少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

能面高原殺人事件3 転回編1

能面高原殺人事件3 転回編1


 探検部の冬合宿に茨城県の小さな温泉スキー場にやってきた私たちは、その日の夜瑠奈ちんと秋菜ちゃんが不気味な能面を付けた正体不明の人物を目撃。その直後に宿泊客の三竹優子さんの遺体を発見する。現場の状況から遠隔殺人トリック自体はすぐにわかったんだけど、そのトリックを使いなおかつメリットがある人が宿泊客や従業員さんにはいなくて、私たちは謎にぶち当たった。
そして千尋ちゃんが吹雪から不気味な声を聞いたのが第二の殺人事件の幕開けだった。離れの東館で元山孝信社長の惨殺死体が発見された。

【容疑者】
元山孝信(54):議員。小売店社長。
三竹優子(27):元山の愛人。
・岩沼達樹(39):議員専属医。
・青山はすき:女子大生
・江崎レオ(21):大学生
・槇原玲愛(20):女子大生
・川又彰吾(58):ロッジオーナー
・三枝典子(18):ロッジ従業員。
・昌谷正和(59):不動産業者

「くそっ…」
ロッジにいた全員が集まる中で元山の死体を検分する岩沼医師を見ながら結城は歯ぎしりした。
「死亡推定時刻は30分以内。時間はそう経過していない…。結城君、君と社長が部屋で会話していたのは死体が見つかる30分前から20分前だったんでしょう」
「ああ」
結城は唸った。
「この時元山社長は確かに部屋にあった子機から電話していた。時間は夜の23時43分から57分の間…間違いない」
「という事は元山社長は電話を切ってからすぐにこのロッジに歩いて行って殺されたって事になるわよね」
瑠奈が結城の後ろからおっかなびっくり声を上げる。
「ああ、俺もその様子は見ているよ」
岩沼は言った。そして怯える瑠奈に
「なんか正気のない幽霊みたいな顔でなぁ」
と嬉しそうに反応を楽しんでいた。
「でも変じゃありませんか?」
秋菜は言った。
「元山社長はお兄ちゃんとまた電話で話をするって言って電話を切ったんですよね。でも電話に出ないですぐこの東館に歩いて行って殺されました。なんでそんなことをしたんでしょうか」
「お前が聞いたのはテープレコーダーなんじゃないか?」
勝馬が訝し気に言ったが結城は首を振った。
「いや、間違いなく会話は成立していた。あれはあらかじめ録音しておいたものじゃない。元山社長がいなくなった部屋にはちゃんと電話の子機が置いてあったし、間違いなく元山社長は俺と会話する間ずっとあの部屋にいた。つまり元山社長が東館に歩いていく時間10分と…下り坂だから行きよりは短いとは言っても犯人が本館に戻ってくる時間合計15分が必要と考えると、俺が電話を切った5分に出会っている青山さんと岩沼医師は犯行は不可能…」
「俺たちだって犯行は不可能だぞ」
大学生の江崎レオが声を上げた。
「俺と玲愛の2人はずっとキッチンで談笑していたんだ。こういう事件では部屋に閉じこもる方が危ないって言うだろう。オーナーや典子さんも一緒だった…。お前らがあわただしく玄関出ていくのも一緒に見ていたぜ」
「そうよ…私たちは犯人じゃないわ」玲愛がうなずく。
「みんなずっと一緒にいましたか?」
川又オーナーに秋菜が聞く。
「あ、いえ」口ごもるオーナー。すると従業員の典子が声を震わせた。
「あの私は…5分ほど用事があって席を外しました」
「席を外したのは1回だけ? その時俺らの部屋に姿を見せましたよね」と結城。
「はい」
「じゃぁ君は犯人じゃない。俺はあの時元山社長と電話をしていましたからね」
「となると犯人として怪しいのはお前だなぁ」
岩沼はさも意地の悪そうな声を出して不動産業の昌谷正和を睨みつけた。
「な、なにを言っていますのか」
昌谷が作り笑いを浮かべて後ずさる。
「いいか。結城って奴が社長に電話をかけた時、本館にいた奴全員にアリバイがあるんだ。そして俺たちは社長の電話が鳴りやんでから社長を追いかけて東館に向かっている。誰かが社長を殺して本館へ戻ろうとすれば絶対に俺たちとかち合うはずだ。つ・ま・り…東館にずっといて第一の事件を含めてアリバイがないお前だけが、この殺人を成し遂げられるってわけだよ」
「そ、そんな…」
昌谷は声を震わせる。
「結城、北谷って言ったっけ…こいつをとっとと捕まえろよ。こいつが殺人鬼だぜ…」
岩沼が醜悪な顔で振り返った。
「JK探偵…お前もそう思うよな…」
「あれ、都は」
瑠奈が周囲を振り返る。毎度のことであるが女子高生探偵はふらふらとどこかへ消えてしまった。
「もしかして本館に帰っているのかも」
千尋が声を上げた。「私ちょっと見てくるわ」
「俺も千尋さんと都さんをお守りします」
勝馬は意気揚々と千尋を追いかける。

吹雪の中道を見失わないように本館の明かりを頼りに歩く2人。
「やっぱり犯人は昌谷さんなんでしょうか」
勝馬は声を上げた。千尋
「私は違うと思う…これ絶対何か犯人はトリックを仕掛けてあるパターンだよ。それに私が思うのに次に殺されるのはあの岩沼って変態だよ…いかにも過去に悪い事をしているって気がするし」
「ええ、あの人は悪い事をしています」
突然背後から女の声がしてびっくりした。振り返ると従業員の三枝典子が懐中電灯片手に立っていた。
「迷うといけません。私が先導します」
典子はそれだけ言うと2人を先導するように歩き出した。
「岩沼医師が悪い事をしたって言うのは?」
「私の中学時代の先輩を殺したことです」
典子は静かに言った。千尋勝馬も呆気にとられた。
「あの医者は私の中学校の校医をしていましたが、いつも笑顔な私の親友、籠原さやかはこの医者に胸を見せるのだけは涙を出すくらい物凄く嫌がって仮病を使って休んだりしていたんです…。私は変だなって思いました。中学卒業して高校生になって…でもその直後にいくら電話してもさやかが返事をくれなくなっていたんです。私は心配になってTwitterを見ました…」

 お風呂上がりに自宅でスマホをいじる典子。彼女のTwitterを見た典子は驚愕した。そこには典子の裸の画像が投稿され「これでRT稼いでお小遣い欲しいな❤」「エッチ大好き!」と書かれていた。
 あわてて典子は自室のノートPCでさやかにDMした。「さやか、どうしたの? 大丈夫?」と…。そうしたら「うるせぇよ、親友ツラすんな。あざといんだよ」とDMが来た。

「どう見ても誰か別の人が勝手に書き込んでいるじゃない」
千尋が声を震わせた。
「私もそう思いました。私は必死でさやかを探しました。でも前に遊びに行ったさやかの家は別の人の表札がありました。警察に相談しても聞いてもらえなくて…。そんな時に授業中に私の携帯電話が鳴って…公衆電話からだったんですが私妹が入院しててそれで何かあったのかと思って電話をかけると」

典子は大慌てで先生に「先生! 家族から緊急の連絡です。ちょっと外でかけてもいいですか?」と言って携帯に出た。すると
「典子…私さやか…ごめんね…私逃げるから…また遊ぼうね…」
と震える声がしたあと電話を切った。

「私はそのまま校舎を飛び出しました…。そうしたら…校舎のすぐ外で…突然あの岩沼って医師に呼び止められました…」

 中学校の校医の岩沼は息を切らして不気味に声を震わせながら狂気に目を見開いて言った。
「君…籠原さやかの親友だろう…。さやかが今どこに行ったか知らないか?」
典子はその声に恐怖を感じた…。咄嗟に「し、知りません」と声を震わせたが、岩沼は彼女の肩を掴んで
「何か知っているんじゃないか? だからこんな時間に学校の前にいるんだろう?」
「知りません! 放してください!」

「さやかの遺体が河川敷で見つかったのはしばらくしてからです…入水自殺という事でしたが…私には信じられませんでした」
吹雪の中で典子は立ち止まって言った。
「だってさやかの検視をしたのはあの岩沼って医師だったんですから! きっとさやかの死には何かあるに違いないと思っていました…私は岩沼医師をずっと尾行していました。そうしたら元山議員の事務所に出入りをしているのを見てしまったんです…そこで私は髪型と名前を変えて、HPで公開されていた元山が趣味で大晦日に必ず来るこのロッジで働くことに決めたんです…」
「って事はあなたは三枝典子さんじゃない!」
勝馬は素っ頓狂な声を上げた。
「本名は今宮優奈っていいます」
その時の典子の笑顔は素朴な少女ではなく何かどす黒いものに満ちていた。
「おかげで随分いろんなことがわかりました。元山社長と三竹優子夫妻が私の親友さやかを…あいつらが経営するスーパーの従業員だったさやかを風呂に沈める虐待を加えて殺したって事がね。岩沼医師はさやかを全裸で吊り上げてボコボコになるまで暴行した事も会話でわかっています…。この事件がそんなさやかの復讐だとしたら…次に殺されるのは岩沼医師なんじゃないでしょうか」
典子はゾッとするような冷たい声でそう言うと歩き出した。
「の、典子さん」
勝馬が女の執念に戦慄する。と、その直後だった。突然吹雪の中から何かが聞こえてきて千尋の顔が真っ青になる。
勝馬君! 聞こえる?」
千尋の顔が戦慄している。勝馬が慌てて耳を傍立てると、何かが唸るような声が聞こえてくる。何かを呪うような不気味な声が…。
「うひゅあああああああああああ、出たぁああああああああ」
勝馬が悲鳴を上げて千尋にしがみつく。典子も心底驚いたようにあたりを見回した。
「この声…わわわわわ、私がトイレで聞いた声…やややややっぱり私の空耳じゃなかったのよ」
恐ろしい声はなおも轟いている。
「何があったんだ!」
結城が大声をあげながら道を転がる様に駆け下りて来た。
「結城君…結城君にも聞こえるでしょ」
千尋が口をパクパクさせて悲鳴を上げた。結城は吹雪に耳を澄ましていたが、すぐに驚いたように声を上げた。
「確かに…」
結城は心底震えた…この不気味な声は一体何なのか…地獄から響いてくる声は…。
その音はしばらく響いてからやがて消えた…。
「なんだったんだ今の」
結城はため息をついた。
「犯人が流したんじゃねえか。この吹雪の中から…」
勝馬が言うと結城が「何のために」と疑問を返した。千尋は考え込んだ。
「次の殺人事件を引き起こすために…」
「待てよ」
結城は声を震わせた。
「今この本館に一人でいるのは都だけじゃないか!」
結城は弾かれた様に走り出した。勝馬千尋も真っ青になって走り出した結城の意味が分かり、大慌てで走り出す。何故か典子だけは冷静な顔でそれを見送っていた。
 結城が息を切らして走っている。無我夢中で走った果てに、本館の前の玄関で彼が恐れていた光景が広がっていた。
 ピンクの防寒着を着込んだ小柄な少女が仰向けに倒れていた。雪にかすかに赤い血の跡が本館の玄関の光に照らし出されている。千尋がショックで口を押えた。
「都ォオオオオオオオオオ」
結城が目を見開いて絶叫した。

6

「都ォオオオオオオオオ」
結城が絶叫し都の体をゆする。
「都…都…しっかりしろ! 都‼」
「どうしたんだ!」
本館前に東館にいた連中が駆け付けてくる。その中に黒いシルエットの犯人も紛れ込んでいた。
 その犯人は結城が必死で倒れている都をゆすっているのを見て戦慄していた。その光景はこの事件を引き起こした殺人鬼に、自分が愛するさやかの変わり果てた遺体に縋りついている姿をフラッシュバックさせた。
「ほ、ほえ」
都が目をぱちくりさせて結城を見た。
「結城君…ここはどこ、私は誰…」
「お、俺の名前を憶えているなら大丈夫だ」
結城は声を上げた。
「大丈夫か。頭は打ってないだろうな」
「うん、下に柔らかい雪があったから」
都は半分雪で埋まった体を起こしながら額の擦り傷を雪でちょんちょん冷やした。そして笑顔で言った。
「大丈夫だよ!」
「何があった。犯人に襲われたのか」
「いやー、それが…」
都は頭をかきかきした。

「なにぃ。社長の部屋検証して窓から落っこちたぁ?」
結城が信じられないうように元山社長のベッドで瑠奈に救急箱の消毒液を額につけてもらっている都に呆れたように言った。
「うん。あの音響コンボ」
都は音響コンボを指さして
「あれを触っていたらすごい勢いでオペラが流れ出して、止め方わからないから窓開けて顔を外に出したら落っこちて、屋根を滑って玄関の雪に落っこちちゃったんだよ」
とでへでへ笑った。千尋が外を見ると確かに都が滑って落下して雪の玄関に人型作っているのが漫画みたいにわかる。
「師匠…勝馬君のおならじゃないんですから」
秋菜も呆れ気味だ。
「そういえば勝馬君の悲鳴が外から聞こえていたけど何かあったの?」
都が目をぱちくりする。
「何かあったのかなって思って体を乗り出したら落っこちちゃったんだよ。オペラの凄い声が聞こえる中で勝馬君の声が聞こえて来たからびっくりして…」
「おっこっちゃったのか」
結城は「はぁ」とため息をついた。
「って事は勝馬君のせいじゃん」
秋菜は怒ったようにきょとんとする勝馬を見る。
「俺たち千尋さんが聞いた吹雪の中の唸り声を聞いたんですよ」
勝馬が声を上げた。
「何か地獄の唸り声みたいな…ヤバい声が吹雪の向こうから聞こえてきました」
彼は真っ青になってガタガタ声を震わせる。
「確かにヤバそうな声は吹雪の中から聞こえて来たな」
結城はあの時の声を思い出しながら言った。
「その声は何て言っているか聞こえた?」
と都。結城は再び考え込んでいたが、
「いや、俺たちが知っている日本語単語として聞き取れるものではなかったな。強いて言えばお経のようなものだった。ただ人間の言葉だったのは間違いない。最も吹雪で紛れ飛んでて正確な音声やどこから聞こえて来たかはわからなかったけどな」
「って事は音の発信源は100メートルは離れていたって事だよね」
秋菜はメモを取った。
「ああ、100メートルは離れていた。つまりあの時俺たちと一緒にいた三枝さんに音を出すのは不可能ってわけだ」
「その時に他のお客さんやオーナーも東館玄関に一緒にいたから音を出すことは出来ませんよね」
秋菜が瑠奈を振り返る。
「でもあの音が犯人が流したものだとすれば、あらかじめ時間を決めて流れる様に設定しておくことも可能なんじゃないかな」
と瑠奈。ふと瑠奈は都に聞いた。
「都は何か聞こえていなかったの?」
「全然。オペラがうるさかったし。オペラしか聞こえなかったよ」
都は苦笑した。
 結城はふと都に聞いた。
「お前は何を調べていたんだ?」
「この部屋の窓と社長の死体があったあの東館。距離は離れているけど真正面にあるでしょ」
「確かに」
結城は窓の外の東館に顔を近づけた。
「わかった…わかりましたよ!」
勝馬が立ち上がって秋菜が尻餅をついた。
「犯人はあらかじめ東館玄関とこの部屋の間に釣り糸を渡しておいたんですよ。そして電話が終わった元山社長を殺害して、死体をここから東館までしゅうううっと」
「東館はここから見ても高い所にあるぞ。反重力装置でもない限りしゅううっとなんかいかないぞ」
「釣り糸を死体の体に結び付けてロープフェイみたいに引っ張ればどうかな」
瑠奈がふと考えを述べた。
「それも却下だ。そうするとワイヤーが回収できない。第一こんな仕掛けを俺とここで電話している元山社長の横で出来るわけないだろう」
「そっかぁ」
瑠奈はため息をついた。
「でも勝馬君と瑠奈ちんの考えは間違っていないかもよ」
都は目をぱちくりさせ、結城は「へ」と間抜けな声を出した。
「この部屋、私たちが元山社長の部屋に初めて入ったとき、オペラがかかっていて、社長はいなかった…。あの時家具とかに吹雪が飛び込んだ跡があった。多分窓は犯人が閉めたんだと思うけど、少なくとも犯行時に一回この窓は開いていたんだよ。そして遠くの正面に東館…これは絶対何かがあるよ」
「じゃぁ、これはどうです」
勝馬は声を上げた。
「釣り糸が付いたボウガンで東館玄関にいる社長を…どすっと」
「届きません」
秋菜は速攻で却下した。

 煮詰まった探検部はロビーの談話室に降りようとしていた。その時、瑠奈が
「救急箱を返してくるね」
勝馬に言った。
「一緒に行きますよ。一人じゃアブナイ」
勝馬が言うと、瑠奈は「大丈夫…ちょっとトイレに行きたいし」と苦笑した。察した千尋
「さ、男の子は下下‼」
と促し、瑠奈に「私持っているけど貸そうか?」と言うと「大丈夫。危ないと思って一応持ってきたし」と会話しながら部屋の鍵を開けようとした。その時だった。
「どうしたんだい。子猫ちゃんたち。殺人鬼がうろついているのに危ないぜ。俺がボディーガードしてあげるよ」
と岩沼医師が端正な顔を醜悪にゆがめて瑠奈を見下ろす。
「結構です。私たち急ぎますから」
と瑠奈は決然と言った。
「生理だろ。女の子も大変だよなぁ。大丈夫。僕が一緒に寝てあげて生理が来ないようにしてあげるよ。僕の魔法の○○○でね」
「きもっ、あんたそれで女の子が口説けると思ってるの?」
千尋が瑠奈を手でかばってじっと結城を睨みつける。
「どけよ、変態」
「生意気言うなよ。僕は医者なんだ…県議会議員の専属医だぞ。僕とつながりたいって女はいくらでもいるんだ。君たちもあんな不細工な男の子より僕の方がいいだろう」
勝馬君は不細工だけど、あんたと比べればダニとお節料理くらいの比率で素晴らしいわ」
「なんだと?」
千尋にすごむ岩沼…だがそこに
「ここまでよ」
と槇原玲愛がさっきまでのきゃぴきゃぴした印象を殴り捨て、凛とした態度で岩沼を睨みつけた。
「あんたのバックにいた議員も奥さんも死んでいるじゃない。あんたはもう裸の王様…いい加減にしないとスマホに記録したさっきの動画、ネットにばらまくよ。さっき凄いパワーワードばらまいていたわよね」
「くっ」
岩沼は歯ぎしりして踵を返して歩いて行った。
「あの岩沼って医師…ロリコンよ。女子高生が大好きな変態…」
「知ってるんですか」
千尋が聞くと玲愛はため息をついた。
「うち実家のお父さんの治療費の関係でキャバで働いていたことあるの。この時うちの店で出禁になったのが元山と岩沼だったのよ。死んだ元山社長はキャバ嬢をレイプしようとして出禁。岩沼はロリで売っている子じゃなくて本当にロリな女子高生を所望したからやっぱり出禁になったわ。あの岩沼のロリ好きは有名でね…。パパ活サイトやJKビジネスで女子高生をひたすらあさっている事でも有名だったわ。こいつ金持っている事で有名でさ…。こいつの相手した女子高生みんな辞めてあいつのハーレムにいるって噂も立ってたし」
「どこまでもキモい奴ですよね」
千尋はぞぞっと体を震わせる。
「あいつは蛇みたいな奴よ。この山荘にいる間は絶対結城君や北谷君から離れないで」
玲愛は注意した。

「ちっ」
岩沼は歯ぎしりしながら廊下を歩いていた。
 自分の部屋の前でドアの下をふと見ると紙きれが挟まっているのが見えた。岩沼医師の顔が驚愕した。

「ああ、結城さん、北谷さん」
川又オーナーが談話室で2人に声をかける。
「実は昌谷さんを見張る様に言われているのですが私どうしても眠くて」
「私は犯人じゃないですよ」
昌谷正和は怒ったように赤ら顔をさらに赤くする。
「そうは言っても、あなたはここにいる方々で唯一アリバイがありませんからね。社長が殺された事件でもあなただけしか犯行は不可能なんです。私には他のお客様の安全を確保する義務がある。結城さん、北谷さん、お願いできないでしょうか」
「いいでしょう…お疲れでしょうからお休みになってください」
結城は言った。
「大変申し訳ない」川又は頭を下げつつスタッフルームに消えた。
「お前はどうする…」
結城が勝馬に聞いた。「寝ててもいいぞ。ああ、女子部屋は禁止な。4人とも寝てるし」
「へ、お前が寝ずの番出来るか不安だからな。俺が見といてやるよ」
勝馬はきっと一人で寝るのが怖いのだろう。やせ我慢してドカッとソファーに座る。薄暗い談話室。暖房はついているので寒くはない。
「はぁ。散々な目に合っていますわ」
昌谷はため息をついた。
「あんたら事件推理は進んでいるんですかい。吹雪の中で変な声を聞いたとか騒いでいましたけど」
「ああ、聞きましたよ」
馬鹿にされるのかと思って結城は生返事をしたが、昌谷の反応は意外なものだった。
「実はわしも聞きましたんだ」
「え」
勝馬がびっくらこいて前のめりになる。結城も驚いた表情で昌谷を見た。
「本当ですか」
「なんかお経のようなけったいな声でしょう。変な声が窓の外から聞こえるのが薄気味悪くて思わず布団被ってガタガタ震えました。そしたら音がピタッと止んで、しばらくして皆さんがライトもってやってくるのが見えて出迎えようと思ったら玄関に元山社長の死体が…」
昌谷は声を震わせた。
「この時あの岩沼って医者も本館にいたんでしょう。絶対この山荘周辺には僕ら以外誰かいますわ。ま、みんな出まかせ呼ばわりしますけどね」
「外部犯が自動殺人トリックなんて仕掛けるわけないでしょう」
結城はため息をついた。
「ほら、あなたも私をうそつき呼ばわり」
「いや、あなたの発言が嘘だと思っているわけじゃありません」
結城は声を上げた。
「何かあるんです。何かこの事件には仕掛けられているんです」

 都は瑠奈と同じベッドですやすや眠っていた。ふと彼女の眠っているベッドに人影が写っている。都はうっすら目を開けた。
 窓の外に気絶した瑠奈が浮かんでいた。外が猛吹雪で氷点下なはずなのに眠らされた瑠奈は全裸だった。全裸の瑠奈の乳房を後ろから青白い両手で包むように抱えているのは能面の怪物だった。能面の怪物は吹雪の中お経のような声とともに瑠奈を闇の中へと連れ去ろうとしていた。
「瑠奈ちん!」
都は絶叫した。