早贄村殺人事件❷
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【容疑者】
・寺吉登紀子(54):村議
・江川美雪(24):スキーメダリスト
・村島音子(18):ご当地アイドル
・有馬花(24):専業主夫
・有馬弘平(26):農業
・谷戸磯六(31):村長秘書
・灰谷三郎(44):公務員
・猪口周(38):農業、元村議
・ダニウル・クラスキー(53):役場顧問
・大鰐大地(62):村長
「これは高本君の作品だ! あいつは復讐の為に帰って来たんだよおぉおおおお」
と猪口周が狂ったように笑いだす。
「この死体を固定している木枠とロープが…高本さんの?」
結城が猪口を見る。
「これです」有馬弘平が結城竜にスマホを見せる。2つの木枠がそれぞれの頂点をロープで繋がれた作品がスマホ画像にアップされていた。
「ちょっと待ってください。これがわざわざ殺人現場で殺人に使用されたって事は、これは見立て殺人って事になるんじゃないか」
結城は考え込んだ。
「まさか、これって高本君の復讐である事のメッセージ」
有馬弘平が声を戦慄させた。
「とにかく、警察を呼びましょう。あまり動き回らないで。現場保存をしなくちゃいけませんから」
結城は幾分手慣れたように指示を出した。
殺人現場にはパトカーが到着し、果樹園や殺害現場の倉庫で鑑識活動が行われている。
「そ、村長!」と村長秘書のサングラス男谷戸磯六(31)が驚愕し、女性村議の寺吉登紀子(54)は倉庫前の果樹園の倉庫で死体袋に入った村長の死体を見つめ「どうして」と震える。
「村長の大鰐大地さんに間違いないですか」
とサングラスのヤクザ警部、陳川雅史は傷だらけの顔で2人に確認する。寺吉と谷戸は頷いた。
「なんて事でしょー。尊敬する政治家の大鰐さんが、こんな。きっとこれは女性の権利を踏みにじる勢力の仕業でーす」
役場顧問のダニウル・クラスキーが大袈裟に悲しんで見せる。
「誰がこんな拷問みたいな仕掛けで」
と有馬花(24)が夫の有馬弘平(26)に抱かれて震えている。
「拷問みたいな仕掛けで」
「高本君の作品だ」と不気味に笑うのは猪口周だった。
「糞村長の体を固定しているのは、高本君が美術展に出す予定だった作品だ。木製の四角い形枠の頂点がそれぞれもう一つの四角の頂点にロープで固定されているだろう。そして一つの辺から別の木製の枠が固定されていて、これが村長の芋虫とコンクリブロックを挟み込むように固定している。ほれ」
猪口はスマホを陳川に提示した。そこには死体と日本刀とコンクリブロックを抜いた代物が黒い背景にライトで照らされていた。
「彼が作ったものはもっとロープが短いんだが、この殺人現場のロープは長くなっている。2倍くらいにな」
「なるほど」陳川は1辺が1.5メートルはある木枠を見つめた。
「これでじわじわ自分の体に日本刀が刺さるのを見るような仕掛けを汲んだんだろう。本当に拷問みたいだな」
「拷問みたいじゃなくて拷問をしている痕跡がありますよ。死体には」
陳川はじっと一同を見回す。
「被害者は殺される前に体のあちこちを切り刻まれています。つまり殺される前に痛めつけられているんです」
陳川はため息をついた。「異常者ですよ」
「あんたが犯人じゃないの?」と寺吉登紀子が猪口をキッと見つめる。
「あんた、村長が起こしたリコール活動で議員辞職を強要されたから、その腹いせに。それにあんたは異常者の味方をしていたわよね。女性を傷つける異常者なあんたのやりそうなことだわ」
「バカな」
猪口は鼻でせせら笑った。
「あんたは左翼のフェミニスト議員じゃないか。バリバリの保守の尊重とは全く正反対。それがどういうわけか最近仲良くして、同じ条例案を提出して成立目前。そこで何か揉めたんじゃないのか」
と猪口が意地悪く笑う。
「でもこの果樹園は貴方のものですよね」
と陳川。
「だからなんだよ。この倉庫使っていないからな、気が付かなかったよ」
と猪口。陳川は「本当ですか?」とサングラスを光らせる。
「猪口さんは犯人じゃないと思うよ」
突然コンクリートブロックを倉庫の中でツンツンしながら都は言った。
「お嬢!」陳川が都を見る。都は死体袋を指さして
「この人が悲鳴を上げた時、猪口さんと弘平さん、花さんは私たちと一緒にいた。あれだけざっくり日本刀で刺されていたら長くは生きていられないけど、私が倉庫に入ったときにはまだ生きていた。って事は村長の悲鳴が聞こえるまで私たちと一緒にいた3人には完璧なアリバイが成立する事になるよね」
と陳川をどんぐり眼で見た。
「そ、そういう事なら私たちにもアリバイはあるわ」と寺吉は頷いた。
「私たちはその時間ずっと会議に出ていました。アリバイは完璧です。勿論クラスキー顧問もね」
「村議の皆さんが証明してくれまーす」とホクホク笑顔のクラスキー。
「では村議に恨みを持っている人間は」
と陳川が聞くと猪口周は「まぁ、大勢いるだろうな。ご当地アイドルの村島音子とスキー選手の江川美雪は村長のセクハラに相当参っていたし、役場公務員で村長の付き人みたいに扱われていた灰谷三郎って奴はハラスメントで相当追い詰められていた」
「彼らは事件当時全員役場にいましたよ」と寺吉登紀子は声を上げた。
「まぁ、後で話しを聞かせてもらいましょう。それから私とキャラが微妙にかぶっている谷戸磯六さん。秘書の貴方がアリバイないそうですね」
「そ、それは…村長を探しに行くように寺吉村議から言われていたわけですから」
とサングラスのガタイのいい男は焦る。
「貴方が探しているように見せかけて、本当は殺したんじゃないですか」
クラスキーの意地悪い発言に谷戸は「やだなぁ」と言った。
「それに…なんか話によるとこれは密室殺人なのでしょう。そ、それなら自殺じゃないんですか」
「いいえ」陳川は狼狽える谷戸を見てサングラスをキラーンさせる。
「現場の状況から見て自殺とは考えられません」
「なら、どうやって犯人はこの倉庫から脱出出来たんですか」
と谷戸が陳川に質問する。
「それは、この女子高校生探偵島都が必ず解き明かしてくれますよ。ですよね、お嬢」
と陳川がじっと天井の梁にかけられたロープの仕掛けを見つめる。
「ほらほら、お嬢には何かが見えていますよ。お嬢、何が見えるのですか」
陳川警部は都にコソコソと耳を広げる。
「陳川には分っていますよ。きっとこれは釣り糸を使ったトリックですよね。犯人はあの時農場にいた猪口、有馬夫妻の誰か。多分後ろ手にこの仕掛けに固定された釣り糸を持っていて、頃合いを見計らって引っ張って仕掛けが作動し、あとは釣り糸を強く引っ張るとそれが外れて証拠は回収。そういうトリックに違いありません。さぁ、お嬢の考えを聞かせてください」
陳川は野々村みたいに耳を澄まして都に迫ってくる。
「わっ」都が叫ぶと陳川はひっくり返って伸びていた。
「そんなトリックで説明できるトリックじゃないと思うよ」
都はじっと天井の梁にロープでさかさまに固定された日本刀を見つめる。
「ロープの反対側の木枠にはブロックが乗せられていて、もう片方の村長さんが固定された木枠が持ち上がる事で下から日本刀に突き刺さる仕組みになっているよね。この状態で仕掛けを固定するなんて倉庫の外から針と糸で出来るわけがないよ」
「確かに、なんでわざわざって殺し方だな」
結城はため息をついた。
「でも陳川警部のいう通り、これが何かしらのトリックに使われている事は間違いないと思うよ」
と都は目をぱちくりさせた。
「ほう」と結城が反応すると都は言葉を続けた。
「だって、この事件は密室殺人なんだよ。村長さんが殺された時、私たちは倉庫の前にいた。そして扉を開けたとき、犯人はどこにもいなかった…という事は、自動的に村長を殺す仕掛けが施されていた事は間違いないんだよ。それも、針とか糸とかそういうものを残さない方法で」
都は倉庫内を見回した。
「多分、この高本さんの芸術作品の形が、この殺人の仕掛けに丁度いい形なんだよ」
その横で警察官が死体袋を運び出そうとして死体が担架から転がり落ちる。
「おい、気をつけろ」と陳川。
「すいません」と警察官が声を出す。「これ、気をつけろ。重いぞ」
「村長は体重150㎏近くあるんです」寺吉登紀子が言う。
「150…」と陳川が口をあんぐり開ける。
「だからか」
結城は天井の梁を見上げた。
「だから犯人は被害者に恐怖を味合わせるために、天井の梁に日本刀を固定して、村長を高本作品にぐるぐる巻きに固定して、反対側のロープを引っ張ることで滑車のように持ち上げて、じわじわ日本刀で刺さっていく恐怖を味合わせたんだな。普通ならゆっくり被害者を地面に立てた日本刀に降ろしていくんだろうが、そうなると重すぎて恐怖を長時間味合わせる前に犯人のスタミナが切れちまう」
「そんな、酷い」と有馬花が目を背ける。
「いや…もしかしたら」結城はおでこに指をあてがう。
「もしかしたら、被害者をわざわざ持ち上げていく形状にしたって言うのが、遠隔自動殺人トリックを成立させるために重要なんじゃないか!」
結城は都にサジェストすると、都も「うん」と頷いた。
「警部」
と鑑識が陳川に報告した。
「ゲソ痕ですが、高校生や同行者以外の靴跡は見当たりません。雪の降っていた時間を考えると、少なくとも発見1時間前にはこの倉庫には誰もいなかった事になります」
「って事は」
陳川警部は真っ青になる。
「や、や、やっぱりお風呂の幽霊」
「もうそれはいいよ、警部」結城は突っ込みを入れた。そして頭をぐしゃぐしゃにカキカキした。
「都、お前何かわかったか。殺人トリックの方法。どうやって人を遠隔操作で殺して証拠を残さなかったのか…」
「結城君。『どうやって』じゃなくて『なんで』だよ」
都はにっこり笑った。
「推理する時は、自分で考えても何もならないから、とにかく目の前に見えるものをチェックするんだよ」
「おう」
と結城が辺りを見回す。
「そういえば、部屋が暑いな。ヒーターかけすぎだろう。これ犯人捕まったら猪口さん電気代を…」
結城はふとヒーターを見つめた。
「やべぇ、都…俺トリックがわかっちまった」
結城は呆然とした声で言った。都は「おおおお」と目を輝かせる。
「簡単なトリックだよ。ヒントは高本の芸術作品がなぜこのデブの村長を持ち上げる形で殺すような仕掛けがなされていたのか。そしてなんで犯人はヒーターをつけっぱなしにしていたのか…。そしてここにもう一つガジェットが加わる。そのガジェットとは…こいつだ」
結城は一度外に出て倉庫の外に積もっていた雪をひとつかみにして都に見せつける。
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「犯人が利用したもう一つのガジェットって言うのは雪だ!」
結城は都に雪玉を提示した。都はきょとんとして目をぱちくりさせる。だが結城は話を続ける。
「雪をブロックが固定された木枠の下に積んでいたんだ。そいつが温熱で溶けると少しずつブロックが固定された木枠が下に下がっていき、そしてそれにつれて村長の体が持ち上がってじわじわ刺さっていくというトリックだ。犯人はじわじわ雪を溶かしていくためにヒーターを…」
「それなんだけどね」都が話を遮る。
「私たちが村長を発見したとき、村長さんが1時間とか2時間とか前に死んでいたとしたら、それもありなんだと思う」
都は思案しながら続ける。
「だけど私たちが村長さんを発見したとき、村長さんはまだ生きていたんだよ」
都は結城を見た。
「という事は村長に日本刀が突き刺さった直後に溶けた雪がちょっとは残っているはずなんだよ。いくら、こんなにヒーターガンガンやっているからって、結城君が手に持っている雪玉。まだちょっとは溶け残っているよね」
少女探偵は雪玉を結城から手に取る。
「トリックに使ったって事は物凄い量の雪が使われているはずなんだよ。村長を吊り上げるブロックを支えきれなくなるとしても、雪は残っていないといけないし、倉庫の床がビショビショになっていないとおかしいはずだよね」
都がじーっと床を見るのを結城は「た、確かに…」と同意した。
「って事は雪とか氷系のトリックではないって事か」
結城は考え込んだ。
「なんか気持ち悪い」都が鼻をつまんでフラフラしている。
「なんだ。お前、血とか死体とかは平気じゃないのか」と結城。都は首を振った。
「ううん、うんちの匂い。さっき食べさせてもらった豚汁を吐いちゃいそうだよ」
「バカ野郎。殺人現場で吐くな。全く果樹園だから堆肥を使っているんだろうぜ」
結城が都を支えて外に出ようとするが
「いいえ、果樹園の堆肥ではありませんよ、お嬢」と陳川警部が説明した。
「村長の糞尿だと思われます。村長は脱糞をしていまして。おそらく恐怖と激痛によるものだと思います」
陳川警部は言った。都はテープで表現された死体のシルエットを見つめた。
「となると、あれは関係ないのか」
結城は倉庫にあるトロフネと大量の袋を見つめた。
「あれはコンクリートだよ」猪口周は腕組をして言った。
「ジョイフルで買って来たんだ。駐車場を作ってゲストに収穫体験させようと思ってな」
「ほうほう」
都は目をぱちくりさせて袋をツンツンする。
「少し助手席で休んでいなさい」
と猪口周の家の前で有馬弘平は花を軽トラの助手席に座らせると、オーバーのポケットから手帳を取り出し「美しい、美しい現場だったな」と眼鏡を反射させながら村長の死体をペンで書き始めた。
「君の墓に備えるよ。高本君」有馬弘平の顔が不気味に笑う。
「おう、俺たちはこれから役場で警察に聴取受けてくるが、勝馬は大丈夫か」
と結城が猪口周の家の居間のソファーでひっくり返っている勝馬を見ている。
「あんなものを見ちゃったらね」と瑠奈がため息をつく。
「まぁゆっくり休んでいけや。後で温泉にでも連れて行ってやるよ」
猪口周はそう言って警察が待つ外に出て行こうとする。
「あ、あれ」
ふと瑠奈がテーブルの上にある何か木枠とロープで構成されたオブジェみたいなものを指さす。
「殺人現場にあったのと同じブツだな」猪口は言った。
「高本君がくれた5分の1のミニチュアモデルだ。これの表現する意味を彼に問うたんだが、謎解きはご自身でやった方が面白いって、教えてくれなかったよ」
と猪口周は寂しげに笑った。
役場-。
「本当に村長殺されたんだ」江川美雪(24)スキー選手は煙草をふかしながら応接室で天井を見た。
「そ、そんな」ご当地アイドル村島音子(18)は声を震わせる。
「まぁそういうわけですて。皆さんにも捜査にご協力いただきたいんです。今日の15時30分ごろ、皆さんはどこで何をしていましたか」
陳川警部は一同に聞く。
「私は音子ちゃんと、ずっと、この応接室のテレビで相棒を見―てーいーまーしーたー。ねー」
と江川は村島音子に確認する。
「はい、私たちはずっとここで相棒の再放送を見ていました。確かメガネザルの回だったと思います」
「私とクラスキー顧問も一緒でした」と寺吉登紀子村議が説明する。
「はい、私たちは村長を待っていたんですからー」とダニウル・クラスキー顧問が首を振る。
「わ、私はずっと仕事で役場の窓口を監督していました。職員が証言してくれるはずです」
と灰谷三郎(44)が神経質そうに汗をぬぐっている。
「となるとこの部屋にいる方のうち」陳川警部は部屋を見回す。
「村長秘書の谷戸磯六さん。貴方だけがアリバイがないのですね」
「や、やだなぁ」
アメリカ仕込みの強者を気取りつつ、根は臆病なサングラスの男が首を振る。
「ねぇ、村長っていつから行方不明になっていたの」
と突然陳川の背後から声が聞こえた。小柄な女子高生探偵が陳川に聞く。一同が全員都を向く。
「み、都ちゃん」とおどおどする小柄な有馬花。
「確かにそうだな」結城はフォローした。
「この事件、あの倉庫の密室で何かしらの自動殺人トリックが使用された可能性はあるんだ。となると村長が拉致された時間を特定した方がいいと思うぞ」
と陳川に言う結城。陳川は「確かに」と考え込んだ。
「でもそれって、すごく難しいと思うよー」とメイクをする江川美雪。
「村長、女遊び大好きで、3日くらい前から出かけていて、どこで何をしていたかなんて誰も知らないんだから」
睫を手入れする江川美雪。
「た、確かに。村長はそれを理由に3日程度村を空ける事がありました。その間どこで何をしていたのかは聞くなと、きつく言われていましたので」
と灰谷三郎がハンカチで汗を拭きながら神経質な表情を見せる。
「つまり、村長が拉致された時間帯のアリバイ証明は不可能」結城が呟いた。
「わ、私はここ数日役場に泊まり込んで今日のイベントの準備と条例の会議を並行してやっていたわ。ここ24時間は完璧なアリバイがあるわよ」
と寺吉登紀子が悲鳴に近い声を上げる。
「でもその前にはアリバイはないですよね。72時間全てのアリバイを証明する事は」
「そ、それは」寺吉は言葉を濁す。
「さて」猪口周は立ち上がった。
「俺はそろそろ家に帰るぜ。準備があるんでな」
「準備とは」と陳川が聞くと、猪口はにやりと笑った。
「村長選挙の準備だよ」
「な、なんですって?」と寺吉登紀子が悲鳴に近い声を上げる。
「何を考えているんですか。喪に服すべき時に」とクラスキーが抗議する。
「あんな奴の喪に何で服さないといけないんだ。クラファンで資金を集めているんだ。お前らのクソみたいな条例を必ずぶっ潰せという神の啓示だよ」
猪口はゾッとするような笑みを浮かべた。
「神に感謝するぜ。今回村長を死なせてくれた神にな」
笑いながら猪口は部屋を出て行った。
加藤アキコは吹雪の中にいた。とうとう1人目の敵を討った。あの村長に死罰を与えてやった。だがまだ殺人は終わらない。まだ殺人劇は始まったばかりなのだ。加藤アキコという殺人者は般若の仮面をかぶった。
役場の倉庫前。クラスキーはある人物に呼び出されていた。彼は思案していた。
(Przestępcą musi być Inoguchi. Musiał być właścicielem sadu na miejscu morderstwa.【犯人は猪口に違いない。殺人現場の果樹園を保有していたあの男に違いないんだ】)
(Może motywem była uraza do odwołania. Nie ma to nic wspólnego ze sprawą Takamoto sprzed roku. Ma to związek.【やはり動機はリコールを恨んでの事だろう。まさか1年前の高本の件が関係しているわけがない。関係している訳が】)
そう自分に言い聞かせようとするクラスキーの背後に般若が立っていた。
「ふえええええ」
役場から車で20分程の銭湯に都は首まで浸かっていた。
「日本人は温泉じゃのう」
「お疲れ様」と笑顔の瑠奈。
「それでさぁ。都、瑠奈」千尋がじっと都を見た。
「北谷勝馬って、うざくない?」
胸の話目当てで風呂で聞き耳立てていた勝馬が男風呂でΣ(゚д゚lll)ガーンとなる。
都も首まで湯につかりながらじとーっと千尋を見つめる。
「うざいよね。教室で目を開けたまま居眠りするところとか、クリキントン大統領をへリントン大統領と間違えるとか、私たちを体を張って守ろうとしたところとか」
(え、そこは褒めているんじゃないの)と瑠奈が突っ込みを入れる。
男風呂で勝馬はΣ(゚д゚lll)ガーンΣ(゚д゚lll)ガーンΣ(゚д゚lll)ガーンと真っ青になる。
「以上! 聞き耳立てている勝馬君へのドッキリでした」千尋が大声で言うと、勝馬が「あぎゃー」と叫ぶ声とお湯がざっばーんする音が聞こえて来た。
「ははは、面白い」と千尋。
「バカだな―、こいつ」と結城が呆れたように風呂で助清する勝馬を見た。その時ガラスドアが開いた。中に入ってきたのはガタイのいい谷戸磯六とひょろひょろした灰谷三郎の2人だった。
「ははは、あの勝馬って奴は泣いて俺に謝ってきたんだ」
そうイキってドン引きする灰谷に話していた谷戸は、勝馬を見て「げぇっ、勝馬!」と声を上げた。
そして4人は湯に入った。会話がない。
「うわぁ、やべぇ」薮原千尋が脱衣所の体重計にバスタオルを撒いて呻いた。
「増えてる」
「当り前だよ」瑠奈は苦笑した。
「売れ残りのクリスマスケーキ大量に買って、ドカ食いするから」
「うえええええん」シャツにスキニー着用の瑠奈に千尋が抱き着く。
「よしよし」都がハンカチで涙を拭いてやりながら、ふと体重計の方を見た。そして目をぱちくりさせる。
「も、もしかして…」都が呟いた。
「お待たせしてすいません」
と結城と勝馬が頭を下げつつ、銭湯の待合室のソファーに座る有馬夫妻に声をかける。
「お2人も入ればよろしいのに」
「いえ、私たちは」と有馬弘平は手を振った。
「女子はもう少し遅くなると思います」結城が申し訳なさそうにしていると突然都が温泉の暖簾から飛び出してきた。
「うわっ、早いな」結城がぶったまげると、都は「結城君。私、トリックがわかっちゃったかもしれない」と目を見開いて手をパタパタさせた。
「な、なんだって!」結城が素っ頓狂な声を上げた。
その時、都の電話が鳴った。
「あ、陳川警部だ」都が耳にスマホを当てる。「もしもし」
「お、お嬢…すいません」スマホに出た陳川の声は震えていた。
「大丈夫? 陳川警部」都が心配そうな声で聴く。陳川はゆっくりとしゃべりだした。
「第2の犠牲者です。ポーランド人顧問のクラスキーが、役場の倉庫で殺されました」
都の目が驚愕に光った。
業者の人間が腰を抜かしている横で、陳川警部はスマホを片手に、倉庫の中で両手両足を木枠に固定されたダニウル・クラスキーが腹から背中に日本刀で一突きにされてうつぶせに倒れて血だまりに沈んでいるのを見ながら言った。
「今回の死体も、高本作品と一緒に発見されました」