少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

劇場版少女探偵島都9ー岩本承平の驚愕File❸

 

5

 

「ちょっと待てよ」

結城は唸った。「八木正平が引き起こした事件。何か闇が深すぎるだろう」

長川も都も「むむむむ」と腕を組んで唸っている。

 その時だった。突然一台の黒塗りの高級車が長川の前に停車し、一人の赤ら顔の男が降りてきた。

「長川君。今回は随分と痩せているではないか」

「大村一課長」と長川は赤ら顔の恰幅の良い警視に敬礼した。

「ははは、相手は岩本だ。奴に10人くらい殺されても、最早不名誉ではなくなっている」

このデブのおっさん、身もふたもない事をケロッという。

「おお、君は女子高校生探偵島都ちゃんではないか」

デブの大村巨人警視(57)は都の手を握った。

「実は私もファンなのだよ。長川が世話になっているね。そうだ。今から私の車に乗ってくれないか。協力してほしい事があるんだ」

と大村は都を車に引っ張り込もうとする。

「私知らない人の車に乗っちゃダメって言われているんだけど」

「大丈夫。私は長川の上司だ」

と都は車に押し込まれてしまった。その後大村はドアを開けて「あ、結城君、君も来てほしいそうだ」と結城を呼んだ。

 

「実は私は明日の7時までに決断をしなくてはいけなくてね。今警察病院に入院している一柳さんの警護計画なのだ。彼が岩本に狙われている次の標的である事はわかっているからね」

と大村警視は言った。

「今捜査一課では2つの方針が揺れているのだ。第一の方針は岩本が変装している可能性がある八木正平の写真を警察官に配り、それを覚えさせて警護するという方針だ。病院のゲートにはボディチェックポイントを設置して変装を見破る為のチェックを行う。その時に八木正平の顔を見かけたら、それが岩本の変装であるから直ちに警察官が対処するという方針だ」

大村の車は県道を走っている。大村はため息交じりに言った。

「だが岩本が今回なぜ八木正平の顔で殺人を繰り返しているのかが皆目見当がつかない。それで我が署ではこのような仮説が立てられているんだ。八木正平に変装して犯行を行っている理由として、我々に対してミスリードを仕掛けているのではないかってね」

「ミスリード」都は大村を見上げて目をぱちくりさせる。

「あ、君の家は守谷駅の方向であっているよね」と大村は結城に確認してから、都の方を向き直った。

「つまり岩本は我々が八木正平の姿を追い求めるように仕向けるのが目的でないかと言う事だ。そこで第二案、敢えて警官に八木正平の写真を見せず、変装した人間を絶対警察病院に入れないという方法で対処するという案が出てくる。次に岩本がどのような変装姿であろうと取り押さえられるようにな。先入観を最初から作らないという方法だ。都ちゃんとしたはどちらの方がいいと思うかね。私はそれを明日病院が開く前に決定しなければならないのだ」

「八木正平の写真を共有しないというのは警護としては斬新なやり方ですね」

と結城は言った。

「リスクはあるのは承知だが、奴に対抗してマルタイを守るにはこちらも大胆な方法を取らないといけないと考えているのだが、都ちゃんはどう思う?」

と大村警視に言われ、都は「いい方法があります」と目をぱちくりさせた。

「いい方法?」

と大村がずいっと都に顔を近づける。

「まず八木の写真を配った方がいいと言っている人の代表を決めます」

都が一本指を立て大村は「うんうん」と頷く。

「次に八木の写真を配らない方がいいと思った人の代表を決めます」

「うんうん」

そのやり取りを見ながら結城は「ひとりでできるもんじゃねえんだから」と突っ込んだ。

「そして、それぞれの代表選手がじゃんけんで決めるんです」

都はびしっと言った。大村警視は呆気にとられる。

「…」大村はポカーンとしていた。結城は「いいいい?」と目ん玉を見開いた。

「み、都ちゃん。これは真面目な話なのだよ」

「真面目な話ですよ」都は大村をじっと見つめた。

「岩本君は完璧に警察や探偵の心理を見抜いています。多分大村警視の事もリサーチしているはずです。どんな時にどんな指示を出すのかとか」

「確かに警察の意思決定者は奴も予想はつくだろうな」と大村は考え込んだ。

「だから岩本君でも予想が出来ないように、じゃんけんみたいな不確定要素を入れる事が出来れば…」

都は大村を見つめた。「なるほど、奴の術中にはまるリスクを分散するというのだな」

「勿論どっちを取るにしても、警察の能力が求められますが」

と結城が合の手を入れる。

「うははは、だがやはり高校生探偵というのは我々にない発想をするもんだな」

大村は笑ってから「このマンションかね」と結城に言った。運転の警官がウインカーを付けて停車する。すると目の前に白い高級車が停車しているのが見えた。

「これはこれは」

大村は車のドアを開けると車の外に出た。マンションの前には高級スーツに髪の毛をジェルった若手の男がいた。顔が整っているがナルシストな感じがする。

「大村警視」と若い男が苦々しそうに言った。

「白倉警視も捜査ですか?」

大村はにっこりと笑って白倉警視に近づいた。(こいつが)結城は白倉一馬(31、県警警視)を大村の背中越しに見つめた。

(何で俺らのマンションに)

「実は彼女、女子高校生探偵の島都さんに話しを聞きたくて、こちらで待っていたのですよ」

白倉はポカーンとする都を物凄く好色な目で見つめた。

「そうですか。しかしこちらの方で都さんには質問は終えているので、それには及びません」

大村の笑顔がますます広がる。

「そうですか」

白倉はそれだけ言うと、車に乗り込み、車を発進させた。大村はため息をついた。そして2人に向き直った。

「じゃあ、2人ともお休み…それから」

大村は結城にだけ小声で言った。

「あの子だけで絶対にあの白倉には会わせるなよ。あいつは女癖も悪いからな」

「顔で分かりました」結城はそうつぶやいた。大村警視は「ははは」と笑って結城の肩を叩いて車に乗り込んだ。

「おやすみなさーい」都が車に向かって元気いっぱいに手を振る。

 

「お帰り」

マンションのドアを開けたのは結城の妹の結城秋菜、中学2年生だ。

「おう…」

「ただいまーーー」都は疲れたように秋菜に抱き着いた。

「師匠、また殺人事件に巻き込まれたんですか」と秋菜はエプロン姿で都の頭をなでながら呆れたように言った。

「お兄ちゃん、師匠が殺人事件に巻き込まれないように何とかしてよ」

「無理です」

結城は即答した。

 秋菜はそんな結城を押しのけて共同廊下から道路を見下ろす。

「ねぇ、気持ち悪いジェル男見た?」と秋菜が結城に聞く。

「お前何かされたのか」結城が少し焦るが「何もされてない」と秋菜は即答した。

「だけど買い物帰りに凄く気持ち悪い笑顔でこっちを見て来たから、覚えているだけ」

「そいつ、都が狙いだったらしいぜ」と結城。

「えええっ!」秋菜は心底ゾゾっとした感じで半分寝ている都を背中に庇いながら、玄関のドアを閉める。廊下に取り残された結城は「おーい」とドアに向かって喋った。

 

 翌日。県立高校の学校の踊り場。

-都はお昼寝中か。

「おう…」結城はスマホに向かって喋った。

-とりあえず敢えて警官には写真を配らず、変装をした人間を徹底的に見つけ出すゲートを設置。万が一岩本に脅迫された別人が来た時に備えて、病室の前と病棟への入口に警官を配置した。警察病院は塀に囲まれていて所定の入口以外を突破しようとするとセンサーが鳴る仕組みになっている。

「まぁ最善のフォーメーションだろうな。都にも伝えておくよ」

結城は電話を切って教室に戻る為階段を降りた。

 

 警察病院病室。

 面会謝絶という札と警察官が待機しているドアの中の個室で、頭に包帯を巻いた一柳は頭を抱えて震えていた。

「殺される…殺される…俺は岩本に殺される…あああああああ」

枕を被って絶叫しながら怯える一柳。

 

 警察病院のロビーにセキュリティチェックポイントが設置され、遠藤日名子刑事も対応に当たっていた。

「今日はどなたに面会でしょうか」

と遠藤が聞くと、あの嫌な野郎の相馬が「一柳君に会いに来たのですよ、ほら、岩本に殺されそうになっているとかいう」と意地が悪そうに笑った。

「一柳さんは今日は面会謝絶ですよ」

と遠藤は厳しい表情で反応した。

「失礼ですが、岩本が変装している可能性があるので確かめさせて頂いてもよろしいでしょうか」

「なぜ…僕は病院に入れないのに」

と相馬兵庫がヘラヘラ笑う。

「協力を庇まなければいけない理由でもあるのでしょうか」

と遠藤が鋭い視線と油断のない姿勢で相馬に詰め寄る。

「警察24時で見られるやり取りですね。いいですよ」相馬は言った。遠藤は油断ない表情で「ご協力に感謝します」と言った。

 その様子を八木久光は入り口付近で見つめていたが、やがて踵を返して病院を出た。

 

「雨が降ってきましたね」

長川は待機している会議室で窓の外を見た。

「奴は来るだろうか」と大村は指揮官席のパイプ椅子で腕組をしながら部下からの報告を待つ。

「奴は殺そうと思った人間は必ず殺しに来ますよ」

と長川は言った。考え得る限りあらゆる事態を想定して警察は岩本を迎え撃っていた。だが…。

 

-ギロリ-

 殺人鬼は既にセキュリティを突破していた。

 

 

6

 

 県立常総高校1年5組の教室。外は雨が降っている中、結城はノートに何やらメモを書いていた。

(この事件の謎。その1、岩本はなぜ八木正平の変装で犯行を続けているのか。その2、岩本はなぜ第2の事件、朝倉一郎が殺された事件で住人に発見されるまでの間、3時間も犯行現場に留まったのか…その割になぜ第2の事件だけ殺人において岩本は手袋を使ったのか、その3、第3の滝山警部補殺害事件でなぜわざわざ窓から脱出したのか)

「次、薮原…読んでみろ」

「はーい」薮原千尋が結城の前の席で立ちあがり、派手に椅子を結城にぶつけた。

「ぬっ」

現代文の教科書が結城の机の上でパタンと倒れ、危うくカレーパンがバレそうになる。

「うわー、私の担当場所グロいなぁ」とつぶやきながら千尋は読み始める。

「私の恋人はセメントになりました。私はその次の日、この手紙を書いて此樽の中へ、そうと仕舞い込みました。あなたは労働者ですか、あなたが労働者だったら、私を可哀相だと思って、お返事下さい。此樽の中のセメントは何に使われましたでしょうか、私はそれが知りとう御座います。私の恋人は幾樽のセメントになったでしょうか、そしてどんなに方々へ使われるのでしょうか。あなたは左官屋さんですか、それとも建築屋さんですか。私は私の恋人が、劇場の廊下になったり、大きな邸宅の塀になったりするのを見るに忍びません。ですけれどそれをどうして私に止めることができましょう」(「セメント樽の中の手紙」より抜粋)

 

 千尋がまさに音読をしていた時間。警察病院の病棟の廊下を一人の男が歩いていた。この男は面会謝絶の病室で警察官に止められるが、あっという間に2人の警察官を制圧し、気絶させた。そして扉をゆっくりと開ける。

「ひっ」

一柳がそこにいた殺人鬼に恐怖した。目が見開かれた。口を開け、恐怖に涙をボロボロとさせた。

「痛い…痛い…」

殺人鬼はそう呟くようにして一柳に一歩一歩近づいていく。その目は虚ろで焦点が合っていなかった。そして一柳を恐怖させたのはその姿だった。八木正平の姿をその殺人鬼はしていたのである。

「うわぁあああああああああ」尋常ではない叫び声をあげる。

そしてその男は恐怖で失禁した一柳に手をかけた。

-病室前、応答せよ。病室前、聞こえるか。

無線の声が次第に緊迫していく。

 

「何がいけなかったんだろうな」

長川は病室のベッドの上の惨殺体を見つめて、呟くように言った。島都と結城竜はその場に立ち尽くす長川警部の横に立ち、凄惨な物体を見つめた。

「奴はどうやってセキュリティを突破した? 誰も変装した状態で病棟を出入りなど出来ないはずだ・・第三者の犯行か? しかし警官2人を倒し、一柳をあそこまで壊せる人間が岩本以外にいるか? 弁護士の事件も朝倉の事件も滝山の事件でも岩本がいた痕跡が見つかっていたるんだ…」

その時西野がやってきて長川に報告した。

「気絶していた警官が回復しました。証言を取れそうです」

「わかった」

長川は頷いて西野の後を追いかけた。

「変だよね」

都はじっと考えた。

「岩本君は不意打ちで警察官を1人倒すことはあるけど、正面切って2人の警察官を倒す事なんて出来ないと思っていた。少なくとも最初からそのつもりで計画なんて立てないと思っていたよ」

結城も頭をかきながら言う。

「警官だって岩本の戦闘力くらい知っているからな。岩本かも知れない相手に対しては2人一緒に間合いに入って仲良く倒されるなんて真似はしない。前に長川警部に聞いたんだが、一人は後方に下がって、万が一相手が岩本で警官1人が倒されれば、もう一人が拳銃で制圧する。場合によっては射殺も辞さない。30秒拳銃を向けて牽制できれば応援が来るから、岩本にとってもかなり不利な状態になる。いくら岩本でも拳銃をマトリックス避けは出来ないから、奴みたいに用心深くて常に相手に先手を打つ奴なら警官2人以上との直接対峙は絶対避けるはずなんだ」

 

「岩本の奴は廊下を歩いてきました。平然と普通に。それで相棒が止めたのです」

警官は氷嚢を頭に乗せながらベッドに座って言った。

「気が付いたら相棒が打倒されていて、本官が拳銃を取り出して撃とうとしたら、もう岩本が拳銃の弾道上の目の前にいて、一瞬引き金を引くのが遅れて…す、すいません」

警官は頭を下げた。

「か、完全に命を捨ててるじゃないか」

長川警部の後ろにいた結城が唖然とした。

「都、警官がビビるなんて予想出来るものだと思うか」と結城。都は結城を見上げて即答した。

「絶対無理だと思う。日本の警察官で犯人を撃ち殺す経験をする人なんてほとんどいないもん。このお巡りさんをどんなに調べたってそんな事分かりっこない」

「まさか。拳銃の最初の一発は空砲っていうのを岩本が知っていたんじゃ」

と結城が長川に聞くが、長川は「それ都市伝説だから」と否定した。

「それで、一応聞きたいのだが、その襲ってきた岩本ってのはどんな姿だった」

と長川に問われ、警官は「男性でしたね。身長は180㎝程度。若かったですよ」と思い出した。

「まさか」

長川は八木正平の写真を警官に見せた。

「この男ですよ。この男‼」と警官は素っ頓狂な声をあげた。

「岩本の野郎、また八木正平の姿で殺人を行ったのか」結城は戦慄した。

「何の意味があって」

その時、加隈真理が鑑識姿で病室に入ってきた。

朋ちゃんに報告。病院入口の監視カメラをチェックしたんだけど、病院というだけあってマスクを着用している人が多いし、顔が判別できない人はいるけど、セキュリティーシステムは1人を除いて突破しているよ」

「ひとりを除いて?」

と長川警部は聞いた。

「ただその人は顔に大やけどをしたとかで、指紋とかを見ても岩本ではなかったし、一応警官が同行した上で診療を受けさせて、殺人が起こる20分前に帰っちゃったけどね」

と加隈は言った。

「それと現場を鑑識した結果なんだけど、妙な事があってね」

と加隈。長川が「妙な事?」と聞くと加隈は真剣な表情で長川を見た。

「岩本の指紋が全く出なかったんだよ。なぜか今回に限って岩本は指紋を一切残さないで犯行を行っている」

「なんか変だよね」

都は全員を見回した。

「確か、第一の桐山弁護士殺害事件では岩本君は指紋を残しまくっている。第二の朝倉社長の事件では岩本君は殺害に関しては指紋を残していないけど部屋で指紋を残しているし、本人も目撃されている。第三の滝山警部補殺害事件では滝山刑事殺害の岩本君の指紋が残っていて、交番の防犯カメラに滝山さんを殺す八木正平さんの姿が映っている事から、岩本君が八木正平さんを殺害して彼の姿を乗っ取っている事は間違いない。そして第4の一柳さん殺害事件では岩本君の指紋が全く残っていない。だけど八木正平さんの姿をした岩本君が目撃されている」

都は4つの殺人事件のパターンを総括してみた。

「だけどここで考えなければいけない事は、病院の中に現れた八木正平さんの中の人が岩本君である必要はないという事だよ」

「な」長川が身を乗り出す。

「つまり別の人間が岩本君と接触していて八木正平さんを殺して作った変装セットを受け取り、普通の顔で病院のセキュリティを突破した後で病院内で八木正平さんに変装して、病室の前でお巡りさんを襲って、その後で一柳さんを殺害した。そう考えれば一応この密室トリックは物理的には解決できるんだけど」

都は「うーむ」と考える。

「第三者を使って岩本がそんなまどろっこしい事をするメリットが何もないわな」と結城は言った。

「一つあるよ」

都は厳しい表情で結城と長川を振り返った。

「次の殺人で私たちをミスリードさせる布石」

「まだこの殺人は続くってか」長川は緊張した声で言った。

「可能性はあると思う」都は頷いた。

「桐山弁護士、朝倉社長、滝山警部補、一柳さん。この4人に共通するのは八木正平さんが南唯さんたちに性的暴行を行った2年前の事件に関わっているという事。そして次に狙われる可能性があるのは、なぜか捜査に加わって指揮した白倉警視。そして八木正平さんについて裁判で証言した父親の八木久光さん当たりだよね。あと一柳さんみたいに事件自体には関わっていなくても八木正平さんに近かった人も殺されているから、先入観は危険だけど」

「あの相馬って奴も性格悪そうだし殺されそうだよなぁ」

と結城はため息をついた。

「次の殺人は阻止しねぇとな」

と長川は闘志を燃やした。

 

 殺人者は八木正平の姿で鎮守の森の中をひたすら歩いていた。この手で一柳を殺した。朝倉も滝山も彼がこの手で殺した。

「あの1人…痛い…痛い…あと1人…」

殺人者は雨の中、ひたすら歩いた。「痛い…痛い…」