少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

プロジェクトR殺人事件 導入編

少女探偵島都「プロジェクトR」

1

 巨大な台風が人工衛星に観測されている。
—史上最大規模の台風〇号は現在猛烈な勢力を保ったまま小笠原諸島沖合を北北東に進んでいます。中心気圧は…

茨城県常総高校探検部部室
「観測史上最大級ってのはデマらしいな」
長身の青年結城竜はスマホをいじりながら高野瑠奈という黒髪ロングの少女に声をかけた。
「本当にいろんなデマが流れているみたいね。今日も生物の先生がマンボウはすぐ死ぬって言っていたけど、実際は拳銃を撃ち込んでもダメージを受けないくらい分厚い皮膚みたい」
瑠奈が声をあげる。
「あのセンコーの言う事は前々からうさんくせぇんだよ」
結城がため息をつく。
「この前も胎内記憶について熱く語っていたしよ。あんなのあり得るわけねぇだろ。なんで虐待を受ける子供はそんな親を選んで生まれてきたんだよ」
結城はどっかりとパイプ椅子に腰を下ろす。その時探検部の扉が派手に開いた。薮原千尋だった。
「ういーす、都、あら、期末テスト出し切ったみたいだね」
机の上に潰れて昇天している小柄なショートヘアの少女にポニーテールの薮原千尋は言った。
「乗り越えた?」
千尋が都の横で頭をなでている瑠奈に聞くと、黒髪ロングのおしとやか少女高野瑠奈は「なんとか」と苦笑した。
「そっちは?」
「ああ、勝馬君…教室で燃え尽きてるよ。もう脳みそヒートオーバーで冷却に時間かかりそうだわ」
千尋はカバンを置いて座った。
「あのバカ、普段から勉強しとけとあれほど」
結城竜は頭をポリポリかきながら、ふと薮原千尋の顔を見た。
「どうした。薮原、なんか都に相談事か」
「どうして」
「都の様子気にしているようだからさ。なんかこの天然能天気に説いて欲しい謎でもあるのかと思ってな。一応、こんなアホそうな顔でもこいつ、いろんな事件を解決に導いた女子高生探偵だしな」
「結城君の顔だってデーモン小暮閣下に似ているもん。白く塗れば」
都が結城にびしっと指をさしてふくれっ面になる。
「元気になったぞ」
結城が千尋の方を見る。
「ああ、大したことじゃないんだけどさ。昨日うちに変な奴が来てさ」
「痴漢とか?」瑠奈が心配そうに顔をあげる。
「ううん、市の職員。南茨城市で調査をしている小池って人でさ。眼鏡かけた小太りの人だったんだけど…その人がいきなりうちに訪ねてきたのよ」

 住宅公社団地に住んでいる薮原千尋は昨日の休み、部屋でBLを寝転がって読んでいた。するとチャイムが鳴って、
「どちら様」
と玄関越しに尋ねると
「南茨城市の小池と申します。新しい市長の命令で家庭生活のモニタリングを行っていましてね。今ちょっとオタクの資産状況を参考程度で聞きたいので調査してもいいですか」
「市がそんな調査する? 悪いけどうちは両親外食中だしまた後にしてください」
千尋はそういって玄関を離れようとする。
「薮原さん、これは公式な調査です。何なら今から市に問い合わせをしていただいても構いません」

「そういうもんだからスマホで市に問い合わせたんよ。そしたら普通に電番の女の人が、小池は南茨城市のゆめみ野地区に調査に出ておりますって返しがあったわけ。だから私は一応信用して部屋に入れたのよ。で、その小池って眼鏡の人、私の家のリビングのテレビとかノートパソコンとか高級品とか持っていないか調査してたわけ。そしてそれをメモに取っていたんだけど、それを見てみたのよ」
「ほうほう」
結城は千尋を見た。
「そしたらまぁ、『C』と『HA』と『R』って書かれた段落があって、CにはうちのワゴンRが、HAにはPCとか冷蔵庫とかテレビとかゲーム機とかが書いてあったんだけど」
「ま、CarとHome Applianceだろうな」
結城が分析する。
「R…って何だと思う?」
千尋がみんなを見渡す。
「Residenceじゃね。つまり家の広さとか」
「でも書かれていた数字が40と16だったんだよね。で、16に〇がつけられているの。ちょうど私が見ているときに〇がつけられていた。覚えていることはその調査員の小池って奴がすっげー気持ち悪い顔で笑っていた事かなぁ」
千尋はげんなりした表情で瑠奈を見た。
「それって怪しくない? なんか後で泥棒に入るための財産を確認しているみたい」
「私もそう考えてさ。今日はお父さんに言われて愛の家に泊まろうとしたんだけど、愛の家にも来たみたいなんだよね」
「益田愛ちゃん?」
都は探検部の隣の書道部の方を見た。
「そう。やっぱり愛の家にも来てて、同じようにメモを取っていたみたい」
千尋は都と瑠奈と結城を見回した。
「みんなのところにも来た?」
「俺のところは来てねえぞ」
結城は手をあげた。
「私のところにも来てないかな。お母さんにも聞いてみないとわからないけど」と瑠奈。
「私のところにも来てない」都は声をあげた。
「やっぱり、本当に市の人間だったのかな」
千尋はいつもと比べて不安そうだった。
「本当にお前は市役所のサイトにアクセスしたのか」
結城はスマホで市役所のサイトを出して電話番号を翳した。
「私も偽サイトを信じたのかなって思って、このサイトと発信履歴調べたけどやっぱり一致するからさ、多分あの小池って人は市の職員だと思うけど。あああ、どうなっているんだろう」
千尋が机の上で溶ける。
千尋ちゃんがそういうんなら多分それは市の職員さんだったと思うんだよ」
都は言った。
「でも市自体がおかしいことをしているとも考えられるよね」
都は言った。
「あの市長か」
結城はジト目で呆れ声をあげた。
「高橋桜花。元国会議員で『JBCから国民を守る党』の党首だっけ。お母さんがこの人が市長に当選しちゃったことにすっごく呆れていたけど」
瑠奈がため息をついた。
「スラップ訴訟やヘイトスピーチセカンドレイプの常習犯か。秋菜の中学校に来賓に来た時もかなりヤバいことを言って先生マジでビビっていたらしいけど。レイプとかセックスって単語を何回も使ったらしい。まぁあれくらいの年齢の男子はこういう単語に意味もなく大はしゃぎするものらしいけど」
結城は唖然とした声をあげた。
「秋菜マジで怖がっていたよ」
と彼は頭をボリボリかいた。
「その人が私らの所有財産調べて、何をしていたっていうの」
千尋が結城に身を乗り出す。
「反社に情報を売るくらいの事はしかねない。あのねじが外れた市長なら」
「なんで、私の家? 私の家お金持ちじゃないよ」
千尋が目をぱちくりさせた。
「特定の地域でローラーしているのかもしれん」
結城は深刻そうに言った。
 その時
微分積分因数分解…」
呪いの世界から聞こえてきそうな声が、千尋の背後から聞こえてきて「きゃぁあああっ」と千尋が悲鳴を上げた。完全に亡霊状態になった勝馬がよろよろとパイプ椅子に座りこんだ。瑠奈がオロナミンCを開けて飲ませる。
「お前こんな状態で学校中彷徨っていたんじゃねえだろうな」
結城が呆れたように言った。
「あ、勝馬君。そういえば勝馬君の家にも小池っていう調査員来た?」
「ああ」
瑠奈に言われて勝馬夢遊病みたいな表情で瑠奈を見た。
「来ましたよ」
「マジかよ」
結城が勝馬を見た。「どんな奴だった」
「女の人だったよ。結構スタイルが良かったぜ。へっへっへ」
「へっへっへじゃなくって、そいつお前の家で何をしてた」
結城に怒鳴りつけられ、勝馬は目をシパシパさせる。
「どうって普通にテレビとか見て、それから何かメモしていたよ。なし、なしって書いていたなぁ」
「つまり金になりそうなものはないって事か」
結城が考えると勝馬は「悪かったな、俺んちは貧乏で」と憎まれ口を叩いてから、
「だが、『なし』じゃないところもあったぞ。『R』ってところで、43のところにバツ印があって11ってところが〇になっていた」
「よく覚えていたなぁ。唐変木なお前にしちゃ」
「その女の人を病院から一時帰宅していた彩香が怖がっていたからな。これは邪悪な人間の予感がしたんで、覚えていたんだよ」
勝馬は「どうだ」と言わんばかりに結城を見た。
 都はしばらく考えていたが、探検部部室となっている準備室を出て書道部の部室に出てきた。
「愛ちゃん、ちょっと聞きたいんだけど。愛ちゃんの家にも小池さんって来たんだよね」
「うん」
益田愛という大人しそうな少女は頷いた。
「その小池さんってどんな人かな」
「小太りの眼鏡の人。それで私の家でテレビとかお母さんのコスメスペースとかパソコンとかいろいろメモをしていた」
「そのメモにRって段落あったよね」
「うん」
「なんて書いてあった?」
「〇の中に16って書いてあった」
「〇の中に16…千尋の家と同じね。千尋の家には40って数字があったけど」
瑠奈が考え込む。
「小池さんって人なら私の家にも来たよ」
ジャージからして2年生の少女が声をあげる。長髪の気の強そうな少女だった。
「私の家にも〇の中に16ってRに書かれていたし。他に39、14って数字もあったけど」
「韓先輩のところにも来たんですか」
千尋が素っ頓狂な声をあげると、2年生の書道部の韓蘭は声をあげた。
「どんな奴ですか」
千尋が聞くと蘭は「眼鏡をかけた若いイケメンのやせ型の人だったよ。おかしいと思って役所に電話したら小池って人が調査員として聞いて回っていることは間違いないけど」と声をあげた。
「おかしいな」
結城は声をあげた。
「薮原と益田の家に来た小太りの小池A、勝馬の家に来たスタイルのいいへっへっへな女の小池B、そして先輩のところに来たやせ型のイケメンの小池C。3人の小池がいるって事になるよな」
「つまり市民が確かめることを想定して調査員の名乗る名前を小池に統一したって事。でもこれって法律違反じゃない」と瑠奈。
「ああ、公務員法で聞かれたら本名を名乗るのは義務だからな」
結城は考え込んだ。
「でも私はてっきり在日だから調査されているのかと思ったよ」
と蘭はため息をついた。
「同じクラスの朴君にも調査員が来ていたらしいからね。あの市長在日差別繰り返してたし、それでかなって思ったりしてさ。でも日本人にも来てたんだ」
蘭は少し安心したようだった。
「しかし気味が悪いな。一体何の目的で家の財産情報とよくわからないRの情報をあの市長は聞き出しているんだ」
結城は携帯をカコカコし始めた。
「おう、秋菜。今家か。お前小池って市の職員が来ても絶対家の中に入れるなよ」
結城が携帯に電話をしているとき
「やほおおお、愛ちゃん。あ、勝馬さん」
と板倉大樹という勝馬の舎弟が躍り上がる様に部屋に入ってきた。
「お前何なんだよ。たるんでいるんじゃないか」
勝馬さん。俺はバイクの時の特攻服の格好いい文字を書くために愛ちゃんから習字を習う事にしたんですよ」
と大樹はかわいい女の子にマンツーマンで習字を習えることに心をぴょんぴょんさせていた。
「ああ、お前に聞いておくよ。お前の家に小池って奴来てたか。市の調査員の」と勝馬
「来てましたよ」
板倉は朗らかに言った。
「何!」その場にいた全員に視線を注がれて、板倉大樹はたじろいた。

2

「ど、どうしたんですか」
板倉が声をあげた。
「どんな奴だった」勝馬が肩を掴んでゆすった。
「スタイルのいい女の人でしたよ。胸の谷間がエッチだったなぁ。へっへっへっへ」
「Bか」結城は反芻すると「Dはあったよ!」という板倉の抗議をスルーして尋問でもするように結城は聞いた。
「Rにはなんて書いてあった」
「Rはさすがにでかすぎだろう」
「じゃなくて! そのエロい小池さんがメモしていたR欄の内容だよ」と勝馬
「ああ、応対したのは姉貴でした。なんか車も家電も価値なしって書かれて、Rってところだけ〇されたって喜んでいました。確か数字の21に〇がついていましたねぇ。何の21なんだろう。まぁ、うちには泥棒に知られて困る財産なんかないんで気にしませんけどね」
 その時後ろで考え事をしていた都は突然頭に何かを走らせた。
「ねぇ、みんな。聞きたいことがあるんだけど」
都は全員を見回した。
「なんでみんなRの数字を覚えているの?」
「ん?」
結城がいぶかし気に都を見た。
「だってクイズ番組じゃないんだし、みんなが調査員のメモのRの数字を覚えているなんておかしくない?」
「ああ」千尋は安心してと言わんばかりに言った。
「私の場合は40と16が私とお母さんの年齢だから覚えていたのよ」
「俺もですよ。お袋と彩香の年と同じでしたからね」
「え」
板倉大樹が声をあげる。「俺は姉貴の年齢と同じだなって覚えていたんですけど」
「韓先輩にはお母さんと妹さんがいるんですよね」
都にじっと見られ、韓は真っ青になって頷いた。
「私はお母さん、小学生の時に亡くなっちゃったから」と益田愛。
「つまりあの数字はこの家の女の家族の年齢を意味していたって事か。でもあの〇とか×って…俺のお袋はなんで×を付けられたんだ」
勝馬が焦りだす。「まさか殺されるんじゃ」
結城は焦る勝馬を見た。勝馬の母親はまぁイメージ通りのジャイアンママタイプのお母さんで、勿論会えば勝馬の父親が惚れるのも無理もない凄いいいひとなのは間違いないが、女をもの扱いするようなクズには悪い評価を一方的にされたのだろう。一方で千尋の母親は兄貴の年齢からすれば40はいっているはずだがかなり若く見える。問題は勝馬の妹の彩香だ。まだ11歳だが5年生ともなれば体は少しずつ女の子らしくなってくるころだろうし、そういう年齢の女の子が好きな変態がこの世にいることは結城も知っている。千尋も愛も蘭も多分かわいい部類に入るだろうし、つまり見た目による評価なのか。随分と自分でも嫌になる思考から頭を背けて都を見ると、都は勝馬を落ち着かせようとぎゅっと腕を掴んでいる。
「問題はなんで千尋ちゃんと愛ちゃんと勝馬君と板倉君の家に調査員が来たかなんだよ。勝馬君と板倉君と千尋ちゃんと愛ちゃんが一緒にいた事って最近あった?」
「そういえば市長選があった1か月くらい前かな」
千尋が思い出した。

 駅前のロータリーで
在日朝鮮人はこの街から追い出し本当の愛国者に全てを還元する社会にします」
とわめく高橋桜花という脂ぎった51歳の親父に、「うるせえよ。公共の汚物‼」と千尋が叫んで横断歩道を渡ろうとすると、突然女子高生を高橋桜花の運動員が国家社会主義的な色と形のジャージで千尋を取り囲み「演説妨害だ」「私人逮捕だ」と掴み倒し、いきなり胸を揉もうとしてきたのだ。益田愛が「やめてください」と千尋を助けようとして突き飛ばされ、その瞬間をマクドナルドから出てきた勝馬と大樹が見てしまったのだ。あとは横断歩道で大げんかである。双方とも通報を受けた警察署でたっぷりと絞られた。結局厳重注意処分だったが、勝馬に対して声を上ずらせビビッている高橋代表の姿が動画サイトYouTubeにアップされ、滑稽に反対派に取り上げられたのだ。

「その時の縁で今板倉の奴は益田に習字教えてもらって喜んでいる訳か」
結城はため息をついた。
勝馬君、あのまま行けば停学食らいそうな暴れ方してたし、大変だったんだから」
千尋が益田愛と顔を見合わせた。
「韓先輩と朴先輩か…2人は多分在日コリアンだから調査の対象になったんだろうな。あの市長の公約が、在日朝鮮人を市から追放…」結城は韓を見た。
「信じらんない」
韓蘭は腕組をして教室の外を見た。
「それにそれとその家族の財産と女を把握する事に何か意味があるの?」
「大ありかもしれません」
瑠奈が突然声をあげた。
「瑠奈ちん?」
都が瑠奈を見上げる。
ルワンダ大虐殺って事件が25年前にあったの、知ってる」
Twitterデマとかヘイト発言とかが問題になるたびに、それが大爆発して何十万人もの人間が殺された事例として、よく上がるな」
結城は瑠奈に言った。瑠奈は頷いてから言葉を続けた。
「あれはラジオで扇動された一般市民が虐殺を始めたってイメージがあるんだけど、実はそうじゃないの。本当は虐殺に市民を参加させるために周到に計画が練られていたって言われているの。そして虐殺を扇動する人が虐殺される人から財産を奪えるように、その人の資産や家族の中で綺麗な女性や女の子をリストアップするようなことが行われたらしいわ。そして虐殺者は無理やり普通の人を虐殺に加担させながら、自分たちは確実に殺される人から財産や女性を奪っていった…」
「ちょっと待って…じゃぁ何か。あのメモに書かれた『R』って」
結城がひきつった声をあげると、瑠奈は結城を見てはっきりと言った。
「Rape(レイプ)」
「今の市長がこの南茨城市で虐殺を再現しようとしてるって事?」
千尋が瑠奈に聞いてから、一人でさらに言葉を続けた。
「でも市長がこの日本でこんなことをしたら、捕まるでしょう。そうしたら死刑になっちゃうよ。警察が止めに入って終わりじゃない?」
「いいや」
結城は声をあげた。
「日本でも外国人やそれっぽい人を大量に虐殺した事件が関東大震災であった。大きな災害の時にみんなが『朝鮮人に井戸に毒』とかデマを信じて自警団を組織。朝鮮人やそれっぽい人を次々に殺していって、何千人も虐殺されたんだ。今だって熊本の地震の時にライオンが逃げたとかいう下手糞などう見ても日本じゃないコラージュにみんな騙されただろう」
「虐殺事件を起こすなら、多分今からくるこの台風を利用するよね」
都は言った。
「あの台風で市長自らが在日外国人が暴れているとデマを流して、災害で混乱している中で自警団を組織するように言う。そして市民が混乱している間にリストアップした人たちを実際に殺して、市長や市役所の情報に踊らされたみんなが殺人に加担するようになる。災害の時ってみんな不安になっているはずだし、トップの人の言うことをみんな聞くことでしか安心できなくなる事ってあるみたいだしね」
「うそでしょ」
千尋と愛が真っ青になった。
「都さん、嘘ですよね。こんな台風の中で…こんな、令和の時代に虐殺なんて…嘘ですよね」
「大丈夫…」
都は言った。
「今の推理を私長川警部に伝えるから…。警察も災害デマには十分注意しているし、長川警部だったら捜査一課を動かして…何とかしてくれる」
都はしっかりとみんなの目を見た。

「都」
結城竜は島都と一緒に暗い住宅地を帰った。電灯が等間隔で並んでいるがそれが広すぎるため道はほとんど真っ暗だった。
「長川警部に通報って…どうするつもりだ」
結城は声をかけた。
 台風の前か、生暖かい空気と風が夜道をさらに不気味にしている。
「今の段階だと市役所の職員となる奇妙な連中が在日コリアンや市長の反対者の家で財産や女性の状況を確認していたってだけの話だ。しかも現段階では公式な市の調査になっている。Rの意味にしたって現段階では証拠はないんだ」
「うん」
都は前を見て頷いた。
「まぁ警部ならお前のよしみで動いてくれるかもしれない。でもこの問題が本当ならば捜査一課の一班でどうにかなる問題じゃないぞ。この台風が来るまであと48時間もねぇ。虐殺をどうやって止めるんだよ。長川警部が」
結城竜は都に声をあげた。
「そんなことより、勝馬や薮原や益田とか板倉だけでもこの市から逃げるように言うしかねえだろ」
「それは勝馬君や千尋ちゃんたちが決めることだよ」
都はまっすぐ見て、そしてにっこり結城を見て笑った。
「大丈夫! 明日までには絶対いい方法を考えるから」
「都…」
都の家の前で結城は脱力したように言った。
「じゃぁ、結城君。明日また起こしに来てね」
「自分で起きろ」
結城はそれだけ言うと自分のマンションに歩き出した。都はそんな結城を見送った。
 その時だった。何やら風鈴のような鈴の音が聞こえてきた。都はその音に振り返った。
 結城の歩いて行った方向とは逆の方向に歩いて行った。鈴の音は暗い夜道でどんどん大きくなっていく。

 茨城県警捜査一課。水戸市—。
「はい、もしもし」
黒いスーツの長川朋美警部は捜査一課の班長のテーブルで携帯をとった。
「都か…どうした」
—岩本君が…。
友人でいくつもの事件を一緒に解決してきた女子高校生の震える声が聞こえてきた。
—岩本君が…目の前に…。
「なんだって!」
女警部は前のめりになり、女子高校生探偵に叫んだ。