少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

殺戮湖畔殺人事件❹

 

7

 

【容疑者】

小柳慶喜(36)もみの木教会教祖

石橋祐輔(35)信者。会社員。

石橋秀子(33)信者。石橋の妻。

古市淑子(47)信者。

古市寛子(15)古市敏子の娘。

小沢智弘(58)少年自然の家管理人。

飯田由利(22)少年自然の家スタッフ

車崎誠太郎(31)少年自然の家スタッフ

 

 

 

「あ、都…」

女子部屋でベッドから起き上がった瑠奈が都を出迎えた。

「お邪魔しまーす」と結城。

「御厄介になります」と勝馬

「瑠奈先輩本当にごめんなさい。私の為に」

秋菜が頭を下げた。瑠奈は笑顔で秋菜に言葉をかける。

「秋菜ちゃん。秋菜ちゃんが私の立場で、都がこんな感じで謝ってきたら、どんなふうに思うかな」

「え、全然師匠のせいじゃないって思います」

秋菜が顔を真っ赤にして言う。

「それと一緒!」瑠奈は笑顔で言った。都が秋菜の肩を揉みながら「ふふー」と笑った。

「で、何で清く正しい女子部屋にむさくるしいのが2匹いるの? 状況柄仕方がないけどさ」

千尋はそう言いつつスナック菓子類を床にばらまく。

「お前の腐乱臭を緩和しているんだよ」と結城はポッキーを開ける。

「で、都…お前みんなに重大発表があるだろ。犯人について」

結城に促され、都はみんなに都は断言する。

「犯人は内部の人間。あの6人の中にいるよ」

全員の目が見開かれる。

「どうしてですか!」と秋菜。

「泥だよ」

都は言った。

「玄関やロビー、勝手口の泥を調べていたんだけどね。泥がほとんどなかったんだよ」

「そりゃ、泥落としがあるもん」と千尋

「犯人が森の中に潜んでいる殺人鬼だとして」都はスナックのタケノコをかじる。

「そんな犯人がわざわざ泥落として行儀よく泥を落としてから、秀子さんや古市さんや瑠奈ちんを誘拐する…そんなことをすると思う? それに少なくとも泥を落としたとしても完全には落としきれないはずだよね。だけど瑠奈ちんを誘拐した犯人の足には泥は全くついていなかったんだよ」

「!!!」結城は目を見開いた。

「ちょっと待て。それって」

「犯人はあらかじめ古市さんを炊事場に誘拐しておいて、改めて瑠奈ちんを誘拐しに戻ったわけじゃないって事だよ」

都は言った。

「多分古市淑子さんは犯人に言われて自分から炊事場に行ったんだよ。得体のしれない殺人鬼ではない、顔見知りにね」

「でもちょっと待ってください」

秋菜は言った。

「いくら顔見知りに言われたからって、森の中で一人殺されている状態で森の中にフラフラ歩いていきますか?」

都は秋菜に頷く。

「それは私も気になっているんだよ。古市さんだけじゃない。教祖も古市さんの娘の寛子さんも人が殺されているのに誰にも言わないで一人で森の中に入っていった。次は自分かもって思って怖がっているのは殺された秀子さんの夫の石橋祐輔さんだけ」

「何かあいつらにはもう一段階秘密があるんだな。あいつらには」

結城は思案した。

「そのことなんだが」

勝馬がおずおず声を上げた。

「寛子さんが言っていたんだが、あの髭の教祖、どうも瑠奈さんに手紙で呼び出されたみたいなんだ」

「え、何のこと?」

と瑠奈がびっくりして目を見開く。「私、そんな手紙出していない!」

「あ、手紙に瑠奈さんの名前が書いてあっただけで、瑠奈さんが書いたと言っているわけじゃ」

勝馬は手を振った。

「それ、本当か!」結城が確認する。

「あ、ああ…寛子さんが言うには、その教祖、手紙を読むとルンルン気分で部屋を出て行ったらしい」

「キモ」千尋がジト目で言う。

「となると誰かが高野の名前で奴を呼び出したんだな」結城は考え込んだ。そんなやり取りを島都は目をぱちくりさせながら見ていた。

「あの教祖、瑠奈さんを狙っていましたからね。多分それで大喜びで何も考えないで森の中に入っていったんだ」

勝馬は憤りを感じる。

「犯人はこの教祖も殺すつもりだったんだな」

「『も』じゃねえ。『を』だ」結城は言った。

「犯人は教祖をおびき出すときに高野を利用しようとしたんだ。だが高野を誘拐する時に都たちに見られてしまった上に、炊事場でどういうわけだか炊事場にいた古市淑子に遭遇。そして彼女を殺害した。それを俺と都に現場を押さえられたがために逃亡。その時遭遇した教祖を殺そうとしたが、教祖は湖に飛び込んで助かったって訳か」

「そういえば」勝馬はふと思い出した。

「寛子さんの母ちゃんは何か気に入らないことがあると『自殺する』とか言って外に出て行ってしまう事があるみたいなんだ」

「そうだとしてもいくら何でもこんな殺人鬼がいる森に出ていくとは思えないが」

結城が考える。

「いやわからないよ」千尋が窓の外を見る。

「ああいう毒親って、誰かを心配させたりすることに物凄い快感を感じるクソメンヘラな奴がいるらしいからね。殺人鬼が潜む隔絶された場所なんて、最高の舞台装置なんじゃないかな」

「そういうもの…ですか」と勝馬

「あの子、あれは完全に噓泣きだった。顔覗き込んだときニヤついているのを見ちゃったし」

千尋の言葉に秋菜が「それ完全に犯人なパターンじゃないですか」と目を見開く。

「本当に犯人かはわからないけど、あの毒親から解放されたがっていたんだろうね」

千尋は呟く。

「他に疑問点はないか、都」

結城が聞くと都は「あるよ」と言った。

「車崎さんが私たちに見せた血まみれの斧。犯人はなんで捨てたんだろう。第二の事件で古市さんをめった刺しにしたのはナイフだった。第一の事件と第二の事件で犯人はなんで凶器を変えたんだろう」

「それは瑠奈を誘拐するのに邪魔だったからだろう。あんなデカい凶器を持って人さらいなんて出来ないしな」

と結城は指摘する。

「それならなんで第一の事件では斧を使ったのかな」

都は思案する。

「斧なんてどこかに隠しておくのも大変だし、わざわざ第一の事件で斧を使う必要があったのかな」

「それに石橋秀子が森に呼び出された理由もわからんしな」結城は都を見る。都は既にレインコートを着用していた。

「また外に行くんですか」

と不安そうな勝馬

「大丈夫だよ。森の中に殺人犯なんていないから」

都は力強くうなづく。

「じゃぁ私たちは6人の容疑者のアリバイが本当に成立するのかもう一度考えておこうか」

瑠奈は笑った。

「そうですね。共犯関係とかそういうのを突き詰めれば何かしら出来そうな人間が出てきそうな気もしますし」と秋菜。

 都は結城を見てにっこりした。

 

「ええと、鍵鍵」

とロビーの出入口をチェックする都と結城。その時ライトが2人を減らした。

「誰ですか!」と大声を出したのは車崎誠太郎だった。びくっとした都と結城は「車崎さん」とホッとする。

「何をしているのですか。外は危険ですよ。得体のしれない殺人鬼が潜んでいるんですから」

「いいえ。そんな奴はいませんよ」結城は言った。

「犯人は内部の人間です。そして犯人は多分あと2人を殺すつもりです」都は車崎を見た。

「そう確信する理由が君たちにはあるんだね」

車崎は言った。

 

「まず瑠奈先輩が誘拐された後に外へ出ていたのは古市寛子さん、そしてあの髭の教祖の2人」

部屋で秋菜はメモ帳に書いた池の周辺の見取り図をみんなに指し示す。

「寛子さんは15分後にボート乗り場で勝馬君とランデブー。そこから殺人現場の炊事場までは徒歩5分、往復10分ですが、その間のトレイルを師匠がずっと探していたので犯行は不可能。湖を遠回りしても徒歩20分はかかりますし、間に教祖の髭がいました。犯行は不可能です」

「教祖の髭は炊事場まで徒歩5分の場所にいたし、位置的に犯人なんだけど、足が悪くて私を誘拐して走り去ったり、結城君の見ている前で走って逃げる事は不可能なんだよね。しかもそれは子供の時の怪我で誰かの健康保険証を使ったりとかそういう偽装も不可能」

瑠奈は確認する。

「そこなんだよなー」と呻く千尋

「結城君たちが殺人現場から走って逃げるこいつを見ていなければ、瑠奈の誘拐は共犯者にやらせて殺人は髭教祖がやるという共犯トリックが出来るんだけど」

「瑠奈先輩が誘拐された時には少年自然の家のスタッフの3人と石橋祐輔さんも姿を見せていませんからね」

秋菜はそう言ってからちょっと考えて、

「車崎さんの場合は瑠奈先輩を誘拐後にどこかに隠しておいて、お兄ちゃんたちと合流して3つに分かれた後、瑠奈先輩を運動場から藪を通って炊事場に運び入れて、お兄ちゃんに古市ママの殺害現場を目撃させ、森の中に走って行って、そこから茂みの中に身を潜めてお兄ちゃんの前に姿を見せる事は出来るんじゃないでしょうか!」

と皆を見回した。

「でもその直前に車崎さんは小沢さんと電話をしているのよ」瑠奈は考え込む。

「ちょっと難しいんじゃないかな」

「それに車崎さんには犯行は難しいんじゃないかな。それに車崎さんには第一の事件で完璧なアリバイがあるんだよ。しかも偶然が生んだ完璧なアリバイがね」

「そうでした」

秋菜はため息をついた。

「車崎さんはお風呂の窓の前で石橋秀子さんが殺された20秒後にお兄ちゃんに接触しているんでした。しかも全員食堂にいたり、アリバイ自体がなくても明らかに腕力的に斧で頭蓋骨を2つにするのが不可能な女性だったりで…」

「殺人トリックを仕掛ける冷静な人間が46野のリミッターを解除する事は不可能だって話だし。そう見せかけるために機械とかを使ったトリックも無理。だって殺人の瞬間は私たちが目撃しているから」

千尋は仰向けに寝っ転がった。

「これ共犯とかも不可能だよ!」

「ぐががががが」突然ヒグマみたいないびきが聞こえて全員が勝馬を見た。デカい臍を出して寝ているかちゅま。

 

 雨の中、都と結城と車崎は森の中のトレイルにいた。

「ここからこの藪を下っていけば丁度大浴場の窓ですよ。そして僕はあの辺りで斧を見つけたんです」

と車崎が雨の中で指し示す。

「なぁ都」

結城は屋根付きの休憩室の木のベンチに置かれた四角いものを照らす。

「これ、骨壺じゃないか」

都は黙ってその白い箱を開ける。そして中を照らすと物凄い腐敗した臭いとともに眼窩のない腐乱した人間の頭部がこっちを見ていた。

 都の目が驚愕に見開かれる。

 

8

 

「な!」結城が鼻を抑えて後ずさりした。「なんでこんなものがここに」

「誰なんですか」と車崎が聞く。

「それはこっちが知りたいですよ。ただ」

都がベンチに置いたミイラの首を結城は見ながら「見てくれ死んでから数週間か数か月は経っているから、この少年自然の家に今いる人間のものではありませんよ」と鼻腔を抑える。

都は黙ってガラゲーを取り出す。

―おう、都。大丈夫か。

「あれから1人殺されちゃった。それともう一つミイラになった死体を見つけちゃって」

―マジかよ…。

「それでちょっと調べて欲しいんだけど…石橋秀子さんの関係者の中で行方不明になっている人とかいないかな」

―信じられねえ。今私はその話を都に電話しようと思っていたところなんだ。実は殺された石橋秀子の甥が行方不明になっているんだ。名前は玉川安人、18歳。彼も教団の信者で、石橋秀子の娘の腱があってから棚から牡丹餅的な感じで教団での地位を上げたらしい。石橋真菜の死の件で、相当周囲に自慢している嫌な野郎だったらしいが…行方不明になったのは3週間前だな。

「ちょっと待って。今死体の口を開けて歯とかの写真を送るから」

都はミイラの生首を仰向けにして口を開けさせる。そして力を入れるとめきっという音とともに顎が外れた。舌は腐りきっていた。

「お、おい」結城が呆然とする。

「こうでもしないと暗くなって歯の写真が撮れない。結城君。ライトを当てて」

「あ、ああ」

結城は震える声でライトを当てると、都は何度も写真を携帯で撮影した。

「君たちはいったい…」都が只者ではないと気が付いた車崎が呆然と問いかける。

「もう絶対に誰も殺させるわけにはいかないから」

都はじっと携帯画面を見つめて言った。

「ひょっとしてこれが石橋秀子がこの森に呼び出された理由なのか」

結城はゾッとした。

「でも変ですね。僕がここを前に見回ったとき、骨壺なんかありませんでしたよ」

と車崎。

「それはほんと」と都。

「ええ、断言します。あれば回収していますから」と車崎は宣誓でもするように手を上げた。

「おい…それじゃぁ殺人があって数時間後に、誰かがこの骨壺をここに置いたって言うのか」

と結城の声が震える。

「な、何の目的で」

その時、都のガラゲーが鳴った。都は電話に出る。

―おう都か。

長川警部だ。女警部は「無茶しやがって」と言ってから、ゆっくりと都に言った。

―詳しく調べてみないと確定までは出来ないが、歯の治療の痕をパッと見した限りでは、ほぼ間違いない。こいつは石橋秀子の甥の玉川安人だ…。

都の目が見開かれた。

「それじゃぁ…まさか…犯人って…やっぱり」

 

「み、ミイラの生首…」

部屋で勝馬が卒倒しそうになる。

「いろいろあって身元はすぐに割れてな。殺された石橋秀子の甥っ子で、真菜さんの死で相当地位を上げていたらしい。行方不明になった時教祖と石橋秀子が捜索願を出している」

結城がタオルで頭を拭きながらみんなに説明した。

「じゃぁ、石橋さんが森の中に呼び出されたのって」と瑠奈が聞くと結城は「それが分らないんだ」と言った。

「車崎さんの証言によれば、この生首は骨壺に入れられ石橋秀子が殺された数時間後にベンチに置かれていたっぽいんだ」

「誰が、何の目的で」勝馬がまた卒倒しそうになる。

「でもそれって車崎さんの証言なんだよね」

千尋が考え込んだ。

「ねぇ都。あの車崎さんのアリバイもう一度考えてみないかな。私考えたんだけどさ。実はトリーチャー症候群を使ったトリックがあるんじゃないかって」

「トリーチャー症候群を使ったトリック?」

「トリーチャー症候群ってさ。ちょっとびっくりしちゃうことってあるじゃん」

千尋は言いにくそうに言った。

「もしトリーチャー症候群の人が2人いたとして、言っちゃ悪いけど私たちは見分けがつくのかなって」

「あー、つまりトリーチャー症候群の人間は俺らの顔認識能力の対象外の顔で、その人間が2人いれば見分けがつかない。つまりそうやって、この自然の家に2人のトリーチャーの人間が1人の人間として振舞い、互いのアリバイを作り合っていると」

と結城が言うと千尋は「すげー差別的だとは思いますが、あくまで事件解決の可能性の一つとして」と自信なさげに言った。

「それはないと思うよ」

と瑠奈は言った。

「私、トリーチャーの子と友達経由で自助グループの人とも知り合ったんだけどさ。それぞれ障害の度合いや傾向も違うし、それにやっぱり個性もあるから、人と人で常識的に接していれば、初対面は無理でも1時間ご飯食べて遊んだりすれば大体見分けは付くよ」

「あ、そっか。初対面の私たちが認識できなかったとしても、一緒に働いている飯田さんとかを騙すことは出来ないって事ですね」

と秋菜。

「双子とかとは違って絶対にボロが出ると思うよ」

という瑠奈の横で都は考え込んでいた。

「ううん、意外と当たらずとも遠からずかもしれない」

都は何か閃いたようだった。

「あの、車崎さんが犯人だと都さんは考えているんですか」勝馬はおどおど声を上げる。

「た、確かに血だらけの斧を持って僕らの前に現れたときには殺人鬼だと思いましたけど。でも彼は紳士ですよ」と勝馬は車崎を弁護する。

「それだよ」都は勝馬の手を取って振った。

「犯人はそのトリックを使ったんだよ」

都は頷いた。瑠奈、結城、千尋勝馬、秋菜が都を見つめる。

「犯人が2つの殺人で凶器を変えた理由。瑠奈ちんが誘拐された理由、2つの事件のアリバイトリック、犯人が骨壺に入ったミイラの生首を置いた理由…その全てが1つに繋がった」

「じゃ、都」結城が問うと、都は強く頷いた。

「犯人はわかった」都はそう言ってから、みんなを見回した。

「結城君、勝馬君はみんなを集めてくれるかな。ミイラが見つかった件を理由に車崎さん、飯田さんに頼めばきっと大丈夫だから。それと」

都は薮原千尋を見た、

千尋ちゃんは事務室でちょっと準備してほしいものがあるの」

都の言葉に千尋は目を見開いた。

 

「PCとコピー機は貸してあげるけど、何をしているの?」

と事務室で覗き込もうとする飯田由利を千尋は手で制した。

「企業秘密ですよ。企業秘密。すぐにわかりますから」と飯田から画面を隠す。

 

「まさか、まさか玉川まで…殺されていたなんて…」と臍を噛む小柳教祖。

「きょ、教祖様…」

と教祖のリーダールームで椅子に座る教祖の足に縋り付く石橋祐輔。

「一体どうすれば…どうすればいいのでしょう」

「大丈夫です」教祖は瞑想スタイルで目を閉じつつ、その心情は慄いていた。

その時、扉がノックされた。

「どなたでしょうか」と石橋が外に出ると、中学生の結城秋菜が立っていた。

「あの…実はもう一体遺体が見つかった件で、もう一度ミーティングをすることになりました。食堂に来ていただけますか」

「教祖も私も眠いのですよ」と石橋は嫌がるが、秋菜は

「私の師匠、いえ、島都が犯人を暴いたそうですよ」

という言葉に石橋は呆然とした。

最後の殺人を実行するためにすぐそばまで来ていた殺人者は目を血走らせて廊下で石橋と話す秋菜を見た。

「最後の殺人の邪魔を…」

黒い影はそっとロケットを見つめた。

「真菜…もう少しだよ。もう少しで必ず敵を取ってあげるからね」

 

 決戦の場所は食堂だった。

「やれやれ、そろそろ眠らせてほしいのだがね」

とため息交じりの教祖小柳慶喜(36)の横でおどおどする信者石橋祐輔(35)、そして二世信者古市寛子(15)。

「本当に犯人がわかるって言うの」

とスタッフの飯田由利(22)と

「本当にこれが最後なんだろうね」と不満げな所長小沢智弘、スタッフの車崎誠太郎は集まった高校生たちを見つめる。

「はい、これが最後です。私に20分話をさせてくれれば、犯人は絶対にわかります」

「ちょっと待ってくれ。君は犯人がこの中にいるというのかね」

と小沢。

「はい。この森の中に殺人鬼なんていません。犯人はこの6人の中にいます」

容疑者全員が都の鋭い口調に目を見開いた。

「その根拠は何だね」と小沢所長。

「泥ですよ」都は言った。

「泥?」

「瑠奈ちんを誘拐した犯人は雨が降る森の中に潜む殺人鬼なはずなのに、その人の足には泥が全然ついていなかったんです」

「あ」飯田由利が声を上げる。「そういえば」

「それに犯人は教祖様を大雨の森の湖畔に呼び出すために、教祖様が好きな女の子のタイプも知っている」

「なんでそれを!」

と教祖が驚愕し、寛子は怯えるが、都は構わず話を続けた。

「つまり犯人は内部の人間なんです。この中の6人に犯人はたった1人だけいます」

「一人って…共犯とかでもないの!」と飯田由利。

「はい。それを今から心理実験で特定しようと思います」

と都は千尋からアイテムを受け取り、胸に抱きしめる。

「踏み絵で特定するんですよ」

都は千尋から受け取った下敷きに張り付けた麻原髭と眼鏡の男の写真を、信者の石橋と古市寛子に見せた。

「これ、教祖様!」寛子が声を上げた。石橋祐輔もぎょっとした顔をする。

「小柳教祖本人以外の皆さん。これを踏んでください。まず教団の2人から」

都はじっと石橋と寛子を見つめた。「それで犯人の正体がわかります」

「踏めるわけないだろう。教祖様の神聖な顔だぞ」

と石橋は激怒し寛子はふるふる顔を振った。

「踏めないんですね」都は目をぱちくりした後、今度は自然の家にスタッフの方に写真を見せた。

「僕たちも踏むのかね」

と小沢。

車崎も「僕は信者ではありませんが、他の方の信仰を踏みつけにするなど」と拒否した。都は飯田由利に踏み絵を見せた。飯田は「下に置いて」というと、下に置かれた踏み絵を思いっきり踏んだ。

「飯田君」と所長が声を上げ、「なんてことを」と石橋祐輔は絶叫した。

「ありがとうございます。私の予想通りの結果です」

都は6人を見ました。

「今ので犯人がはっきりとわかりました」

 

【挑戦状】

さぁ全てのヒントは提示された。犯人が仕込んだ鉄壁のアリバイトリックを解けるか。犯人はこの中にいます。