少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

首狩りトンネル殺人事件 事件編

首狩りトンネル殺人事件(事件編)

 

【容疑者】

・巨摩夏美(16):高校1年

・生田今日子(15):高校1年

・羽根川宣(15):高校1年

・太田一郎(16):高校1年

・有藤英恵(41):民宿オーナー

・高野瑠奈(16):高校1年生

山本健也(27):カメラマン

・須藤伸(46):AD

・紀藤浩二(44):ディレクター

浜口萌(26):タレント

 

 

 

3

 

「や、山本…」

ディレクターの紀藤浩二が茫然と立っている。

「まさか。山本君がこんなことに」

ADの須藤伸が茫然と立っている。

「失礼ですが、あなた方は今から1時間の間、どちらにいましたか」

「わ、私はあの子たちと別れてからスケジュールの調整の為にホテルの部屋にいました」

須藤が声を上げる。

「ホテルの防犯カメラ確認してもらえればわかると思います」

「貴方は」

陳川警部の声に紀藤は「僕は散歩していました。山本とはあの子たちと会ってから30分は一緒でしたが、奴に民宿へ忘れ物を取りに行くように命じたんです」

「という事は犯行直前まで貴方は一緒にいたと」

陳川の目がギラリと光る。

「ちょっと待ってくださいよ。これは連続殺人なんでしょう。浜口がトンネルで殺された事件で、僕には完璧なアリバイがあるんですよ。死亡推定時刻、僕はこの民宿でこの子らと一緒にいたんですから」

「まぁ確かにそうなんですが…」

陳川は頭をポリポリかいた。

「とにかく、このことを会社に報告するので。帰らせていただきますよ」

「いや、あんたの事情聴取は終わっていませんよ」

デカい体で立ちふさがろうとする時、捜索に当たっていた警察官が走りこみながら大声を上げた。

「警部。犯行に使われたものと思われる返り血のついた能面と黒マントを発見しました」

「よし、こいつの成分分析だ」

「ちょっと待った!」

突然巨摩夏美が声を上げた。

「これ、ひょっとしたら民宿にあったものかもしれません」

「な、なんだって?」

と陳川警部。

「青菜の亡くなったおじいさん、能面職人だったんです。それで能面が家にあって。それを浜口さんが殺された時に監督さんたちが被って遊んでいたんです」

と生田今日子。

「つまり、あんたの痕跡が見つかったとしても言い逃れは出来るってわけか」

陳川警部はデカい顔を紀藤監督に近づける。

「そんなに言うんだったら、民宿を確認したらどうですか」

紀藤は不愉快だという表情で陳川を睨みつける。

「よし、そうしよう。巨摩さん。案内してくれるね」

「オッケー」

夏美は笑顔で言った。

「じゃぁ僕らはホテルで結果報告待っていますんで。まぁ、逃げも隠れもしませんよ。ああ」

突然だった。須藤伸が眼鏡を反射させ、一番最後に民宿に戻ろうとした生田今日子の手首をつかんだ。

「あの話…まだ生きていますから」

今日子の顔が恐怖で歪んだ。

 

「確かこの箱の中に」

夏美が民宿の食堂の棚から出した箱を開ける。

「やっぱりだ」

羽根川亘が眼鏡をずり上げた。

「能面には般若と中将と翁があったんだ。だが中将の面がなくなっている。犯人が被った面は中将だから、つまり犯人はここにあった能面を持ち出しているんだ」

「能面は壁に掲げられていたわけではないのだろう」

陳川が高校生たちに聞く。

「青菜ちゃんの母ちゃんが客の子供が怖がるからってしまったらしいぜ」

太田一郎がデカい体で腕組する。

「って事はこの能面を犯行に使える人間は限られた人間」

陳川はその場にいた全員の容疑者を見渡す。

「あなた方の中にいる可能性が高いですな」

「でも、その全員にアリバイがあるんだよ」

陳川の得意げな声にぴしゃりするように女子高校生探偵島都は考え込むように言った。

「お、お嬢…」

「浜口さんが殺された事件では夏美ちゃんと青菜ママにアリバイがないけどそれ以外には全員アリバイがあるんだよ。でも次の事件ではこの2人にも完璧なアリバイがあって、監督さんとADさんも完璧なアリバイがある」

「共犯って可能性は考えられませんか」

と陳川が都に問う。

「つまり第一の事件でアリバイがない人間Aが浜口さんを殺し、第二の事件で山本カメラマンが殺された事件ではアリバイのない人物BがAのアリバイの時間を見計らって」

「ちょっと待って! それだと浜口さんが殺された事件でアリバイがない私が共犯者になっちゃうじゃん」

と夏美が声を上げる。

「ううーん」

都は浮かない顔をして民宿食堂を歩き回った。

「それも違うと思うんだよ」

都は言った。

「どういう事?」瑠奈が聞く。

「さっきも言ったように山本カメラマンは背中から何度も切り刻まれていてそれもほとんど致命傷っぽいんだよ。助かりたい一心で山本さんは民宿まで歩いてきたんだろうけど、もし共犯者の夏美ちゃん―」

夏美は「えー?」と都を見たが都は言葉をつづける。

「―夏美ちゃんのアリバイを証明するとすれば、山本さんが死なない程度に痛めつけて民宿まで逃げさせて私たちの目の前で殺害しないと意味がない」

「そっか」

今日子がポンと手を打った。

「夏美は太田君と都の風呂焚きに行こうとしていたもんね」

都は今日子を見た。

「そうなんだよ。私たちにアリバイがあるのは偶然なんだよ。ちなみにもし黒いマントの人間が首だけ抱えていたとか、身動きの出来ない山本さんの首を飛ばすだけなら、扉が開いた瞬間に作動する釣り糸か何かのトリックで出来そうな気もするけれど、山本さんが生きていて歩いている背後から日本刀を持った能面黒マントが首を切ったわけだし、そいつは走り去っている。陳川警部。山本さんの足跡や血糊とかを偽装した痕跡はあった?」

「い、いえ」

陳川は声を上げた。

「って事はSNSの時代だし、この民宿に能面が隠してあるのをどこかで知った犯人もいるのかもしれませんね」

陳川はすごすごと民宿の外に出て言った。

はえええええ」

夏美が感心したように都を見た。

「難事件を解決してきたのは知っていたけど、警部さんまで遣り込めるなんて。この都がねぇ」

と今日子が丸眼鏡をずり上げる。

「でもよかったな。山本がちょうどいい時間に殺されてくれて」

太田一郎が頭をかく。

「これで青菜ちゃんのお母さんも容疑が晴れる。後はあの監督が死んでくれたら」

「太田君、ちょっと不謹慎かも」

「不謹慎なもんか」

と羽根川が眼鏡を治した。

「あいつらなんて自業自得だろ」

「やめて! その話は」

突然今日子が大声を上げた。

「あ、いや…僕はただ」

羽根川がオロオロする中で今日子は部屋に駆け戻っていった。

「あ、何か私地雷ふんじゃった?」

瑠奈が心配そうに声をかけると、夏美は「仕方がないよ」と頭をかいた。

「私から話すよ。一緒にコンビニいかない」

夏美は都と瑠奈を連れ出した。

 

「あいつら…つまり監督の紀藤とカメラマンの山本は、今日子に温泉PRの撮影と称して無理やりほとんど紐みたいな水着を着せて撮影させたんだよ。その場には議員の森本って奴も一緒にいたらしくって、和気あいあいと撮影したとか言っていたんだけど、実際は今日子を怒鳴りつけて脅して無理やり撮影してPRビデオとしてネットに乗せたらしい」

「そんな…」

瑠奈の震える声に夏美はため息をついた。

「それを私らが知ったのは浜口萌が殺されてから。亘の奴がネットで事件を調べていて、偶然見つけたらしい。今日子にそのことを聞いたら、今日子泣き出しちゃって。本当は嫌で怖くて死にたいって…。それでイッチがブチ切れて民宿ロビーで紀藤監督に抗議をしにいったけど、紀藤が鼻で笑ったからイッチが監督に殴りかかって…あのサングラスの警部が必死で止めていたよ。痣まで作ってさ」

「酷い…」

都の声が震えた。

「結局、私たちの存在そのものが連中にとっては金なんだよ。友情も、体も…」

夏美は声に怒りをにじませた。ふと目の前にあるトンネル出口を見上げた。

「元々電車の複線化の為に作ったトンネルなんだけど、それが中止になってJRも持て余しててさ。私たちがあの中で秘密基地を作って遊んでいた聖地って事で、今は観光整備されているらしい。階段もあるし…今は浜口さんの事件で封鎖されているけど」

夏美はやぶを背中にトンネルを見上げた。

「勿体ないよね。こんな立派なトンネルなのに」

瑠奈がトンネルから川の向こうにある北側のトンネルを見る。本当なら高架橋で2つのトンネルはアクセスされていたのだろう。

「あのトンネル私たちが一番有効利用してたじゃん」

夏美は思い出しながら言った。

「みんなであのトンネルの中で怖い話をしたり、お喋りしたり、すごく楽しかった」

と夏美。

「青菜と都が一番テンション高かったよね。だから青菜の事が家に知らされた時、本当に信じられなかった」

瑠奈が沈んだ声で言った。

「都、青菜の棺桶にずっと縋りついて泣いてくれていたよね」

夏美が笑顔で言った。

「今でもそうだよ。悲しい事があると泣いてばかりでさ。瑠奈ちんとかに迷惑ばっかかけてるもん。青菜ちゃんは辛くても怖くてもみんなを心配させないように笑顔だったのにさ」

都が小さな声で言うと、夏美が急に大声を出した。

「いいんだよ! 都はそれで」

「ほえ」都が目をぱちくりさせる。

「友達に無理に笑われるより、泣いてくれた方が嬉しいよ。都の友達だって…そう思ってるよ」

夏美は自分の説教臭さに恥ずかしがりながら声を震わせる。

「夏美ちゃん…」

都は目を腕でぐじぐじした。

「夏美…都のお母さんの事…」

「うん…年賀状を送ったアパートのおばちゃんが教えてくれた」

夏美は下を向いた。

「だから、都は…都のままでいてくれていいんだよ」

夏美はにかっと笑った。都は腕で鼻をチーンしながら、夏美に笑顔で言った。

「夏美ちゃん…ありがと」

 

 翌日正午、六角警察署会議室で有藤英恵が釈放された。

「夏美ちゃん…みんな」

「良かったおばさん」

今日子が安心したように笑う。

「どうだ。少女探偵島都がおばちゃんの無実を証明したぜ」

夏美が陳川警部を冷やかすのを陳川はたじたじして、それから「お嬢、ちょっといいですか」と都を別室に手招きした。

「なんだ…俺たちにも聞かせろよ」

太田が都のあとをつけようとするのを瑠奈は「まぁ、都以外には言えない捜査情報とかもあると思うし」と手で制した。

「お嬢、有藤英恵さん釈放は容疑が完全に晴れたからではなく、盗撮被害者の大半が死亡して監督も起訴どころではない状態だからです」

陳川は別室で都に話した。

「えー、なんで陳川警部はそう思うの?」

都にジト目されて陳川はため息をついた。

「浜口萌の死体に添えられた第2の犯行声明と山本健也の死体に添えられた第3の犯行声明。微妙にワープロのフォントが違うんですよ。それに句読点のつけ方その他もろもろから作成者は別人の可能性があるんです」

「つまり、犯人は複数いるって事?」

都の問いに陳川警部は頷いた。

「ええ、つまり浜口萌殺害と山本健也殺害の2つの事件はやはり共犯同士でそれぞれアリバイを作った可能性があるという事です」

 

4

 

「でもそれは変じゃないかな」

都は目をぱちくりさせた。

「この前も言ったけど、山本健也さんが民宿で私たちの目の前で殺されたのは偶然だよ。共犯同士でアリバイで庇いあったら、こんな状況にはならないよ」

都がいぶかしげな顔をするのをサングラスのでかい顔は手で制した。

「我々が想定されているのは、共犯の片割れが山本健也である可能性です」

「どういう事?」

都が目をぱちくりさせた。

「山本健也はどうも浜口萌殺害事件では散歩に出ていたみたいなんです。子供たちは覚えてはいなかったのですが、民宿のお母さんが証言しています。つまり山本が浜口を殺し、そして山本は口封じの為に共犯者に殺害された…」

「それでなんでお母さんに容疑がかかっているのかな。だってお母さんは警察署にいたんだよね」

「共犯が2人組とは限らないでしょう」

陳川はサングラスを光らせた。

「そしてこれからまた犯行が続かないとは限らない。そしてこの推理に立てば、お嬢が先日指摘した矛盾も解消されるんです。共犯者のアリバイ作りではなく抹殺が目的であれば。つまり事件関係者の誰もが疑わしいことになるんです」

「私の友達もだね」

都は言った。陳川は「残念ながら」と言った。

「わかった…。陳川警部ありがとう。陳川警部の推理も忘れないでおくよ」

都は立ち上がった。

「お気をつけて…刑事の勘ですが。犯人は相当残酷な奴です。殺しがこれで終わりとは思えません」

「うん」

都はにっこり頷いた。

 

 市内のホテルで紀藤浩二はベッドに座り込んで携帯電話から聞こえてくる声を機械で変えた不気味な声に戦慄し震えていた。

―キヒヒヒヒ。会って話し合いましょうや。あなたが犯した罪についてね。

 紀藤浩二は電話が切れた後スマホの通話ボタンを解除し、そしてケースから拳銃を取り出した。ベレッタを内ポケットに入れるとゆっくり立ち上がった。

「あ、あのー。どちらへ」

廊下ですれ違った須藤に紀藤監督は何も答えなかった。だが須藤は紀藤に向かって声を出した。

「まさか紀藤監督…貴方じゃないですよね。山本を殺したのは。俺たちの4年前の罪をバラされそうになったからっていう…」

その時突然紀藤は須藤の首を締め上げた。

「お前、勘がよすぎるな」

 

「おばちゃん、お帰り―――」

民宿の食堂で夏美が声を出してみんなでジュースをがぶ飲みする。

「本当にみんなありがとう。民宿を守ってくれて。そして都ちゃん、瑠奈ちゃん久しぶり。都ちゃんの推理で私の容疑が晴れたみたいで。本当に感謝してる」

「いえ」

都はカップ麺の前で考え込んでいた。

「どうしよう」

ふと瑠奈がリュックサックをごそごそ声を上げた。

「私の財布がなくなってる…おかしいなぁ。あ、もしかして帰りに寄ったコンビニかな」

「じゃぁ買い出しついでに探しに行きますか」

夏美が買い出しリュックを背負って立ち上がる。

「じゃ、私は家の中に落ちていないか探してみるね」

都はそういった。

「じゃ、私はお風呂の外あたりを見てみる。瑠奈がお風呂炊いてくれていたし」

生田今日子が立ち上がった。

「ちょっと待って、男子…男子をボディーガードに、イッチ?」

夏美があたりを見回すと「太田君はバイト」と今日子がため息をついた。

「羽根川君はソファーで爆睡しているし…羽根川君起きて」

「大丈夫。女の子とはいっても2人いるし。あ、玄関は殺人現場だから勝手口から出ればいいよね」

瑠奈が笑顔で手を振った。

「じゃ、行ってくるね」

夏美はそういって民宿勝手口からみんなに手を振った。

 

「とにかく、地面に落ちてないかゆっくり探してみればいいよ」

夏美はそういって瑠奈に懐中電灯を渡して自分もライトをつけ地面を見てみる。

「本当にどこに行っちゃったんだろう」

瑠奈が付いてないというアンニュイな表情で地面をライトで照らしているときだった。背後で「うっ」という夏美の声とバチバチという電気の音が聞こえた。ただならぬ気配にハッとすると、背後に立っていたのは黒いマントに般若面の怪人。足元には夏美が倒れている。

 瑠奈は声を上げようとしたが、その時には怪人は瑠奈の目の前にいた。

 

「瑠奈ちん。夏美ちゃん…返事して」

都が大声で暗闇に呼び掛ける。

「あの2人しっかりしているから寄り道なんてしないと思うけど」

と民宿の英恵オーナーが不安そうにライトを田んぼに走らせる。

 都は陳川警部の言葉を思い出した。

―犯人は相当残酷な奴です。殺しがこれで終わりとは思えません―

「どうしよう…もし瑠奈ちんや夏美ちゃんに何かあったら…」

都は不安そうにあたりを見回した。

「大丈夫だよ。夏美前から寄り道大好きじゃん。きっと私たちを驚かせようと」

そういって都を落ち着かせようとする今日子。そんな都と今日子の後ろからゆっくりと黒い影が近づいてきた。そしてそれが今日子の肩を掴む。

「あああああああああああああ、悪霊退散悪霊退散」

「そんなに驚かなくてもいいだろ。今日子ちゃん」

バイトアイテムの入ったデカいズタ袋手にした太田一郎がため息交じりに言った。

「どうしたんだ。お化けでも出たのか」

「それどころじゃないよ。夏美と瑠奈が買い出しに出て帰ってないのよ」

「なん…だと」

太田が目を見開いた瞬間だった。

 突然スマホが鳴り響いた。都の携帯だった。慌てて都が出ると、知らない番号だった。恐る恐るスマホに出る。

―だ、誰だ…

男の弱弱しい悲鳴が聞こえる。

「都です。島都。ええと、ひょっとして貴方は、小学校のクラスの着やせするタイプの多田野君?」

―お、お前のクラスなんか知らん…監督の紀藤だ。目の前で女が白装束着せられて…死んでいる。

都の顔が真っ青になった。声が震える。

「そ、そ、その人、瑠奈ちんとか夏美ちゃんだったり…するのかな」

―わからない。髪の毛は君の同級生に似ている…。ああ、助けて…殺さないで。

真っ青になった都だったが、すぐに意識を奮い起こした。耳に意識を集中させる。声が反響している。トンネル?

「誰かいるんですか」

―般若の面の男が…斧を持っている。俺の首に斧を…。早く来てくれ…今俺がいるのは…第一トンネル北側出口…早く来てくれ。早く…。

都はちょうど目の前にある第一トンネルの北出口を見上げた。

―うわぁああああああああ。早く来てくれ。奥に引きずられる。

 絶叫が聞こえた直後、スマホが切れた。

「あの中に犯人と瑠奈ちゃんがいる」

都はそういうと、トンネル前の整備された階段を駆け上がってトンネル内部をライトで照らした。

 目の前に見えたのは白装束姿で寝かされている黒髪の少女だった。

「る、瑠奈ちん?」

都が悲鳴を上げた。そして瑠奈に駆け寄り揺り動かすと、瑠奈は閉じていた目をしかめて呻いた。目がうっすら開かれる。

「る、瑠奈ちん」

都はホッとした。そして今日子に「瑠奈ちんをお願い」とまっすぐトンネルの内部を照らす。

「あの中に紀藤さんが犯人に連れ去られている。夏美ちゃんもいるかもしれない。太田君」

「わかった」

太田は声を上げる。

「大丈夫…瑠奈」

「大丈夫…」瑠奈はぼーっとした状態で今日子に助け起こされていたが、

「大変…夏美が! 夏美が!」

と今日子に縋りついた。

「私が…どうかしたの? なんか気が付いたら土手の下の川に落ちてたんだけど」

夏美が首をいててと押さえてトンネルの出口に立つ。

「な、夏美!」瑠奈が夏美に抱き着く。

「大変よ…犯人がトンネルの中にいて」

「都と太田君は…」

「犯人追いかけていった」

「マジかよ」夏美が素っ頓狂な声を上げ、次の瞬間「うおおおおおおおおおおおお」とトンネルの奥へ都と太田を追って走り出した。

「都おおおおお」」

トンネルでへばっている都に夏美が合流したのはすぐ後だった。都は夏美の姿をぽかんと見ていたが、やがて眼をウルウルさせた。

「な、夏美ちゃん、あああ、良かった。良かったよおおお。犯人にさらわれたかと思った」

都が夏美に抱き着いた。

「犯人は。てかイッチは」

「走っていっちゃった」

都はトンネル奥を指さした。

「私らも行こう」

都と夏美はトンネルの反対側に出た。反対側は六角市の市街地になり、複線線路予定地は公園になっている。その前の川の踏み石の向こうでライトが動いていた。

「太田君…」

公園の小川の向こうで思いっきり突っ込んだんだろう。体に警察のトラテープが巻き付いたままの脳筋少年が都の方を見た。

「ぶっ、漫画みたい」

思わず笑ってしまった都。都が踏み石から落っこちてじゃぶじゃぶ歩きながら太田に合流する。

「犯人の姿が見えない。って。おおおお、夏美ちゃん。無事だったのか」

太田が夏美の肩を掴んでぶんぶん振った。

「痛い痛いって。イッチ何か見つけた?」

「犯人の姿は見えないけど。お面は木にぶら下げられていたぜ。それからこの紙も」

太田が不気味に文字が刻印されたコピー用紙を見せた。

「―4人目の首を狩り―…どういう事?」

夏美が声を震わせる。

「普通に考えれば4人目の犠牲者が出ちゃったって事なんだよ」

都は冷静だった。夏美の顔が真っ青になる。

「う、嘘…」

「な、なぁ、都ちゃん…。あそこに誰かいないか」

公園の休憩屋根があるベンチ越しに、蹲踞でもしないと不自然な格好で男がこちらを見ている。

「あれ、監督じゃない?」

夏美が指さすのを都は手で制した。彼女はゆっくりと公園の休憩所の仕切り板を見つめる。

「あいつ…何をしているんですか。ベンチ越しにこっちを見て」

太田が夏美にくっつきながら声を震わせる。

「首だけになっているよ」

都は冷静に言った。

 目を見開いた紀藤浩二の生首がベンチの背もたれの仕切り板に乗っかっていた。