少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

クローズ・ド・サークル殺人事件 5-6

 

5

 

【容疑者】

・淀川珠代(28):未亡人

・加越成太(22):無職

丸山太一32):編集者

和渕宏尚(46):作家

・城道一(71):執事

・赤城姫子(19):女子大生作家

・葛西楓子(20):メイド

篠栗筋男(35):弁護士

 

 捜査車両を長川警部は運転し、ひたちなか市の海岸にやってきた。都、結城、秋菜が降り立ったビーチの遠くに大海原が見える。

「ドラム缶が焼かれていたのはこのあたりだな」

と長川警部は砂浜に面した海岸植物の草原の広がる道路脇を指さした。

「まぁ死体そのものが発見されたのは朝なんだが、未明にもカップルが燃えるドラム缶の前でフードを被った人物がずーっと立っているのを目撃している。暗くてよく見えなかったが、間違いなく1人の人間が立っていたそうだ。あと周辺には黒の軽ワゴンも止まっていたらしい。そうだな、あんな感じの」

長川はそこまで言いかけて、現場に黒い軽ワゴン、そして人がいるのを見つめた。その人物はじっと大量に置かれた花束を見つめていたが、突然それを思いっきり足で踏みつけ始めた。

「何をしている」

長川がダッシュで走り出して叫ぶと、男は慌てる風でもなくこっちを見た。弁護士の篠栗筋男だった。

「レンタカーだ。わざわざこのクズ野郎を犯人が運んだ車種を選んだんだ」

篠栗は無表情のままで言った。

「それに恒久的な祭壇なら器物損壊に問われるが、置かれている花はその対象にするのは難しいだろう」

「しかし故人の尊厳を辱めるのは感心しませんなぁ」

と長川が不信そうな声を出す。

「こいつが文壇や言論で他人の尊厳を尊重した事があったか」

篠栗はそう言うと自動車に乗って走り去って言った。

「あいつ、アリバイはなかったんだよな」

結城は黒い車が防風林の向こうに消えていくのをじっと見つめた。

「まぁな。部屋にずっといたと証言しているよ」

と長川。

「城執事も大広間を何回も出ているし、銃声の時点でアリバイがあるのは加越成太と淀川珠代、葛西楓子、赤木姫子の4人だな。まぁあの銃声がフェイクだとしたら加越成太のアリバイがなくなるが、そうは言っても密室にサイレンサーなんかの類はなかったし、この密室を突破できる手段を生き残っている6人の誰も持っていない」

長川はため息をついた。

「とにかく今は丸山太一がどうやって第二の事件、滝宗太郎殺害のアリバイを作ったかだ」

結城が都を見つめる。

「今の長川警部の話だと、今見た篠栗さんみたいな怪しい人影と怪しい車がドラム缶を燃やしていたって事。と言う事は犯人が現場にいなければいけなかったって事だよね」

と都は散らされた花束の匂いを嗅ぐ。それを呆れて見つめる秋菜。

「ああ、そういう事になるな」長川は頷いた。

「現場からは時限発火装置の類は発見されていないし、一応カップルが目撃した黒い軽ワゴンについては防犯カメラを使った捜査で所有者が判明しているが、2年以上前に免許返納した老夫婦が住んでいた農家に置かれていた奴だったよ。車庫に返されていたし、いつ盗まれたのかさえ特定は出来なかった」

「と言う事はもし丸山がこの一件に関与していたとすれば、ますます共犯者がいなければ不可能って訳か」

結城は考え込んだ。

「ただ共犯説も微妙なんだよ」

長川は都を見た。

「丸山がアリバイを持っている理由は東京での仕事だったんだが、これ急に入った仕事なんだよ。ちなみに淀川珠代の第一の事件のアリバイも大阪の友人の頼みで急遽予定を早めたものらしい。交換殺人やアリバイ工作の共犯づくりが本当に出来るのかって疑問はちょっとあるんだよな」

「殺し屋でも雇ったんじゃないか。丸山って奴は」

と結城。長川は「検討は必要だろうな」と小さく言った。

「長川警部、あの大仏人形はどこに置かれていたの?」

ふと都がそう言いながら顔をあげると長川は「ドラム缶の中で焼死体が握っていたよ。死因は焼死。生きたままドラム缶に閉じ込められ、焼け死んでいる」と説明した。秋菜が「うっ」と声を出して口を押え、結城が「ひでぇ」と唸る。

「この大仏人形は淀川珠代さんが持っていて、そこから盗まれていたって事ですよね」

とメモを取りながらの秋菜の質問に女警部は頷いた。

「ああ、あの大仏キーホルダーは鎌倉の店の奥に置かれていてな。ここ1年や2年で買っていた観光客は8人、まず淀川夫妻と屋敷の事件直前にキーホルダーを購入した謎の人物。それ以外は全員特定出来た」

「特定?」結城が素っ頓狂な声を上げた。

「よく特定出来たな。こんなに時間がないのに」

「淀川進の熱心なファンだったんだよ。全員。つまり隠れアイテムだったんだ、あの大仏人形は。ネット上につながりがあって、割かし特定は簡単だったよ」

長川は結城を見つめた。

「そして購入者の中には事件の関係者が2人いたんだ」

「2人?」結城の声に都がきょとんと長川の方を向いた。

「1人は作家の女子大生赤木姫子、と言っても購入したのは5年前、中学生の時だった。それからあの弁護士の篠栗筋男。奴は2年前に特定している。特に篠栗は何か加越成太の遺産話以外の何かをあの館で調べていたらしい」

潮風に吹かれながら長川が話す。秋菜がぐいぐいくらいついて「滅茶苦茶怪しいじゃないですか」と声を上げた。だが長川は首を振る。

「だが、2人とも事情聴取の時にその大仏人形を提示している。そのほかの購入者も大仏人形の所在はちゃんと確認出来た。つまり別荘の密室殺人現場であの大仏人形を置く事が出来たのは」

「あの正体不明の購入者だけって事か」

結城が合点する。

「となるとやはり丸山の共犯が誰なのかってのが今後の事件の焦点になるんだろうな」

結城が都を見ると、都は「うーん」と考え込んでいた。

長川はポリポリと頭をかいた。

「出来ればそろそろ本庁に戻りたいんだが…都さん。丸山の共犯が誰かっていう特定は都の担当の範囲ではなく、警察がフットワークとハイテクで特定する分野だと思うぞ。実行犯が殺し屋とかならなおさらな」

「うーん。私も基本的にはそう思うんだけど」

都は胸を押さえた。

「あの密室の状況に何か疑問があるのか」

と結城が聞くと都は「別にあの部屋の状況には変な所はないんだけど」と言いつつ、少女探偵は両目をナルトにして頭を抱えて目を回す。

「なんかお腹の中がもわもわもわぶおおおおってするような嫌な感じがするんだよ」

「師匠がそう言っているんです!」

と秋菜が長川に詰め寄った。

「例え完璧な密室が存在し全ての証拠が密室内で2人の男が殺し合ったという事実を証明しているとしても、師匠がもわもわもわぶおああああしている以上、絶対に何か秘められた恐ろしいトリックが存在するんです。警部は黙って師匠に協力してください」

「は、はい」

と首をすくめる県警本部のやり手の女警部。

都はうーんと考えていたが、急に風に吹かれて「さぶ」と首をすくめた。

「海水浴の季節じゃねえなぁ」

と長川は呆れたように言った。

「おしっこ行ってくる」と都がペンギンみたいに体をすぼめながらトイレに走る。

「お前は一応JKなんだぞ。お花を摘むとか言わなくていいが、せめて排泄物の種類を言うな」

結城が窘めると、都は振り返って「いやん」と体をくねらせる。結城は調子を狂わされて「とっととウンコでもシッコでもしてこいや」と喚いた。

「全く何であいつはこうデリカシーがないのかねぇ」

トイレに消えていく都を見ながら結城は頭をかいた。

「私に言わせれば今のお兄ちゃんの方がよっぽどデリカシーがないけど」

と秋菜がジト目で睨みつける。そして「私も一緒にお花摘んでくるので」と嫌味たっぷりに言ってからトイレに向かう。結城は不貞腐れた。だがその時秋菜が真っ青になって戻ってきた。

「お兄ちゃん、警部‼ トイレから女の人の声が…助けてって。師匠がトイレの花子さんやないかって」

がくぶるするJCに長川は「トイレの花子さんは学校のトイレに出るんじゃねえの」と長川がぼやきながらトイレに向かう。

誰でもトイレの前で都が扉に向かって聞き耳を立てていた。

 長川が耳を澄ませると確かに「助けて、助けて」と震えるような悲鳴が聞こえてきた。同時に何やら赤ん坊の泣き声が聞こえる。

「嘘だろう」

長川は懐から拳銃を取り出し弾を数えた。都は誰でもトイレのドアに何かをし始める。そのなにかはお教えできないがドアの鍵が開いた。長川はドアを思いっきり開いて拳銃を向け中を確認した。

 誰でもトイレには凄惨な光景が広がっていた。床に広がる大量の血液。その中で若い女性が血の中で体を震わせ「助けて、助けて」と体を震わせながら、血だらけになって号泣する赤ちゃんを抱っこしてた。戦慄の光景に長川、そして都の目が見開かれる。

 

6

 

長川は誰でもトイレの隅々まで見回し、天井裏への扉も開けてトイレの天井裏を確認する。

「だ、誰もいないぞ」

長川はトイレの床に落ちていた理容師が使うはさみが血にまみれているのを見つけた。長川は(まさかさっきの篠栗が)と顔を戦慄させる。そして都に確認した。

「都、さっきの技って、外から鍵をかける事は出来ないよな」

「うん」

都は頷いた。「あくまで非常時の手段だから」

「って事は、み、密室殺人ですか。これ」

秋菜が戦慄する。

「た、確かに窓はねぇし」

結城はトイレの壁四方を見つめる。

長川はとにかく血だらけて震えながらも赤ちゃんを抱きしめ続ける若い女性、下半身が丸裸で震えている女性を助けようとするが、女性は赤ちゃんを抱きしめながらそれを拒否する。相当パニックになっているようだ。

「救急車を呼びますから、傷の状況を知りたいです」

と長川が訴えるが女性は「ああああああああ」と絶叫するだけだった。

「糞、いったいどうなっているんだ」

結城が戦慄したとき、都がパーカーを脱いでキャミ一枚になるとそれを笑顔で赤ちゃんにくるんであげた。

「えへへへ、こんにちは。いい子だね。大丈夫だよ」

都は呆然とする女性に笑顔で言った。

「お母さんも偉かったね。ちゃんと助けを求めてくれて」

女性は呆然としていたが「うわあああっ」と号泣した。秋菜がお母さんに上着を着せ、結城が携帯で救急車を呼んだ。

 

「あの女性は19歳の理容師。軽度の知的障害者だったそうだ」

長川は救急車がトイレの前から防風林に消えていくのを見てため息をついた。

「あの赤ちゃんの父親は彼女の勤務先の理容店の店長。無理やりだったらしい。妊娠した状態で店長から腹パンをされそうになり、親族も毒だったから、どうする事も出来ずにトイレで出産。臍の緒を理容師のハサミで切ったそうだ。問題解決能力が極端に低くてトイレの中で数時間混乱していたようだな。一応スマホは持っていたが店長の鬼電が怖くて開ける事が出来なかったみたいだ」

「酷い」

秋菜が声を震わせた。

「まぁ、スマホに上司の脅迫メールやラインがバッチリ残っていたから、もう終わりだよ。強姦の中でもかなり悪質だし、所轄は速攻で逮捕状を出すそうだ。まぁ、本庁の警部が当事者だしな」

長川は悪い笑みを浮かべた。

「クマ牧場の檻で服役して欲しい」

都がぼそっと言った。

「しかし誰だよ。密室殺人とか不可能犯罪とか言い出しやがって」

結城がため息交じりに全員の顔を見る。

「長川警部も銃を出しちゃって。内緒にしておいたけど」

「結城君だって、窓とか確認していただろう。それに血だらけのハサミが落ちていたら、誰だって」

長川が結城に食って掛かると「えへへへへ、みんなドンマイだよ」と都が笑うと3人はブチ切れた。

「「「お前(師匠)なんかトイレの花子さんとか言っていただろうがぁ(ってましたよね)」」」

「わあああああ」3人の剣幕に目を回して飛んでいく都。

「ああ、私は何をやっているんだ。本庁に戻らないと」

長川は目の下にクマを作って捜査車両に戻る。

「おい、都行くぞ」結城は振り返った。都は目をきょとんとさせて立っていた。

「師匠、どうしたんですか」

と秋菜。都は長川警部に「ごめん。もうちょっと付き合ってほしいんだけど」と呟いた。

「ん? トイレの花子さんは知らんぞ」

ジト目の長川警部に都は首を振った。

「違うよ。もあもあぶあああああああの正体だよ。ずっと私が感じてきた違和感の正体がわかったんだよ」

「い、違和感の正体?」

長川警部が訝し気に都を見つめる。

「そう」都は右手の指をパーにして「生き残っている6人の容疑者の中で1人だけ犯人たりえる人がいる」と人差し指を立てた。

 

 県警鑑識室。加隈真理は一息ついていた。その時スマホが鳴ったため、牛乳瓶眼鏡の女性鑑識は電話に出た。

「おお、都ちゃんか。長川警部に伝えておいてくれない。どこほっついているんだって。ん? あああ、はいはい。よく知っているね。実は私も変だなとは思ってはいたんだよ。え、うん…凄いその通りだよ。都ちゃん、君はエスパーですか…。うん。ええええええ、この人が犯人?」

日本がスペインに勝ったかのような絶叫を上げる加隈。

 

「ありがとう。じゃあねー。また一緒にあつ森やろうねー」

車の前で都は電話を切ってスマホを長川に渡した。そして長川を見つめる都。

「犯人は間違いなくその人だよ」

女子高生探偵の真っすぐな目は確信をもって長川と結城、秋菜を見る。

「ちょ、ちょっと待ってください。そんな事って」

秋菜が言うと都は頷いた。

「私は犯人の仕掛けた完全無欠のトリックに踊らされたんだよ。そして犯人はそのトリックで完璧な密室殺人を完成させた。それも誰かと共犯関係になることなくたった一人でね。でも犯人の目論見もこれで終わりだよ。この連続殺人の主犯である証拠を、犯人は今も持っているのだから」

 

 別荘は穏やかな朝を迎えていた。黒い犯人はバルコニーで写真を見つめていた。

「終わったよ…全て…」

「まだ終わっていないよ」

と声をかけられ、振り返ると小柄なショートヘアの女子高生が制服姿で立っていた。少女が笑顔で「こんにちは」と犯人に声をかけた。

「学校は午前中は公欠にしてもらっています。警察から私の学校にそう言ってくれたのです」

誰もいない、犯人と2人しかいない部屋で呆気にとられる相手の前で、都は話し始めた。

「私は今までたくさん事件に遭遇してきました。何でかな。その中でいくつかクローズ・ド・サークルって言われる事件にもあってきたんです。犯人は私たちを外界から隔絶するために橋を落としたり無線機を壊したり車を燃やしたり壊したり、そうやって山の中とか絶海の孤島とかに私たちを閉じ込め、連続殺人を完遂しようとしました。でも、この事件は今まで私が遭遇してきたクローズ・ド・サークル事件と決定的に違う点が一つありました」

「貴方の水筒に睡眠薬が入れられた事ですか?」

その人物はそういったが、都は首を振った。

「いいえ。それ自体私は初めての経験でしたが、私がいろんな事件を解決していた事を知っていれば睡眠薬を混入する事自体はおかしくはありません。もっと気をつけておけば良かったです。そうすればあなたにこんな悲しい殺人計画を半分で止められていたかもしれないのに」

都の顔が一瞬曇った。そして犯人の方を向いた。

「犯人はなぜクローズ・ド・サークルを作り上げるのだと思いますか」

都の唐突な質問に犯人は「標的を全て殺すためでは」と答えた。都は頷いた。

「確かにそうなんです。犯人はアリバイトリックを仕込んで憎い標的を複数皆殺しにするために、クローズ・ド・サークルを仕掛けます。普通はそうです。でも今回はそれがおかしいんです。だって2人が死んだとはいえ、和渕さんと丸山さんが一緒に死んでいるわけですから、殺人事件は一件目で終わっているんです」

「それは実行犯の丸山が和渕に反撃され死んだからでは」と黒い犯人。

「犯人の丸山はまだ殺人を続けるつもりだった」都は犯人の言葉を引き継いだ。

「だから橋を落としたんだけど、和渕さんを殺そうとして一緒に死んでしまい、それを果たすことが出来なかった…だとしても」都は犯人を見た。

「だとしてもおかしな点が残るんです」

都はここで確信を言った。

「橋が爆破されたタイミングです。それが私がずっと感じていた疑問の正体でした」

犯人の目が見開かれた。都は構わずに話を続ける。

「クローズ・ド・サークルは確かに大勢を殺す、それもトリックを仕掛けて殺すには犯人にとって都合がいいです。でも一方で欠点もあるんです。それは標的に警戒されてしまいやすいという事。だから私が今まで出会ってきたクローズ・ド・サークルの犯人は、第一の被害者を殺してから橋を落としたり車を爆発させたりしていました。だってそうすれば少なくとも第一の殺人は標的を殺しやすくなるし、トリックも仕掛けやすくなる。クローズ・ド・サークルの事件あるあるで第一の事件でメイントリックが出やすいのは、被害者を騙したり大掛かりなトリックに嵌めやすかったり、最初の殺人でアリバイを作り、残りの標的の警戒心を解く事が出来るから」

制服姿の小柄な女子高生はじっと犯人を見つめた。

「私が今まで出会った犯人は探偵の心の裏を読むタイプだったので、第一の事件がメイントリックとは限りませんが、でももし犯人が連続殺人をこの館でしようとしていたら、橋なんて落ちているはずがないんです」

女子高生探偵は犯人を見つめ宣告した。

「それに気が付いたとき、私は犯人の正体に気が付きました。犯人は貴方です」

 

さぁ、全てのヒントは提示された。

今回の犯人は共犯者ゼロ。たった1人です。生き残っている6人の中にいます。

完全無欠の密室殺人を達成した犯人は一体だれか。

 

・淀川珠代(28):未亡人

・加越成太(22):無職

・城道一(71):執事

・赤城姫子(19):女子大生作家

・葛西楓子(20):メイド

篠栗筋男(35):弁護士