少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

プロジェクトR殺人事件File3 転回編❶


5

【事件関係者】
・韓蘭(16):高校2年生。
・高橋桜花(51):市長。JBCから国民を守る党党首。
・清水川勝利(61)不動産会社社長
鯨波令和(50)日本奉還党議員
・鳥森昭三(47)市助役
・草薙正太郎(30)所轄刑事
・一宮春代(27)所轄刑事
・小池A
・小池B
・小池C

 パトカーが雨水を飛ばしながら市役所前広場に乗り付けた。
「下がって、下がって」
警察官が群集やマスコミを後方に押しやる中、張られた規制線を守る警官を結城は「どけ」と押しのけるように入ろうとした。
「コラ」
警官がわめくのを、長川警部が警察手帳を翳して押しとどめる。
 結城はひたすら歩いた。ふらふらになりながら歩いて、そして救急車に運ばれていく何かを見つけた。島都が顔を濡らして、目を閉じて運ばれて行こうとしていた。その制服のブラウスが血に染まっている。
「都…冗談だろ」
結城が声をかけた。
「なんだよ。おい、そんなのってありかよ」
彼は唇を紫にする。そしてそのまま座り込んだ。
「君、彼女の友達かい」
救急隊員が結城に声をかけた。
「もし友達だったら、彼女のご家族に電話してくれないか。赤十字病院で念のために検査するから、おそらく今日は入院になるだろうって…」
結城は救急隊員に言われてふらっと顔を上げて、そして再び都の顔を覗き込んだ。
「ううん」
「検査入院って…彼女かなり重症じゃないのか」
と背後から長川警部。彼女の見ている場所には公園のモニュメントがあり、血だらけになっているのを鑑識が写真を撮っている。
「人間の血だと思いますが、少なくとも彼女は大きな傷は追っていませんよ」
救急隊員は言った。
「別の人間の血をかけられたのでしょう」
「そうか」
長川は「はぁーーーーーー」っと長い安堵の吐息を吐いた。結城はその場に座り込んだ。
「結城君。一緒に」
長川に促され、結城は頷いた。そして西野刑事と一緒に救急車に乗り込んだ。救急車を見送る長川警部。
「警部。ちょうどよかった。話はあらかた聞いていますが、彼女の口に紙がくわえさせられていました。血文字のようなもので書かれていますね」
草薙刑事が現場検証の場所から長川警部に声をかける。長川は手袋をした手でビニールに包まれたそれを見た。
—台風が過ぎ去る前に、高橋桜花市長を必ず殺します。岩本承平—
 長川警部はこれを見てじっと考え込んだ。そして命令した。
「すぐに鑑識に回すんだ。この血液を岩本承平のものかどうか鑑定しろ」

「師匠…師匠…」
目を開けた都の目に病院のベッドの天井と結城秋菜という中学2年生の結城竜の従妹の顔が見えた。
「よかったぁ」秋菜が都に縋り付いた。
「秋菜ちゃん…みんな…」
「本当にびっくりしたよ」千尋がやれやれという表情で顔を覆っている瑠奈の髪の毛をなでている。
「瑠奈ちん、千尋ちゃん」
「ほら、あんたも」
原千尋は少しやつれた表情の結城竜を促した。
「都とまた話せるように祈ってたでしょ。その願いは叶ったんだから」
「お、おう」
「結城君…ごめん…」
都が布団越しに目をぱちくりさせる。
「お前が悪いわけじゃないだろうが。俺がお前を助けてやるべきだった」
「ぶー」
都はもーっと怒ったように言った。「そういうのはなしだよ」
「で、勝馬の野郎はまだ連絡つかないのか」
「うん。多分体育館の避難所開設の手伝いに板倉君たちと出てるから。多分携帯も持ってないと思う」と瑠奈。
「ま、知らせなくていいか。都も無事だったわけだし」
「みんな来てくれてありがとう」
都のお母さんが娘の友達を見回した。
「お母さん、ごめんなさい」結城が謝ると、お母さんは結城にいい子いい子して病室を出た。病室前の長川警部が笑顔のお母さんが突然顔を覆うのを肩をもって支え、西野刑事に託した。
「都…大丈夫か。調子は」部屋に入った長川警部。
「なんか私血まみれだったみたいだね。でも怪我はしてないみたいだよ」
都は布団の中でもそもそ体をまさぐった。
「そりゃそうさ。あれは別人の血だったんだから。DNA鑑定の結果が出た。岩本承平の血で間違いないそうだ。県警が記者会見を開いている」
「そうか」
結城が声をあげた。都がじっと長川警部を見つめる。
 千尋は祈る様に目を閉じた。
「それと、一応報告しておくと実は県警本部が把握した岩本承平から殺人予告が3回。いずれも高橋市長殺害を予告する内容だったそうだ」
「って事は都に対する2回の殺人予告のほかにもう1回殺人予告があったわけだ」
結城が言った。
「どういうこと」
パジャマの都が身を乗り出す。
「1回目は県警本部に直接かかってきた電話。だが機械で声を変えていて、県警はいたずらだと考えていた。2回目が都のアパートの前に現れた奴だ。そして3回目は都の教会での誘拐事件。市役所前に血まみれで放置されていた都の口にくわえられた紙に、岩本の筆跡で市長を殺害するというメッセージがあった。間違いなく今回は岩本が関与している。マスコミが騒いだ以上、県警は全力を挙げて南茨城市に機動隊を派遣して警備に当たるつもりだ」
長川警部は言った。

 機動隊のバスが大雨の国道を車列を作って走っていく。

「幹線道路の検問、市街地を台風の中警備、市長の関係先の調査も行われている」
長川警部は声をあげた。
「それと一応お前が予告された時間と誘拐された時間の関係者のアリバイも調べたが」
長川は言った。
「まず不動産屋の清水川と奉還党の鯨波、いずれも昨日今日と市長主催の『愛国経済会』という会議に出ていて、今日は市長が欠席して会議を実質取り仕切っていたそうだ。つまりアリバイは完璧。市長の高橋は昨日は会議にその出ていて今日は執務室に引きこもり、警察が警護していたのでアリバイは完璧だ。警備の草薙刑事と一宮刑事だが、草薙刑事の方は昨日は非番だったらしい。一方一宮刑事は所轄のデスクにいた。ただ2人とも教会誘拐事件の際は警護についていてアリバイがある。助役の鳥森だけがアリバイがないんだ。助役室にずっといたらしくてな。ただ最初の都のアパートの前に岩本が出た事件の際、職員が都の通報10分前に書類のハンコをもらいに来て、助役にあっている。現場まで10分で行くのは無理だからかろうじてだがアリバイはある。さて」
長川は都を見た。
「今回の岩本の事件は実に奇妙だ。奴は基本的に殺人予告はしない。殺人予告をするとすれば、何か別に目的があるときだ。今回みたいに3回も殺人予告をし、しかも殺人予告を出したのが自分だとアピールまでしている。何が目的なんだ」
長川が言った。
「わからない…でも、犯人は絶対高橋市長を殺しに来る」
都は結城と長川を見た。そしてパジャマのままベッドを飛び出す。
「絶対高橋市長を殺させない」
「バカやろう。今日は寝てろ」
長川警部は言った。
「無理をさせたらお前のお母さんに申し訳がない」
「都、いってらっしゃい」
突然病室に入ってきたお母さんが言った。
「都は、そう決めたんだよね」
お母さんにまっすぐ見られて、都は頷いた。そして都は薮原千尋を見た。
千尋ちゃん」
「私は都が正しかったことを信じる。探検部で待っているから」
千尋に言われ、都は力強く頷いた。「うん!」
「師匠を頼んだよ。お兄ちゃん」
秋菜が結城に言った。
「私は勝馬君と一緒に小学校の体育館の避難所でボラってくるから」
「私も行くわ」
千尋は言った。「体動かさないとこの台風は乗り切れそうにないし」
「でもご家族が」
と心配そうな瑠奈。
「大丈夫。私は都を信じることにしたから」
千尋ににかっと笑われたが、瑠奈は何故か心配そうな顔を崩さなかった。
 私服に着替えた島都と結城竜は、再び南茨城市役所へと病院のロビーを歩き出した。夜は更けていた。

6

 台風はどんどん関東地方に近づいていた。風が強くなる中で愛宕小学校体育館に避難所が開設され、毛布や水などが次々運び込まれていく。
「みんなボランティアに来てくれたんだ」
高校生在日朝鮮人韓蘭がジャージ姿で物資を運ぶ勝馬や板倉大樹に声をかける。
 その時だった。避難所運用職員で市公務員の久保田久春(36)に対して、若い女性と小太り眼鏡の男性が近づいてきた。
「市長から緊急の指示です」
女は言った。
「このリストの人間を直ちに避難所から追い出し、そしてこの避難所に来たらすぐに追い出してください」
「なんですか…これ」
「正しくない特権を享受している反日工作員です。必ず避難所では身分証を確認する事。これを徹底してください」
「何を言っているかわかりません。税金というのは生きるための料金ではありません。こういうものは必要ありません」
「あなた、反日リストに入れられたいんですか?」
その言葉に久保田は真っ青になった。
「これから草の根的な愛国活動は広まっていきます。日本人への裏切り行為をしたらどうなるか、貴方と貴方の家族がどうなるか…よく考えて愛国的な奉仕をしてください」
「…」久保田は真っ青になって後ずさる。
やたらすごみまくる男女を見て、薮原千尋はペットボトルの箱を運んでいる中で目を丸くした。
「‼!!! あいつ、小池Aだよ」
「あ」
北谷勝馬が毛布を両手に目を丸くした。
「あいつ、小池Bだ」
「いや、Dはありますよ」と板倉大樹。
「いいですか。このリストの人間が体育館に一人でもいたら、貴方は反日分子として」
「もういるけど、そのハミチン分子ってのは」
と板倉大樹と北谷勝馬が2人の小池を取り囲む。
「お前ら…俺の母ちゃんに×つけてくれたらしいなぁ」
勝馬がガンを飛ばす。
「俺の母ちゃんに×を付けるような奴は例えボインボインDカップでも許すわけにはいかんなぁ、コルァ」
「お前ら、俺らが誰だか分ってるのか」
「市の職員だろ。俺らの家に来た」
板倉が睨んだために小池Aが一瞬たじろぐ。
「市職員だからって甘く見るなよ。俺はこれだぞ」
と小池Aが腕をめくって刺青を見せる。
「なんだこれ。仮面ライダーの改造人間の出来損ないか?」
勝馬がへらへら馬鹿にしたので小池Aがいきなり勝馬の腹に一発入れて、勝馬は蹲った。
勝馬君‼」
瑠奈が悲鳴に近い声をあげた。
「番町の役目って知っていますか?」
腹を押さえながら勝馬が言った。
「相手に一発殴らせて、後の連中が好き放題出来るようにするのが番長の…たぼっ」
格好いい名言を女の子で言う前に倒れ込んできた小池Aの下敷きに勝馬はなった。
「ふん」
髪の毛を触りながら秋菜が中学校の制服のスカートから伸びる生足を小池Aの後頭部に乗せていた。
「ふざけんじゃないわよ。中坊がぁ」
小池Bが警棒を出して結城秋菜に襲い掛かるが、秋菜は素早い身のこなしでそれをよけると相手の女の顔面に指を突き立て、その指を足元と横にほいっとやってそれに小池Bが気を取られている間に、かすかにヒラッとする膝が隠れるスカートにちらっと白いものを見せながら秋菜のかかと落としが小池Bの後頭部に命中していた。
勝馬君の仇は取ったよ」
秋菜はぐっと指を立てる。目を回した小池Aを押しのけながら勝馬はフラフラ起き上がった。
「お、おう、39」
「さて、どうこいつを処刑しましょうか」
板倉大樹がおろおろする久保田を尻目に指をぱきぱきならした。
「待って…こういう時は」
瑠奈が床に投げられたBのハンドバックから携帯電話を取り出し、
「背後関係を探るのが一番でしょう」
にっこり笑う瑠奈にたじろぐ勝馬と板倉。

 雨の中長川警部のセダンは役所に向かって疾走していた。
「しかし一番の謎は岩本が何故殺人予告をしてきたかという事だ」
長川は運転しながら信号が赤になったので停車した。
 道路は凄く風が出ている。台風が伊豆半島に上陸したことをニュースは伝えていた。
「ああ、そうだな」
結城は言った。
「奴は基本的に劇場型犯罪には興味を示さない。殺したい相手に対して下手にトリックを仕掛けるよりも拉致った後で拷問殺人というのが奴のやり口だ。そんな奴が殺人予告をわざわざしてくるという事は、何か目的があるんだ」
と結城。
 都はふと青信号になると同時に声をあげた。
「もしかしたら、岩本君の標的は高橋市長じゃないのかもしれない。高橋市長に殺人予告が出されて、それで何か特別な動きをするとか、そんな感じで岩本君は別の標的をあぶりだそうとしているのかも」
「つまり…高橋市長はフェイクか」
長川警部は言った。
「わからない…なんで岩本君が私を誘拐して自分の血をつけて殺人予告にしたのかも」
「とにかく…あの予告通りなら奴は今日動く。いや、もう動いているかもしれない」

嵐の中、住宅の屋根の上に黒い影があった。その影は目を赤く光らせ、雷が鳴るたびに真っ暗な人型の輪郭が浮かび上がってくる。
「さて、都さん…」
死神は髑髏のようにむき出しになった歯茎で言った。
「都さんの誘拐事件でこのトリックは完全に完成した。絶対に解くことが出来ない完全無欠のトリックがね…そして都さんはこの事件を一生忘れることは出来ないでしょう。少女探偵島都として二度と元には戻れない代償を背負うトリックですからねぇ」
雷が不気味な岩本の影を映し出していく。

 南茨城市役所。早朝5時。
「くそっ」
市役所のロビーで清水川勝利(61)は爪を噛んでいた。
「これはヤバいことになったぞ。まさか本物の岩本承平が出てくるなんて。高橋があの殺人鬼にこのまま殺されてくれればええけどな…。もしあいつが拷問でもされて岩本に全てを話してもうたら…今度は俺たちが殺されるんやないか」
清水川が声を震わせて怯えていた。
「確かに…あの殺人鬼が殺人予告をやるときには何か裏があるらしいですから」
鯨波令和が赤ら顔を紅潮させて震える。
「高橋を殺すか」
清水川が言った。
「何を言っているんですか」
鯨波令和が声を震わせる。
「この役所には県警始まって以来の警備が敷かれているんですよ」
「だからこそや」
鯨波令和が声を潜めた。
「今の状況は殺人が起これば全て岩本承平がやったことになる。あの殺人鬼は神出鬼没だ。密室だって簡単に突破して標的を殺害できる。そう新聞をにぎわせたやないか。そして殺人を犯した人間は岩本の変装…つまり中の人ってのが岩本じゃない俺たちがいくら怪しくても、警察は岩本が犯人だと当たり前のように考えるから、俺たちは疑われへん」
「つまり…高橋を殺した罪を…岩本に擦り付けられるって事ですか」
鯨波も悪魔の声に耳を傾けてしまいつつあった。

「なんだこれ」
体育館でのびている小池ABの横でスマホに記載されていた計画書を見て、勝馬は唖然とした。スマホのメールには計画書なるものが長文で書かれていた。瑠奈がこれを朗読する。

—これは日本の将来に必要な事である。在日朝鮮人反日分子を国民自らの手で殺処分し、日本を新しく掃除するためのプロジェクトである。まず、台風が来ているさなかに高橋桜花に「朝鮮人が台風のさなかに暴れている」として注意喚起と自警団を組織する事を訴える。そして実際に反日分子としてリストアップされた人間を、清水川氏の会社社員が組織した志士たちに襲撃させる。それを根拠に市民に対して、フィリピンの偉大な大統領が組織し治安回復に大きな貢献をしたデススクワット組織を市民に奨励して、リストに挙げられた在日朝鮮人殺害を許可し、治安維持の為に奨励する。市民は流されやすく、災害時にはこの傾向が特に強くなるから、リストアップされた反日在日の殺害に加担するようになるだろう。そして日本で初めて、日本人による本格的な愛国戦争発祥の地として南茨城市は歴史に残ることになる。こうしたデススクワットはインターネットを通じて全国各地の被災地に拡散される。大規模な殺害行為を文化人は支持するし、政界にも我々の同志はたくさんいる。ここで注目すべきはメディアの役割だ。我々は南茨城市に殺人鬼岩本承平の名前でメディアを呼び寄せる。そしてそこで朝鮮人の乱暴狼藉を演出し、メディアにそれを報道させる。ワイドショーは嫌韓報道で視聴率を稼ぐ傾向にあり、テレビ媒体では人種差別を否定する偽善者が気骨ある保守に言い負かされている。そして全国的にデススクワット運動を展開すれば、それは既成事実として受け入れられ、ここからは日本政府が主体となって反日分子の粛清を行う。反日分子とは護憲派、左翼、日教組フェミニスト、ホモ、障害者を安楽死させない毒親、迷惑をかけ続ける高齢者、崇高な虐殺に参加しない偽善者などだ。この国を立て直すには大虐殺しかありえない。愛国的な正しい日本人だけで作られたこの日本は希望ある超大国に生まれ変わるのだ。万が一本物の岩本承平が関与してきたとしても、高橋桜花が生贄になってくれる。彼は家族を人質に取られてから、無気力になり、我々に従順になっている—。

 市長室。電源を切られた時の為に古風なデザインの暖炉に火が入れられ、ぱちぱちと燃えている。高橋桜花は頭を抱えていた。
(このままじゃ…このままじゃ僕は大勢の人を殺害する計画に加担する事になる…このままじゃ…でも言わなきゃ…僕の家族が…。ああ…どうすればいいんだ)

 市長執務室の前で、草薙と一宮両刑事が清水川と鯨波を止めた。その時、市長室から出てきたのは市役所助役の鳥森だった。
「何の用ですか」いぶかしげに聞く鳥森。
「どうしても災害対策で市長と話し合いたいんです」
鳥森に鯨波は言った。
「どうしても台風時の市民の安全の為に必要なんです」
鯨波は言った。
「市長は何も言っていませんよ…窓の向こうを向いて…誰とも話したくない様子だった。顔さえ見せてくれませんでしたよ」
鳥森助役はじっと清水川と鯨波を見た。清水川はせせら笑った。
「それはあんたら市役所が無能だったからだろ。市長は有能だから、我々のような愛国者を話し相手に選ぶんだ」
「本当に市民の安全について話してくれるんでしょうね」
鳥森は臍を噛んでいた。「ええ、勿論」と清水川は笑う。
「では岩本承平が変装していないか徹底的に検査させていただきます」
宮刑事が清水川に言うと、不動産社長は「ええ、どうぞ」とホールドアップした。

「おいおいおい」
体育館で岩本が声をあげる。瑠奈は慌てて受信メールを探ってみた。
—高橋の家族の娘について—という件名があった。差出人は「清水川社長」という人物だった。
「会社に監禁している奴の娘、手を出させるなよ。綺麗な体で後で俺がもらうからな」
瑠奈が抑揚のない声で朗読した。
「板倉」
勝馬は言った。
「全員集めろ」

 東京の有名なホテルパーティー会場で、警察庁に太いパイプを持つ大物議員は時間を気にしていた。
「先生…いよいよですね」
台風の中パーティーどんちゃん騒ぎしている閣僚を見ながら、先生と言われた存在は笑った。
「もうすぐだ。もうすぐ計画は始まる」

 執務室の扉が開けられ、清水川と鯨波が市長の部屋に入った。高橋桜花市長は窓の外を見ていた。扉が閉められ、後ろ手に鍵がかけられる。清水川と鯨波はゆっくりと高橋桜花に近づいた。高橋桜花がゆっくりと振り返った。

「マスコミの野郎、無茶しやがる」
長川警部はパトカーを降りてマスコミが群がる規制線をくぐって市役所ロビーに入った。
「岩本が現れるのをまってやがるんだ」
大量のマスコミが市役所の前で台風そっちのけで中継して、女性アナウンサーの声も聞こえてくる。
「ちゃんと台風の報道もしてくれてるのかよ」
結城竜がため息をつきながら、都を守る様に長川について市役所の誰もいないロビーにやってきた。中に入ると怖いくらい静かだった。
「ふう」都がそう言ったときだった。
「警部、大変です! 執務室内部で異常が」
鈴木刑事が絶叫した。
「‼」
長川警部ははじかれたように走り出す。スーツから拳銃を取り出し、市長室の前の廊下で後からついてこようとするのを手で制した。特殊部隊が巨大なハンマーで執務室のドアをぶち破ろうとしている。
「どうした」
「中から鍵がかかっていて」
草薙刑事が大声を出した。「中から悲鳴が」
 直後に扉がぶち破られ、SITが突入しようとするが、彼らは清水川を盾にしているその人物に突入の機会を逸した。都と結城がそいつらの背後から見た時、部屋の中では清水川を盾にした髑髏の人物が立っていた。
「岩本君‼」
都が大声を出した。