少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

能面高原殺人事件 導入編

少女探偵島都大晦日SP
【能面高原殺人事件】

 1年前―。茨城県水戸市にあるスーパーマーケット「センターサン」倉庫。
「オルァアアアア」
天井から吊るされていた人物を社長の元山孝信が思いっきり鉄パイプで腹を殴打する。ぐぼっっと声を上げて天井から吊るされていた人物が血を口から吹いてひゅーひゅー音を立てる。
「キャハハハハハ、こいつ泣いているよ」
甲高い女の声が聞こえてきた。
「社長を裏切ろうとするなんて本当に馬鹿だよねぇ…」
女が煙草を吸いながら逆さ吊りで息をしている血みどろのワイシャツの男の顔に煙草を押し付ける。
「やめておいてくださいよ…」
元山の専属医の岩沼達樹が冷酷な声で言った。
「僕がこいつの死亡診断書を書くんですからねぇ…あまり顔に根性焼の後を付けられると面倒なことになるのは僕なんですよ…」
「はーい」
女がしゅんとした様に医師を見つけた。
「し、死亡診断書…」
逆さにされた男が消え入りそうな声で言った。
「本当にやるのか…」
元山社長の声が震える。
「大丈夫ですって…こいつは親戚にも嫌われてて親身になってくれる人間など一人もいない。顔だけまともだったら体がぐちゃぐちゃでも死亡診断書一つで死因はどうにでもごまかせますよ…」
岩沼の顔は残虐だった。彼は鉄パイプを取ると
「全ては僕にたくさん報酬をくれない社長が悪いんです…。ストレスたまっているんですよ…。だから僕のストレス解消の為に死んでくださいな」
岩沼は鉄パイプを振り上げると物凄い勢いでそれを吊るされている人物の雇用府に見開かれた顔にフルスイングした。ゴキッという音が何度か響いた後、顔がぶよぶよに腫れあがった死体を前にして岩沼は薄ら笑いを浮かべた。
「良かったでしょう社長…。あなたは直接手を下していない…殺したのはこの僕…」
そう言って振り返った岩沼の顔は目が見開かれたままの笑顔で殺人願望を達成した悪魔の顔であった。その顔に元山社長とその愛人も戦慄せざるを得なかった。

 一年後、吹雪が吹雪いていた。
 白面の復讐者は雪原に立っていた。全ての準備は整っていた。後は許しがたい連中がこの雪原にやってくれば復讐の惨劇は幕を開ける。あの時河原でこの人物の大切な人の遺体が上がったとき、リンチじゃないかというこの人物の声を所轄の刑事たちは無視した。あの時から愛する人がどれだけ苦しみ恐怖し死んでいったか…その想像だけがその人物の体を業火で炙る様に苦しめている…だがこの苦しみからもきっと解放されるのだ…。
 許しがたいあの3人の命をもって…。

 茨城県北部八溝山――。
 水郡線無人駅を降り立った茨城県常総高校のメンバーたちは一様に思った。
「寒いよ!」
「だから重ね着してきなって言ったのに…」
高野瑠奈はため息をつきながら駅の待合室で震えている長身の結城竜とゴリラみたいにごつい北谷勝馬、ポニーテールの薮原千尋を見た。
「寒さ対策はしてきたんだぜ。ちゃんと防寒着も着て来たし…」
「冬山は下着やインナーも含めて完全防備じゃなきゃダメだよ。千尋もスキニーなんて来て来ちゃだめだよーー」
「だって基本的に温かい屋内で観測会するんでしょう。冬山登山するんじゃないから…これくらいで大丈夫だと思ったんだもん」
黒髪美少女の高野瑠奈に呆れられて薮原千尋は抗議する。
「そういえば都の奴は」
勇気がもう一人の探検部一のトラブルメーカーで一応このシリーズの主人公である島都を探してあたりを見回す…すると都は待合室前の広場で
「雪だ雪だぁああああ。結城君、千尋ちゃん…勝馬君…雪だよ雪! 雪合戦だよーーーー」
と大はしゃぎしている。
「なんか、都の方が正解というのもむかつくな…」
いつもは彼女の保護者的な役割を果たしている結城が寒さに震えながら言うと千尋もうんと頷いた。
「まぁ、この人も相変わらず探検部の残念組だけど…。あれ」
待合室の隣にいたはずの北谷勝馬がいないことに気が付いた薮原千尋がふと外を見ると茫然とする都の前で雪だるまを作っているトランクス一丁の勝馬が恍惚の表情で何かをうたっている。
「今日も天気がポカポカ――――♪ 春だよ春だよーーーー♪」
「ねえ結城君…」
瑠奈が真っ青になって言った。
「あれ、矛盾脱衣って奴じゃない?」
結城は小鳥のように歌っているゴリラ男の傍に走り込んで拳骨一発で気絶させた。
「何をしとるんじゃボケェ」
半裸の勝馬を抱え上げながら結城は千尋に「こいつの服を着せるの手伝ってくれ」と叫ぶと、千尋は腐りきった笑顔でカシャとスマホで半裸の勝馬を抱える結城のその様子を撮影して、結城の顔にピキピキマークを付ける。
 その時一台のミニバンが雪化粧の駅前広場にやってきて助手席から中学2年生…結城の従妹の結城秋菜が「師匠! こんにちはー」と笑顔で降りてきて、結城と半裸の勝馬が絡み合っているのを見て…絶句し…そして…。
「いやぁああああ…お兄ちゃんの馬鹿ぁぁああああああああ」
と絶叫して回転回し蹴りで結城を吹っ飛ばした。
「とばぶっ」
肩で息をして真っ赤になっている秋菜の前で勝馬と折り重なる様に雪原に長々と横たわる結城…。
「な、何故だぁ」
と頭上で意識を回しながらこと切れ、それを笑顔で千尋がもう一枚撮影する。

「全くひどい目に遭ったぜ…」
結城がミニバンの後部座席で顔をガクガクさせた。
「フグオオオオ…生き返るぅううう」
助手席で勝馬がヒーターの風で恍惚している。
「びっくりしちゃったよ…勝馬君いきなり脱ぎだすんだもん」
小柄なショートヘアの島都は心配そうにその後ろから勝馬を見る。
「はははは、相変わらずドタバタが絶えないですね」
車を運転するのはこれから行くロッジのオーナー川又彰吾(58)だった。髭面でがっしりした山男だ。
「秋菜君が食事で話していた通りだ」
「この人は私の友達の親戚でこのロッジの経営者の川又さん…私がインフルでぶっ倒れた友達の代わりに泊まり込みでお手伝いしたお礼に皆さんを招待してくれたの」
「本当助かりました。私たち冬合宿の準備全然していなかったから…」
高野瑠奈がお礼を言った。「秋菜ちゃんもありがとね」
「いえ…私だって探検部の準メンバーで都師匠の一番弟子ですから」
「合宿ではどんなことをするんですか」
川又が聞くと、
「周辺でソリ滑りをしたり雪だるまを作ったり天体観測をしたり大富豪をしたり肝試しをしたり…温泉に入ったり、あと秋菜ちゃんが持ってきたスキー道具を交代で借りて簡単にスキーをしようかなって…」千尋
(つまり結局単発的な計画しか立ててないって事だよな)
「それは良いですね…青春だなぁ…」
川又が笑った。
「でも私たちの合宿っていっつも殺人事件とかが発生してやりたい事の半分も出来てないよね…ほとんど殺人事件解決部になってるじゃん」
「薮原…それは言ってくれるな」
結城は顔をシートにうずめながら唸った。
「そうですよ千尋さん…師匠が事件を呼んでいるんじゃありません…事件が師匠を呼んでるんです」
秋菜が都を抱きしめながら言った。
(フォローになってねぇ)
結城が心の中で突っ込みを入れる。
「大丈夫だって…治安のいい日本で殺人事件なんて起こらないから。ロッジに性格の悪そうな社長と愛人、その腰巾着といった過去に何かやらかしていそうな人がいなかったら大丈夫だって」
千尋がぱんぱんと心の声を呼んだかの如く結城に話しかける。

 だがロッジについたとき、その玄関のロビーで彼らが見たものはまさにその性格の悪そうな社長とその愛人、いかにも取り巻きといった感じの医師だった。
「おやぁ…これはこれはかわいいお嬢さんたちだぁ…こんなぴちぴちの女の子たちと一緒になれるなんて嬉しいなぁ」
ロッジの木造のロビーのソファーを占領していた髭の好色そうな男がへらへら笑いながら瑠奈と千尋に近づいてくる。
「お嬢さん…こっちに来て…県議会議員の私が面白い話をしてあげよう」
「全部先生の自慢話よ」
愛人と思しき20代後半のけばけばしい化粧の女がキッと瑠奈と千尋を睨みつけながら社長を抱きしめるように連れ戻す。
「なんだよ…かわいいお嬢さんとお話ししようとしただけじゃないかぁ」
「社長には私がいるでしょ私が」
おっぱいを社長に押し付けながら体にまとわりついてソファーに座る愛人。
「君たち…こうやって女は武器を使うんだ。君たちも覚えておくといいよ…特に君はね」
瑠奈の胸のあたりをあからさまに見ながら端正な顔立ちの長身の男が好色に笑った。
「おいおやじ…いい加減にしないと…」
いきり立つ結城を手で制しながら川又オーナーは決然と言った。
「岩沼様…他のお客様にこう言う発言をすると出て行ってもらいますよ…冬山に放り出されたくなければ節度を持った振る舞いをお願いします…」
「冗談ですってば」
医師の岩沼達樹(39)はへらへら笑った。
「オーナー…この先生は県議会議員よ。こんなおんぼろロッジなんて政治力でいつでもぶっ潰せるんだから」
県議会議員でスーパー経営者の元山孝信(54)に抱きしめられながら愛人の三竹優子(27)が言ったが、川又オーナーは
「どうぞ…私はお客様に快適にこのロッジで過ごしていただく義務がありますから」
と決然と言った。
「おーい、三枝君」
「はーい」
そばかすが目立つ髪の毛をシニオンにしたエプロン姿の女の子がパタパタ階段から降りて来た。
「三枝君…この子たちを2階の部屋に連れて行ってくれた前…都さんは秋菜君の部屋で一緒でも大丈夫ですよね」
「ほーい」
都は両手を上げて返事をした。

「お部屋の方は、都さん、秋菜ちゃんと瑠奈さん、千尋さん…そして結城さんと勝馬で分けましたけれどよろしかったでしょうか」
瑠奈と千尋の部屋で従業員の三枝典子(18)は確認した。
「異議なし」「異議なし」女子2組は手を上げたが、結城と勝馬は「異議あり」とげっそりした表情で手を上げた。三枝が困った顔をする…。
「なんでこんな奴とまた相部屋なんすか」と勝馬
「それはこっちの台詞だ…いびきうるせえし気色悪い寝言言いながら俺を蹴り飛ばしてくるし」と結城。しかしそれを無視して瑠奈が
「2人とも意義ないようです」
と異論は認めなかった。
「えええ、私は結城君と一緒に寝てもいいよ」
都がそう言って結城が一瞬赤くなると、瑠奈が
「じゃぁ女の子の中で勝馬君と一緒に寝てもいい人いる?」
誰も手をあげない…結城はため息をついて…「いいよ…男子2人」しかいないし仕方ねえ」とため息をついた。落ち込んでいる勝馬を見ると可哀そうになってきた。
「お客さんは私たちと殺人事件の被害者にいかにもなりそうな下の人たち以外誰かいるんですか」
千尋が聞くと、典子は「はい、東京の大学生の方と、あと一人…」
雪山でフードをかぶった男がゆっくりと近づいてきていた。
「私のことかな?」
突然現れた坊主頭の男が言った。
「いいえ、あなたは数に入れていません。お客様じゃないんですから」
と三枝はキッと坊主頭を睨みつけた。

2

「そんな怖いこと言わなくてもよろしいでしょう」
坊主頭の初老の男は太った体を無理やり部屋の中にねじ込んで挨拶した。
「私は不動産業をやっております昌谷正和といいます」
昌谷正和(59)は赤ら顔でへらっと笑った。
「実はこの土地一帯を購入させていただきたいと思いましてな…こうしてオーナーにお伺いを立てているのですが」
「買い取ってどうするんですか」
千尋が聞くと「ま、レジャーランドを建設するという事だそうです」
「レジャーランド?このご時世に?」
千尋がすっ頓狂な声を上げた。
「嘘です…目当てはこの辺の水源だそうです…水道が今度民営化されるって話になっているじゃないですか…そのための水源を確保して民間企業に売るつもりなんですよ」
「こらこら…若いもんが知ったような口を利くんじゃありません。そんじゃぁ皆さん今晩一日よろしくお願いしますねー」
昌谷はそう言って歩き去っていった。
「この人も殺されそうねー」
瑠奈が目をぱちくりさせた。探検部の良心のブラックな発言に結城と千尋が振り返った。

「いえーーーーい」
近くにある丁度いい丘の上から秋菜から借りたスキーで瑠奈が華麗に滑っていく…。
「瑠奈スキーうまいじゃん…やったことあるの?」
下で待っていた千尋が感心したように言った。
「両親と中学の時は新潟の方に…」瑠奈が恥ずかしそうに笑った。その後ろを巨大な雪だるまがゴロゴロ回転していく…。千尋はえっと声を上げて瑠奈と振り返ると…雪だるまが小さな崖を飛び越えて見えなくなりバシャーんと落っこちた。
「きゃぁああっ、ナニコレいやぁああああああ」
愛人の三竹の悲鳴が聞こえてくる…。そしてうぎゃぁああああああという都の声が聞こえてきた。
「あれ、今の都?」
瑠奈が恐る恐る崖の下を見てきゃっと悲鳴を上げ、千尋が「おーおー」と声を上げた。
「お取込み中申し訳ありません…」
そこにあったのは温泉…そこに突っ込んだ都…全裸の議員…全裸の愛人だった。
「あんたたち何見ているのよ…あっち行ってよ…」
「も、申し訳ないっす…」
雪を降りて来た結城が息を切らすと三竹はぎゃぁあああっと悲鳴を上げて全裸の議員に抱き着いた。
「都…早く上がってこい…」
結城が声を上げるが都は議員の物を見てしまったせいか、真っ白になったまま動かない…結城は「失礼しますよ…」と温泉にあおむけになっている瑠奈を回収して連れていく…。
「あのー…落ちてましたよーーー」
勝馬が乱れ堕ちていたニット帽を拾い上げて緊張したまま三竹優子に渡そうとしたが、三竹はそれを奪い取って「ゴリラみたいな手で触らないでよ!」と叫びながらお湯でごしごしニット帽を洗い始めた。心が折れた勝馬を片手で引きずりながら結城は退場した。

「おおお、うまそうなシチューだ…」
金髪に色黒のチャラそうな大学生江崎レオ(21)が感嘆の声を上げる…。
「やっぱり冬はシチューよね」
ふわふわ髪型の槇原玲愛(20)が「いただきまーす」とシチューを口に運ぶ…。
「ぶえっくしゅい」
しかし食事を台無しにするくしゃみがロッジの食堂でショートヘアの女子高生から発せられた。
「ほら、鼻をかんで」
瑠奈が都の鼻をティッシュでちーんする。
「ぶえええ、本当に怖かったよーー。変なものを見ちゃって」
そう言う都をテーブルの端っこから殺気立った目が6つ見つめている。
「なぁ、君たち…。食事が終わったらゲームをしないかいこのロッジビリヤードがあるんだ」
イケメン医師の岩沼が早速大学生グループの黒髪でおとなしそうな青山はすき(20)に声をかけている。玲愛が「えええ、面白そう…やるやる!」と声を上げた。
「君たちは?」
岩沼が聞くと瑠奈は
「いえ、多分あちらの方が承知しないんじゃないかと…」
殺気だった目を見ながら瑠奈は苦笑した。

 午後5時、ゲーム室から談笑する声が聞こえてくる。
 それを見ながらキッチンで洗いものをする秋菜。瑠奈がにっこり笑って「手伝うよ」と言った。
「え、良いですよ…私の仕事ですから」
秋菜が言うと瑠奈は首を振って「秋菜ちゃんが頑張ってくれたおかげで私たち合宿で来たんだもん。中学生に甘えちゃダメ」
「そうですか…じゃぁ、洗い物をお願いします。師匠は大丈夫そうですか?」
「大分グロッキーだけど千尋が付いてる。勝馬君は今お風呂…。結城君はゲーム室で大学生に誘われてビリヤードに付き合わされてる」
「結局ゲームに付き合わされているじゃん」
秋菜はため息をついた。
「玲愛さんがはすきさんの為に無理やり結城君を誘った感じだったけど…」
「師匠が聞いたらさらにグロッキーになりそうです…」
秋菜は言った。

 午後6時―。三竹優子は頭を押さえてゲーム室のソファーから立ち上がった。
「あー、飲み過ぎた…私部屋で寝るわ…岩沼先生は元山先生を後でちゃんとベッドに連れて行って」
三竹優子は立ち上がった。
「無理ですよ…元山先生は爆睡していますし…」
「無理というから無理なのよ…頭使いなさい」
そう言って三竹優子は部屋を出ていく…。岩沼は彼女が出ていくのを確認すると元山議員そっちのけでビリヤードに割って入る。
「随分と盛り上がっているね…君たち…どんな感じなんだい…」
「結城君が圧倒的に強くて…」
はすきが緊張した笑顔で言うと、いきなり岩沼が彼女の背後から腰に腕を巻き付けて右手を持ちながらゆっくりキューを持つ姿勢になる様に促す。
「ほら、僕が教えてあげるよ」
「やめなよおじさん」
玲愛が怒って岩沼に立ちふさがる。
「いいじゃないか…彼女はボッチ何だろう…出会いを求めてここに来たんじゃないのか…僕は医者だぞ…それも議員専属の医者だ…。僕のものになれば将来は安泰だぞう」
「ふざけないで…はすき…嫌がっているじゃない…」
「うるせぇ」
岩沼が大声をあげた。
 が、その時結城がキューを岩沼に突きつけて低い声で脅しつけた。
「いい加減にしないと玉の代わりにお前の頭をつくぞ」
「そんなことをしたら高校生と言えど君の人生も終わりだぞ」
「仲良く人生終了するか」
結城にすごまれた岩沼はちっと舌打ちして不機嫌そうに席について酒を煽りだした。

「はぁ」
女湯の露天風呂の中で、秋菜は恥ずかしそうに顔を半分沈めて泡を吹いた。
「お兄ちゃん本当最低。オーナーの第一印象はパンツ一丁の勝馬君と絡み合ってるんだもん。ほんと不潔ですよ」
「あれはしょうがないよ…千尋が面白がっちゃっていたのが悪いし」
瑠奈は苦笑した。そんな瑠奈の胸をじっと見て秋菜は
「瑠奈さん…着やせするタイプなんですか…」
と目を丸くした。
「え…あ…でも私も秋菜ちゃんと同い年の位は…そんな大きくなかったよ」
「え、じゃぁ私でも瑠奈さんみたいになるチャンスがあるって事ですか」
秋菜が瞳を輝かせる。
「どうやればそうなれるんですか! やっぱりマッサージとかですか?」
「あ、えええと…あ、でも秋菜ちゃんの胸だってかわいいと思うし、14歳はまだ成長期だからどんな胸になるかわからないよ」
瑠奈に言われて秋菜は真っ赤になってお湯の中で自分の胸を両手で包む。そして天を仰いだ。
「私背が高いのに胸が小さいんですよ。せめて背が小さくて胸も小さいのならいいのに」
「それは都が可哀そうかな…」
瑠奈は苦笑する。中学生の時は瑠奈も胸の大きさで相当悩んだような気がする。
 2人でお風呂を上がって防寒着で母屋に戻る途中だった…。何か明かりのようなものがふんわりと浮いているのが見えた。
「瑠奈さん…あれ、人魂じゃないですよね」
秋菜が瑠奈のジャンパーを掴んでしがみつくようにして声を震わせる。
何だろうと雪舞う闇夜を凝視する瑠奈。それは蝋燭の光だった。蝋燭を持った白い浴衣を着た人物が立っていた…その人物がゆっくりと瑠奈と秋菜を振り返った。
それは能面をかぶっていた。不気味に笑う中将の能面。その奥に見える底知れない憎悪。そしてそれはさっと離れの陰に消えていった。
 瑠奈はぺたんと尻餅をついた。幽霊よりも恐ろしい人間の憎悪が具体化された何かを瑠奈は目撃したのだ…。
「あ、秋菜ちゃん…」
「見ました…今の丑の刻参りですよね…」
秋菜はしばらく声を震わせていたが、やがて立ち上がって瑠奈を絶たせると湯冷め寸前の体を震わせながらなんとか歩いてロッジに戻ってきた。
「どうしたんだ…」
ゲーム室から自販機に行こうとして2人に遭遇した結城は真っ青な2人の顔にびっくりした。
「お兄ちゃん、丑の刻参り…丑の刻参りを見ちゃったよ」
「丑の刻参り? なんじゃそりゃ」
「結城君本当。白装束に蝋燭をもって能面をかぶった変な人が離れの方に歩いて行ったの」
「何馬鹿な事を言っているんだ…この辺には半径5㎞にこのロッジしか有人施設はないんだ。ここに宿泊している関係者以外誰かがいるはずないじゃないか…」
結城は少し考えていた。
「ひょっとしてオーナーか?」
「どういう事?」
「いや…実はオーナー離れの鍵がないってさっきトイレに行ったとき探しているのが見えてさ…。もしかしたら母屋に行ったのかもしれない…」
その時だった。外から「うわぁあああああああ」と男の悲鳴が聞こえた。結城は弾かれた様に走り出し、岩沼と江崎が後に続く…。離れの方に行ってみるとその入り口で男が尻餅をついて雪の上で震えていた。プレハブの離れの天蓋付きのベッドの上に日本刀が突き刺さった肉体が見えた。その乳房にぐさりと日本刀が突き刺さっている…。カッと見開かれた目…三竹優子の死体がそこにあった。