少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

劇場版少女探偵島都-少女X殺人事件❺【解答編】

 

9

 

【容疑者】

・山口有菜(14):中学生

・西条憲太郎(38):牧師

・平山絵美理(14):中学生

・諌山由愛(15):スーパーバイト

諫早唯(14):中学生。

・日ノ本健也(15):スーパーバイト

・古間木姫奈(15):スーパーバイト

・熊田栄太郎(53);スーパー店長

・西口秋生(32):チャイルドセイバー職員。

・神峰良(58):チャイルドセイバー代表

 

「なるほど」

公園で西条憲太郎牧師はため息をついた。

「僕をわざわざ呼んだというのは、僕が孤児院で子供を殺した…そう読んでいるわけですね。そしてその遺体をスーパーに持ち込むように有菜さんに命じたと」

西条は無表情で見下ろす。

「違うよ」と都。

「私いつも大人の人相手に推理していたんだけど」

都は西条を見上げて言った。

「今回の犯人は中学生。私より年下だから。ちゃんと弁護をしてくれる味方に一緒に来てもらわないとって思ったんだよ」

西条の表情が強張る。「それはどういう…」

「山口有菜さん」都はジト目を見開いている有菜を見つめた。

「あの段ボールに入った死体は、貴方が切り刻んでスーパーに持ち込んだんだよね」

有菜はジト目に戻って都を見つめた。諌山唯が驚きショックを受ける。平山絵美理は「な、何を言ってるの」と都を見る。

「あのスーパーの倉庫って従業員しか入れないんだよ。有菜があの倉庫に死体を持ち込むなんて」

「勿論有菜ちゃんは店内の隅に段ボールを置いただけ」都は目を閉じた。

「それを倉庫に持ち込んだのは従業員だった、諌山由愛さんだね」

諌山由愛は真っ青になって目をそらす。

「有菜ちゃんは議会で殺傷能力のない爆弾を爆発させ、さらにスーパーの爆破予告をする。そしてパトカーがスーパーに到着。そして警察が徹底捜索を行い、倉庫から人間の死体が発見される。そして熊田店長は徹底的に調べられ、チャイルドセイバーが家宅捜索。そこで殺害現場が特定される。これによって諌山由愛ちゃんはスーパーでの奴隷状態から解放される…これが2人が考えたシナリオだったんだよ」

都は由愛と有菜を見つめた。秋菜は有菜の強張った表情を気遣うように見る。

「待ってくれ給え」と西条牧師が明らかに緊張した声で都に言った。

「君のその推測は無茶苦茶だ。まず第一に殺害現場となったチャイルドセイバーの施設は防犯システムが完璧だったと長川警部から聞いたぞ。あそこから14歳の少女が人間の足をどうやって持ち出したんだね」

「そういう質問自体が、このトリックのミスリードだったんだよ」

都は言った。牧師は訝しげな顔をする。

勝馬君からキセル乗車の話を聞いたとき、私はピンと来たんだよ。キセルって言うのは昔の煙草なんだけど、口に咥える場所と煙が出るところが金属で、中間にあるのは木なんだよね。だから途中の部分は金払わないって意味で使われるんだけど」

都は牧師を見た。「犯人はそれを人間の足でやってのけたんだよ」

 諌山由愛と山口有菜の目が見開かれる。「お、お姉ちゃん」と諌山唯の声が震える。

「人間の足? 何を言っているの?」

車椅子の平山絵美理が都を見上げた。

「有菜ちゃんが由愛ちゃんに渡したのは人間の脚だけじゃなかった。傷口に生活反応がある小さな肉片も渡していたんだよ」

「な」と牧師が驚愕の声を上げる。

「ここまで言えばわかるよね。あの死体が作られた現場は、あの施設のお風呂場なんかじゃない。確かにあの厳重な警備の中でに人間の足を中学生の女の子が持ち出せるわけがない。だけど」

都は諌山由愛が大人しそうな表情で目を閉じて震えているのを見て言った。

「小さな肉片なら”持ち込む”事は出来るよね」

都の言葉に由愛は目を見開いた。

「あの西口と神峰って奴らが必ずお風呂場で自分たちに冷水を浴びせてくるだろうという事は由愛ちゃんもわかっていたんだよね。そして施設のお風呂場に肉片を仕込むチャンスを作るため、有菜ちゃんはスーパーの人目につくところに怪文書を張り付けた。用心深い熊田店長が、由愛ちゃんたちを施設に連れて行くように仕向けるためにね」

都は少女たち、牧師の間を歩き回りながら言った。

「本当に凄いトリックだよ。最初に人間の足を発見させ、その足は既に切り口に生体反応がない。長川警部が教えてくれたんだけどね」

都は指で1を作った。

「日本の法律では指一本ならそうではないんだけど、手首とか足首とかになるとそれは死体と見なされるんだよ」

と手のひらをクルクルさせる女子高生探偵。

「そして切断された時に既に死んでいたとわかれば、警察は殺された誰かの死体があると考える訳だよ。そして後でお風呂場で生体反応が傷口にある肉片が発見されれば、小さな肉片でもDNAが一致すれば、それは”死体の一部”と見なされ、殺害現場はここだろうと警察は考える。つまり、死体の移動ルートは本当はスーパーから施設なのに、それを施設で殺害された人間の足がスーパーに持ち込まれたように偽装できるって事。有菜ちゃんと由愛ちゃんはこの方法を使って、死体の移動方向について、見事に警察を騙したんだよ」

都は有菜を振り返った。

「日本ではどんな酷い奴隷労働をされていても、レイプをされていても。それが働いている場所で起こったとすれば、本人が証拠を集めて高いお金で弁護士を雇って裁判するしかないんだよね。そのために障害を持っている人たちを30年も奴隷にしていた人が何の罪にも問われなかったりするんだよ。奴隷としてずっと生活していた私と同じくらいの、助けてくれる大人が誰もいない子は、もう自分の運命だと諦めるしかない。でも死体があれば話は別なんだよ」

都は有菜を見つめた。

「死体があれば、警察は神峰、西口の人身売買を徹底的に調べて、行方不明になっている被害者はいないか探してくれる。そしてそのために警察が税金を使って全力で捜査してくれる。そうやって人身取引をされた子を大勢助けられる。由愛ちゃんや唯ちゃんだけじゃなくね」

都は悲し気に言った。

「ま、待ってよ」平山絵美理は言った。

「それ全部都さんの推測だよね。証拠はあるの?」車椅子の少女が声を上げる。

「それに一番肝心な事忘れているよね。殺された女の子はいったい誰なの。有菜も由愛姉ちゃんも人殺しなんて出来る子じゃない」

平山絵美理は叫ぶように言った。

「私たちの周囲にも行方不明の女の子はいないんだよね! じゃああの死体は誰なの。それを教えてよ!」

都はその絵美理の泣きながら怒っている顔を見て優しく頷いた。

「わかった。今から教えるね。あのスーパーの死体は」

都は車椅子の少女の前に立った。

「平山絵美理さん、あなたの死体だったんだよね」

絵美理は目を見開いた。都は努めて優しい笑顔だったが絵美理の顔が真っ青になる。秋菜が都の背後で悲しげな顔をする。

「この事件では本当は誰も死んでいない。そうなんだよね」

都は全員を見回した。唯は絵美理に「え、絵美里ちゃん」と声を震わせた。絵美理は目を閉じていた。もう観念したようだった。

「絵美理ちゃんが手術で切断した足。これがこの事件で使われた死体だったんだよ」

都は小さな声で悲し気に言った。

「さっきも言ったけど、人間は手首足首以上の大きさの部分は死体と見なされる。つまり病気とか事故とかで例え本人が生きていたとしても、死体って存在する事があるんだよ」

都は信じられないという表情の唯を見つめた。都は話を続けた。

「そして法律では人間の死体は尊厳のある方法で埋葬しなくちゃいけない。その辺に捨てる事は例え本人が生きていても死体遺棄って罪に問われる。病院での手術の場合、埋葬とかは病院がやってくれるのが普通なんだけど、でも本人が望むなら、本人の遺体なんだから基本的に病院は返さないといけないんだよ」

都はゆっくり歩き回った。

「でもあの足は死後切断されたって…」と牧師は声を上げ、その後で「まさか」と目を見開いた。

「そう、なんで犯人は脛の部分を無理やりギロチンカッターで切断したのか。それは2つ理由があったんだよ」

都は山口有菜を見た。有菜は顔を真っ赤にして口を押えている。都は話を続けた。

「1つは手術で切断された死体をもう一度切断する事で、足の部分が死後切断された、つまり死んでいる人間から切断されたように見せるため、2つ目の理由は病気の部分を警察に発見させないためなんだよ」

都の話を聞きながら、結城は由愛、絵美里、有菜の3人の少女の反応を見てため息をついた。

「つまりここでもキセルのトリックを3人は使ったんだよ。まず手術の時に切断された生体反応のある部分。これは肉片として施設の風呂場に仕込まれた。そして脛から先。これはスーパーの倉庫に置かれた。2つの部分間の病気の部分、ひざや大腿部分は、絶対に見つからないように捨てられたんだと思う」

「ま、待ってくれ」

と牧師が声を震わせた。

「埋葬しないといけない足を、彼女たちはどうやって持ち出したんだ。絵美理さんのご両親を騙せるはずはない」

「これは私の想像だけど」都は牧師を見た。

「絵美理ちゃんの両親はそれを認める究極の選択をしたのかもしれない。有菜ちゃんの過去を知って受け入れてくれる両親だもん。絵美理ちゃんの空手を誰よりも応援していた。そんな絵美里ちゃんが病気で足を切らなくちゃいけなくなり、しかもそれを受け入れ、大切な友達や大勢の子を助けるのに使おうとしていた。その大切な娘さんの意志を、極限の思いの中で尊重したのかもしれない」

絵美理は下を向いた。

「そして絵美里ちゃんの足を切り刻んだのは」

都は目を充血させる有菜を見つめた。

「有菜ちゃんだね。有菜ちゃんも自分の重い十字架を大切な友達と大勢の子の為に使おうとしたんだね」

「違う! 何かの間違いだ」と牧師が喚いた。

「先生。ダメだよ」絵美理が下を向いた。

「DNA鑑定とかされたら、わかっちゃうから」

牧師は呆然自失になった。

 

10

 

「唯が奴隷のように働かされているのを知ったのは、1か月に何回か私を家に入れてくれる里親さんの家に行ったとき。一緒に散歩していた時、たまたま通りかかったある民家で唯が裸にされて、庭で水をかけられていた」

公園で有菜が小さな声で呟くように言った。

「私と里親さんで通報したけど。市が虐待じゃないと認定したから警察は介入できないって。最もあの市の市長はチャイルドセイバーを福祉部署と提携させていて、今それが原因で辞職したけどね」

有菜はへっと自嘲する。

「そう、死体でも出ない限り警察は動かない。それは私にあんなことを命令したあいつらもそう言っていた。結局警察は今回も助けてくれない…わかっていたよ」

有菜はため息をついた。

「さすがに大変な思いをしている絵里奈には言えないなって思ったけど…絵美理、鋭いからさ」

 

 病室で平山絵美理は天井を見ながら

「ねぇ有菜。何か大きな悩みを抱えているでしょ」と笑った。

「いや」と有菜は目をそらす。

「それは唯の事なんだよね」と絵美理はお見舞いに来た制服姿の有菜をじっと見つめる。絵美理は天井を見て笑顔で言った。

「私ね。今こう考えているんだ。もし私が空手を諦めなければいけない代わりに、誰かに何かいいことがあるんだったら。私、空手を諦めてもいいよって」

病室で有菜は目を見開いた。

 

「やだよ…そんなのやだよ」

唯が由愛と傍にいた絵美理の肩をぎゅっと掴んで崩れ落ちた。

「私の為に…そんなのやだよ」

絵美理は唯の頭を撫でた。

「ごめんね。でも私そのおかげで病気に絶望しないで済んだんだ。だって」

絵美理は優しい笑顔で唯に微笑んだ。「私の病気が大勢の子を助けられたって事じゃん」

「私もだよ、私が8歳の時に遭った地獄が」有菜が小さく微笑んだ。

「誰かを助ける役に立つかもしれない。きっとそれは私にとっての救いなんだって」

「ああああっ」と秋菜が耐え切れずに号泣する。

「ごめんね。秋菜」と有菜は悲し気に微笑む。

「何で! だからってなんで君が…あんなに苦しんだことを、もう一度しなくちゃいけなかったんだ」

有菜の肩を西条牧師は掴んで顔を真っ赤にして声を震わせた。有菜は笑った。

「先生。食堂でトラウマに苦しんでいる私を抱きしめてくれてありがとうございました。そして私をキリストに出会わせてくれてありがとうございます」

牧師は力なく彼女から手を放して、そして都、結城、秋菜に向き直った。

「この子たちは何の罪に問われますか」と牧師は言った。

「まず死体遺棄罪。それと県議会への爆破予告が脅迫と偽計業務妨害になるらしいです」

結城は答えた。

「それと偽証と捜査攪乱が多分一番重い罪になると思います。大人だったら最高で10年はいく罪です」

「見逃してもらえませんか」

と牧師は都を見た。

「この子たちは、14歳の少女にも関わらず、友人と奴隷として売買されている子供たちを100人も救ったんです! しかも正義や神の名のもとに誰かを傷つけたわけじゃない。自分の肉と魂を犠牲にして、祝福されなければいけない子供たちを救ったんです! 本来なら大人たちが、社会がやらなければいけないことを、この子たちがここまで自分を犠牲にしてやり遂げた事なんです」

牧師は絶叫するように言った。それを有菜と絵美理と由愛は見つめる。

「それは出来ません」都は牧師を真っすぐ見て真剣な表情で言う。

「なぜですか? 本当にこの子たちは罪に問われなければいけませんか? この子たちは人間として何も間違っていない! 私はこの子たちを一人の人間として誇りに思う! この子たち以外に誰が邪悪な大人に奴隷にされた大勢の子らを救えましたか? 社会や政治家が見捨てた友人を、大勢の子供たちを、同じように見捨て助けないことが法律の正義ですか? 探偵の正義ですか?」

牧師は叫んだ。

「お願いします!」と唯も頭を下げた。

「お姉ちゃんも、絵美里も有菜も、私を助けるためにやった事なんです。私はあの家で、せ、SEXもさせられました。76歳と45歳の男の人とSEXさせられていたんです」

唯は泣きながら崩れ落ちた。そして顔を覆って体を震わせた。

「誰も助けてくれなかった。もう私は汚い人間として奴隷として生きていくしかないと思っていました。そ、それをお姉ちゃんたちは、ううっ」

それを由愛が抱きしめる。

「有菜ちゃんと絵美理ちゃんは見逃してあげて。もし罪があるなら、私が引き受けるから」

と由愛は声を震わせた。

「駄目だよ。そんな」と有菜と絵美理が叫ぶが由愛は首を振った。そして都を見た。

「この子たちは、もう十分苦しんだよ。罪があるなら、もう償っているから!」

血を吐くように由愛は叫んだ。

「お願いします! この子たちはこれから幸せになるべきなんです」

と西条牧師は都の肩を掴んだ。

「もう十分試練を受けてきました。もういいじゃありませんか。もういいじゃありませんか…」

「牧師様」都は小さく言った。

「探偵には絶対に見逃してはいけないものがあります」

都が牧師を見る。

「犯人…ですか」

牧師が声を震わせるが、都は真っすぐな目線で牧師を見た。

「冤罪です」

都はじっと牧師を見た。牧師は「冤罪?」と絶句する。

「はい」少女探偵は言った。

「このまま私が何も言わなければ、見逃すようなことをすれば、神峰、西口、熊田は殺人の冤罪で罰を受けます」

「あんな奴らなんかよりこの子たちの未来の方が大切でしょう!」

と牧師は吐き捨てるように言った。

「はい」都は頷いた。

「あんな奴らは重い罪になってほしいです。でもそれは人身売買と虐待でないとダメです。やってもいない人殺しの罪で罰せられていいなんて、人の権利に例外があるような考えを許さないのが、この事件の教訓じゃないですか!」

と都は必死の表情で牧師を見つめた。女子高生探偵の顔は真っ赤になって真剣な表情に涙が浮かぶ。

「このままだと私の大好きな警部が冤罪で人を罰する手伝いをしてしまうことになります。私もみんなを罪に問いたくない。少女探偵島都の正義なんてのも、私の勝手。そんな大したものじゃありません。でも冤罪だけは、冤罪だけは見逃す権利はないんです」

都の真剣な表情に牧師は揺るぎないものを感じた。都は顔を真っ赤にして涙を浮かべながらじっと牧師を見つめた。

「それなら、自首してもらいましょう!」

と、結城秋菜が不意に声を上げた。都が秋菜を見ると、秋菜も顔を真っ赤にして都を見つめている。

「秋菜…ちゃん?」

都の目が見開かれる。秋菜は力強く都を見つめた。

「そうすれば、凄く罪が軽くなると思うんです。だってそれなら、最初からあのクズ連中を殺人で裁かせるつもりはなくて、あくまでみんなを助けるため、警察に捜査をしてもらうためだけに一時的にあの3人には生贄になって貰った。誰も冤罪で裁かせるつもりはなかった…そういう事になるから」

秋菜は都を見た。都の大きな目から涙が一滴こぼれた。

「秋菜…」結城が秋菜を見つめる。唯と由愛、絵美里、有菜も秋菜を見つめた。

秋菜はじっと都を見つめる。

「少女探偵島都は今回の事件で、自分より年下の中学生の犯罪計画を見抜けなかった。有菜と絵美理と由愛さんの計画に完全に敗北した。それでいいですよね、師匠!」

都は秋菜をきょとんとした目で見つめていたが、やがてとびっきりの笑顔で頷いた。

「うん!」

秋菜は顔をぐしゃぐしゃにこすり上げて肩を震わせた。

「秋菜…」

絵美理は秋菜を見た。「ありがとね。秋菜と闘えて本当に良かった」

「馬鹿ぁ」と秋菜は絵美理に抱き着いた。号泣する秋菜を有菜と唯と由愛も抱きしめる。

「結城君」

号泣する少女たちを見ながら都は呟いた。

「私、秋菜ちゃんに助けられちゃった」

「そうだな」結城は少女たちを見つめて言った。

 団地の公園は少しポカポカしてきた。都と結城と牧師は少女たちを見守っていた。

 

 市民体育館の2階応援席。板倉大樹は後ろの席からどんよりとした表情で都に聞いた。

「由愛さん。どれくらい長く捕まっているんですか」

 都は振り返りポッキーを板倉にあげながら笑顔で答える。

「誰かを傷つけたりお金を奪ったわけじゃないし、自首している。少年院に行ったりせずにすぐ戻ってくるって長川警部は言ってたよ」

減刑嘆願書も何万人分も来たらしいからな」と結城。

「無罪放免とかにならないかなぁ」と板倉は落ち込んで都にいい子いい子される。

「ほら、みんな。秋菜ちゃん次だよ」

と瑠奈が横で爆睡している千尋を起こしながら言った。千尋が「うわわっ、迫真空手?」と寝ぼけながら起き上がる。

「うおおおおおお。秋菜ちゃん、日本一いいいいいいい」

と大猩々もとい北谷勝馬が立ち上がり両手を振り上げて喚いている。それを畳に上がる直前の秋菜がうざそうに振り返る。そして秋菜はため息をついて首を振った。

「あほ、素っ頓狂な声を出すな」と結城。

「そうだよ。これは」

瑠奈が横で必死に祈る諌山唯の姿を見ながら言った。

「秋菜ちゃんの友達の思いを背負った秋菜ちゃんの戦いなんだから」

結城は緊張しながら2階応援席から応援席から身を乗り出す。

「赤、愛宕中学、結城秋菜」

「はい!」秋菜は空手道着をつけて一礼すると畳の定位置で礼座した。2階席から都と結城と唯は一緒に身を乗り出す。秋菜は試合会場で礼座しながら目を閉じていろんなことを思い出していた。そして目を開けると対戦相手をじっと見つめた。

 

おわり