少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

名探偵コナン「不確定要素殺人事件」

名探偵コナン「不確定要素殺人事件」

1

「ぎゃぁあああああああっ」
夜の岸壁の水面で若い女性が凄まじい悲鳴を上げて暴れまわる。月明かりに照らされた水面には赤い花のような液体が広がり、やがて女性は水面下に沈んでいった。その後恐ろしい背びれが水面を走っていく。
「お前が…お前が悪いんだ。俺を束縛しようとするから」
眼鏡の背広の男大河原伸が岸壁の上から声を震わせていた。

炎天下の茨城県鹿島灘海水浴場。
「すっげー、綺麗だな」
「わーい、泳ごう」
少年探偵団の子供たちは大はしゃぎで博士のビートルからビーチに走っていく。
「博士、ロボット理論の学会はどうだったんだ」
コナンが博士を振り返ると阿笠博士
「なかなか上々じゃったわい。特に熱探知ドローンは災害救助の面からかなり聴衆の食いつきは良かった。何よりロボット工学では日本最先端のつくばで発表出来たんだからな。これも哀君のプログラムのおかげじゃわい」
「で、その時のレセプションパーティーでメタボらないためにお前までついて来たってわけか」
コナンはジト目で後部座席から出てきた灰原哀を見た。
「放っておくとすぐに肉ばかり食べるでしょう。こうやって人があまりいない海岸で海鮮料理を食べるのが一番だわ」
「何言ってるんだよ。こんな格好で」
サポーター姿の灰原の姿をコナンはジト目で見る。
鹿島サッカースタジアムで比護の雄姿を見るのが、メインイベントなんだろ」
「うるさいわね!」哀が声を張り上げた。
「いい。ちゃんと横断幕を広げて、心を込めて応援するのよ。分かっているわよね」
その時、「えええ、なんだよーーーー」と元太の不満そうな声。日焼けしたTシャツの兄ちゃんと対峙している。
「駄目だって言ってるだろ。今日は遊泳禁止だ。サメが出ているんだからな」
「サメかね。鹿嶋灘では珍しいのう」
博士が若者の北谷勝馬、16歳に声をかける。
「3年前には何十匹もドローンで確認された。メジロザメの仲間で体長は4メートルはある奴も確認されたからな。今日も沖合数百メートルででかいのが泳いでいたからな」
その話を聞いてコナンは考えた。
メジロザメで4メートルクラスになるとオオメジロザメの可能性が高いな。確か蘭や園子を襲った海賊船事件のサメも…。お前ら、諦めて帰るぞ。凶暴なサメの餌になりたくないだろ」
「ええええ」
歩美が残念そうな声をあげる。
「サメに人が襲われる可能性なんて交通事故の何百分の一ですよ。そうそうある事じゃ」
「きゃぁあああああっ」
10代の女の子の悲鳴が聞こえる。波打ち際に何か肉の塊が転がっている。
「どうしたんだ」
近づこうとする元太にコナンは怒鳴った。
「近づくな!」
そしてゆっくり波打ち際で転がっている胴体が引き裂かれた死体を見た。
「こいつは…人間の死体だぜ」

茨城県警鉾田警察署。
 コナンは博士の事情聴取を待っている間、警察署のロビーにスーツの女警部が入ってくるのを見た。
「あれは県警本部の刑事課か?」
「気になるのかしら」哀がコナンを見る。
「ああ、サメに襲われた事故で県警の刑事課が来るのは腑に落ちないからな」
コナンは女警部が入っていった事務室の扉の隙間から眼鏡から取り外した盗聴器を中に弾く。
「やはり佐々木エミリで間違いないか」
女警部が所轄刑事に聞く。
「ええ、しかし事件性はなさそうですね。死因はサメに襲われたことによる失血死ですから」
所轄刑事は報告書を手に女警部に聞いた。
「つまり生きたままサメに襲われたと」長川はため息をついた。
「はい、死亡推定時刻は長時間海水にあって正確な死亡推定時刻は出ませんが、24時間は確実に経っていません」
「少なくとも昨日の夜12時までは生きていたよ」
女警部はため息をついた。
「この女は石岡市で発生した女子大生殺人未遂事件の被疑者として私らが追っていた人間で、警察のNシステムで先日別れた夫の大河原伸と土浦市で会っていた事が判明している。だが、私らが現場に急行した際には姿を消していて、15時間後にはこのざまって事さ」
そこまで盗聴した時だった。突然コナンは後ろからガバッと抱きしめられた。
「うわぁああっ、かわいいねぇーーーー。近くで見ると。げへへへ」
中学生くらいだろうかTシャツにハーフパンツのショートヘアの美少女がぎゅっとコナンを捕まえて後ろから持ち上げた。
「うわぁああっ、おお、お姉ちゃん放してよ」
バタバタしながら咄嗟に子供の演技をするコナン。だが少女はコナンを捕まえながら会議室の扉を平然と開けた。
「長川警部、ちょりーーーーす!」
少女の元気な掛け声に、長川警部は「ああ、都か」と平然とした声をあげた。
「で、ぬいぐるみみたいに抱えている男の子は」
「あんまりかわいいから抱っこしているんだよ。凄いんだよ。眼鏡のこの部分を取り外して」
都という少女は床から眼鏡の盗聴器を拾い上げて「あー、あー」と声をあげると、やべーと歯を見せるコナンの前で「声が眼鏡本体から聞こえる仕組みなんだね」とにっこりっ笑った。
「捜査のやり取り盗み聞きしていたのかよ」
長川警部がビックらこくが、コナンは「あ、あ、あ」と子供っぽくジタバタするしかなかった。
「子供っぽい演技なんて俺らの前ではする必要はねえぜ」
背後から精悍なイケメンの青年が現れた。
「結城君」と都がにっこり笑いかける。結城君は冷静に都の笑顔を受け流し、コナンを見た。
「お前が毛利小五郎って名探偵を操っていることはとっくにこの前のテレビ中継でこいつが見抜いていたよ」
とドングリ眼の小柄な少女を結城は指さした。都がでへへへへと笑う。
「別に俺らは驚かねえ。こんなアホ面の女の子でも茨城県じゃ有名な女子高生探偵なんだから」
結城は都に下ろされたコナンに言った。唖然とする所轄刑事に女警部の長川朋美はウインクしてから都に「勝馬君は、廊下のソファーで死体見てグロッキーになってるよ」と廊下を指し示し、結城君は「ち、しょうがねえなぁ」と歩いて行った。扉が締められる。
「長川警部が来るって事は、この事件が殺人事件かもしれないって事だよね」
と都。
「ああ、だがらこれから土浦市に住んでいる被害者と最後に会っていた人物に会いに行くんだが…都も来るか?」
「あああああああああっ」少女は素っ頓狂な声をあげた。
「今日は霞ケ浦で秋菜ちゃんも参加するカヤック大会だった。コナン君のお友達いるよね。コナン君のお友達の黄色い車に乗せてもらってちょっと行ってくる」
都はそう言うと唖然とする長川警部を置いて部屋を出ていこうとする刹那
「私の代わりにコナン君を連れていってね!」
と声をかけて走り去った。
(おいおい、いいのか)コナンがジト目で笑う。

 大河原伸はアパートで頭を押さえていた。テレビでは女性がサメに襲われて遺体が鉾田市の海岸で発見されたとニュースでやっていた。
―被害者の遺体には海洋生物の噛みあとがあり、鉾田市海域に出没しているサメなどがかみついた可能性も―
「くそ、俺が悪いんじゃない。殺すつもりなんてなかった。あの女を突き飛ばしたら、まさかサメに襲われるなんて思っていなかったんだよ」
言い訳のようにぶつぶつ言いながら頭を抱える大河原。その時部屋のチャイムが鳴った。
「すいません、大河原さん。警察です。ちょっとお話を聞きたい事がありまして」

 暗いアパートで大河原はちゃぶ台の向こうに座る女警部と眼鏡の子供に茫然としていた。大河原は筋肉質の精悍な20代の男だった。
「あの、この子は」
「すいません、夏休みの自由研究だそうで」
「はぁ」
(おいおい、捜査情報を自由研究にされたらどうするつもりだ)コナンが心の中で突っ込みを入れる。
「実はニュースで報道されているように殺人未遂の被疑者が鹿嶋灘でサメに襲われて死亡する事件がありまして。一応あなたは昨日の夜亡くなった佐々木エミリさんと会っていますよね」
「ええ、昨日の夜12時まで」
「会った理由は何ですか。あなたは土浦駅の改札口で佐々木さんと会っています。その後どこでどんな話をしていましたか」
土浦駅東口周辺をブラブラしながら、あの女…元々働いていた介護施設の上司だったんですが、僕と同じように仕事を辞めたアルバイトの女子大生の女の子に毒入りクッキーを送ってやったと当てつけのように言いに来たんです。そして仕事に戻ってくれないと今度はお前を殺してやるとナイフをチラつかせてきました」
「それで、どうしたんですか」
「僕は仕事に戻ると言って納得してもらいました。その後は知りません」
大河原は言った。
「ねぇ、その時なんで警察に通報しなかったの」
コナンが聞くと大河原は「面倒事には巻き込まれたくなかったんだよ。刑事さん。あの女はサメに食われて死んだんでしょ。土浦市は内陸都市で海まで50㎞はありますよ。あの女が生きたままサメに食われて死んだのなら、僕は彼女を鉾田市の海まで生きて運ばなくちゃいけませんよね。でも僕はあれからすぐコンビニの仕事に入って、彼女の遺体が見つかるまでずっとバイトをしていたんです。15時間ぶっ通しでね。監視カメラを確認すればいい…つまり僕に彼女を生きて海まで運ぶことは出来なかったわけですよ」

「確かに」
コンビニで防犯カメラを確認しながら長川警部は店長を見た。
「あんた、労働者を許可なく15時間ぶっ通しで働かせるの法律違反だぞ」
「彼がバイト不足の私を助けたいと名乗り出てくれたんですよ」
と兵頭店長が声をあげる。
「だが、あんたにはそれを拒否する義務があるわけだ」女警部はカメラを見ながら言った。
「こりゃ、完全なアリバイだな」
コンビニの前で長川警部はコナンを見た。
「さてコナン君。これで大河原さんのアリバイは完璧だったわけだが…」コナンを車の助手席に乗せながら、自分は運転室に座って、「君は彼の無実を信じるかい」
「えーーー、それは無理だよ」コナンは言った。麗敏な彼の知性は長川警部に試されていることを感じていた。
「だって、もし佐々木さんが殺されていなければ、大河原さんは無理やり前の職場で働かされていたんだよ。しかもやめた従業員を襲って回る様な危ない上司さんのところで」
子供っぽい口調で矛盾点を指摘する。
「それに亡くなった理由が溺れたのではなくてサメに襲われ殺されたことを知っていたのも変だよ。だって海で溺れて亡くなった可能性もあるわけだし。サメに襲われて人がなくなるのって日本では5年に1回くらいだもん」
とコナン。
「私もあいつは黒だと思う。佐々木は車なんか持ってはいないし、土浦から鉾田に出るバスもない。電車で利用したとすると絶対警察のサイバーに引っかかるはずなんだ。駅には鉄道警察のカメラがあるしな。だが佐々木は土浦駅で降りたのは確認されているが、そこから列車には載っていない」
長川警部はハンドルを手に考え込んだ。
「この土浦で大河原に何かされたんだ」

2

「長川警部って…何かアリバイトリックを疑っているの」
コナンは敢えてキョトンとした口調で聞いてみる。
「いや、それもわからないんだ」
長川は車の中で考え込む。
「今回のアリバイはサメが人間を生きたまま襲って成立しているアリバイだ。だがサメが人間を襲う可能性は偶発的で、たとえ何かトリックがあって彼女を大河原が海に連れていって突き落としても、彼女がサメに襲われるとは限らん。溺死とかなら風呂にいれた海水で溺死させるとかがあるんだが…」
「まぁトリックとしては不確定だが土浦駅のすぐ東は霞ケ浦だから…そこから生きたまま浮き輪で流して、利根川通って銚子まで流されてサメに襲われて…って方法もあるかもだが」
霞ケ浦は日本第二の湖、流れは緩やかで15時間で銚子市の河口まではいかないし、間には水門だってあるよね」
コナンはそう指摘する。長川もその矛盾点は分かって言っていたらしく、ため息をついた。
(確かに警部の言う通りだ。今回の事件の大河原さんのアリバイは被害者が生きたままサメに襲われるという日本ではめったに起こらない事態によって成立させている。仮に大河原さんが何かトリックを使って被害者を海に運んだとして、生きたままサメに襲わせることが出来るのか。なおかつ遺体が発見されるとは限らないし…。勿論大河原さんが無理やり長時間バイトのシフトを入れたのはアリバイ作りの為だろう。しかし鹿嶋灘にサメが出るという不確定事項を計算に入れて、土浦から鉾田まで瞬間移動するトリックを仕掛けるだろうか…何かあるぞ。この事件。俺の想像を超える様な別の要素が…)
考え込むコナンを見て長川警部は目をパチクリさせた。そして
「君、本当に都みたいな探偵だな」
と感心した声を出した。
「あ…その…」
「かーーーっ」長川警部は頭をボリボリ掻いた。
「らしくねえのは都だな。君に推理を任せて自分はよりにもよって君の保護者と一緒にカヤック大会見物。ま、友達が出る大会なのはわかるけどよ」
その時、コナンは目を見開いた。
「長川警部! その都お姉ちゃんに連絡を取って」

 ビートルは大会が行われる湖畔に停車した。周辺は親水公園になっている。
「博士。博士ってつくばロボット学会のドローンを持っているって言ったよね。あれをちょっと出してくれないかな」
と都。
「おおおお、ドローンで撮影するのか」
「いいですねーーーーーー」
とはしゃぐ子供たち。しかし灰原は乗り気ではなかった。
「駄目よ。この大会はドローン撮影は禁止されているわ。早く降りて博士は私をスタジアムに連れてってくれないかしら」
「禁止事項は守らなくちゃいけないけど」
都は言った。
「人の命がかかっているんだよね」
彼女の笑顔に哀も思わず呆気にとられた。
「都…携帯が鳴っているぞ」
結城君が都の横で声を出すと、都は「長川警部だ」と電話に出た。
「そろそろ、電話が来ると思ってたよ」

 もうすぐ出場という事で、中学2年生の結城秋菜はワクワクしていた。そんな時だった。突然アナウンスがなされた。
「ご来場の皆様に申し上げます。先ほど、茨城県警の要請により、誠に勝手ながら、霞ケ浦ジュニアカヤック大会は、中止とさせていただきます」
「ええええ、嘘だろ」
「何があったんだよ」
抗議の声が上がる中、突然低空飛行で県警のヘリが市民の上をかすめていった。ヘリから身を乗り出す特殊装備の隊員と手にしたライフルが一瞬秋菜にも見えた。
「あれ特殊部隊じゃね」
「え、テロ? 無差別殺人」
不安そうな声が秋菜の周囲から聞こえてきた。ヘリコプターは湖の上で旋回し、突然銃声が響き渡った。

 茨城県警土浦署。再び任意同行された大河原伸は、目の前に現れた女警部と髭に眼鏡の博士を見た。
「貴方が大河原伸さんかね」
「ええ。今度は一体何の用ですか」
大河原は声をあげた。
「貴方がどうやってサメのいる水中に被害者を突き落として死に至らしめたのか。そのアリバイは崩れましたぞ」
「アリバイが崩れた? 僕は彼女と会ってから遺体が見つかるまでずっと土浦市のコンビニでバイトしていたんですよ。この内陸市に住む僕がどうやって佐々木さんを海に連れ出してサメのいる海に突き落としたんです。どんなトリックが使われたんです」
「トリックなんて使われていないんじゃよ」
阿笠=コナン変声機の声が鋭く光る。
「この事件のあんたのアリバイは偶発的な事例で成立している。あんたが仕掛けたアリバイトリックを崩そうと考えた時、この不確定要素が大きな障壁となった。完成度の高いアリバイトリックは偶然なんか利用しないというのが定石じゃからな。じゃが、発想を変えればいいんじゃ。この事件はアリバイトリックなんて仕掛けられていない。全ては偶然の産物なんじゃ。あんたはその偶然を利用して後付けで自分のアリバイを作り上げたんじゃ」
「意味が分かりませんが」という大河原に阿笠の声は続ける。
「あんたは土浦駅すぐの湖畔の公園で被害者トラブルとなり、思わず湖に突き落としたんじゃ。恐らく正当防衛に近い状態だったし、咄嗟の事でアンタに殺意はなかった。まさか突き落とした内陸都市の湖に大きな人食いザメがいて、それが佐々木さんを湖面に引きずり込むなんて、あんたも想像できなかったんじゃろ」
阿笠の声に大河原は茫然と立っていた。
「じゃが、いたんじゃな。霞ケ浦に全長4メートルの人食いザメが。そのサメは餌にありつけると学習したんじゃろう。再び霞ケ浦に入り込んでおった。カヤック大会が行われる淡水湖のすぐ近くにな」
「サメは海にいるものでしょう。霞ケ浦は淡水湖だ。サメなんて」
大河原の反論に阿笠の後ろでコナンは言った。
「それがいるんじゃよ。凶暴でかつ淡水にも耐性があり、アメリカでは川を何千キロと遡上し、人的被害を出しているオオメジロザメという種類じゃ。日本では沖縄の川でオオメジロザメが遡上して、那覇の繁華街の川で吊り上げられる事件も起こっているが、本州ではオオメジロザメ自体いないと考えられておった。ところが猛暑の影響か2015年に鹿嶋灘で4メートル級のメジロザメが多数確認された。メジロザメ科は外見から見分けるのが難しいと考えられておるが、4メートル級となるとオオメジロザメの可能性が極めて高いと言われておる。そして淡水に耐性を持つオオメジロザメ利根川などの大河を通って霞ケ浦のような大きな湖に侵入する事も理論的には考えられる。とはいえ今回の事例は本州の河川にオオメジロザメが侵入した初めての事例で、淡水におけるサメの死亡事故としても初めての事例じゃ。もっとも海外ではオーストラリアや南米で川でサメに襲われて死傷する事故はおこっているようじゃが」
長川が説明を引き継ぐ。
「ここんところ記録的な猛暑で水温があり得ないくらい上がっているからな。霞ケ浦で明らかに人間を狙って泳ぐオオメジロザメをこのなんでも博士が開発したドローンが見つけ出してくれたはいいが、霞ケ浦の漁師さんに人食いサメを仕留める装備も経験もなかった。ほとんどの漁師はシジミを養殖しているからな。そこで駆除したイノシシの血を川に流してサメをおびき寄せ、上空から特殊部隊がライフルで仕留めた。人的被害に関与した事が考えられるからな。今オオメジロザメの遺体を解剖した結果。未消化の人体組織が見つかり、佐々木エミリさんのものと断定されたよ」
女警部に理詰めされ、大河原は観念した。
「殺すつもりはなかったんです。あの女が襲ってきたから思わず湖に突き飛ばして…まさか湖にサメがいるなんて…。正当防衛だったんですよ」
慟哭する大河原に長川は「それなら何でそう言わなかった。我々だってあの女の所業は知っていたし、事情をちゃんと話せば起訴される事はおそらくはなかった。あのサメでもう少しで子供たちに犠牲が出ていたかもしれないんだぞ」とため息をついた。
「あのサメは遺体を食らったまま、海と霞ケ浦を往復しておった。サメは最近学習能力があると判明しておるからのう。間違いなく霞ケ浦で人間を食べようとしていたのじゃ。カヤック大会が中止にならなければ、子供たちに被害が出ていたかもしれん」
と阿笠。大河原は座り込んで慟哭した。
「あの女が怖かった。働いている最中も物凄いハラスメントを受けて…意味もなく首を絞められたりスタンガンあてられたり、母を職場に呼び出され、その前で裸にされてひたすら蹴られていた事もありました。母と泣いて上司に謝りました。給料も100万円以上恐喝されました。包丁で体を切られた事もありました…。仕事をやめようものなら追いかけてきて殺そうとまでしてきて…昨日もあの女呼び出しに応じないと僕の妹に危害を加えると言ってたんです。あの女なら本当にやりかねないと思いました。…事情聴取されて…あの女が会話に出てくるのさえ怖かった。だから知らないと言ったんです。本当にすいませんでした!」
苦渋の表情で大河原は頭を抱えた。

 警察署の廊下でコナンに向かって拍手している少女がいた。島都だった。
「凄い、コナン君。今回もコナン君の凄い推理が光ったね」
都が言うとコナンは不敵な笑顔で都を見た。
「嘘つき」
「ほえ」目をパチクリさせる都にコナンは言った。
「都姉ちゃんは鉾田警察署で可能性にたどり着いた。だから犯人捜しは僕に任せて、霞ケ浦ジュニアカヤック大会に向かったんだ。犯人捜しよりも人の命が都姉ちゃんには大切だったんだよね」
「ふふふふ、じゃあね。今度はいっぱいむぎゅーってさせてね」
「それは遠慮しとく」
コナンは苦笑して結城君が待つ廊下に歩いて行った。

「哀ちゃーん。元気出して」
心配そうに後部座席に倒れ込み目が点になって昇天している哀に歩美が言う。
「比護さんの試合に行けなかったのが辛かったんですね」と光彦。博士も元太も困り果てている。
「こりゃダメだ」
コナンは苦笑した。

おわり