少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

劇場版少女探偵島都6 殺人パンデミック5 解答編

解答編

 

 
9
 都の指が指示した人物は目を見開いた。
「ちょっと待ってくれ。その人物を含めて当時司令部にいた全員がMPの身体検査を受けているんだ。この人が岩本なわけないだろう」
長川警部が驚愕の表情で都を見つめる。
「そう。さっきも言ったように、この事件を引き起こしたとされる岩本承平君は戦後最悪の大量殺人鬼と言われています。警察や探偵の思考を先読みしてそれを利用し、発想の転換でどんな硬いセキュリティも突破して標的を殺害する危険な人物です。今回の事件で使われたトリックもそんな岩本君だからこそできたトリックなんです」
「だからどんなトリックを使ったっていうのよ」
犯人とされた人物の横で朝霧三等陸曹が声を張り上げた。
「そのままだよ」
都は言った。
「つまり、この事件は岩本承平っていう殺人鬼なら何かしらのトリックを使ってこのセキュリティを突破したかもしれない。そういう概念が成立するからこそ成立したトリックなんだよ。長川警部はバスとかにも鑑識を入れたよね。そこで岩本君の指紋を多数見つけた」
「ああ」長川は言った。
「つまり岩本君がこの駐屯地に現れたことは証明されたわけだ。そして番川一佐が岩本君に襲われる事件が発生してさらに少女探偵島都が岩本君とずっと一緒にいたという証言までしている。これ以上この心理誘導トリックを成立させるのにいい環境はない」
国山三佐が犯人と名指しされた人物を驚愕の表情で見つめる。
「もうわかったよね。この事件は岩本君は関与していない。番川一佐、あなたが岩本君にトイレで襲われたというのも全て自作自演だった。あの射殺命令を出したのも、番川一佐が岩本君に変装した自分を演じてこのようなことをした、番川一佐…あなたによるものだったんだよ」
「そ、そんな」
朝霧は声を震わせた。
「どうしてそんなことが言えるんですか」岩田三等陸曹が都に問いかける。
「そうだ。お前ほとんど現場で捜査していなかっただろう。何で合点が行ったんだ」
結城が聞く。
「番川一佐という歴戦の猛者があっさりやられたから?」と朴。
「ううん。岩本君の強さを見れば番川さんが気絶させられたこと自体はそんなに不思議な事じゃない。私が変だなと思ったのはトイレに入ってきた番川さんが『岩本君が正面から現れて気絶させた』と言ったことだよ。しかも骸骨のような素顔をさらしてね」
都は言った。国山は目を見開いた。
「そんな」
「そう、岩本君は用心深い性格だからね。自衛官の番川さんがトイレに入ってきたところを正面から顔を見せる形で襲うわけがない。後ろから不意打ちをかけて一瞬で気絶させるはずだよ。それに骸骨の素顔で襲ってきたって事実自体もおかしい。いつトイレに人が入ってくるかもしれない時にトイレに潜んでいた岩本君が素顔のままで襲ってくるのも変なんだよ。岩本君ならマスクで顔を隠した変装姿を既に作って番川さんを襲って、そしてトイレに連れ込むという方法を使うはずだよ。そう、岩本君はあのセキュリティを突破なんてそもそもしていなかったんだよ」
都は驚愕の表情の番川の横に立った。
「番川一佐。あなたはマスクを着用することで、事件が起こった後で思い返してみた国山さんに『あれは岩本君だったかもしれない』と思わせることが目的だった。あれは番川さんに誰かが変装するためのアイテムではなくて、『あれは誰かが番川さんに変装出来るかもしれない』という状況を作るためのガジェットだった。いつもマスクをしていない番川一佐が司令部でマスクをしていたという不自然さも、心理トリックの為にわざと作られたものだった。番川さんは司令部から姿を消した後自分で迷彩服を脱いで下着姿になってトイレで倒れて見せた。そうすることであの司令を出したのは自分ではなくて岩本君だと思わせようとした。多分、とっさに考えた事だったんだよね」
番川一佐はしばらく下を向いていたが、小さくため息をついた。
「この状況で隠し立てなんかしても仕方がないか」
番川は都を見た。
「その通りだ。私が岩本に罪を擦り付けた。あの指令を出したのは正真正銘私だよ」
「なんで…」
優奈が声を震わせると番川は振り返った。
「私が、殺人罪に問われるからだ…それも27人の人間を殺害した…」
番川はそういうと頭を抱えて座り込んだ。
「さ、殺人で…まさか、あの攻撃命令は…」
「私が独断で出したものだ」
番川は顔を覆って声を震わせた。
「政府はどんな命令を出したんですか!」
国山は声を張り上げた。
「政府は、あのデモ隊に朝鮮学校の生徒を差し出せと言ってきた。あの政府は自分たちの支持層へのパフォーマンスを何も考えないでやってしまう政府だ。でもまさかこんなことがあってもこんな消極的で後先考えない無策な方針を採用するとは…」
番川はため息交じりに言って朴は「そんな」と声を震わせた。
「都さん、番川一佐は英雄よ」と朝霧愛華は声を上げた。
「あなたが今まで罪を暴いてきた復讐目的の殺人者ではないわ。あなたたちの命を助けるために、自分の良心に従ったのよ。そのために200人の命を救ったわ」
「日本にできた新しい政府は自衛隊の政府ですから、多分そう考えて番川一佐を助けると思います」
都は言った。
「私も番川さんが殺人犯として裁かれていいとは思いません。私がいま生きているのは番川さんのおかげなんですから。正当防衛は絶対成立すると思います。でもそれが番川さん個人でそれを考えて選択して命令を出したことは間違いない。岩本君のせいにはしちゃだめだと思います。ちゃんとこれが正しいかどうか、私たちは考えなければいけないと思います」
都はじっと番川を見つめた。その目は正義感を広める女子高生探偵の目ではなく、何かに突き動かされるように見開かれ、結城はゾッとした。「私たちは虐殺する生き物なんですから」
 都の強い発言に番川はしばらく都を見つめていた。
「そうだな。君の言うとおりだ。でもこれだけはわかってくれ。命令を忠実に実行して命を懸けて職務に従事した隊員は間違いなく英雄なんだ。君たちの命を救った英雄。私と違って逃げも隠れもしなかった英雄なんだ」
「うん」
都は一度目を閉じてから、大きく笑顔で頷いた。「ありがと」
 番川は都に頭を下げると長川警部の前に進み出て一礼する。そして国山に「彼らが安全に帰れるよう最大限尽くしてくれ」と言った。国山は涙を流して長川警部と退出する番川一佐を敬礼で見送った。


 翌日、春の日差しの中、自衛隊のトラックが一台茨城の田園地帯を走っていた。
「もう、みんな早くお父さんやお母さんのところに帰っていいのに」
ほろが付いたロングシートに座りながら都が心配そうに瑠奈や千尋勝馬、結城を見る。
「都ちゃんのお母さんのいる体育館まではあと1時間。掃除の仕事場がある大学のすぐ近くよ」
朝霧三等陸曹は迷彩服姿で都の背中を撫でた。
「早く会いたいなー」都は笑顔で言った。
「お母さん、すごくお仕事頑張っておいしいものを食べるのも我慢してたんだもん」
自衛隊トラックの運転席からラジオのニュースが聞こえてくる。
―暫定政府が今日記者会見を開き、令和虐殺事件の死者数が25万人を突破する見込みを発表しました。
「なんでこんな事件が起こったんだろ」
瑠奈は後ろから県道と田園地帯、すれ違う荷台に大勢人を乗せたトラックがすれ違うのを見ながらぽつりと言った。
「岩本君が偶然見たあの女の子2人の会話が原因だったみたい」
都は言った。
「陳川警部が調べてくれたよ。会話の内容は韓国のパソコンは停電の時に壊れやすいっていう内容だったんだけど、片方の女の人が『韓国は停電の時に危ない』って受け取って、それを理髪店をやっているお母さんにお話ししたんだって」
都は言った。
「そのお母さんは『韓国人が停電の中で危ないことを企んでる』ってお客さんに喋ってしまって、それで『韓国人が停電を起こして何かを引き起こす』って噂が広まっちゃったみたい」
「豊川信金事件みたいだな」結城は声を上げた。
「あれも電車の中での女子高生の何気ない会話がきっかけに豊川信金という銀行で取り付け騒ぎが発生したんだ」
結城はほろの中で言った。
「こんなうわさがこんな事件を引き起こすかよ」
勝馬が吐き捨てるように言った。
「それなら今までもこういう事件は何度も引き起こされていただろう。毎年何憶万人死んでないと不自然だ」
「でも今回は偶然が重なってこういう事件が引き起こされちゃったんだよ」
都は言った。
「例えば勝馬君、結城君から『俺はブラッド・ピットの隠し子だ』って言われたらどう思う?」
「そりゃー」
勝馬は顎に手をやって、「ナルシスとの勘違い野郎の妄想だって笑いますね」と結城をジト目で見た。
「どういう例えだよ」
結城が突っ込みを入れる。
「それじゃぁその話を千尋ちゃんや瑠奈ちんや私や長川警部から聞かされたらどう思う?」
「信じますよ勿論」
勝馬が笑顔を女の子に振りまいて千尋が「模範解答だなぁ」と突っ込みを入れる。
「そう。噂を一人の人間から聞くよりも大勢の、それもよく知っている友達からそれぞれ違う場所で同じうわさを聞くと、なんかそれって本物かもって思っちゃうものなんだよ。これを心理学用語でええと、うーんと…」
「交差ネットワークの二度聞き効果…だろ」
と結城が都に助け舟を出す。
「そうそう、それなんだよ」
都が指を突き出した。
「そんな感じで散髪屋さんからお客さん、そしてタクシー運転手やスーパーの店員さんや自転車屋さんや本屋さんがお客さんとこの話をして噂を共有、それが一気に町中に広がって、普通に生活しているだけでこういう噂を何度も聞くことになっちゃったんだよ」
「それとは別に市長がTwitter陰謀論を展開する人で、さらにコロナで外出自粛で日常も経済も滅茶苦茶になって、何があっても不思議じゃないって空気になったんだな」
結城は言った。
「どういうこった」
勝馬が顔をしかめると、千尋が説明する。
「例えばさ、勝馬ネッシーを信じる?」
「あれって潜水艦のおもちゃでしょう。信じませんよ」勝馬がハハハハと笑うが、千尋が「じゃぁ今日あそこら辺を」と田んぼの電柱や防風林やビニールハウスを指さして、「ゴジラが歩いているのを見たとして、やっぱりネッシーは信じられない?」と聞かれて、
「いや、ゴジラもいるんならネッシーくらいいるんじゃないかって思いますよ」と神妙な顔になって言った。
「そう、私たちは数か月前まで普通に学校に通って探検部の部室でお喋りしていた。世界的なウイルスが広まって何か月も外に出られないなんて、全然考えられなかったでしょ。でも、そんな出来事が現実に発生した。コロナが広がって何でもありっていう空気が」
都はほろを見上げた。
「とんでもない事件を引き起こしたんだよ」


10


「この町でこんなうわさが広がって、それを市長があおっていた時、運悪く杉沢市で停電が発生した。停電自体は誰かが仕組んだとかそんなことはなくて、変電所の機械にヤスデが大量に入り込んだのが原因だったみたい」
自衛隊のトラックで都は言った。
「でも噂、それをあおる政治家、それがありうるかもしれないという異常事態のおかげで、多くの人たちが自分の家を守るために自警団を組織した。そして偶然発生した天ぷら火災のせいで大勢の人たちが韓国の人が暴れているという話を信じて、在日コリアンの人を襲い始めた。みんな人なんか殺した事のない普通の人たちだったんだけど、みんなが暴力を振るうようになると他の人たちもそれをするようになって、しかもエスカレートするようになったみたい」
「よく日本人は同調圧力が強いだの言われるけど、別に日本人が特別こういう傾向にあるとかそんなんではないらしい」
結城は言った。
「でも311の時秩序を大事に行動していた民度の高い日本人でさえ、条件さえそろえばそういう事をしでかしてしまうんだな」
結城はため息をつく。
「そして運が悪いことにそれをマスコミが噂を事実みたいに垂れ流してしまい、さらにTwitterまとめサイト朝鮮人が暴動を起こしたなんてデマが流れた。虐殺が発生した地域では偶然火事とかが起こってしまったケースが大半らしい。ゆういち少年じゃあるまいし俺らが住んでいる町で火事なんてめったに怒らないだろ。だから火事が起こって町で家が燃えているような事態が起こって、そしてこんなニュースが流れた日にはみんなそれを信じてしまう。そしてその地区のマイノリティとか怪しいと決めつけた人とかを普通の人が片っ端から暴行したり殺したりし始めたらしい。そしていつの時代にも一定数いる虐殺を望んでいる奴がヒャッハーし始めて、中華街やコリアタウン朝鮮人学校やイスラムのモスクまで燃やし始めた。後は外国の味方をしているとか言われたマスコミとかもな。後は秩序が崩壊しているとみるや、人を殺したい傷つけたいという願望を持った奴がネットでサッと集まって障害者施設や老人ホームを襲って、神奈川の事件を上回る死者を出した施設もいくつもあるらしい」
アメリカのカード大統領は暫定政府を承認すると…
ラジオがニュースを伝えている。
「殺人パンデミック、司法崩壊…挙句に自衛隊のクーデター、先進国の日本でこんなことが起こったことに外国のニュースは相当びっくらこいているよ」
結城はため息をついた。
「コロナはきっとあと何年も終息しないし、きっとこういう事はこれからも起こると思うよ」
都は言った。
「だから絶対真実を大事にしないといけない。デマなんか信じて拡散しちゃいけない。差別を広めちゃいけないし信じちゃいけない。今は虐殺をしやすい時期なんだから」
「もうすぐ着くわよ」
朝霧は言った。


 自衛隊の73式トラックは体育館の前に停車した。運転手と朝霧が後ろの階段をセットしてくれる。
「ありがとうございます」
都が笑顔で頭を下げた。朝霧愛華三等陸曹は都を思いっきり抱きしめた。
「あなたのお母さんには長川警部と結城君の妹さんが付いていてくれている。あなたが生きてくれて本当に良かった。これから大変な日々が続くと思うけど、私は貴方たちの事は忘れない」
「ありがと!」都は朝霧の頭を撫でた。
「みんなを助けてくれて本当にありがと」
都は朝霧と離れると、結城は朝霧と握手をし、そして体育館に入っていった。
「おっと、都…マスクだ」
結城が朝霧に貰ったマスクを渡そうとするが、都は「ちょっとだけ」と手で制した。
「わかった」
結城は言った。
 体育館の中には大勢の人々が寝ていた。長川警部と結城秋菜はすぐに見つかった。
「お兄ちゃん」秋菜は結城に抱き着いた。そしてぎゅうっと抱きしめ、そして「うわぁあああああん」と号泣した。
「よしよし、よく頑張ったな」結城が頭を撫でた。
「ありがと、秋菜ちゃん」都が秋菜の頭をなでなでしてあげた。
「師匠!」秋菜は都に縋りついた。
「都…」
長川警部が都に静かに声をかけた。
「警部。お母さんはどこかな」
都に聞かれて長川は足元の青いビニールシートの上で眠っている女性を手で示した。
 彼女は半分黒焦げで手がボクシングスタイルのまま熱硬直していた。しかしズボンのパッチワークには見覚えがあった。都のお母さんだった。
 瑠奈と千尋が息をのみ、勝馬は顔をゆがめて変わり果てた都の母親から目を背け、ボロボロ涙を流した。
「職場の大学で…軽度知的障碍者のワッペン付けて掃除をしていたところ、侵入してきた暴徒に襲われたそうだ」
長川は小さな声で言った。
「ただいま。お母さん」都は歯茎をむき出しにした焼死体の顔に優しく触れて笑顔で言った。
「お母さん、帰ってきたよ。嫌だよ…いやだよ!」
都は母親の横に座り込んだ。
「いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、お母さん、お母さん! おかあああさあああああああん」
母親の死を長川警部に聞かされて24時間後。今まで気丈に振舞っていた都は、もはや耐え切れずに母親に縋りついた。結城は秋菜を抱きしめながら何も言えなかった。都の後ろでは千尋と瑠奈が体を寄せ合って、涙を鼻水を出しながら都と一緒に崩れ落ちるように号泣した。
 体育館にはほかにも多くの遺体が運び込まれていた。


 2人のオレンジ服の作業員が都の母親の遺体をタイミングを合わせて穴に放り込む。犠牲者の遺体がその中に大量に折り重なっていた。そしてそこにガソリンがぶっかけられ、穴から人間を焼くにおいが炎とともに出てきた。少し離れた場所の遊具公園で、勝馬と舎弟が号泣している横で、勝馬のお母さんが「都ちゃん、本当にいつでもうちに来ていいからね」と声をかけた。
「彩香もすごく心配しているし。絶対無理しちゃだめだよ」
「大丈夫です。結城君のマンションの秋菜ちゃんの部屋で一緒に寝させてもらいますし。本当にありがとうございました」
と都は笑顔で言った。
「やっぱり、都さん、俺のうちに来ましょうよ」勝馬がボロボロ泣きながら言った。
「結城なんかといてもつまらないですよ。それにうちの母ちゃんはズボラでケツがデカいけど、ジブリ映画のあの親戚のババアみたいな奴じゃありません。デカイケツ以外はいい女です。だから…うぶぁあああああ」
「はいはい、ありがと、勝馬君。涙を拭いて」都は優しくハンカチを出した。
「ちーん」都のハンカチで勝馬はちーんした。


 1週間後、都は秋菜との二段ベッドの部屋のベッドの上でぼーっと上のベッドを見ていた。秋菜の部屋の一郭にはお母さんとのツーショット写真が立てかけられている。一緒にエキスポ博物館に行った時の写真だ。
「お母さん…」
都はつぶやいた。その時「ししょー」と秋菜が扉を開けた。
「朝ごはんですよー」エプロンにフライ返しの秋菜の姿を見て、都は「うわっとっとっとっと」と起き上がって、「おおお、いいにおいがする」と台所に走っていこうとして、玄関から部屋着姿で「ちぇ、忘れずに送ってくるなよな」と高校の課題のレターボックスを2つ分、結城が手に持ってきた。
「おお、結城君。ゴミ出しくらい行くよ」
都が玄関に置かれたゴミ袋を手にすると「ちょ」という結城を見て、
「その代わり結城君。課題手伝ってね」
と言いながらゴミを両手に都は笑顔でさっそうと階段を下りて行った。
「ちょ、お前、割に合わねえぞ」結城が都の背中に突っ込みを入れる。
「やれやれ」


 燃えるゴミの集積ブースにゴミをけり入れると、集積室を出ようとドアノブに手をかけようとする都。だが直前に人が話しながら通り過ぎているのを見る。
「俺絶対子供に人殺して捕まらなかったって自慢したるわ」
「案外人殺しって簡単でしたよねぇ」
へらへら笑う多分住人のホワイトカラーの中年の声。都はドアノブに手をやりながら胸を押さえてしばらく蹲っていた。
やがて顔をパンパンとした都は涙をぐしゃぐしゃ顔をわしゃわしゃしてドアノブを開けて戻ろうと駐車場入り口のゲート前を歩こうとする。
「都さん」
ふいにコートを着た大柄な人物が声をかけた。都が振り返るとそこにいたのは骸骨の男だった。
「都さん。あなたのお母さんを死に追いやった人間が分かりましたよ。警察は今回の事件の殺人加害者が多すぎるという理由で訴追は見合わせる予定のようです。こいつらはみんないい歳のサラリーマンでそこそこの収入を持ち、あなたのお母さんを税金泥棒という言いがかりで暴力を楽しんであなたのお母さんを殺した後、今でものうのうと暮らしています」
「許さないよ。その人たちを殺すなんて」
都はキッと骸骨の殺人鬼岩本承平を見て、はっきりと言った。
「いいんですか。僕に一言復讐の気持ちを言ってくれれば、あいつらに地獄の苦しみを与えて殺してやりますが」
「なんで私が。そんなメリット私には全然ない」
都は言った。
「私はこれから秋菜ちゃん特製の朝ごはんを食べるの。そして結城君に私の分の課題もやってもらって。その間に秋菜ちゃんにあつ森を教えてもらうの」
都はにっこり笑った。
「これが私の正義」
「怠惰なだけでしょう」
殺人鬼が思わず都に突っ込みを入れた。都は目をぱちくりさせて
「岩本君、私と朝ごはん一緒に食べたいの?」
と聞いてきた。都のその瞳を岩本はじっと見つめた。
「遠慮しておきます」
「秋菜ちゃんの朝ごはんおいしいのに」
都がそう言ったとき、殺人者は駐車場から消えていた。


 少女探偵島都は階段を駆け上がり、扉を開けた。彼女が笑顔で「ただいまー」と飛び込んだ食卓にはハムエッグとご飯とみそ汁が用意されていた。
 結城兄妹は顔を見合わせ、秋菜は笑顔で言った。
「おかえりなさい。師匠!」


おわり