少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

少女探偵島都劇場版2 岩本承平の殺戮3


5

 パトカーはトンネルを出た。原付バイクはパトカーが追跡するのを認めると突然トンネルを出た県道大通りとの交差地点の中央分離帯を右に入って再び逆走する。
「くそっ…」
パトカーが中央分離帯を逆走できず左に入るが、突然のバイクに驚いた対向車のワゴン車がポールをなぎ倒して急停車し、さらに無理やり右に曲がった原付を避けようとして中型エルフトラックが中央分離帯に激突。その後ろにバスが追突して停車する。
「嘘だろ!」
勝馬が車が多重衝突したトンネル出口を茫然と見る。
アッラー・アクバル」
ワゴン車のアラブ系の運転手が外に出て、エルフの運転手がふらふらと路上に出てくるのを介助しようとする。アラブ系の娘と思われる髪を布で隠した少女がそれを手伝おうとする。
 その直後だった。
 エルフのトラックの荷台の幌を突き破って大量のビール瓶をまき散らしながら赤いスポーツカーがこっちに向かって突っ込んできた。
「危ない」
勝馬は咄嗟に3人を突き飛ばした。この時の時間の流れは勝馬にとって走馬燈みたいにゆっくりだった。彼の体はスポーツカーの流線型の屋根の上に乗り上げて飛び上がり、アスファルトに転がった。スポーツカーはワゴン車に追突し、その拍子に防犯ブザーが鳴り響いた。「ダイジョウブデスカ!」
娘さんが泣きそうになりながら路上で倒れ込む勝馬に駆け寄る。
「シッカリシテクダサイ!」

その様子を警察ヘリが見ている。
「至急至急、交通事故発生。男性が一人車にはねられました。大至急救護を」
女性パイロットが無線で知らせた。
「その必要はない」
警備部警部は声を上げた。
「今は岩本を捕まえることが大事だ!」

「そんな」
ヘリの女性パイロットは戦慄した。しかし命令には逆らえない。女性パイロットは犯人が逃走した方向に機首を展開させる。

「いいのか、都…岩本を追いかけないで」
都、結城をリアシートに乗せた長川警部は大急ぎでパトランプを出して急行していた。
「栗原さんは岩本君じゃない。あの人に岩本君は変装する事は体格上は出来ないからね」
都は言った。
「栗原さんは脅されていたんだよ。毒を飲まされて、国際会議場の内部で三橋社長を殺すように言われて」
「だが栗原は我々が警護をしていた。彼女が岩本に脅される機会なんてあるはずがない」
と長川。
「一度だけあったんだよ。栗原さんが佐々木さんの家に行って仕事の書類を渡された時。あの時刑事さんたちは同行した?」
「いや、プライベートな話だからって部屋の中までは…」
「その時、佐々木さんに化けていた岩本君は、部屋の中で栗原さんに毒を飲ませたうえで解毒剤が欲しければ三橋社長を殺すように言ったんだよ。岩本君は佐々木さんに成り代わり、今回の殺人トリックを変更させるために拳銃の部品と同じ形をした工場モデルを設計したんだよ。だから警備員が栗原さんが持ってきた工場のジオラマを見て、それを実際の工場と照会しても問題はなかったってわけ」
「それにあのジオラマは拳銃の部品になる部分にさらに建物が追加されててわからなくなっていたな」
長川は唸った。岩本の想像しえないほどの壮大なトリックに戦慄していた。だが女警部はふと思い出した。
「しかし、待ってくれ…佐々木には妻子がいたはずだ。岩本が佐々木に成り代わったところで、妻子までは騙せるわけじゃない。みどりちゃんは学校に行っているから、脅して黙らせているわけでもない…お前そう言っていたじゃないか」
「それが今回のトリックの味噌なんだよ」
都は言った。

 佐々木の家を前に、長川は拳銃を取り出して玄関の中に入った。リビングには一人、佐々木の妻が一人で立っていた。
「あの人は、もういません」
やつれた表情で佐々木の妻が女警部に振り返った。
「あの人というのは、岩本君だよね」
都は妻に言った。
「ええ、岩本さんです」
妻は力なくソファーに座っていた。
「どういう事だ都」
長川が都に聞くと、都は言った。
「岩本君は警察を騙すために、この人に自分の奥さんのふりをさせていたんだよ。警察は妻子までは騙せないし、当日国際会議場にはいかない事から、自分を岩本君だとは思わないと踏んで」
「なんだって」
結城が戦慄する。
「私がこの家に来て写真とかを漁ったとしてもおかしなものは見つからなかった。岩本君はわかっていたんだよ。どんなに気を付けていたとしても他人が住んでいたおうちに自分が成り代わって住んでいたら絶対にばれるって。だからあなたとみどりちゃんを連れてきて、一から思い出を作って、この家に新しい家族の空間を一から作り直した」
「本当の佐々木さんの妻子は、DVシェルターに入っているそうです」
と女はため息をついた。
「なるほど。秘密基地並みに場所を秘匿されているDVシェルターなら佐々木と本当の妻子が絶対に連絡を取ったりはしないからな。だがあなたは一体どうして岩本に協力したんですか」
長川は言った。

 原付バイクを降りた栗原安美はふらふらになりながらひきつった表情で児童公園の誰でもトイレに向かった。トイレの自動ドアを閉めて、トイレの便器の真後ろに置かれた瓶薬を見つけてそれを飲み込んだ。その瞬間彼女ののどに焼けつくような激痛が走り、それが体中に広がり目から涙がボロボロ出てきた。
「が、ぎゃ・・・ぐが」
栗原が涙を流しながら苦悶に歪んだ表情で天井を見て戦慄した。そこには落書きで「死ね」と書かれていた。

「私、生活が苦しくて上司からセクハラされて生活保護も打ち切られて児相からも担当が保守的な人で相手にされなくて、精神的におかしくなって娘のみどりを連れて入水自殺しようとしていたのを佐々木さんに変装した岩本さんに助けられたんです。彼は私にこの家に住んでいいと言ってくれました。そしてある日私に正体を明かして協力してほしいと頼んできたんです。勿論殺人の手伝いとまではわかりませんでした。あの人は私に協力を拒んだら殺すと言っていましたから」
「それは嘘ですよね」
都は言った。
「そういうように岩本君に言われたんですよね。あなたを犯人をかくまった罪に問えないようにするために」
妻はしばらく黙っていたが、曖昧にこういった。
「私を助けてくれたのが岩本さんだけだったというのも…また事実ですから」
彼女はマンションの鍵と通帳を取り出した。おそらく岩本が置いていったものであろう。
「どうします? 没収しますか?」
「犯罪に加担した報酬というのであれば没収します。ただし無理やり犯罪に巻き込んだ事による一方的な迷惑料であるならば没収は難しいでしょうね」
長川はため息をついた。
 その時だった。彼女の携帯が鳴った。
「もしもし…ああ…うん、そうか‥栗原の死体が見つかったか…」
長川はある程度覚悟していたのだろう。特に驚かなかった。都も長川の携帯の会話をじっと聞いた。だが突然長川が「なんだって! ああ、わかった。命は大丈夫なんだな。ああ、うん。わかった」と言って小さく息を吐いた。
 都も結城も栗原の死以上に何かあったのではないかと不安になる。長川は言った。
「2つ悪いニュースがある」
「栗原さんが死んだんだね」都は言った。「長川は頷いた」
「もう一つは」結城がイラついた声で聞く。
「北谷君が栗原を追いかけている最中に交通事故に遭った。命には別状ないが筑波大学病院に搬送された」
都を不安にさせないように長川は命に別条のない所まで一気に言った。都は「どうしよう、勝馬君が…勝馬君が」と半泣き状態になって結城のシャツを掴む。
「お前らを病院に連れて行ってやる。その足で私は栗原安美殺害現場に行くから、君らは勝馬君と一緒にいてあげるんだ。いいね」
「うん」
都は頷いて一刻も早くというように廊下を走った。そこで…都はみどりに遭遇した。
「お父さん…死んじゃったの?」
都の半泣きになった表情を見て、赤いランドセルのみどりの声が震える。都はみどりの前で膝をついて言った。
「うん…ごめんね」
「いやだぁああああああああああああああああああああああああ」
みどりは泣き叫んだ。そして都に掴みかかって何度も何度も幼い拳で叩いた。
「お父さん絶対死なないって言ったじゃん。お父さん絶対死なないって…いやだ、いやだぁあああああ。馬鹿、ばかばか、都ちゃんのうそつき。お父さん、お父さんいやだぁあああああ」
さっきまでは勝馬の所に一刻も早く行こうとしていた都は、ただ黙って幼い怒りと悲しみを受け止めていた。お母さんがみどりを抱きしめる。お父さんが岩本だったといえば、都は約束を破ったことにならなかったのに…。幼い少女の絶叫の中で、結城はこの都の姿にまるで岩本の犯した罪を都が背負い込んでいるように見えた。

「ほんとゴキブリみたいな生命力なんだから」
原千尋が半分泣きながら病室のベッドの勝馬のベッドで左手を叩き、勝馬は「あぎゃーーーー」と声を上げて秋菜が「勝馬君ここ病院」と叱る。
勝馬君!」
都が病室をがらっと開けて入ってきた。そして小柄な女子高生探偵はそのまま勝馬のベッドにダイビングする。
「うわああああん、勝馬君が生きててよかった」
「俺も生きててよかったです」
都に抱きしめられて勝馬がげへげへ笑っている。と、結城がクレーンみたいに都を吊り上げる。
「何やってるんだ都」
「ああっ、このあほ野郎。俺の至福の時間に嫉妬してやがるな! 都さんを返せ!」
「うるせぇよ、死にぞこない」
結城は勝馬をジト目する。
「ああん、じゃぁ、てめえが死んでみるか」
「はい、みんなここは病室だからね」
探検部部長の瑠奈が怒りのオーラを放ちながら笑っているので、都も結城も勝馬も「はい」とこわごわ返事をする。
「都」
瑠奈が打って変わって優しく笑う。
「お疲れ様」
「うん」
都は沈んだ声で言った。
「私ジュース買ってきますね」秋菜は立ち上がって、結城を引っ張った。
「お兄ちゃん行くよ」

「師匠がここまで追い詰められるなんて岩本って殺人鬼は相当な手練れだよね」
廊下で秋菜は考え込んでいた。
「ああ、ここまで凄まじいトリックをぶち込んでくるとはな。あいつは都みたいな高校生探偵の思考方法、推理方法を完全に熟知してその先をいってやがる。今回都が『何で岩本が予告殺人、劇場殺人なんてやるんだろう』って疑問に思っていたが、それもわかったぜ…あいつがどうやって都を心理的にミスリードしたのかもな」
結城は秋菜に言った。

6

「師匠をミスリードって…そんな方法があるの」
秋菜が病院廊下で驚いたように言った。
「テレビ局の殺人で種は仕込まれていたんだ」
結城は言った。
「テレビ局の事件での推理の設問は『どうやって殺人鬼岩本はテレビ局に侵入して殺人を犯し、テレビ局から脱出するか』だった。だから国際会議場の事件でも『岩本は誰に変装して国際会議場に侵入するか』という設問を都は自動的に頭に設定してしまった。だから体格的に絶対に変装不可能な栗原秘書を疑うという事をしなかったんだ」
「そんな…師匠の頭をここまで予測するなんて」
秋菜が戦慄する。結城も冷や汗をかきながら
「ああ、岩本承平…とんでもない野郎だぜ」
と笑った。
「あいつは変装はアニメの怪盗みたいに得意ではないし、声も山寺なみのレパートリーはあるが、マネできる人間は限定される。それを逆手にとってこういう不可能犯罪を行っているってわけだ」
 その時だった。
「あの、すいません。北谷勝馬さんの病室はご存知でしょうか」
長身のすらっとした女性が花束を持って結城に聞く。
「あなたは?」
「事故現場にいた【青山幸奈(26)】です」
読者諸君に知らせておくと、この女性はあのヘリコプターの女性パイロットだった。
「ああ、連れていきますよ」
結城は言った。そして秋菜に「ジュース頼むわ」と財布を秋菜に投げてよこした。
「師匠はいちごミルクね」
秋菜は休憩室の誰もいない部屋の自販機でジュースを購入している。
 その時だった。彼女の背後に背広服を来た細目の男がにこやかに笑って立っていた。そして無表情のまま彼女の背中に刃物のようなものを突きつける。秋菜の硬貨を持つ手が震えた。
「声を立てないで…岩本です。あなた島都さんの友人ですね」
(う・・・嘘)
恐怖で声がかすれて出ない。細目の男は無表情で笑顔を能面みたいに張り付け喋る。
「都さんにお伝えください。今度は12月11日。衆議院議員の曽根周子を大洗の自宅で殺します。必ず伝えてくださいね」
男はそれだけ言うとその雰囲気をふわっと消した。
「秋菜―――。どうした。いちごミルクまだ探しているのか」
結城が休憩室に戻ってきたとき、秋菜は自動販売機の前でぺたんと座り込んで震えていた。
「どうした、秋菜!」
真っ青な秋菜を抱きかかえて、結城は声をかける。
「お、お兄ちゃん」
秋菜はガタガタ震えていた。
「12月11日、衆議院議員の曽根周子を…大洗の自宅で殺すって…い、い、岩本が」

 病院のロビーに長川警部と鈴木刑事が駆け付けた。
「鈴木君、君は監視カメラを病院から提出してもらってくれ」
「は」
鈴木は敬礼する。
「警部。すまんな。何度も」結城は言った。
「いや、岩本がまた動き出したとあれば、また君らに協力を頼むことになる」
長川は頷いた。

 休憩室で都は秋菜をテーブルに座らせ背中をなでなでする。
「わかった。ありがとう」一通り秋菜から証言を手帳にまとめ、長川警部は頷いた。
「イタズラって事はないのか」
結城が聞くと、長川は首を振った。
「それはない。何故ならテレビ局の殺人事件と国際会議場の殺人事件、その被害者の大半が一同に会したパーティーが愛知県で開かれたんだ。そのパーティーは地元の政財界と燃料精製業界の関係者のパーティーがあって、そこでとんでもない余興が行われたんだ」
「それが野畠和人さんに無理やりボクシングさせて殺した事件だよね」
都が聞くと長川は頷いた。
「野畠和人は孤児院出身で小児麻痺の影響で障害者枠で殺された三橋の会社に入社した従業員だった。あの会社は表向きは障害者を積極的に雇っているベンチャーだったが、三橋がガテン系でな、障害がある従業員をサンドバックにボクシングをする癖があったらしい。今回のパーティーでもそれが行われて…警察は因果関係なしと判断したんだがその従業員は亡くなっている。それを撮影したビデオが三橋の会社から出てきたんだが、酷いビデオだったよ」
長川はため息をついた。

「みなさーーーん」
栗原が嬉しそうにマイク片手に叫びだす。
障碍者雇用促進法で会社にダメージを受けている人――――。障害者は生産性がないから切り捨てるのは当然なのに、人権福祉の名のもとに政権にイチャモンつけているパヨクの勢力にイラついている議員の皆さん。今日は障害者を思いっきりボコボコにして憂さ晴らしをしましょう」
障害で体が動かない野畠和人がふらふらとパーティー会場の真ん中に突き出される。上半身裸でグローブを装着されている。
「俺はやれるぞ」自分を強く見せたいマッチョな連中が集まっているパーティーである。自分の強さをアピールしたい経営者や議員が次々とボクシングに参加し始めた。

「このパーティーに参加していたのは、立場上止められる状況になかった弱い従業員を除けば、テレビ局で殺された渡辺喜美社長、杉山澪議員、文化人の冨塚弘、作家の伊原崎、芸能人の平成孝也、そして今回殺された三橋社長と栗原秘書、佐々木専務…それ以外に今予告された曽根周子議員ともう一人、ビデオを撮影した人間なんだが…まだ顔がわかっていない…。こいつらがパーティーに参加していた。このビデオは捜査資料だ。外部には出ていない」
「つまりイタズラではないと…」
結城は言った。
「ああ…岩本本人の可能性が高いな」
長川は言った。
「でも酷い…障害者を相手に無理やりボクシングさせて死なせてしまうなんて。どうして警察は」
秋菜が声を震わせると長川は「県警は違うからわからんが、上からの圧力だろうな」と言ってのけた。
検察審査会への不服申し立ても、彼には遺族がいなかったからな。なされなかった」
長川はため息をついた。
「岩本がこの事件に関わっている人間を殺していると考えれば次に狙われるのは曽根周子議員ってわけだ」
「この人かな」
千尋タブレット端末でYouTube出して見せる。
「今ちょうどライブ配信をやっている」
 そこには貧相な白髪のオバサンがネグリジェ姿で震えながら訴えている。

―助けてください。岩本さん私を殺さないでください。私は罪を償います。警察で全てを話し、議員を辞職し、全てを話して法の裁きを受けます。お願いですから命ばかりは助けてください―

「あ、ワイドショーでやっている」
瑠奈が休憩室のテレビをつけると、「次に狙われるのは曽根議員か」という字幕とともにYouTubeのライブ映像が流れている。
「よっぽど助かりたいんだな」
結城は唸った。都はじっと前を見て真面目な顔で言った。
「うん、今度は絶対に死なせない。岩本君にこれ以上誰も殺させない」
「そのための会議になるのはもう一人のパーティー参加者。撮影者Aの特定だ。岩本にとってこいつも標的の一人のはず。そいつに成り代わって殺しに来るか、こいつを脅して殺させに来るか…。もう一人の撮影者の保護の為にも早急に割り出す必要があるな」
長川は立ち上がった。

 千尋の家に入院中の勝馬以外の探検部は集まって大洗にある曽根周子議員の邸宅を調べていた。
「大洗市街地の北側の丘の上にあるわけね。周囲は森でうわ。岩本さんが潜むには絶好の場所っぽい」
「それは大丈夫だそうだ」
結城は言った。
「上空からヘリコプターで森中を熱探知して、その映像を県警本部で分析して、岩本が潜んでいた李警官に成り代わろうとすればわかる仕組みだ。洋館内部には例によって最新式のセキュリティチェックがなされ、国際会議場と同等のチェックが行われる。さらに曽根議員は怯えて引きこもっているみたいで洋館の密室でガードされている形になる。ガスとかを送り込まれないように通気システムにもセンサーが走っているらしいぜ」
「すごい警備ね」
瑠奈が感心したように言った。
「県警はこのヤマで岩本に決着をつけるつもりだろうな」
結城は言った。
「それに曽根議員は安全の為にYouTubeでこまめにライブ配信しているみたいだしね。映像に部屋のテレビまで映して、ライブ映像だとアピールしているし」瑠奈はYouTubeを見る。
「つまり、部屋で何かあれば一発でわかるってわけか」
「ネットでは岩本が議員を殺すところを見ようって言っている人もいるけど」
千尋は人間のグロテスクさにため息をつく。
「だが、岩本もこれを突破する算段はつけているんだろうな。恐ろしいとんでもないトリックで」
結城は歯ぎしりする。
「うん…曽根議員の命を守るためには何か発想の転換が必要なんだよ」
都は声を上げた。

12月11日―。
 大洗は快晴に恵まれた。警邏パトカーに先導され、長川が運転するセダンは大洗を走る。都と結城は後部座席に乗っていた。
―さて、いよいよ殺人鬼岩本承平の予告した曽根周子議員殺害の11日となりました。大洗には厳戒態勢が敷かれ、多くの装甲車や機動隊員が出入りしています。果たして県警は今度こそ岩本容疑者から被害者の命を守り通すことが出来るのでしょうか。
 大洗観光ホテルの集まる場所から陸に上がる坂道で警察によるトランクチェックや車体の下のチェックが行われる、第一関門。坂道を上がって洋館の前に車が停車し、靴まで脱がされて徹底的に調べられ、荷物は有無を言わさず預けられ、衣服だけで手ぶらで中に通される第二関門。そして今回殺人予告された曽根周子議員が引きこもっている部屋のドアのベルギー製の電子ロックが厳重な最終関門。
「お嬢様、茨城県の女子高生探偵島都さんと助手の結城竜さん、県警の長川警部を連れてまいりました」
執事の沢辺倉之助(61)がインターホン越しに声をかける。ドアのロックが外れる音がした。
「入って」
物凄いお香の匂いとお札が張り巡らされた異様な部屋がそこにあった。ソファーに座り布団の下から綺麗な足を延ばしながら、65のオバサン議員はやつれた顔と白髪でこっちを見た。両手はタオルの下に隠され、何かを握っている。結城は「拳銃だ」と直感した。扉が締められる。