少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

劇場版少女探偵島都6 殺人パンデミック④

殺人パンデミック7-8

 

 
7


「もう一度お願いします」国山は声を震わせた。
「正当防衛射撃を許可する。駐屯地内に暴徒を入れるな」
番川一佐はまっすぐモニターを見て言った。
朝鮮人死ねぇ」
暴徒たちが叫んで駐屯地の正門を破って後退した自衛官に突っ込んできた。
 柵にダンプカーが突っ込んで駐屯地に別の突破口が出来る。その直後だった。
 会議室に激しい銃声が聞こえて子供たちや朝鮮学校の生徒たちは悲鳴を上げた。
「都」瑠奈が都に縋りつく。勝馬は耳をふさぎ結城は立ち上がった。
 激しい銃声の中、愛国的市民の体に穴が開いて次々と倒れていく。グレネードがダンプカーのタイヤの下に投げ込まれダンプカーが爆発する。
「そ、そんな」
必死で身を伏せてその場から逃げ出す参加者と死体の山。桃田は運転席の人間が射殺されるのを見て「ひいいい」と悲鳴を上げ、頭を下げて尻振って泣きわめきながらその場から逃げようとする。必死で駐屯地からその前にある緑地帯の遊具に逃げ込んだ桃田をデモの参加者が捕まえた。
「お前、自衛官は撃たないといったよな」
デモ参加者の男たちは桃田を取り囲んだ。
「あれは朝鮮人の味方をしているんだ。朝鮮勢力の味方なんだ」
「うるせぇ」
デモ参加者が手にした金属バッドが桃田の顔面にめり込んで、桃田は地面に倒れこみ、それをデモ参加者が踏みつけた。
 発砲自体は3分くらいで終わった。死の恐怖を感じたデモ参加者の生き残りは死体の山を残して逃げ出した。
「はぁ、はぁ」
撃ち方やめという岩田の号令に連射をやめた自衛官は全員肩で息をしていた。まさか自分たちが日本人を大量に撃ち殺すなんて考えてもみなかった。死体の山の向こうには緑地帯があり、その向こうにかすかに見える市街地からは煙が上がっている。
 ここにいる誰もが思った。もう平成からずっと続いてきた日常は戻らないのだという事を。


「現場から報告。デモ隊に多数の死傷者」
国山がモニターをじっと見つめたまま報告して一佐に報告しようとする。そして気が付いた。
「一佐…一佐はどちらに」
戦後70年、自衛隊が始まって以来初めて日本人を射殺するように命じた自衛官幹部がいなくなっている現実が、国山に何か恐ろしい予兆を感じさせた。
「一佐! 一佐!」
国山が必死で指令所からシャットアウトゲートまでの廊下を歩き、ふと男性トイレに足を踏み入れた。男子トイレの一室がカギが開いているのに扉が閉まっている。国山が思い切って開けると、黒いシャツと官給の黒い下着姿の番川一佐が意識なく倒れていた。
「一佐…一佐!」
国山三佐が必死で揺り動かす。


「みんな、安心して」
さっきから会議室を出ていた朝霧愛華三曹は沈んだ声で言った。
「みんなは助かったわ。暴徒たちは逃げ出した。みんな助かったのよ」
安どの声が最初に漏れ、そしてすすり泣く声と歓声が響く中、高野瑠奈は立ち上がった。
「あの、大勢人が亡くなったんですか」
朝霧は黙ってうなずいた。「自衛隊が始まって以来よ。それで都ちゃん」
朝霧は都の顔を見た。都は何かを察したように朝霧を見た。


「まぁ、妥当な線だろうな」
結城は廊下を歩きながら言った。
「いくら虐殺が発生しているとはいっても、あいつらが自衛隊駐屯地を丸腰で占領しようだなんて土台無理なんだよ。こんだけ大勢のプロがいて武器弾薬があるんだぜ」
朝霧が医務室をノックする。
「失礼します。報告します」
敬礼する朝霧を手で制した国山三佐は島都と結城竜を事務椅子に誘導した。
「君たちが殺人鬼岩本と一緒に行動したことを咎めるつもりはない。ただ一点確認しておきたい」
国山は眼鏡を光らせた。
「岩本は君たちと一緒に本当にバスに乗って駐屯地には入らなかったんだね」
「間違いないです」結城は断言して都もうなずいた。
「わかった。それなら、今から番川一佐のお話を聞いてほしい」
国山は番川のいるベッドのカーテンを開けた。
「来てくれて感謝する」ベッドから上半身を起こして、番川は言った。
「実は私は岩本に襲われたんだ。骸骨のように崩れ落ちた顔だ。間違いない。奴はトイレにやってきた私を待ち構えて、気が付いたら私はトイレで国山三佐に起こされていた」
「つまりです」
国山は深刻な表情で言った。
自衛隊史に残るこの大量攻撃殺害事件は、番川一佐の判断でなされたものではなく、岩本承平という殺人鬼が番川一佐に成りすまして行った可能性が高いのです」
「そんな、これって滅茶苦茶ヤバい事じゃ」
結城が立ち上がった。
「全く、私はなんて失態を」
悔やむ番川に都は手を上げた。
「あの、岩本君は他人に成りすます時、その人間を殺して首を切って3Dスキャンにかけることで変装しています。それでも家族とか親しい同僚をだますことは出来ません」
「アニメや漫画みたいな変装の名人ではないんです」結城もいう。
「それについては、番川一佐はその時COVID-19対策の為にマスクをしていた」
国山は言った。
「我々はこの緊迫した状態に司令部のモニターにくぎ付けになっており、緊張もしていたから、普段の番川一佐とは雰囲気が違っても気が付かないものなんだ」
「だが、その場合非常に大きな疑問点があるんだ」
番川は言ってから「国山三佐。島さんと結城君を案内せよ」と命じた。
「一佐! それは」
「今はこの状況がなぜ発生したか把握する必要がある。島さんに全て見せるんだ」
番川は念を押すように国山に命じた。


司令部の前のセキュリティの前で国山は言った。
「司令部まではこのように徹底した警備が敷かれています。まず入り口には警備の自衛官が2人。そして監視カメラが常時監視され、今は装置を切っていますが、指紋認証装置と網膜スキャナ装置、暗証番号が設定されています。この自動ロックは厚さ10㎝の頑丈な合金製になっており、さらにその向こうにはカードスキャナ装置が入った二重のセキュリティが働いています」
国山に案内されて都は目を輝かせた。
「すごい、宇宙基地みたい。ミサイルとか隠れているの?」
「さすがにそれは」
国山は苦笑した。
「ちょっと待て。つまりこの完全なセキュリティを岩本は突破して、内部にある男子トイレに隠れていたって事か」
「はい」
国山は頷いた。
「全てここを通過した人間のデータはMPが全て解析しており、不審人物がいなかったどうかチェックしましたが、そのような人物はいませんでした」
「考えられるのは」
都は思案した。
「岩本君のやり口としてあらかじめ警備の中に潜入して事を起こす数週間から一か月前から内部の人間に成りすましているってのがあるんだよ」
「それはありません。MPが司令部内部にいた人間をすべてチェックしましたから。勿論番川一佐を含めてです」
と国山は報告した。
「って事はそのやり方もありえないっと…」都は思案をつづけた。
「本当にありえない」国山は焦りをあらわにしていた。
自衛隊が大勢の市民を殺害しただけでも大問題なのに、それがこのセキュリティを突破してきた大量殺人鬼によるものだったなんて、自衛隊の信頼への根幹にかかわる問題だ」
「しかし、こんな警備。岩本はどうやって突破したんだ。成りすましも不可能だし成りすました形跡もない。システムもずっと作動していて記録も全部残っている。奴はどんなトリックを使ったんだ」
結城は信じられないというようにあたりを見回す。
「島さんには申し訳ないが早急にその謎を解いていただきたい。全ての情報を提供するように一佐からは命令を受けています」
国山は言った。
「確かに。この異常事態にセキュリティに問題がある状態を長く続けるのはまずいな」
結城は唸る。
「知事から災害や治安出動の要請がすぐ来るかもしれないんです。今対応方針を決めておかないと大勢の救える命を救えない可能性がある」
「いや…」
横にいた二佐が声を上げた。
「事態はもっと混沌としている」


「みんな、食堂のテレビが復旧している」
千尋が大声を上げた。
 瑠奈と勝馬が食堂の液晶テレビに走って行って、大勢の自衛官と一緒に状況を見つめる。
―今、JBCは唯一破壊を免れた沖縄にある支局から全国に中継しております。今政府がマスコミを皇居の松の間に集めて重大な発表を行うとの事で、市民の皆様は皆さん声をかけあって、テレビのご視聴をお願いすると政府から通達がありました。インターネットの動画サイトやSNSでも呼びかけて皆さんどうか政府の動画中継を見ていただきますようよろしくお願いいたします。
女性キャスターが液晶越しに呼び掛ける。その時だった。突然外からラッパが鳴り響き、今までテレビを見ていた自衛官が弾かれた様に食堂の外に出ていく。
「うわぁあああああああ」
勝馬が出来るだけ体を細くして、千尋がその後ろに縋りつくようにして自衛官が去った後改めてテレビを見上げる。
「見て、自衛隊がいよいよ出動するみたい」
装甲車前に集合した自衛隊員が「乗車」の掛け声とともに一斉に装甲車に乗車する。
「いよいよ自衛隊が出動するんだね」
栗林優奈が声を上げる。
「そんなんじゃねえですよ」
結城は食堂に都と入りながら言った。
「なんで政府が首相官邸からじゃなくて皇居の松の間から政府が発表するんですか」
結城はテレビを見上げた。迷彩服の軍人がカメラの間でしゃべっている。平成から令和になる儀式が行われた場所だ。
―我々は先ほど天皇陛下に謁見し、首相官邸防衛省など主要な施設を掌握した事、今回の混乱や暴力に対して自分たちの支持層ばかり見て消極的態度をとる無能な政府を改め、混乱を収拾し、状況を終了させた暁には再度議会制民主主義を回復させ、民主的な選挙によって新しい政府を…。
「これってなんていうんだっけ」
千尋が目をぱちくりさせた。
「クーデター」瑠奈は言った。


8


 夕方の茨城県道を自衛隊車両が列を作って移動する。その上空を多数の武装ヘリが飛んでいた。武装ヘリが向かう先の地方都市が赤く光っている。
「さっきからヘリが飛んでいるよね」
結城秋菜が上空を見た。夕闇にかすかに黒い攻撃ヘリの輪郭が見える。
「秋菜ちゃん」
勝馬の母ちゃんが通りに出た秋菜に声をかけた。
「外に出たら危ないよ」
その時ババババという音が聞こえた。ヘリコプターが飛んで行った方角の市街地で何かが爆発した。
 都と瑠奈は女性隊員の部屋を借りて、その窓から夜の景色を見ていた。上空に何かニンテンドーゲームみたいな光が走って、そして赤い光が空を照らす。
「戦争みたいね。B29とか飛んでいた時代もこんなんだったのかな」
瑠奈は言った。
「暴れている市民を、自衛隊が攻撃しているみたい」
千尋スマホTwitterのTLを下にスワイプしていく。
「これで混乱が収まってくれればいいんだけど」
「でもあそことかには人が住んでいるんだよね」
都は心配そうに言った。「みんな逃げているのかな」


 翌朝、静かな通りを一台のパトカーが走っていた。茨城県警のパトカーだった。助手席にいた人間が駐屯地の歩哨に警察手帳を翳すと、歩哨は敬礼した。
 建物の玄関に停車した県警のパトカーから女警部が降り立つ。それを国山と朝霧が迷彩服姿で出迎えた。
「上層部から協力を命令されております」
「感謝します。では早速この駐屯地にいる常総高校探検部のメンバーに会わせていただけますでしょうか」


 会議室の扉が開いて、長川警部は立ち上がった。
「長川警部うううううううううう」
島都が太陽のような笑顔で両手を広げてダイブしてきた。
「よかったぁああ。警部無事だったんだね」
スーツ姿の警部に顔をぐしゃぐしゃ擦り付けて呻く都。
「すまなかったな。すぐに来てやれなくて。お前らを助けられずに今頃のこのこ来て本当にすまん」
「仕方ねえよ」
結城竜はため息をついた。
茨城県で何人ぐらい死んだんだ」
結城は長川警部を見上げた。
「確認されただけで1000人だ」長川は言った。
茨城県だけで…」瑠奈が声を震わせる。長川は頷いた。
「あくまで確認された人数だ。実際はその何倍もいると県警は見ている。残念だが茨城の県南地域でも犠牲者は出ているよ。日本全国では確認されているだけで5万人。君らがいた福島県杉沢市では3000人、水郡市では400人が殺された。おそらく氷山の一角だろう」
「逆によく来れましたよね」千尋が女警部に聞くと、長川は彼女を振り返った。
自衛隊が発砲して27人も死んだ重大事件だ。県警に県知事と自衛隊が要請して結論を出してくれって要請があったんだ。で、一佐と三佐を聴取していたら、岩本承平が絡んでいるって話が出てびっくり仰天していたところだ。まぁ、女子高生探偵島都がいるって話は県知事から直接県警に連絡があったんだが」
「つまり」
結城はジト目で国山と番川を見つめた。
「もうすでに県庁は自衛隊が抑えているってわけか。シビリアンコントロールなはずなのに」
「まぁまぁ」番川一佐は困り顔で結城をなだめる。長川もため息交じりに制服自衛官を見つつ、長川警部を見て安心した笑顔を見せている島都を見てその表情を険しくした。
「それと…都に言っておかなければいけない事がある」
長川警部がかしこまって都を真剣な目つきで見たので、少女探偵は目をぱちくりさせた。
「どうしたの」
「落ち着いてよく聞いてくれ」
長川警部が何かを言った時、結城の目が驚愕に見開かれ、瑠奈は口元に手をやって涙を流し、勝馬は目をむいて都を見て、千尋は思わず勝馬にもたれかかるように崩れ落ちる。幹部自衛官は2人とも立ち上がって驚愕の表情で都と長川警部を見回した。都はしばらくうつむいていたが、小さく息を吐いた。
「わかった。ありがと。長川警部。それよりも今はこの事件を解決しよ。大勢の人の命に係わる事件なんだから…ねっ」
女子高生探偵島都はにっこり笑った。


「長川警部ですか。いやーー、お嬢が無事でよかった」
サングラスにやくざ風の福島県警陳川警部は半分泣きながら福島県警杉沢警察署で携帯に向かって喋った。この刑事は都とは何度か顔を合わせていて、都の事をお嬢と呼ぶ。
「あ、大丈夫です」窓の外の焼け焦げた建物の間を走る自衛隊車両を見ながら陳川は言った。
自衛隊が市街地の治安活動をしてくれていますので。我々はこの地区での大量殺人に岩本が関与した可能性について捜査しています。先ほど例の集落へ武装警察連れて向かったんですが、すごいもんですよ。村人の大人の半分が殺害されているか事故死していますからね。上森とかいう消防団長は岩本とお嬢たちが共犯になって村で虐殺行為を行っていると吹聴していましたが鑑識結果を突きつけたらゲロりました。後で勝馬君の傷と照合させていただくかと思います」


「長川警部」
都はにっこり笑って長川に電話をかもんかもんした。


「あああああああ、お嬢。本当に無事でよかった。安心しました」
陳川えぐえぐ泣いてから「そ、その本当に都さんはなんていってよいのやら」と声を震わせた。
「陳川警部? それより今は事件の事だよ」
駐屯地会議室で都は言った。福島県警杉沢警察署で陳川は「うん、うん」とうなずき「ま、マジっすか。こんなことがあるんですか」と言ったが、すぐに納得したような表情になった。
「わかりました。多分岩本の動き関連でタクシー運転手にも事情聴取をしているので、すぐに当該人物は割り出せると思います。わかってしまえば追跡調査も簡単でしょう」


「お願いね、陳川警部…うん、あとでまたコスプレ写真送ってね!」
都はそういって電話を切った。
「み、都」
千尋が心配そうな顔をするのを瑠奈は止めた。
「大丈夫。都は今は必ず事件を解決するから。事件を解決しなきゃって思っているから」
瑠奈は真剣な表情で都を見た。
「なぁ、都」
幹部自衛官への聴取を終えて、廊下に出た長川警部は声をかけづらそうに都に言った。
「大丈夫か。こんな難しいトリック…今回ばかりは無理しなくてもいいぞ」
「難しくないよ」
都は目をぱちくりさせた。
「もう、トリックも岩本君の正体も解けているから」
「なんだって!」
長川警部は素っ頓狂な声を上げ、後ろで聞いていた結城竜も唖然とした。
「だって、あの司令部は完全に二重のセキュリティでロックされていたんだ。警備の自衛官もいたわけだし、指紋認証システムと監視カメラと網膜スキャンとカードスキャンで守られていて、出入り状況も全員チェックされて、しかもセキュリティーシステムは絶え間なく動いていて記録もばっちり残っているんだ。しかも中にいた人間は全員MPが身体検査をしている。そんな中でどうやって岩本承平はセキュリティを突破して番川一佐をトイレで気絶させ、再びセキュリティを突破して外に出たっていうんだ。しかも奴ら駐屯地の外で俺たちのいるバスから降りている。駐屯地の正門には自衛官が張っていたし、駐屯地の敷地には柵とセンサーがあったんだ。つまり岩本は二重の密室を突破し、防衛機密が作り上げた密室を突破して番川一佐に成りすまして、一佐の代わりに暴徒への攻撃命令を出したっていうんだ」
結城がまくしたてると都は「その答えは陳川警部が捜査してくれたら、みんなの前で推理ショーでね」っと笑った。結城はうーんと頭をかいた。


 電話を待つ時間は長かった。都は会議室で机に置かれたスマホとにらめっこしていた。その横で結城竜は壁にもたれかかりながらそれを見つめている。
 そして着信が鳴った。
「あ、陳川警部」
夕闇の中で島都は福島県警警部に声をかけた。杉沢警察署である人物の聴取を終えた人物が、警官に連れられ泣きながら廊下を歩いていくのを見送った。
「まさかこんなことがあるとは…。信じられません。でもほぼお嬢の言った通りでした」
「ありがと…ううん、大丈夫」
都はスマホに向かって頷いた。そして電話を切って結城竜を振り返った。
「結城君…全部分かった」


 推理ショーの舞台となる会議室に探検部のメンバーと番川一佐、国山三佐、岩田三曹、朝霧三曹、そして栗林優奈と朴安星がそれぞれの団体の代表として呼ばれた。長川警部が事件関係者の6人を油断なく見まわす。まさかこの中に岩本が変装しているとでも都は言うつもりなのだろうか。
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。今から大量殺人鬼岩本承平君が厳重な自衛隊基地司令部のセキュリティを突破し、トイレで番川一佐を気絶させ、マスクを着用して変装したうえで、この基地で銃でデモ隊を撃ちまくるように命令して27人の人間を殺害するように命じた事件の真相をお話しします。その前に国山さんに確認したいのですが」
都に話を振られて「なんでしょう」と国山は都に言う。
「マスクをした番川一佐が番川一佐であるとどうやってわかったんですか」
「そ、それは階級章とかですよ。一佐はこの駐屯地で番川一佐だけですから」
「わかりました」
都は6人の事件関係者の周りをうろつく。
「この事件を引き起こしたとされる岩本承平君は戦後最悪の大量殺人鬼と言われています。警察や探偵の思考を先読みしてそれを利用し、発想の転換でどんな硬いセキュリティも突破して標的を殺害する危険な人物です。今回の事件で使われたトリックもそんな岩本君だからこそできたトリックなんです」
都はその人物の前で立ち止まって見上げた。
「でも私は貴方が仕掛けたトリックを全て見破りました。この事件で大勢の人を殺す指令を出した岩本君の正体は」
都はその人物に指を突きつけた。「あなたです」
 その正体に探検部のメンバーも長川警部も驚愕の表情でこの人物に注目した。