少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

プロジェクトR殺人事件File4 転回編❷


7

【事件関係者】
・韓蘭(16):高校2年生。
・高橋桜花(51):市長。JBCから国民を守る党党首。
・清水川勝利(61)不動産会社社長
鯨波令和(50)日本奉還党議員
・鳥森昭三(47)市助役
・草薙正太郎(30)所轄刑事
・一宮春代(27)所轄刑事
・小池A
・小池B
・小池C

「助けてくれ」清水川が首を絞められ、悲鳴を上げている。その足元では顔面が血だらけになった鯨波が仰向けに倒れ、置物が転がっている。
 髑髏の様に焼けただれたそいつは冷静にSITを見回した。
(どうやってこの警備を突破したんだ)
結城は驚愕した。部屋の前では徹底的に岩本承平が変装していないかチェックがなされ、さらにその様子を特殊部隊が徹底監視…秘密の抜け穴はないし、窓の外にも機動隊が警備をしているのだ。別の人間が岩本に脅された場合なら侵入は出来るだろうが、岩本本人が突破できる状況ではない。
(となるとまさか…最初から入れ替わっていた)
結城は冷や汗を流して岩本を見た。
(いや、少なくともこの警備体制が敷かれてから、高橋市長が岩本でないことは、警察が一度確認している。そんなことがあり得るわけがねぇ)
「ここから…どうやって脱出するつもり?」
警察官の間から都は声をあげた。
「絶対に逃げられないよ」少女探偵は殺人鬼とにらみ合う。
「逃げられないのなら、逃がしてくださいと頼むまでです」
岩本承平は清水川から奪った携帯電話を、溶け落ちた耳に当てた。
「先生…こんばんは…岩本承平です。先生…僕をこの守谷市役所から逃がしてほしいんです。人命第一という事でお願いします。僕は今ボタン一つで先生を終わらせられる存在だと…わかっていますよね。ちなみに僕をこの場で射殺したとしても、全てばらす手筈は整っています…市役所の前に車を用意しておいてください」
「岩本君‼」
「お前‼」
長川警部と女子高生探偵が叫んだ直後だった。突然その場にいた特殊部隊の無線が何かを言った。直後、特殊部隊が包囲を解く。
「嘘…」
都はこの光景に絶望的になる。長川は拳銃を突きつけるが、人質が盾になり、清水川が「やめろおお、やめてくれぇええええ」と悲鳴を上げる。
「この男と繋がっている警察官僚がいて助かりました」
岩本は清水川をぎゅっと締め上げながら言った。

 パーティー会場で「先生」は真っ青になって腰を落とした。
「バカな…なんで岩本が…まさか計画がばれているんじゃ」
岩本は人質を盾にしながらエレベーターを降りた。市役所の扉を出てマスコミの前に現れると大勢のカメラが光った。
「出てきました。岩本承平容疑者です。警察の拳銃な警備を突破してどうやって市長室に侵入したのでしょうか…ああ、犯人は警察の用意した車に乗って、人質をとって市役所から出ていこうとしています」
セダンは急発進して、マスコミが逃げ出す中で大雨の中規制線をぶち破り、大雨と暴風の中で市役所前を走りだし、道路に出て急発進をした。警備部の車が慌てて追いかける。
「白バイは待機しろ。暴風の中追跡が出来ない」
と警備部の連中が騒ぎ、茫然としている白バイ隊員の横で結城は白バイにまたがり、都が「とう」とジャンプして結城にしがみついた。
「こら、待て!」
白バイ隊員が大声をあげた時、白バイは追跡する警備部のセダンを追いかけ始めていた。
「追え」
マスコミの中継車が何台か急発進する。

 物凄い暴風の中、水しぶきを上げて煽られるようにして車は走っていく。そのテールランプを必死で追いかける結城。背後からマスコミの車が追跡してくる。結城は必死で建物の陰になっているところを走ってどうにか暴風をやり過ごしていたが、セダンの追跡劇には間に合わない。暴走するセダンは互いにぶつけ合いながら追跡している。その時だった。風にあおられ火花を散らしながら信号機が倒れてきた。逃走車は何とかよけたが、つられて次々電線に引き込まれるように倒れていく電柱を警察車両はよけきれず、電柱に突っ込んで電柱の爆発とともに1台が宙に舞い上がり、もう一台は激しく横転した。後続車が慌てて停止するがマスコミの中継車に派手に玉突きされた。横転した車から警官がよろよろ助け出されるのを横に結城がパクった白バイは必死で追跡する。
「都! あいつどこへ行くと思う」
結城は言った。
「多分川だよ。台風の時の川は危険だから絶対警察官を大勢配置できない。川の流れで逃げることを考えているかもしれないよ」
都は結城をぎゅっと握った。
「了解」結城は喚いた。

「いつ暴れられるんですか」
ガラの悪いならず者は不動産会社のカウンターの前でソファーに座り、小池Cに聞いた。
「焦るな。市長が演説をかましてからだ」
小池Cは眼鏡をずり上げた。その時会社のシャッターが派手に開けられた。ガラガラという音に一同が驚愕して、そして次の瞬間中に入ってきたクソガキにメンチを切った。
「お前誰だ…」
小池Cは一番手の北谷勝馬にガンを飛ばした。
「囚われの女性を助けに来たヒーロー」
勝馬はそういって、後ろから見ている秋菜にどやっと振り返り、次の瞬間ぶん殴られた。次の瞬間小池Cが秋菜の回転蹴りに沈んだ。
「バカなこと言ってないで全員ぶちのめしちゃってよ」
秋菜は勝馬を叱咤する。が次の瞬間秋菜がヤンキーの男に蹴り飛ばされ「うっ」と苦し気に机にぶつかってお腹を押さえた。それがいけなかった。
「やろぉ」
勝馬の太い腕がヤンキーの男とその後ろのサングラスを一気にぶっ飛ばす。鉄パイプを振り上げたヤンキーを板倉大樹が蹴り飛ばし、勝馬軍団が次々カウンターの中に入ってきた。
「秋菜ちゃん! 大丈夫?」
瑠奈が秋菜を助け起こすが
「へへへ、かわいい女の子じゃないかぁ」
とならず者一匹が瑠奈に迫ってきた。瑠奈はその場にあった鉄パイプの先端をいきなりならず者の股間に叩き込み、そいつはグロンギ語を発しながら泡を吹いて倒れた。
「ボールは吹っ飛んだ?」
瑠奈が髪をなびかせ決然と見下ろした。
 扉がぶち破られ、野郎一匹が扉と一緒に部屋の中に吹っ飛んでいた。顔中を腫らした北谷勝馬と板倉大樹が、部屋の隅で怯えている母子を見つけて笑った。
「もう大丈夫ですよ」
「助けに来ました」勝馬は鼻血を出しながら言った。

「おい、しっかりしろ、鯨波さん」
顔面を血だらけにしながら、天井に向かって腕を上げようとする鯨波に長川は喚いた。
「もうすぐ救急車が来る…いったい何があったんだ」
長川警部は叫んだ。
「岩本だったんだ。高橋市長が岩本だったんだ」
血だらけの顔のまま鯨波は言った。
「部屋に入って…奴が振り返って…その顔は既に骸骨だったんだ」
「ちょっと待って」
鈴木刑事は振り返る。目線の先にいたのは鳥森助役だった。
「あんた、事件が起こる直前、この部屋に入ったよな。その時、高橋市長はどんな感じだった」
「どんなって…こっちを見ようともしていませんでした。だから骸骨になっていたかどうかなんてわかりませんよ。私を疑っているんですか? 冗談じゃありません。市長が本人かどうかは定期的に確認していたんでしょう」
鳥森は一宮と草薙刑事を見た。
「ええ、昨日も確認しています。岩本の変装ではないと確認してから、この部屋から市長は出ていません」
草薙刑事が答える。
「完璧な密室ですよここは。完璧な密室…。そんな状態で岩本はどうやって市長を殺して死体を処分して入れ替わったんですか」
と鳥森…。
「本当に市長は出ていないのか」
「ええ、市長室に専用のトイレもありますからね。この部屋から出ようともしていませんでした」
と眼鏡の女刑事の一宮がきりっと答える。
「警部…救急車が到着しました」
西野刑事が報告した。長川はため息をついた。

 救急隊に運ばれ救急車に乗せられる鯨波議員。その様子を長川は臍を噛む様に見つめた。
「一体岩本はどんな方法で…この不可能な密室トリックを突破したんだ」
救急車が出発するのと入れ違うように、無茶苦茶になった規制線を突破して女子高生薮原千尋が原付で市役所玄関に突っ込む様に近づいてきた。そしてハンドルを取られてひっくり返り、濡れた硬いタイルに体を放り出される。長川は「あ」と駆け寄る。
「おい、誰だ君は」
警察官が抑えようとするのを長川は「薮原さんじゃないか!」と声をかけた。
「どうしたんだ」
「警部…高橋桜花市長は悪い人じゃない。清水川って社長に家族を誘拐されて、無理やり差別的なことをさせられていたの」
雨に濡れて髪の毛が滅茶苦茶になった千尋が息もだえだえに長川警部に言った。
「その家族は今勝馬君たちと一緒にいる。警部‼ 市長を助けてあげて‼」
千尋に縋り付くように言われて、長川警部の顔が引きつった。
「な、なんだって…」

8

 増水した河川敷の堤防の上で、セダンは停車していた。岩本承平はゆっくりと嵐の中で、車のライトに照らされた清水川勝利をゆっくり追いつめる。
「助けてくれ…俺は本当の黒幕じゃないんだ…ほら、お前がさっき電話した政治家の大先生がいるだろ…それが黒幕なんだよ」
「お前…」
岩本は清水川にすごんだ。
「今からこのスマホでこの車のライトの前で全てを告白してもらう。僕が殺した高橋市長とお前たちが共謀して行おうとしていたデススクワット、いやジェノサイド計画を全て喋るんだ」
清水川が目を見開いた。その時だった。突然岩本が手にした携帯電話が鳴りだした。岩本が溶けた耳にスマートフォンを当てがった。

「岩本承平か」
機動隊員が目を回した野郎どもを護送車に運んでいくのを尻目に長川警部は言った。
「県警の長川警部だ。お前に聞いて欲しいことがある」
—自首をするつもりはありません。高橋市長も清水川も死ぬべき人間だ。こんな奴を生かしておくと、大勢の人が犠牲になる事態が今度こそ起きかねない。
「そういう事じゃない」
長川は言った。
「高橋市長は…無実の人間だったんだ。奴は奥さんと子供を清水川社長に誘拐されたんだ。そしてそれを人質に今までのYouTubeや選挙でのおかしな行動やヘイトをさせられていた。そして今回のジェノサイド計画にも加担させられていただけだったんだ。さっき保護した奥さんの話だと高橋は発達障害があるが、温厚で心の優しい人間だったらしい…。そいつが障碍者雇用で雇われた社長に一家で拉致監禁され、こんな差別に加担されていたんだ。高橋は今まで苦しんでいたんだよ。なぁ、岩本…お前は高橋桜花を殺したのか?」

嵐の河川敷で、岩本承平という髑髏は真っ青になった。
「そんなバカな…じゃぁ、僕は…僕は何のために…なんてことを」

 長川は必死で反応を待った。岩本は動揺している。このままだと奴は間違いなく清水川を殺すだろう。だが奴が動揺している間に都と結城君が間に合えば…あるいは…長川の耳にごーごーと増水する川の音が聞こえてきた。

「そんな…そんな…それじゃぁ、こんなことはしなくてよかった。しなくて良かったんだ。なのに僕は…あああ」
髑髏は半笑いに近い声をあげた。その時だった。バイクが爆走する音が聞こえた。鉄橋に続く道から、一台の白バイが岩本と清水川の目の前で停車した。
「岩本君」
都が悲し気に白バイから降り立った。結城も後に続く。
「うわぁあああああああ」
清水川が悲鳴を上げながら泥だらけになって堤防を転がり落ちて逃げ出していく。
「ははは、僕はバカだ。僕はバカだ…」
髑髏は上ずった声をあげて嵐の中立ち尽くしている。その時だった。
—ぎぎぎぎー
凄まじい鉄がきしむことが聞こえて3人は振り返った。鉄橋が歪んでいた。大雨で橋脚に物凄い力が加わり橋げたが歪んでいた。3人がさらに驚愕したのは、鉄橋の歪んだ道路に飲み込まれそうになっている一台の小型車だった。次の瞬間橋げたが落下し、車のライトが飲み込まれる。
「くそっ」結城が真っ青になる。都が慌ててロープをセダンのボンネットから出す。確かそういう装備があったのを覚えていたのだ。都がロープを手に走り出そうとしているのを結城が慌てて追いかける。
歪んだ鉄製のトラスと道路の間にかろうじてミニは引っ掛かっていた。しかし落橋した道路が壁みたいになっていて、堤防から見ると60度くらいに傾斜している。
「助けて!」
片言の声がした。アジア系の外国人の一家らしい。
 都は幅員警告の標識にロープを結び付けて自分にまこうとする。結城は「緊急です。小貝川〇〇橋梁で橋が落橋。乗用車一台、家族3人が橋に挟まって身動きが取れない」と絶叫していたが、都の行動に気が付いて慌てて止める。
「バカやろう。お前じゃ無理だ」
結城は声をあげた。
「でも間に合わないよ消防車は」と都。結城は自分にロープを巻こうとして、それを岩本は止めた。
「僕がやります」
岩本は窪んだ眼で結城を見た。
「お前…」結城は岩本を見た。
「わかった」都は言った。
「岩本君お願い。でも絶対岩本君も犠牲になっちゃだめだよ」
都は言った。ロープに体を巻いた岩本が落ちた道路を滑り降り、トラスに固定された車のドアを開けて、中にいた運転席のお父さんを引っ張り出す。
「子供を先に…」
「あなたの体を先に出さないと無理です。上に上がったら家族を引っ張り上げてください」
岩本は眼鏡のお父さんを車から引きずり出すと、ロープにつかまらせてお尻を押し上げて、結城が上からその手を引っ張り上げる。
「次はお母さんだ」
「姉です」
14歳くらいの女の子が声をあげた。
「妹を先に」
「でもお姉ちゃん足が」と12歳くらいの女の子が泣きながら言う。
「とりあえず妹を先にね」
岩本は羽みたいに妹を持ち上げて結城の手に掴ませ、持ち上げる。
「妹さんは堤防の上に」
結城が言った直後だった。突然トラスが派手に軋んで、壁になっていたアスファルトが落下して流された。車もトラスにひかれ、そして岩本は宙吊りになってしまった。必死でぶら下がりながら岩本は手を伸ばすが一頭分長さが足りない。お姉ちゃんは必死で手を伸ばしている。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん!」
妹が泣き叫ぶ。都はロープを掴んでいきなり岩本の腰にすべり降りて、そのまま岩本の腰に巻き付いているロープを掴んだが「うわぁあっ」と派手に車に落っこちてしまった。
「都…」
心臓が止まりそうな結城。空はだいぶ明るくはなっていたが、都はお姉ちゃんを車から引っ張り出し。その股間に頭を入れると。「うにゅううう、ふぁいとおおおいっぱああああつ」と足を震わせ真っ赤になりながら肩車した。岩本がお姉ちゃんの手を引っ張って持ち上げ、結城とお父さんが引っ張って持ち上げる。
「頑張って、ふぁいとおおお」
都が車に乗ったまま声援を送り、家族は堤防の上で抱き合った。
「おい、岩本…俺がお前にぶら下がって都を助ける…」
結城は言った。
「結城君…そんなことしたら岩本君のお腹が破れちゃうよ」
「じゃぁどうするんだよ」
濁流に引っ掛かった車の上でのんびりとした声を出す都に結城は叫んだ。
「救助隊が来てくれるよ。流されても無理して泳がなければどっかに流れ着くよ。私泳ぎは得意だもん。林間学校でお風呂でいっぱい泳いで」
「風呂と増水した川だぞ!」
結城は喚いた。都はにっこり笑った。そして結城君にびしっと指を刺した。
「こっち来ちゃだめだよ。私は絶対助かるから。流されても私は無理して泳いで体力を消耗しない…。絶対助かる様に頑張るから…でももし結城君まで流されたら…私心配でそれどころじゃなくなっちゃうよ。だからお願い」
 少女は結城竜の瞳を射抜いた。結城は真っ青になった。
「大丈夫! すぐ救助隊の人が来てくれるよ。だから」
次の瞬間、車がトラスごと大きく動いて、そして都の体は一瞬飛び上がり、彼女は「ゆうきく…」とまで言って車ごと川に消えた。
「みやこおおおおおおおおおおお」
結城は構わず増水した川に飛び込んだ。
 結城は川から顔を出して必死で周囲を探って、都の小さな手がグッジョブみたいにしているのを見て、そこに向かって泳ぎ、彼女の体を掴み上げ抱きかかえると目ざとく流されている流木を見つけて都をしがみつかせた。
「ケホッケホッ」
都は水を吐く。そして流木にしがみついている結城を見て
「結城君‼。大丈夫って言ったのに!」
と涙をボロボロ出した。
「大丈夫な分けねえだろうが」
結城は声をあげた。
「俺はお前をよろしくと秋菜に頼まれたんだ。それにお前のお母ちゃん、お前が眠っている間…泣いていたんだよ…」
結城は都の背中をがっちり流木に押さえつけながら言った。
「お前が流されると黙ってみてられると思ったのかよ。ふざけんな」
「ごめん」
都は流木にしがみつきながら結城に謝った。
「あれはターミネーター2の真似かよ」
「?」
「サムズステップだよ」
結城は大声を出した。都は結城を見て目をぱちくりさせる。
「カッコつけてんじゃねえよ」
結城は涙声になっていた。都は「ごめん」と声を出した。
「頑張れよ…絶対手を離すなよ。どんなに寒くても痛くても手を放しちゃだめだ。鉄骨とかぶち当たったり、どこか打ってないか…」
「大丈夫だよ!」都は笑顔で言った。
「そうか…。そりゃよかったぜ」
結城の声が震えだし、丸太を掴む手が緩みそうになるのを、都が気が付いて慌てて結城の背中を渾身の力で流木に押し付ける…そして頭上を通る橋、そこを走り抜けるサイレンのパトカー向かって大声で叫んだ。
「誰か助けて‼ 誰か、誰か助けて!!」

 明るくなった雨の河川敷をセダンが雨水をはねながら走ってくる。
 救急隊や救急車が河川敷に集結して、消防隊があたりを封鎖している。家族3人が毛布でくるまれている中、救急隊にお父さんは必死で訴えていた。
「お願いします。あの2人を助けてください! あと2人を助けてください。私たち避難所を追い出された。日本人恨んでいた…でもあの人たちは私と娘と娘を命がけで助けてくれたんです。お願いします。どうか…助けてください…‼」
 セダンから出た長川警部は茫然と河川敷に座っている岩本を見つけると、何か物凄い感情をこみ上げさせたが、それを押し込めて手錠をかけた。
 その後ろで、薮原千尋は真っ青になってそのまま顔を覆って泣き崩れた。

 パタパタパタパタという音が都の耳に入ってきていた。都は目を開けた。結城の寝顔があった。都ははっとして顔を上げようとして頭を天井に打ち付けた。小さな渡船のような船に、都と結城は載せられていた。
 都は結城の背中を必死で探った。
「大した怪我ではありませんでした。あばらが折れているらしいですが」
操舵室の方から声がした。
「あなたが大声で助けを求めていたから居場所はすぐわかりました…」
黒い影は操舵をしながら振り返らずに言った。都は目を閉じた。この船にこの事件を引き起こした元凶がいる。
「わかっていますよ…」
その人物は全てを悟ったように都を振り返った。
「この不可能密室を引き起こした真犯人が、この船に乗っているといいたいのでしょう」