少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

劇場版4 プロジェクトR殺人事件File5 解答編


9

【事件関係者】
・韓蘭(16):高校2年生。
・高橋桜花(51):市長。JBCから国民を守る党党首。
・清水川勝利(61)不動産会社社長
鯨波令和(50)日本奉還党議員
・鳥森昭三(47)市助役
・草薙正太郎(30)所轄刑事
・一宮春代(27)所轄刑事
・小池A
・小池B
・小池C

 振り返ったのは歯茎がむき出しになり窪んだ眼窩が悍ましい、死神岩本承平だった。
「警察無線を盗聴して判明したのですが、事件が起こったようですね。完璧な密室殺人。高橋市長がいつの間にか殺されて、岩本承平に成り代わっていた摩訶不思議な事件。でも、その答えは単純明快。あの密室には岩本承平なんていなかった。なぜならあの密室は、あの部屋の暖炉の火で高橋桜花市長自らが顔を焼いて僕に成りすましていたのだから」
岩本は言った。

 警察署の取調室にて、高橋桜花は長川警部に言った。
「僕は発達障害鬱病の病歴があって、再就職が困難な状況でした…ハローワークでも『こんな人間無理だ。自殺した方がいい』と言われ、僕はもうどうすればいいかわからなかった…そんな時に声をかけてきたのが清水川社長だったんです。あの悪魔の声を僕はあの時天使の声だと勘違いしてしまった。そして入社パーティーをするといったあの男の口車に乗って、僕の妻と娘を社長の会社に連れてきたのが間違いでした。社長は豹変し、妻と娘を人質にされ、僕は差別主義者高橋桜花として振舞うことを強制されました。本当に辛かった。YouTubeで差別的な発言や頭がおかしくなりそうな振る舞いを強制され、大勢の罪もない人を傷つける事を強要され、頭がおかしくなりそうでした。僕に反論したり怒る人たちを僕はスラップ訴訟ちらつかせ黙らせるような仕草をしました。アイドルへのセカンドレイプ…本当に僕にそんなことを言われて、どれだけ…どれだけその女性が辛かったか…でもね…。そんなことをする僕に多額の寄付をしてくれる人が多く表れたんです。この日本社会の金を持っている地位のある人たちが、僕にお金をくれるんですよ。何万、何十万、何百万もくれる人間もいました。本当に恐ろしかったです。差別主義を実際に発言する人間よりも、それを笑い、それにお金を出す人の方がどれだけ恐ろしいか…。そして僕は永遠に残るネットの世界で日本最悪の差別主義者として、地方議会や市長にまでなりました。本当に地獄のような日々だった。僕が社会的地位を得れば得るほど、僕の強制された発言は大勢の人を苦しめるんですから…いっそのこと…岩本承平みたいな殺人鬼が…僕を殺してくれればと思いました」
高橋桜花は気持ちを滲み出すように下を向いて喋りだした。
「つまり最初に岩本承平だと県警に通報したのは貴方だったんですね」
長川警部は言った。高橋は頷いた。
「きっかけは、あの清水川がこの街で台風の日にデマを流し、実際にならず者が暴動を起こして、大虐殺を引き起こすように市民を扇動しようと言い出しました。そのために連中は協力者が略奪できる若い女性や財産などを在日外国人や個人的に気に入らない人間の家からリストアップまでしていた。でもそんなことを警察に言ったとしても取り上げてくれるはずはない。だから…岩本承平の名前で通報すれば、僕が大虐殺を実行させられる前に警察が止めてくれるかもしれない…そう思った…」
「ちょっと待ってください」長川は頭を抱える高橋桜花に言った。
「貴方は台風の直前からずっとアリバイがある事はわかっています。じゃぁ、いったい誰が都に殺人を予告したと…」

 利根川を航行する渡し船の操舵室で、岩本は髑髏のような窪んだ眼で都を振り返った。
「あれは、都さん…あなたのでっち上げだったんですね」
都は岩本に悲しげな顔で頷いた。「うん」
 寝転がったまま起きていた結城は目を見開いた。
「あなたの名前で僕の名前を出せば、長川警部と刑事部、警備部の警官が多数南茨城市に入ってくる。そうすれば清水川の大量虐殺を止めることが出来る…あなたはそう考えた。だから、長川警部に岩本承平と何度も対峙した自分が、路上で至近距離で岩本承平を目撃したという証言をすることによって、岩本承平による高橋桜花市長殺人予告に信憑性を持たそうとした…」
岩本がそういうと都は言葉を引き継いだ。
「でも、私の予想よりも清水川社長はとんでもない悪い人だった。もしかしたら最初から岩本君という殺人鬼に自分たちが標的にされることがないように高橋桜花さんを身代わり人形にしたのかもしれない…。そしてマスコミや記者さんにこのことを知らせて、マスコミにこの南茨城市で起こる大量殺人計画を見せつけようとした。多分同じような悪い人たちを他の自治体にも侵入させていて、報道と一緒に騒ぎを起こさせ、史上最強の台風の中で日本の人たちにパニックを起こさせて虐殺を広めていく…そこまで考えていたんだよ。そんな中で、高橋さんは追いつめられた。自分が岩本君に殺される恐怖、自分が大量虐殺のボタンを押してしまうかもしれない恐怖…その恐怖が、限界に達して…多分彼はあの時、自分を岩本君だと思い込んでいた…」
「解離性同一障害かそれに準じる障害なのでしょうね」
岩本は言った。「自分の顔を焼いたとき、そして部屋に入ってきた清水川と鯨波を襲ったとき…彼は自分が岩本承平だと思い込んでいた。いや、思い込まざるを得なかった。どうしてわかったんです?」
岩本の問いに都は答えた。「岩本君のように顔が焼けただれた人物がこういっていたんだよ。『清水川社長と繋がっている偉い人がいて助かりました』って…あれは清水川社長が本当の黒幕でその人がもっと偉い人と繋がっている事を知っている口調だった」
「でも市長を殺して変装していたのが僕だとすれば、清水川が実はグルだって知っていてもおかしくないのではありませんか」
「もしそうなら」
都は岩本を見た。
「岩本君は高橋市長を殺したりはしない…少なくとも警察さんによって、高橋市長が本物だという事はこまめにチェックされているから、自殺したり別の人に殺された高橋さんの遺志を継いでってパターンもないからね。高橋市長は清水川さんを連れ去った後、あの河川敷で長川警部からの電話を受けて…岩本君から高橋さんに戻ったっちゃったんだよ。本当にかわいそう…。私のせいで…私がこんなことをしちゃったから、高橋市長はこんな事になっちゃったんだよ」
都は手を握って濡れた体で棒立ちになって、下を向いて震えていた。
「あなたのせいではありませんよ。本当に岩本承平が来たじゃありませんか」
岩本は前を見たまま言った。
「元々、清水川と鯨波は私が殺すつもりでした。でも私にとって今回の仕事で警察に予告を出す理由は全くなかった。さらに警察がそのガセ情報を信用した理由が都さんだと知って正直驚きました…。その理由は大体わかりましたからね。本物を出せば完璧でしょう」
岩本の声がいつになく優しかったが、都は首を振った。
「そんなの言い訳にはならないんだよ」
都は言った。
「私は高校生探偵なんだよ。最初に高橋市長に会ったとき、私は千尋ちゃんや勝馬君の家族を殺そうとするなんて許せなかった。物凄く憎くて憎くてたまらなかった。でも本当はいろんな可能性を考えなきゃいけなかったんだよ! いろんな可能性を考えて自分の感情に振り回されたから、私は…高橋さんを…それに」
都が岩本を見つめる。その目には涙がこぼれていた。
「…私は岩本君まで利用した。岩本君に殺人予告の罪を擦り付けようとした。岩本君だって冤罪とか悪いことをした人間って無実の罪をかけられていい人じゃないのに…私は岩本君に100人以上殺されていることを理由に、殺人予告の罪くらい擦り付けてもいいと考えていた!」
都の声は最後悲鳴のように甲高くなっていた。
「私が、高橋さんと岩本君に酷い事をした犯人なんだよ! 高橋市長を目の前にしたあの部屋の私は探偵じゃなかった。探偵のふりをして岩本君と長川警部を騙している人間だった。だから高橋さんを助ける事もせずに、清水川や鯨波と一緒に、高橋さんを追い詰めたんだよ! 私は…私は…」
都は絶叫した。
「やめなさい」
岩本は静かに言った。
「僕は都さんを誤解していました。都さんなら絶対に自分の信念に従って絶対に岩本承平という存在を使って警察を騙したりはしないと…絶対に正しさを追求して、間違った声に惑わされず、正義を何よりも優先するであろうと…。その信念は魔法少女の事件で作られ、その信念をもって大洗の館で僕を追い詰め、そしてこの信念を最後まで貫くだろうと…でも違った。そう、貴方は自分の信念に他人を犠牲にすることが出来ない…そんな人だったんです」
岩本の話を聞きながら、結城は寝転がったまま目を細めた。
「探偵という自分の信念を貫く事よりも、信念を曲げることの方が勇気や苦しみを必要とすることもあります。今回貴方は大勢の人間の命を助ける事を選んだ。それは高橋桜花市長の本当の気持ちでもあったわけです。彼も真実を知ったところで貴方を責めたりはしないでしょう…。貴方がこんな選択をせざるを得なかった事は、僕はよくわかっていますよ」
岩本の声は優しかった。都は大きな瞳から涙を流して岩本承平を見た。
「今回、清水川と鯨波は殺さないことにしました…あなたや高橋市長が自分を傷つけてこの状況を作ったんです。僕が手を下してしまえば、貴方方2人をより深く傷つける事になる…」
岩本は涙をボロボロ流して自分を見る都を振り返り、小柄な頭のショートヘアをなでた。
「本当に…辛かったですね」
岩本の声に都は目を閉じて蹲った。結城は眠ったまま開けていた目を閉じた。
岩本は酸素ボンベとスキューバを付けていた。嵐も過ぎ去り河川艇が赤いランプを光らせて朝の河川をこっちへ向かってきている。風は収まって上空をヘリコプターが飛んでいた。岩本は船の速度を確認すると、船から茶色い川面に消えた。
都は蹲りながら声を上げて泣き続けた。
「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい」
結城は目を閉じたままだった。都を抱きしめるなりなでる事は、今の彼女にとってはより辛いのだとわかったからだ。今は都は一人で思いっきり泣く事が必要だった。
 水上艇が渡し船に横付けされ、赤い隊員服を着た消防隊が乗り込んできた。泣いている都に「大丈夫ですか」と声をかけると、都は涙をのみ込み、きりっとした表情で消防隊員に言った。
「船の中に男の子が一人倒れています。大きなけがはしていませんが痛いと思います。病院に連れてってください!」

10

 県立常総高校—。
 結城竜は探検部部室の窓から「お、打った」野球部の練習を見ていた。
「ちょりーっす」
原千尋がおでこに二本指当てて結城に声をかけた。
「おう」
結城は千尋を見た。
「あれ、今日は随分と少ないね」
「都は今日休むらしいな。なんか用事があるらしい」
結城は答えた。千尋は「そっか」と声をかけた。
「なぁ、薮原…お前…都がフカシテいたの知っていただろう」
結城は窓の外を見ながら言った。
「長川警部の前でお前が都に突っかかっていった時から、怪しいと思ってた。お前のキャラじゃなかったからな。都だけじゃなく別の目撃者がいた方が、都のフカシに信憑性があると考えたんだ。そしてもう一つの意味は…都がやったことは私も知っている。でも私たちは仲間だからね…そういうメッセージだったんじゃないのか」
結城は薮原千尋を見た。千尋はパイプ椅子に座って、結城を見てにかっと笑った。
「ばれちゃってたか」
「まぁ、都が嘘をついていること自体は最初から分かっていた」
結城は声を上げた。
「最初の予告があったとき、どうもあいつから岩本の殺人を止めて奴を逮捕するって気迫が感じられなかった。いつもならふわふわしながらも推理はしているんだが、今回は本当にガチで、上の空だったからな」
結城は思い出していた。「いつものあいつならあらゆる可能性を考えて、岩本の先の先を読もうとするだろう。だが、最初の都はとてもそうは考えていなかった。だが、自分が岩本に誘拐されてからはかなり焦って本気を出していた。多分自分のせいで岩本が介入してきたと思ったんだろうな…。だから病院からすぐに市役所に向かったんだ。あの時の都の目は…俺は本当に探偵の目だったと思う。高橋市長を守ろうとする…」
結城はため息をついた。
「あいつは…何も変わっていない。俺は信じるよ」
「結城君」
千尋は声を沈ませた。そして言葉を発しない。
「お前、自分があんなことを言ったせいで都がこういうことになったと思ってるだろ」
結城は蛍光灯を見ながら言った。
「まさか、ここでの会話があんなに深刻な話になるとは全然思わなくてさ」
千尋は机を見ながら声を上げた。
「今日、朝、お父さんとお母さんとお兄ちゃんがおはようって言ってくれて…それが凄く嬉しくってさ…でもそれって都が高校生探偵なのにあんなことをしたおかげなんだなって思って…都に背負わせちゃったんだなって思ってさ…」
千尋は笑いながらその声が時々震えた。
「正義って…なんなんだろうね」
「やれやれ…お前都の事を全然わかってないんだな」
結城はため息交じりに頭をぽりぽりした。
「完全無敵で自分の信念を絶対に曲げない主人公なんて漫画の中だけの話だ。例えば」
結城は書道部の地区予選で入線した韓蘭の写真を本人のTwitter画面からスマホに映し出して千尋を見た。
「彼女は書道が好きだが書道漫画の主人公じゃない。昨日の台風ではとんでもない事件の当事者になることになった。一つの信念や一つの正義が人生の全ての場面で役に立つとは限らない。俺たちはその場その場で最善だと思う行動をとるしかない。それは都だって同じだっただけさ」
結城はジト目で千尋を見た。「そして俺も…お前もな」
「何、そのイケメンな台詞」
千尋が笑ったので結城はいささか照れながらそっぽを向く。
「ま、それさえ踏まえていれば都があの時嘘をついていた事くらい予想できる」

 あの時都はアパートの前で風鈴の音を聞いた。風鈴が鳴る音の先には軒下でただ鳴っている季節外れの風鈴があった。その時島都の頭の中に今回の虐殺を止める方法が鮮やかに出来上がった。そして彼女の頭の中にそれしかないという確信も出来上がっていた。

「この事件はあいつが推理して解決するという事件じゃなかった」
結城は蛍光灯やホワイトボードに貼られた探検部の写真を見ながら言った。
「あいつが持っている正義は推理という分野での正義だ。馬鹿な大人は自分の得意分野の正義を関係ないところに押し付けてどやっている連中も多いがな。自分の正義がこの場面でも絶対的な価値を持つと都は考えてはいなかった。だからこういう選択肢をとったんだ。都のうまかったところは、探偵としての自分を刺すような選択を高校生探偵の顔でやってのけたことだ。だから茨城県警の精鋭や高橋市長にまとわりつく悪党もコロッと動かされた。あの事件で…」
結城はあの魔法少女の事件を思い出した。
「あの事件であいつは絶対に誰も死なせないようにすると決意したんだ。そのためには泥の中でもがくことも構わなかった。元々あいつに高校生探偵としての名誉とかカッコよさとかは興味はない。この事件で、あいつは何かを変えたり捨てたわけじゃねえ。あいつは昔からどんなに辛い真実にも向き合う力だけは誰にも負けない…そういう奴だ」
「探偵に戻れなくなっても?」
千尋は言った。
「それはあいつ次第だ」
結城は窓の外を見た。都にとっては過酷な結果になったが、だが希望はまだある。都には高野瑠奈という女同士でなんでも話せる親友が、薮原千尋のように自分の為に一生懸命になってくれる奴が、結城秋菜のように慕ってくれる奴がいる。勝馬だってバカだが、都の為に体を張って大暴れするだろうし、結城竜だって…。あいつが探偵としてなんでもやる必要はない。俺らだって都にないものをみんな持っている…。あいつ一人がどこぞのアニメの眼鏡の探偵みたいに、超人的な決断なんざする必要はなかったんだ。
「そろそろ行くか」
「どこに…」
「あいつのことだからな…多分今頃、常総警察署の前にいるんだろう」
結城竜はどっこいしょと立ち上がり廊下に出た。

 常総警察署の前に、島都はいた。
「都さん…本当に高橋さんに謝りに行くんですか」
北谷勝馬がおろおろしている。「岩本承平が現れたって事は、都さんは嘘をついていませんよね…それに都さんのおかげで、大勢の命が助けられたんですから…本当に謝りに行くんですか」
「うん」
都は言った。
「だって、私のせいで高橋さん、あんな大怪我を顔にしちゃったんだもん。私が嘘をついたせいで…だから謝らなくちゃ。許してくれなくても謝らなくちゃ…瑠奈ちん」
都は瑠奈を見た。
「結城君に言わないでくれてありがと。それと千尋ちゃんにも」
瑠奈は都に縋り付いて泣いた。
「都のせいじゃないよ。絶対すぐ戻ってきて」
「うん、ありがと」都は優しく瑠奈をなでなでしてあげた。
「師匠! 私はずっと師匠の一番弟子ですから」結城秋菜が「うわああああん」と号泣しながら抱き着いた。
「師匠が許してもらえると信じています。絶対信じてますから」
「ありがとう、秋菜ちゃん」都は優しく秋菜に抱きしめられながら瑠奈と秋菜の頭をなでてあげた。
息を整えて警察署のロビーに入る。自動ドアが外の冷気を締め切る。
 都の前に長川警部が立っていた。
「長川警部」
都が目をぱちくりさせた。
「高橋さんな…やっぱり会わなくていいそうだ。その必要はないと言っていた」
都がきょとんとしていると長川警部は進み出た。
「今日な…結果が出たんだ。東大や慶応や早稲田や筑波や法政や…都の学校にも赤本くらいあるだろう…そのあたりの社会学や情報学や人文学や…そういう先生が何人も集まってルワンダ虐殺や関東大震災朝鮮人の虐殺など世界の虐殺やデマ情報など200以上の事例をサンプルに、南茨城市や台風情報時のSNSの情報伝達などのデータ…その他もろもろをAIとかにぶっこんでシミュレートしたらしい。清水川やこの前退院して拉致監禁幇助で逮捕された鯨波…こいつらの計画が実行された場合、何人の人間が殺されたと思う?」
女警部が深刻な表情で女子高生探偵を見た。
 都は想像できないというように首を振った。長川は言った。
茨城県南部、千葉県北部、東京、栃木で5万5000人から8万人だそうだ。関東大震災の10倍の人間がデマで殺されていたらしい」
 長川は言った。
「今県警が全力で捜査しているが、警察庁からの圧力が厳しくてな…全容解明には時間がかかっている。だが清水川と鯨波のさらにバックに、今回大量虐殺をしでかそうとした人間がいるみたいなんだ。どう考えても計画的に作られた暴動計画、あらかじめリストアップされていた虐殺対象者の財産や若い女性、そして大量に支給されたマチェーテTwitterによくいるネトウヨと呼ばれる人間の中にも、号令がかかればデマなどを大量にばらまくよう依頼するDMや人々を信じさせるためあらかじめ撮影された動画なんかが送られてきていたらしい。これだけ計画的にやって、デマを爆発させ、大量殺人に一般市民を駆り立てる。高橋桜花が集めさせられた金で到底できるものじゃない。大量殺人をこの令和の日本でやらせたがっている人間を組織化している人間がいるんだ」
女警部の声は戦慄していた。都は長川を見た。
「お前は大勢の人間を助けたんだ。そしてお前はいずれもっと大勢の人を助けるため、今回の事件の本当の黒幕と必ず戦うことになる…」
女警部は言った。
「だから何も言わずに」彼女は女子高生探偵の肩を掴んでくるっと回らせる。
「探偵に戻るんだ。高橋桜花さん言っていたぜ。自分が虐殺をしないでくれて、大切な家族が助かって、感謝しているって…だから島都…お前は戻るんだ」
長川警部はそういって、都を警察署の出口に歩かせた。
 女子高生探偵は半分茫然としながら、警察署の前を歩いていた。瑠奈と勝馬と秋菜が出てきた都に身を乗り出す。茫然と出てきた都にどう声をかければいいのか、3人とも迷っていた。
その時、結城竜がバイクに座りながら、「お姫様、お送りしましょうか」とどやった。瑠奈たちが振り返る。結城の後ろには原付バイクの薮原千尋を見た。
 都は結城竜の顔を見ると、みるみるうちにその顔を涙で滅茶苦茶にして縋り付いて号泣した。

 

おわり

ED「エガオノダイカ