少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

密室の岩本 解決編

 

 

5

 

【容疑者】

・山喜連(35):警備部警部。

・大村正和(44):国税局マルサチーフ。

・黒瀬杏南(21):社長夫人

・黒瀬哲也(28):ベンチャー企業社長

佐渡島照弘(45):警備部警部補

・安藤春彦(74):医師

・富岡重吾(38):特殊急襲部隊隊員

・輪島尊人(49)

 

 

 

「このマンションの部屋で黒瀬哲也さんを密室で殺害した犯人…その犯人は、あなたです」

都はその人物を指さした。その人物は目を見開いた。

「な…」

「都…本当にこいつが犯人なのか」

長川警部が少女探偵を見た。

「うん、私がこの人が犯人だと思った理由を解き明かすためにみんなで殺人現場の部屋に来てくれるかな」

都は一同を振り返った。

 殺人現場となった部屋からは既に死体が運び出されている。

「この部屋は密室だったんですよね」都の背後から声をかけて来た人物がいた。

「本当にこの人が犯人なら、この密室の謎をどうやって突破したんですか」

と安藤惟人医師がよぼよぼと都に質問する。

「この事件では加隈さんの鑑識で死亡推定時刻が銃声が鳴った時と同じ時間だとわかって、全員にアリバイがあり、マンションの構造からしても現場に誰も出入りは出来ない。そんな中で犯人は見事密室殺人をやって見せた。本当に簡単で大胆なトリックでね。ここで思い出してほしいんだけど、私たちは銃声が鳴って、死体が見つかって、その後で佐渡島刑事がみんなを引き留めて、加隈さんがみんなの硝煙反応を調べた。だけど誰一人硝煙反応は出なかった」

「ああ、そうだ。この人を含めて誰も出なかった」

佐渡島照弘刑事が都の横で頷いた。

「でもそれっておかしな話だよね。だって黒瀬社長は頭に銃口を密着させられた状態で頭を撃ちぬかれているはずだよ。と言う事は硝煙反応は黒瀬社長の死体にもついているはず…って事は…最初に黒瀬社長が死んでいるかどうか見ている人にも硝煙反応は付いていなきゃいけない。だけど、加隈さんがチェックしたとき、硝煙反応がなぜか全然ついていない人がいたんだよ」

都はゆっくりその人物に近づいた。

「山喜連警部補」

長川警部が都が指さした人物を見つめた。髭の小男山喜連は驚愕して都を見た。

「貴方が黒瀬社長を殺した犯人なんです」

顔面蒼白になる山喜連を見て長川は都を見て呟いた。「まさか」

「そう」

都は一気に畳みかける。

「山喜警部補が黒瀬社長が死んでいると確認したとき、黒瀬社長はまだ死んじゃいなかったんだよ」

「なんだって!」結城が大声を上げた。

「そう考えればみんなが銃声を聞いたときリビングにいたアリバイは簡単に解けるよね。そうあのフェイクの銃声をスマホアプリか何かで流したのは黒瀬社長本人だよ。そして山喜警部補が駆け付ける前に、黒瀬は撃たれたふりをして倒れた。死体を確認して髪の毛の中に銃痕があったように偽装して山喜さんは黒瀬さんが死んでいると嘘をついた。そして佐渡島警部補と加隈さんが硝煙反応をチェックすると言ったとき、あなたは最初にチェックを受けたよね。現場保存をするって言って。そして再び殺人現場に戻ると、死んだふりをして倒れている黒瀬社長の頭に銃弾を撃ち込んで殺害した」

「待ってくれ」

結城が都に問う。

「俺も黒瀬の死体を山喜と見ている。この時血が流れていなかったらさすがに違和感を持つだろう」

都はにっこり結城に笑いかけた。

「その時、部屋の敷物がペルシャ絨毯だったのもトリックのガジェットの1つだったんだよ。ちょっとこの絵を見てみて」

都は赤と黄色のストライプの画像を見せた。

「これって何色で出来てる?」

「赤と黄色の二色?」と黒瀬杏南がじっとスマホ画面を見つめる。

「ううん。実は3色。赤い部分が濃淡が微妙に違うんだよ。2色だけだったら赤の濃さが違うのはわかるけど、これに黄色が加わると人の目はその赤の濃淡にはあまり認識をしない。犯人はこれを利用して、最初に黒瀬さんの死体が出たとき、血が流れているか流れていないか結城君の目が認識できないようにした。その後で本当に頭を撃ちぬかれた黒瀬社長の死体を結城君は見たと思うけど、そこでも山喜警部補は巧妙な心理トリックで違和感を払拭した」

都は真っ青になっている山喜連を見つめた。

「だけどいくら何でも絨毯一枚で俺が違和感持たないわけが」

と結城。しかし都は冷静にワトソン役の少年を見上げた。

「最初に殺された黒瀬社長の死体が見つかったとき、それは銃声から10秒くらいで結城君と山喜警部補は駆け付けている。その時とその後の絨毯の血だまりを見ても、血が銃で吹っ飛ばされた頭からどれくらい流れるのかなんて正確に計測できる人なんていない。絨毯で違和感をわかりにくくして、その後の差異も『時間差』という認識でうやむやにする。『絨毯』と『時間』2つのガジェットを巧妙に使う事で、1つならもしかしたら勘のいいひとが気づいてしまうかもしれない『違和感』を山喜さんは見事に隠し通した。多分岩本君の情報を輪島尊人さんに流したのもあなただよね」

山喜は下を向いて震えている。都は言葉を続けた。

「ああやって岩本君に殺意を持つ輪島さんにマンション周辺をうろつかせ、長川警部にマンションの部屋から退出させるのが目的だった。殺人事件の現場となれば刑事部の長川警部が警備部の自分よりも絶対に現場の捜査を率先してやろうとするからね」

都は長川を見た。

「全く大胆なトリックだよ」長川はため息をつく。

「普通は殺人事件が発生してから警察が現場に駆け付けるものだが、今回は殺人を警察を呼んでアリバイ確認までされた後に実行するんだからな」

「証拠は、証拠はあるのか」

佐渡島警部補がいきり立つと、加隈は佐渡島を見上げた。

「警部補、そんなもの改めて彼の硝煙反応を調べれば」

「そこまでしなくてももっと簡単な方法があるよ」

都は加隈に言った。

「今言った私のトリックで絶対に必要なもので、今現場で見つかっていないものって何かな」

サイレンサーか」

長川が都に指摘すると都はピンポーンと笑った。

「この事件では凶器の拳銃は部屋に放置していく事は出来るけど、アリバイ目的の為に銃声をフェイクで使っていたから、サイレンサーだけは自分で持っているしかない。もし部屋でサイレンサーが出れば、トリックが見破られるかもしれないからね」

「ちょっと調べさせてもらうよ」

長川は白い手袋で呆然と震えている山喜連のスーツのポケットを探り、「出てきた」と筒状のサイレンサーを取り出した。

「山喜…決定だな」

長川はサイレンサーを翳しながら少し悲しげに言った。

「動機は…」

と富岡重吾警部補が声を震わせた。

「それは大村大和さん。貴方の捜査だったんじゃないのかな。脱税の」

「私の査察が?」大村査察官が呆然とする。

「多分国税局に脱税の証拠を送ってきたのは黒瀬社長をよく思わない誰かだと思うけど、もしこれで黒瀬社長が逮捕されるとなれば、山喜さんは凄く困ることになるんじゃないのかな」

「困ること?」と杏南。

「鑑識の証拠保管室の出入りを確認したら。貴方が出入りしているのがすぐにわかったよ」

加隈は言った。

「それも岩本の殺人の頻度が明らかに増加する直前の日付にね」

加隈真理は「ひひひ」と笑った。

「お前、岩本のDNAや体組織を盗み出したな。そしてそれを黒瀬や埼玉の上松みたいな人間に売り渡した。邪魔な人間を殺すアイテムとしてな」

長川警部が厳しい声で青ざめる山喜連を詰める。

「岩本のDNAが殺人現場から出れば、岩本が犯人と言うことになり、その稀代の殺人鬼の捜査にソースが割かれて、真犯人である上松や黒瀬みたいな奴は疑われない。そして世間は『岩本に殺されるくらいなら相当の悪党だろう』と勝手に思い込み、上松に殺された輪島の娘さんみたいな人を誹謗中傷し、上松社長自身は被害者側の扱いをされるって事か」

長川の怒号に近い声が響く。

「だから上松も黒瀬も自分の事を神様だとか言っていたわけか」

結城はため息をついた。

「殺人を全て岩本のせいにするためのガジェットを手に入れたって事だもんな。それで実際に大勢の人間を好き勝手に殺した連中がいたわけか」

と長川は吐き捨てた。「とんでもない警察の大失態だ!」

山喜はガタガタ震えている。

「つまり動機は、岩本のDNAを売り渡したことを逮捕後にバラされる事を恐れた口封じって事か。って事は何か…」

と結城。都は頷いた。

「今回の件に岩本君は関係ない。多分上松って社長も自分で失踪したんだと思うよ。多分黒瀬社長が脱税で捕まりそうになり、山喜警部に泣きついてきたんだと思う。だから山喜警部は『岩本のDNAを使って岩本に殺されたように見せかけて逃がしてやる』とか言ったんだよ。だから今回に限って岩本君の殺人予告が作られた。そこに岩本君のDNAを付着させ、警護主任を自分がやることで2人で黒瀬社長が岩本に殺されたって設定の事件をでっち上げるって悪だくみをしたんだよ。だけど山喜警部は最初から黒瀬社長を逃がすつもりなんかなかった。」

「大勢の人間の殺人に使われる事を前提に警察官が岩本のDNAをヤバい連中に横流し。お前の刑罰は普通の殺人よりも格段に重くなるだろう」

長川が宣告を下すように言った後で「どうしてこんな殺しをやったんだ」と諭すように言った。

「だって…仕方がないだろう」

山喜は号泣しながら言った。

「見ろよ。黒瀬社長のTwitterの虚言癖を…。しかも年齢設定も無茶苦茶だ」

山喜が頭を抱えた。

「こんな奴を、こんな頭のおかしな奴を匿っても…絶対ぼろを出すだろ。だから殺すしかなかったんだ」

と崩れ落ちる山喜。

「岩本が…あの殺人鬼が全ての罪を被ってくれるはずだったんだ。あいつは大量殺人鬼だ。俺の罪を被ったところで誰も困らないだろうが!」

山喜は狂ったようにへらへら笑った。そんな醜悪な殺人者の現実逃避など都は認めなかった。都の拳が山喜の顔に命中し、山喜は顔を張られて呆然と立ち尽くした。

「貴方の罪を貴方以外の人が償うなんて、輪島さんたちが許すはずないよね」

都の真っ赤な目が山喜を見下ろした。山喜警部は頭を抱えて絶叫した。

「うわぁあああっ」

「連れてっていいよ。警備部の方で」

長川は一瞥して言った。佐渡島と特殊部隊の男、富岡重吾の3人が腰の抜けた山喜を連行していく。

「終わったな」

結城はため息をついた。長川警部も加隈鑑識もやれやれと顔を振る。そんな中で都は顔色悪そうに胸を押さえている。

「どうしたんだ都」

結城は都を見た。都は顔を真っ青にしている。

「わかんない。わかんないけど…何か凄く嫌な予感がする」

都の声が震えていた。

「大丈夫か。ちょっと休めるところに行くか」

長川は都をマンションのエレベーターの前に連れて行った。そして下ボタンを押した。

「ドア開けたら津川館長が出てきたりしてな」

結城が冗談を言いながら、エレベーターが到着してドアが開いたとき、突然富岡、佐渡島の2人の刑事が都の前に倒れ込んできた。

「何!」

 

6

 

 エレベーターの中で倒れているのは富岡、佐渡島の2人の警察官ともう一人の特殊部隊の隊員だけだった。

「おい、ちょっと待て、山喜がいないぞ」

結城が声を上げる。長川と都は3人の状況を確かめた。

「大丈夫。気絶しているだけだ」

長川は言った。

「でもいくら警備部の警察官だからって警察官3人を気絶させられるものなのか」

と結城が困惑した表情で長川警部を見た。

「長川警部。今すぐこのマンションを封鎖して」

都は抑揚のない声を上げた。

「早く!」

長川は倒れている佐渡島のイヤホンを奪って「警戒中の警備部の隊員に告ぐ。直ちにこのマンションの駐車場全ての出入口を封鎖せよ。繰り返す、全ての出入口を封鎖せよ!」と叫んだ。

-こちら山下。貴方は長川警部ですね。今佐渡島警部補から連絡があり、事件は岩本承平とは無関係であることがわかったようで、我々は撤収しました。

「クソッ」

長川は声を上げた。

「とにかく、私は下に降りる」長川警部はエレベーターの下ボタンを押していた。

「気を付けて!」都は長川警部に言った。

「山喜警部を連れ去ったのは岩本君だよ」

「なんだって! でもさっき都、岩本は無関係だって」と長川警部は戸惑う。

「ごめん。岩本君の方が一歩上手だった」

都は声を上げた。

「話はあとだ」長川警部は頷くと結城が富岡の体を引きずり出した直後にエレベーターのドアを閉めた。

「どういうことだ」結城が都に聞いた。

「この事件、最初から山喜が岩本君に踊らされていたんだよ」

都は呟いた。

「大村査察官にもたらされたあの脱税の証拠。これがもし岩本君が提供したものだったら。そしてそのせいで黒瀬社長が逮捕一歩手前まで追い詰められていたとしたら…。絶対に山喜警部の岩本君のDNAの転売を黒瀬社長は警察との取引に使おうとするよね」

都は言った。

「だからもし山喜がDNAを転売していたとしたら、山喜は黒瀬を殺す。岩本はそれを確かめるためにこの状況を作ったんだよ。そして山喜が犯人だった事で自分のDNAを転売している警察関係者が誰なのか確定した」

都の目が真っすぐ前を見る。

「山喜を逮捕するチャンスは1回。岩本君と今回の事件を無関係だと私が推理し、警察官が山喜を連行したとき。岩本が無関係だとわかれば連行する相手はともかく周囲の警戒は緩みがちになる。その一瞬の油断をしている最中、エレベーターの途中階でドアが開いて」

結城の脳裏にエレベーターのドアが開いた瞬間に立っている岩本が浮かんだ。あの骸骨の死神が。

「まさか上松も既に岩本が」

結城が顔面蒼白になって言った。

「うん」

都は頷いた。

「どうしても今回岩本君は自分が暗躍している事を徹底的に隠す必要があったんだよ。だから上松社長は死体さえ発見されない形で殺した」

都は知らなかったが読者諸君は思い出してほしい。冒頭でサイコロステーキを食べながら一人語りをしている岩本を。その時その部屋のキッチンにはバラバラになった人間の指と生首があったのである。上松の生首が。

「岩本君は絶対に冤罪をしない」

エレベーターホールで都は呟いた。

「真実を暴くためならどんな悍ましい殺人だって平気でやるから」

「クソッ。まんまとあいつは標的を手に入れたって訳か」

「そんなものじゃ済まないよ」都の声は震えていた。

「もしこの犯行が山喜警部だけじゃなく、山喜警部の持っている証拠の顧客リストのデータが目的だとしたら。それを山喜が肌身離さず持っていたとしたら」

「まさか、岩本はそいつらも皆殺しに!」

結城が戦慄した。都はエレベーターホールに立ち尽くしていた。完敗だった。女子高生探偵島都の。

 

「ひぃいいいいいいいいい」

誰もいない真っ暗な部屋で山喜連は全裸で十字架にかけられていた。死神の殺人鬼は髑髏のように焼けただれた顔を山喜警部補に向ける。

「貴方はツールを提供しただけだ。だから本当はもう少し慈悲のある殺しをしてあげようと思った」

と岩本はむき出しの歯茎で喋る。

「でもね。貴方はトリックを使うに当たって、事もあろうに輪島さんを利用した。そして輪島さんは留置場で首吊り自殺…。僕に復讐できなかったことに絶望してね」

岩本の眼窩が赤く光る。・

「だからあなたにはこれから生き地獄を体験してもらいます。出来るだけ長く生きてもらいます。輪島さんの死は貴方と、そして…」

岩本の声が憎しみに震えた。「…そして僕の罪!」

 

「すぐに警察は岩本が手に入れたであろうリストについて公開し、岩本のDNAを取引をした人間に自首を促すべきです」

県警本部の懲戒会議で長川警部は声を上げた。

「長川君」刑事部長は言った。

「岩本のDNAを山喜君が盗んだというのは、証拠でもあるのかね。山喜君が出入りしていた事は間違いないが、証拠物は紛失などしていない」

「証拠物を盗まなくても綿棒1つあてがうで岩本のDNAは手に入れられます」

横に立つ加隈が鑑識姿で声を出す。

「だがそれだと記録には残らないだろう」

と参事官が声を出す。

「先週惨殺死体で見つかった山喜がDNAを売買していたという証拠はどこにも存在しない。事実は山喜が知人である黒瀬社長を岩本に脅迫される形で殺害し、その後山喜が岩本に口封じの為に誘拐、生きたままバラバラにされて河川敷で放置された」

「人の命がかかっているんです。下手をすれば何十人単位の」

長川警部が声を張り上げる。

「君の知人の女子高生の将来をつぶすような公表を証拠もなしに警察がしろと言うのか」

刑事部長が長川を机越しに見る。長川の目が見開かれた。

「そのせいであの島都という少女は世間から追及されるぞ。間違った推理で岩本に大量殺人のツールを渡したと…。警察としては証拠もなしに1人の女子高生の将来に影響を与えるような公表は出来ないという事だ。至極当然の判断だろうと思うがな」

刑事部長はそう言った。長川は臍をかんだ。

 

-速報です

ロビーの液晶テレビで宮根が言った。

茨城県警、埼玉県警、千葉県警、栃木県警、福島県警は現場に残された指紋などから、以下の方々について岩本承平が殺害の重要参考人であると発表しました。茨城県那珂市田宮英雄さん34歳、田宮浩一郎さん58歳、続いて石岡市久世翔子さん53歳、つくばみらい市室口健也さん49歳、埼玉県杉戸町大越芳樹さん32歳、川路寛乃さん31歳、久米純也さん33歳、続いて栃木県高根沢町木幡紀夫さん70歳、木幡玉子さん42歳、福島県いわき市江戸川春代さん63歳です。高田さん、岩本容疑者の殺人これここ2日で10人ですか。頻度が上がっていますね。

-ええ、先週の茨城県水戸市ベンチャー企業の社長が殺される事件があってからこれで35人ですよ。かなり多いですよね。

有識者の学者がコメントを出す。

 都はそれをテレビで見ながら拳を震わせた。

「おう、都」長川が気楽に都に手を挙げた。

「長川警部…。えと、そ、その」あわわわと声を上げる都に。

「大丈夫。訓告で済んだ」と長川は笑った。都は「ほえええええ」とため息をついた。

「警察は警告を出すのか」結城が聞くと

「出さないそうだ」長川朋美はため息をついた。そして笑った。都の顔がきょとんとする。

「都…私思うんだがな。お前は推理にミスなんかしていなかったんだよ」

長川はテレビでのコメンテーターの発言を見ながら言った。

「長川警部…」都が呟く。

「だって山喜がDNAをばらまいていたって証拠はないんだぜ」

「でもそれだったらなんであの事件以降の殺人では現場に指紋とか残されているのかな」

都が目をぱちくりさせる。

「それは岩本に何かのっぴきならない理由があったんだろ」と長川。

「長川警部! 私はあの事件で岩本君は関係ないと言った。だから山喜を連行している佐渡島警部補は油断した」

「あいつは警察官だ。油断するのが悪い」

長川は言った。

「そのせいで、35人の人が殺されてこれからもっと殺されるのかもしれないんだよ。私のせいで大勢の人が!」

都は長川警部の腕を両手で掴んで振った。

「仮にそうだとしても、それは警察の判断が問われるって事だ」

長川は都の肩を掴んだ。

「お前はちゃんと推理をした。無実の人間を冤罪にしたんじゃない。それに奴らは人を殺した殺人者だ。警察が公表したところで自首なんかしないさ」

「でも岩本君に殺される恐怖を感じれば何人かは」都は食い下がった。

「殺されると思うからこそ警察に連中は助けなんか求めない」長川は都に諭すように言葉を続けた。

「そう仕向けるように岩本は山喜に黒瀬を殺させたんだ…都」

「長川警部」都は下を向いて言った。

「もしかして偉い人に私が大変なことになるからって言われたの?」

都の声は震えていた。

「いや」長川は静かに言った。

「私もその方がいいと思ったんだ」

長川警部は都の目線に顔を降ろした。

「岩本が殺した連中に殺された連中、35人合計で何人殺したと思う。わかっている限りで126人だ。10人以上殺した奴が5人もいた。会社の従業員や支配下に置いていた女子供を遊び半分で殺した奴もいる…都が推理したからこそ、殺されずに死んだ人間は35人より多いはずだ」

都は長川警部から一度顔をそむける。

「そっか」

都は下を向いたまま言った。そしてそのまま警察本部の外の自動ドアから駆け出して行った。

「なぁ警部」

ため息をつく長川警部に結城竜は言った。

「ありがとな」

「いや」長川はため息をついた。

「でも都の推理を動画撮影していたよな。黒瀬社長の奥さん」

結城の質問に長川は頭を掻いた。

「それは聴取したんだが、消したらしい」

「何で…金になるのに」結城が目を見開く。

「金なら黒瀬から相続してたくさんあるだろ」長川は言った。

「それに。彼女の立場からすれば当然さ。なんで自分を苦しめた人間との同族が殺されるのを止めなきゃいけないんだ」

 

都は県庁前のベンチでぼーっとしていた。

「都さん…」

突然聞き覚えのある声がした。ふと見上げた時、背広姿の男がいた。骸骨のように窪んだ眼とむき出しの歯茎。あの殺人鬼だった。都の目が見開かれる。

「気をもむ事はありません。君の推理のせいで大勢の無辜の人間が殺害を免れた。100人単位でね。都さん、君は英雄です」

「岩本君」都が普段のふわふわな感じから信じられないくらい怒りの形相で目を光らせて殺人鬼を見る。岩本は笑った。

「都さんの怒りはわかりますよ。僕のせいで35人の人間が輪島さん親子をはじめ、無辜の人々を大勢殺した」

「岩本君のせいじゃないよ」都はじっと岩本を睨んだ。

「警察官が勝手に証拠を持ち出した。それを35人の人間が金で買って殺人に使った。いくら岩本君が殺人鬼でも、その件に関しては岩本君ではなくその人たちに罪がある。でもね…」

都は拳を震わせた。

「それを殺人で解決するなんて許せない。死んでいい人間を勝手に決めて37人の人の命を岩本君は奪った…私は岩本君を許さない」

「安心しましたよ。次のゲームでも役に立ちそうだ」岩本の不敵な笑み。

ふいに自転車が都と岩本の間を通り、次の瞬間岩本は消えた。

 都は立ち上がって岩本の消えたあたりを振り返って見回した。でも岩本が捕まえられるわけないと悟り、都は右手で胸を掴んだ。

「英雄? 私は岩本君の掌で人を殺す手伝いをした探偵失格だよ」

都はキッと前を見た。

「でも、必ず捕まえるから!」

 

 

おわり