劇場版少女探偵島都-少女X殺人事件❷
3
【容疑者】
・山口有菜(14):中学生
・西条憲太郎(38):牧師
・平山絵美理(14):中学生
・アルバイトA(15)
・アルバイトB(15)
・アルバイトC(15)
・熊田栄太郎(53);スーパー店長
・西口秋生(32):チャイルドセイバー職員。
・神峰良(58):チャイルドセイバー代表
スーパーマーケットの前には消防車と警察が到着していた。規制線が貼られており、野次馬を必死で遠ざけている警察官がもみくちゃになっている。
「長川警部! 長川警部」
結城に肩車された都が「おーい」と手を振っている。長川は少し驚いたように都の元に野次馬を押しのけてやってきた。
「お前ら。なんでこんなところに」
「長川警部こそ」都は長川警部を見た。
「ひょっとして爆弾がこのスーパーに」
「ああ、県議会の方に犯人からメッセージが。とにかく危険だから君らも下がるんだ。まぁ閉店後だし、内部に人はいないはずなんだが」
長川はため息をついた。
「中にひょっとしたら人がいるかもしれないよ」
都は長川を見た。「なんだって?」女警部が顔をゆがめる。
「実はこのスーパーで長時間休みもなく働かされている私たちと同じくらいの人が3人いて、いろいろあってこの3人はスーパーの中で店長に手錠をかけられて閉じ込められているのかもしれないんだよ」
「それは本当か」
長川に確認され、都は「うん」と真っすぐ頷いた。
その時レクサスが現場に到着した。そして店長の熊田栄太郎(53)が赤ら顔で降りてくる。
「あ、あの、うちの店舗に爆弾なんて本当ですか」
「ええ、残念ながらその可能性は極めて高いでしょう」
長川は熊田を見ていった。そしてその表情を読むように「中を調べてもいいですか」と確認した。熊田は横にいる都と結城を見ると、なぜかニヤッと笑って「いいですとも」と頷いた。
スーパーのバックヤードで長川は機動隊員に命令した。
「君らは爆弾を探してくれ」
「私たちは3人のバイトさんを探すよ」と都は長川警部に言った。
「都、何で入ってくるんだよ。爆弾があってアブねえぞ」と長川は都の肩を押しとどめようとするが、都は「一刻の猶予もないからだよ」とスマホのライトを翳した。
「私はバイトさん監禁に使われた可能性がある手錠と電気ストーブを見ているんだよ。その場所に早く案内してあげたいんだよ。と言っても」
都はじっと長川を見た。
「もうすでにアルバイト3人はこのスーパーにいないかもしれないけど。あの店長の表情を見る限り」
と都はバックヤードを走り出した。
都の予想は当たっていた。手すりに手錠があった事務室の前には、3人の姿はなかった。
「やっぱり」
都は手すりを見つめながら言った。
「私が見たときには手錠が4つ、それに電気ストーブがあったんだよ。でもあの店長、私が見たばっかりに万が一って事を考えて、3人の監禁場所を変えたのかもしれない」
「ちょっと待って、監禁された場所に、手錠が4つ?」
長川警部が聞く。
「もしかしたら、別に監禁されているアルバイトの人がいたのかもしれないんだよ」
「監禁って」長川警部はため息をつく。
「普通そんなことをしたら、家族が騒ぐかもしれないし、そうじゃないにしても接客業についているんなら、客に助けを求めるかもしれんぞ。3人は本当に監禁されていたのか」
「3人が休みなしで1日19時間の間働かされていた事は間違いないんだよ。でも変なんだよね」
都は考え込む。
「あの3人は19時間働いている割には笑顔で働いていたんだよ。本当に幸せそうに。お仕事も笑顔でやっていた。何か仕事をしているのが凄い幸せって感じで」
都は店内で働いていた若者3人を思い出す。レジでも商品の陳列でも3人は凄く幸せそうに働いていたのだ。
「19時間も働かされて、普通こんなに幸せって顔が出来るかな」
都は目をぱちくりさせた。そしてさっき手錠をかけられていた手すりと、通路の反対側の手すりを見つめる。そしてその手すりと手すりの間に手を伸ばして、その距離を測るような仕草を始めた。そして何も貼られていない壁を見つめた。長川警部はそれをじっと見つめていたが、やがて都を後ろから捕まえ持ち上げた。
「わっ」足をジタバタさせる都に女警部は説諭する。
「とにかく、あの3人は警察が探すから、お前は外に出て居ろ。ここには爆弾があるかもしれねえんだ」
「ええええ、待ってよー」都が必死で足をジタバタさせていた、まさにその時だった。
「警部!」
部下の金髪の鈴木刑事が長川に報告する。
「爆弾が見つかったのか」
鈴木に長川が聞くと鈴木は「いいえ、死体です。死体が見つかりました」と報告した。
「な、なんだと」
そう喚く長川警部の横で都が目を見開いた。
スーパーの外では結城が「都の野郎、まさか中にいるんじゃねえだろうな」と規制線の外で貧乏ゆすりをしていた。
「警部」
西野刑事が店舗のバックヤードで長川警部に敬礼する。
「爆弾は店舗の隅々まで探しましたが発見できませんでした」
「了解」長川は頷いた。「それじゃ、機動捜査隊を中に入れて現場検証だ」
「都。私らは現場で死体を確認してくるから待っていてくれ」
長川警部は手袋を両手に装着しながら言った。都は「うん」と頷いた。
「なんだこれ」
長川は倉庫の段ボール箱に入ったそれを見てため息をついた。入っていたのは人間の足だった。足首と脛の部分で構成され、脛の部分が真っ二つになっている。
「あの陳列棚から見つけたってさ」
加隈という牛乳瓶眼鏡の女性鑑識は長川に言った。
「一つだけちゃんと包装されていなかったから、捜査員が不審に思ったらしい。見たところ、大きさとかから見て10代中盤から後半の女の子の足の可能性が高いね。爪にマニキュアが塗られているし。すね毛も生えていないし、多分女の子だよ」
「問題は切り口だな」
長川はため息をついた。
「人間を切断する場合、普通は関節を切断するはずだが」
「さすがよく気が付いたね」加隈は切断面を指さしている。
「この死体は脛骨の中途半端な場所で切断している。しかも使用しているのはかなり重い刃物でおそらく人間を切断する事を想定していない。ギロチンカッターみたいな物を使ったんだろうね」
加隈の眼鏡が反射する。
「まさかだとは思うが、都たちが助けようとした監禁されたアルバイトの3人の中の誰かって可能性はないよな」
長川朋美警部はため息をついた。
「ああ、さっき朋ちゃんが都ちゃんと探していた奴か」
加隈は手を振った。「それはないよ」
加隈は死体を指さして続ける。
「この死体の死亡時期は少なくとも1週間前だね。そして死亡してから切断するまでかなり時間も経過していると思う。傷口自体がかなり腐乱してから切断している事がわかるしね」
「となると」
長川警部から話を聞いた島都は昼間手錠を見つけた事務室前の手すりをじっと見つめた。
「あの死体は板倉君の初恋の人ではないって事だね」
「ああ」長川警部はため息をついた。
「だがそうなると気になるのが都が見た4つ目の手錠だな。あれをかけられていた4人目があの足の主だとすると。監禁されて殺された人間が一人いたって事になるんじゃないか」
「うん」
都は考え込む。「ただそうなると3つの疑問が出てくるんだよ」
女子高生探偵は女警部を見上げた。
「第一に、爆弾事件を引き起こした犯人とこの死体は何か関係があるのかなって事。第二に、なぜ犯人は足だけを段ボールに入れてスーパーに隠していたのかという事。胴体とか、頭とか手は見つかっていないんだよね」
都は長川に確認した。
「ああ、見つかっていない」
「それに3つ目の疑問」都は考え込む。
「死体の切断された位置だな」長川は都に言った。
「犯人はなんで脛の骨の場所をギロチンカッターで無理やり切断する必要があったのかな」
「さぁな」
長川はため息をついた。
「とにかく、都の言う3人の少年少女の安全を確保しなくちゃいかん」
店の外でイライラ煙草を吸っていた熊田店長に長川警部が立ちはだかった。
「これは警部さん。爆弾は見つかりましたか」
熊田は必死で余裕を取り繕う。
「爆弾は見つかりましたか?」
「見つかりませんでした。ついでに貴方が監禁していた未成年者のアルバイトも見つかりませんでしたよ」
長川警部はじっと熊田を見つめる。
「ははは、何を」と熊田は余裕ぶっこいていた。
「でも代わりに物凄いものが見つかりました。未成年者の女性の死体です」
熊田の顔がさっと青ざめた。
「な、なんだ死体って」
熊田は長川と都の顔の双方を見つめた。
「わ、私は知らないぞ。死体なんて…私は知らない! そ、そうだ。爆弾犯だ。爆弾犯が死体をスーパーの中に運び込んだんだ! そうに違いない」
狼狽える熊田に長川警部は詰め寄った。
「それを今からはっきりさせるので、これから警察署にご同行願いましょうか」
ギラリと笑う女警部は「ついでにあなたのご自宅の捜査令状も取らせていただきますね。貴方が隠していたこのスーパーで奴隷労働をさせられていた従業員が監禁されているかもしれませんからね」と熊田の肩をとんと叩いた。
「そうか」
と熊田はせせら笑った。その表情を見つめていた都はふと目を見開いて「長川警部」と鋭い声で言った。
「捜査令状を出す場所はこの人の家じゃない。チャイルドセイバーの子供たちがいる場所だよ」
と都は鋭い声で言った。
その瞬間、熊田店長の表情が恐怖でひきつった。そんな熊田の様子をじっと見つめている人物がいた。人だかりの中でそのやり取りを見ていたのは、山口有菜という少女だった。
4
「チャイルドセイバーの施設だと」
長川警部が都に聞く。
「前に私が手錠を見つけた場所に、チャイルドセイバーのポスターが貼ってあったんだよ」
都は長川警部を見た。
「でもそれがさっき見たときにはなくなっていた。熊田店長は施設に一時的に3人を隠したんじゃないかな」
都は真っ青になった熊田をじーっと見つめる。
「どうなんだ店長」
長川警部は熊田を見つめた。
「まぁいいだろう。死体を店内に隠してあった以上、あんたを緊急逮捕できるはずだ。後はあんたのスマホとかメールの履歴を復元できれば」
茨城県警本部-。
「警部、熊田のPCとスマホの履歴を調べたらありましたよ。3人のアルバイトを一時的にチャイルドセイバーで預かってほしいと。熊田は3人の従業員の未成年者に無給で毎日カップ麺だけ与えて働かせていたみたいですね」
と長川の机に鈴木刑事が報告する。
「何でチャイルドセイバーはそれを受け付けたんだ」
と長川が聞くと鈴木はため息をついた。
「それはそもそもあの3人がチャイルドセイバーによって養育されていたからなようです。そしてチャイルドセイバーと熊田店長は、3人の身柄をめぐって人身取引を行っていた事も、奴の口座をチェックする事で確証が取れました」
と鈴木刑事は長川警部は資料を手渡した。
「人身取引」
長川は資料を見ながら絶句した。
「ええ」鈴木も少し興奮しているようだ。
「それと3人の名前も判明しました。まず諌山由愛、15歳。母子家庭育ちで母親が失踪したため、2年前に妹とチャイルドセイバーに入所したそうです。その後妹は別の富裕層の家に引き取られ、彼女はこのスーパーに就職…と言っても熊田側からチャイルドセイバーに200万円の入金が確認されています。紹介料と言う名目ですが、実際は」
「人身取引だろうな」
と長川。鈴木は続ける。
「日ノ本健也。15歳。メールの文面を見る限りはギャンブル依存症の両親に売られたみたいですね。その後やはり富裕層の男性と一時期養子縁組をしていますが、15歳の時に解消され、スーパーで勤務しています」
「養子縁組? 相手はどんな奴なんだ」
と長川警部。鈴木刑事は資料を読み上げる。
「それは連中にとっても顧客情報なので明かされていませんが、メールの文面で前の養子縁組が解消になった理由としては、本人の労働能力や従順さに問題があったのではなく、養子として引き取った男性の性的な対象外の年齢になったからだと」
「ゲス野郎が」
長川はため息をついた。「で、もう一人は」
「はい」
鈴木刑事が資料を読み上げていく。
「それと古間木姫奈、15歳。彼女も母子家庭でしたが、母親が生活保護の受給を申請しに行って、チャイルドセイバーを勧められ、11歳の時に入所。その後一時期はある一家と養子縁組をして要介護老人の世話をした後、15歳でスーパーで働くようになっています」
「とても子供時代をまともに暮らしているとは思えないんだが」
長川警部はため息をついた。
「やはり就労や養子の際にチャイルドセイバーと雇用や縁組先との間で、数百万単位の金銭取引があったようだな」
「防犯カメラの解析結果です。死体が見つかる4時間前に、死体が入っていたものと思われる段ボールを持って店内に入った人物がいました。ビニールで包んであるため断定は出来ませんが」
鈴木に言われて長川警部は資料をめくった。野球帽にマスクにサングラスを着用し、黒いジャンパーを着用した人物が映り込んでいた。
「こいつの詳細は」と長川。
「年齢性別はわかりませんが、身長は150㎝前後です」と鈴木。
「小さいな」と長川。
「まさか未成年者じゃないだろうな」
「可能性はあると思います。ただこの人物が死体を運び込んだと断定するには問題があります」
と鈴木刑事。
「どんな問題が」
「この段ボールをバックヤードまで運び込む事は出来ますが、倉庫内部にはカードキーがないと入れないようになっているんです」
と鈴木は長川に報告する。
「なるほど。つまり、あのスーパーの倉庫に入り込めたのは、スーパーの内部の人間と言う事か」
と長川警部は考え込んだ。
太陽が昇る中、茨城県稲敷市の長閑な風景の道路を朝焼けにシルエットになったパトカーが多数走っている。
「本当に令状が下りたんだな」
結城は都の横で長川が運転するセダンの後部座席に座りながら声を上げた。
「ああ、スーパーでバラバラ死体が発見されたという事で裁判所もあっさり令状を出したぞ」
長川はため息をつく。
「それで…一つ聞いていいか」と長川がルームミラーを見た。
「パトカーの後ろからついてくるバイクの集団は何だ?」
「あのバカ」
結城は後ろを見ると、ヘルメットを着けた勝馬が背中にヘルメットを着用した秋菜を連れて走っている。その背後には板倉や勝馬の舎弟たちが。
「何やってるんだ。秋菜を2人乗りさせやがって」
結城がパトカーが停車した住宅地でバイクにまたがった勝馬に喚く。
「だって板倉君の初恋の人が監禁されているのかもしれないんでしょう」
と秋菜がヘルメットを勝馬に返してバイクを降りた。
「今からカチコミに行くんだよ」と勝馬。結城はため息をついて都に親指を指した。
「都。この馬鹿どもを大人しくさせてくれ」
都は目をぱちくりさせると、いきり立つバイク集団を見つめて、
「勝馬君。長川警部の邪魔になっちゃうし、みんなに何かあったら大変だからちょっと大人しくしててくれるかな」
とかわいい笑顔で言うと、勝馬やその舎弟たちは「へい」と声を上げた。
「私たちのような価値のない人間を助けてくれるのはチャイルドセイバーだけです」
チャイルドセイバーの本部は研修センターみたいな施設だった。その風呂場でシャワーを浴びせられて下着姿で震えている3人の少年少女。
「冷たいか。冷たいか」
とシャワーノズルを片手に大喜びの神峰良。58歳。チャイルドセイバーの代表である。
「ほらほら、怖いか。怖いか。ヒヒヒヒヒヒ。当たり前だよな。こうなっているのはお前らが悪いんだから。お前らが悪いからこうなっているんだからよぉ。キヒヒヒヒ」
目を血走らせ歯茎を見せて大喜びしている。
「私たちのような価値のない人間を助けてくれるのはチャイルドセイバーだけです」「私たちのような価値のない人間を助けてくれるのはチャイルドセイバーだけです」
その背後で西口秋生という秘書が「代表。い、今警察のかたが」と声を上げた。
「大方、熊田の件で話しを聞きに来たんだろう」
神峰良は全裸でシャワーのノズルで3人を示した。
「こいつらがここにいると知って来ているわけがない」
「でも死体が見つかったって」
と西口。
「大方、熊田が誰か殺したんだろう。全く馬鹿な奴だ。でもまぁ俺たちが調べられることはないさ。だって俺がやったことは可哀そうな子供たちに働く場所を提供してあげただけ。労基法に違反したのはあくまで熊田だからなぁ」
と神峰良はヘラヘラ笑った。
西口は周囲を雑木林で囲まれた施設の玄関のガラス戸を開けた。
「お、長川警部じゃありませんか。あと後ろには都さんも」
と西口は2人を見回す。
「ひょっとしてモデルの件。また考えていただけ…」
西口の目の前に捜査令状が突き出された。
「未成年者に対する監禁容疑で家宅捜索するからね。神峰良の秘書で元ヤクザのフロント企業の社長さん」
と長川はそう言って西口を押しのけようとするが、西口は長川警部に立ちふさがった。
「ち、熊田以上に馬鹿だったんじゃねえか」
西口は独り言のように悪態をつくと、神経質そうな天然パーマの眼鏡をはずすと、冷たい目で長川を見て、直後にいきなり拳銃を取り出して長川警部の胸を撃った。長川警部が「ぐっっ」と声をあげて仰向けに倒れる。
「動くな」
と西口は長川の部下に拳銃を向けて手を挙げさせると、そのまま出口へ突破して外に向かって走り、「長川警部!」と血相を変えて走り出した都を捕まえると、抱え上げ、拳銃を頭に突き付けた。
「都!」
結城が駆け寄ろうとする足元を西口は拳銃で撃った。
「勝馬、秋菜…動くなよ」
結城は手を挙げた。都は鋭い表情で西口を見た。
「やっぱり、私をモデルにしようと思ったのは」
「俺の意見だよ」
ぐっと都の首を締めあげて、都が苦し気に顔をしかめるのを楽し気に見つめる西口。
「お前は警察と仲良しだからな。お前の恥ずかしい写真を撮影して、それで警察の事を教えてもらおうとしたんだよ。でもあの女警部。俺のたくらみを察知していたんだな」
「だから警部はいきなり都の後見人になるとか言い出したのか」
と結城は凄まじい形相で歯ぎしりした。
「そういう事だ。おい、そこのゴリラ。バイクをキー指したまま降りろ」
「いう通りにしろ、勝馬」
結城に言われて勝馬は唸り声をあげながらバイクから離れた。西口はいきなり都を突き飛ばすとバイクにまたがり、急発進させた。
「師匠」
地面に倒れて咳き込む小柄な少女を助け上げる秋菜と勝馬。
「長川警部…長川警部…」
都がフラフラ立ち上がろうとすると、長川警部は胸を押さえながら起き上がった。
「な、防弾ベストを着用してよかっただろ。奴の経歴を考えたらもしやって思ったんだ」
と部下に言った。
「長川警部」
都は目を見開いてそしてぱっと笑顔になった。秋菜も勝馬も安心したように顔面を間抜けに崩壊させる。女警部はすぐに真顔になった。
「それより奴を緊急手配だ。拳銃を持った凶悪犯が逃げやがった」
「家宅捜索は」
と鈴木刑事に長川は「今は西口の方が緊急性が高い」と声を出した。
「それなら」
勝馬と板倉と秋菜たちは刑事たちの前に立っていた。
「俺たちがカチコミに行くぞ」
「ちょ。待て!」長川が止めようとする中で、都は長川を助け起こしながらふときょろきょろ辺りを見回していた。目をぱちくりさせる。
「あ」都の目が驚愕に見開かれた。
西口秋生のバイクがビニールハウスの間の通路を爆走する。その後ろを結城は勝馬の舎弟のバイクで追いかけていた。