早贄村殺人事件❸
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【容疑者】
・寺吉登紀子（54）：村議
・江川美雪（24）：スキーメダリスト
・村島音子（18）：ご当地アイドル
・有馬花（24）：専業主夫
・有馬弘平（26）：農業
・谷戸磯六（31）：村長秘書
・灰谷三郎（44）：公務員
・猪口周（38）：農業、元村議
・ダニウル・クラスキー（53）：役場顧問
・大鰐大地（62）：村長
「発見したのは業者の人です。この倉庫の点検を18時からする予定で、18時ちょうどにこの倉庫を開けたら」
陳川警部は日本刀で串刺しになってうつぶせに倒れているダニウル・クラスキーの死体を都に指示した。
「酷いな」結城は声を上げた。鑑識が日本刀を何とか引き抜いて、死体を死体袋に入れていく。
「ええ、今回も前の事件と同様に殺される前に刃物で暴行され、出血した跡があります」
陳川は信じられないという様に首を振る。島都は思案した。
「今回も高本さんの作品に死体が固定されているね」
都は死体を芸術作品から取り外そうと頑張る鑑識を見ながら言った。
「でも今回は前みたくロープを長くするんじゃなくて、展示されていたのと同じ長さだよね」
「それに前は死体が木枠のロープが飛びている方向に死体が固定されていたが、今回は死体は木枠のロープが伸びている方とは反対側に固定されている。まぁ、今回はロープが短いからそうせざるを得なかったんだろうが」
結城はじっと考え込んだ。
「気になるのは日本刀の柄の部分に木で作ったユニットが装着されている事だな。これって日本刀を垂直に倉庫の床に立てるためのものか」
「多分そうだと思います」陳川は日本刀の柄の部分に装着されたユニットを指さした。
「血の飛び散り具合が、床のこの不自然な四角の部分と一致しました。つまり日本刀は垂直に立っていたんです。犯人は大男で多分日本刀を地面に垂直に立てた状態で高本の芸術作品に固定されたクラスキーをじわじわ下に降ろして刺していったんでしょうな」
陳川は「酷い事を」とため息をつく。
「やはり2回連続で高本作品に死体が固定されているとすると、これは見立て殺人なんだろうな」
結城は天井を見た。
「中はコンクリートで梁とかそういうのは無し。死体をぶら下げる事は不可能だ」
「平成になってから作られた建物ですからね。果樹園の倉庫とは違いますよ」
と陳川警部。
「お嬢…ちょっとよろしいですか」
と陳川警部は都を呼んだ。都は高本作品をじっと見つめていたが、陳川に呼ばれて「はーい」と手を挙げた。陳川と都と結城は倉庫の中でしゃがんで内緒話を始める。
「お嬢があの果樹園の倉庫の死体、遠隔操作トリックだと言っていたみたいですが、どうもその可能性は極めて高いと思います。どんなトリックかはわかりませんが、確実に遠隔操作トリックは使用されている事自体は判明しました」
陳川は真剣な表情で言った。
「血の付いた足跡だよね」
と都。
「さすがお嬢」陳川は頷いた。
「これだけ大量に血しぶきが飛んでいる現場だと通常は絶対に血の付いた足跡が発見されているはずなんです。現にこの現場でも血痕が付着した犯人のゲソ痕がいくつか見つかっています。血を踏んだり、血が飛び散った痕跡に誰かが立っていた痕跡はあるんです」
「って事は果樹園で殺された大鰐村長の殺害現場では、血の付いたゲソ痕は見つからなかった」
と結城が聞くと陳川は「いえ、ゲソ痕自体は見つかっています」と言った。
「しかし、そのゲソ痕についている血は明らかに古いんです。鑑識結果では24時間以上は確実に経過していると」
「って事は」
結城と都が同時に陳川警部を見た。
「村長が殺害された時、犯人はあの倉庫にいなかったんです」
陳川は断言した。
「やはり遠隔殺人トリックがあったんか。そういえば、警部。都の奴、そのトリックが分かったみたいだぜ」
「うん」都は頷いた。
「そのために村長の死体を解剖する人に確かめてほしいことがあるんだよ。村長が死ぬ前に何を食べていたのか」
「わ、わかりました」陳川は立ち上がって駆け出した。
「あと鑑識は終わっているんで。現場とかを自由に見てください、お嬢」
陳川はそう言ってからスマホで何やら話している。
「まず第一の事件とこの事件の共通点を見てみるよ」都は言った。
「これが私の推理の証拠になるかもしれないから」
「そうだな。まず前との共通点は、死体が高本作品の芸術に固定されている事と、このヒーターだな」
結城は電気ヒーターを見つめる。
「相違点は、高本芸術のロープが、第一の事件では不自然に長かったことと、死体を固定している木枠とは反対側に重しが固定されていない事」
「そのロープの長さが第一の事件の遠隔操作殺人トリックのキーポイントだよ」
都は断言した。
その時だった。陳川警部が電話を切って都の所に戻って来た。
「今福島県警から連絡がありまして、奇妙な事がわかったんですよ」
陳川は声を上げた。
「殺された大鰐村長の胃の中が空だったんです。おそらく3日間は飲まず食わずの状況だったと。それと本庁から連絡があってもう一つ妙な事がわかったんです」
「妙な事?」
島都が目をぱちくりさせる。陳川は続けた。
「死体を吊り上げる重しに使用されていたブロック。重さは106㎏あったのですが、購入経路を調べたところ該当するブロックが存在しません。おそらく枠か何かを使って犯人自身によって作られたものと考えられるそうです」
「陳川警部ありがとう」
都は真っ赤になる陳川に抱き着いた。「これで私の推理が正しい事が証明されたよ。されたんだけど」
都は急にトーンダウンした。
「どうした」結城が突っ込むと都は結城と陳川を見た。
「犯人が分からない」としょんぼりする都。
「だろうな」結城はため息をついた。
「どんな方法にしろ、方法があるならアリバイがある奴が怪しいって事になるからな。俺たちが知っているだけでも、有馬夫妻、アイドルの村島音子にスキー選手の江川美雪、村議の寺吉登紀子、公務員の灰谷に、果樹園農園主で元村議の猪口周…合計7人もいるんだ」
「他に何か変だなって言うところはない?」都が陳川に聞くと
「そういえば」と陳川は声を上げた。
「鑑識さんが刀の握り、つまり柄の部分が妙だって言ってましたよ」
と陳川は言った。
「刀の柄とそれに装着されていた刀を垂直に立てるユニット、微妙に一致しない血痕があるって言うんです」
陳川は都を見る。
「鑑識さん相当困っていましたよ」
「でもそのユニットは床に飛び散っていた血痕とは一致するんだろ」
と結城。陳川は「ええ」と頷いた。
「もしかしたら…これも犯人のトリックかもしれない」と都は考え込んだ。
「もう夜ですよ」
役場の会議室で村議の寺吉登紀子が文句を言う。その横には村島音子、江川美雪、有馬弘平、有馬花、灰谷三郎、谷戸磯六、猪口周の8人が座っている。
「まさか、また誰かが殺されたのか」
猪口は不敵に笑った。
「ええ、殺されましたよ。ダニウル・クラスキーさんがね」
と陳川は全員を見回した。
「そ、そんな!」花が声を震わせた。
「彼は日本刀で腹を刺されて殺されていました。前回同様、自殺した高本高春さんの芸術作品に体を固定されて役場の倉庫でね」
陳川は全員を見回す。
「死亡推定時刻は発見から30分以内。有馬夫妻と村長秘書の谷戸さんと公務員の灰谷さんは銭湯にいてアリバイが成立しています。猪口さん、村島さん、江川さん、寺吉村議。あなた方は18時前後。どこでどうしていましたか?」
「俺は家にいたよ。後援に電話をかけまくっていたから電波情報で家にいたのかはわかるだろうが」
猪口は顎を触りながら思い出す。
「私は実家にいた。お母さんが証言してくれると思う。いたよね」
と江川美雪が村島音子に確認を取る。村島はおずおずと頷いた。
「今日が私の誕生日だから…それで美雪さんが一緒に祝ってくれるって」と村島音子が声を震わせる。
「寺吉村議。貴方は」陳川が聞くと、寺吉登紀子は「わ、私は家にいたわ。疲れていたし寝ていたのよ」とあたふたする。
「それを証明できる人は」
と陳川。
「ちょっと待って。私を疑っているの?」
と寺吉は声を震わせた。
「冗談じゃないわよ。私は女よ。大の外人を持ち上げて床に垂直に立っている日本刀の上に落とせるわけないじゃない」
寺吉は不機嫌そうにそっぽを向いた。
「まぁ、確かに大の男を持ち上げてこんな芸当は女性じゃ不可能でしょうな」
陳川警部は頷く。「猪口さんなら出来なくもなさそうですが、自宅から電波発信履歴があると」
「ああ」猪口は頷いた。
「まぁ調べればわかる事です。ところで江川さんと村島さん」
「ちーっす」っと江川美雪がソファーに座って適当に返事をする。
「あなた方2人は随分と村長にセクハラされていたそうで」
「まぁね」と江川は言った。
「だけどあのデブ太り過ぎでさ、私を押し倒そうとしてぶよんぶよんひっくり返って。それで自分で起き上がるにも苦労してやんの。クソワロwwww」
と江川美雪はケタケタ笑った。その横で村島音子が目を閉じて体を震わせている。
「貴方は」と陳川警部が聞くと
「やめてください!」と有馬花が大声を出した。
「こういうことは、ちゃんと了解を取って、誰もいない部屋で聞くべきじゃないですか」
有馬花がキッと陳川警部を見る。
「わかりました。4人の方には改めまして事情聴取をいたします」
陳川警部は言った。全員が部屋から出ていくと、陳川は都を振り返った。
「お、お嬢…何かわかりました?」
「十分だよ」都は頷いた。
「犯人も犯人が仕掛けたトリックも全てわかった」
都はじっと前を見た。
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「は、犯人が分かったんですか」陳川が目を見開いた。
「うん。犯人は寺吉登美子さんだよ」都は陳川警部を見上げる。
「刑事さんに寺吉さんを監視するようお願い出来るかな」
「て、寺吉村議が」結城がビックらこく。瑠奈、千尋、勝馬も驚いた表情だ。
「で、でも寺吉村議は女性で、あんな外人を持ち上げて日本刀で落とすなんて本人の言った通り無理だよ」
と千尋。都は「本人の言った通り…それがおかしいんだよ」
都は言った。
「だって、クラスキーさんの事件では陳川警部はお腹に日本刀が刺さっていて高本高春さんの芸術作品に手足を固定されていた事を伝えたんだよ」
「十分伝わって…」千尋は腑に落ちない表情だが、瑠奈は「あ」と声を出した。
「それだと普通は果樹園倉庫で殺された大鰐村長と同じ殺され方だと普通は連想するよね」
と瑠奈。
「そう!」都はピンポーンと指さした。
「高本高春さんの作品に固定され、ブロックという重しによって引き上げられる形で大鰐村長は殺された。という事は、役場の倉庫でクラスキーさんが高本作品に固定されて日本刀でお腹を刺されたと聞けば、普通は刀に向かって『降ろされる』なんて表現を使うはずないんだよ」
と都は言った。その時陳川はスマホを切った。
「部下に尾行と監視を命じました」と報告する。
「警部ありがと」都はそう言ってから、探検部のメンバーを見る。
「でもさ」と千尋が考え込む。
「どうやってあのおばちゃんが外人を持ち上げて日本刀の上に落せたわけ?」
「ううん、寺吉村議はそんな方法で殺しはしてない。彼女は正面から木枠に固定されたクラスキーさんを日本刀で突き刺したんだよ」
都は千尋に言った。
「で、でも床に飛び散った血と、日本刀を立てたユニットについていた血は一致してたんだよね」
と瑠奈。
「うん」都は頷いた。
「でもそれは殺人が行われていた時、日本刀の柄にユニットが装着されていたとは限らない。クラスキーさんを殺し、その血が床に置かれたユニットに引っ付いたとき、ユニットには日本刀は装着されていなかった。それを後で日本刀に装着したんだよ。そうする事で犯人は、殺人が行われたまさにその時、刀は床に垂直に立っていたと見せかけたんだよ」
と都は言った。
「なるほどな…」結城は唸った。
「だから日本刀の柄の部分とユニットでは飛び散った血の痕跡が一致しなかったんだな」
「な、なるほど」
陳川警部は呆然とする。グロ耐性のない勝馬はひっくり返っていた。
「第一の事件はどうなんだ」結城は聞いた。
「大鰐村長が殺された倉庫。あの倉庫は遠隔操作トリックがあったって都は言っていたが、その謎は解けたのか」
「もちろんだよ」都はにっこり笑った。
「結城君。結城君が教えてくれた推理。雪を使ったトリック。基本的な構造はあれと同じなんだよ。ただあの部屋では雪以外に消えてしまうものがあったんだよ。時間とともにね」
都は全員を見回す。
「雪以外で時間とともに消えるもの?」
と瑠奈が考え込む。
「ヒント。千尋ちゃんが消えて欲しいものだよ」
都がそういうと千尋がポンと手を打った。
「体重!」
「そう!」
都は役場の会議室で千尋にちゃはーと指さす。
「なるほど」陳川が考え込んだ。
「そういえば被害者は殺される前に丸3日何も食べていないって話だったな。それにあの犯人がオーダーメイドしたと思われるブロック。あれは大鰐村長の体重に連動していたわけですね」
陳川がお嬢に向かって大袈裟に両手を振る。
「そうだよ陳川警部」
都も一緒に両手を振った。
「大鰐村長は3日間行き先も告げずにどこかに行くことがあった。犯人はそれを利用して大鰐村長を拉致して、猪口さんの果樹園の倉庫に監禁した。そこは使われていない倉庫で季節柄果樹園には誰もやってこない。犯人はそこで村長を例の殺人装置に固定。そしてそのまま何日も放置したんだよ。そうする事で村長の体は食べ物を食べられなかったりウンチをしたりして徐々に体重が軽くなっていく」
都は真剣な表情で喋る。
「そして3日間かけて徐々に自分の体に日本刀がじわじわ刺さっていく恐怖を味わいながら、体が重りに繋がったロープに持ち上げられていき、最後には日本刀で」
「そうか…だから大鰐村長が殺された現場には電気ヒーターがかかっていたんだな」
結城は言った。
「村長がトリック作動前に死なないように」
「そう」都は頷いた。
「第二のクラスキーさん殺害現場にもヒーターがかかっていたのも、クラスキーさんの死体が高本高春さんの芸術作品に固定されていたのも、もっと言えば2つの事件が高本作品に被害者を固定する見立て殺人みたいな方法だったのも、全て第一の事件の体重現象を使った殺人トリックのガジェットを紛らわせるためだったんだよ」
都は言った。
「なるほどな」結城は考え込んだ。
「となると第一の事件で高本作品の元ネタと比べてやたらロープが長かったのも、体重トリックに使用するため。第二の事件でロープが元ネタと同じだったのは、第二の事件では人間を吊り上げたり時限式のトリックを使ったわけじゃないから、ロープを長くする必要なんてなかったって事か」
「そう、第二の事件ではこの木枠から斜めについている一本の棒があるよね。ロープで繋がっている」
都は高本作品の木枠についている斜めの棒をスマホをスワイプして大写しにした。
「犯人はそれを手に持って、もう片方の手で日本刀で一気に突き刺した。この斜めの棒の部分があるおかげで、直接木枠を持ち上げなくとも、この部分を引っ張るだけで木枠に固定された外国人の大きな体の向きを自由に変え、そのままの姿勢を保持する事も出来る。つまり処刑がやりやすくなるって事だよ」
都は結城をじっと見た。
「そして殺人の瞬間に刀を支えるユニットを床に置いて、後でそのユニットを日本刀の柄の部分に装着する事で、殺人が行われた時、日本刀は床から垂直に立っているように見せかけた。そうする事で大柄な人間がクラスキーさんの体を1メートル以上持ち上げて日本刀の上に落としたように見せかけたんだよ」
「な、なんと…」
「でもコンクリートブロックは…」
瑠奈は言った。
「倉庫に生コンがあったからな。段ボールでもあれば最初から仕掛けに乗っかった状態でコンクリブロックを作ることは可能だろう」
結城は言った。「段ボールを燃やしちまえば証拠も隠滅出来る」
「つまり第一の事件は時限式アリバイトリック、第二の事件は犯人の腕力を錯覚させるトリックだったわけですね。さすがお嬢!」陳川は拍手をする。
「でも、私の推理、物的証拠がまだないんだよね」都は考え込んだ。
「まぁ、さっきの秘密の暴露は一応録音しておきましたが、これだけで有罪に出来るかは微妙ですしね」と陳川警部も考える。
「あ、だから私の部下に警護を」陳川警部がポンと手を打った。
「うん…。もしかしたら第三の被害者を狙っているところを抑えられるかもしれないし。次の犠牲者は防ぎたいし」
都は考え込む。
「大丈夫ですよ。福島県警の鑑識は優秀です。秘密の暴露を理由に裁判所に令状を取れば、家宅捜索できっと何かが見つかります。そうと分かれば我々は裁判所に令状を請求してきますので。これで。勿論監視の部下は置いていきます」
陳川はそう言って都に敬礼して会議室を飛び出した。
「お疲れ様」と有馬夫妻の家の前で有馬花は笑顔で迎えた。
「すいませんお泊りまでさせていただいて…」結城竜は頭をポリポリする。
「ちーっす」突然花の奥から茶髪の女性が挨拶した。
「貴方はスキーメダリストの」
「江川美雪です!」と江川美雪は言った。
「美雪ちゃんは私と幼馴染なの」と花は笑顔で言った。
「久しぶりに会ったけど、かわいいなぁー」と都ぐらい小柄な花を美雪は抱きしめた。
「それに」美雪はふと物憂げに笑った。
「あんな条例のPVに出なくてよくなりそうで、ほっとしたかな。やっぱり高本さんが許してくれても、私が自分を許せなくなりそうだもん」
江川美雪はアホなギャルを気取っているが、一瞬繊細さを見せつける。
「ほら、高校生。美人のお姉さんが一晩付き合ってやるぞ。飲め飲め!」
だいぶお酒が入っているようで勝馬に抱き着いて、そのセーターのおっぱいで勝馬を真っ赤にしている。
「美雪ちゃん。みんな困っているでしょ」
花はそう言って江川美雪を引っ張った。
翌朝。結城は都に蹴り飛ばされて目を覚ました。都が爆睡している横で瑠奈がぼーっと起きる。
「どちら様でしょう」
結城竜がガラガラとドアを開けると、サングラスに大柄のヤクザ刑事、陳川警部がバンと家宅捜索令状を結城に提示した。
寺吉登紀子は大きな日本家屋に住んでいた。
「どうだ」
家の前に待機していたプリウスの部下に陳川が聞くと「監視してましたが、帰宅後、家から出入りした形跡はありません。去年離婚して一人暮らしです」と刑事は報告する。
「おっしゃ」
陳川はそう言って都を振り返った。
「お嬢」都は陳川に頷いた。
「寺吉登紀子さん。警察です」陳川はインターフォンを押す。
「寺吉さん。警察です」
しかし返事がない。
「警部。電気がついているよ」都は縁側から家の中を覗き込む。
「そういえば、一晩中電気がついていましたよ」刑事がそう言った直後、都は弾かれたように近くの植木鉢を手にして思いっきり窓ガラスにぶつけた。そして割れたガラスから窓の鍵を開ける。
「ちょっと、お嬢。ダメですよ」と陳川が諫めたが、都はドアを開けると靴のままカーテンをかき分け、そしてその中の光景に目を見開いた。
リビングで、寺吉登紀子が目を見開き、口から泡を吹いて、のどをかきむしった凄まじい形相で倒れていた。
「て、寺吉さん!」都が大声で喚いた。
