少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

死神トンネル殺人事件➊

1
 
 大勢の死体が投げ込まれた穴に、15歳の女子高校生島都の母親、島杏の遺体が投げ込まれた。そしてその遺体にガソリンがかけられ、火がつけられる。それを見つめる都を後ろから抱きしめ号泣する黒髪の少女高野瑠奈。そしてその人が焼ける炎を小柄なショートヘアの少女はぼーっと見つめていた。
 

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-さて、全国で22万人が死亡した6.11から明日で1か月になります。虎本首相は事件について短い談話を発表しましたが、首相が積極的にTwitterで虐殺を主導した『愛国者を賛同し、当時インターネット上に流れていた数々の陰謀論をRTした事についての言及は一切なく、遺族の反発は避けられないと言えます。
 
結城家のマンションで結城秋菜はテレビを切った。
「今日はこのニュースばっかりだよね」
夕食のサラダをテーブルに置きながら、14歳の中学生の少女はため息をつく。
「ああ」エプロン姿でキッチンから出てきた長身の男子高校生、結城竜は頭をかいた。
「そういえば師匠は?」
と秋菜は師匠と呼び慕う同居人に言及した。
「風呂だよ。さっき入ってくるって言ってた」
「結城君…」
突然廊下に前髪から水を滴らせた少女がぬぼーっとリビングに現れた。シャツとズボンを着用しているが、多分下着はつけていない。
「馬鹿、おい」結城が真っ赤になる横で「師匠」と秋菜が声を上げた。
「何やっているんですか」
「秋菜ちゃん、お肌がごわごわになっちゃって、髪の毛がジャイアントケルプになっているぅうううう」
と都は涙をちょちょ切れさせる。「ヒリヒリするよー」
「何があったんだよ」
と結城が風呂場に行くと、洗面台にガチムチマッチョが純白のTシャツを着る事で有名なCMの洗濯機にぶち込む奴が開けっ放しになっていた。
「お前、10㎏の洗濯を洗える分だけ入れたのか」結城は呆然とした。
「うん」都の白目から間抜けな効果音とともに涙が流れる。
「だぁ、師匠、お湯を買えますから。いいですか、これですよ。登別温泉は。師匠は洗濯ものじゃないんですから」
と秋菜は説明する。
「このまま髪の毛がワカメのままだったらどうしよう。コグレ閣下みたいな姿で学校行くの嫌だ―――」
と都は秋菜に縋り付く。
「大丈夫ですって」
秋菜は結城を廊下に蹴り出して洗面所のドアを閉めて鍵をかけた。
「ったく」
結城が頭をポリポリすると、直後にドアチャイムが鳴った。
「誰だよ。セキュリティ突破したのかよ」
結城が怪しい訪問販売を撃退する表情で「新聞も神様も間に合っていますんで」と白竜みたいな表情で訪問者を見下ろした。
「今お風呂の方から凄い声を出していた女の子の友達です」
とジト目で小柄なロングヘアの少女が「ちーっす」と挨拶した。
「どこの組のもんや」と結城。
「学校は全然違うよ。山形から来たんだし。都はここで居候しているって聞いたからお邪魔しますよ。はい、お土産」
「玉こん」結城は渡されたパッケージを見た。
「団子みたいなこんにゃく」
と少女はにっこり笑った。
「都がお世話になっているみたいだからさ。食べてよ」
「それより、名前を聞いていいか」
「本多華凛」少女はにかっと笑った。
「都が中学の時に一時期施設で一緒だった。まぁ、中1の時半年間だけなんだけどね。お母さんがブラック企業にはめられていろいろ大変だった時期だよ。そういえばお母さんにも一度挨拶したいんだけど、どこにいるの?」
「知らないのか」
と結城はリビングで言った。
「何かあったの」
「1か月前…大学の外国人留学生の寮がアノンに襲われてな」
結城の言葉に華凛は目を見開いた。
「ま、言えないわな。いちいちいろんな人に教えるたびに、お母さんのことを思い出さなくちゃいけない。多分キャパ超えていたんだよ」華凛は拳を握りしめながら必死で笑った。
「華凛ちゃん!」
廊下にいつの間にかほこほこパジャマの都が立っていた。
「華凛ちゃんだ!」と都はトタトタ走ると華凛に抱き着いた。
「はいはい、予想通りのお出迎えありがとう」都をいい子いい子しながら華凛は言った。
「誰、この人」
「都の中学の時の友達だとよ」結城はため息をついた。
 
マンションのベランダで華凛は都と玉こんを食べていた。
「ええ、太田君漁師のお父さんの船で修行しているんだ。松岡君は相変わらずエッチで、理奈ちゃんは漫画部で漫画を描いていると…」
都は目を輝かせる。
それで都に送る為のSNSとLINEを聞いておこうと思ってさ。都の住所に行ってみたら大家のおばちゃんがここにいるって聞いてさ」
と華凛は言った。
「ごめんね。お母さんの事知らせなくって」
都はベランダの手すりの向こうのニュータウンの夜景を見る。
「私もそうだよ。両親が事故で死んだなんて自分からは絶対言えなかったし。ま、小学校の先生が勝手に言ってくれたんだけどね」
華凛は都に笑いかけた。
辛いときに無理して誰かの希望に応えようとしなくていいんじゃない」
華凛は言った。
「少なくとも、結城君と秋菜ちゃんは都に『笑顔を取り戻してほしい』『いつもの都に戻ってほしい』とかそんな期待はしていないと思う」
秋菜の寝室から結城兄妹は聴診器を片耳ずつシェアしつつ、窓から覗いている。
「殺したい」
都が華凛のTシャツを握った。
「お母さんを殺した奴と、偉そうにしている総理大臣を殺してやりたい」
都は下を向いたまま歯ぎしりして涙を流した。
「許せない、許せないよ」
「うん」華凛は都を抱きしめた。「うん」
 
「じゃ、私山形に帰るよ」
早朝華凛は笑顔で都と結城と秋菜に玄関先で手を振った。
「えー、瑠奈ちんとも会っていこうよ。絶対嬉しいと思うよ」
と都が「ぶー」と残念そうな顔をする。
「そうはいかないよ。世界史の出席日数が足りなくなる」
「お前学校さぼっているのかよ」
と結城はあきれたように言った。華凛は全員を見回して言った。
「ああ、結城君、秋菜ちゃん、都を頼んだよ。この子はすごく優しい子だから」
「ひょっとして華凛さん」秋菜が素っ頓狂な声を上げた。
「ふふふふ、取調室と一緒。ガラスがあれば疑えって」
「え」
都が目をぱちくりさせて結城と秋菜が目をそらすのを見た。
「じゃね」
と華凛はマンションの廊下をTシャツにアップリケのダメージ系ズボンで走っていった。
「やれやれ」
結城は頭をかいた。
 
 上野駅で華凛は高速バスを待ちながらふと思い出していた。結城のマンションのベランダで感じた都の絞り出すような殺意と苦しみを。
 
「そっか。私もあいたかったな、残念」
黒髪おしとやか美人の高野瑠奈は県立常総高校の探検部の部室で笑った。
「お前まで知り合いだったのはな」と結城は案の定期末で赤点やらかして追試受けている都を待ちながら言った。
「都のいる施設に1人で勝手に会いに行ったことがあって。それで」瑠奈は懐かしそうに言った。
「なんでまた」
「都が施設の電話から私に電話をかけてきたのよ。涙声で。その後で電話が切れちゃって。てっきり虐待されているんじゃないかな、いじめられているんじゃなしかって」
「それでいてもたってもいられず」とポニーテール少女の薮原千尋がゲーム機から顔を上げる。
「ちょっと待て、結局都はなんで電話してきたんだ」
と結城に瑠奈はため息をついた。「酢だこだったみたい。それに当たっておなかが痛くて朦朧とする意識で私に電話したんだって」
「さいで」と結城。瑠奈は言葉を続けた。
「でも私それわからないでしょ。山形新幹線と車を乗り継いで。山形と都がいるあつみ温泉って凄く離れていて、山形で親切なおばさんが拾ってくれて、あつみ温泉の旅館まで連れて行ってくれたってわけ」
「中1で大冒険だな」結城は呆れたように言った。
「その人がたまたま都と同じ施設にいた華凛の友達のお母さんで、私はしばらくその人の経営する民宿でお手伝いをする代わりに泊めてもらって、都と華凛や現地の子と仲良くなっちゃって」
と瑠奈は写真を結城と千尋に見せた。
 大きなトンネルを前に少年少女がいかにも夏休みといういで立ちで映り込んでいる。
「おー、中学の都、全然変わってないな。瑠奈は物凄い変化しているけど」と千尋
「待て待て、当ててやろう」
結城は写真を凝視した。
「この虫取り網持った色黒のデカいのが太田君だな。そんでその眼鏡のがスケベの松岡君。顔がいかにもって感じだからな。眼鏡女子が理奈ちゃん」
「この子を忘れてるよ」
千尋が白いTシャツに半ズボンで青いキャップで笑顔の少女を指さした。
この子は私を止めてくれた旅館のおばさんの娘の望美って言うんだけど…1年後に白血病で」
瑠奈は沈んだ声で言った。
「あ、ごめん」と千尋
「ううん。この子のお葬式の時が山形にいった最後」瑠奈はため息をついた。あの時葬儀場で都は努めて笑顔でいたが、出棺の時突然棺に縋り付いて「言っちゃヤダ」と泣き叫んでいた。それを瑠奈と華凛の2人で必死で抱き止めていたのを思い出す。
「ねぇ、ひょっとしてさ。それって前に25時間テレビのドキュメンタリーで使われていた」
スマホをチェックした千尋が聞くと「それだよ」と瑠奈は言った。
白血病になった望美が頑張った記録がドキュメントされてて…。お母さんにとっては映像の中で望美が笑っている事は救いになっているみたい。今度テレビ局の人がエピローグドキュメンタリーを作るから山形に来ないかって言われてて、夏休みになったら都と一緒に行こうって話になってる」
「なるほどな」
結城は言った。
 
 翌日長川警部が運転する軽自動車に瑠奈と都が乗り込む。
「ルート検索だと関越道経由が一番近いのか」と非番の女警部はナビをチェックする。
「悪いな警部。非番なのに」と結城はアクエリアスを渡す。
「いや、どこか温泉にしけ込もうと思っていたし、送り届けたらあつみ温泉でまったりしてくるよ」
と後部座席で嬉しそうに顔周りに花を咲かせている都を振り返った
「都、あんま行った先で迷惑かけるなよ」
と結城に「大丈夫。今日明日明後日は私が都の保護者だから」と瑠奈は笑った。
「じゃーねー、結城君」と手を振る都。
「お土産自分で食うなよ」出発する車を見送って結城はため息をついた。
 
2
 
 
 警部の車は国道7号線を通り、新潟から山形県に入った。そしてのどかな漁村から右手に入り、小さな川の橋を通って里山へと入っていく。
そういえば高野さんが見せてくれた集合写真に写っていたあのデカいトンネルみたいなのって何なんだ。ローカル廃線とかにしては無茶苦茶立派なトンネルだが。見てくれも新しいし」
と運転席から長川警部が聞いた。
「丁度もうすぐ左に見えてきますよ。ほら」
瑠奈が後部座席から指さした。長川警部が慌ててブレーキを踏む。車道から少し斜面を上がったところに写真とそっくりのトンネル口が見えた。
「元々は羽越本線の複線化トンネルとして作られたもので、北側の宮内トンネルと南側の住吉山トンネルがあるんです。でもそのあとすぐに国鉄が潰れて複線化がなくなっちゃったみたいで」
と瑠奈が車から降りた長川警部に説明する。
「つまり線路はなく立派なトンネルだけがあると」
長川は目の前のトンネルから視線を反対側の丘に向ける。反対側の丘にもトンネルが同じように口を開けていた。
「もったいないな」
でもこの山と山の間の田んぼと小川に橋をかけたりするのに凄いお金がかかるみたいです。だからJRもこのトンネルはもう使うつもりはないみたいで」
瑠奈が説明すると、都は「瑠奈ちん詳しいね」と声を上げたので顔を赤らめる瑠奈。
「私たちの秘密基地がどんなのか調べただけ」
「おい、高野じゃねえが。やっぱりそうだ」
不意に声が聞こえて都と瑠奈が振り返ると、デカいクーラーボックス抱えた色黒の大柄な少年が立っていた。
「太田君!」
「おおおお」
太田純也(16)水産高校1年生は美少女2人に囲まれてうれしそうだ。
「相変わらず美人だな。2人ども。ええど、そっちのおばさんは」
「おば…」と長川警部がショックを受けると、都は「おばさんじゃないよ。長川警部だよ」と紹介した。
「警部って…じゃぁ、都が事件を解決するときのワトソン役って訳が」
と太田は物珍しそうに山形弁丸出しで女警部を見る。
「ワトソン役なんてよく業界用語知っているね」
と瑠奈。太田は「そりゃそうさ。毎日理奈さ小説読まされで感想聞がされでっからな。水産高校なのに文学少年になってすまうじぇ」とため息をついた。
 
「ごめん下さい。草壁さん、電報ですよー」
と民宿の前でトトロごっこする都。その後ろで「ふぃー、クーラー快適だったじぇ」という太田。
「おお、瑠奈ぢゃんに都ぢゃん。久すぶり! 2人どもすこだま美人さんになって」
と30代後半の女性がエプロン姿で出てきた。
「ひろ子おばさん。ご無沙汰しています。今日はお世話になります」と瑠奈が一礼する。
民宿経営の青野ひろ子(36)は笑いながら都と瑠奈を手招きする。
「堅苦すい挨拶はいいよ。みんなももう到着すてるす。あどテレビ局の人も今中にいっず。刑事さんも温泉行ぐ前さ軽ぐお菓子でも食って行ってください」
「あ、では遠慮なく」
と長川警部は民宿の中に入る。
「都、瑠奈! ぐへへへへ、めんこいおなごがー」
なまはげ語で喜びを表現する眼鏡の松岡哲士(16)高校1年生。
「はい、女の子の胸をさりげなくチェックしない」とその頭を押さえつけたのは三つ編み眼鏡の少女石田理奈(15)高校1年生だった。
「本当に何やってんだ。再会の場で。瑠奈、久しぶり」
とジト目でも柔らかく笑って手を振る本多華凛(15)高校1年生。
「おや、引率の方、お姉さんですか。とてもお美しい」
とロン毛に眼鏡のインテリ風の男性が声をかけて来た。
「貴方は」とスケベそうな眼鏡にジト目で聞く。
「失礼しました。ディレクターの森庄司と言います。東京の大手マスコミと契約して番組制作をしております」
ディレクターの森庄司(38)は名刺を渡す。
「はぁ。私は名刺は持っていませんが、茨城の方で刑事部の警部をしております」
「警察…」
サングラスに無精ひげの男が明らかに驚いた声を出す。
「失礼しました。この方は平本宗司、うちのカメラマンを勤めています。そしてこちらは」
「はい」と少し化粧がケ゚ばい茶髪の女性が長川に手を振った。
「アナウンサーの冴木麗子です」
(相変わらず化粧のセンスはないかも)と瑠奈は苦笑した。
「都、この人たちとは親しいのか」
長川は聞いた。「望美ちゃんの番組を作った人たち」都は目をぱちくりさせた。
「都ちゃん、瑠奈ちゃん、来てくれてありがとう。これから君らがどんな新しい環境で成長しているのか取らせてもらうよ」
と自分では爽やかな笑顔のつもりで、森庄司というロン毛が笑った。まるで都と瑠奈を値踏みしているような目だった。
 
「警部ありがとね」
と夕焼けに光る軽自動車の窓から手を振る都。瑠奈が頭を下げる。
「なぁ、ぶっちゃけた話、あの番組制作会社の連中は2人にとってどんな連中だ。信頼できる感じか」
長川が小声で瑠奈と都に聞いた。
「正直あまり」瑠奈が民宿の方を見る。
「お葬式会場で私たちを無理やり泣かせようとしたり、演出とかをすごく押して来たり。2年前は太田君とかすごく怒っていました」
「長川警部が警察官だってわかったとき、3人ともテンパってたよね」と都。
「お前も気づいていたか。とにかく。私まで宿泊すると迷惑にはなるが、車で15分の温泉街でまったりしておく、30分に1回はスマホチェックするし、酒は飲まないでおくよ。ま、そんなに気にせず、友達との水入らずを楽しんでくれや」
「うん、わかった」都は頷いた。「ありがと」
その様子を黒い影が見ていた。
「都…どうしたの」
と瑠奈が都を振り返る。
「誰かが見ていたような気がしたんだよ」
都は目をぱちくりさせる。
「それはこれの事かな」
と馬の被り物をした直立二足動物の人間が都の前に立っていた。
「うわぁああっ、馬のおばけぇ」
都が瑠奈にしがみついた。
「都のこの反応久しぶり!」と馬の被り物の下から眼鏡の少女石田里奈が顔を出した。
「今から花火に行こうって話になっているんだけど。2人とも行くよね」
「花火!」都が目を輝かせる。
「うん、テレビ局の人たちは会議みたいだしさ。おばさんも言っておいでって」
花火はインターチェンジの近くのコンビニにあったと思うからさ。私が買ってくるよ」
と華凛が原付バイクを引っ張り出す。
「これ、華凛ちゃんのバイク? 格好いい」
と都が目を輝かせる。
「またがってみなよ」
華凛がポケットに手を突っ込みながら促した。
「これで茨城まで来たの」
「さすがに300㎞も原付ではこれないよ。高速道路も走れないし。でも純也だって」
華凛が太田を見つめた。
「船舶免許持っているんだから。動力付ぎボートだっけ」
「ボート免許2級。小せえの沖合9㎞まで走らしぇられるんだよ」
太田はでかい図体で頭をポリポリかいた。
「やばい、みんなしばらく見ないうちに進化している」都が目を輝かせている。
「哲士は相変わらずスケベだげどね」と理奈は松岡を振り返った。
 
花火をコンビニに買いに行くのは華凛に任せ、都、瑠奈、太田、松岡、理奈の5人はカエルがげこっている道路を歩いて行った。
「そういえば都と瑠奈は彼氏とか出来たのか」
と太田は声を上げた。
「ううん、私は全然。都は仲のいい男の子はいるけどね。しかも現在同居中」と瑠奈。
「マジが!」と太田は素っ頓狂な声を上げた。
「ふええええ」と都が真っ赤になる。
「みんなは進展はあったの」
と瑠奈がみんなを振り返る。
 太田は黙って松岡と理奈を顎でしゃくった。松岡を理奈はぐいっと抱き寄せる。
「ええええええええええええええ」と瑠奈と都は同時に驚愕の声を上げた。
「何もこごまで驚がねぐでも」と太田。
「ええ、松岡君のどこがそんなにいいの」と都は理奈に聞いた。
「存外失礼だな」松岡はため息をつく。
「哲士はやる時はやるのよ。私はそれで助けてもらったんだから」
理奈はふと遠い目で嬉しそうに言う。
「そのあたりは線香花火交えておいおい」と瑠奈が理奈に言う。
「やる時はやる男がよ。ああ。おらはタチションすっから、先さ行ってでぐれ。後で追いがげっから」
太田が頭をワシワシさせながら言う。
「デリカスーがねえな。おめ」と松岡。
「おめに言われだぐねえ」と太田は草むらに入っていった。
「あ、忘れてた…」都が素っ頓狂な声を上げた。「あれ」
「あ…私も言うの忘れてた」瑠奈が口に手をやった。
「理奈。そういうわけだから松岡君と先に行っといてくれない」
「了解」と理奈は敬礼した。そして「あれって何」とキョトンとする松岡の背中を押した。
「いいから! 行くよ!」
 
 暗闇に白い顔が浮かび上がった。その不気味な顔はゆっくりと最初の餌食を確認し、ギラリと刃物を光らせながらトンネルの中を歩いてくる。
 
 真っ暗なトンネルの中で森庄司は煙草に火をつけながら待っていた
「ち…」
待ち合わせの相手はまだ来ていなかった。
(不気味なトンネルだぜ。だが今日来ていた2人の女の子なかなかの美人だ。特に高野って子はスタイルもいいし純情そうだからな。俺が芸能事務所にとりなして…。俺たちが作ったバックボーンを売りに売り出せば…)
だがその前にいう事を聞く存在にしなければいけない。その方法は…。森は不気味に舌なめずりをした。その背後には不気味な白いゴムマスクを着用した存在が立っていた。その手には軍用ナイフが…。森は気配を感じて振り返る。その顔が恐怖に歪んだ瞬間、その腹部に軍用ナイフが突き刺さった。
「ぐおおおおおおおおお」
と森はナイフを引き抜かれると同時にトンネルのコンクリートの床に倒れてのたうち回る。
「な、なぜだ…おががが」
苦しそうに白い仮面の殺人者を見上げる森。
「痛い…たすけ…」
森の顔は顔面蒼白となり、目を見開き、歯茎を見せながら断末魔の死相を見せつつ、痙攣した。