少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

早贄村殺人事件❶

 

1

 

加藤アキコは、暗室の中で声を震わせていた。

「絶対に…絶対に許さない。私の大切な人を殺したあいつらに復讐の鉄槌を」

 

 

 

 冬のモーグル会場。

「今日は早贄村モーグル競技場開設式にお越しくださいましてありがとうございます」

村議の寺吉登紀子(54)がマイクを取り、落ち着いた穏やかな表情で挨拶する。

「このモーグル会場は、先日韓国で開催されました当地出身の選手、江川美雪選手を記念して開設するもので、福島県阿武隈地域の競技志願者に機会を与える新しいスポーツ青年プロジェクトの一環として開設するものです」

寺吉の横でモーグル女子選手、江川美雪(24)がスキーウェア姿で手を振っている。

「本日は村長が都合がつかずに挨拶は私が代行しておりますが、この施設が村の活性化につながる事は間違いありません。それが気に入らない人たちもいるようですが」

寺吉登紀子が意地悪く笑うと、「なんだと!」とハゲ頭の男性、猪口周(38)が歯ぎしりする。

「嘘だぁ」と薮原千尋が結城を振り返る。

「あの村長デブすぎて出てこれないんだよ。だって体重が250㎏もあるからね」

千尋はデッキブラシ片手に言った。

「まぁ別に村長が挨拶しようがしなかろうがどうでもいいんだが」

結城は呆然と丘陵を利用したモーグルの会場を見上げた。そして突っ込んだ。

「俺たちが参加するのって、確かカーリングだったよな」

全員デッキブラシ片手に呆然と競技場を見上げる。

 選手が華麗にコザックを決めるのを結城は呆然と見つめる。選手がゴールすると黄色いジャケットを着用したおばちゃんたちが拍手している。

カーリングって、空中ジャンプとかってしたっけ」とスキーフェア姿の高野瑠奈。

勝馬君…どういう事!」

と薮原千尋勝馬の胸ぐらをつかんで振り回す。

「い、いや…うちのばあちゃんが言っていたんですよ。親戚が嫁いだ村で冬のスポーツ大会が開かれるけど、参加人数が集まらないから友達といってきてくれって」

カーリングって言ったのは勝馬君じゃない!」

千尋

「だって、ばあちゃん言っていたんですよ。『白い場所の上でモシャモシャやってポーンする競技だ』って。それでカーリングかって確かめたら、『そうじゃそうじゃカーリングじゃ』って言ったんです」

次の瞬間ドゴッという音とともに千尋がグーパンチして勝馬はうつぶせに雪の中に沈んだ。

「確かめなかった私たちが馬鹿だった」

瑠奈はデッキブラシ片手にため息をついた。その前で別の選手がコースの上でモシャモシャやってジャンプ台でコーンする。

「もうすぐ順番来ちゃうぞ」結城が選手を見ながら呆然と見る。

「や、やるだけやってみる?」と千尋

「どうせ一回戦敗退で暇になるから近くの丘とかでスキーやろうって事でスキーセットは持っているし」

一切経験がなく今回が初めてで出来る競技かこれ」と結城は千尋を見る。

「そういえば都は?」瑠奈があたりを見回す。

その時放送が鳴った。

「次はーーー💛茨城県常総高校代表。島都さんでーーーすにゃ」

マイクを片手にスタートラインで音頭を取っているのは猫耳にタイツ姿のご当地アイドル村島音子(18)だった。

「いえーい」と小柄な島都がデッキブラシ二刀流でみんなにノリノリで手を振っている。お母さんが作ってくれた特注のウサギの手袋が都だと一発でわかる。

「どうやら何かのコスプレみたいだにゃ。島都さんはどんなパフォーマンスを見せてくれるのかにゃ💛」

とアナウンスが流れている。

カーリングと間違えているのか」結城は呆然とする。

「勿論!」都は音子に向かってキリッする。

「ここは王道を行く、モシャモシャやってポーンだよ」

「みやこおおおおおおお、危ないぞ。降りてこおおおおい」

「早まらないでぇえええ」と結城と瑠奈が手を振る。

「いえーい」都は嬉しそうにピースする。

「そんじゃ、いくよーーーーー」

そういうと都はデッキブラシ2つをピース以外の4本の指で握りしめてかい出すように滑り出した。ジャンプ台で一瞬結城たちの視界から消えたと思ったら、次の瞬間都は雪だるまになってポーンしていた。結城も瑠奈も千尋勝馬チベットスナギツネの表情でそれを見ている。雪玉は「わー」と悲鳴を上げながら4人の前をボヨンボヨンバウンドしながら通り過ぎて行った。

 

「ぶええええええええ」都は日本家屋の隣のトトロに出てきそうなお風呂に体を沈めていた。

「大丈夫? 都」

瑠奈と千尋が都を監視する。

 日本家屋の囲炉裏のある部屋では

「本当に助けていただきありがとうございました」

と結城が日本家屋の主人有馬弘平(26)という眼鏡の髭の農業従事者に頭を下げた。

「いえいえ。うちの畑に雪だるまが転がってきた時には何事かと思いましたよ」

と笑った。

「これはなかなかの絵ですな」

勝馬が部屋に所狭しと並んでいるヌード画のおっぱいを見てよだれを垂らしている。

「有馬さんは画家なんですか」

と結城が声を上げた。

「いえ、本業は農業なんです。絵はなかなか売れなくてね」

有馬は頭をカキカキ苦笑する。

「あの子がお風呂から上がったら、牡丹鍋を一緒に食べましょう」

と有馬花(24歳)という小柄なエプロンの少女みたいな女性が笑顔で言う。

牡丹鍋って」

勝馬がよだれを垂らす。

「この人が猟銃で仕留めた奴ですよ」

と有馬夫人は笑う。「これを食べれば芯からぽかぽか温まります」

「いいですねーーーー」勝馬は幸せそうな表情だ。その時だった。インターフォンが鳴った。

「あら、誰かしら」

と有馬花が玄関先に出てきた。

「こんばんはー」

スライドドアの前でにやにや笑いに来たのは、背広の上にコートを着用した髭面のマッチョなサングラス男性だった。背後には貧相な眼鏡の男が控えている。

「あ、貴方は谷戸さん」と花が後ずさりする。

「その節はどうも」とマッチョサングラスの谷戸磯六(31)が無表情で言った。

「村長から直々に話があるという事で、お迎えに上がりました」

「何も話すことはありません! 帰ってください!」有馬花が悲鳴に近い声を上げる。

「そういうわけにはいかないんですよ」

谷戸が笑うと、突然花の前に紙切れが提示された。それを見た花が真っ青になる。

「や、谷戸さん…これ」

「婚姻届けですよ」谷戸はニヤッと笑う。

「そ、そんなの出した覚えはありません。離婚届だって出してないです」

「貴方は出したんですよ。ねぇ」谷戸は貧相な眼鏡、役場職員灰谷三郎(44)を振り返る。灰谷は下を向きながらぶつぶつ話す。

「有馬花さんは半年前に有馬弘平さんとの離婚届を提出しています」灰谷は声を震わせていた。

「そして今日、有馬花さんは村長との結婚届を提出されました」と谷戸はにっこり笑った。

「村長がお呼びです」

谷戸が花の手を掴もうとする。

「やめてください! 私そんな届けなんか出していません!」

「やめないか」

突然玄関先に飛び出した夫の有馬弘平が谷戸の腕に追いすがるが、谷戸は彼を突き飛ばした。

「貴方!」と花が叫ぶ。

「あんまり抵抗すると高本さんのようになりますよ」

谷戸の声が冷徹になる。

「ま、まさか」フラフラ立ち上がった有馬が叫んだ。

「高本さんはあんたたちが」

その時だった。勝馬が家の中から「ようゴリラ野郎。彼女からばっちい手を放しな」と声を上げる。

「なんか穏やかじゃないな。とにかく、嫌がる女性をどこかに連れて行こうとするのは、立派な犯罪だぜ」

「村長は彼女の夫なんだ。夫が妻を連れ戻して何が悪い」と谷戸のサングラスが光る。

「嫌がる女性をどこかに連れていく奴に、話す言葉などない」と勝馬

「坊や。俺はアメリカ軍で訓練を受けているんだぜ」

谷戸が花から手を放す。「You got me mad now.」

 だが次の瞬間、勝馬の頭突きが谷戸の顔面に炸裂し、サングラスがバキバキに飛んで間抜けな表情の谷戸が仰向けに伸びた。

「誰が歪みねえって?」勝馬は馬鹿を見下ろす。灰谷は「ひいいっ」と悲鳴を上げた。結城は彼を一瞥しながら「こいつを連れて帰れ」と宣告した。役場の自動車が走り去っていくのを見ながら結城は「本当に役場の人間ぽいな」と頭をカキカキした。

「あ、ありがとうございます」と花が勝馬と結城に小動物みたいに頭を下げた。

「当り前をしただけですよ」とバラを咥えて格好つける勝馬。結城は(それいつも携帯しているのか)と突っ込みを入れた。

「それにしても穏やかな話ではありませんね。高本さんって人が、なんかあいつらに殺されたみたいな話をしていたじゃないですか」

と結城が有馬弘平を助け起こしながら言った。

「その、誰なのですか。高本さんって」

「1年前に亡くなった方です」有馬花が沈んだ声で言う。

「この村で婚約者と2人で暮らしていた方です。とても綺麗な女性と暮らしていたのですが、そんな彼女に村長が横恋慕して…そして高本さんはある日アルバイト先の農園で首を吊って…」

有馬花は玄関に置いてあった写真盾を見せた。どこかの温泉宿で撮影したのだろう。有馬夫妻と映っているのはイケメンの男性と長髪の綺麗な女性で、2人ともとても幸せそうな表情で浴衣姿で料理を前に笑っている。

「やっぱり高本さんはあいつらが殺したんだ! あいつらが!」

有馬弘平は吐き捨てるように言った。

「ちょっと待ってください。その女性は…」

「行方不明です…」

花は声を震わせていた。そして泣きながら笑顔で

「加藤アキコさんって言う方なんですがこの村に嫁いだばかりの私によくしてくれて、こうして一緒に温泉に行って裸の付き合いもした…とてもいい子だったんです。どこにいるんだろう…」

と悲しく笑った。

「あの」

高野瑠奈が2人を見ながら言った。「良かったら今日この家に泊まっていいですか。寝袋は持っているので空いている部屋を貸していただければ」

「おいおい、高野」

結城が瑠奈の決意の表情を見た。瑠奈の後ろを見ると1人の女子高校生探偵が考え込むように思案している。結城はため息をついた。

「ふつつかものではございますが、まぁ、ボディーガードとして役立てていただければ…ね」

結城は苦笑しながら有馬夫妻を見る。

 

 加藤アキコは雪原を歩いていた。彼女は復讐の為にこの村にやってきていたのだ。愛する人間を殺したあいつらに復讐をするために。殺人計画は既に完成している。あとは実行に移すのみ、必ず、全員必ず殺してやる…。殺人計画を練り上げたその人物は般若の仮面を外した。女の顔が現れる。その顔は…。そう、彼女は結城たちが有馬夫妻の部屋で見た。高本の写真に映り込んでいた人物だった。

 

2

 

「お、お嬢ではありませんか。お久しぶりです。はい、はい…ああ、この事件なら俺が丸暴にいたころに知り合いの警部が担当していた事件です」

福島県警の陳川雅史が県警本部のオフィスでヤクザサングラスに組長先生スタイルで電話に向かってぺこぺこしている。そしてファイルを片手に

「1年前の事件ですが、死亡したのは高本高春、30歳。本業は農業アルバイトだったようですが、芸術家志望で、村で木工細工を作って、それを美術展覧会に出品していたようです。死因は首吊りによる警部圧迫。当日は雨でゲソ痕も滅茶苦茶になっており、結局自殺という判断だったようです。あの、お嬢…どういう経緯でこの事件を調べているんですか」

とサングラスの髭もじゃ警部は強面をでれさせつつ、お嬢=女子高生探偵と電話をしている。

「芸術家の人にお風呂に入れてもらったお礼に、事件をちょっと調べているんだよ」

と都。

「げ、芸術家…ちょっと待ってください。それって」

陳川警部は課長机で真っ青になる。「お化けにお風呂に入れてもらって、そのお礼に事件を解決してあげているという事ですか」

「ほえ」都が有馬夫妻の家の前で目をぱちくりする。

「まさか、幽霊が、あれは自殺じゃないって…」ガクブルする陳川に「うーん。そういうわけじゃないんだけど、あの事件で何か怪しい事はなかったの?」

「い、いえ。自殺事件が発生したとき、村人で動機がありそうな人間全員にアリバイがあったんですから。村によるアトリエ支援事業で村長や村議、役場の関係者を警察は当たったんですがね。全員アリバイがあったんです。役場で全員集まって会議をしていたって…。後もう一人、被害者の婚約者と名乗る女性が事件直後に失踪していたというので怪しいと当時の警察は思ったのですが、彼女にはアリバイがあったんです。被害者の死亡推定時刻に郡山中心部の複数の防犯カメラに映り込んでいた事が判明していました。これは被害者の自宅から彼女が郡山の行きつけの美容院を利用していた事が利用カードから判明し、そこから確認されたんですがね」

と陳川。

「そういうわけで関係者のアリバイが証明されたため自殺であると判明したわけです」

「うん、うん、ありがとう。じゃあね。陳川警部」

都はスマホを切った。

「何か情報はあったのか」と都の横で結城が聞く。

「ううん。この加藤アキコって人の本名を誰も知らないって事くらいかな。でも高本さんの死亡推定時刻にはアリバイがあったみたい」

「アキコさんが高本さんを殺したなんて、そんなことは絶対にないです」

有馬花が不安そうに都に目を閉じて告げる。

「でもこれ凄く幸せそうな写真だよ」

千尋は玄関の写真たてを見る。

「そうだよね。これが演技で高本さんを殺す目的で近づいたとはちょっと思えないかな」

と瑠奈が悲し気に写真たてを見つめる。

「い、今警察に電話していたようですが」

と有馬弘平が若干驚いた表情で玄関先の都を見る。

「この小さい女。ああ見えて名探偵なんですよ。信じられないでしょうがいくつも殺人事件を解決していましてね」と結城が説明する。

「はー」有馬は感心したように呻く。

「で、どうする。都」結城の言葉に「ほえ」と目をぱちくりさせる都。

「事件現場見に行った方がいいんじゃないか」と結城に提案され、都は目を見開いて「おおお、結城君、頭いい!」と結城にピンポンした。

「ははは、これでも名探偵なんです」

と負債を見回す結城。

 

 雪の里山道路を軽トラックが走っている。

「ラッキー、快適快適!」と千尋が運転席でグッして喜ぶ間に、軽トラの荷台で瑠奈と勝馬と結城と都と花がペンギンみたいに蹲っている。

「あれが役場ですよ」

花が沈んだ声で言った。

「信じられない村役場だな。-世界一女性に優しい村―。冗談だろう。村長が権力を使って無理やり女性と結婚しようとする村だなんて」結城が履き捨てるように言うと、

突然軽トラが役場前の交差点で停車した。

「やぁやぁ、これはこれは、有馬さんではありませんかーーー」とイントネーションがおかしい日本語を喋る青い目の白人が対向車のRV車から顔を出した。

「おや、こんな可愛い女の子を連れてデートデスカ。そうか、奥さんと離婚するから、新しい女の子を見つけたんですね。でも未成年に手を出したらダメですよ」

下品な白人、ポーランド人ダニウル・クラスキー(53)がヒヒっと笑っている。

「そういえば村長を見かけませんでしたか。あんな大きな村長…なかなか見失うのも難しいノニー」

「知りません」と有馬弘平はそう言い、軽トラを発車させた。

「なんですか、あいつ」

勝馬が荷台から対向車のRVのケツを見ながら呻く。有馬花は「ポーランドで市長を務めた事もある方だそうです」と説明する。

「この村で世界一女性に優しい村プロジェクトを推進するためにわざわざポーランドから村長が招聘した方だとか」

と花は落ち込んだ声を出す。

「あれのどこが女性を大切に」結城はため息をついた。

 

「クラスキー君」

役場の村長執務室で村議の寺吉登紀子が大柄な外人を呼び止める。

「村長見ませんでした」

「女あさりじゃないですか。村長、3日ほど留守にすると言って、女遊びをしに郡山とかに言っているではありませんかー」

とクラスキーは首を大袈裟に振る。

「でももう帰っていないとおかしいのよ。午後から村長と私で作る日本で初めての画期的な女性の人権を守る条例案に関する会議とプロモーションビデオの撮影があるというのに…」

と寺吉はイライラと歩き回っていた。

「村長、まだぁ」と横柄な態度で声をかける江川美雪。それを島村音子が「すぐいらっしゃいますよ。雪で少し遅れているだけです」慌ててなだめる

「わかっていると思うけどぉ。私が平昌でメダルとったからこそ出来るプロジェクトなんだからね。本当はこんなの出たくないんだけどぉ。所属先の会社の人が出るっていーうーかーらー」

とどっと役場の執務室のソファーに座る江川。

「今もう一度連絡してみるから、もう少し待っているのよ」

寺吉登紀子はそう言ってドアを閉めて廊下に出て爪を噛みしめた。

「クソガキ。条例成立したらお前を燃やしてやる」

 

「こんにちはー」と有馬花が一軒の日本家屋に向かって呼びかけた。中から出てきたのはスキンヘッドの猪口周という人相の悪い男だったが、花を見ると「花ちゃん、有馬君も。どうしたんだい」と人懐っこそうに後ろの高校生を見回した。

「あの、この方は高本君の作品に感銘を受けた高校生たちで、その手を合わせたいと」

と花が機転を利かせてアセアセするが、猪口は笑顔で応対した。

「おお、いいとも。あの才能を惜しんでくれる子供がいてくれるとは、彼も喜ぶ」

倉庫の前の果樹園は冬の間は雪が積もり放題だった。

「来るとわかっていれば雪かきぐらいはしたんだが」

猪口周は雪を蹴っ飛ばして踏み固めてくれながら、

「まぁ、1年も前の事だし、証拠も何も残っていないと思うが、まぁ、現場検証でも何でもしてくれ給えよ」と言った。

「猪口さん」と有馬弘平が声を出すと、猪口は「俺はこれでもジャーナリストを水戸でやっていたんだ。君の事も知っているつもりだ」と島都を見た。

「帰る時は一言声をかけてくれ」猪口はそう言って母屋に帰ろうとした。その時だった。

「ぐほっ」

突然不気味な声がした。同時にぐちゃっと音がする。

「な、なんだ今の」

結城があたりを見回す。

「あの倉庫だよ」

都は果樹園の反対側、自分から5メートル離れたプレハブの倉庫を指さす。

「待て」結城は近くにあった棒切れを手にすると、倉庫のドアの横に体を寄せる。勝馬が女の子や有馬夫妻を下がらせ、盾になる位置で身構える。結城がプレハブのスライドドアに手をかけたときだった。レーンの隙間から赤い液体が流れだしているのが見えた。

「嘘だろう…」

結城は冷や汗を流しながら思いっきりドアをスライドさせた。温かい空気がむあっと都たちに触れる。

「きゃぁっ!」「くっ」

瑠奈と千尋が目を背け、有馬花が有馬弘平に抱きしめられながら甲高い悲鳴を上げた。

 凄惨な光景だった。コンクリートブロックをおもりにする形で木枠にぐるぐる巻きに固定された人間が持ち上げられ、プレハブ小屋の梁に固定された日本刀に下から突き刺さっていた。その状態でモズの早贄みたいになったぐるぐる巻きの芋虫状態の人間がびくんびくんと痙攣し「が、ぎゃぁ。ががが」と声を上げていたのである。倉庫の内部は血の海だった。電気ヒーターが真っ赤に作動している。

「そ、村長」

有馬花が悲鳴に近い声を上げた。「なんだと」

結城は目を飛び出さんばかりにして猿轡を噛みしめている男を見る。

「糞。どうやって助けりゃ」

「むぐおおおお」

と村長は声を震わせると、がくりと目玉を飛び出され涙を流しながら無反応になった。結城が脈を測り、そして首を振る。

「結城君」

都はプレハブ倉庫の室内を見回した。

「この倉庫を見てみて。この人が日本刀で刺されて声を出してから、私たちは5秒以内にはこの小屋の入口を見ていた。そしてこの部屋の中には私たちが注目していたスライドドア以外には、窓もドアも何もない…って事はこの倉庫の中に犯人がいなくちゃいけないはずなんだよ。でも」

女子高生探偵は倉庫の周りを見回す。

「おいおい、ちょっと待て。これはつまり密室殺人って事か」

結城が小柄な女子高校生を見つめた。

「うん」都は頷いた。

「それも犯人はたった5秒の間にこの人を殺害してこの部屋の中から消えちゃったんだよ」

その時だった。突然猪口周が「あひゃひゃひゃひゃ」と笑いだした。

「これは高本君の作品だ! あいつは復讐の為に帰って来たんだよおぉおおおお」

都はそれをじっと見つめた。