死神トンネル殺人事件❻【解答編】
【容疑者】
・本多華凛(16):高校1年
・太田純也(16):高校1年
・松岡哲士(16):高校1年
・石田理奈(15):高校1年
・青野ひろ子(36):民宿経営
・森庄司(38):ディレクター
・冴木麗子(28):アナウンサー
・平本宗司(45):カメラマン
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「まず第一の事件で森庄司ディレクターが殺された事件」
青野望美の墓前で都はゆっくりと殺人犯に語り掛けた。
「 あの時は偶然が生んだみんなの行動で犯人に完璧なアリバイが出来 た。だけどそのアリバイ成立の前提になっているのは、 ある人がおしっこを外でした事だった。 時間にして長くて2分という前提がみんなにアリバイを作ったんだ けど、でも一つ変な事があるんだよ。 その人は花火に行く前にトイレに行っている。 それから5分後にもう一度行きたくなるのってお腹が悪くなってい ない限りないし、お腹が悪いとおしっこじゃ済まないよね」
都はゆっくりと犯人を見つめた。
「つまりその人は本当はおしっこではなかったことになる。 つまりその人が立小便以外の事をして15分とか時間をかけて草む らに入っていた可能性がある。 もしトイレ時間2分という前提条件が崩れれば、 私たちは誰もアリバイなんて成立しなくなる。 そしてその次の日あのトンネルでその人がトンネルの中長川警部が 止めるのも聞かないでトンネルの奥に走っていった時、 犯人は大きなミスをした」
その人物をじっと見た。
「君は太田君がトンネルに走って行ったあと、『 何があったのかわからない』 って感じでトンネルの中で私たちに合流した。 だけど君はトンネルの北出口でライトを片手にこう言ったんだよ『 純也』って。 首を絞められてさっきまで草むらの中で気絶していたはずなのに」
その人物は驚愕に目を見開いた。
「そうだよね。本多華凛ちゃん。 華凛ちゃんが2人を殺した犯人なんだよね」
都は恐怖の中で目をそらす華凛を見つめた。
「 華凛ちゃんは第一の事件では自分のアリバイを作ろうだなんて考え てはいなかった。 むしろみんなのアリバイを作ろうと思っていたんだよ。 海岸でみんな一緒に至ってアリバイが作れるようにね。 華凛ちゃんにとって大切だったのはトンネルの中で森Dを殺害する 事だった。 殺人現場をトンネルの中にすることがトリックで一番大切な事だか らね。あらかじめバイクは少し離れたところに止めていたけど、 太田君に道端で会ったとき、華凛ちゃんは驚いたんじゃないかな。 そして私たちが忘れ物をして民宿に戻った事も知ってもしかしたら 自分の犯行が証明されるんじゃないかって、 華凛ちゃんは気が気じゃなかったと思う」
都は笑顔で言った。
「でも結果的に運よく華凛ちゃんは完璧なアリバイを手に入れた。 このアリバイの法則は『嘘をついている人=犯人』 とは限らないって考えれば前提条件は崩れるんだよ」
華凛はふっと笑った。
「都、純也の事を叫んだのは何となくだよ。 それに冴木さんが殺された時、 私たち全員に完璧なアリバイがあるって、 都は証明してくれたじゃん。 私たちがトンネルの南側出口に集まって、 ほとんど全員集合状態の時、 スマホから冴木麗子さんの悲鳴が聞こえて来たって、 古市警部補から聞いたよ。 私は冴木さんの声が聞こえてから3分くらいでみんなのいるトンネ ルに駆け付けたんだよ」
華凛は目を狂気に光らせて弁明した。
「私に冴木さんを殺せるわけないじゃん」
都はガラゲの画像を見せた。 そこにはトンネル民宿側出口から撮影した田んぼや川、 反対側のトンネルが映り込んだ写真だった。
「これどこの写真だと思う?」
華凛は言葉を失っていた。「 私が何を言いたいかわかっているんだよね」
都は言った。
「そう、この写真は宮内トンネルの南側で撮影したんじゃない。 住吉山トンネルの北側の出口で撮影したんだよ。 両方の景色は田んぼと流れている河、 道路には草が生い茂っていて、 北側と南側が南北対象になっている。 勿論海やJRの鉄橋のある方向を見れば、 このトンネルが北と南どっちのトンネルかはわかるんだけど、 縛られている冴木さんにはそれはわかるはずがない。 そして冴木さんが自分が宮内トンネル南側に転がされていると勘違 いさせるガジェットが警察の封鎖テープだったって訳。 同じテープを華凛ちゃんは住吉山トンネルにも貼っておいた」
都は華凛を見つめた。華凛は下を向いて目を伏せている。 都は話を続けた。
「これがトンネルの出口に貼られていれば、 冴木さんは宮内トンネルの南側の出口に拉致されていると思い込む 。そのガジェットを成立させるために、 華凛ちゃんは森ディレクターを宮内トンネルで殺害したんだよ。 多分瑠奈ちんが目撃した華凛ちゃんの首を絞めているゴムマスクの 男は、 華凛ちゃんの服を着た人形の首を絞めている華凛ちゃん自身だった 。瑠奈ちんを気絶させた後、 瑠奈ちんを宮内トンネルに拉致して白装束の姿に着替えさせた。 その理由は簡単、瑠奈ちんの服装を予想出来なかったからだよ。 冴木さんに目撃させる瑠奈ちんのダミー人形のね」
女子高生探偵は友人の前で悲し気に目を細めて推理を続ける。
「 そして瑠奈ちんと同じ髪型で白装束を着用させた人形を寝かせた後 、今度は宮内トンネルの前で冴木麗子を拉致。 多分気絶させた場所は宮内トンネルで、 そこから南側の住吉山トンネルまで引きずっていったんだと思う。 冴木さんを確実に勘違いさせるためにね。 住吉山トンネルから植物で死角になっている道路の私たちの動きは 、盗聴器か何かで把握していたんだよ。そして華凛ちゃんは」
都は声を戦慄させる。
都は声を震わせた。 トンネルの中で人間の首を生きたまま切断するという残虐な殺人を 犯した後、 ゴムマスクを取った華凛の悲痛な形相が目に浮かんだからだ。 華凛は下を向いたまま見開いた動向をすぼめ、 驚愕と恐怖に顔を赤らめ歯ぎしりしていた。
「この時時間との勝負ってのもあったから、 手首や足首はあらかじめ切断してバッグに入れていたんだよ。 被害者が喋るだけなら頭と胴体があれば十分だからね。 それに血が必要だった。 瑠奈ちんを寝かせる冴木麗子が体を切断された出血が染みついたシ ーツは、 1時間前に南のトンネルから北のトンネルに移動させていたんだと 思う。 そして殺人を追えて首を入れたバッグと一緒に私たちと宮内トンネ ルで合流。 そこに白装束の瑠奈ちんと血だらけのシーツが見つかれば、 冴木麗子が殺される前に見た光景が私たちの目に留まり、 どう見ても殺された冴木麗子がさっきまでそこにいたように見える 」
都は改まるように目を光らせた。
「 そして華凛ちゃんは太田君や長川警部を追いかけるふりをして人目 を避けて冴木さんの首と手足を北側出口の近くに放置すれば、 犯人が冴木さんを宮内トンネルの南出口から北出口に連れ去って惨 殺したように見える。 南出口でみんなと合流した華凛ちゃんは完璧なアリバイを手にでき るんだよ」
華凛は顔を真っ青にして唇を震わせていた。 これだけのトリックを仕掛けた彼女の事だ。 都が既に決定的な証拠をつかんでいる事もわかっているのだ。 真っ青になって震える華凛がかわいそうで、都は目を閉じた。
「瑠奈ちんがしつこく狙われたのは、 人形を用意するうえで白装束役は代替が利かないため。 瑠奈ちんのお風呂をゴムマスクが覗いていたのは、 2階の手すりに固定し、 窓ガラスを閉じて止めた糸の先に白い仮面をぶら下げたもの。 窓を開ければ同じ部屋の理奈ちゃんに気付かれることなくお面は瑠 奈ちんのお風呂の窓のところにぶら下がり、 エアコンの音で瑠奈ちんが振り返って悲鳴を上げれば、 それに驚いて下を覗くふりをして爪切りで糸を切断。 仮面はエアコンの後ろに落ちて、 私たちは庭の案山子にかぶせられたゴムマスクに気を取られるって トリックだよ。 そうやって瑠奈ちんを狙う不気味なゴムマスクというキャラクター を作ったのは、女の子を誘拐して白装束に着せ替えて監禁し、 人間をトンネルの奥に連れ去ってバラバラに切断する不気味な殺人 鬼を私たちの脳内に作り上げるためだよ。 このトリックの巧妙な所はそこ!」
都は華凛の横に立った。華凛は下を向いている。言葉を発しない。
「 もし前からある伝説とかの通りに殺人をやると何かを隠すための見 立て殺人じゃないかと誰かは思う。 でも何もないところに異常な殺人鬼の残像を提示し続けると、 人はみんな頭の中にゴムマスクの殺人鬼というキャラクターを作り 上げてしまう。それが謎の本当の意味を覆い隠してしまうんだよ」
都は華凛を振り返った。
「犯人が何で首だけではなくて手足を持って行ったのか。 その答えは簡単。首だけがその場に放置されていると、 胴体は別のところに隠されていると警察は考える。 となると住吉山トンネルも当然捜索の範囲となる。 でも首以外の体の一部でも発見されれば、 遺体はまだあつみ温泉駅周辺の川とか海に流れていると警察の人は 思うよね。 そうやって住吉山トンネルに隠した証拠を処分する時間を稼ぐ必要 があった。その心理的ミスリードの為だけに、 華凛ちゃんは人間を生きたまま切断するっていう恐ろしい事をした 。凄く優しい子なのに」
都の声に口惜しさが混じる。
「わ、私じゃ、私じゃないよ」
華凛はようやくそれだけ口にした。だが、 もう自分が都の推理を受け流せない事は彼女自身がわかっているよ うだった。 それでもその声には自分の犯行を都にだけは暴かれたくないという 悲痛な思いがあった。
「華凛ちゃん」
都は華凛に呼びかけた。
「華凛ちゃんがこんな残虐な殺人を選択しちゃったのは、 私の為だよね」
華凛の顔が今までで一番悲痛に歪んだ。
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「 結城君のマンションに来た華凛ちゃんの本当の目的は望美ちゃんが 殺されたことを私に話して、その犯人の森、冴木、 平本をどうやって告発できるのか、 私に助けてほしくて来たんだと思う。ううん、 もしかしたらあの時の私みたいに、 あの3人への殺意と憎しみを私に聞いてもらいたかったのかもしれ ない」
都の声は悲痛だった。華凛は目を閉じた。
「でも華凛ちゃんはそれが出来なかった。 私がお母さんを殺されていたから… そんな私に大事な友達が殺されたなんて、言えなかったんだよ。 私にこれ以上憎しみを背負わせられなかった」
「長川警部と一緒に住吉山トンネルの北出口を探したよ。 昨日の夜。そうしたら白装束の人形と、 首と手足がない人間の死体があったよ。それとニット帽にデニム、 華凛ちゃんが今着ている衣服と全く同じ衣服がね。 瑠奈ちんが目撃した、 ゴムマスクに襲われた華凛ちゃんの衣服だよ」
都の声が震えだした。
都が強い声で華凛を見た。瞳で液体が揺れるが、 その眉毛はきりっと華凛を見据えていた。 華凛は都の視線に目を見開いた。
「ねぇ、一つ聞いていい」
華凛は笑顔で言った。優しく悲しい笑顔だった。
「純也は15分、茂みで何をやっていたの?」
「泣いていたんだって」
都は青野望美のお墓をなでなでした。
「私の事を、好きになってくれたみたいなんだよ。 私に告白しようとしてくれていたみたいなんだよね。 でも私が同じ屋根に仲のいい男の子と住んでいるって聞いちゃって 、15分、泣いていたみたい」
都は寂しそうに笑った。
「あいつ、いいやつだよね」
「うん」都の閉じた目から涙がこぼれ堕ちた。
「都、もう嘘は言わないよ」
都の横で望美の墓を見下ろしながら、 本多華凛は悲痛な表情で言った。
「都の言うとおりだよ。森も冴木も私が殺した…」
都は目を固く閉じたが涙がどうしても浮かんでしまう。
「嫌だよ…華凛ちゃんが人を殺したなんて」都は小さな声を震わせた。
「あんな奴ら、死のうが苦しもうが関係ないよ。都にだけはバレたくなかったけど」
華凛は遠くを見て目を細めた。
「あいつらは望美を殺した。病気に勝って、今も笑っているはずだった望美を」
華凛は笑顔で都を振り返った。
「あいつさ、底抜けに明るいくせに誰かを心配させたりするのが苦手でさ。私が見舞いに行ってもビニール越しにずっと病気の事とか言わないで私と下らない話ばかりしていて…でも私が帰ろうとした時」
病室でビニールをぎゅっと掴んで、望美は華凛に病院着姿で華凛に言った。目に涙を浮かべて。
「帰らないで…」
「望美…」華凛は振り返り、目を見開いた。
「怖い、怖いよ…」
「私、嬉しかったんだ」
華凛は木漏れ日を見上げた。
「望美がさ、本当は怖くて仕方がなかったんだ。 夜に自分が死ぬ事ばかり病室で考えて… あの子に助けてって泣かれた時、私は嬉しかった。 友達ならあいつが一人で苦しんで我慢し続けるより」
華凛は都に笑った。
「あいつの恐怖とか悲しみを一緒に背負える方が嬉しいじゃん」
その日華凛は中学の制服姿で廊下を歩いているとき、ふと望美を取材しているテレビ局の森、冴木、平本とすれ違った。3人とも物凄く深刻そうな顔で、森は「クソッ、あの子の病気があんな状態だったなんて」と機嫌が悪かった。
その様子を見て華凛は不安に駆られて、思わず病室のドアを開けた。そうしたら「華凛ちゃん!」とビニールの向こうで望美が立ち上がって華凛に向かってビニールをパンパン下。その顔は希望に輝いていた。
「私のドナーが見つかったって! 私助かるんだって」
「う、嘘」華凛の目が見開かれた。
「私生きられるんだって!」
「あいつ、 私にドナーが見つかったって最初に教えてくれたんだよね。 生きられるって。夢だったテニス部に入れるって… 恋をして好きな人と一緒になれるって… あいつ凄く喜んでいたんだよ。私も凄くうれしくってさ、あいつら3人の事を忘れて、 一緒に滅茶苦茶泣いた。思いっきり。 それが望美との最後になるなんて思いもしないで」
華凛の目に影が差した。
「望美が死ぬなんて、私は全然考えられなかった。だってあいつは生きられるって私にあんな笑顔で教えてくれたんだから」
青野ひろ子が呆然としているのを支えながら、棺桶の中花に包まれて眠る望美を見つめる華凛。
(なんでよ、生きられるんじゃなかったの? なんかの間違いだよね)
出棺の時耐えられなくなった都が思わず棺桶に縋り付いた。「望美ちゃん! 行っちゃやだ! 望美ちゃん!」
「都!」瑠奈と華凛は都を羽交い絞めにする。だがその時、華凛は恐ろしい光景を目にする。
カメラマンの平山宗司が嬉しそうな表情で、都をカメラで撮影していたのだ。ふと森Dと冴木麗子を見るとこの2人もニヤニヤ笑っていた。
(なんで…この人たちはこんなに嬉しそうなの)華凛は病室での不機嫌な3人組を思い出してゾッとした。
(まさか…)
華凛の目が憎しみに見開かれた。
森庄司、冴木麗子、 平本宗司の3人は部屋で密かに会話をしていた。
「針本の奴、そろそろ捕まりそうだけど、大丈夫かね」 と冴木麗子。
「心配するな。奴には逃走資金を渡す手はずになっている」と森。
「あいつに金を渡すのかよ」
と平本。だが森は不敵に笑った。
「あいつには自殺してもらうんだよ」
―嘘、人殺しの相談? 針本先生に伝えないと。
と盗聴していた華凛はその時は思った。だが次の瞬間、 その考えは消えた。
「あいつが悪いんだよ。 俺たち4人はあの望美ちゃんを永遠のアイドルにした共犯なのによ 」
華凛の目が見開かれる。
「注射したときは暴れて泣き叫んでいたけど、 アイドルとしてのプロ根性が足りないよな」とヘラヘラする平本。
「 生きててもいい事なさそうな母子家庭をアイドルにしてやったんだ し、感謝してほしいよね。キャハハハハハ」 と下品に笑う冴木麗子。
「望美はさ、意外と怖がりでさ、死ぬのを凄く怖がっていた。 お母さんを一人にさせる事を凄く怖がっていた」
都の前で華凛は涙で熱くなった声で叫んだ。
「そして生きる事をすごく楽しみにしていた。それをあいつらは」
民宿の別室で3人を盗聴していた華凛は目を見開いて涙を流していた。望美の涙、最後に見せた望美の笑顔が思い出された。それが感動作品を作るという下らない目的のために無残に踏みつぶされた現実に華凛は歯ぎしりして顔を真っ赤にして、見開かれた目から大粒の涙が落ち続けた。
「許せなかった! 絶対に」
都は般若の形相の華凛の告白に戦慄した。拳を握りしめた。
茨城から山形へ帰る高速バスを上野駅で待ちながら、華凛は灰色の空を見上げた。
(言えないよね。都がこんな大変なのに…どうしよう…どうすればいいんだろう)
その時上野駅の商業施設の液晶に、「のぞみ~少女が残したもの」という表示が浮かび上がり、号泣する都が映し出された。
―あの子が残したものは何だったのか。彼女の友達の6人のその後を追った続編、近日放送-
(助けないと…)華凛は前の乗客の背中を物凄い目で見つめた。
(望美をあいつらから助けないと…そのためにはあいつらを地獄に落とすしかない…そうだ…この世界は人が人の命をもてあそぶ世界。なら、望美の為に)
憎しみに燃える華凛の背中にゴムマスクの殺人者が憑依した。
(私が、裁くしかないんだ)
「うん」
都は頷いた。
「華凛ちゃんの思っている通りだよ。あの時の私は、お母さんが殺された時、命の大切さとか、そんなものが何もかも信じられなくなっていた…華凛ちゃんが望美ちゃんの事を言っていたら、私はきっとあの3人を殺してやりたい…そう思ったと思う」
都は望美のお墓をなでなでした。
「だから…」
都は目からボロボロ涙を流しながら華凛を強い視線で見つめる。
「だから嫌だよ! 華凛ちゃんが私の身代わりなんて…私の代わりに殺人者になるなんて…嫌だよ…嫌だよぉおおおお」
「都」都は華凛の胸に縋り付き、拳で肩をたたいた。「ごめん」
振るえるような声で言いながら、華凛は都を抱き止めた。
「あ、2人ともここにいたんだ」
ふと振り返ると青野ひろ子が優しい笑顔で立っていた。 後ろにはバツの悪そうな長川警部が立っていた。
「都ちゃん、華凛ちゃん。朝ごはんだよ。 何か2人で話していたみたいだけど、お腹減ったでしょ」
「おばさん」
「華凛ちゃんの好きなハムエッグも作ったのよ。 一緒に帰って食べてくれるよね」
そういう青野ひろ子に本多華凛は悲しげに目を細めた。
「ごめんなさいおばさん。私はいけません。 今まで本当にありがとうございました」
華凛の言葉にひろ子はショックで口を押えた。 華凛は長川警部の前に進み出た。「警部」
「ああ」
長川警部はため息をつき、静かに言った。
「本多華凛。森庄司および冴木麗子両名の殺害容疑で、 君を逮捕する。私は休暇で手錠は持っていないから、 一緒に警察署に来てくれるね」
華凛は頷いた。都は言葉もかけられなかった。
(私が自分の事ばかりやなかったら。 もっと友達の事を考えていたら。こんな事には)
だが華凛は立ち尽くす都に振り返りにっこり笑いかけた。
「都、ありがと」
都の目が見開かれた。
都と青野ひろ子は民宿に戻ってきた。食堂にみんな揃っていた。 いつの間にか瑠奈もいる。
「あれ、華凛は?」
理奈が聞いた。
「あ、ええと…その」
都は明後日の方向を見た。
「なんか急用が出来たみたいで。その」
だが高野瑠奈は都を見ていった。 そして目に涙を浮かべながら笑った。
「華凛、ちゃんと自首できたんだよね」
瑠奈の後ろで、太田も松岡も理奈も都を優しく見ている。
限界だった。都は瑠奈に抱き着いて子供のように号泣した。
おわり