少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

死者の蒼白【1-2】

 

1

 

 小学生の波田佑衣子(11)がTシャツショーパンのラフな格好で自転車をこいでいた。すっかり日が落ちて河の堤防の道は暗くなっている。
「ったく、給食袋なんて明日でもいいじゃん。お母さんの馬鹿」
そう文句を言いながら堤防の道を自転車で漕いでいると、突然何だか大層な音楽が川の方から聞こえてきた。佑衣子はふと自転車を止めた。昭和時代の歌謡曲みたいな音楽が河川敷の方から聞こえてくるのだ。真っ暗な中曲だけが聞こえてくる。
「これは何か事件の匂いだ」
佑衣子はそう言いながら、自転車を止めて河川敷に降りて行く。河川敷は葦原になっているが、このエリアは周辺に橋もないので非常時のセスナやグライダーのための滑走路が設置されている。
 ホームレスの人とかが住み着くようなところではないし、一体何が起こっているのだろう。学校では探偵団を結成してそのリーダーになっているお転婆少女の佑衣子は好奇心の赴くままに、彼女なりに用心深く身をかがめて作業小屋に体を隠して、音源の滑走路の方を見た。
 白い影が見えた。それは髪の長い女だった。その女が虚ろな表情で音楽に合わせて躍動感もなく、まるで人形のように踊っているのだ。その異様な光景に佑衣子は咄嗟にこの女がこの世の存在ではないと判断した。
「あ、あ、あ」
佑衣子は声を震わせて呆然としていたがすぐに走り出した。
 
「マジかよ」
 翌日、学校のプールサイドで佑衣子の友人の平太と啓介のうち平太が素っ頓狂な声をあげた。いかにもわんぱくそうな顔の平太は「嘘だろ」と訝し気にスク水の佑衣子を見つめる。
「いやマジでいたんだって。白い顔をした女の幽霊が古い歌に合わせて人形みたいに踊ってるの。絶対幽霊だよね」
「そんな女の幽霊が滑走路に何で出るのさ」
眼鏡の啓介が飛び込み台でかがむクラス一スタイルのいい美少女の水着の胸元を凝視する。
「きっと飛行機事故だよ。飛行機事故で戦争時代の歌手が死んじゃったんだよ」
と佑衣子は啓介の眼鏡を手でふさぐ。
「あの滑走路が出来たのは戦後だよ」
啓介は目を塞がれて顔を揺らしながら言った。
「とにかく、明日2人とも滑走路に集合だからね」
と佑衣子。
「下らない」と啓介。「俺ゲームしてぇ」と平太。
「あ、そういえば私が見た若い女の幽霊、美人ですっぽんぽんだったよ」
「美人で」と啓介が眼鏡を反射させる。平太が「すっぽんぽん‼」と大喜びしていた。
 
「ここがオカルト研究会か」
色黒金髪の波田直人(16)が部屋の中を見回すと、目つきの悪い結城竜が「探検部だよ、探検部」と修正を入れる。
「何だ。殺人事件を引き起こす黒魔術の実験をしているんじゃないのか」と目をぱちくりさせる波田
波田君がいろんなミステリー写真を持ってきてくれるって言うから、都がすごく楽しみにしてたよ」
黒髪ロングおでこ分けの美少女高野瑠奈が、目をキラキラさせている小柄な女子高生島都の横で苦笑する。
「島。妹が撮影した本物の写真を見せてやろう」
波田はパイプ椅子にどかっと腰かけて封筒から写真を10枚程度ばら撒いて見せた。都は「おおおおお」と目を輝かせる。
この中には日本の軍事情勢に影響を与えかねない代物もあるからな。取り扱いには注意してくれよ」
波田は鼻をこすって見せる。都は写真をじっと見つめた。
「これ、家族で撮影した滝だよね。華厳の滝かな」
ポニテ少女の薮原千尋が滝の前の展望台から撮影したと思われる家族写真をじーっと見つめた。
「って事はこの髪の短い赤いTシャツの女の子が」
瑠奈が聞くと「我が妹だ。彼女はどうやらこの世のミステリーをおびき寄せてしまう傾向があるらしいな」と波田は腕組をして一人で頷いた。
「でもこれのどこがミステリー写真なのかな」
都が目をぱちくりさせた。
「よく見てくれないか。俺の母親の足元」と波田
「足元?」
瑠奈が写真を凝視する。すると足元に不気味な男性の顔が映り込んでいた。眼窩が陰になっていて不気味に二やついている。
「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああ」
図体のデカい北谷勝馬が絶叫を挙げて仰向けに倒れ込んだ。そして真っ青な顔でピクピク体を痙攣させながら呻く。
「ひ、ひいいいい。あれは、呪いだ。恐ろしい呪縛…」
「その辺のおっさんだと思うよ」
と都。波田が「え」と目を見開き、勝馬は表情を寝っ転がったままポカンとさせた。都に同調するように瑠奈も「うん、普通の男性だね」と頷いた。
「そ、そんな…普通の男性が首だけになって笑っているわけが」唖然とする波田。だが都は写真のある部分を指さした。
「この部分。斜めになった手すりがあるよね。と言う事は滝つぼに降りる階段があるんじゃないかな」
「あ」波田がポカンとした顔になった。「そういえば俺と妹、あそこで泳いだわ」
「心霊写真じゃなかったな」結城はため息をついた。
「はははは、口ほどにもない。所詮心霊写真など人間が勝手に作り出す厳格なんだよ」勝馬が高笑いするのを全員ジト目で見つめる。
「まぁ、妹も11歳だし間違いはあるさ」
波田は気を取り直して次の写真を都の前に突き出した。探検部のメンバー全員が覗き込む。
「俺の誕生日会を中学の友達と祝ったものだ」
波田が説明する通り、2人の男子と2人の女子と妹が一緒に仲良く映り込んでいる和室の写真だった。
「ピザ美味しそう」都はお腹を鳴らした。
「待て待て、窓を見てみろ。不気味な女の顔が後ろの窓に映り込んでいるだろう」
波田に言われて、瑠奈と千尋と結城も見てみると、確かに目元が暗くなった不気味な女の顔が映り込んでいた。
「ふ、どうせこれも階段だろう」
と鼻で笑う勝馬。だが波田は「俺の家は団地の4階だぜ。つまりここに人がいるはずがないんだ」と深刻な顔で勝馬を見た。勝馬の顔が青くなる。
「あああああああああああああああ、出た、出たぁああああああああああ」
勝馬は絶叫を挙げて部室の畳台の布団に潜り込み、ケツをフリフリしていた。
「これ、2組の阿部じゃん」千尋は声をあげた。波田は「は」と唖然とする。
「来てたよね。阿部京子」と千尋が確認する。
「まぁ同じ中学だしな。だが阿部っちがこんな不気味な顔をするわけないぞ」
「多分。これ写真を取り終わった後に間違えてボタンを押しちゃったんだね」都は言った。
そういう時って結構人の顔が不気味に歪んじゃうって事はよくある事だよ」と都は目をぱちくりさせた。
「それによく見ると窓に家の中にあるものが映り込んでいるしね」
都の言葉に「あ」とポカンとする波田直人。勝馬が「はははは、クラスの女子と亡霊を間違えるなんて失礼な奴だなぁ」と笑って波田の肩をバンバンする。全員がじーっとジト目で勝馬を見つめた。
「これはどうだ。夜空に出現した葉巻型UFOだ」波田直人は写真をバンと都に見せた。
「廊下の蛍光灯が反射したんだね」と都は目をぱちくり。「部屋自体は暗いから余計に空に発行物体が浮かんでいるように見えたんだよ」
「これは間違いなく本物だぞ」と波田が写真を出す。雨の神社に大量のオーブのようなものが映り込んでいる写真が都に向かって提示される。
「雨水がレンズについたまま撮影すると、こんな感じでオーブみたいに見えるんだよ」と都は神社の写真を見ながら言った。
「牛久沼の水棲未確認生物」と波田夕闇の湖に首の長い生き物が逆行している。
「鳥さんが逆光したんだね」と都。「白鳥が来るのって珍しいから、きっと間違えちゃったんだよ」
「これは走るミイラ」と波田昼下がりの森林公園をランニングシャツを着用した白髪の老人(竜神湖の事件に出てきた江崎弁護士)が走っていた。
「ランニングしているじいさんじゃん!」結城は「失礼な奴だなぁ」とため息をついた。
「まさか。全部科学的に論破されてしまうなんて」
波田直人はがっくりと肩を落とした。千尋は布団の盛り上がりに向かって「勝馬君。怖いのは終わったよ」と呼び掛けた。
「やっぱり、妹が裸の幽霊を目撃したって話は嘘だったのか」波田が涙目で唸る。
「何だよ。裸の幽霊って」と結城。
「見たらしいんだ」
波田は昨日自分の部屋をバーンと開けて必死で今見たものを説明する妹を思い出した。
「河川敷で夜一人で音楽を聴きながら裸で踊っている女の幽霊を。生気がなくて人形のように踊っていたらしいんだ」
波田はため息交じりに言った。
「な、なんだそれ…別の意味で怖いんだが。まぁ、これも恐らく」
結城がそこまで言ったとき、都は「間違いなく妹ちゃんは本当に裸で踊る女の幽霊を見たんだと思うよ」と断言した。
「ひいいいいいいい」勝馬が布団で悲鳴を上げた。結城も呆気にとられる。
「本当か」と波田が立ち上がる。
「間違いないよ」
都は断言した。
波田君が見せてくれた写真が、波田佑衣子さんが嘘をついていないという証拠になっているんだよ
都は波田が見せてくれた写真を右手に持って、全員を見回した。
 
2
 
「この写真が幽霊が本当だという証明になるのか」
と結城に言われて、都は頷いた。
どれも信憑性は悪いがかなりいまいちの様に見えるんだけどなー」千尋
「でもこの写真、1つもトリック写真はないんだよ」
都の言葉に瑠奈は「あ」と気が付いたようだった。
「つまり妹さんは毎回いろんなものを勘違いしているけど、見てもいないものを見たとは言わないって事か」
「うん」
都は頷いた。
今回は女の幽霊がしかも裸で人形のように踊っていたっていう証言だから、佑衣子ちゃんは相当立体的に、詳細な形で幽霊を目撃していたって事だから、多分女の人が裸になって踊っていた事は間違いないと思うんだよね。ただそれがお化けかどうかはわからないけど」
「って事は変質者か」
と結城。
「多分そうだと思うけど。これは現場を見て回った方がいいかもね」
と都は考え込んだ。
「確かにな。頭のおかしい奴だったり性犯罪者だったりしたら、人に危害を及ぼしかねないからな」
と結城。
 
「悪いな。駅から遠くて」
波田が堤防の下の階段前のスペースに原チャリを止め、その横に勝馬から借りたカブに乗った結城と都の2ケツ千尋の原チャリが停車する。
「この辺の奴はみんな原チャリか」と結城。
「ああ、コミュニティバスはルートが無茶苦茶で遅いんだよ」
波田が堤防の階段を上がりながらため息をつく。堤防を登り切った場所からは利根川と高圧線と夕方の富士山が見える。
「おおお」と都が感嘆の声をあげる。
「これはなかなか」と千尋も素直に感心した。
 その時「私はー、この会社に就職するまでは、自分勝手で、甘ったれな人間以下の存在でしたー」と絶叫する男の声が、感動をぶち壊した。河川敷の下の事務所の敷地で作業着姿の従業員が隊列を組んで何やら集会をしている。
「でもこの会社で、人として生きていく上でー、大切なことを教わりました。今日私はー、親に絶縁の電話をかけ、この会社と命を一体化させてー」
「ふえええええ」と目を回す都に千尋は「教育上良くないので身長150㎝以下は見てはいけません」と河川敷の方に連れていく。
「この辺じゃ有名だよ」
波田直人は階段を降りながらため息をついた。
「うるせえええええええ」
と堤防から通行人が叫んでいるのが聞こえる。酒に酔っぱらっているのだろう。
「一応ここが滑走路なんだが。非常時にしか使われていなくってな」波田はただっぴろい舗装が劣化した滑走路を見つめる。
「結構地元民が遊んでいるんだぜ」
波田が顎でしゃくると壮年の男性がラジコン飛行機を離陸させていた。
「ここで夜に昔の音楽とともに裸踊りしている女が出るって事か」
結城が周囲を見回す中、都は滑走路のすぐ前にある作業小屋を覗き込んだ。埃まみれの空間に竹ぼうきや段ボールやペンキ缶やカラーコーンが見えている。あと緊急救命訓練のための人形もあった。
 
 市営団地のドアを開けて「お邪魔しまーす」する都と千尋と結城。
「これが俺と妹の部屋だ」と波田直人は襖を開けた。和室にはちゃぶ台が2つ並んでいて、恐らく押し入れに布団が入っているのだろう。大量の漫画本が積み上げられている。壁にはネッシーやパターソン・ギムリーフィルムやメテペックモンスターの写真が貼られていて、オカルト本などが置かれている。
「これ、こっくりさんだよね」
千尋は声をあげた。
「なんだ。これ。三角?」結城は部屋の真ん中にあるピラミッド状の物体をしげしげと眺めた
「ムーとかもあるし。妹さん相当オカルトにハマっているよね」
千尋
「そりゃ、当然さ。妹は超常現象をこの目で見て遭遇してきたんだからな」
波田直人は腕を組んだ。
「エイリアンに誘拐された事だってあるんだぜ」
「え、エイリアンに誘拐?」
結城が唖然とした声を出す。
「2カ月前に市が主催している子供キャンプに行ったとき、天体観測中に山が青く光っているのを少なくとも妹を含めて8人の子供と1人の大人が目撃しているんだ」
「それって佑衣子ちゃん1人が目撃したって訳じゃなくて、その他大勢で一緒に目撃したって事?」
「ああ」
波田は言った。
「そして、その日の夜、佑衣子はエイリアンによってUFOの中に連れ込まれ、生体実験をされたらしいんだ。その時UFOの中と灰色のよく言うグレイタイプのエイリアンを妹は目撃している」
「それってUFOに連れていかれた時の記憶はあるのかな」
と都が質問すると波田は腕組しながら答える。
「いや、バンガローで寝て気が付いたらエイリアンがUFOの中で覗き込んでいたらしい。怖くて意識が飛んで、気が付いたらバンガローで寝ていたらしい」
「って事は怖い夢を見たって可能性が高いな」
と結城。だがその時「違うよ」と声が聞こえ、栗色の天然パーマの少女が制服姿で部屋に入ってきた。
 
「凄い、秘密兵器じゃん」
河川敷滑走路の作業小屋の前で波田佑衣子は啓介の人感カメラを見つめる。
「パパの会社の使わなくなったのが物置にあったんだよね。これを仕掛ければ、幽霊が存在するって証拠にもなるだろ。これで女の裸…じゃなくて幽霊がやってくれば、カメラのセンサーが作動して映るって仕組みだよ」
啓介は佑衣子に「女の幽霊が昨日いた場所に立ってみて」と頼み、佑衣子の様子を撮影して「動いてみて」と声をかけ、佑衣子が1人EXILEするのをカメラが感知しているのを確認して「よし」と声をあげた。
 一人開いていた平太は作業小屋の中を何の気もなく覗いてみた。段ボールの上に置かれた水入りのペットボトルが眩しい。
 彼の視界にうつぶせに倒れた人間が赤い液体の中にいるのが入ってきた。彼はしばらくそれをぼーっと見ていたが、脳が全てを把握したとき「うわぁああああああああああ」という悲鳴が、佑衣子と啓介の耳に入ってきた。
 
「おお、阿部」波田直人の自宅の和室で千尋が右手をハイする。
「薮原…ああ、探検部がこの案件に出張って来たか」とクールな阿部京子(15)はため息をついた。そして喋り出す。
「キャンプから帰った後、あの子は私に相談したのよ。おっぱいが凄く痛いって。あの子の記憶の中では宇宙人があの子の胸を凄く調べていたから、多分インプラントされたんじゃないかってあの子は言っていたんだけど」
インプラントって…宇宙人が未知の金属を人間の体に埋め込むって奴だよね」
千尋が言うと阿部京子は「だからあの子の悪夢で全てが片づけられるとも言えないんだよね」と三角の前に制服のまま座り込む。
「一応聞くが、医療機関で調べて貰ったりはしたのか」
結城が聞くと波田直人は「いや、そんなことは」と答えたが、京子は「家族に内緒で、私と一緒に調べてもらったよ」と言って「ええっ」と直人がビックらこく。
「でも特に変なものは見つからなかった。あ、あの子に今聞いたことを問いただしたりしないでね」
と京子は直人に言った。
そういえばあの子がオカルトにハマりだしたのはあの時からなんだよね。自分が見たものを証明するため…なのかな」京子は遠くを見る。
「俺は妹の話を信じるぞ」
直人は頷いた。
「それで、その当事者はどこにいるんだ」と結城。
「今日は仲良しの友達の家に泊まるって言っていたけど、多分例の3人組で女の幽霊を調べるつもりなんじゃない?」
京子が言った直後だった。
「お兄ちゃん!」
突然女の子の声がドアを開ける声とともに聞こえ、直人が廊下に出ると佑衣子が後ろでゼーゼー死にそうになっている男の子2人をケツに「死体…死体…女の幽霊があった場所に死体が」と物凄い目で兄に訴えかけた。
「黒い服を着た男の人が血だらけで、うつぶせになっていて」
眼鏡の少年がごわごわの声で言う。
「結城君。長川警部に電話」
都は言った。結城は少年少女に「場所、何て場所だ」スマホを取り出しながら聞いた。
「私が…昨日、お化け見た場所」と佑衣子は崩れ落ちるように言った。
「って俺たちがさっきまでいたところじゃないか」結城が唖然とする。
「坂東飛行場」
京子はそう言いながら玄関を飛び出していた。
 
 結城がさっき訪問した飛行場までの堤防を上がった時、煙が出ているのが目に入った。遠くでは消防車のサイレンが聞こえてくる。結城が煙の出ている方向に視線を下げると、作業小屋が燃えていた。
「嘘」と京子が結城の横で呆然とする。
「結城君、あとは警察に任せよ」
 都はガラスが完全に割れて炎が吹き上がっている作業小屋の様子を見て、現場保存を諦めた。
 
「死体ですか」
と機捜の刑事が夕闇のサイレンが光る滑走路でメモを取りながら結城に聞いた。
「ああ、俺の同級生の妹たちが見たって言って駆け付けたらこんな状態だったんだよ」
「でも死体は作業小屋から見つかってはいませんよ」刑事が訝し気に聞いた。「本当は君らが火をつけたんじゃないのか」
「何を言っているんだ」結城がイラついていると、「ちょっと目撃者に対して失礼だなー」という女の声とともに、結城の横から警察手帳が突き出された。
「け、警部」慌てて敬礼する刑事。
「長川警部」結城が知り合いの女警部の顔を見ていった。
「おおお、長川警部だ。死体がないのに何でこんなところに」と都がぴょんと飛んできた。
「まぁ、通報者がお前らだという事と、実はシャツを血まみれにした男が堤防を走っていったという通報が2件あってな。一応来たんだ」
「って事は返り血を浴びた犯人が逃走したって事か」結城が驚愕すると長川は「さっき刑事に聞いたところ、通報者の所在も確認され、いたずらではない事は証明された」と伝えた。長川はさらに言葉を続けた。
「そして2件の通報はこの点で一致している。つまり『青白い顔の男が虚ろな目で走って言った』と」
「つまり」
都は黒焦げになった作業小屋を見つめた。
「誰かがこの作業小屋から死体を隠したって事だよ。何かしらの理由があって」