少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

劇場版少女探偵島都-少女X殺人事件❸

 

5

 

【容疑者】

・山口有菜(14):中学生

・西条憲太郎(38):牧師

・平山絵美理(14):中学生

・諌山由愛(15):スーパーバイト

・日ノ本健也(15):スーパーバイト

・古間木姫奈(15):スーパーバイト

・熊田栄太郎(53);スーパー店長

・西口秋生(32):チャイルドセイバー職員。

・神峰良(58):チャイルドセイバー代表

 

 

 

 勝馬のバイクを疾走させ、ナス畑の組木の間を走り抜け、爆走する西口秋生。その後ろを結城が追いかけてくる。ナス畑の間の別の列を、結城は身を低くして走りぬいていく。

 西口はそれにミラーで気づき、結城に向かって拳銃を後ろ手に向けて引き金を引く。しかし銃声は弾けない。西口は拳銃を見つめると、撃鉄にチューインガムが埋め込まれていた。

西口は人質にした都を思い出し、凄まじい形相で「あのアマ」と言って、銃を捨ててバイクを疾走させるが、その時結城はナス畑の列の高低差を利用して組木を飛び越え、西口のバイクの前に躍り出ていた。西口の前で結城はわざと横転し、その後輪バイクのタイヤの回転に弾き飛ばされるように、西口のバイクは結城の真上で横一回転し、土の上に倒れ込んだ。

 結城が立ち上がったとき、西口はバイクを押しのけて立ち上がった。手の甲に大けがをしているようだ。だがふらつく西口を結城は殴り倒し、そのまま馬乗りになって何発も殴りつける。だが西口はそれを肘でガードすると結城を殴り倒し、ベルトを引き抜くと倒れ込んだ結城の背後から首を締め上げた。結城は目を血走らせながら、西口の手の甲の怪我をした部分を爪でえぐる。

「ぐあ」と西口が悲鳴を上げるのと同時に、結城は西口の腕の縛めを解き放ち、そのまま西口の顔面に3発パンチを食い込ませた。西口はけりを入れるが、結城はその蹴りを捕まえ、そのまま西口の体を地面に押さえつけた。足の股関節がバキッと音を立てる。

「ぐああああああ」

西口は太ももを押さえてのたうち回るが、そんな西口の顔面を結城は思いっきり蹴り上げた。そしてさらに攻撃を加えようとしたが、西口が鼻血を流してグロッキーになっているのでこれ以上はやめた。その時西口が突然その場にあった石を手に立ち上がって結城の顔面を殴りつけようとしたので、結城は目をカッと見開いて咄嗟にそれを腕を掴んで防ぎ、そのまま体を捕まえて背負い投げた。

 その場所が良くなかった。西口の足が仰向けのまま勝馬のバイクの回転する後輪の真上に入り、西口の足があり得ない方向にひん曲がる。

「ぐあああああああああああ」

西口が絶叫を上げた。結城は慌ててバイクのブレーキをかけるが、その時には西口秋生は白目をむいて泡を吹いて気絶していた。結城は西口の顔面に唾を吐いた。

 ナス畑の前の道路にパトカーが2台停車して警察官が駆け付けた。

 

「よう、餓鬼ども」

と背広姿の男たち3人が牛刀を抜いてチャイルドセイバーの2階エントランスで勝馬たちを笑顔で出迎える。

「なんだ。ヤンキーが集まればブラック施設は震えあがるとか、スカッとYouTubeの見過ぎなんじゃないか」

「俺たちは伊達に裏社会やっている訳じゃねえ」

と喚く男。

勝馬君。絶対に立ち向かっていっちゃだめだよ」

勝馬の背中から都がぎゅっとシャツを持った。

勝馬君は何度殴られても大丈夫だと思うけど、1回でも刺されたら終わりだから」

「それに」

都は勝馬の横で凶器を持った3人を見つめた。

「今長川警部の部下さんはみんな逃げた西口を追いかけている。私たちだけでこんな危ないものを持っている人とやり合ったら大変なことになるよ。拳銃を持っている刑事さんはいないんだよ!」

と都。

「ドスが怖くてヤンキーなんてやってられませんよ」

勝馬は喚いた。

「俺たちには秘策があるんだ」

勝馬は不敵に笑いながら、缶ビールを取り出した。

「ふふふ、実は喧嘩自体は謹慎の理由じゃないのさ」板倉は笑った。

「この前の喧嘩は公園に住んでいるおっさんをリンチしていた馬鹿どもを倒しただけで、警察も察してくれた。謹慎になった理由は酔拳を使った事」

そしてぐびぐびやりだす勝馬と板倉。

酔拳は奥義ゆえに喧嘩で使う事は禁止されている。だが今それを破ろう。舎弟の愛のたぁめぇにぃ…」

勝馬が一気飲みしたせいでフラフラ座り込み、板倉もヘロヘロになって腰を抜かす。

「つまり謹慎の理由は未成年者の飲酒じゃねえか」

あばらがいっているらしく痛む胸を押さえながら、長川警部が背後からため息をついた。

「ハハアハハ、馬鹿だな、こいつら」

施設の男3人はヘラヘラ笑っていた。長川警部も一緒に笑う。

「本当に馬鹿なんだよ。いい奴なんだけどな。ハハハハハ」

そしていきなり長川は拳銃を引き抜くとダンダンダンという銃声とともに正確な射撃で3人の悪党の足を撃ちぬいた。その男に勝馬と板倉も酔いがさめる。

「ぐあああああああああああ」3人が悲鳴を上げて足を押さえて痛がる。

「警察だ。ドスから手を放せ。投げる仕草をしたら容赦なく頭を飛ばす!」

長川警部は喚いた。そして都にウインクする。女警部は油断なく倒れている3人に拳銃を向け、拳銃からマガジンを抜いて別のマガジンを装着する。

「私は鉛玉食らっているしな。この場所には未成年者もいる躊躇はしないぞ。ほら、ドスを床に滑らせろ!」

長川は物凄い形相で喚き、3人は怖がりながらドスを床に滑らせた。

「お前らの方がI億倍アホだよ」

長川は呆然としている秋菜と「おおおお」と拍手している島都に手錠を2つ渡した。

「3人に手錠をかけてくれるか。二人三脚みたいに繋ぐんだ」

「いいよ!」都は長川から手錠を受け取った。

「は、はい」秋菜は手錠を手にする。長川は拳銃を3人に向け

「妙な真似したら容赦なく頭を飛ばすぞ」と警告した。秋菜は長川に言われた通り手錠をかける。秋菜はおっかなびっくりだったが、都は「一度手錠をかけてみたかったんだよね」と嬉しそうに物凄くギリギリかけて容疑者を呻かせた。

「もっとギリギリかけていい。いいよ。そんな感じ。上出来だ」

長川はそう言った。3人は手錠で数珠のようにつながった。

「君ら」長川警部は勝馬の舎弟に声をかける。

「こいつらの傷口より心臓に近いところを布で縛ってくれ、そして傷口を押さえていてくれ。部下を全員西口秋生の追跡に回したからな。頼む。こいつらが何かやらかしたら秋菜ちゃん。空手でぶち殺していい」

「う、うん」

秋菜は頷いた。長川は秋菜の頭を撫でた。そして奥にある扉を銃を構えながらゆっくりと開けた。

 そこは講堂のような場所で、神峰良がニコニコ笑っていた。からのポリタンクが神峰のいる舞台に無造作に置かれて、液体を滴らせながら電気ストーブの明かりに照らされ、神峰良はニコニコ笑っていた。

「警察だ」

長川警部は喚いたが、神峰良はライターを手にしていた。

「拳銃を発砲するとガソリンに火がついちゃいますよ」

神峰良はニコニコ笑顔だった。部屋の中には空ろな表情の10代の若者たちがいた。みんな囚人のようなオレンジの服を着ている。

「あ、あの子だ」

長川の背後から板倉が大声を上げた。

「下がっていろ!」長川はそう言いながら、拳銃を構えながら中にいる少年少女を確認する。諌山由愛がいる。日ノ本健也もいる。古間木姫奈もいる。

 長川は一瞬逡巡した。そして拳銃を床に置いて両手を挙げた。

「わかった。ここでこんなことをしたら大変なことになる。何か言い分はあるか」

「何で僕がこんな目に合わないといけないんでしょうかね」

と神峰は事故憐憫丸出しの表情で笑った。

「人身売買と未成年者拉致監禁の容疑という事になっている。だが言い分があるなら聞いてやるぞ」

長川は両手を挙げながら説得する。

「僕はただここにいる子供たちを虐待と貧困、就業から助けてあげたんですよ。しかも税金を一切使わず。僕の提案を茨城県議会で多くの議員が賛同してくれた。若者に居場所と働く喜びと食事を与える事が出来るシステムだと。そして若者を良い大人がきっちり管理する事でトランスジェンダーになったり、同性愛者になったりすることも防ぐことが出来る。そして今の若者が貧困のせいで諦めている恋愛やSEXも経験させてあげられる。奨学金地獄からも救ってあげてるんだ」

神峰はヘラヘラ笑った。

「それなのに…なんでここに警察が来るんだ。警察が来るんだよ」

子供のように癇癪を起こす神峰。それを無表情で見つめるオレンジ色の服を着た少年少女たち。

「さて、お前たち。俺と一緒に死ぬって奴はいないか」

と神峰は笑った。少年少女は全く逡巡しなかった。全員が神峰良のいる舞台にぞろぞろ上がって行った。

「お、おい。みんなどうしたんだ」

勝馬が狼狽えた。

「戻ってきてください!」

と板倉が諌山由愛の手を取ろうとするが、「動くな!」と神峰良はライターを翳した。

「わかりますか。彼らはわかっているんですよ。この世界で自分たちには価値がないという事を。自分たちには絶対に素晴らしい未来は待っておらず、この先未来永劫に自分たちを人として扱ってくれる存在がいないという事。僕以外に救ってくれる存在がいないって言う事をね。ここにいる少年少女は社会の全てから無価値な存在、人間として扱われる価値のない人間として扱われてきた。だから僕は彼らの救世主なんです。貴方たちの偽善で僕は裁かれていい存在なんかじゃないんですよ」

板倉は諌山が光のない目で自分をじっと舞台から見るのを見た。

「神峰良さん」

突然長川警部の横から都がひょっこり顔を出した。

「ライターの火をつけるのはやめた方がいいよ」

島都は言った。

「私は死を恐れていない。そしてこの子たちもだ。つまりこの子たちは君たちの言うような」

「そうじゃなくて」

都は神峰良をじっと見つめた。

「本当に貴方が今ぶちまけている液体は、西口秋生がすり替えたモノホンのガソリンなんだから」

神峰良の表情が驚愕に見開かれた。

 

6

 

「な!」

急に狼狽える神峰良。

「多分あなたは西口秋生にこう言われたんだよね。警察が来たときには液体を被ってみんなと一緒に一芝居を打てばいいって。一緒に進んでみんなが一緒に死んでくれる様子を見せれば、警察は監禁も否定するしかなくなるって。そうやってこの部屋を爆発させて、建物のコンピューターとかの証拠も全部燃やしてしまう。そう西口さんはアドバイスをした」

「な、なんだと」

と神峰良。

「知っている? ガソリンって本当は匂いがしないんだよ。ガソリンの匂いは安全の為にわざとつけられている匂い…つまり匂いのしないガソリンと言うのも、実はあったりするんだよね」

都は神峰を見つめる。

「変だと思ったんだよ。あの時何で西口は長川警部を銃撃してまで無理やり逃げようとしたのか。警部にここに押しとどめられていたらいつ炎に巻かれてもおかしくはない。だから焦っていたんだね」

と都。

「それに私が西口に捕まっていた時、かすかにガソリンの匂いがした。その時は車の給油でもしていたのかなって思ったけど、この部屋の光景を見てピンと来たんだよ。この人はみんなを殺して自分が関わっていたっていう証拠を消そうとしていたって」

神峰の表情が真っ青になる。都は話を続けた。

「神峰さんが死ぬつもりなんてない事はわかっていた。だってガソリン被って最後の演説をするとき、電気ストーブなんてつけないよ。そりゃ冬に水を被るのは寒いもんね」

と都はにっこり笑った。

神峰はガタガタ震えだし「早く消せ! 電気ストーブを消せ」と少年に命じてストーブを消させようとする。しかし少年少女たちは動かない。

「早く、早く!」と神峰が言うが、少年少女たちは神峰を捕まえて押しとどまらせる。

「僕たち、何の価値もない人間だから神峰先生と死にたいです」

「私、神峰先生についていきます」

と少年少女は口々に言った。

「うわぁあああああああっ。助けてくれ! 助けてくれぇえええええええええ」

神峰良は悲鳴に近い声を上げた。

「大丈夫だよ」

都は舞台に近づいて神峰良を見た。

「本当にガソリンだったら、とっくの昔にこの建物は火の海だよ」

神峰良を都は睨みつけた。長川警部はため息をつく。

「奴は前の山でも逮捕寸前に謎の火災事故が発生して証拠が燃えるという事件があってな。だからこの近くのガソリンスタンドの店員として捜査員を配置。そうすると案の定奴がガソリンを缶で買いに来やがった。遠くのガスステーションを利用すると怪しまれると考えるくらい頭が回る奴の事だ。一番近い場所、神峰に頼まれたと嘘をつけるように近くのGSに来るだろうって予想は見事に当たったぜ。そして奴にガソリンと同じ匂いのする水を売ってやったんだよ。奴が都の前に姿を現した時、必要になるだろうと手に入れておいたブツだ」

長川は笑った。

「お前の茶番劇のおかげで、奴を殺人予備と殺人未遂で送検するための面白映像がたっぷりとれたぜ」

長川は胸ポケットからスマホを見せる。

「ハハハハハハハ、ハハハハハハ」

と神峰良は笑った。

「つまり俺は無罪と言う事だ。だってこいつらは何でも言う事を聞く人間だとわかったはずだろう。俺は彼らに何も強制していない」

「何を言っているの?」

都は目をぱちくりさせ、舞台に座り込んでいる神峰良を都は覗き込んだ。

「貴方もこれから逮捕されるんだよ。みんなが貴方のやったことを証言してくれるから」

都は舞台に飛び散った液体の匂いを嗅いだ。

「なんの匂いもしないね」

都は言った。

「私が言った、ガソリンは本当は匂いのしないなんて話は嘘だよ。匂いのしないガソリンなんてのはこの世にはない。つまり長川警部特性の偽ガソリンはもう一度誰かによってすり替えられた。ただの水にね。それを替えたのは」

都は立ち上がってオレンジ色の少年少女を見回した。

「みんなだよね」

少年少女たちは無言だった。

「みんなあなたと心中するつもりはなかった。神峰さん。貴方を殺人未遂で逮捕させるために、みんなは洗脳されて一緒に自殺するふりをしたんだよ」

都はじっと神峰を見つめた。

「貴方がやったことは全部みんなが証言してくれます。貴方はこれから、平成とか令和ではありえないような人身売買の容疑で逮捕されます」

都はじっと神峰良を見つめた。

「あんた」突然無言だった諌山由愛が歯ぎしりしながら憎しみに満ちた声で言った。

「あんたが金持ちに売った私の妹。学校もいけないで介護ばかりやらされて、無理やり体を触られたり…していたんだよね…」

由愛の声が震える。

「じ、地獄に落ちろ!」

「うわぁあああああああああああ」

神峰良は頭を抱えて泣き叫んだ。都も長川もそれを物凄い目で見降ろしていた。

 

その日の夕方、ソウルのコエックス広場の巨大画面がニュースを伝えた。

-일본의 이바라키현에서 N번방 사건에 필적하는 아동 인신매매가 밝혀졌습니다.(日本の茨城県で、N番部屋事件に匹敵する児童人身売買が明らかになりました)

 画面には連行される神峰良と救急車で運ばれる西口秋生が映し出される。

-인신을 구속받아 부유층이나 기업에 팔려 무상노동을 강요받고 있던 미성년자는 100명 이상으로 여겨지며, 일본 경찰은 소년소녀를 금전으로 매입한 인간도 형사소추할 방침입니다.(人身を拘束され、富裕層や企業に売られ、無償労働を強要されていた未成年者は100人以上と考えられ、日本警察は少年少女を金銭で買い取った人間も刑事訴追する方針です)

 

 台湾の大衆食堂で饅頭を食べているおじさんと女学生が、店のテレビで日本の農家から連行されていく日本人の中年男女を見ている。

-日本警方已宣布,他們已下令徹底調查此案。 然而,在許多專家維持技能實習生製度的日本,被國際組織批評為事實上的奴隸貿易,將發生限制貧困兒童人權的人口販運。預言。(日本の警察官は、事件の徹底的な調査を命じたと発表しました。 しかし、多くの専門家は、事実上の奴隷貿易として国際機関から批判されている技能実習生のシステムを維持している日本において、貧困層の子供などに対する人権を制限する人身売買は発生する事は予測の範疇だったと指摘します。)

そして台北のMRTの電車が通り過ぎた駅の壁の液晶広告では、勝馬と板倉ら舎弟がドヤ顔で腕組して映り込んでいる写真を「日本獵殺人類的惡毒罪犯」という字幕付きで広告アップされた。これを見てホームドア越しに台湾の女子高生たちが「シャンターシンシン」と指摘している。

 

イギリスのBBCでは渋谷の109をバックに記者がリポートしている。

-Japan has been said to be a developed country, but many politicians have decided to actively entrust poor children to trafficking organizations in order to cut welfare budgets, and the young people interviewed in Shibuya, Tokyo have blocked it. A sigh of despair was heard.(日本は先進国と言われてきましたが、数多くの政治家が福祉予算を削る目的で、貧困層の児童を人身売買組織に積極的にゆだねるという方針に、東京渋谷で取材した若者からは閉塞的な絶望の混じったため息が聞かれました。)

 

アメリカのニュースはキャスターがスタジオで報道している。

-In addition, the US State Department has announced a policy to downgrade the current trafficking situation in Japan from Tier 1 to Tier 2 as described in the Trafficking Report.(またアメリ国務省は人身売買報告書に書かれた日本の人身売買状況について、現在のTier1からTier2に格下げする方針を発表しました。)

 

「何度も来てもらって悪いな」

と都と結城と秋菜にジュースを渡す長川警部。所轄警察署の小さな会議室だった。

「その、西口って奴はどんな様子だ」と結城は少し緊張している。

「全部吐いたよ。神峰と軟禁されている子供たちを焼き殺そうとしていた事も。人身売買で得た金を着服していた事もな。ああ、足の件は気にすんな。正当防衛。結城君のおかげで私の首もつながったよ」

長川警部は笑った。

「それで、あのスーパーの死体が誰なのかはわかったの?」

都が長川に聞く。

「いや、それが全然なんだ。今日はその件で都から知恵を拝借したいと考えてな」

「監禁されていた奴らの誰かって事なんじゃねえの?」

結城が聞くと、長川は「いや」と首を振った。

「施設で保護した子供、人身取引で売られた先で保護した子供、全てから話を聞いたが、不自然な形で行方不明になった少女は誰もいない。今警察のデータベースで失踪中の少女のDNAなども照会したんだが、該当者は出ていないんだ」

「つまり少女Xは今もXのまま」結城が考え込む。

「ただ」

結城竜はじっと都、結城、秋菜を見つめた。

「重大な事が分かった。その少女Xは間違いなくあの施設で殺されているって事だ」

「どういうことだ」と結城。都も目を見開く。

「鑑識が施設の風呂を調べたらな。人間の肉片が発見されたんだ。風呂の湯船の下にな。そしてその肉片からは、刃物で切られた痕跡が見つかったんだ。それも切断部に生活反応のある」

と長川は都を見た。

「つまり少女Xはあのチャイルドセイバーの施設で殺されて解体されたって事か」

と結城。

「状況的に間違いない。そしてその足の部分がなぜか段ボールに入れられて、スーパーの倉庫に運び込まれていた」

長川警部はため息をついた。

「熊田店長も西口も神峰も否定しているよ。殺人に関しては。まぁ状況から考えて神峰か西口が殺したんだと思うが、奴の周囲でも10代の少女の失踪者は存在していないんだ」

長川がため息をついた。

「まずその死体が誰なのか調べたいんだが、周辺を調べれば調べるほど神峰、西口、熊田の虐待や性的暴行が明らかになってな。警察はそっちの捜査に追われているんだ」

長川はため息をついた。

「彼女の身元や殺害の動機が分からんことには、あいつらを殺人の容疑で立件する事はかなり難しいんだ」

「それを解き明かすには3つの謎を暴かないといけないんだよ」

都は考え込んだ。

「一つ目が爆破予告が送られた理由。しかも議会では小さな爆弾を実際に爆発させていた。2つ目が死体が脛の部分で無理やり切断されていた理由。そして3つ目が何でチャイルドセイバーで殺された人間の死体が段ボールに入れられ、スーパーの倉庫に運ばれたのか。もしかしたら、神峰、西口、熊田以外にも犯人がいるって事にもなっちゃうかもしれないよ」

都は真剣な表情で結城と長川を見た。