邪教密室殺人事件1-2 導入編
少女探偵島都
「邪教密室殺人事件」❶
1
「やったー、授業終わり! 今日も探検部でみんなと遊ぼう」
と元気いっぱいな小柄なショートヘアの少女。
「いえーい」とごつい体の北谷勝馬が奇声を上げて、都と楽しそうに「うおー」と声を上げている。
「そういえば、今日こそピアソン×ターナーを完成させるって千尋が言ってたよ」
と黒髪ロングの高野瑠奈がバッグを肩に背負って都に笑いかけた。
「あの戦争ゲームの」
とリアルな戦闘シーンをYouTubeで見るときはいつも目を閉じている都。
「そう」おしとやか美人の瑠奈が苦笑する。
「ちょっとついていけなくなっているかな」
「いろいろ、変なもの突っ込んでいましたよね。対戦車砲とか」番長系男子の勝馬が:;(∩´﹏`∩);:と恐怖を思い出す。
「ううん、あのゲームは絶対にダニエルズ×ザスマンでしょう」
瑠奈の衝撃発言に都は目が点になる。
「千尋は王道は往けないタイプなのはわかるけど、ならせめてアイエロ×デイビス大佐とかにするべきだよね」と瑠奈は苦笑する。
「スタイルズは誰が相手をするんでしょうか」と呆然自失の勝馬。
廊下で部室に向かうとき、一人の少女が泣きながらトイレから出てきて屋上に向かうのを3人は見た。
「おや、あの子は」
勝馬は階段から見上げる。
「勝馬君はここで待ってて」
と都が階段を駆け上がる。
「お、男が女の涙を放ってはおけ…」と勝馬が真っ赤な表情で鼻血を出していた。
「勝馬君、今自然にあの子のパンツ階段下から見たでしょ」抑揚のない声で瑠奈は言った。
「hいいいっ、偶然なんです」と勝馬。
「勝馬君は警備担当、よろしくね」
と勝馬が立ち尽くす中で瑠奈も階段を上がっていった。
クラスメイトの町田唯は屋上の金網越しに校庭を見ていた。部活動に打ちこむ高校生たちを悲し気に見下ろしている。
「大丈夫?」と都が声をかける。唯はうつろな目で都と瑠奈を見ている。
「ごめん。ちょっと心配でさ。もしよかったら抱えているものを話してくれないかな。嫌じゃなかったらだけど」
唯はため息をついた。ふわふわな髪の毛のモデル体型の少女だ。彼女は校庭の向こうのイバラギスタン風景を見つめた。
「都、瑠奈」
女子高校生島都は屋上で同級生の町田唯からある秘密を切り出そうとしていた。それを喉を鳴らして待っている都は、目をウルウルさせている。
「祝福2世なんだ」
その言葉に都は目を点にさせた。
「ええええっ」都は素っ頓狂な声を上げた。唯はその様子をじっと観察していた。クラスで友人になってくれた少女がどのような反応をするのか、じっと待つように。気持ち悪がるのか、大したことないと言ってくるのか。
だが目の前のど天然少女の反応は一味違った。
「そ、そげな。まさか、唯ちゃんが、由緒正しき王女様だったなんて」
「え」唯は眼を天にする。
「そうか。国民の気持ちがわかる優しい王女様になるように、お忍びで日本の茨城の高校に通っているんだね」
小さな体格の少女が手を握る。
「でも大丈夫だよ。例え王女様でも私たちの友情は変わらないよ。でもクラスの男の子には言わない方がいいよ。王子になろうとする人が出てくるから」
真剣な目の都。
「都、変な方向に話を進めない」
と黒髪ロングの高野瑠奈が都の体を猫みたいに脇に置く。
「祝福って、統一、幸福、エホバ?」
「統…って瑠奈詳しいね」
唯というふわふわロングヘアのモデル体型の少女は聞いた。
「いや、うちのクラスにちょくちょく来ている千尋って子がいるでしょ。ポニテの元気な。あの子、カルトマニアでさ」
「千尋ちゃんてなんでもマニアだよね」
苦笑する瑠奈の後ろで都が笑った。
「変態マニアなんだよ」
と瑠奈。
「それでさ、お母さんとお父さんから言われたんだよね。部活とかやっちゃダメだって。そんなことをしたらサタンがくるって。休日も放課後もずっと教会に奉仕しなさいって」
唯の言葉に都は目を点にし、?マークを浮かべている。
「それと高校ではお父様の布教をしななさいって。毎月1人を霊の子にしないと、高校に通わせないって。お前はかわいいからそれを使ってクラスの子を信者にしなさいって。霊の親がそれをチェックするって」
「お父さん、ひょっとして民主主義人民共和王国の王様なの」
と都が「うわー」という声を出す。
「日本語的に矛盾しているような気がするけど実在しているから突っ込めないわ」
と瑠奈。
「また、中学みたいにみんなに迷惑をかけて嫌われちゃうのかな」
と唯は顔に手をやって泣き出した。
「あー、でもよかった」
都は屋上に座り込んだ。そして目に涙を浮かべながら
「へへへ、いや、唯ちゃんがどんなことを話すのかなって思って、重い病気で後半年で死んじゃうとか言われたらどうしようって思っていたんだ。でもよかったよ」
と笑った。「良かった」という言葉に唯の表情は沈む。
だが都は唯の手を取った。
「来て来て」
探検部部室-。
その長テーブルの上に文鮮明と奥さんの写真が飾られている。
「天に増しますわれらの文鮮明様。文鮮明様ァアアッ。私は一生文鮮明様についていきます! アーメン!」
勝馬とその舎弟の板倉大樹たちが写真に向かって金正日が死んだ北朝鮮の市民みたく号泣している。
「アアアアアッ」
「カット!」
薮原千尋はパイプ椅子から声を出す。
「勝馬君わざとらしすぎ。教団の連中にバレるでしょ。野々村じゃないんだから」
勝馬が頭をカキカキする。その横でイケメンキャラの結城竜が間抜けた惚け状態でポーっとしていた。千尋はふと隣の唯を見て
「事によって、唯。その教団とかで文鮮明を讃える踊りとかはないの? 勝馬君と結城君に躍らせるよ」
「あ、ええと、そういうのはないかも」と唯。
「ち」と千尋。
「屈辱的な踊りとかあれば面白かったのに」
「お前違う目的があるだろ!」と結城竜が薮原千尋に抗議する。
「ホラホラ、結城君、信じる気持ちが足りてないよ。サタンが憑りついているよ。もっとこうアボジを愛して、アボジで絶頂するくらいに」と薮原千尋がメガホン片手に演技指導する。
「唯の青春がかかっているんだよ。頑張って」
と瑠奈。
「あーーーー」
結城竜は頭をカキカキしながら吹っ切れれる。
-われらは往くんだみ旨の道、母の使命を果たすため♪
全身を使って歌い踊る結城。都が「おー」と目を輝かせる。
「結城君の新しい一面を見たよ」
「後でデータ送るよ」とぐっする千尋に瑠奈は「私もお願い」と瑠奈。
「これデータ」
とUSBを唯に渡す千尋。
「これで学校で熱心に布教活動をしているという証拠になるし、とりあえず、ホワイトボードに文鮮明の蕩減条件とか堕落論とか書きまくって、布教活動部活が存在するように細かい偽装もばっちりだから。これで天下御免で高校に通えるし、好きな部活を楽しめるよ」
「あ、ありがとう」と唯。
「万が一俺たちを教会に連れてこいとか言われた場合は要相談な。どうせこの変態がカルト体験ツアー企画するからよ」
と結城。
「ごめん…本当に」
唯はUSBを胸にぎゅっと抱いて声を震わせて泣いた。
「私、好きな男の子がいたんだ、私、吹奏楽やりたかったんだ。友達と弁当食べてお喋りしたかったんだ。全部諦めないといけないと思っていた。だって私の親は私よりも宗教が大事だから」
「俺のアホ面ビデオでここまで感謝されてもな」
結城はため息をついた。
「本当にありがとう、みんな、ありがとね!」
唯はそう言いながら笑顔で部室を出て行った。
探検部の5人は統一教会の聖堂の前にいた。
「ここが統一教会の聖堂か」
と閑静な住宅地の小春日和に瑠奈は見上げた。
「教会通いまでしてさ、私たちすっかり信者だね」と千尋。
「こんなのに嵌るのか、俺」と結城は頭を抱える。
「あらいらっしゃい」
ドアが開いて唯と愛想のよさそうなおばちゃんが面見せた。
「唯から聞いているわ。彼女が学校で祝福活動を最初にした子たちね」
唯の母親町田智子(51)が全員お手を握る。
「はい、私たち、唯ちゃんが学校で熱心に毎日遅くまで、休日も家に来てくれて、お金で教材やグッズを買ってくれて、そこまでしてくれてやっと目覚めました。この世界の大切なものに」
と千尋は言った。
「お父様の教えのどんなところが良かったのかしら」
とハラハラする唯の横で唯ママはにっこり笑った。
「やはり、メシヤ論でしょうか」
と高野瑠奈がにっこりと笑った。
「堕落論で語られた霊肉両輪の堕落、唯さんの話を聞いて私凄い怖かったのですが、でもそれに対してお父様がちゃんとメシヤ論で救いの導きを用意してくださっている事について、本当に涙が出るほど救われたんです」
瑠奈の説明に唯が唖然とした。
説明しよう。瑠奈は前日のミーティング、通称「オカルトスパイ大作戦前夜ブリーフィング」でちゃんと統一教会の原理をYouTubeで視聴していたのだ。賢者タイムの表情で。
「誰か一人は絶対に統一教会の原理は理解しておかなくちゃいけないでしょう」
瑠奈は画面を見ながら言った。
「にしてもよくこんなの見て具合悪くならないなー」
結城が呆れたように言った。
「俺この眼鏡の伝道者の喋り方がダメだわ。原理ってのも相当きしょいけど。こんなの信じているのかよ、町田の親御さん」
「そのことなんだけど」
と高野瑠奈はイヤホンを耳から外して結城竜を見上げた。
「実はこういう新興宗教の信者って、今すごく減っているんだって。私たちが生まれる前とかは進学や就職で上京したりして一人ぼっちの若い人たちに手相とか偽装サークルで近づいていたんだけど、今はネットで離れていてもつながっているし、そういう偽装サークルも検索すれば一発でバレるから、どこの宗教も信者獲得なんかできてないみたい。だから今の若い信者はみんな二世信者。親が信者で無理やり信じさせられている感じかな」
「つまり、もう新興宗教の時代じゃないってのをカルトにハマった大人が理解していなくて、二世信者の子に無理をさせているっと」
「うん」結城の発言に瑠奈は頷く。
「瑠奈ちん。無理はしちゃだめだよ。こんなの体に悪いよ」
と都がグロッキーな表情で瑠奈に言った。
「勝馬君、2分でトイレに行っちゃったよ。心配だからトイレの前まで行ったら、おえぇええっって声が聞こえた」
と千尋が呆れたように言った。
「でもそういう都も随分長く見てたね」
「いや、唯ちゃんはこんなのを生まれたときからリアルで教えられていたのかなって思ってさ」
と都は窓の外を見た。回想終わって視点を聖堂前に戻そう。
「貴方、メシヤ論まで教えているの? こんな短期間で」
智子がびっくりした表情で唯を見る。
「唯さんは本当の教えを学校で広めるために、学校で勉強会を遅くまで開いているんですよ」
と結城。智子は唯を抱きしめスリスリした。
「ああ、唯。ごめんね。学校も部活もやめなさいって言っちゃって。あなたが本当の教えを広めてくれているなんて、私も教団の中で鼻が高いわ」
「娘が学校で何を得るかよりも教団の地位の方が大事なのかよ」
と勝馬がぼろっと口に出す。
「え」唯と智子が凍り付く。
「だぁあっ。こいつはね。まだ新入部員でサタンが抜けていないんですよ。だからここに連れてきて洗脳…もとい真のお父様の素晴らしい教えに気づきを得てもらって」
と結城竜が勝馬の体をぶんぶん揺らしながら喚く。
「でも唯が持ってきたビデオでは一番お父様を愛して(意味深)いらっしゃったような」
「あれはこいつの双子の弟なんです。兄にも教えを受け入れて欲しいって伝言です」
「そうなの。でもこんなにいい友達がいるから大丈夫ね。さぁ、歓迎するわ」
唯ママは笑顔で聖堂の扉を開けた。
「す、すんません」とデカい体を借りてきた熊みたいに丸める勝馬。
「まぁ、わかるけど」千尋はそう小さく言った。
そして聖堂の扉が開かれたとき、探検部の5人は集まった信者たちに拍手で迎えられた。
2
(どうやら)
結城竜はため息をついた。
(信者獲得に失敗しているってのは本当らしいな。だから高校生を新しく勧誘したなんて話はここまでのイベントになるわけか)
聖堂の椅子の間の通路を歩きながら、都は「やーやー諸君」と皇族みたいな手の振り方で智子を露払いに祭壇まで移動する。
「本当に素晴らしい。真のお父様に目覚めてくれる親がいたなんて。この教団のこれまでの苦労はお父様が示した魂をステップアップさせるための試練だったのですね」
白い伝道師の服を着用した教団地区地区部長の三国正剛(45)が都と硬い握手をする。
「それでは一人一人にコメントをいただきましょう。霊の親からどのようなメッセージをいただいたのかと、お父様のどんな教えが素晴らしかったのかを、一人1分程度で」
都が目を点にする。
(体を張るしかないか)
結城はため息をついた。
「皆さん、アアアッ、俺にぃいい、こんな素晴らしい宗教を教えてくれてぇ。ありがとう。ブハファァァッ。ありがとうございましたぁああっ」
いきなり野々村号泣が始まり、信者は目を点にする。
「真のお父様のぉおおお。教えにぃいい、会うまではぁあああっ。僕は、女遊びがやめられずううう。でもお父様の教えを聞いて、堕落論とメシア論を聞いて、アブラハムとイサクに神が望んだことと、文鮮明様がアベル・カインの時代からサタンに踊らされた人類を本当の天国形成をするまさに歴史的な、歴史的なぁあああっ」
結城の野々村泣きに、会場からすすり泣く声が聞こえた。
説明しよう。前日の探検部で。
「みんなが聖堂の壇上みたいなところで一言一言コメントを言わされる可能性あるけど、多分連中は私らをプロパに使うためにかなり長いコメントを求めてくると思う。すごく図々しい宗教だしね」
と千尋が声を上げた。
「となると、都や勝馬は絶対ボロを出すよな」
「なぬっ」と勝馬が結城に反論しようとするが、瑠奈の苦笑で思いとどまった。
「そこでだ。結城君が最初にマイクを受けとって、野々村をやって」と千尋。
「なんでそういう結論が出るんだよ。お前がやれ」という結城に。
「だって、結城君ビデオで体張ってくれたじゃん。-われらは往くんだみ旨の道、母の使命を果たすため♪って、キャラがぶれてなくてリアリティが出ると思うよ」
「ちくしょーめー」
「はいはい。あまり嬉しさのあまりにみんな興奮しているんです」
瑠奈がフォローをいれる。「今日はちょっとお話みんな出来る状況にないのでまた後で」
都と瑠奈がウソ泣き結城をよしよしすると勝馬が「羨ましい」と小声で言った。
何とかイベントを終えて、食事の時間になったが、並んでいる食事は物凄いまずかった。ミールっていうの、物凄く安くて栄養だけが高そうなものだった。
結城は施設の廊下を歩いていた。
(なんだ、あれ、あんなものを客人に出すなよ。やはり財政状況が厳しいんだろうな。信者もざっと見若い人は二世みたいだし)
その時、廊下で若い眼鏡にそばかすの信者の女性、中川柴野(22)がじっと結城を見ていた。
「貴方、ここに入信、本当にするつもりなの」
と女性は結城に言った。
「やめなさい。本当に人生を滅茶苦茶にするわ。この世にはもっと素晴らしいものがあるはずよ」
結城は逡巡してから
「何を言っているのですか。私はここに教えを受けに来たのです。今私たちが立ち上がらないとこの世界は大変な事になってしまいます。トランプ大統領が不正選挙で敗北して、ウイルスが数年前に大流行して1000万人が死にました。今僕らは自分の事を勝手にしていい時ではないのです」
中川は何も言わずに廊下を歩いて行った。
説明しよう。これは都の提案だった。
「え、その人は僕らを心配してくれているのでしょう。大丈夫だよって安心させてあげた方がいいのでは」
勝馬が部室で都に聞いた。
「勝馬君の言うとおりだと思う。もし本当に心配してくれていたらすごく可哀そう。でもね」
都は真剣だった。
「教団のスパイで本当に信じているのか私たちを試そうとしている可能性がある」
「ま、まさか」と勝馬。
「私たちはスパイごっこだし、バレても怒られてそれでおしまい。でも唯ちゃんは大変な事になっちゃう。だから、私たちは宗教のおうちでは一人でトイレに行くときも、どこでも教祖様の悪口を言わないで、誰も見ていなくても絶賛絶頂信者でいる事、それを忘れないで」
その都の指摘は正しかった。中川は地区長の執務室のドアを開けた。
「どうだった」
三国正剛が中川を見た。
「本当に信じているようです。高校生の知能なら私のトラップを想定はしていないでしょう」
三国正剛の後ろに一ノ瀬誠(27)が立っていた。無口で氷のような表情の秘書だった。
その時電話が鳴った。
「はい、はい」三国は不動の姿勢で緊張の声を上げる。だがすぐに受話器に縋り付くような姿勢になった。
「ちょっと待ってください。今日うちの地区の女子高生が5人の高校生の霊の親になったのです。お願いします。成果は確実に」
一ノ瀬は中川に出ていくように目くばせした。
中川は廊下に出ると頭を押さえて悔しそうな表情になった。
「さて、子供たちは集まって。一緒に伝道に行きましょうか」
聖堂の大広間で町田智子が唯と数人の小学生の子供を呼び寄せた。
「さぁ、この世界に本当のお父様の教えを広めるために頑張りましょうね」
と笑顔の眼鏡の初老の女性高泉百合絵(67)がニコニコ笑った。その時だった。
「イヒヒヒヒ」
キモデブの眼鏡の男がでっぷりとした体で現れた。唯が悲鳴を上げて母親の後ろに隠れる。
「正男おぼっちゃま」と町田智子。
「今日は僕が子供たちに伝道教育をしてあげようと思ってね。唯ちゃん、みんな、僕の部屋に来るんだ」
と三国正男(22)が唯の肩を掴んで厭らしくブラウスの胸あたりを見る。
唯は智子を見た。
「でも伝道は子供たちも一緒にした方が。ママ友の場合子供を連れて回った方が霊的反応がいいって」
と智子が言うと、高泉百合絵が
「智子さん、正男様がそうおっしゃっているのよ。伝道は私たちが真心を込めれば伝わるものなのです」
と智子をしかりつけた。
「そういう事だお。デュフフフ」
三国正男は智子から唯を引きはがした。
「さぁ、唯ちゃん。みんな来るんだよぉ。ぐふふふふふ」
と正男はそう言って、唯を連れて上に上がった。
「ねぇ、これってさぁ」
椅子に座って教団のパンフを読みながら千尋が結城を見た。
「これはちょっとやばいよな。ジョン・キニオネスの番組だよね」
そのとき、結城のスマホにLineが来た。
「ちょっと行ってくる。30分で戻らなければ長川警部に通報して」
と来ていた。見ると都が
「唯ちゃん。私も正男様の伝道聴きたいなー」と唯の所に走っていった。
「ちょ、あのバ」
結城が立ち上がろうとして瑠奈が止めた。
「大丈夫、都は何か考えているよ」
「正男は子供たちと唯、都、小学生の子供4人を連れ込むと防音扉を閉めて部屋に鍵をかけた」
「正男厭らしすぎ!」
小学生くらいの少女、遠藤夏奈(11)がため息をついた。ショートヘアの元気そうな女の子だ。
「これがいいんだよ。教祖の息子が厭らしい事を子供にしているなんて誰も信じたくない。だから絶対にこの部屋は覗かれない」
正男が指でグッドする。
「策士ですね」と唯が笑顔で言った。
「もっと策士がいるようだ」
正男は都を見つめた。都は目をぱちくりしている。
「唯から話は聞いている。随分と面白い方法で唯を助けてくれたようだね。結城君だっけ。子供たちと爆笑してたよ。今日は彼の演技を生で見れたんだから」
「結城君イケメンで面白い。声が中村悠一っぽいよね」
夏奈が好奇心旺盛な目で都を見る。
「それにしても唯を心配してくれて来てくれたようだが、それにしては驚いていないようだな」
「唯ちゃんがお母さんの方を見ていたけど、私たちの方を一回もチラチラ見ていないから、私たちの助けを必要としていないんだろうなってわかったよ。と言ってもついてきたのは万が一のためだど」
と都は笑顔で言った。
「まるで探偵だな」
「本当に名探偵なんですよ。都は」
唯は都の肩を手にした。
「女子高生探偵として今までたくさんの殺人事件を解決しているみたいです」