早贄村殺人事件❹
7
【容疑者】
・寺吉登紀子（54）：村議
・江川美雪（24）：スキーメダリスト
・村島音子（18）：ご当地アイドル
・有馬花（24）：専業主夫
・有馬弘平（26）：農業
・谷戸磯六（31）：村長秘書
・灰谷三郎（44）：公務員
・猪口周（38）：農業、元村議
・ダニウル・クラスキー（53）：役場顧問
・大鰐大地（62）：村長
「寺吉さん!」
駆け寄ろうとする都を陳川は手で制した。そして自宅リビングで倒れている寺吉登紀子の脈をとった。
「駄目です。死後数時間は経っています」
陳川は床にばらまかれた薬を見た。
「睡眠薬…自殺か」
陳川は都を見た。さすがの都も顔を戦慄させていた。
「瓶の中身は全て睡眠薬ではなく毒物でした。強烈なアルカリ反応があり、錠剤1つで確実に致死する猛毒のものです」
鑑識は陳川警部に報告する。
「瓶からは本人の指紋しか出ませんでした。指紋の付き方などから第三者が握らせた可能性はありません。自分で開けて、飲んだものと考えられます」
「という事は自殺」
陳川は鑑識に問うと「可能性は高いでしょう。室内に物色がされた形跡もありません。それと」鑑識は陳川警部をゴミ袋に誘導する。ブルーシートの前に血液が付着したビニール手袋があった。
「このビニール手袋に本人がはめた跡が確認されました。この血痕が大鰐村長かクラスキー顧問のものかは、現在鑑定中です」
鑑識は述べる。
「つまりこれが被害者2人の血液だとすれば、物的証拠になるって事か」
陳川はため息をついた。
「陳川警部」都は中庭の石から立ち上がる。
「どうやら、状況的に自殺のようです」陳川はため息をつく。
「でも、あんだけ緻密なトリックを仕掛けて何で自殺なんか」結城は首を振る。
「実は自殺の動機は見当がついているんですよ」
陳川はため息をつく。
「実は寺吉登紀子は死ぬ前に村の有力者に次期村長選の後援を取り付けようとしてかなりあちこちに電話をかけているんですよ。ですが寺吉は地元の温泉がアニメ少女キャラとタイアップした事をフェミニズムの立場から否定していましてね。まぁ村長の大鰐やポーランド顧問のクラスキーと仲良かったころはそれなりに立場をあげていたそうですが、2人が死んだとなると地元有力者はそっぽ向いたようですよ。寺吉は自分の思い通りにならないと癇癪を起こす性格で、村の有力者には嫌われていたようです」
「なるほどね」結城はため息をついた。
「村長になりたくて今の村長を含めて2人も殺したのに、その2人が死んだことで村の有力者にそっぽ向かれ、何もかも嫌になって自殺って訳か」
「問題は、その有力者への電話なんですよ。有力者に話しを聞いたところ、寺吉は18時45分にある有力者に電話をしているのですが、どうもその時点でクラスキーが死んでいた事を知っていたようなんですよね。その有力者はこれでクラスキーが殺された事を知ったくらいなんですから。これは我々が寺吉登紀子にクラスキーの死を知らせる20分前なんです。つまり」
「寺尾登紀子はクラスキーが殺された事を警察が知らせる前に知っていた」
結城は言った。
陳川はスマホのTwitterを見せた。寺吉村議のTwitterアカウントだった。
―ごめんなさい。死を以て償います―。
「昨日の夜中か」結城は呻いた。
「こいつが彼女のPCあるいはスマホからのものか、IP解析中です」
陳川はため息をついた。
その時だった。
「畜生!」と秘書の谷戸磯六というサングラスの男が頭を抱えた。
「村長も顧問も村議までも死んでしまって…。俺はどうすればいいんだ」
「知るかよ」今まで神経質そうだった灰谷が物凄い目つきで一瞥をくれる。
「もうお前には頼る人間がいないんだ。とっとと野垂れ死ねや」
灰谷三郎は反射した眼鏡をくいっと挙げて歩き去った。
「灰谷…お前!」と谷戸が灰谷の後ろを物凄い目つきで見る。
「都、元気出せ」寺吉の家の前の道路でしょんぼり気味の都に千尋が明るく声を出す。
「別に都が推理で追い詰めたわけじゃないんだしさ」
「うん」都は浮かない顔で頷く。
「この辺にうまいラーメン屋の屋台が来ているらしいんですよ」と勝馬。
「温泉行って、ラーメン食べたら、元気出ますって」
「何か、事件に納得いかないところがあるの?」と瑠奈。
「わかんない」都は言った。
「わからないんだけど。何か胸の中で何かがドキドキしているんだよ」都は胸をジャンパーの上から掴む。
近くの放置されている田んぼの上で子供たちが遊んでいるのが見えた。
「村長ごっこやろーぜー」
と子供がプラスチックの玩具の刀を別の子供に刺す仕草をすると、相手の子供が「ぶしゅぶしゅー、ぐええええ」と下手な効果音とともに倒れた。
「あいつら、なんつう遊びしてやがんだ」結城が呆れたように呟くと、勝馬は「子供の遊びだろ」と言った。その直後に刀が回転しながら飛んできて、勝馬の顔面に激突し、「ごめんなさーい」という子供たちに勝馬は「うがああああああ」と言いながら子供たちを追い掛け回した。
「やれやれ」結城はプラスチックの刀を手にした。
「泥だらけの手で持つから滑って飛んでいくんだよ」
そんな結城が手にする泥だらけの刀の柄を都はきょとんとしたどんぐり眼で見つめていた。そしてその顔が戦慄していった。
そして彼女は突然走り出した。
「おい、都…」結城が後を追いかける。そして背後から都を抱き上げ、足をｼﾞﾀﾊﾞﾀさせる都に「どうした、トイレか」と聞いた。
「ううん! ちょっと確かめたいことがあるんだよ。有馬さんの家に」
都は振り返った。
「あら、お帰りなさい」有馬花は都と結城を出迎えた。
「なんだか大変なことになっちゃったね」
「いえ。ちょっと都が確かめたいことがあるって」
結城がそういう横で、都が玄関先に飾られていた温泉宿に高本高春、有馬夫妻、そして加藤アキコという女性が映り込んでいる写真を見た。
「この写真がどうしたの?」
花がきょとんと聞く。
「あ、いえ。この旅行楽しかったですか?」
都はにっこり笑った。
「ええ、楽しかったわ。加藤アキコさんと一緒に家族風呂入ったり、美味しいご飯を食べたり」
花は笑顔で言った。
「わかりました」都はぺこりとお辞儀をした。
「確かめたかったのってこのこと?」
「はい」都は笑顔でそういうと家を出て行った。その様子を有馬弘平が物凄い目つきでリビングから隠れるように見つめる。
（まさか、気づいたんじゃ）有馬弘平の顔は恐怖に戦慄していた。
「おい、都」
結城が「わざわざ旅行の感想を聞きに有馬夫妻の家に戻ったのか」と困惑顔で都を見ると、島都は物凄い表情で前を見ていた。
「最初に有馬さんの家に来た時から何か胸の奥に引っかかっていたんだよ」
都は呟くように言った。
「何を言っているんだ」結城が都を見ると都は結城の顔をじっと見た。外の吹雪が強くなり、2人を包み込んでいく。
「さっき陳川警部が言っていたよね。寺吉さんがクラスキーさんが殺された事を警察が知らせるために電話をかけたって」
「ああ」
「それって凄くおかしくない?」都は言った。
「だって犯人は見立て殺人を利用して村長が殺された事件では時間のアリバイトリックを、クラスキーさんが殺された事件では腕力トリックを考えたんだよ。そんな犯人が警察に知らされる前に無関係な人に秘密を暴露するなんてミスはすると思う?」
「そ、そういえば」
結城は目を見開いた。
「確かにそうだ。話がてらについポロっとって事はあると思うが、いくら何でも自分から電話をかけてって言うのは不自然すぎる。でもつまりそれって、わざとって事か? わざと自分が疑われるような事を言ったって事か」
結城が声を震わせた。
「違うよ」
都は吹雪の前でじっと前を向いた。
「真犯人が警察が知らせる前に事件の詳細を寺吉村議に教えたんだよ。私や警察にボロを出してくれる事を期待させてね」
「し、真犯人って」
結城が目を見開く。都は吹雪の中小さな体をしっかり立たせて、真剣な表情で前に向かって言った。
「ごめん、結城君。私探偵失格だ。寺吉さんは村長と顧問を殺して自殺したんじゃない。2人を殺した真犯人によって自殺に見せかけられて殺されたんだよ。この村のどこかにいる殺人者、加藤アキコさんに、私は完全に騙されて寺吉さんに濡れ衣を着せるような推理をさせられたんだよ」
女子高生探偵はぎゅっと臍を噛んだ。
「う、嘘だろ」
結城は頭を振った。
「でもちょっと待て」
吹雪の中で結城は声を上げた。
「陳川警部の部下の刑事が寺吉登紀子の家を監視して出入りした人間はいないって言っていただろう」
「そのトリックは大体解けているよ」
都は結城を見た。
「とにかく、それを確かめるために村役場に行くよ。私の推理が正しければ、そこにまだ証拠は残っているはずだから」
と都は言った。
吹雪の雪原に加藤アキコはいた。
「終わった」加藤は3人の人間の命を奪った両手を見つめた。
「高春さん。これで終わったよ。これで良かったんだよね」
加藤アイコは愛する者に吹雪の中で呼びかけた。しかし決して答えは返ってくることはなかった。
8
「お嬢、寺吉登紀子の村議会事務所を開けてもらいました」と陳川警部が廊下で都に言った。
「そ、それにしてもお嬢に間違った推理をさせた手練れは本当に存在するんですか」
陳川が廊下で待っている都と結城を順番に見つめる。
「うん。ごめん。陳川警部」都は言った。
寺吉登紀子の事務付けを手袋を手に漁る都。引き出しを開けるとそこには薬瓶があった。
「ちょっとこれ、寺吉の死体と一緒に見つかった」と陳川警部。
「気をつけろ。毒物が」と結城がアタフタするのを見て、都は「大丈夫だよ」と笑った。
「私の推理だとこれに毒は入っていないから」
都は笑った。
「寺吉さんはね、この薬瓶を2つ持っていて、1つは家、もう一つはこの事務所に置いていたんだよ。それを寝る前に飲んでいたんだと思う」
「それはどういう…あ」結城が素っ頓狂な声を上げた。
「そう。寺吉さんは3日間事務所に泊まり込んでいた。つまり、犯人は3日前に寺吉さんの自宅の薬入れを毒薬にすり替えていたんだよ。多分寺吉さんの家に忍び込んだんじゃなくて、合法的に訪問した時、すきをついてね」
「つまり寺吉は3日前から昨日の夜に死ぬように犯人に定められたって事ですか」
と陳川。
「都…高本高春の彼女だった加藤アイコって奴が犯人だと言っていたが、それはどういうことだ」
結城が都に聞く。
「村には警察官があちこちで監視に立っていましたし、自警団も動いていたようですが、加藤アイコなる怪しい女性の目撃例は」
と陳川は言った。
「それは、加藤アイコって人が、私たちが会った容疑者の中にいるからだよ」
都は言った。
「いや、それはあり得ません」陳川警部は首を振った。
「今生き残っている7人の容疑者は全員身分がしっかりしている人間です。しかも小さな村ですし、相互監視とかもありますから、誰かが別人と入れ替わっているなんて事は…。それに警察は事件の参考人の経歴も調べていますが、少なくとも別人が入れ替わる余地はありません」
「その謎も解けているよ」
都は言った。
「ちょっと待て」結城は声を上げた。
「その人物が誰なのか、都…お前わかっているのか?」
結城が聞くと都は頷いた。
「うん…大体ね」その顔に悲し気な表情が一瞬見えた。
「でもその人が犯人だとしたら、絶対に解き明かさないといけない最後の謎が残っているんだよ」
都は天井を見上げながら考えた。
「それと陳川警部。一つお願いがあるんだよ」
「お、お願い?」陳川が不細工な面を都に近づけ、ごにょごにょする。
「わかりました。賭けになると思いますが、当たってみましょう」と陳川はそう言って部屋を出て行った。
「ん」結城がテーブルの上に置かれている「条例草案」と書かれたファイルを見た。
「これって、大鰐村長と寺吉村議が推し進めようとした『世界一女性に優しい村づくり条例』って奴か」
結城がファイルをめくり始める。都がテーブルによじ登るように身を乗り出してファイルを読む。そして主要部分だけ読んだ結城はファイルを閉じた。
「なんだこの狂った条例案は。こんなんをポーランドの自治体は実行しているのかよ」
結城は吐き捨てるように言った。
「あー、見つかっちゃったかー」と突然茶髪のスキー選手、江川美雪が腕組しながら扉によっかかっていた。
「江川さん…」結城が呆然とした表情で言った。
「こんな条例のPVに出るつもりだったんですか」
「スポンサー様のご命令だからね。でも3人とも死んでくれて助かっちゃった」
江川美雪は笑った。
「本当にこんな条例を村長たちが?」都がしょんぼりした表情で聞く。
「村長の大鰐と寺吉は政治思想が正反対なんだけど、この条例を作るためになぜか気持ち悪いほど仲が良くなってね。私たちからすれば悪魔合体なんだけど。そのためにポーランドで市長を務めた事もあるクラスキーを顧問として雇ったって訳」
「悪魔合体」
結城にジャキーンとひっつく仕草をする都。
「だってこの条例。賛同者が凄いもん。よく漫画やアニメにケチつけているフェミニストが賛同しているんだけど、それだけじゃなく、どう見ても女性を物としか見ていないネトウヨも賛同しているんだもん」
江川は「例えば」と例に挙げる。
「今立場を失ってビエンしている背広を着たチンピラサングラスの谷戸、あいつはTwitterで『日本国男性連盟代表』とかいうアカウント名でレイプ被害者の女性に差別発言繰り返して有名な筋肉馬鹿でさ、1年前くらいだったかな、村長にスカウトされて、村議、クラスキーの共同秘書みたいな役割についていたみたい。本当にクソみたいな話でしょう。役場課長の灰谷って人はこんなのに小間使いにされて、内心はムカついていたみたい…。でも奥さんと子供がいるから大きな行動は出来なかったのよね」
と江川はため息をつく。
「私ね。こういう条例案に企業の社会的貢献と評して賛同するスポンサーの下でモーグルやるのが本当に申し訳ない気持ちでいっぱいでさ。高春兄ちゃんに言ったことあるの。私はもうモーグルやめるって…。でも高春兄ちゃんは、この条例に一番反対している事で有名だったんだけど、私にはモーグルを続けるように言ったの。悪いのは企業と政治家だから、私は関係ないって。それでメダルを取ってモーグルの施設まで村にできてさ」
江川美雪はふっと天井を見た。
「あの、聞きにくい事を聞くんですが」
結城は言った。「実はある人が高本高春さんが今回死んだ村長と村議と顧問に殺されたって、ある人が」
「花ちゃん夫妻でしょ」と江川美雪は笑う。結城は頭をかきかき「ええ、まぁ」と言った。
「どう思いますか」
「まぁ、そこまでは行かないんじゃないかな」と江川美雪は言った。
「だって高本高春さんと同じくらい反対運動をしていたのが猪口元村議だよ。あのスキンヘッドのタコｼﾞｼﾞｲが生きているって事は、高春兄ちゃんが条例の為に殺されたって事はないっしょ。そもそも可決するのは村議なわけだし」
江川はふと都と結城を見た。
「私ね。今年の5月で25だからさ。村議会に出ようと思っているんだ。知名度だけは負けないからね。こんなクソみたいな条例消滅させてやる」
江川はニカっと笑った。そして「君らも頑張れよ」と言って廊下を歩いて行った。
ふと「きゃー」という女の子の悲鳴がして外を見ると、役場の外の駐車場で瑠奈がデッキブラシを指先に立てて支えるバランス技を披露している。それを勝馬と千尋とさっきの子供たちが嬉しそうに見ている。
「ったく、いつの間に仲良くなったのかよ」と結城は呆れたように子供たちによじ登られる勝馬を見た。
「てか高野上手いな」と結城が部屋の中から窓越しに見て述べる。
「ふふふふ、瑠奈ちんは凄く上手なんだよ」都は笑った。
「よくあんな細いものを立てられるよな。どういうバランス感覚なんだよ」
結城がそう言うのを都はどんぐり眼を見開いて、そしてじーっと見つめた。次の瞬間、都はその場にぺたんと座り込んだ。
「お、おい、都…大丈夫か」
結城が慌てて座り込んだ小柄な女子高生探偵に視線を合わせる。
「うん、ちょっと信じられなくて」
都は両手で肩を抱いて顔を戦慄させていた。
「今回の犯人のトリック…凄すぎる…信じられないよ」都の声が震えていた。
「都…お前…」結城は都を呆然と見つめた。
「結城君、私馬鹿だよね。結城君はあの時正しい推理をしていたのに、私は犯人に間違った推理をさせられていたんだよ」
都は緊張した表情で言った。
外で遊んでいる瑠奈と千尋と勝馬と子供たちに、都が笑顔で近づいた。
「みんなにアイスをあげよう」とアイスキャンディを子供たちにプレゼントした。
「てか都寒いよ」と千尋が突っ込むが、都が提示した箱から、アイスキャンディが子供たちと勝馬の手で瞬く間になくなっていく」
「まぁ、子供たちはこう言うのを好きだから」と瑠奈は苦笑した。
「あ、アイスキャンディの棒は必ず返してね。とても大事なものだから」
「なんだ。当たりとかあるのか」子供たちはアイスをぺろぺろしている。その時結城が「おーい」と役場の中から出てきて都を呼んだ。都がダッシュで結城の所に戻る。
「役場の人に事務用品いくつか借りたぜ」と結城が都に言う。
「それじゃぁみんなに面白いものを見せてあげよう」
都が子供たちを見回した。
「すげぇええええええええ」
役場の会議室の机で子供たちがあるものに目を輝かせる。
「そんな…そんな事って出来るの」と瑠奈がびっくりした表情で都を見る。
「ふふふふ」都は得意げだ。勝馬と千尋も信じられないという表情だ。
「ちょっと待て。これって…」
結城が都を見ると「これが犯人が作り上げたトリックだよ」
その時だった。会議室のドアが開いた。サングラスの陳川警部がCDを片手に目を輝かせている。
「お嬢、ビンゴでした。関係者を問い詰めたら白状しました。ばっちり証拠が残っていましたよ」
「ありがとー、陳川警部」
都は陳川に抱き着いた。
「結城君。これでわかったよ。倉庫の殺人現場でヒーターがつけられていた理由、第一の事件でロープがやたら長かった理由、そして加藤アキコって人がどのようにある人物に成り代わったのかも…。今回私は犯人に間違った推理をさせられた…でももう逃がさない」
都は真っすぐな目で結城を見つめた。
「全部わかった!」
加藤アキコは役場の会議室に来ていた。警察から最後の聴取をすると言われて、役場に呼び出されたのだった。周りにいる見慣れた顔を見ながら、警察の到着を待つ。だが部屋に入ってきたのは意外な人物だった。それは小柄な女子高校生島都。事件現場で警部にお嬢と言われていた少女だった。それに陳川警部と結城という少年が付き従っている。
（一体彼女は何者なんだ）加藤アキコがそう思ったとき、少女はゆっくり喋りだした。
「皆さん、何度も呼び出してごめんなさい。これが最後です」
都は言った。
「私はこの事件の恐ろしく頭のいい犯人に騙され、寺吉登紀子さんが2人を殺して自殺した…そう推理しました。でもそれは犯人が仕組んだミスリード。本当の犯人は寺吉さん、大鰐村長、クラスキーさんの3人を殺害し、全ての罪を寺吉さんに被せて、この部屋の7人の中にいるんです」
都が片手をパーにしてもう片方の手で1を作って7を示す。
「お前は何を言っているんだ」
と谷戸磯六が声を上げるが、全く迫力はない。灰谷三郎は「そんな」と言って周囲をキョロキョロし、猪口周は「ほー」と腕を組んで見せる。有馬夫妻は顔を見合わせ、江川美雪と村島音子は黙って立っている。
「まず言っておきましょう」
都はゆっくりと歩き出した。
「この事件の犯人は加藤アキコという人物です」
加藤アキコは目を見開いた。
「な、何を言ってるの! 加藤アキコさんがそんな事」と有馬花が声を上げる。
「この部屋に犯人がいるって、何言っているのかわからないよ」と江川美雪が首を振る。
「大丈夫。全て今から説明します。この事件で犯人が仕組んだ、恐ろしい心理トリックをね」
都は全員を見回した。
【読者への挑戦状】
さぁ、全てのヒントは提示された。真犯人加藤アキコは誰と入れ替わっているのでしょうか。そして犯人が仕組んだ恐るべきアリバイトリックとは!
犯人はこの中にたった1人!
・江川美雪（24）：スキーメダリスト
・村島音子（18）：ご当地アイドル
・有馬花（24）：専業主夫
・有馬弘平（26）：農業
・谷戸磯六（31）：村長秘書
・灰谷三郎（44）：公務員
・猪口周（38）：農業、元村議
