが切られた。結城は顔面蒼白のまま玄関に座り込んだ。都はそんな結城を一瞬見たが、すぐに長川警部に連絡した。

 

2

 

「こんにちは、神様の言葉を伝えに来ました」

マンションの踊り場で長身の黒髪のアラサー女性がパンツスーツ姿で聖書片手に声を上げる。玄関のドアを都が開けた。

「すいません。今それどころじゃないんです」

「おや、何か深刻な悩みを抱えて居そうですね。神様が解決してくれるかもしれません。話してくれませんか」

と勧誘の女。都が「困ります。あれーーー」と声をあげると、勧誘の女は強引に部屋に入り、そして後ろにいた若い男女に指で合図すると、早速男女は電波探知装置を手に室内を見て回る。

「今戦争とか感染症とか酷いでしょう。国内を目に向ければ不景気だったり、いじめだったり、政治家が殺害されたり…これはね、神様が私たちにメッセージを出しているんですよ。正しい人類に戻って欲しいって」

と女伝道者はリビングのソファーで頭を抱えている結城の前で適当ぶっこく。その時西野という若い女性刑事が女勧誘者、長川警部の前で敬礼した。

「警部、盗聴器などの類は確認出来ませんでした」

「了解」

長川朋美という女警部は結城と都を見て「大丈夫だ。私たちなら解決できる」と言った。

「瑠奈ちんは」

と都。

「言われた通り言っていない。岩本関連で一応と言う形で警護をつけておいた」

長川は逆探知装置を準備する。

「それでいい」

結城は頭を抱えながら小さな声で言った。

「高野を危険な事に巻き込むわけにはいかねえ」

さすがに声はやつれていた。長川は結城に同情しつつ都を見つめる。

「都。送ってもらった動画見たが、やはり羽鳥エリザベスで間違いないだろうな。あのマダムの…高野さんを4年前に誘拐した」

「うん。顔は老けていたし逆光でよく見えなかったけど、声とか耳の形とか、顔つきは間違いないと思う」

都は考え込んだ。

「でもそう考えると変な事がいくつかあるんだよ。まず羽鳥は何でここまでして瑠奈ちんを狙っているんだろう。確か4年前の事件では瑠奈ちんが狙われたのって、一緒に登下校していた中で一番スタイルがいい子を狙ったって言っていたよね」

「それは、あの子のせいで自分は捕まったって逆恨みも混じっているんだろう」

と長川が指摘する。

「でもそれなら、何でいちいち秋菜ちゃんを誘拐して私たちに瑠奈ちんを連れてこさせるなんて事をする必要はないよね」

都は長川に向かって目をぱちくりする。

「た、確かに…」長川が頷く。

「それに狙われたのが秋菜ちゃんと言う事も気になるよ。秋菜ちゃんは瑠奈ちんが高校時代に知り合った友達の妹だよ。小学生の時の事件で、何で高校生の時に出来た人間関係の女の子が標的になるんだろう」

都は絨毯を見つめながらふっと長川を見上げた。

「第一羽鳥は刑務所を出てまだ10日だよね。どうやってここまで調べたんだろう。瑠奈ちんの友達の秋菜ちゃんって…」

「共犯者がいるって事か」

と長川。

 都は「そうかもしれない…」と言った。

「だけど、お金とか復讐とかはまだしも、羽鳥エリザベスっておばさんのお肌を綺麗にするために女の子を誘拐するなんてヘンテコリンな事件の共犯者になる人なんているかな」

「今よくある『精神的支配』ってのも出所から10日でそういう存在を見つける事はまず不可能だな」

長川は都を見つめる。「となると身内とかか」

女警部は当時の裁判を思い出していた。

 

 4年前の法廷では、羽鳥白子(当時60)が「うちのエリザベスちゃんはこんなことをする子ではありません」と絶叫していた。ひらひらのドレスを着用してむせび泣いていた。

「羽鳥家にこんなおかしなことをする子供が生まれるわけないじゃないですか。私たちの血筋は正しい血筋。被害者の女が法廷に来れないという事は、あの女が嘘をついているに違いないわ。うわぁああああん」

興奮して証言台をバンバン叩く白子。それを被告席の羽鳥エリザベスはやつれ切った別人のように老け込んだ表情で見つめていた。

「証人は落ち着きなさい」

裁判長が窘める。

「裁判長…被害者とされる少女をこの法廷に連れてきて証言させる事を要求します」

弁護士の岩倉友弥(当時37)という眼鏡の弁護士が主張する。

「裁判長」検事が挙手した。

「検察側の起訴および証人の選択を弁護側が指示する権限はありません」

そんな法廷でのやり取りを小学生の都と長川警部補はじっと見つめていた。

 

「そういえば」

長川は思い出したように言った。

「羽鳥エリザベスには母親の羽鳥白子がいた。そして岩倉って弁護士は物凄いミソジニストで有名なツイッタラーで、高野さんの事件でも被害者が嘘をついていると嘘をついて事件情報をばら撒いていた。挙句羽鳥が有罪判決を食らった後に弁護士会から懲戒請求を食らっているんだ。この2人なら高野さんに恨みを持っていてもおかしくはないぞ」

長川は言った。そしてすぐにスマホを取り出す。その時玄関のインターホンが鳴った。都がスマホをチェックすると「あ、千尋ちゃんだ」と声を上げた。

 玄関を開けると「ちーっす」と千尋がニカっと笑って部屋に入った。

「はい、これ、言われたブツ」

テーブルにどんと置かれたバッグの中には丸められた学校の制服がある。

「これを西野に着せて高野さんのおとりになって貰おうってわけだ。西野はまだ21だからな」

と長川がそう言っている間、千尋は結城が呆然と座り込んでいるのを横目で見た。

「これは最後の手段と考えた方がいいと思うよ」都は長川を見上げた。

「犯人は瑠奈ちんの高校の時の友達の妹まで調べている。多分瑠奈ちんの今の顔も知っている可能性がある。だから」

都は家のアニメ時計を見つめた。

「秋菜ちゃんを助けられる可能性を大きくするためには夜8時、犯人から連絡があるまでの3時間で犯人を特定した方がいいと思う」

「その突破口が、なぜ秋菜が狙われたって疑問を解決する事か」

頭を抱えていた結城がぼそりと言った。

「一応話しておくが、秋菜は前に電車で女の子に痴漢していたおっさんを空手でぶちのめしてノックダウンしたような事あったな」

結城は考え込んだ。

「それは関係ないんじゃないか」

と長川。

「第三者が前の高野さんの事件を利用して秋菜ちゃんや結城君に恨みを晴らそうとしているのだとしたらありなのかもしれないが、今回は少なくとも羽鳥エリザベスが主犯であろうことは確定しているんだ。羽鳥エリザベスと秋菜ちゃんとの間の接点を見つけ出さないと」

「あ」

結城は思い出したように言った。

「その痴漢していた奴、岩倉って言う奴だったな」

「それいつ‼」都と長川が結城に顔を近づけた。

 

長川の部下の鈴木刑事と都はすぐに岩倉のアパートへと向かった。幸いここから車で20分ほどの距離にあった。

 アパートの前に到着すると鈴木は部下にベランダを見張るように命じて、2階の「岩倉」と書かれたドアのインターフォンを押そうとして、「な、なんだ」と素っ頓狂な声を上げた。

「ドアノブが引っこ抜かれているし、ドアがべこべこだぞ」

呆気にとられる鈴木。すると突然ドアががばっと開いて「今取り込み中だ」とゴリラ顔の少年がデカい図体とともに現れた。物凄いガンを飛ばしている。

「あ、勝馬君!」

と都が素っ頓狂な声を上げる。

「ああああああ、都さん」突然強面の北谷勝馬は探検部の少女に顔をほころばせる。

「さすがは名探偵都さん。こいつの犯罪をかぎつけておつきになったのですね」

「犯罪?」都がきょとんとする。

「内山理衣さんですよ。同じクラスの」

勝馬は都に「どうぞどうぞー」とアパートの中に入れると、鈴木刑事を睨みつけて「野郎はダメだ」とドアを閉めた。

「おーい、開けてくれ」とドアを叩く鈴木刑事を他所に、都は下着姿で勝馬上着を被せられたクラスメイトの金髪の少女が泣いているのを見つめた。

「都ぉ」内山理衣(15歳)は「理衣ちゃん、大丈夫」とあわあわする都に抱き着いた。それをなでなでする都。都は勝馬に「理衣ちゃん、怪我とかしてるの?」と聞くと「それはないです」と勝馬の横に立っていた勝馬の舎弟の板倉大樹がやや怒りで興奮した口調で言った。足元には顔面を頭突きで血だらけにされた男がパンツ一丁でもがいている。

「ちょっと顔を確認させて」

都は理衣を抱きしめながら勝馬に言うと、勝馬は岩倉という男の顔を髪の毛掴んで都に向かせた。

「わ、私バイト先の先輩のこの人に飲み物貰って…そしたら眠くなって気が付いたらここで下着だけにされてて…トイレに逃げて…スマホ勝馬君に」

理衣が肩を震わせながら言った。部屋の中は滅茶苦茶だった。まぁ怒り狂ったゴリラが一匹いればこうなるだろう。

 都は岩倉の顔をまじまじと見つめた。

「岩倉弁護士。お久しぶりです。4年前に瑠奈ちんをよくも嘘つき呼ばわりしてくれたよね」

都が理衣を優しく座らせると、ウンコ座りで引き立てられた岩倉ににっこりと笑いかけた。

「そして今度は私や勝馬君のお友達に酷い事をしたんだよね。それでちょっと聞きたいんだけど。結城秋菜ちゃんって知っている? ほら、この前電車で痴漢して岩倉さんの顔に蹴りを入れた子」

岩倉はそっぽを向いた。都は勝馬を見上げた。

勝馬君、50発くらい殴っていいよ。板倉君も50回くらい蹴っ飛ばしてもいいよ。それで死んじゃっても長川警部にごまかしてもらうから」

都はにっこり笑った。勝馬も板倉も手をゴキゴキバキバキさせている。嬉しそうだ。

「ひぃいいい。殺さないで…言います。羽鳥白子…羽鳥白子に言われたんです。高野瑠奈の現在の交友関係を調べて欲しいって…3週間前に」

「羽鳥白子」

都ははきょとんとする勝馬、板倉の前で小さく呟いた。