少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

吸血鬼復活事件【解答編】

 

5

 

 廃墟の入口で、恐怖に硬直する高野瑠奈に羽鳥エリザベスの手が延ばされた直後だった。廃墟の入口のドアの陰から角材が振り下ろされてエリザベスの両手が脱臼するほど叩きのめされ、悲鳴をあげた羽鳥の顔面を北谷勝馬が殴りつけた。ナイフが廃墟の床を転がる。勝馬はその馬鹿力で羽鳥エリザベスの腕をねじり上げ、床に押さえつけて取り押さえた。

「な、なんだお前」

羽鳥が絶叫した。

「ヒーローさ」勝馬は歯をキラーンとさせる。だがそんな勝馬を無視して瑠奈はナイフを手にすると都の十字架のロープを廃墟のソファーに乗って切ろうとした。

「ま、まず秋菜ちゃんから」

都は秋菜を助けるようにお願いする。

「ひでえことしやがって」勝馬はエリザベスの顔面を床に押し当てた。その直後廃墟にパトカーが4台到着して警官隊が廃墟に突入し、そして「どあああああ、俺はヒーローだぞ。女の子を格好良く助けたのにいいいい」と喚く勝馬と一緒に羽鳥エリザベスが取り押さえられた。

「瑠奈さん」十字架から解放された秋菜が瑠奈に抱き着いて泣く。そしてすぐに瑠奈からナイフを受け取って都を十字架から解放した。

「都、秋菜」

結城が警官をかき分けるように都と秋菜に近づくと、秋菜がいきなり結城をビンタした。

「だぶお」

最低。私こんな格好なのに近づかないで」秋菜がキャミの小さな胸の谷間を両手で隠しながら真っ赤になって絶叫した。

「瑠奈ぁ、都、秋菜ぁ」千尋が女の子3人まとめて抱きしめ号泣した。

「みんな無事か」長川は全員の無事を確認して安堵のため息をついた。そして確保された犯人を一瞥する。老婆のような顔の羽鳥エリザベスはきゅーっと伸びている勝馬の横で警官に引き起こされた。

「何で」

エリザベスは憤怒の目つきで都を見つめる。

「何でここがわかったかって? 勝馬君のおかげだよ」

都は秋菜につんつんされたままほげーっとしている勝馬を見つめた。

「岩倉のアパートに来た時から、私はこの事件で犯人が狙っているのは私なんじゃないかって思っていた。だから勝馬君や板倉君とLINEで会話して、盗聴器に気づかれないように秋菜ちゃん誘拐事件の事を話した。そして、アパートの近くに停車しているタクシーをベランダから見つけたんだよ。そのタクシーは住宅地に停車しているのに空車って書いてあった。それで犯人かもしれないと思ったんだよ。だから勝馬君に伝えた。もしタクシーが動いたら、私の荷物を入れるふりをして勝馬君をトランクの中に入れて欲しいって。勿論私の推理は確証はなかったし、刑事さんも忙しそうだったから、これは賭けだったんだけど、これで秋菜ちゃんの居場所が分かるかもって思ったら、賭ける価値はあると思った。トランクから出た勝馬君はすぐに現在地をスマホで検索して貰って、それを結城君に伝えてもらったって訳。リンクはラインで板倉君に貼って貰ったんだけどね」

都がにっこり笑うと瑠奈が「勝馬君が結城君に電話している最中に私が一人で廃墟に来たのを見て、勝馬君びっくりしたみたい」と安堵のため息をついた。

「びっくりしたのは俺だよ。羽鳥の家でどうしようって思ったときに、勝馬から都や秋菜の監禁場所が分かったって電話があったんだからな。それで長川警部に言ってすぐにパトカー出してもらったんだ。全く無茶しやがって

結城は呆れたように「でへへ」と笑う都を見た。

「何で、何でタクシーを見ただけでここまで推理出来たの」

エリザベスは都を睨みつける。都は千尋上着を着せてもらっている秋菜を見つめた。

「理由は秋菜ちゃんのスマホだよ」

都は言った。

「あれを調べれば、犯人は瑠奈ちんを呼び出すのは簡単だったはず。それもわざわざ事件にしないで秋菜ちゃんのふりをして瑠奈ちんを呼び出す事も出来た。それをあえてしなかったのは岩倉のアパートに私をおびき寄せるためじゃないかって。だからアパートに来た時、特に周りを注意していたら変なタクシーがあったんだよ」

都はエリザベスを見下ろした。

「貴方の今回の犯行はこうだよ。まず最初に貴方は岩倉のアパートを訪れて金になる話として情報収集を依頼した。でも本当の目的は別にあった。そう、アパートに盗聴器を仕掛けたんだよ。岩倉が秋菜ちゃんに痴漢をしているところを蹴っ飛ばされた事件。その秋菜ちゃんは結城君の妹でその結城君は私と瑠奈ちんの友達だって事は多分事前に別の探偵さんを雇って調べていたんだよ。私はお母さんの事件があってからアパートを引っ越して、その行き先をどうしても見つける事は出来なかった。まさか結城君の家に転がり込んでいるなんて思わなかったんだね。その探偵さんは」

「ちょっと待ってくれ」

結城が声を出した。

「そんな俺と秋菜と高野の関係がわかっているのに、都の居場所がわからないって事はあり得るのか」

「多分、この復讐計画が4年前から始まっていたからじゃないかな。羽鳥エリザベスさんが出所したときに復讐が出来るように、私と瑠奈ちんの情報をあらかじめ岩倉が代理で探偵を雇って調べていた。多分私が高校に入学した時までは情報は更新されていたんだと思う。でも出所して計画実行と言うときに、私は報告書に書かれているおうちから引っ越していた。勿論また調べれば結城君の家に居候していた事はわかったんだろうけど、犯人はある理由からこの計画を延長する事は出来なかったんだよ」

「ある理由?」千尋が怪訝な顔をすると都は「大丈夫だよ、すぐわかるから」と笑い、話を続けた。

「そんな時に岩倉が多分羽鳥さんの所にお金を無心しに来たんだと思う。その時結城秋菜ちゃんという女の子が高野瑠奈ちゃんと知り合いだという事を岩倉から聞いた羽鳥は、金になる仕事があると言って、岩倉の家に上がり込んで盗聴器を仕掛けた。私たちが瑠奈ちんへの復讐の為にわざわざ秋菜ちゃんを誘拐する事を不審に思って、絶対に瑠奈ちんと秋菜ちゃんの両方に関係している岩倉のアパートに私が来ることを見起こして。多分岩倉が羽鳥の事を喋って、私が高校生探偵として岩倉のアパートから羽鳥家にタクシーで行く必要があることも計算していたんだよ。私はアパートに来た時、その可能性に気が付いたんだよ」

都はじっとエリザベスを見つめた。

「でもだからってなぁ」

長川が都の頭を掴んだ。

「あそこで犯人を確保していれば、何でお前がこんな危ない事を」

呆れる女警部に都は目をぱちくりさせて答えた。

「前にも言ったように、この事件は服役していた羽鳥エリザベスさんと私たちの事を調べる共犯者がいないと成立しにくいよね。でも瑠奈ちん誘拐事件は女の子の血で若返ろうとする異常者の事件だった。そんな動機の犯人の為にわざわざ復讐なんて一緒にやってくれる人間は身内かあるいはエリザベスさんの冤罪を信じている人間しかいないよね。身内の羽鳥白子さんと羽鳥隆司さんは羽鳥家にいるって長川警部から聞いていた。だからアパートの前で確保すると得体のしれない共犯者によって秋菜ちゃんの命が危なくなると思ったんだよ」

「そうだ…共犯者だ」

長川が弾かれたように厳しい表情でエリザベスを見た。

「共犯者がいるはずだ」

「ううん。共犯者はいないよ」

都は目をぱちくりさせて言った。「だってあなたの顔を、その恐ろしい顔をタクシーの中で見たとき、それがわかったから」

都はエリザベスを睨みつけた。

「いや、そもそも最初に秋菜ちゃんを誘拐したときの映像を見たときからなんとなくわかっていたんだと思う。だけどタクシーで貴方が私に振り返った時、私は確信した。そしてこの時にこの事件の最大の疑問が解決したんだよ」

「最大の疑問?」と瑠奈。

「そう、さっきこの人が私と秋菜ちゃんの前で言った言葉。私は無罪だっていう言葉。瑠奈ちんがちゃんと証言したら無実を証言してくれたっていう言葉。でもあれは絶対にあり得ない疑問なんだよ。だってあの時、私も長川警部も間違った推理なんてしていないんだから」

都は犯人の女の前に立って事件の核心を言った。

「貴方は羽鳥エリザベスではないよね」

「え」その場にいた一同が都を見つめた。驚愕の表情で。だが一番目を血走らせて交付しているのは逮捕された女だった。

「貴方は本当はその母親、羽鳥白子なんだよね」

都は驚愕する女をじっと見つめ、宣告を下した。

 

6

 

女子高生探偵島都の宣告に女はガタガタ震えだした。

「ちょっと待て、それはあり得ん」

結城は都を見つめた。

「俺らは羽鳥家で養子とメイドと一緒に羽鳥白子を確認しているんだ」

「その時の羽鳥白子さんってどんな感じだった?」

都に聞かれて結城は「ど、どうって…鬱病で薬でベッドに寝ていたよ。寝ているのに結構厚化粧で…化粧台に高そうな化粧台がたくさん置いてあったなぁ」と言ってから「まさか、あれが羽鳥エリザベスだったとか」と結城が都を見ると、都は頷いた。

「だが私らは騙せたとしてもメイドと羽鳥隆司という養子は騙せない」

と長川警部が声をあげると、都は長川を見つめた。

「騙す必要はないんだよ。だって2人も母子入れ替わりのグルなんだから」

と都は長川と結城を見つめ、2人は「なにぃ」とぶったまげた。

「多分羽鳥家では羽鳥白子を羽鳥エリザベスとして扱い、羽鳥エリザベスを羽鳥白子として扱うのがルールだったんだよ。羽鳥白子さんの養子になって会社を経営している羽鳥隆司さんにはそうするだけの利害関係があるし、もう一人の本田愛というメイドさんは、私が鑑識の加隈さんにLINEしたし、長川警部に届いているんじゃないかな。私のスマホが羽鳥白子にチェックされる事を予想して私のスマホではなく長川警部のスマホに送るように頼んでおいたから」

都に言われ長川がスマホをチェックすると「何、薬事法違反の前科? 看護師辞めた理由が睡眠薬を家庭内監禁目的で調合した前科があったのか」と素っ頓狂な声を出した。

「お母さんのふりをさせられるのを羽鳥エリザベスさんが嫌がろうものなら、白子さんと共犯でお薬で大人しくさせていたんだよ」

都は言った。

「って事はあの2人も共犯なのか」

と結城が都を見た。だが都は首を振った。「多分違うよ」

「今言ったようにこれは監禁と虐待。2人とも家の中の事だからバレないと思ってお金の為に協力したんだけど、いざ事件が起きて警察が家の中に入り込んでくると、自分の犯罪の共犯がバレないように嘘をつきとおすしかない。多分羽鳥白子はそこまで計算していたんだよ」

「なるほど、さらに連中に対してこいつは精神的支配みたいなことをしていたのかもしれねえな」

長川警部は羽鳥白子を見つめた。

「あれは若作りじゃなかったんだ」

千尋は愕然とした。

「うん、タクシーの中で娘になりきっているこの人は凄く怖かったけど、でも考えてみれば当たり前なんだよ」

都は羽鳥白子を見つめた。

「女の子の血液に若返りや美肌効果なんてあるわけない。それがなくなったからって一気にここまで老婆みたいに老ける訳がない。貴方は羽鳥エリザベスさんのお母さんなんだよ」

ここで都の声が一段と厳しくなった。

「そして全てが終わったら娘にその罪を擦り付け、冤罪被害を受けたかわいそうな娘と言う事実を作り上げて、眠っている羽鳥エリザベスさんを殺して、罪を擦り付けるつもりだったのでしょう。だから急ぐ必要があった。薬で何週間も眠らせては置けないから」

「違う…」

羽鳥白子は警官に両腕を抱えられながらぶつぶつと言った。「違うわ、違うわ」

「4年前の事件、あなた自身が犯した事件ではないから、瑠奈ちんの証言があれば無罪は証明されたと思い込んでいたんだよ」

都はキッと目を怒らせ宣告した。

 羽鳥白子の表情が顔面蒼白になった。彼女は思い出していた。羽鳥エリザベスが出所日に帰宅した日を。

 

「ただいま」

と羽鳥エリザベスはやせ衰えた表情でぽつりとつぶやいた。

「待っていたわ」

羽鳥エリザベスの背後から羽鳥白子が肩を撫でた。

「お帰り、エリザベス」

母親は優しい声で娘のエリザベスに語り掛けたが、その目に急に狂気が宿った。

「いいえ、ママ」

その言葉に羽鳥エリザベスは恐怖に目を見開いた。

「私はね。おばあさんにはなりたくないの。いつまでも若くいたいの」

猫なで声を出す母親が体をさするのを、エリザベスはガタガタ震えながら問う。

「な、何を言っているの?」

「だから考えたのよ。貴方に羽鳥白子になって貰って、いつまでも美しい羽鳥白子を実現して欲しいのよ」

真っ赤な目で不気味に笑う母親の姿がそこにあった。

「貴方は羽鳥白子、そして私は羽鳥エリザベスなの」

羽鳥白子は羽鳥家のリビングでうっとりとしていた。

「もうやめてぇっ」エリザベスは頭を抱えて叫んだ。

「何でそんなに拒否するの? 私が美しくあり続けるには、娘の貴方が私になるしかないのよ。そしてそのためには、貴方の無実を何としてでも証明しないといけないの」

「やめてっ」エリザベスは耳をふさいで泣き叫んだ。

「私が、私がやったの。お母さんに美しくなれって言われて、肌にシミが出来ると罵倒されて…私頭がおかしくなっていた。だから強迫概念に駆られて…あんなことをしてしまったの」

そこでエリザベスはフラッと立ち上がった。

「でも安心して。お母さんのせいにはしないから。あの罪は私の罪…だから私が償うから。働いて、これから高野瑠奈さんに少しでも償いを…」

エリザベスは決意したかのように立ち上がり、家を出ようとするが、それを羽鳥白子は羽交い絞めにした。

「本田」羽鳥白子が命じると本田が不気味に口元をゆがめ「さぁお薬の時間ですよ。お嬢様」と笑った。

「いやっ、やめて、誰か助けて…いやぁああああああああああっ」

羽鳥エリザベスは絶叫した。

 

 羽鳥エリザベスが寝ているベッドで、彼女は眠ったまま泣いていた。

「こりゃ酷いな。このままこんな薬の服用をさせていたら数か月くらいで死んでしまっていたぞ」

と医者がため息をついた。既に本田愛は羽鳥家のリビングで手錠をかけられ、西野刑事に連行されていた。

「あんたもこの状態を放置した可能性があるから、話聞かせてもらうよ」

と鈴木刑事が呆然とする羽鳥隆司に言った。

 

「羽鳥エリザベスさんが懲役4年だったのも」

都は目を血走らせて歯ぎしりする羽鳥白子をじっと見つめた。

「子供の時から美しくなるように肌に傷を作ったら食事抜きにさせられたり日焼けする可能性がある運動会とかさせてもらえなかったり、そういう変な虐待を母親の貴方から受けさせられて、それで頭がおかしくなったってのを裁判長さんが考慮したんだよ。通りすがりの女の子を誘拐して命が危なくなるくらい血を抜くなんて事、普通は10年とかそれいくらいはいくだろうって長川警部に教えてもらった。羽鳥エリザベスさんはちゃんと捜査されて判決を出されたんだよ」

「違う‼ 違うわ。私は無罪よ、私は無罪よ!」

と羽鳥白子は娘は叫んだ。そして「お母様はいつまでも美しくベッドに寝ているの。老婆になった私がエリザベスなの…ママに愛されたエリザベスなの」とうっとりする。

「こいつおかしい」千尋がドン引きする。「完全に自分を娘だと思い込んでる」

「うん、この人はおかしいよ」都は羽鳥白子が喜悦の表情をするのを見つめた。

「全てを終えた後で娘を殺した後、羽鳥エリザベスとして自首するつもりだったんだと思う。そうすれば羽鳥白子はいつまでも美しくいられるから」

都の言葉に一同はドン引きした。

だが長川警部は動じなかった。

「あの事件は冤罪でも何でもない。あんたの娘が十字架を購入するところも、廃墟に出入りしているのも、誘拐現場にいるのも目撃されている」

長川は言った。「それに高野さんも証言してくれたしな。犯人はあんたの娘だってな」

「こいつは記憶喪失で‼」

羽鳥白子は瑠奈を見て絶叫した。

「いいや」長川は首を振った。

「高野さんが記憶を失ったのはお前の娘にされた事を話した直後だった」

「あれだけ怖かったのに」都は秋菜を抱きしめている瑠奈を見つめた。

「貴方の娘を無罪にして今度は殺されてしまう女の子が出てしまうかもしれない。そんなことが絶対にないように、瑠奈ちんは11歳の時、警察署まで来てあの時の事を証言してくれたの。でもそこで限界がきて、倒れてしまって事件の記憶がなくなっちゃった。でもしっかり言ったよ。犯人は羽鳥エリザベスだって・・・・」

都は羽鳥白子をキッと見つめた。

「だけどあなたは現実を見ようともしないで、自分の妄想をエリザベスさんに押し付けた。その挙句に秋菜ちゃんを誘拐してあの時と同じ、瑠奈ちんと同じ心の傷を負わせた」

都の目が怒りに瞳孔を開く。羽鳥白子はガタガタと震えていた。

「貴方がいかに自分の妄想に閉じこもったって、これから警察署で裁判所で貴方は嫌でも自分の罪と向き合うことになる。ううん、私たちが向き合わせるから」

都の言葉に瑠奈と秋菜が真っ青になった羽鳥白子をじっと見つめる。瑠奈と秋菜に真っすぐ見られ、羽鳥白子は腰を抜かしたが、警官に容赦なく引きずられるように連行された。それを都、結城、千尋も、勝馬も軽蔑と煮え切らない怒りの視線で見送った。

「そうだ、瑠奈ちん」

都はぶーと声を出した。

「一人でここに来るのは無茶だよー。危ないよー」

頬を膨らませる都に瑠奈は「ごめんね。ちょっと私もてんぱっちゃって」と苦笑した。

「瑠奈さんは都さんたちの為に来たんですよ」と勝馬。都は目をぱちくりさせる。

「瑠奈さん、凄く怖がっていました。だからこそ俺に言ったんですよ」

勝馬は都をでっかい目でじっと真剣に見つめた。

「あんな怖い思いから都さんたちを一秒でも早く助けたいって。だから警察が来る前に俺に作戦を授けたんです」

「高野…」結城が赤くなって勝馬を止めようとしている瑠奈を見つめた。

「瑠奈ちん…」都が瑠奈に抱き着いてぎゅうううっとした。

「あのおばさん頭おかしくて滅茶苦茶怖かった。タクシーで振り返ったのも怖かったし、ナイフ持って喋るの凄く怖かった」

都が瑠奈の胸から顔をあげると子供みたいに目をウルウルさせて鼻水出して泣いていた。瑠奈は微笑して都の頭をなでなでしてあげた。

「瑠奈さんが本物のヒーローだな」勝馬は結城を見た。

「お前は何もしてねえな。ざまーみろ」

「ああ、そうだよ」結城はジト目で幾分悔し気な声を出した。

「ああ、みんな。そろそろ事情聴取したいから、来てくれるか」

廃墟の前に来ると、白と青のタクシーが停車していた。都がΣ(・ω・ノ)ノ!状態になっていると、長川は「大丈夫。合法的なタクシーだから」と運転席の御厨茉子を指し示す。

「いろいろ迷惑をかけてしまったからな。せめてものわびとしてだ…。警察署まで私が払うから、女の子は乗ってくれ」

「おおお、パトカーが先導してくれるんだ」と千尋が瑠奈を車に押し込むと助手席に座り込んだ。

「運転手さん。黒塗りの高級車に追突しないように安全運転でオナシャス」

千尋に言われてタクシーは出発した。

「おおおおっ、大統領になった気分」

都は大喜びだ。その後ろのパトカーの後部座席で結城と勝馬が不満げに「連行されている気分」と唸っていた。

 タクシーのラジオから音楽が聞こえる。

 

Here comes Santa Claus!

Here comes Santa Claus!

Right down Santa Claus Lane!

Vixen and Blitzen and all his reindeer

are pulling on the reins.

Bells are ringing, children singing;

All is merry and bright.

Hang your stockings and say your prayers,

'Cause Santa Claus comes tonight.

 

「あ、もうクリスマスの季節だ」と瑠奈が都を見つめると、都は寝ぼけていて「あけましておめでとうございます」と言ってZzzした。秋菜と瑠奈は顔を見合わせ、笑った。

 

Here comes Santa Claus!

Here comes Santa Claus!

Right down Santa Claus Lane!

He's got a bag that is filled with toys

for the boys and girls again.

Hear those sleigh bells jingle jangle,

What a beautiful sight.

Jump in bed, cover up your head,

'Cause Santa Claus comes tonight

 

 警察病院のベッドで、羽鳥エリザベスはじっと天井を見つめていた。もう何もかも希望がなくなったような表情で。その時病室のドアが開いた。エリザベスの目が見開かれる。高校の制服を着用した高野瑠奈が、島都と2人で立っていた。エリザベスは何か言おうとするが、声が枯れてしまっている。そんなエリザベスに対して瑠奈は穏やかな笑顔で「何も言わないでください」と言った。エリザベスと瑠奈はじっと見つめ合った。

10分後、別の病室で内山理衣のお見舞いで千尋勝馬と板倉と理衣と談笑する瑠奈。それを見つめる都と結城と秋菜。

「見ているだけって」結城は都に唖然として聞いた。

「うん。見ているだけだけど、なんかこの出来事を乗り越えていこうって決めた感じだった」と都は言った。

「なんか凄い人ですよね。瑠奈先輩って」

と秋菜は言った。都は「うん」と頷いた。「私たちの事、いつも助けてくれる」

「都―。シュークリームあと一個だよ」と千尋に言われ、都は「ぬわあああああ」と脱兎のごとくベッドに特攻し、瑠奈が「病院なんだから大人しくしなさい」と叱る。

 いつもの探検部の日常だった。

 

おわり