少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

首狩りトンネル殺人事件 導入編

首狩りトンネル殺人事件 導入編 

 

 

 

 

1 

 

【容疑者】 

・巨摩夏美(16):高校1 

・生田今日子(15):高校1 

・羽根川宣(15):高校1 

・太田一郎(16):高校1 

・有藤英恵(41):民宿経営者 

・高野瑠奈(16):高校1年生 

・山本健也(27):番組スタッフ。カメラマン。 

・須藤伸(45):番組スタッフ。AD。 

・紀藤浩二(44):ディレクター 

・浜口萌(26):タレント 

 

 黒髪つややかな美人女子高校生高野瑠奈はバスの車内で友達の有藤青菜と一番後ろの修学旅行席でお喋りしていた。 

「でさぁ、夏美ちゃんが調子に乗って池に飛び込んで…太田君と泥団子みたいになっててさぁ」 

お喋りしながら瑠奈は大きな疑問を感じていた。だがこの疑問を口にしたらどうなるかが怖くて、瑠奈は何も言えなかった。 

「瑠奈…次の停留所で降りるんでしょう」 

「え、あ…そうだよね」 

瑠奈がぎこちない笑顔で青菜を見る。元気いっぱいの黒髪ポニーテールの少女はふっと悲しそうな顔で瑠奈を見る。 

「お願い…お願い止めて…」 

「青菜、何を止めるの? 聞こえないよ…」 

瑠奈が大声を出すが、青菜の姿はぼやけて、瑠奈は次の瞬間自室のベッドで目を覚ました。動悸激しい胸を押さえて、部屋を見渡す。スマホの光ごしに時計を見るとまだ3時だった。何気なしにTwitterを見てみる。 

 トレンドに「浜口萌死去」「他殺」「トンネル」と出ていた。 

 瑠奈はがばっと起き上がった。この人物は瑠奈が知っている人物だった。3時の時間がこの人物に電話しようか迷わせた。とにかく落ち着いてNHKのサイトに飛ぶ。スマホ動画では女性アナの緊迫の声が聞こえてくる。 

―タレントの浜口萌さんの遺体が福島県六角市のJRが保有する未使用トンネルで発見されました。浜口さんは新作映画『太陽によろしくね』のロケ地となった六角村にPVの撮影の為に訪れており、首を鋭利な刃物で切られている事から、警察は殺人事件とみて捜査しています。なお先週には同映画の強力な後押しを行っていた森本達也県議も水死体で発見されており、警察は両事件の関連性を調べています― 

 

「おおおお、青菜ちゃんの夢を見たんだ」 

探検部の部室で瑠奈の友人で幼馴染の島都が目をぱちくりさせる。 

「それで、都。もしかしておなじ夢を見てたってことない」 

瑠奈に意味深に聞かれて、都は「うーん」と天井を見た。 

「よく覚えてないな」 

結城竜はそんな都を見た。ずっと小柄なショートヘアの少女は先日殺害された母親を呼びながらここの所毎日うなされている。結城の家で秋菜の部屋に居候しているから、秋菜がそれとなく教えてくれるのだ。 

「そっか。なんか青菜、何かを止めて欲しそうな声を出していたんだけどな。浜口萌さんが殺された事件のニュースもあったし」 

瑠奈がテスト勉強の教科書を取り出そうとするのを切羽詰まった表情の都が身を乗り出して遮った。 

「え、そうなの!」 

「知らなかったの? 都」 

原千尋が素っ頓狂な声を上げた。 

「うちのクラスはみんなびっくりしていたけど、都のクラスは」 

ここまで言って、千尋は結城に手を遮られた。結城は小声で言った。 

「多分クラスの気を使っているんだ、都に。最近は都ニュースもまともに見れないくらい死ぬとか殺すとかが苦手でな」 

「ごめん、都…凄く気になってさ」 

瑠奈が都を真剣な表情で見た。都は小さくため息をついて真剣な表情で考え込んだ。 

「浜口さんはどこで殺されたの」 

「第一常盤トンネルの中で、刃物で首を切られていたみたい」 

瑠奈がニュースの話を伝える。 

「実は『太陽によろしくね』を強力に後押ししていた県議の森本って人も先週水死体で発見されていて、警察は関連していることも視野に入れているみたい」 

「ちょっと待って」 

原千尋が声を上げた。 

「『太陽によろしくね』に出てくるちっちゃなアホの子って…まさか」 

「そ、都。そして黒髪の女の子が私。林間学校の交流会で青菜たちと仲良くなってね。そのまま都と私で居座っちゃったわけ 

瑠奈が得意げに説明すると、 

「そうそう、そして青菜が病院に戻って青菜の民宿をお手伝いして、私と同じ釜の飯を食ったってわけよ」 

と元気な女の子の声が背後から聞こえてきた。都と瑠奈の目が見開かれる。 

「夏美ちゃん!」 

都の声に夏美ちゃんは「ちょりーす」と挨拶する。 

「瑠奈とはFacebookで話しているけど、都は最近音沙汰ないみたいだし、会いたくなって来ちゃったよ」 

夏美は笑った。 

「なつみちゅわあああん、私も会いたかったよ」 

都が抱き着き、すりすりする。 

「ほう、ここが探検部か」 

後ろからごつそうなゴリラ男が機嫌悪そうに結城やテスト勉強でグロッキーな勝馬を見る。 

「瑠奈の話だと随分いかがわしい本があるみたいじゃないか。まさかお前ら純粋な都ちゃんと瑠奈ちゃんにおかしなことをしようとしているわけじゃ」 

「ああ、いやらしい本ならここにあるよ」 

原千尋がバッグから雑誌を出す。 

「隠し立てはしないよ。この目で確かめてみて」 

千尋に渡された雑誌を見るゴリラは雑誌を見ると、その腐乱した内容に目を見開いた。そしてそのまま仰向けに倒れて痙攣した。 

「太田君も相変わらずだね」 

瑠奈はゴキみたいにひくついている太田一郎少年を見てクスリと笑った。 

「おーおー、凄いなぁ。今度うちの男子も餌食にしてよ。画像送るから」 

雑誌を見てからからと笑う巨摩夏美に、瑠奈は「やめなさい」と肩を持った。 

「実はちょいと都ちゃんに頼みたいことがあってタノモーしに来たんだ」 

太田が両手で拝んできたので、都はそれを牛久大仏ポーズで受けながら 

「太田君はどんな煩悩を抱えているのかな」 

とよしよしした。 

「浜口さんが殺された事件、あったろ」 

夏美はパイプ椅子にどっこいしょと座った。 

「私あの人そんなに好きじゃなかったんだけどさ。問題は犯人が青菜のお母さんって警察が疑っているらしいんだ。それでとうとう昨日逮捕されちゃったわけ」 

「なんで!」 

都と瑠奈ががたっとパイプ椅子から身を乗り出す。 

「それはこっちが知りたいよ」 

夏美は都と瑠奈に向かって身を乗り出した。 

「だから私はあのサングラスのアホそうな警部に言ってやったんだ。今すぐ私らが真犯人捕まえてやるから、ケツを洗って待ってろってな」 

「洗うのは首だと思うけど」 

と瑠奈。だが夏美は突っ込みを横に置いといて、 

「てなわけで…都の名推理でさ。あのアホ警部をぎゃふんと言わせえやってよ」 

ごろにゃんすりすり都にする夏美。 

 都は少し考えてから 

「わかった。青菜ちゃんのお母さんの無実は、私が絶対に証明するから」 

とうおおおおっと手を上げた。 

 

「それで、師匠と瑠奈さんは福島に」 

マンションの部屋で中学2年生の結城秋菜はため息をついた。 

「ああ、始発の特急ひたちでお行きなさったよ」 

結城はソファーで大きく伸びをする。 

「で、なんでお兄ちゃんは行かないの。てかなんで私を連れて行ってくれなかったの」 

「俺の判断だ」 

結城は背中を向けた。 

「俺やお前が行っちまうと、どうしてもメインが殺人事件の捜査になってしまう。だがあいつだってたまには昔の友達に会って、茨城であった事なんかさらっと忘れる時間も必要だろう」 

「心配じゃないの?」 

「心配だよ」 

結城はため息をついた。そしてふと思い出したように秋菜に聞いた。 

「なぁ、『太陽によろしくね』って知ってるか?」 

結城に聞かれると突然多感な妹の目に涙が浮かんでいる。 

「ううううっ、思い出させないでよバカ兄貴。24時間テレビでうっかり見ちゃって…凄くかわいそうなんだから」 

「女の子が病気で死ぬ話か?」 

「そう…子供のころ使われていないトンネルで秘密基地作っていた仲間の一人…テニスが好きな民宿の中学生の元気いっぱいの明るい女の子が病気でどんどん弱っていくんだけど、それでも最後まで笑顔でみんなを笑顔にして…ううっ 

「わかったわかった…」 

結城は秋菜の頭を撫でた。 

「あああ」 

ジョジョに出てきそうな困り顔をする結城。 

「心配だなぁ」 

 

 だが当の本人たちは元気だった。特急で散々騒いで下車した六角駅の駅舎改札前で 

「わぁ、都と瑠奈だ」 

と眼鏡の素朴な女の子が瞳を輝かせた。 

「わぁっ、今日子ちゃんだ」 

改札を通った都が生田今日子と抱き合ってぴょんぴょんする。それを腰に手を当てて夏美が優しく見守る。 

「どうだったかい。ゴリラ君。文明世界は」 

「探検部怖い」ゴリラ君は駅舎のベンチで蹲って都によしよしされている。 

「だろう。ゴリラは田舎に引っ込んで僕が常総高校に行けばよかったのだよ。そうすれば。僕のようなイケメンに女の子が」 

そうナルシストに磨きをかけている眼鏡のイケメン羽根川亘。 

「電車賃が2人分しかなくてさ。誰が行くかで散々揉めて、最後はあみだで決めたんだよ」 

夏美がため息をつく。 

「さて、太田君のお父さんが車を出してくれるみたいだから、まず青菜のお墓参りに行こう」 

と今日子が手を合わせると、都は 

「その前にちょっと行かなくちゃいけない場所があるんだよ」 

と手を上げた。 

 

 六角警察署—。 

 島都が会議室でじっとりとした目で陳川警部を見た。 

「アホなサングラスの警部さん。何で青菜ママが犯人なの」 

「!!」 

陳川警部は日頃お嬢と呼んで敬愛している女子高生探偵のジト目に参っていた。 

「ええとですね。民宿のオーナーの有藤英恵さん41歳はですね。被害者が当日宿泊していた民宿のオーナーでしてね。被害者の死亡推定時刻にアリバイがないんですよ」 

「それだけでよく逮捕したよね」 

ジト目の都。 

「い、いや逮捕容疑は殺人じゃないんですよ」 

陳川は言った。 

「彼女は民宿の被害者の部屋に盗聴器と隠しカメラを仕掛けていたんです。つまり県の迷惑防止条例違反。さらに業務上ですからどう見ても逮捕案件なんです。ほ、ほら、ラブホテルの部屋を盗撮したら当然捕まるでしょう」 

「でも」 

都の横で瑠奈がバンとテーブルを叩いた。 

「あのお母さんが当然そんな目的でそんな仕掛けをするわけない。それくらい捜査をしていればわかりますよね。これって別件逮捕って言うんじゃないですか」 

「いや、あのその…」 

委縮する陳川警部をドアからのぞき見しながら、 

「すげぇ。警察署で警部さんが取り調べされてるよ。さすが少女探偵島都」 

と太田が目を丸くした。 

「とにかく、わざわざお客さんを盗撮、盗聴するって事は、何かしら重要な理由があるって事なわけで。その直後に殺人事件でしょう。何かあるなとは当然疑うのが警察の仕事でありまして」 

と汗を拭きふきする陳川警部。 

「それで、お母さんはなんていってるの」 

都に聞かれて陳川はため息をついた。 

「カメラを仕掛けた事自体はすぐに認めました。ただ、殺しはしていないと」 

「なんで青菜ちゃんのお母さんは盗撮をしたの?」 

都が聞くと陳川は「い、いや…これは捜査の性質上お教えできないんですよ」 

と目をそらしながら陳川は言った。 

「ただ有藤さんを犯人にするには大きな障壁もありましてね。彼女には森本議員が殺された第一の事件では死亡推定時刻のアリバイが完璧なんですよ」 

「じゃぁ連続殺人なら青菜ママは犯人じゃないじゃん」 

と都。 

「その森本議員はどのように亡くなったんですか」 

「水死ですよ」 

と言った。 

「市街地の川に浮かんでいるのが発見されたんです。最も両手には縛られた跡があった事から、我々はすぐに他殺を疑いました。案の定胃の中からは大量に飲み込んだ水道水が検出され、死斑、その他の状況から見て風呂に閉じ込めてゆっくり蛇口をひねってじわじわ溺れさせている間にアリバイを作った可能性が極めて高い。逆説的に考えて第一の事件ではむしろアリバイがある方が怪しいんです…それと」 

陳川は都にビニールにパックされたカードを渡した。 

「第二の事件で死体に添えられていたブツです。『3番目の犠牲者は誰かな。首狩り』とワープロで打たれています。犯行声明です」 

陳川が見せたカードは底知れぬ悪意に満ちていた。 

 

2 

 

「つまり以上の理由から、警察はお母さんを犯人だと考えているわけですね」 

羽根川が眼鏡をずり上げながらお墓のある坂道を歩いていく。 

「でも絶対青菜のお母さんは犯人じゃないよ」 

今日子が眼鏡の中で力強い視線で前を見る。 

「だって青菜が教えてくれたじゃん。命の大切さ。生きているって事は素晴らしいんだって。その青菜のお母さんが青菜を悲しませるようなことをするわけないじゃん」 

「青菜ちゃん。本当にいつも笑顔だった」 

太田が花束片手にうつむいた。 

「自分が辛くて怖いはずなのに、私たちを心配させないようにいつも笑顔だったよね」 

瑠奈は目頭を押さえた。 

「せめて死ぬときは独りぼっちじゃないようにしてあげたかったな」 

「本当にいきなりだったからね」 

夏美が重い声で言った。 

 お墓は見晴らしのいい場所に石だけが置かれていた。かわいくて小さなお墓が丘の上から民宿と中学のころ秘密基地にしたトンネル、海が見える。 

「この景色も青菜は好きだったもんね」 

久美子は笑顔で笑った。羽根川が線香をたいてみんなでお墓に手を合わせる。終わった後で羽根川は「都君は何を願ったんだい」と聞いたので、都は答えた。 

「止めることだよ」 

と都は言った。 

「止める事?」 

夏美が怪訝な表情で聞いた。 

「そう、瑠奈ちんが青菜ちゃんの夢を見たんだよね。青菜ちゃんが何かを止めて欲しがっているような。そんな声をね」 

はえええ」 

太田が間抜けな声できょとんとした。 

「君たち。探したぞ」 

サングラスにひげの金髪小太りの男が悪態をついた。 

「都さん、瑠奈さん。君らもいたのか」 

ふと背後からカメラマンのスキンヘッドで細目のお兄さんがカメラをこっちに構えながら全員を見回す。 

「おおお、紀藤さんと山本さん」 

目を見開く都に、眼鏡の年長のADが「ああ、君たちがあの少女探偵の」とのんびり答える。 

「良かったじゃないですか。監督。来てくれて」 

そういうADのおじさん須藤伸の胸ぐらを紀藤浩二ディレクターが掴む。 

「お前が呼んだのか」 

「そんな。僕は何もしてないですよ」 

「私たちがみんなに呼ばれてきたんです」 

瑠奈が咄嗟に言うと紀藤は示しがつかなくなったのか須藤を突き飛ばした。 

「やめましょうよ。監督。気にしないでくれたまえ。とにかく打合せ通りだから。明日午前10時、駅前ホテルでインタビューと映画の宣伝コメント。頼んだぞ」 

山本健也カメラマンは慌てて2人の上司を墓場から連れ出そうとする。 

「なんか私がいない方がいいみたいだね」 

都が目をウルウルさせて気にしているのを見て、「気にすんなよ。どうせ奴が犯人だよ」と太田が言った。 

「どうしてそう思うのかな」 

都が目をぱちくりさせると、太田一郎は「男のカンっすよ」と息巻いた。 

「おおおっ」 

感動する都の頭をチョップしながら羽根川が 

「彼の洞察力は当たらないぞ。何故ならあの3人は浜口萌さんが殺害された時、完璧なアリバイがあるんだからな」 

と指摘した。 

「アリバイ?」 

とヒグラシが鳴く田舎道で振り返る瑠奈。 

「みんな浜口さんが殺された時間、食堂でご飯食べていたから。この時民宿にはイッチも今日子もメガネっちもいた。アリバイがないのは民宿の仕事をしていた青菜ママと手伝いをしていた私くらいかな」 

と夏美がため息をついた。 

 

「ぎゃぁあああああああ」 

森の中の暗闇に悲鳴が響き渡った。 

(なんでだ。何であいつが、あいつが俺の命を…) 

ぜいぜいと走って森の中で転んで立ち上がろうとした瞬間、背後に能面が浮かび上がった。 

「うわぁあああああああ」 

悲鳴を上げて逃げようとするカメラマンの山本勝也は背中から日本刀で切り付けられ、まるで壊れた人形のようにとぼとぼと前に歩き出した。その足跡には血がべったりついている。 

 

「ただいま―――」 

と夏美が民宿の鍵を開けた。 

「今は私が実質的オーナー。あ、青菜ママ、都と瑠奈は好きな部屋にタダで泊まっていいってさ」 

「おおおお、この民宿のお部屋がすべて私のもの」 

キラキラ輝いている都に「こんなぼろでもよければって」と夏美はにかっと笑った。 

「瑠奈君。君は僕の部屋で一緒に」と歯を光らせ様よ努力する羽根川亘に、 

「お前は太田君と抱き合って寝てろ」 

とロビーで生田今日子が眼鏡っこらしからぬチョップ突っ込みを入れる。 

「あいつ今日子から突っ込み入れられるのがうれしくってわざとこういう事をしてるんだよ」 

「つまり、込み入ったマゾってわけね」 

瑠奈が夏美とひそひそ話すのを、よくわからない瑠奈は首をかしげていた。 

「せっかく都も瑠奈もいるんだし。王様ゲームとか、UNOとか」 

夏美はロビーのゲーム置き場からいろいろごそごそしている。 

「今は青菜のお母さんの無実を証明するのが先でしょう」 

瑠奈はため息をついた。 

「そういえば、あの3人今もここに泊まっているの」 

「んーー、青菜のママが連行されてからは駅前のホテルに宿泊しているらしいよ」 

夏美は答えた。 

「それより汗でべとべとだよーーー。私お風呂入りたい」 

都がロビーのカーペットの上でどてーと横になる。 

「はいはい、イッチ。薪をお風呂の前に。私が炊き方教えてあげるから。都、覗かれる心配はないよ」 

「何を。僕は破廉恥な男ではない」 

と扉を開けた時だった。目の前に男が立っていた。細目だったスキンヘッドのお兄さんが目を見開いて口から血を流して何かを訴えている。 

「あが…が…ぐが…」 

「ど、どうしたの」 

都が慌てて駆け寄ろうとする。 

「大丈夫?」 

次の瞬間あった事は、彼らにとって信じられないトラウマとなった。そう、カメラマンの山本健也の首が飛んだ。首がなくなった死体は血の残像を残して倒れこんだ。とんだ首が地面にポトリと落ちた。歯茎をむき出しにして目を見開いた人間の首があった。 

 フードを被った人物が目の前にいた。フードの中で顔が動いた。だがその無機質な表情に全員が戦慄した。能面の殺人鬼が日本刀を持って立っていたのだ。 

「きゃぁあああああっ」 

 絶叫する瑠奈と夏美を太田と羽根川がかばう。背後でどさっと音がした。生田今日子が眼鏡を反射させた状態で気絶していた。 

 怪人はカードを切るように死体に備えると暗闇の中へと走っていった。 

「待てぇえええええ」 

太田が大声を上げて追いかけようとするのを夏美が腕にしがみついて止めた。 

「危ないよイッチ」 

「畜生…」 

必死で首を持って胴体につなげてあげようとする羽根川の手を都は掴んだ。 

「ダメだよ。そんなことをしてもこの人は助からない。それより警察を呼んで」 

都がびしっと太田と夏美に声をかけた。 

 そしてゆっくりと死体の横に落ちているカードを見つめた。 

―これで3人目、首狩り― 

 

「なんてこった」 

福島県警の陳川警部は民宿前の玄関口で首を切られた死体を見てため息をついた。 

「死体には誰も触っていないでしょうな」 

「あ、僕が触りました。その首をつなげれば生き返るかなって思って」 

羽根川は茫然とした表情でがくがく震えている。 

「それは無理ですよ。大量出血で脳に血液が回らず意識も一瞬でなくなりますから。ただその前に逃げようとする山本カメラマンを何度も切りつけた痕跡がありますし、かなり苦しんで死んでいったのでしょう」 

陳川警部はため息をついた。 

「でもこれで青菜ちゃんのお母さんは無実だという事になるよね」 

都は例のカードを見せた。陳川警部は頷く。 

「ええ、カードの文面からして間違いなく連続殺人の3人目ですからね。現在警察が身柄を押さえている有藤英恵さんには完璧なアリバイが成立します。そればかりか、お嬢とそのご友人には皆完璧なアリバイが成立するわけです。で」 

陳川は都に耳打ちする。 

「一応聞きますが何かしらのアリバイトリックって事はないでしょうか。だってなんでわざわざ民宿の玄関の前で皆さんが見ている前で殺人をする必要が…これって何かのトリックの伏線…なんてことは…」 

「ないと思うよ」 

都は即答した。そして言葉をつづける。 

「何かしらの演出の為に被害者を死なない程度に傷つけて、私たちがいる民宿まで歩かせてそこで犯人が首を切ったって可能性は私も考えたけど、この背中の傷はほとんど致命傷。つまり山本さんがここまで歩いてこれたのはほとんど奇跡。犯人が予想できることではないと思うよ。つまりいるんだよ。フードを被ったお化けのお面を被った…誰だかよくわからない不気味な殺人鬼が」 

都はじっと暗闇を見回した。

 

つづく