密室の岩本 疑惑編
3
【容疑者】
・山喜連(35):警備部警部。
・大村正和(44):国税局マルサチーフ。
・黒瀬杏南(21):社長夫人
・黒瀬哲也(28):ベンチャー企業社長
・佐渡島照弘(45):警備部警部補
・安藤春彦(74):医師
・富岡重吾(38):特殊急襲部隊隊員
・輪島尊人(49)
「おい、何をしているんだ」
と山喜連警部(35)が声を出すと、佐渡島は「警部、動かないでください。殺人事件があった以上、この中の誰かが岩本に操られているか、岩本本人が成りすましている可能性があります」
フランケン系の刑事、佐渡島照弘(45)が拳銃を全員に向けた。
「ちょ」結城が両手をあげて焦る。
「今警察に連絡して硝煙反応を調べてもらいます。岩本が脱出する可能性がある為、この部屋の出入りは最低限に」
「この現場の指揮は俺が」
その時佐渡島が天井に拳銃を発砲した。
「きゃぁああっ」と近くにいた黒瀬杏南(21)が悲鳴を上げ、じっと佐渡島を見つめる都にしがみつく。
「全員リビングに出てもらいましょう」
と佐渡島が拳銃で指図する。
加隈茉莉也が特殊な機械とライトで火薬残渣を調べる。
「山喜さん…あなたは完全にシロですね。火薬残渣は全く検出されていません」
牛乳瓶眼鏡の女性鑑識は特殊なライトを消す。
「部屋の中に岩本が隠れられる場所がないかチェックしてくる。あー、次に医者を調べてくれ、検死をしてもらいたいからな」
と山喜はそう言ってリビングを出て言った。
「びっくりしたよ。あの警官いきなり拳銃を発砲するんじゃから」
と安藤春彦(74)医師がため息をつく。佐渡島は油断なく拳銃を片手に全員を見回した。
「全員油断なくチェックしてください。ATでもリボルバーでも対応できるように、徹底的にね」
と佐渡島が指示する。
「危ない親父だ」加隈は皮肉を言いながら安藤に特殊なライトを当てた。
「ヤバい警官もいたもんだな」結城は言った。
「多分長川警部と一緒で大胆にやらないと岩本君を捕まえられないと思ったんだよ」
都は結城を見た。そして部屋をじっと見まわした。
「それくらい岩本君は想像もつかない方法で殺人をやり遂げて来た危険な相手なんだよ。現にこの密室みたいな部屋で私たち全員がこの部屋にいる間に岩本君は黒瀬社長を殺したんだよ。私たちが想像もできない方法で」
ほわほわな表情が一切見られない。都の表情は真剣そのものだった。
その時、奥の部屋から山喜が出てきた。
「部屋をチェックした。岩本が隠れられる場所はない。ただ部屋にはこんなものがあった」
と手袋で手にされたのは拳銃だった。
「これが凶器だろうな。部屋のベッドの下にあった。安藤先生。検査が終わったら検死をお願いしていいですか」
と山喜は言った。
「脳を拳銃で一発。即死のようじゃ」
と部屋でペルシャ絨毯の上で頭を撃ち抜かれている死体を安藤医師は検視する。
「側頭部に拳銃の銃口を押し当てたんじゃろうな」
黒瀬の死体をチェックする安藤。
「死後硬直もないし、殺人は銃声の時に殺されたんで間違いないな」
「となると、銃声が録音されたって訳ではないって事ですか」と結城が聞く。
「君らも調べてもらったのか」
と安藤。
「出ませんでしたよ。硝煙反応なんて」結城はじっとベッドの下でもぞもぞする都を見る。
「鑑識作業前なんだ。現場を荒らすなよ」
と山喜。
「でも佐渡島って危ない刑事と若奥様は硝煙反応が出ちゃったみたいですね」
「まぁ、佐渡島は発砲しちまっているし、奥さんは近くにいたからな。最もあの2人が殺人の犯人だとしたらその証拠を消すための工作って可能性もあるがな」
と殿下髭の刑事、山喜はせせら笑った。
「それはあり得んよ」
と安藤は言った。
「この死体は死後30分程度しかたっとりゃせんわ。みんながリビングに来たのは銃声が聞こえる20分前。佐渡島警部補と奥様がここに社長を連れてきたときに殺したら、死亡推定時刻はもっと前になっておる」
「多分銃撃があったのは銃声がしたときで間違いないと思いますよ」
と結城は言った。
「俺が事件現場を直後に見たとき、ちらっと見た感じですけど、絨毯の血だまりが今より小さかったと思います。つまり殺人は銃撃とともに行われ、佐渡島警部補が銃を片手に危ない事している間にじわじわ広がって来たって事でしょうね」
そんな結城君を都は目をぱちくりして見つめた。
「あの窓は…。カーテンが閉まっているみたいですが」と結城。
「その窓は外から私の部下が暗視スコープで監視している。不審者が出入りした形跡はない」
と山喜は言った。
「完全な密室って事ですか。しかも全員にアリバイが成立」
と結城は考え込んだ。
「ああ、勝手に現場に入っちゃってもう」
と加隈茉莉也はため息をついた。
「硝煙反応も調べたし、本格的に鑑識を入れて調べたいんだけどな―」
と加隈鑑識はため息をつく。
「加隈さん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
都は廊下で加隈鑑識に話しを聞いた。
「殺された黒瀬社長の部下の人が殺された事件。どんな事件だったの?」
「殺されたのは黒瀬社長の腹心だった会社の重役だよ。ただ殺される1年位前から経営方針をめぐってかなり黒瀬社長と揉めていたって話だ。死因は撲殺。背後から金属バッドみたいなので殴られていたんだよ。その死体は那珂川の河川敷で見つかったんだけど、死体には茶封筒が添えられていてね。指紋とかは手袋してたのか出なかったんだけど、岩本のDNAは封筒のノリの部分から検出されてね。それで岩本の犯行だってわかったわけ。正直黒瀬も殺された副社長も従業員の女性を強姦したり、従業員を洗脳して無償で奴隷みたいにこき使ったり家族と縁を切らせたり酷い事をやっていて、ほら、あの若奥様。彼女もアルバイト先で副社長と黒瀬社長に横恋慕され、レイプビデオで脅されて結婚させられた口だよ」
と加隈は都にソファーに座る黒瀬杏南を顎で示す。
「だから社長の死に大喜びしていたのか」
結城は言った。
「正直、何で副社長が殺されて社長が殺されないのかって理由で怪しんだ刑事はいたんだけど、今回岩本が予告状まで出して殺人をしでかしたって訳だ」
「世間も相当あっと言っているぞ。Twitter見てみろよ」
結城がスマホをワイプする。
「トレンドが岩本、密室殺人、不可能犯罪、若奥様」
「マスコミが騒ぎ出したね。ケッケッケッケ」と加隈は怪しげに笑う。
「ちょっと奥さん、何状況をTwitterで中継しているんですか」
と山喜連警部が黒瀬杏南に怒りをぶつける。
「いいじゃない。私はあいつの死の状況をマスコミに売って自分の人生を取り戻すんだから」
と杏南はふんぞり返って言った。それを加隈と都が見つめる。
「あとそういえば」
加隈は都に言った。
「黒瀬の会社の副社長が殺された事件。私は鑑識作業中だったんだけどさぁ。殺された黒瀬が『私は神だ』って言っているところを偶然聞いちゃったんだよね」
「私は神?」都は目をぱちくりさせた。
「まぁ、今は仏さんにはなっちゃっているけどね。本当に何か大きな力を得たかのように、自分を神だって口にしちゃっていたんだよ。あれどういう意味だったんだろうね」
と加隈。都は思案した。その時だった。山喜警部が都に話しかけた。
「女子高生探偵さん。長川警部が外で待っているぜ」
「待っているって…ここは殺人現場だろう。刑事部の管轄のはずだよ」
と加隈が山喜連を見た。
「だが岩本がいる可能性がある段階では警備部の管轄だ」
と佐渡島警部補が加隈に言う。
「こりゃ当分県警本部は戦争だわ」
と加隈はため息をついた。
「なんだって」
結城がマンションの廊下で素っ頓狂な声を上げる。
「ああ、埼玉県で数か月前に岩本に娘を殺された遺族が下に来ていてよ。そいつはナイフを持って岩本を殺そうとしていたんだ」
富岡警部補らが警備する前で長川警部は頭をかいた。
「さっきまで所轄の取調室で話していたんだが、その事件も岩本のDNAとかが現場で発見されていて、さらに岩本からの犯行メッセージも残されていたそうなんだ」
長川はため息をついた。
「この事件で岩本が殺人を犯した理由はおそらく殺された女性がレイプをでっち上げて男性上司を陥れ、そのせいで家庭が崩壊したためであろうと言われているが、当然被害者の父親は信じていない」
「岩本の冤罪の可能性もあるって事か」
と結城。長川警部は「それは警察が調べる事ではないからな」とため息をついた。
「岩本君が冤罪で人を殺した」
都はどんぐり眼を見開いて呟く。
「だが世間では岩本に殺されるという事は悪い事をしたっていう証明だと考えている奴らがいてな。そのせいでかなり被害者の女性の遺族は誹謗中傷されたらしい」
「マジかよ」と結城はいささか驚いた声で言った。
「それともう一つ」
長川は都に言った。
「その女性にハニトラを仕掛けられたと言っていた会社の社長上松一郎って奴なんだが。どうも岩本に殺された女性の父親にこう言ったらしいんだ。『私は神だ。神に反する者は死ぬことになる』ってな」
「『私は神』って」都が目を見開いた。
長川が都の驚いた顔に「なんだ。何か新事実があるのか」と身を乗り出す。
「ああ、今殺された黒瀬哲也も同じことを言っていたのを加隈さんが聞いているんだ。前の現場で」
結城が都の代わりに長川に喚いた。今度は長川が驚愕する番だった。
「ちょい待て。それってどういう」
「長川警部!」都は女警部を見つめた。都はしばらく考え事をしていたがふと長川を見た。
「その自分は神様って言っていた上松さんって今無事なの?」
「いや」長川は都の質問に答える。
「4日前から行方不明だそうだ」
「行方不明?」と結城。
「岩本に殺されたんじゃ」
「いや、夜逃げらしい。直前に会社を担保に2億円も借りていたらしいからな。無理やり社員を連帯保証人にして。それを持って逃亡したという話だ。まぁ金を借りた場所があまり筋がよくないところだって話だが。あ」
長川はふと思い出したような声を出した。
「その社長に金を貸していた闇金の男が1週間前に殺されているんだ。岩本に」
「岩本が闇金業者を殺した?」と結城。
「ああ、岩本のDNAが付着した痕跡が殺害現場で発見されたんだ」と長川。
その時だった。長川のスマホが鳴った。
「どうした」と長川がスマホに話すと重苦しい鈴木刑事の声が聞こえて来た。
「今所轄から連絡がありました。輪島が留置所で首を吊り、死んだそうです」
「なん…だと」
女警部がスマホ片手に呆然と立ち尽くした。
「輪島が…自殺…」
廊下に立つ特殊部隊の隊員が持つサブマシンガンががちゃっと音を立てた。
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「そうか…わかった。また連絡する」
長川はそういうと電話を切った。そしておもむろに言った。
「今話した女性の父親、輪島尊人が所轄の留置場で自殺したようだ」
「マジかよ」結城は呆然とした。都も目を戦慄させる。
「糞…岩本が余計な予告状を出したせいでもう一人人間の命が消えちまった」
女警部は悔し気に壁を叩く。
「予告状のせい?」
都は目をぱちくりする。
「輪島は予告状の存在を匿名のメールで受け取ったそうだ」
長川は壁に向かって歯ぎしりする。
都は長川警部をじっと見つめ、そして考え込んだ。
「この事件の謎は3つ」
都は廊下を歩きながら思案する。その表情はまっすぐ前を向いていた。
「1つ目の謎はどうして岩本君が今回殺人予告を出してきたのか」
都は前を向いて反芻する。
「あの大量殺人鬼は必要がなせれば標的にわざわざ殺人予告を出さないからな」
と結城はフォローを入れる。
「2つ目に、岩本君はどうして今回の事件で頭を撃つという殺害方法を選んだのかな。岩本君ならもっと標的を苦しめて殺すと思うんだけど…。そして3つ目」
「犯人がどうやってこのマンションの部屋の密室から脱出したのかって事だよな」
結城の言葉に都は頷いた。
「そしてそのヒントになるのが今回殺された黒瀬社長と現在行方不明の社長。この2人が『自分は神だ』と抜かしていた事か」
長川警部は考え込んだ。
「それが理由かはわからんが」
長川は言った。
「上松社長に金を貸していた闇金の男が殺された事件でな。ま、その殺された奴が反社組織に繋がっていてよ。つまりヤクザの舎弟だったって訳だが」
長川警部はため息をついた。
「まさかそいつらが埼玉県で上松って社長を殺したんじゃ」
結城が声を上げると都は目をぱちくりさせて結城を見上げる。
「結城君。どうしてそう思うの」
結城は都を腕組をして見る。
「まず都、岩本がトリックを使うのって大体標的の焙りだしとかが理由で、殺しに関して自分が関与した事を隠す事には無頓着な傾向があるよな」
「うん」
都は頷いた。
「だから輪島の娘が殺された事件、黒瀬の部下が殺された事件では岩本は自分の痕跡を残している。だが上松って社長の失踪に関しては奴の痕跡も死体も出ていないと来た。となるとやはり、あの上松はヤクザ組織に殺されたんだ」
「いや、埼玉県警の見立ては違うようだ」
と長川警部は言った。
「まず闇金の男を殺したのは上松社長ではなく岩本だ。なのになんで上松がヤクザに報復されるんだ。岩本が他人に依頼されて殺しをしない事は警察関係者なら誰でも知っている」
「埼玉のヤクザは知らないかもしれないぜ」
と結城。
「だからだよ」
長川は言った。
「上松が仮に岩本を従えていたとしよう。そんな危ないやつにヤクザが報復なんて算盤打つと思うのか」
「ヤクザの間でも岩本はヤバいやつ扱いなのか」
と結城は呆然とした。
「あいつは暴力団関係者を40人近く殺しているよ。事実埼玉県警の情報屋は組長とかが無茶苦茶ビビっていて、上松に報復しようとする組員をガチブルしながら押さえつけていたって言っているしな。だが、同時に岩本がもし犯人なら上松社長の死体も自分が関与した痕跡も隠さないだろうと考え、埼玉県警は上松社長については自発的失踪と考えて捜査を打ち切ったんだ」
長川警部はため息をついた。
「ただ、面子を重んじるヤクザが金の回収にもビビるような状況を見て、上松は自分を神だと思ったのは間違いないだろうな」
「まさか本当に岩本が上松社長とかの殺しを請け負って」
結城が長川を見る。
「確かに上松社長にとって都合の悪い人間が2人も岩本に殺されているからな。それに上松自身は自分が殺されるとは全く思っていなかったようだし」
長川は考え込む。そしてふと都を見た。
「違うと思うよ」都はぽつりと言った。
「岩本君は何の罪もない人を誰かに命令されて殺すような人じゃない」
「信じたい気持ちはわからなくはないが」結城がため息をつく。
「都の岩本像がフェイクだとしたら」
長川が都を見つめる。
「あいつは都や私ら警察の心理を手玉に取る天才だ。今までの岩本承平の殺人のルールや振る舞い自体が、都や私らを欺き、行動をミスリードさせるフェイクだとしたら」
長川警部がじっと都を見つめた。
「つまり今回奴は初めて凶暴性や営利性を見せたのではなく、元々そういう奴で俺たちにそれを隠していたって事か」
と結城。
「奴はそれくらいやりかねないだろう」
長川が結城と都を見回した。サブマシンガンを手に警備する富岡ともう一人のガスマスクの特殊部隊員はじっと3人のやり取りを見ていた。
「フェイク…それだよ」
都は長川警部と結城を見つめた。
「この事件の全てを暴くのは嘘なんだよ」
都はぴょんと廊下を歩きだした。
殺人現場の部屋にやって来た少女探偵は「大体鑑識は終わったぞ」と言ってくる加隈鑑識に
「ちょっと加隈さんに聞きたいことがあるんだけど」
と三つ編み牛乳瓶眼鏡の女性鑑識にごにょごにょした。
「JK探偵ちゃん。こんなことがあるとは思えないんだけどなー」
「そう思うなら、ちゃんと調べてはっきりさせた方がいいと思うよ」
「今度パフェ奢るからさ」と加隈の背後から長川警部が肩をモミモミする。
「私は甘いものは嫌いなんだけどね。でも焼肉を奢ってくれるならいいよ。ビール飲み放題で」
「やき…ビール」
言葉に詰まる長川警部の横で都は「いいよー」と声を上げる。
「ちょ…」長川がΣ( ̄ロ ̄lll)ガーンとなる横で「ヒヒヒヒ、毎度あり」とスマホを取り出して本庁の鑑識課に連絡する。
「ビンゴ」
10分後、加隈は電話メッセージを長川に見せた。
「これは無茶苦茶えらい事ですよ」加隈は笑っていたがその声は緊張しまくっているのが分かる。
「ああ、えらい事だな」
長川も同意した。
「なんて狡猾なんだ。あんな方法で他人を利用して殺害目的を達成するなんて」
結城は戦慄した。そして思い出したように。
「だがちょっと待ってくれ。一体どうやって犯人はこの完全な密室で完璧なアリバイがある状態で殺人を実行したんだ。岩本のトリックはわかったが密室トリックとは無関係だぞ。銃声とかはテープで偽装出来るかもしれないが死亡推定時刻はこの加隈さんが正確に導き出している。誰も入ることができない密室でどうやってそいつは黒瀬社長を殺したんだ」
「それなんだけど」
都は床にあるペルシャじゅうたんをじっと見つめた。死体の頭から流れ出した血が広がっている。
「なんかわかったか」
長川は都の後ろから顔を近づける。
「長川警部…タバコを吸った?」
と都が絨毯を見ながら抑揚のない声で聞く。
「いや、ここ24時間1服もしてねえぞ。てか煙草臭いか私」
と長川が結城に聞いた。
「全然」と結城は手を振る。
「あ、でも所轄の取調室煙草臭かったな。前に使った参考人が吸ったんだろうが」
と長川は頭を掻いて思い出した。
「犬かよ」と結城が呆れたように突っ込む。
「人間硝煙反応探知機だね」と加隈。だが都は表情そのままに絨毯を見つめて呟いた。
「やっぱり…犯人はあの人で間違いないよ」
都はペルシャじゅうたんを撫でた。
「犯人の密室トリックもわかった」
都は結城と長川を見つめた。
「わかったのか!」
結城と長川が都を見つめる。
「うん。そしてその証拠は犯人が持っている。佐渡島警部がほかのみんなを部屋に待機させてくれて良かったよ。この事件の実行犯は岩本君の力を借りてはいるけど岩本君じゃない。犯人は事件前後にマンションにいた人間の中にいるから」
都は長川警部をじっと見た。
「みんなを集めてくれるかな」
「黒瀬社長が亡くなったんですか」
税務査察官の大村大和は再び事件のあった部屋のリビングにやって来た。
「ふふふ、女子高校生探偵島都の推理、拡散しなくちゃ」
と社長若妻の黒瀬杏南がスマホを弄る。
「本当か。長川」山喜連警備部警部の横で佐渡島照弘警部補は腕組する。安藤惟人医師は神経質そうにきょろきょろし、富岡重吾特殊部隊警部補ともう一人の隊員は不動の姿勢で立っている。
「岩本が使った密室トリックがわかったって」
「いや」長川は山喜を見る。
「このトリックは岩本が大量殺人鬼だからこそ実行可能なトリックだが、実行犯は別にいるんだ。この6人の中にね」
長川の言葉に驚愕する一同。少女探偵島都は一歩前に進み出た。
「このマンションで黒瀬哲也さんを殺害した犯人は」
島都はある人物の前に進み出て、その人物を指さした。
「貴方です」
【さぁ、全てのヒントは提示された。岩本に操られた犯人はどのように密室の中で殺人を実行したのか。犯人はこの6人の中にいる】
【容疑者】
・山喜連(35):警備部警部。
・大村正和(44):国税局マルサチーフ。
・黒瀬杏南(21):社長夫人
・佐渡島照弘(45):警備部警部補
・安藤春彦(74):医師
・富岡重吾(38):特殊急襲部隊隊員