【容疑者】
・本多華凛(16):高校1年
・太田純也(16):高校1年
・松岡哲士(16):高校1年
・石田理奈(15):高校1年
・青野ひろ子(36):民宿経営
・森庄司(38):ディレクター
・冴木麗子(28):アナウンサー
・平本宗司(45):カメラマン
3
海岸で線香花火をともしている高校生6人。
「久しぶりだよね。この全員がそろうなんて」
眼鏡の三つ編みの少女石田理奈(15)が線香花火を見た。
「お、都、随分と長くもっているいるじゃねえが」
と図体のデカい色黒の太田純也(16)が都を見る。
「おおおお、頑張れ、頑張れ、頑張れ」 と都が線香花火に向かって必死で声をかけ続けるが、「 ぶえっくしゅん」とくしゃみをすると落ちてしまった。
「わぁああああ、しまった」
都が素っ頓狂な声を上げた。
「うわぁあああっ」突然悲鳴みたいな声を理奈があげたので、 一同は振り返った。
「ごめん。望美の事急さ思い出すてすまって」
華凛に背中をさすられながら、理奈が涙を拭いた。
「あるあるだな」と松岡哲士(16)という眼鏡の少年が言った。
「なんで望美こだなに頑張ったげんど、 もう少すで助がるどごろだったのに、 神様は助げでぐれねがったんだのって」
「そういえば『線香花火』だったよね。 あのテレビ局の人だぢが作ってる望美主人公のドキュメンタリー」
ジト目の本多華凛(16)がため息をつく。
「じゃぁ、ねずみ花火でもやるが」と太田が務めて声を上げた。
「ごめん、ここの近所の親父音の出る花火うるせえし、 ねずみ花火ゴミどすて残っからすぐ怒鳴り込んでぐるからさ、 買ってごねがった」
華凛が言った。
「なんだよ。鉄橋の電車の音の方がうるせえじゃねえが」
松岡が単線の鉄橋の上を通過する貨物列車を見ながら言った。
「 あのトンネルが使われていれば静かに早くこの地区を電車が通過で きたはずなんだけど」
と瑠奈がため息をついた。
「じゃぁさ、帰りにちょっとトンネルさ寄っていがねが?」
ふいに太田が声を上げた。
「うん、私だの秘密基地、久すぶりに見でみだぇがも」 と理奈が涙を拭いて笑った。
「じゃぁ久しぶりに探検しに行こう」
と都は拳を振り上げた。
「おばさんは11時には帰ってきてって言われたけど」
瑠奈はスマホの時計を確認する。22時38分だった。
「ちょっとなら大丈夫かな」
中学生のころ、秘密基地にしていたトンネル。 そこには青野望美もいた。利発で笑顔がかわいい女の子だった。
夜の道路から見えるトンネルはその複線分の大きさもあって不気味 だった。
「懐かしいけど、私たちよくこんな場所で遊んでいたよね」
瑠奈は斜面を10メートルほどよじ登ってトンネルの中をスマホで 照らした。
「1.4㎞あるんだって」
理奈が都にしがみつく様におっかなびっくりついていく。「 でも懐かしい…」
「だね」華凛は先頭を行く太田の後に続いて歩き出した。その時、 太田が何かに躓いて前にズッ転んだ。
「だっせ」松岡が声を上げた。
「いや、何がに躓いだんだよ。何が濡れでる」 と太田が手をスマホのライトで照らした。
「誰がの小便だったりすて」
と松岡は笑いながら言った。
「違う」太田は血みどろの手のひらをみんなに見せて言った。
「血だ。うわぁあああっ」
「太田君!」
都はトンネルの床を照らし出した。 そこにはうつぶせに倒れ横にそむけた顔には歯茎を見せて目を見開 いた眼鏡のロン毛ディレクター、森庄司の死体があった。
「う、嘘」
瑠奈が口を押えた。
「ねぇ、あれ」
「写真撮影モードし続けているみたいだけど」と瑠奈。
都は男の手からスマホを取り上げる。 すると画面にトンネルや死体にびっくりしているみんなの画像が移 った。都は停止、さらに画像ファイルを再生する。 動画が犯行時刻に撮影されていた。その時暗い画像に「ぐふ、 ぐおおおおっ、ぐっ」という不気味な声とともに一瞬光が移った。 次の瞬間映し出されたのは不気味な白いゴムマスクをかぶった顔だ った。それは目を光らせている。
「な、なんだこいつ」と松岡が大声を上げた。
都は顔を戦慄させていた。
「どうした都、酢だこにでも当たったのか」
「長川警部…殺人事件。髪の毛の長いディレクターが殺された」
都の深刻な声が聞こえてきた。
宮内トンネルの前の道路に山形県警のパトカーが多数走りついた。 鑑識が警察の規制線のテープをくぐって出入りしている。 ライトも設置されていた。 温泉浴衣姿の長川は普通に規制線を越えようとして警官に止められ た。
「何やっているんだ。駄目だよ」 と年配の警官が止めようとするのを長川は警察手帳で黙らせた。 そして「ちょっと手袋借りるよ」 と言ってビニール手袋を借りて現場に入る。
「で、 つまり君らは中学時代の秘密基地に久しぶりに遊びに来て死体を見 つけたと。嘘はついていないだろうな」
高圧的なバーコードの刑事がふてぶてしい表情の太田や松岡を尋問 している。
「誰だ。姉ちゃん…こんなところにどうやって入ってきたんだ」
と刑事がいきり立つ鼻先に警察手帳を突きつける長川。
「これはこれは警部殿でございますか」 と時代劇みたいに平伏する親父。
古市警部補はへりくだった態度でおもねるように言うが「いや、 この子私たちの知り合いでさ。 特にこの子は茨城で多くの事件解決に貢献しているんだ」
「この人、 私が死亡推定時刻とか死因とか聞いても話してくれないんだよ」
と都が「ぶー」と不貞腐れている。
「で、どうなんですか」
長川が古市を見る。
「は。死亡推定時刻は今から1時間から2時間前。 死因は失血で腹に致命傷が2つ。内臓はぐちゃぐちゃです」
「うぷ」と理奈が口を押さえる。
「殺された場所はここに間違いないの」
と都。「ええ、大量の血痕やもがき苦しんだ痕跡から、 別の場所で殺害されて血液を後でぶちまけたとかそういう可能性は ありません。って、なんでお前に話さないといけないんだ」 と古市が都に詰め寄る。
「で、君らのアリバイは」
と古市は警察手帳を取り出して質問する。
「それが全然。 太田君はおしっこで私たちの前から姿を消しているし、 私と瑠奈ちんは私の女の子アイテムを取りに戻っているし、 華凛ちゃんはバイクで花火をコンビニに買いに行ってくれているし 」
と都。
「つまり全員にアリバイはないと」
古市は高校生たちを見回した。
「俺と理奈はずっと一緒だったぜ」と松岡が声を上げる。
「友達2人っきりなんていくらでも庇いだては出来るだろう」 と古市警部補は首を振った。
「私もコンビニに行ってましたよ。 防犯カメラを調べてもらえればわかります」と華凛。
「もう確認したよ。 でもバイクならトンネルの入り口まですぐに行ける。 アリバイにはならないよ」
と古市は手を振った。
「まぁ、 高校生たちよりもずっと付き合いが長いアンタらの方が怪しいがな 」
「何だと」
サングラスの髭、カメラマンの平本宗司(46)が歯ぎしりする。
「現場の状況的に被害者はここに連れてこられたのではなく、 呼びだされたんだ。 状況的に呼び出しが出来るのはアンタら2人だけなんだよ」
と古市は平本と冴木麗子(28)アナウンサー睨みつける。
「犯行時間、つまり今から1,2時間前、どこで何をしていた?」
「車で温海温泉街に言っていたわよ」 と冴木は古市警部補を睨みつける。
「ああ、森を誘ったんだが、いいって言われてよ」と平本は頭をかく。
「平本様と冴木様が温泉に行かれたのが20時30分。被害者の森様が民宿を出られたのは20時40分ごろだったと思い ます。子供たちが民宿を出たのは20時50分、都ちゃんと瑠奈ちゃんが忘れ物を取りに戻ったのが21時ちょうどから21時10分…そこから民宿を出入りした人はいなかったと思います」
と民宿経営の女性、青野ひろ子(36) はエプロン姿で警察の質問に答えた。
「なるほど…それともう一つ…君たちの中にこのゴムマスクの人物について心当たりはありませんか」
古市が全員にスマホの画像を翳す。
「ほだな助清知らねえよ」
「ほだな友達いねよね」
と太田と理奈が答え、理奈は都と瑠奈を振り返る。
「あ、一人いるような…巷を騒がしている連続殺人鬼ですけど」と瑠奈が小声で言いながら目をそらす。
「これ、ネットとかで見るシャイガイじゃん」と華凛。
「SPC-096か」と松岡。
「何それ」と都が目を点にして△お口で聞いた。
「SCP_Foundationというネット上のシェアワールドに出てくる怪物だよ。まぁ多くのインターネット民で共同で作り上げた架空の怪物で、このシャイガイを映像で見た人間は突然狂いだして周りの人間を殺し始めるって言われているんだ」
松岡が説明する。
「だが、量子力学をスピリチュアルに改造した宗教に『引き寄せ』というもんがあってな、なんでも大勢の人間が頭の中で思ったことが実体化するって理論なんだが、インターネット上で大勢の人間が作り出し設定を肉付けし、存在しうるものとして共有した存在が…」
松岡が眼鏡の奥で目を不気味に光らせる。
「現実世界に実体化するんじゃないかって」
「アホらしい…んなことあるか…これは立派な殺人事件だ。現実のな」
「でも身も心もシャガタイになりきったサイコパスって線はあるでしょう。わざわざこんな格好で人を殺すんだから」
と華凛が古市を見る。
そのとき刑事が古市に耳打ちした。
「被害者は宮内トンネルの南側出口から102メートルの地点に倒れていると計測されました。そして状況から見て犯人は南出口側に立って被害者を刺殺したと」
と古市は警察手帳をぱたんと閉じた。そして宣言した。
「しばらくはあの民宿に全員とどまって貰いますぞ」
都の友人が警察に先導されて民宿に帰るのを都は瑠奈や長川警部と 見送った。
「で、都…何か気が付いたことはあったか」
長川警部が都の方に顎を載せた。
「友達が容疑者になっちまっているが」
「1つ確定している事は、 犯人の白いゴムマスクの人物は間違いなく私たちにその不気味な姿 を見せつけようとしているって事だよ」
と都は声を上げた。
「 あれは被害者が苦し紛れにダイイングメッセージとして犯人を残し たんじゃないのか」
と長川警部は言った。
「だとした場合、死体はうつぶせに倒れていたわけだから、 スマホは絶対に液晶を下にしているはずだよね」
女警部は自分のスマホを取り出して写真を撮る仕草をして見せてか ら、死体のポーズを軽く再現する。
「本当だ」
と都。
「そして撮影したのは犯人自身って事だよ」
都は頷いた。
「でも一体何のために」と瑠奈。
「何かを隠すための見立てトリックなのかもしれないよ」
都はトンネルを見上げながら言った。
「 例えば犯人がこのトンネルを殺人現場に選んだ理由を隠すためのと か」
瑠奈と長川警部を都は振り返る。
「人目につかない場所だったとかじゃないの」 と瑠奈の質問に都は首を振った。
そういう瑠奈に都は「 トンネルの中での犯行なんてすごく危険なんだよ。 だってもし殺人被害者が悲鳴とか上げたりして、 それに気が付いた人たちがトンネルの出口をふさいだりしたら?」
「あ、そうか。それに見つからなくても人を殺している間、偶然 トンネルの両方の出口から人が入ってきたら逃げられないもんね」
瑠奈が都を見つめる。
「こんな使われていないトンネルを夜に両方出口から人が歩いてくる可能性はほとんどゼロだけど、それでもわざわざ白いゴムマスクを着けて人を殺すならもっと別の場所があると思うんだよ」と都はじっと考え込む。
「つまり犯人は何かしらこのトンネルで人を殺さなければいけない理由があった」
長川は呻く。
4
民宿の食堂に容疑者全員が集まっていた。カメラマンの平本宗司とリポーターの冴木麗子は奥のテーブル席で煙草を吸っているが、落ち着かない様子だ。それを他所に高校生たちは都、瑠奈、長川を出迎える。
「今の見だよ。凄いね。ほんてん探偵小説みだいだった。ぼんきりあだな感ずで殺人事件解決すてるの?」
と石田理奈という眼鏡少女が都に目を輝かせる。
「やめどげよ。人死んでるんだぞ」太田が声を上げる。
「みんなに聞きたいことがあるんだけど」小柄なショートヘアの女子高生探偵はみんなを見回した。
「ちょっと事件があった時間、私たちが民宿から出た時間から一緒に花火やった海岸に合流するまでの時間、何をやっていたのか教えて欲しいんだけど」
「私だの中さ犯人がいるど思ってるの?」とニット帽のジト目少女本多華凛がからかうように言った。
「形式的な質問って感じかな」
と瑠奈が笑う。華凛は肩をすくめて
「私はバイクでコンビニさ花火買いに行ったよ。そすてすぐにトンネルや民宿の前にある道路通って。コンビニさ警察確認取ってるみだいだがらアリバイはあるど思うげど。あ、でもバイクでトンネルの前さ通っだから、やっぱりアリバイはないかも」
と都を見た。
「警察もそう言っていたな」と長川警部が警察手帳を見た。
「いや、んだげんと華凛には人殺すは不可能だど思うじぇ」
太田が声を上げた。
「俺はトンネルど民宿の間で小便すてだんだげんと、出す終わって道端さ出でぎだらコンビニがらやってぎだバイクの華凛ど合流すたんだ。それで一緒さ海岸さ向がったら、松岡ど理奈海岸で待ってだんだ」
「つまり華凛ちゃんにバイクでトンネル前に立ち寄って人を殺すのは不可能って事です」
と民宿経営青野ひろ子は長川に決然と言った。
「そんなのわからないぞ。バイクは少し離れた場所に止めて、草むらに隠れながら小便をしている太田君をやり過ごしたのかもしれねえ」
と平本カメラマンが缶ビール片手に絡んできた。
「確かにそれは可能かもしれないけど」都は顎に手をやってから言った。
「だとしたら絶対民宿に忘れ物をした私たちが華凛ちゃんのバイクが道路に止められているのを見つけているか、華凛ちゃんのバイクとすれ違っているはずだよ」
と都は言った。
「私たちは華凛ちゃんとすれ違っていない。って事は民宿で私たちがごそごそしている最中に華凛ちゃんはバイクで民宿の前を通ったことになる。でも私たちが民宿でごそごそしていた時間は大体10分くらい、そしてトンネルの前に戻ってきたのはその5分後くらい。その時間でバイクを少し離れた場所に止めて太田君をやり過ごし、トンネルで人を殺してまた太田君やり過ごしてバイクの所に戻り、バイクで太田君の所に合流する。難しいんじゃないかな」
「15分もあればどうにかなるんじゃないの」と冴木が意地悪い声でギャルばった口調で言う。
「太田君のおしっこって15分くらいかかるの」
「かがるわげねえだべ!」太田が真っ赤になって喚く。
「完璧なアリバイだな」長川は都を見た。
「まぁ、警察としては2人がグルである事も考慮しなければいけないが、刑事として言えばこの2人にその可能性はほぼゼロだと断言していいと思う。だって都と高野さんが忘れ物をした事は偶然だし、こんな分単位のちょっとした矛盾で全てがバレるような口裏合わせ、好き好んでやる犯人はいないと思う。そんな危険な口裏合わせをしても警察がアリバイ認定してくれるわけではないしな」
「太田君も白認定でいいんじゃないかな」
瑠奈が考え事をする。
「なんでよ。物理的にこの子が一番犯行可能なんじゃないの」
「さっきからやけにこの子たちを犯人候補に推してるな。あんたら」と長川が睨みつける。
「別に…私は不思議なだけよ」冴木麗子はそっぽを向く。「一番トンネル近くでうろついていたこの子のアリバイ成立をあなたたちが確信している理由が」
「だって、トイレって女性でも2分くらいですよ。犯行はちょっと難しいです」と瑠奈が発言した。
「2分小便していたのが嘘で15分かけて殺しに行っていたのかもしれないじゃないか」
と平木カメラマン。
「あ、わかった」
と理奈が眼鏡を光らせて笑う。
「都と瑠奈が忘れ物を取りに行ったって時点で、いつ2人が帰ってくるかもしれない状態で犯行はしでかさないって事ね」
「ピンポーン、理奈ちゃん凄い」
「それは君らに忘れ物を刺せるためにあらかじめこいつが抜き取ったのかも」と平木。
「私が忘れたのは、物を忘れたんじゃないんです。物をちゃんとセットするのを忘れたんです。しかもいつも教えてくれる瑠奈ちんも今日は忘れていた。それは完全に偶然なんです」と都。
「それにブツは隠されていたんじゃなくて私が別の場所にしまっていたのを忘れていただけでしたし」と瑠奈。
「この状況で太田君が殺人を実行する可能性は限りなく低いって事さ」
と長川。
「松岡君と理奈ちゃんだけど」
都は2人を見つめた。瑠奈は記憶をたどる。
「私たちが海岸にみんなで合流したのは21時20分。2人は犯行時刻50分くらい私たちは見ていないけど、都、どう」
「ごめん。アリバイはないと思う」と都。
「マジかよ」と松岡。
「まぁ、海岸に向かったと見せかけてトンネル内で森ディレクターを殺して、帰りは道路の横を流れている小国川を通っていけばいいからね。小国川は草が生い茂っていて道路から見て完全に死角になっているし」
と石田理奈がムムムと考え込む。
「たださっきも言ったようにこの状況下で2人が森Dを殺す可能性は限りなく低いと思う。大体太田君とおなじ理由でね。2人はバイクがない分華凛ちゃんと比べて身軽に見えるけど、まずこの状況で人を殺しに行かないだろうと考える理由として華凛ちゃんのバイクがあるんだよ」
都の発言に華凛が「私のバイク?」
「そう、華凛ちゃんは太田君がおしっこから戻ってきたところで合流して一緒に来たけれど、もしかしたら太田君を追い越して先に海岸に来ちゃうかもしれない。2人が河原を通ってもし華凛ちゃんに追い越されでもしたら」
「確がに、滅茶苦茶怪すまれるぞ」
と太田がポンと手を打った。
「つまり都の友達は、全員確定的なアリバイがあるわけがないが、合理的に考えて犯行を決行する事は心理的にはあり得ないって事か」と長川警部。
「しかもそのきっかけは全て偶然の産物。そこに何かトリックを仕掛ける事は出来ないって事」
と都はにっこり笑った。松岡が「ふいー」と声を出し、華凛はソファーに座り込んだ。
「疲れた? 華凛」
「うん、ちょっと」瑠奈に華凛は微笑みかけた。
「さて、あんたらのアリバイ確認はまだだったな」
と長川警部は平本と冴木を見つめた。
「お、俺たちは民宿とコンビニに近くのトンネルを通ってあつみ温泉にいっていたよ」
と平本。
「そうよ。トンネルに防犯カメラとかはあるでしょう。私たちのアリバイは完璧よ」
「確かに」
長川警部は言った。「古市警部補に聞いたら、温海インター前の道路トンネルには確かに防犯カメラにあんたらの車は確認できた。だがそれはアリバイにはならない。それは犯行現場があった宮内トンネルはあつみ温泉駅のすぐ近くに続いているからな」
「何が言いたいわけ」冴木が声を震わせる。
「つまり、北側からトンネルに入って1.4㎞歩いて南出口近くで被害者の森庄司に会った」
「犯人は南側の出口から入ってきた人間に刺殺されたんだろうが」
と平本は長川を睨みつけた。
「だがあんたらならガイシャと知り合い同士だし南側に回り込めるよな」
長川は再現とでも言いたげに立ち上がる平本の周りをまわる。
「冗談じゃないわよ。なんで私がディレクターを殺すのよ」冴木麗子が金切り声を上げた。
「部屋に戻るわ」
冴木は階段を上がっていった。平本も後に続いた。
「ねぇ」
と冴木は2階廊下で平本を振り返った。
「まさか森さんが殺された理由って」と冴木麗子は平本を振り返った。
「もしアレだったら、私たちも犯人に狙われているんじゃ」
「バカな。望美の件は俺たち以外に知っている奴はいないだろう。俺とお前はずっと温泉にいたんだし、森が殺されたのは別の理由だよ」
サングラス髭の平本カメラマンは内心ビビっていたが「ハハハ」と笑った。
冴木はネイルを噛みながら凄い形相で考え込んでいた。
それを黒い影が物陰から見ていた。