少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

悪霊トンネル殺人事件 ①

 
1
「映画のエキストラぁ」
県立常総高校探検部の部室でにんまり笑う薮原千尋に結城竜はジト目を向けた。
「そう、新鋭ホラー映画監督神崎チームの新しい作品。前はゾンビものだったけど、今度は大規模地震でトンネルに閉じ込められた新幹線の中で“赤い貞子”が登場して、乗客を次々に殺害していくホラー作品のエキストラに私たちは出演するってわけ」
「もう、出演決定済み」
瑠奈が苦笑しながら言った。
「兄貴の大学の映像研のメンバーが海外で風俗行って逮捕されちゃったらしくってさ。代わりの人を探してほしいって頼まれたんだ。5人くらい必要だって」
「ロケ地山形の日本海側じゃないか」
結城は呆気にとられた。
「こりゃ、行くのは骨が折れるぞ。エキストラなんだし低予算映画なんだから旅費もこっち持ちだろう」
「それは大丈夫」
千尋は言った。
「アシスタントディレクターが運転するマイクロバスが常磐道のバス停に止まってくれるから、それに乗って山形県まで連れて行ってもらえるから。調べてみれば日帰り温泉とかもあるし、宿泊はキャンプ道具一式持って海でキャンプすればいいじゃん。きっと楽しいよ、行こうよぉ」
千尋が結城と瑠奈にごろにゃんする。
「うおおお、海と温泉行きたい! 結城君、行こうよ行こうよ」
小柄なショートヘアの少女、島都は既に大喜びだ。
「さて、問題は勝馬だが」
結城は大柄なゴリラ高校生北谷勝馬を見る。勝馬はおずおずと手を上げて、
千尋さんに賛成でーす」といった。
「お前、今大事そうに抱えているバッグの中に魔法少女みらい関連のグッズがあるだろ」
結城のジト目に勝馬は「ドキッ」と肩を震わせる。
「高野…どうする?」
結城は高野瑠奈というおしとやか黒髪ロングの美少女を見るが、瑠奈は「私はぜひ行きたいな」とにっこり笑った。その笑いには明らかに裏があった。
 結城は咄嗟にスマホで鉄道ニュースを見ると、お召列車がちょうどその日に羽越本線を通過することがニュースになっていた。
「結城君」
瑠奈がにっこり笑った。
「結城君も行くわよね」
瑠奈の笑顔が怖い。結城は「あ、はい」と返事をした。
「よーし、決定。今度の休みは山形の海と温泉でホラー映画に出よ―――」
と都は全く文脈のあっていない鬨の声を上げる。
鶴岡市の旧善宝寺駅跡地。完全に廃墟となったホームと電車の廃墟が見える。かなり空も暗くなって霧が出ていて、朽ち果てた廃線ホームはかなり不気味な感じだ。
「結城君…もし新幹線が走っていたトンネルを一生懸命歩いて出た場所が、こんな不気味な場所だったら…どうする」
島都が考え込んだ。
「心配するな。俺たちはここで貞子に襲われて死ぬと台本に書いてあるから」
結城が頭をポリポリ書いた。
「でも、本当に“赤い貞子”いそうな雰囲気だよね」
カラスが夕闇をカーカーと飛んでいくのを見上げながら、島都はため息をつく。
「いるわけないだろ。“赤い貞子”なんて」
結城は(´;ω;`)ウゥゥ状態で震えている小柄な女子高生に呆れたようにいながら、ふと真剣な表情で言った。
「だが、きさらぎ駅ってのが本当にあるんだとしたら。こんな感じなんだろうな」
結城がつぶやいた時だった。
「きゃぁあっ」
突然瑠奈の悲鳴が聞こえた。慌てて振り向くと、ノースリーブにキャップ姿の高野瑠奈が
「庄内交通のモハ0じゃない。こんなところに残っていたんだ」
とデジカメで写真を撮りまくっていた。
「そ、それはな何より」
結城は苦笑した。さらに向こうでは
「すっごーーーい」
中学2年生の結城秋菜が高校1年生の薮原千尋の肩をつかんで興奮した声を上げる。
「谷北双喜だ。わーっ、わっーーーー。うそ。うそ。信じられない。あそこにいるのって、宇都宮尊明ですよね」
「そうそう。やっぱりあの胸板の良さが秋菜ちゃんにはわかるんだね」
千尋が秋菜の手を握ってミーハーにきゃっきゃしている。だが純粋に目を輝かせているJCの秋菜と違い、千尋の目は腐っていた。彼女の視線の先にはホモビデオに出てきそうなマッチョで精悍なイケメン宇都宮尊明がスタイリストにメイクされている。
「で、あそこにいるつんつんしている赤いドレスの髪の長い女が、一色玲子か」
「この人が素っ裸で浴槽に沈んでいる映画、夜中にやっていたぞ」
結城の横で北谷勝馬がぐへへへへっと笑う。
「ああ、あれは別の女優さんのダミーらしいよ」
横でショートヘアで利発な感じの女の子が顎に手をやりながら説明した。
「ええと、確か名前は」
平木田理衣よ」少女はウインクした。年齢は探検部メンバーと同じくらい、ニット帽を被っている。
「え、マジかよ」
「ネットで流れている噂だと。どうも乳首が汚いらしくて、別の女優さんが代役で引き受けたって…そしてその代役として噂されているのが。富田優樹菜…彼女よ」
ふわふわした感じの茶髪の髪の毛の若い女優さんが、カメラマンと熱心に話し込んでいる女優を見た。
「ちょい待って、あれって3年位前の作品だろ。富田優樹菜って俺より3つか4つ上なだけだから…法律上まずくないか?」
と結城。平木田理衣は「ノンノン」と指を振って
「それをやってのけたのが、前衛的映像作家の神崎茂雄ってわけ」
とウシジマくんスタイルの容姿で、年増のおじいちゃんの照明係と話している監督、神崎茂雄を指さす。
「こらこら、理衣ちゃん。毎回そうやってエキストラさんに変な情報ふきこまないの」
と眼鏡のADが腕組をして笑顔で叱る。
「あ、典子さん。てへっ」っと理衣はそういってその場から離れた。
「全く…彼女は監督の作品に何度もエキストラで出て来てもらっているんだけど。いつもこんな感じで」
ADの赤川典子は笑った。多分20代前半だろう。
「常連さんなんですか」勝馬が質問すると典子は答えた。
「中学生の時から…。神崎先生のドキュメンタリーで感動してエキストラに参加するようになったんだって」
「感動する作品作ってましたか?」
「ワンデイズテレビでドキュメンタリーやっていたでしょう。白血病と闘う女の子が漫画家を目指して絵を描く2時間ドキュメント」
「あ、あれですか」
勝馬が突然涙をボロボロ流す。
「桜ちゃんかわいそう。何で神様はあの子を助けてくれなかったんだああああ」
勝馬君泣かないで」
都にハンカチを出されて、勝馬がそれでチーンする。
「覚えててくれたんだ。桜は私の親友だったの。だから覚えててくれてうれしいわ」
赤川がにっこり笑った時だった。
「なんでこいつがカメラマンなのよ!」
一色玲子が監督の神崎にまくしたてた。
「私の美しさをこんなブレブレのカメラで撮影されたんじゃたまらないわよ」
「まぁ、辛抱してくれ」
監督は手でなだめる様なポーズをとる。
「企画を通すとき、海外でモキュメンタリー映画撮影で名前の通った彼を登場させるのが条件だったんだ」
と監督が言うと、カメラマンのエドワード蓮司は
「僕はカメラマンじゃない、カメラ俳優だ。この作品で私はカメラマンであると同時に俳優としての演技もしている。業界でそんなカメラマンは僕しかいない」
と金髪な髪の毛を気障になびかせ、女優の一色玲子を挑発する。
「キイイッ」
一色は金切り声を上げるとずかずか大股でその場から離れた。
「あのー、玲子さん」
前髪を貞子みたいに伸ばして目元が隠れている全身黒衣服の女性黒部貴子が音響装置のチェックを中断して駅舎の方に歩き去っていった玲子の後を追いかける。
「玲子さん。まだ撮影が」
富田優樹菜が声を上げるが、中年の俳優が「放っておけばいい」と呆れたように言った。ふと俳優は都を見つめる。
「おや、君たちは」
推理ドラマでよく見る高部英二郎がにっこりと精悍に笑って声をかけた。
「確か女子高生探偵として数々の事件を解決した島都じゃないか」
その言葉に撮影現場の空気が張り詰めたのが、結城にはわかった。
「あ、あなたはドラマに出るたびにドラマで殺人事件が起こる」
と秋菜が口をぽかんと開ける。
「ははは。君たちと違って本当の殺人事件には遭遇したことはないよ。役作りの為に警察関係者と友人になってね。それで君の話は聞いていたんだ」
「ほえーー」とどんぐり眼を間抜けに見開く島都の前で、高部英二郎が笑った。その時だった黒部貴子が撮影現場に戻ってきた。
「どうだった。一色の様子は」
すると音響の黒部は目が隠れた顔の口元をにやっとさせて、監督に耳打ちした。監督の目が見開かれる。監督は得意げに歩き去る黒部貴子の背後を物凄い視線で見つめた。彼だけではない。おそらく監督の腹心であろう照明のおじいちゃん若林博も黒部の背中を見つめていた。
 翌朝、常総高校探検部は「ふあああああ」と大あくびをしていた。ここはあつみ温泉駅の広場だった。日本海側から30㎞南、同じ鶴岡市とはいえ中心市街地からは滅茶苦茶離れた、新潟との県境に近い温泉街だ。
「どうだね、海のキャンプは楽しかったかね」
現場では照明係の若林博が穏やかなおじいちゃん笑顔で迎えてくれた。
「ちょっとさすがに寒かったですけどね」
結城は言った。
「あれ、もう3人はどうしたのかね」
「今日は撮影現場には来ません。彼女は僕らのアシスタントという形で、何か今日は撮影するものがあるようで。問題は千尋勝馬。散歩に行くとか言って…1時間前に…わからなくなっているのかぁ」
結城は瑠奈のことだと苦笑した。
「それで、今日の撮影場所は」結城秋菜があくびをこきながらおじいちゃんに聞くと、
「あそこだよ」
と若林は見上げた。そこにはまがまがしい巨大なコンクリートのトンネル口があった。無機質でかなり新しく見えるが、ものすごくのっぺりした感じが不気味なトンネルだった。
「旧日本軍の備蓄施設とかそんな感じのトンネルじゃないですね。かなり新しいトンネルだな」
結城が言うと、若林は言った。
「地元の人はこういっているよ。悪霊トンネルって」
秋菜と都もトンネルを見上げた。不気味な巨大な入口がそこにあった。
2
「悪霊トンネル?」
都がいぶかしげに聞くと、若林は「あつみ温泉駅周辺の集落からは否が応でも不気味なトンネル入り口は目につくからね」と説明した。
「確かに」
結城は考えた。
「プレートを見ると昭和後期の高度成長の後に作られたものだな。でもトンネルの前は斜面になってて車も入れそうにない」
「何か飛行機が発進するんじゃない」
都たちと昨日キャンプでわいわいまじっていた平木田理衣が言った。「サンダーバードみたいに」
「何か発射するとしたら、あつみ温泉駅周辺の集落に突っ込むぞ」
結城が突っ込みを入れると、理衣は身振り手振りで「反重力装置みたいなものがあってだねぇ」と声を上げる。
「わかった」
都がいつの間にかトンネル出口のコンクリート床がぶった切られた場所に立ってあつみ温泉駅周辺を見回した。
「あそこの線路がまっすぐこっちに入ってくるために作られたんだね」
「ご名答」
若林は言った。
「君たちがバスに乗って走ってきた国道横にJRの羽越本線があるだろう。あれは途中で線路の数が単線になったり複線になっていたりちぐはぐだったろう。本当は全部複線化させてトンネルとかでカーブもなく土砂崩れや風もない安全な場所に作りたかったんだが、半分の区間が完成したところで当時の国鉄が財政難になったんだ。そこで、せっかく大工事で作ったこのトンネルは今も一度も使われずに放置されておる。長さ2㎞近いトンネルが2つも…」
「もったいな」
理衣がニット帽を押さえた。
「なるほどね」
トンネルに向かって「あーあーあー」と叫んでいる都の横で、結城はため息をついた。
「ちょうど線路も複線分あるし、映画の撮影にはぴったりってわけか」
その時だった。トンネル前の広場にマイクロバスが到着し、神崎監督が出てきた。
「監督、遅かったですね」
若林が聞くと、神崎監督は不機嫌そうに言った。
「黒部貴子がどこにもいないんだよ。みんなで探したんだが、どこにもいやしねえ。まぁ、録音くらい後で合成すればどうにかなるが」
「全く…とんだ撮影よね」
バスを降りた一色玲子が「フン」と鼻を鳴らした。
「ドアァアアアアアアアアア」
「ひええええええ」
「わぁあああああああああ」
カメラが滑りまくる中で、エキストラや俳優がコンクリートのトンネル床をごろごろ転がる。
「どあぁああああああああ」
都がコンクリートを滑って、そのまま思いっきり富田優樹菜の胸に激突してむにゅっと顔をうずめてしまった。
「いやぁあああああああああああああああああ」
「カット!!!!!」
神崎監督が大声で怒鳴る。
「あたたたた、目が目が回って。目がぁああ」
都はムスカみたいにくるくる回りながら、撮影を見守っていた一色玲子にふらついてくる。一色は「いやぁあああああああ」と悲鳴を上げて都を突き飛ばした。
「何やっているんだ。都は」結城は頭を抱えた。
「師匠!」
秋菜が都に駆け寄った。
「本当に信じられない。こんな小娘が神聖な撮影現場にいるなんて。ちょっと外で煙草を吸ってくるわ」
一色玲子はツンツンとトンネルの奥へと歩き去っていった。
「あ、玲子さん、そっちの方は出口じゃ」
若林が声をかけるが、監督は「ちっ」と声を上げて「別にいいさ。500メートルは中に入ったし。北側も南側も変わらんだろう」と吐き捨てた。
「僕も煙草を吸ってきていいですか」
「僕も外の空気を」
宇都宮と谷北が立ち上がろうとするが、「お前らはだめだ」と監督はぴしゃりといった。
「ここでもう一度練習するんだ。いいか。このトンネルは時空のゆがみで前後左右に回転しているんだ。重力に翻弄される演技の練習を続けろ」
「ち、前衛監督気取って」
谷北が小声で舌打ちした。
「でも凄かったですね。高部英二郎さんの演技。本当に高部さんを見ていると、このトンネルが重力が狂ったような気になりますよ」
結城秋菜がグロッキーになった都をパタパタ仰ぎながら言った。
「だろう。そして僕をみんなが視線で追っても不自然じゃないように、監督は僕を自衛官という設定にしたんだ。この異常事態で周りの人間が無意識に頼る人間としてな。神崎監督は本当に計算しつくした演出をする人だよ。どのように人を怖がらせ、どのように感動させるのか計算している」
と高部は言った。
「さぁ、あなた達も練習練習」
ADの赤川典子がエキストラたちをせかす。
「これから出口に置いたポカリ持ってくるから。これを飲んで練習だ」
若林はそういって立ち上がった。そして若林は照明の向こうの闇に消えた。
勝馬君と千尋さんどこに行ったんだろう。スマホで呼び出した方がいいかなぁ」
秋菜がスマホをスワイプするが、結城は「やめとけ。トンネルだし電波なんてとどかないよ」と言った。
「さぁ、もう一度リハるぞ」若林が持ってきたポカリを探検部が飲んでいた時、神崎監督はメガホンを取った。
こんな感じで練習を続けて20分後。神崎は少しいらだったように赤川典子に聞いた。
「まだ玲子は不貞腐れたままか」
「もうそろそろ帰ってきてもいいころですが。まさかトンネルの奥で何か事故に」
赤川が心配そうな声を上げるが、谷北は「あの人は不貞腐れたら1時間はタバコ吸っているからな」と笑った。神崎監督は歯ぎしりして「呼んで来い」と赤川典子に命じた。
「わかりましたよ」
苦労人な典子に「私も行きます」と秋菜が名乗りを上げた。それにつられて都も結城も一緒に歩きだす。
一緒にコンクリートを歩いてトンネルの奥、南側に歩いていく。
「本当に助かりました」眼鏡娘ADは笑顔で苦笑する。「私は怖がりなんで」
「何ならラバさんを歌ってもいいぜ」結城がそう言った時だった。
 突然秋菜は何かを踏んだような気がして、「きゃぁっ」と悲鳴を上げた。
「どうしたの?」
典子が声を上げる。
「今、何か人みたいなものを踏んだ気がして」
と秋菜の声は泣きそうになって震えている。
「冗談だろ」結城の声に緊張が走る。
「でも、こんなところに人なんて」と秋菜。
「いや、わからん。ホームレスの人がここに隠れ住んだまま死んでいたりとかそういう可能性はあるからな」
結城は秋菜と典子に見ないように手で制してからゆっくり、ライトを床にかざす。赤いドレス…一色玲子と同じ洋服を着用した女性の死体がそこにあった。顔が滅茶苦茶に切り刻まれている。ウィキペディアで見た切り裂きジャックの被害者の惨状がそこにあった。
「き、きゃぁあああああああああああああああああ」
思わず見てしまった秋菜が都の背中のシャツにしがみつくようにして絶叫した。
「どうしたぁああああああ」
高部の声が聞こえる。そして何人かがライト片手に走り込み、結城に照らし出された死体を見て、絶叫した。
「きゃぁああああつ」という優樹菜の金切り声と、「うひょああああああああああああああああ」という顔芸を見せて叫ぶアイドルの谷北。
「一色…一色!」
監督が狂ったように叫んだ。
「若林…俺と来い。警察に通報するぞ」
監督と若林が出口のある北側に走り出す。
「俺も、俺も」
「いやぁあああああああ」谷北と富田優樹菜も平木田理衣も恐慌状態で走り出そうとするが、
「待て」
と高部英二郎が両手を広げ彼らの道をふさいだ。
「俺は刑事の役をやって、刑事の友達がいるからわかる。こういう時は通報する人間以外は絶対に動いちゃいけない」
「そ、そうです」と赤川典子も全員を手で制した。
「でも、2人は犯人を追いかけていっちまったぞ」
宇都宮尊明が尻もちを搗きながらトンネルの奥を指さす。結城竜と島都はライトを片手にトンネルを走り出した。
「一色さんが俺たちの前から姿を消してから、彼女がいった奥方向には誰も入ってはいねぇ。つまり犯人は俺たちとは別の存在でこのトンネルの奥へ逃げている証拠だ」
結城は声を上げた。
「うん!」都は小柄な体で必死に結城についてくる。
「待て」結城竜は都をライトで制して、トンネルの奥の光の出口を見た。かすかに見える光の出口。その光の中に人影が2つ浮かびあがっている。
「犯人か」
人影は何かを話しかけてきている。聞きなれた声が反響して、
「ごめん、都! 私たち道に迷って。このトンネル突っ切って待ち合わせの場所に向かおうと思ったんだけど怖くて」
トンネルの出入り口にいたのは薮原千尋だった。
千尋ちゃん!」
トンネルの南側の出口にいたのは、北谷勝馬と薮原千尋。都はぴょんと近づいた。
「大丈夫?」
「大丈夫って?」
千尋は目をきょとんとさせる。
「誰か通り過ぎたか。このトンネルの中から誰か来なかったか?」
結城が千尋勝馬に真剣な表情で聞いた。
「だ、誰も来てないよ」
千尋が言う。
結城は「どうしたの」と聞く千尋を押しのけてトンネルの外の風景を見回した。小川や田んぼの向こうにもう一つの未使用トンネルの出口がここから直線に伸びて、左右を見れば山側と海側がはっきり特定できる。しかし怪しい奴は一人もいなかった。
「くそ、逃げられたか」
結城は歯ぎしりした。
「でもよかったよ。危ない人たちに千尋ちゃんがあわなくて。勝馬君と千尋ちゃんがタイミングずれてもうちょっと早くここにきて犯人と鉢合わせしていたらと思うと」
都が胸を押さえると、千尋
「どういう事。都。何のことかわからないけど。私と勝馬君は1時間前からずっとここでうだうだしてたよ」ときょとんとした表情で言った。
 女子高生探偵島都の目が、脅迫で見開かれた。