少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

地獄ムーバー殺人事件❸

 

5

 

【容疑者】

・播磨博英(35)社長

高砂みやび(13)従業員の娘

・城比美子(33)社員

・川越俊太(25)社員

・鷲尾ヒロシ(31)重役

・岡あやの(22)社員

・ロドリゲス松本(36)

スタンコビッチ平間(38)

 

 PRTの車両はゆっくりとビルの谷間を高架で走り出した。

「ここからモール駅までの間に何が起こるんだ」

長川は緊張したように車内で都を見つめた。

その時、PRTががくんと揺れた。

「わ、何だ」と結城。

「ハイスクール駅に停車するぞ」長川は声を上げた。ムーバーはハイスクール駅に停車し、ドアが開いた。都はゆっくりとホームを降りた。

「ようこそ。本当の犯行現場へ」都はにっこり笑った。

「終着駅スタジアム駅の一つ前のハイスクール駅。ここが本当の犯行現場だよ。実は被害者の播磨社長とその後ろの犯人のムーバーはこの駅に停車するように予約されていた。播磨社長はこの駅である人物に会う密約を交わしていた。そしてハイスクール駅のホームの監視カメラの死角にてその人物にあるものを渡したんだよ。それが毒入り菓子と現金が入った菓子折りだったんだよ」

都はその場にいた全員を見回した。

「まさかその人物って」

長川が都を見ると「昨日毒殺されたあの医者だよ」と都は言った。

「だけどその菓子折りを渡す行為を終えてモール駅に向かおうとした播磨社長は、ホームである人物にアイスピックで殺された。その人物は播磨社長の後ろからムーバーで追いかけてきた人物、そうだよね」

都は殺人者をじっと見た。

高砂みやびさん」

高砂みやびは目を見開いていた。みやびはかわいい顔を驚愕させてから目をじわっとうるませて「そ、そんなひどい…なんで私が社長を」と顔を覆った。

「もうやめようぜ。そんな芝居」

結城は言った。「君や妹に社長が何をしたのか、もうわかっているんだ」

するとみやびは結城に向けて光のない目で視線を送り、口元を歪ませて笑った。

「それがどうしたの。私も社長もムーバーから一度も降りていないのよ。それは映像で証明されているわ」

「その映像はスタジアム駅から撮影されていたんじゃない。このハイスクール駅から撮影された映像だったんだよ」

都は言った。みやびは臍を噛んだ。

「みやびさんは播磨社長をアイスピックで刺した後、虫の息の播磨社長を肩で抱いてムーバーの椅子に座らせたんだよ。そう、スタジアム駅で播磨社長をみやびさんが肩を貸してムーバーに乗せるのと、全く同じ仕草でね」

結城と長川と瑠奈は驚愕の表情を見せる。

「つまり犯人は困難の分割というトリックを使ったんだよ。スタジアム駅のホームでは社長が複数の社員や私たちに見られていて、その直後のムーバーの車内は監視カメラで撮影されていた。だからアイスピックで人を刺す事なんか出来るわけがない。だけど、監視カメラの映像がそもそもスタジアムの駅ではなくこのハイスクールの駅で撮影されていたら」

都は言った。

「じゃぁまさか、犯人がスタジアムの監視カメラをぶっ壊した理由は」

結城が声を上げると都は頷いた。

「スタジアム駅が犯行現場だからじゃない。スタジアム駅の防犯カメラ映像をムーバーの車内カメラと比較検証させないためだったんだよ」

都はその場にいた全員に言った。高砂みやびは目を見開き、動揺していた。

「いくらスタジアム駅と同じ仕草とはいっても完璧に再現するのは不可能だよ。だから犯人は車内カメラの比較対象をスタジアムの駅のカメラのデジタルな映像ではなく、私たちの頭の中の記憶にするために監視カメラをぶっ壊した。人間の記憶なんてあらかじめ特別に記憶でもしない限り、誰が何をした程度くらいしか覚えていない。つまり、車内カメラの記録に播磨社長を椅子に座らせた画像があれば、スタジアムで私たちが見た記憶と完全に一致してしまい、それがこのハイスクール駅で撮影されたものだとは思わない。つまり犯人に完璧なアリバイが出来るって事だよ」

都は目をそらすみやびを見つめる。

「このトリックが使われたという手掛かりは、スタジアム駅であの2人のオカマさんたちが社長が見送られた時はまだ駅のホームでキスをしていたのに、なぜかターミナルモール駅では社長よりも早く駅に到着していた事が分かった事だよ。これはつまり、どこかで播磨社長をこの2人のムーバーが追い抜いたって事になるよね」

「それは貴方の記憶違いよ!」とみやびはキッと都を睨みつけた。

「そうだね。スタジアム駅の監視カメラは壊されちゃったし、今の発言が私の記憶違いではないという証拠にはならないよね」

都はにっこりと笑った。

「それに私が犯人ではないという証拠ならありますよ」

みやびは都を見つめて必死な形相で笑った。

「犯人でない証拠?」

と結城。

「所要時間だね」

長川は腕組をしてみやびを見た。瑠奈ははっとして都を見た。

「そうだ。この駅からモール駅に向かうなら、スタジアム駅よりも所要時間が短くなるはずだ」

瑠奈は少し考えてから

「この手のムーバーは停車ラインから本線に出てくる別のムーバーをまったり、前のムーバーをセンサーで感知して止まったりするから、利用状況で所要時間が大きく変わるんだけど。多分あの時間、サッカーの試合が終わる前までは、多分ほとんどノンストップでモールまで行く事が出来ると思う」

「長川警部。播磨社長のムーバーがスタジアム駅からモール駅までどれくらいの時間がかかってる?」

と都が長川に聞いた。長川は警察手帳をチェックして言った。

「9分程度だ」

「このスクール駅からの所要時間は」

結城は駅案内を見ると「最短5分」とあった。

「これスタジアム駅からの所要時間だと考えても長い方ね。と言ってもさっき言った要因でちょっと時間がかかるのはおかしくはないけど。だけどモール駅方面は最短時間で行ける可能性が高いから、スタジアム駅ではなくスクール駅で犯行に及んだら乗車映像が短すぎてすぐにトリックがバレちゃう可能性を犯人が考えないわけないと思うけど」

瑠奈の言葉に結城も同調した。

「ムーバーは不特定な人間が使うからな。しかもカードや携帯でスクリーンドアを開けて行き先を登録するタイプだ。所要時間を長くする方法を犯人は持っていない」

瑠奈と結城の意見を都はじっと聞いてから「本当にそうかな」と笑った。

「たった一つだけ、確実に所要時間を伸ばす方法があるよ」

都はゆっくりと乗り場を移動し、スクリーンドアの前に立った。

「モール前方面ではなく、スタジアム駅方面の乗り場からモール前の予約をすればいいんだよ」

都がタッチパネルをテシテシするのを見て、みやびは呆然とした。

「そ、そんなことが出来るのか?」結城が瑠奈を見つめると、瑠奈は「余計に料金がかかっちゃうけどね」と言った。

「それにあの時間スクール駅からスタジアム駅に行く乗客は1駅だし皆無だと思うから。多分アイスピックでの殺人もやりやすいと思う」

瑠奈の言葉に長川は「だがムーバーの動きとか乗降ドアとかはどうなる」と瑠奈に聞くと瑠奈は頷いてから、

「乗降ドアは前面停車する方式になっている関係で統一されているんです。それに路線の終端はJRの特急列車や新交通システムと違ってループ方式になっているから方向は変化しません。つまりこのPRTは終着駅で通過運転が可能と言う特殊な乗り物なんです」

と説明した。

「そして社長の死体をムーバーに乗せたあと、みやびさん、君は後から別のムーバーで追いかけた。車内でもいかにも普通にスタジアム駅から乗車したかのような演技をしてね。そしてモール駅に到着後、死体が発見されて大騒ぎになっている間に、君は鷲尾さんのバッグに凶器を仕込んだ。このムーバーは夜には窓が鏡になるからどこを走っているかは監視カメラには映らない…きっとそれも犯行を成立させるうえで重要な要素だったんだよね。監視カメラは車内で固定されているから窓の外が映らなければ、曲がろうが止まろうがそんなことはわからない。そしてスタジアム駅で社長を載せたときの開閉ドアの方向、座っている座席の位置と矛盾しない形でこのスクール駅で演技ができ、それと矛盾しない形でモール駅で死体が現れる」

都は目をそらしながらも顔を真っ青にするみやびを見つめた。

「証拠はあるのか」

長川が問うと、都は黙ってのりばにある監視カメラを指さした。みやびはハッとした。

「確かに人を殺す事はホームの監視カメラの死角で出来るかもしれない。だけどぐったりした播磨社長をムーバーに乗せる作業はこの監視カメラの前でしか出来ない事だよ。なぜならホームの監視カメラを避けてその作業をすると車内のカメラの前でどうしても不自然な動きになってしまう」

都の言葉に瑠奈が絶句した。

「こんな直接的な証拠を、どうしてみやびちゃんはスタジアムの駅みたく壊してしまわなかったの?」

瑠奈の質問に都はうつむき、前髪で目を隠す中学生の少女を見つめた。

「それはみやびちゃんも悩んだんだと思う。だけどこの駅で何かを壊すと、警察がこの駅に注目してトリックがバレる可能性がある。それなら敢えてこの駅に残っている自分の犯行を示す決定的な証拠を放置して、スタジアム駅にある監視カメラを壊すことで、警察の捜査の注目点をそらそうとした。賭けだったんだよね」

と都はみやびに悲しく笑った。高砂みやびは目を閉じた。

「自信はあったんだけどな」みやびは悲しげに笑った。

「嘘、こんな小さな子が」と瑠奈がショックに口を押さえる。

「動機は、播磨社長とあの医者が、君に対してやっていた…」と長川が重苦しい声で言うと、みやびは「そんなことをどうってことない…」とぽつりと言った。しかし直後彼女は憤怒の形相で床に向かって怒りを吐き出した。

「でもあいつらがやろうとした事は、どうしても許せなかった」

 

6

 

「あいつらが…やろうとしていた事?」

PRTハイスクール駅のホームで、結城と長川、瑠奈が高砂みやびに疑問をぶつける。

「お母さんが私が4年生の時に死んじゃって、その後お父さんがリストラされて、私たちは凄く大変だったけど、でも助け合って生きていた。でもお父さんがある日嬉しそうに私たちに報告してくれたの。新しい就職先が決まったって。私も妹もすごくうれしかった。だってお父さんが私たちの為に再就職を頑張っていたの知っていたから…」

みやびはPRTの駅のスクリーンドアに映る自分の姿を見つめた。

「それがまさかこんな酷い会社なんだって思っても見なかった。お父さんは就職後に仕事がどんどん忙しくなって、家に帰れなくなった。私や妹の誕生日も三者面談も参加できなくて、ずっと会社に泊まり込みで仕事をしていた。お父さんは最初の半年くらいは家に帰れないという電話を私たちに必ずかけて来たけど、そのうち電話もなくなった。私たちは家事とかを全部自分でしなくちゃいけなくて…妹とも頑張っていたけど、でもお父さん私たちの為に頑張っているんだって思えば平気だった。だけど一番苦しかったのは、お給料が最初の三カ月しか振り込まれなくなって、家賃も光熱費も払えなくなったって事。電気もガスも止められて、食べるものも給食しかなくて大変だった時、あの播磨社長が私たちの所にやってきた。播磨社長は私たちにこう言った。『お父さんが会社からいなくなった。君たちは食べるものもなくて大変だろう。社長の僕が君たちを育ててあげる』って…。私たちはそれを信じた…。それが地獄の始まりだとも知らずに」

みやびの声が震えた。

 

 暗い部屋でボロボロのシャツとハーパンの少女は、ニチャニチャ笑う播磨社長の歯を見て言った。

「お前の父親は1000万円を持ち逃げしたんだ…お前はそれを父親の代わりに返さなければいけない」

呆然とその言葉を聞くみやび。

「大丈夫。子供の君でもすぐにお金を作る方法があるんだ」

播磨の横に立っているのはあの医者だった。

 播磨は医者の横で醜悪に笑った。

「いや、子供だからこそ早くお金を返す方法があるんだ」

 

「悪魔みたいな奴らだったんだけど、凄く洗脳がうまくて」

みやびは目を閉じて悲痛な表情で話しをした。

「私も妹もあいつを自分たちを唯一守ってくれる神みたいに思い込んでいた。物凄く痛くて苦しかったけど、でもあの医者との行為を私は誇りに思っていた」

みやびはPRTのホームで13歳の自分の子供の体を抱きしめた。

「誇り…」結城は呆然とした表情で言った。

「だって、私そうする事で妹を守れるって気持ちになれたんだもん」

その時のみやびの笑顔は無邪気だが凄まじい凄味があった。

「そうする事でお金を返す事が出来て、また妹とお父さんと幸せな生活が出来る。私はそのために体を張っているんだって、そう思えたら、私は辛くはなかった。凄くうれしかった。そしてその幸せな気持ちを与えてくれる播磨社長を素晴らしい人だと思えた…だけど、それがあの日、全て壊れた」

みやびはじっとスクリーンドアに映る自分を見つめた。

「播磨、マンションで私に殺人計画を持ち掛けてきたの。あの私をレイプしていた医者のね。あいつあの医者に傷害致死で死なせた人間の偽の診断書を書かせたが為に、高額な金を恐喝されていた。だからあいつを殺すための菓子折りを渡すための殺人トリックに協力するように私に持ちかけてきた」

「そっか…だからみやびちゃんは播磨社長のすぐ後ろをムーバーで追いかけるという形式を取ったんだ」

都はみやびを見た。

「みやびちゃんの存在があの男がハイスクール駅で乗降していないという証明になる。それをモール駅で待たせていた鷲尾たち社員が証明する形になる…そういう事だったんだよね」

都の笑顔の指摘にみやびは頷いた。

「ちょっと待て」

長川警部が声を上げた。

「まさか…その傷害致死で殺されたって言うのが君のお父さんと言うのかい」

女警部の戦慄の疑問。みやびは冷めた目で長川を見た。

「そうかもしれないとは思った…だけど傷害致死で死んだのはお父さんなのか別の人なのかは私にはわからない」

みやびはそのまま都を見つめた。

「決定的だったのはあいつが直後に私に言ってきた別件」

みやびは歯ぎしりした。

 

 マンションの部屋で播磨はみやびに悪魔のように笑って言った。

「それで新しいスポンサーが、中学生じゃダメって言うんだよね。もっと小さい女の子がいいと。みやびちゃん、妹ちゃんを説得して、教育してよ。妹ちゃん4年生だよね。新しいお得意さんがそれくらいの女の子が好きでさ。それでエッチの時に怖がったりしないように、凄く楽しんでくれるように、お姉ちゃん教育してよ。お姉ちゃんはあの糞医者とのエッチの時に凄く頑張っていたでしょう。だからお姉ちゃんなら教育出来るって、僕は信じているんだよね」

 その笑顔を前にみやびは真っ青になって固まった。

(私は、そんな事の為に頑張っていたんじゃない…私ガ頑張レバ、キット家族ハ幸セニナレルト思ッテイタノニ…私ガ頑張レバ、妹ハ助カルト思ッテイタノニ…私ガドンナニ頑張ッテモ…私ハモウ妹ヲ助ケル事ハ出来ナイ…)

みやびを完全に洗脳したと思い込んでいて、みやびが普通に言う事を聞くと思っている播磨社長を前に、13歳の少女が異常な環境で異常な形で作り上げてきた、誇り、矜持、全てが崩壊した。

真っ青になって硬直していた13歳の少女みやびは、次の瞬間にっこりと輝く笑顔で笑った。

「はいっ!」

 

「その時に私は決めたの」

PRTのホームでみやびはどこか壊れた笑顔を都、結城、瑠奈、長川警部に見せた。

「こいつを殺してやるって…」

ここで今まで冷静だったみやびの声が震えた。

「だって、もうどう体を張っても、私はもう妹もお父さんも守れないんだから」

都、結城、瑠奈、長川はみやびの目から涙が流れるのを見た。

「お父さんも私も妹も助けてくれなかった馬鹿な警察や大人に、このトリックは絶対に暴けないとは思っていたんだけど」

みやびは熱くなった目頭を指で触りながら都に笑った。

「でも違ったんだね」

「へへへー」都も笑った。

「だから次誰かを殺さなくちゃって思ったときにはそこんところも考えてくれるかな」

都に言われてみやびは頷いた。

「うん、ありがと」

「君を児童相談所に連れて行って保護してもらうことになるけど、いいかな」

部下にスマホで電話した長川に言われ、みやびは小さく頷いた。

 2人がエスカレーターで去って行くのを、都は黙って見つめた。結城の肩に瑠奈が縋り付き、震えるように泣いた。

 事件はこうして集結した。

 

「ええっ、みやびちゃんのお父さんが出頭したのおお」

都が自宅リビングでパジャマ姿で素っ頓狂な声を上げた。それをゲームしている秋菜とエプロン姿の結城が見つめる。

「ああ、事件を知って大阪の警察署に出頭してきたんでな。今こっちに新幹線で連れてきて話を聞いたところだ」

と電話口で長川は言った。

 

 取調室にいた人のよさそうな眼鏡の父親は、長川警部の前で憔悴しきったようにうつむきながら声を震わせた。

「本当に酷いパワハラを受けていたんです。殴るけるの暴力は当たり前で、足の指も2本詰めさせられ、事務所では全裸で働かされました。ずっと事務所に軟禁されていて…それでも娘たちの為にやめるわけにはいかないと思っていましたが、給料が支払われていないと気が付いたのは1年も後の事でした。もう会社を辞めようと思ったときには、娘が人質に取られている状態でした。その時私の中で何かが壊れた」

父親は顔を覆った。

「娘を置いて一人逃げるなんて最低かと思われるでしょうが、私だって一人の人間です。あんな拷問みたいな事、もう耐えられなかった」

「しかし逃げるときに通報とか相談とかは出来なかったんですか」

と長川。

「そんな事をして誰かが助けてくれるんですか」

と父親は泣きながら絶叫した。

「どんな拷問でも職場内ならそれはパワハラって事になって、犯罪として扱われないんです。そして私には保護責任がある。その名のもとに行政は私の居場所を職場に通告するでしょう。私はきっと連れ戻されて…きっと殺される。労基や役所を自分の命と引き換えに信じるなんて出来ますか?」

父親は下を向き、声を震わせた。

「私がいなくなればあいつらも娘を放り出すだろう。そう思っていました。ですがあいつら、娘にあんなことを強要していたなんて…。そのせいで娘が人を殺してしまったなんて」

父親は顔を覆って号泣した。

「私のせいだ…。私のせいなんですよ…。みやびは・・・・、あの子は悪くない。あの子に人殺しをさせたのは、あの子を捨てた私なんですよぉ」

その慟哭を前に長川は何も言えなかった。

 

「だって…」

都は言った。夕日が差し込む住宅の中で、高砂みやびはソファーに座って、何も言わなかった。

「お父さんは保護責任者遺棄に問われると思うけど、情状酌量はされると思う。と言ってもみやびちゃんが許すか許さないかは関係ない事だけど。ただあの時みやびちゃんだけが一人で頑張っていて、大人はみんなそれを裏切り続けていたって事なんだよ」

みやびは何も言わず、小さくうなずいていた。

「都ちゃん、ありがとうね。さ、私はこれから帰ってくるピスタチオちゃんとアヤコちゃんの為にシチューを作らないといけないから」

そうロドリゲス松本が言うと都は立ち上がり「お邪魔しました」と頭を下げた。

 

「まさかあのオカマ2人が同性カップルとして姉妹の里親になるとはね」

結城が帰り道の夕闇の住宅地でため息をついた。

「しかしあの子大丈夫でしょうか」と秋菜が背後から都に声をかける。

「なんか、凄くいろいろ背負い過ぎてて」

「大丈夫だよ…」都は笑った。

 

 シチューを鼻歌を歌いながら作るロドリゲス松本のエプロンを背後からみやびがぎゅっと握った。ロドリゲスは振り返るとみやびをぎゅっと抱きしめた。

 

「みやびちゃんは優しすぎるんだ」

都は前を向いた。

「だから自分に手を差し伸べてくる大人を、見捨てたりはしない」

 

おわり