少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

首狩りトンネル殺人事件 転回編

首狩りトンネル殺人事件(転回編)

 

 

 

【容疑者】

・巨摩夏美(16):高校1年

・生田今日子(15):高校1年

・羽根川宣(15):高校1年

・太田一郎(16):高校1年

・有藤英恵(41):民宿オーナー

・高野瑠奈(16):高校1年生

山本健也(27):カメラマン

・須藤伸(46):AD

紀藤浩二(44):ディレクター

浜口萌(26):タレント

 

5

 トンネル前の公園には警察の車両やパトカーが多数到着していた。

「なんてこった。これで4人目ですよ」

陳川警部はため息をついた。

「お嬢。詳しく話してくれませんか」

警部に促され、島都は公園のベンチに置かれた紀藤浩二の生首を見つめた。

「まず最初に夏美ちゃんと瑠奈ちんがトンネルの反対側の道で能面マントの、山本カメラマンが殺された事件の時に見たのと同じような怪人に襲われて、夏美ちゃんは土手下に転がされて瑠奈ちんが誘拐され、白装束着せられてトンネルに転がされていたの。で、私のところにこの首だけになっちゃった紀藤さんから電話があって『トンネルの北出口にいるから助けて』って声が聞こえたから、私は太田君と走ってこっち側の出口に。私は途中でばてちゃったけど、目を覚ました夏美ちゃんがトンネルの向こう側出口で瑠奈ちんと今日子ちゃんと合流して私を追いかけてきて、ばてちゃった私と合流。首を見つけたのは太田君とここで合流してからだよ」

「一応聞きますが。その電話は確かにこの紀藤さんが喋っていたのでしょうか。あるいは機械か何かの録音の可能性だってある」

陳川の質問に女子高生探偵は首を振った。

「私もその可能性を考えて、小学校のクラスメイトの話とかわざと話して反応を聞いたんだけど、間違いなく紀藤さんは私の話に反応した。絶対に私がどんな質問をするのかそのパターンをあらかじめ予測して録音したものじゃないって事は間違いないよ。間違いなく紀藤さんはトンネルの中にいたし、第一トンネル北側出口にいるって確信しているみたいだった。そして犯人に奥に引きずられていって、トンネルを出たこの公園で首を切られて殺害された」

「となると、太田一郎君と巨摩夏美さん、生田今日子さんはアリバイは完全に成立しますね。何故なら犯人がトンネルに入っているとき、都さんとこの3人は間違いなく第一トンネルの北側出口にいたんですからね。瑠奈さんも犯人ではありえません。瑠奈さんはあのトンネルを首を持ってこっち側の出口に持っていくことは出来ませんから。ずっと今日子さんに介抱されていたわけですからね。となると、唯一可能性があるのが民宿にいた有藤英恵さんとずっとロビーで寝ていた羽川亘君。彼は有藤英恵さんから瑠奈さんと夏美さんが帰ってこないと聞くと『般若の面に襲われたのかもしれない』って言って民宿を飛び出していったらしいからね」

「ただ亘君には瑠奈ちゃんと夏美ちゃんを拉致出来ないって言うアリバイがあるよ。だって瑠奈ちんと夏美ちゃんが行方不明になった時間はどう考えても民宿を出て30分は経っていない…。つまり瑠奈ちんと夏美ちゃんが帰ってこないことで私たちが騒ぎ始めた時まではこの2人にも瑠奈ちんと夏美ちゃん2人を誘拐なんかできないというアリバイがあるんだよ。それが出来たのは太田君と夏美ちゃんだけ。夏美ちゃんの場合瑠奈ちんが見た倒れている夏美ちゃんが実は人形だとしたら、能面の怪人に成りすまして瑠奈ちんを誘拐できるんだろうけど。この2人は絶対に紀藤さんを殺せない。という事は私の友達には全員完璧なアリバイがあるんだよ」

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紀藤殺害時の現場地図

都は遠くから不安そうに会話している太田一郎、生田今日子、巨摩夏美、羽根川亘、民宿主人有藤英恵を見つめる。

「だけどそう考えた時、2つ変な点があるんだよ」

都は白装束の瑠奈を見つめた。

「なんで犯人は瑠奈ちんをこんな格好でトンネルの紀藤さんの目の前に転がしていたのかな」

「猟奇的理由しか思い浮かびませんが」

陳川警部は白装束の瑠奈を心配そうに見た。

「瑠奈さん。お嬢のさっきの証言。瑠奈さんから見てどうですか」

陳川に言われて瑠奈ははっきりと言った。

「私が目を覚ました時、太田君と都と今日子がいました。その後太田君と都が犯人を追いかけてトンネルの奥に走って行って、その後で夏美が都と太田君の居場所を聞いて、トンネルに都を追いかけて行ったんです。警察が来るまでずっと今日子が一緒にいてくれたし、あとで羽根川君も合流しました。その間誰もトンネルに出入りはしていません」

「という事は被害者がお嬢に電話してから警察が来るまで、トンネルの北側の出口にはお嬢か瑠奈さんの監視の目があった。つまりトンネル内にいた犯人が北側出口から脱出する事は不可能と言うことになる。トンネルは大体1400メートルですから、犯人がこちらの出口から出て北側の出口まで外を迂回すると、どう考えても15分から30分はかかる。つまり、太田君、生田さん、巨摩さんには完璧なアリバイがあるって事ですね」

「そう」

都は4人の親友を公園のベンチから見つめた。

「都…みんなのアリバイを疑ってるって目ね」

瑠奈が聞いた。

「犯人、私たちの友達の中にいるの?」

「うん」

都は小さくうなずいた。瑠奈の顔がこわばる。

「でもトリックがわからないんだよ。私たちの友達全員にアリバイを作っているトリックが。ただ犯人は」

都は警察官に事情を聴かれながらガタガタと震えている須藤伸という眼鏡を見つめた。

「最後の殺人を残している…それだけでも阻止するためには、犯人がどうやってこの事件のアリバイトリックを完成させたのかを考えなくちゃいけない。そのヒントとなるのは、なぜ犯人が瑠奈ちんに白装束を着せたのか。なぜ犯人はわざわざ紀藤さんを殺す前に電話させたのか。電話の内容からして電話させたのは明らかに犯人だからね。そして一番の謎が犯人が首を切断した理由。そして胴体はどこに消えたのか」

「持ち運びをしやすかった…とか」

瑠奈がため息をついたが、陳川は首を振った。

「その事なんですが。トンネル内部には殺害時の大量血痕は先日の浜口萌殺害現場からしか見つかっておらず、その現場に紛らわせた痕跡もありません」

陳川が警察手帳を読み上げる。

「つまり、恐らく殺害現場はトンネル内ではなくこの公園近辺。恐らく川だと思います。胴体は川に流して首だけをここに置いた。つまり犯人はトンネルを素早く生きた被害者を移動させられる体力があるものと考えられます」

「殺害の凶器は? 日本刀?」

都が聞くと陳川は「おそらく斧だそうです」と述べた。

「斧?」瑠奈がショックを受けた声を出す。

「生きたまま何度も首に刃物を叩き込んで、無理やり足で刃物を踏んで切ったんでしょう。傷口の形状からそう推定されます」

「えー」

想像して瑠奈がサッと顔を青白くする。

「それともう一つ奇妙なことが」

陳川はデカい顔を都に近づける。

「実は今回の殺人で死体近くに添えられていた犯行声明文のフォントサイズやデザインですが、実は浜口萌殺害、山本健也殺害の犯行声明のフォントサイズいずれも一致しませんでした。句読点などの癖は浜口萌の事件にやや似ているそうですが、ただ鑑定としては偶然の一致の可能性もあるレベルだそうです」

「って事は共犯者は3人?」

「ううん」

都はまっすぐ見た。

「須藤伸ってADさんのアリバイはどんな感じなの」

怯えたように爪を噛んでいる須藤を見ながら都は陳川警部に聞いた。

「アリバイは完璧です。死亡推定時刻つまり皆さんが首を見つけるわずか数分前の時点で、彼はホテルレストランで食事をしていました。従業員が間違いないと証言しています」

「と、いう事は、事件関係者は私と瑠奈ちん含めて全員に完璧なアリバイがあるという事。共犯者がいる可能性はこれで限りなく低くなったよ」

「何らかのトリックが介在したと」

陳川は都を見た。都は立ち上がった。

「現場を見てきていいかな」

「ご一緒します」陳川は立ち上がった。

「あ、あのー」

婦人警官が瑠奈に聞いた。

「この白装束…鑑識に回したいんですけど、いいですか」

 

「あと一人…あと一人だ」

殺人者は警察と話をする最後の標的を見つめた。

「大切な友達を踏みにじったお前を…必ず殺してやる」

 

 ホテルロビーに戻ってきた須藤伸は眼鏡の温和そうな顔を苛立たせていた。いったい誰がディレクターを殺したというんだ。殺されたメンツから見て次に狙われるのは誰なのか須藤には痛いほどわかっていた。一連の事件で犯人はてっきり紀藤と言うディレクターだと思っていた。根拠もあった。しかし紀藤はあっさりと殺され、しかも関係者には全員アリバイがあるという。須藤は混乱していた。

―3年前のアレを警察に話すか? いや、そんなことをしたら重い罰が下される。あれは正義だが、その責任を負うのは嫌だ。

エレベーターを出ても思考の袋小路に入った須藤のホテル部屋の前に紙が挟んであった。

 須藤は恐る恐るそれを開く。須藤の目が恐怖に見開かれた。

 

 トンネルの中を都と陳川警部と警官に貸与されたジャージ姿の瑠奈は歩いた。

「この事件では私と瑠奈ちんという2つのチェックポイントがあの時トンネルにいた全員のアリバイを確保している。一つはトンネル入り口で自分は第一トンネル北側の出口にいるとはっきり証言した紀藤さんの声をトンネル出口で聞いた私。そしてトンネルは行ってすぐで今日子ちゃんに介抱されていた瑠奈ちんって、うおおおおお」

 都はトンネルで倒れている人影を見つめてびっくりした。

「これって私?」

瑠奈が明りに照らされた人形を見た。白装束を着せてある。

「目印にと思いましてね。視覚再現用に前の山本健也の事件で購入したダイソーの幽霊コスプレを着せてあるんです。長い髪もおもちゃの安いコスプレです」

と陳川。

「びっくりしたーーーー。もう本当に瑠奈ちんのはトラウマなんだから…」

都はぶーと不貞腐れながら、トンネル北側出口の警察のテープの向こうから都は外の景色を確認する。

「瑠奈ちんがここで白装束姿になっていて倒れていた。という事は多分紀藤さんも電話の内容からここから外の景色を見たんだよ。当日は月明かりで視界も良かったし、この景色を見れば自分がトンネル北口にいる事はわかるだろうしね」

「犯人はそのあと紀藤さんをトンネル南側へと連れ去り、公園で殺害…」

瑠奈が声を上げた。陳川警部が瑠奈に顔を近づける。

「犯人は相当なマッチョですよ。紀藤はそんなに大柄でもなく引きずるなりリヤカーに載せるなりすれば女性でもなんとか移動はさせられますが、全力疾走している太田君から逃げて南側に死体抱えて逃げるのはマッチョじゃないと無理ですよ。首だけの移動なら出来るかもしれませんが、トンネル内にいた時には紀藤さんは生きていたわけでしょう。殺害の痕跡や首から下の死体も見つかっていない。って事は犯人は生きている紀藤さんをトンネルの奥へ連れ去ったことになる。太田君のズタ袋は人が入る大きさではありますが」

「でも太田君は犯人が紀藤さんを連れ去った時にはトンネルの前にはいたよ」

都はじっと陳川を見つめた。

「これは憶測なんですが…紀藤が演技していたって可能性はないですか」

陳川が言った。

「つまりトンネルを北から南へ移動したのは紀藤自身。その後で南側の公園で太田君に殺害された」

「何のために紀藤さんはそんなことを」

と都。だが陳川はサングラスをギラリとさせる。

「太田君を殺害するためですよ」

陳川は声を上げた。

「その生田今日子さんの件で太田君は紀藤と相当トラブルになっていましたよね。それで紀藤は太田君の殺害を目論んで…逆に太田君に」

「そのトリック…紀藤さんのアリバイには何の役にも立たないけど。想像したくもないけど太田君は事件直前まで一人だったし、その時に襲う事だって紀藤さんには…」

都はここで目を見開いた。

「都…どうしたの?」

「なんでもない」

都は顔を左右に振った。しかしコンクリートの床を見るその目は驚愕に満ちていた。

 

6

 

 都は目を見開いて下を見ていた。

「お嬢…大丈夫ですか。お腹でもすいたんですか」

そういう陳川を瑠奈は見た。「犯人が分かったんですよ。あの表情は」

 瑠奈は悲し気に言った。

 都はじっと瑠奈が白装束姿で倒れていた場所から外を見た。月明かりに田舎の風景が見える。道路があって川があって第二トンネルの南側出口が見える。

「紀藤さんがこのトンネルの出口からの風景を見て、第一トンネルの北口だと判断したのは間違いないんだよ。道路と川、反対側のトンネル。この道路は紀藤さんも何度も通っているから間違えるわけがない。加えてこのトンネルには特別な匂いや音もないから目で見た情報を私に伝えてきたんだと思うんだよ」

都はじーっと外を見つめたままトンネルの前を歩き出した。その時トンネルのコンクリートが途切れて、都の体は警察のトラテープにダイブする。テープにグルグル巻きになった状態で整備された丸太の階段をでんでんとお尻ぶつけながら落ちていく。

「あわぷぷあぷ」

どてーっとうつぶせにひっくり返る都。

「大丈夫? 都」「お嬢、怪我はありませんか。あああ、嫁入り前の体が」

瑠奈と陳川警部の声が聞こえてくる。

「大丈夫だよ」

都は手を振った。

「あー、なんか漫画みたいに落っこちちゃったね」

瑠奈が苦笑しながらトンネルから顔を出した。その時だった。都の表情が強張った。今の瑠奈の発した言葉が都の頭に戦慄を走らせた。この事件の謎が全て一本の線につながったのだ。都はぽかんとした表情でどんぐり眼を開いていたが、その真実の重さに耐えきれなくなって、うつむいて前髪が彼女の目を隠した。

「陳川警部…ごめん」

助けに来た陳川に都が言った。

「トリックが分かった。犯人も、この事件の全ての謎もね」

都はお尻パンパンしながら立ち上がった。

「証拠もトンネルの中、出口のすぐ近くに残っているはずだよ」

都は力強く言った。

 

 都はトンネルに通じる階段を上がり、トンネル内部を照らし出した。彼女は再度振り返ってトンネル出口から見える景色を確認した。月明かりの道路、小川、反対側のトンネル、田んぼの風景。そしてトンネル内部には高野瑠奈の人形が置かれていて、都の懐中電灯はその奥を照らし出す。都が想定していたものはすぐに見つかった。

「お、お嬢」

陳川の声が戦慄した。

「犯人が瑠奈ちんを誘拐して白装束を着せた理由。犯行声明文のフォントの違い、山本さん殺害のアリバイの謎、犯人が紀藤さんの首を切断した理由、なぜ犯人が紀藤さんに私に向かって電話をかけさせたか…そのすべてが分かったんだよ」

都はじっと陳川警部を見た。

「陳川警部…一つ聞きたいことがあるんだけど」

都は一段と低い声で陳川を振り返った。

「私は今回の事件の動機がどうしても今日子ちゃんの事件だとは思えないんだよね。私の知っている犯人は、そんなことをしても救われないってわかっているはずなんだよ」

振り返った少女探偵の視線は鋭かった。

「警察署で私に何を隠していたの。あ、言えないのなら私が代わりに行ってあげてもいいよ」

都が口にしたことをトンネルの外で瑠奈は神様に祈りながら聞いていた。しかしその衝撃に両手で顔を覆って泣き出した。

「かないませんね。お嬢には」

陳川はため息をついた。

「お嬢の言った事で間違いありません」

「わかった」

都の目は前髪で隠れていた。

「じゃぁ、今言ったことをお願いしていいかな。最後の殺人だけは止めてあげたいから」

都は小さく言った。陳川は頷いて走り出した。

 ふと都の足に人形が当たった。都は歯切りしながらそれを思いっきり踏みつけた。

「ヴぁあっ」

温厚でほわほわした少女らしからぬ憎しみと怒りに満ちたうめき声だった。

 

 明け方の丘の上の青菜のお墓の前。その墓石に犯人は隠れていた。手には拳銃が握られている。

 墓場に人影が近づいてきていた。犯人の拳銃を持つ手が震える。

「奇麗な景色だよね」

お墓にやってきた島都が笑顔で墓石に隠れている殺人者に向かって言った。

「君が最後に殺そうとしている人間はここには来ないよ」

都は青菜のお墓の前にやってきて手を合わせた。

「陳川警部が教えてくれた民宿で盗聴された会話の内容を警部に教えてもらった。青菜ちゃんは殺されたんだよね。今回の事件で君が殺した奴らに」

墓石に隠れていた犯人は目を見開いた。都は青菜の墓石をなでなでしてあげながら言った。

「そいつらは部屋で森本議員を殺した話をしていたらしい。森本議員は借金をしていて紀藤達から金を揺すり取ろうとしていたらしい。その時に脅迫のネタに使われたのが3年前に紀藤達が青菜ちゃんを殺した話だった。青菜ちゃんは白血病を克服しようとしていたんだよね」

都はぎゅっと青菜の墓石を握った。手が震える。

「一生懸命みんなには心配させないように笑っていた、それでも死ぬことが怖くて夢を実現させたくて、苦しい事や怖い事と一生懸命戦っていた青菜ちゃんを、君が殺した連中は『助かったら感動物語が成立しない』という理由で殺した。そしてそれを民宿の部屋で笑っていた」

都の声が震える。

「君はとても優しいから。事件の動機が友達が酷い目に合わされたとかだったら、絶対に復讐なんてしない。苦しんでいる友達の傍に寄り添って、頭をなでなでしていい子いい子して、涙が枯れるまでずっと話を聞いてあげる子だよ。でも今回の事件で君にはそれが出来なかった」

都はお墓を見つめた。

「その子は遠くにいるから…」

都は立ち上がって朝日を背に犯人を見た。

「辛かったよね。そしてそれを君は私にいう事もできなかった。何故なら私はお母さんを殺されていたから。お母さんを殺されていて辛くて毎日泣いている私に、その上大切な友達が殺されたなんて言えなかったんだよ。私は青菜ちゃんが殺された時、ずっと泣いていたでしょ。そんな私にこれ以上背負わせるなんて、心優しい君には出来なかった」

墓石の奥で吐息が漏れた。

「陳川警部も同じ理由で私にこのことを言えなかったんだって」

声が一瞬震える。でも都は力強く犯人が隠れている墓石の方を見た。

「この事件はとても複雑な事件だった。第一の事件で森本議員が殺された時、警察は間違いなく紀藤たちを疑っていた。陳川警部に聞いたところによると第二の事件がなければ逮捕状請求も考えていたみたい。でも第二の事件で浜口萌さんが殺害され、夏美ちゃんと青菜ママ、山本カメラマン以外の全員にアリバイが確保される状態になり、しかも第一の事件と第二の事件の犯人が同一人物であるかのような犯行声明が出た。陳川警部は捜査のやり直しを余儀なくされ、部屋を盗聴していた青菜ちゃんのお母さんを盗聴容疑で逮捕して取り調べをした。でもその時第三の殺人事件。この時は逮捕されている青菜ママには完璧なアリバイが成立し、さらに状況から考えて私たち全員が見てみる目の前で山本カメラマンが能面の殺人鬼に首を飛ばされるという、作為の余地のない完璧なアリバイが私たち全員に成立した。そして第四の殺人では関係者全員にアリバイ成立。つまり共犯殺人の可能性もなくなった。ううん。私たちは人が殺されるたびに犯人の巧妙なミスリードにまんまと嵌っていったんだよ」

都は小さく深呼吸をした。

「連続殺人ではみんなの目の前で首が飛んだ第三の事件や犯人の夏美ちゃんや瑠奈ちんが行方不明になった第四の事件が注目されているけど、一番注目しなくちゃいけなかったのは青菜ママと夏美ちゃん、山本カメラマン以外全員にアリバイが成立する浜口萌さんが殺された第二の事件だったんだよ」

都は言った。

「何故ならこの事件こそとんでもないアリバイトリックが仕込まれていたんだから。その意味が分かった時、単独犯も共犯も不可能に見えるこの事件全体の意味が分かるんだよ。そしてその連続殺人の犯人は君だという事も分かったんだよ」

都の声が鋭くなった。彼女は警察から借りてきた物を見せる。

「ガジェットとなるのはこのトラテープだよ」

 

【挑戦状】

さぁ、全ての謎とヒントは提示されました。容疑者はこの7人。この中でたった一人が犯人です。

 

・巨摩夏美(16):高校1年

・生田今日子(15):高校1年

・羽根川宣(15):高校1年

・太田一郎(16):高校1年

・有藤英恵(41):民宿オーナー

・高野瑠奈(16):高校1年生

・須藤伸(46):AD

 

犯人が仕込んだアリバイトリック、犯人であるという根拠をぜひ提示してください。