少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

きさらぎ駅にて【3-4話】

 
3

暗い廃墟の中の骸骨の死体

 

 それが死蝋だと分かった時、秋菜のブラウスの胸に死体の顔が覆いかぶさり、万歳して硬直した痩せた骨の腕が秋菜の両手を掴む形になってしまっている。死体が硬直してシンゴジラの最期のあれが13歳の少女の肉を求めて抱き着いてきているように思えた。
「秋菜ちゃん、大丈夫だよ」と不意に少女の声がした。都がライトを向けてやってくると「よいしょ」とミイラを何の躊躇もなく手でつかんで秋菜からどかした。秋菜はガタガタ震えて腰を抜かしていた。
 都は秋菜を抱きしめていい子いい子してあげる。
「ごめんね。びっくりしたよね」
「な、何なんですか」
秋菜は和室を見回すと、マットレスの上にさっきよりも人間の肉が残っている、真っ黒な液体が流れて目がなくなった人間の死体が部屋の隅で仰向けになっているのが見えて都に縋り付いた。
「誰かが村を襲って、人がたくさん殺されて」
「そんなんじゃないと思うよ」
震える秋菜の頭をポンポンし、親指で秋菜のおでこをマッサージしながら残り5本の指でなでなでしながら言った。
「このお家は10年前には人がいなかったと思う。だけど、まだ骸骨になりきっていないって事は、死んでから10日とか、1週間とか。とにかく外に出よ」
都と秋菜の2人は和室を通って外に出た。すると庭には両手を木に吊るされた死体があった。それは男性の首吊り死体で目を見開いていて、苦悶の表情を見せている。
「し、師匠」
秋菜が都に抱き着く。都は秋菜の背中をさすってから、ライトを死体の表情に当てた。
「この人は全然骸骨になってないよね。全然匂いもしないし、死んでから1日経っていないと思う」
「どういうことですか」
秋菜は声を震わせた。
「ここにいる死体は、一度に殺されたんじゃない。何日もゆっくり時間をかけて大勢の人が殺されていったって事だよ
都は用心深く辺りを見回した。
「状況から見て、ここにいる人は全員監禁されていたわけじゃないと思う」
都は考え込んだ。
「多分一人の人間が大勢を殺したというよりも、殺し合ったって感じじゃないかな。でもこの状況は一緒にいる人間が一人、また一人と殺されていく中で、自主的にこの廃村に居続けた人が何人もいたって事になるんだよ」
都は声を震わせた。
「とにかく、駅に戻ろう。秋菜ちゃん、怖いだろうし」
「だ、ダメです」
秋菜は声を震わせた。「これは事件です。大勢の人が殺された殺人事件です」
秋菜は都をぎゅっと抱きしめて涙目になりながら言った。「私は大丈夫です。師匠を手伝います」
 
「確かに」
結城は庄司の家で電車の防犯カメラをチェックしながら言った。
 お気楽そうにしていた2人少女が電車から下車したのは福島駅から3駅目の駅であった。つまり如月駅である事は間違いない。電光掲示板にも「如月(きさらぎ)」と出ている。音声も入っていて「如月、如月、出口は左側です」と言っていた。
「となるとやはりあの弁当屋さんの言っている事は勘違いで、都も秋菜ちゃんも如月駅で降りたって事だよね」
千尋
 瑠奈は映像をしばらく見ていたが、
「でもこの映像変だよ」
と結城を見上げた。「変とは」と聞き返す結城に、瑠奈は考え込んでから「ひょっとしたら」と声をあげた。そんな姪の顔を庄司がじっと横から見つめていた。
 
 真っ暗な廃屋の中で都は腐乱死体を見つめていた。顔が真っ黒く変色して白い歯が目立ち、赤黒い液体がマットレスに広がっている。
「師匠…この人、何かあるんですか」
秋菜が後ろの方から声をかける。
「この人どこかで見た事があるんだけどな」
都は考え込んでいた。
「どこかって」秋菜がおっかなびっくり腐乱した人間の顔を見つめた。
「大人の男の人なのはわかりますけど」
その時、秋菜の心臓は縮み上がった。ふと気配のした方を振り返ったが、壊れた縁側と草木の生い茂った庭がライトの光に照らされただけだった。
「師匠。一応聞いておきたいのですけど」秋菜がおずおずと聞いた。都が秋菜をきょとんと見つめる。
「この廃村、私たちの他に人っていませんよね。生きている人間」
「いないと思うよ」と都はにっこり笑った。そして天井の角の方を指さす。
「よーく見ないと分からないけど、小さな穴が開いているよね」
「穴?」秋菜は背伸びをして天井近くの壁の小さな穴をライトで照らし出す
「何からしいものがあるような気がします。てか師匠目が良すぎですね」と秋菜はライトごと都に振り返る。
「家具の配置だよ。いくつか部屋を見てみたけど、家具の配置からして部屋の全てを全部見られるようになっている点が一か所共通してあるんだよ。それに気が付いて調べてみたら、その点には穴があった。穴の中には監視カメラが仕掛けられていたんだよ」
「監視カメラって」
秋菜が素っ頓狂な声をあげた。
「まさか私たち、誰かに見られているって事ですか」
「大丈夫。もう取り去られているから」怖がる秋菜に都は笑いかけた。
つまりこれを仕掛けた人間はもうここには戻ってくるつもりはないって事だよ」都は笑った。
「その監視カメラを仕掛けた人間って」秋菜の声は緊張したままだった。
「犯人って事ですか…」
「うん」都は頷いた。
「何の目的だから知らないけど、全部の部屋が監視されていた形跡があるんだよ。部屋もお風呂もトイレも、お家の外にもね。まるで徹底的にこの殺人を観察でもするみたいに。そして多分その犯人はここにいた人たちがメモとかスマホとかを隠したりしてもカメラを通じて把握していただろうから。何があったのかここにいた人たちが知らせようとしたとしても徹底的に隠滅しているみたいだね」
と都。「スマホとかメモとかそういうのが全然残っていない。これだけ人がいたのなら残っていてそういうのが見つからないって事はそう言う事なんだよ」
「でもそれなら余計に変ですよ」
秋菜は声を震わせて部屋を見回した。
「それなら何でこんなに死体が残っているんですか」
「犯人は殺人自体を隠すつもりは全くなかったんだよ」都は秋菜を見た。
「ただこの殺人が行われた目的を隠す必要があった。多分犯人は大量の死体が見つかっても危ないジェイソンみたいな殺人鬼が暴れまわってこうなったって事にしたかったんだと思う」
でもそれにしては死亡推定時刻がいくつか違う死体がある時点で変じゃないですか」
秋菜が言うと都は「この暑さじゃ、あと1週間見つからなければ死体は今以上に酷くなってそれもわからなくなる。犯人も自分がいなくなって1日やそこらで私たちがこれを見つけるなんて予想外だったと思うよ」と言った。だが都は「でも」と考え込んだ。
「この廃村って駅から歩いていける距離だよね。それに瑠奈ちんの叔父さんも家もそんなに離れていないはずだから…そんな凄い山の中って場所でもないはずなんだよ」
都は考え込んだ。
そんな場所で何人かの人間がこんな廃屋で何日もいて少しずつ人が順番に死んでいく状況で、誰も逃げ出さない、気が付かないなんて話があるのかな」
「まさか」
秋菜が声を震わせた。
「瑠奈先輩の叔父さんを含めた村人が、この殺人を隠していた」
真っ青になる秋菜。都はそんな秋菜を見つめた。
「うん、その可能性もあるよね」都は言った。
「ただその場合、私たちが駅から歩いたらこの場所に迷い込むことぐらい想像はつくはずなんだよ。なのに列車が到着してから何時間も私たちは放っておかれている。普通だったら絶対迎えに来るはずだよね」
「確かに」
と秋菜。都はちょっと考えてから、「別のお家を見てみていいかな」と秋菜に笑いかけた。
「どうぞ」
と秋菜は怖さを押し殺して頷いた。
 そんな2人を縁側の木の陰から、黒い影が眼をカッと見開いて覗いていた。
 
 廃校になった分校のような建物に都と秋菜の2人は立っていた。のんのんびよりに出て来そうな校舎だ。
「何か、遠くで雷が鳴ってますね」秋菜が夜空を見上げた。
「明日の朝には雨になりますって言ってたよ」と都。
「じゃ、秋菜ちゃん。私ちょっと先に入って怖いものがどこにあるか、いろいろ見てくるね。5分で戻ってくるから」
と都は笑顔で言った。
「はい、気を付けて」秋菜は元気なさそうに見送る。都は目をぱちくりさせ、突然「あああああ、後ろに着やせするタイプの野々村竜太郎が踊っているううう」と叫んだ。秋菜が後ろを振り返るが真っ暗な校庭にはさびたジャングルジムがあるだけで、誰もいない。秋菜のほっぺに都が指をふにっとさせた。
「私全然怖くないですから早く言ってください」
「でへへへへへ」と都は笑った。そして廃屋に入って行こうとする。ふと秋菜は「あの、師匠」と声をかけた。
「師匠は怖くないんですか。ウルトラマンシマシマの宇宙人が出て来ただけで私に抱き着いたりしているのに」
都は目をぱちくりさっせてから笑った。「大丈夫だよ。死体なんて襲ってこないし人間標本とかにもしてこない。ダダABCとかネネちゃんのウサギの方がもっと怖いよ」
「そういう方式なんですね。師匠の頭の中って」
「でもね」都は言った。「それより怖いのは人を殺してもいいって話だと思う。ありがと、秋菜ちゃん」
都は笑った。「私を怖がらせないために勇気を出してくれて」
「いえ」秋菜は少し頬を赤くしてモジモジする。都はにっこり笑うと廃屋の中に消えた。
 
「もう5分だよね」秋菜はスマホの画面を見つめた。その時、廃屋の中では。
 黒い影が都の口を押えて目を見開いてその小さな体から意識を奪った。
 
4
 
「師匠?」
秋菜はもう10分経った状況で廃屋に向かって声をかける。しかし廃屋からは沈黙しか聞こえない。
(まさか、師匠)秋菜は嫌な予感がした。そして胸にライトを抱いて一呼吸すると、廃校舎の玄関から中へと入って行く。廊下はボロボロだったが、どこか踏み抜かれた痕跡はない。
 秋菜はライトを片手に「師匠‼」と叫んだ。誰もいない。恐る恐る半開きになった部屋を開ける。そこで秋菜は口を押えた。
 白骨死体の肉の腐った手が2つロープからぶら下がり、足元を見ると腐乱した死体が仰向けになっていた。女子高生の制服を着用している。
(ここの生徒?)と秋菜は一瞬思ったが必死で首を振った。
「違う。だってここ小学校のはずだから…でも何でこんな女の子が」
そう思ってふと正面の窓ガラスを見たとき、自分の後ろに自分よりずっと背の高い人影が一瞬目に入った。秋菜はとっさに空手の廻し蹴りを繰り出したが、後ろには誰もいなかった。秋菜は肩で息をしていた。

(師匠はこの場所には誰もいないって言っていたのに)
ハァハァと息が荒くなる秋菜。「お兄ちゃん…」秋菜はそう言ってから小さく深呼吸した。
 
 昨日の試合。秋菜は一回戦で負けた。
「しょうがないよ、秋菜」
部活の友人の女の子が武道館のロビーのベンチで号泣する秋菜を慰めた。
「相手は準優勝するくらい強かったんだし、寧ろ秋菜よくビビらないで攻めまくったよ」
「相手も相当秋菜を研究してたと思う。攻めまくりの秋菜のね。秋菜らしいいい試合が出来ていたと思うよ」
部長は笑っていた。
 
(家に帰って来た時、お兄ちゃんも師匠も試合の様子とかを聞かなかった。私が言わなかったら負けって事だって、2人なりに気を使ったんだ。デリカシーとか全然ない自由で頓珍漢な癖に)
秋菜はじっと目の前の女子高生の死体を見つめた。
(決めたじゃん。試合を前にどんな相手でも怖がらないって…。この場所に、私や師匠以外に誰かがいる…。それはきっとここで大勢の人を殺した殺人鬼だ。女の子も関係なく殺す残忍な殺人鬼だ…でも今私が逃げたら師匠は誰が助けるのよ)
秋菜はパッと廊下に出た。
(師匠をどこかに連れて行ったって事は、絶対私もこの場所から返さないつもりだ。つまり犯人はまた私を向こうから襲ってくる。その時に仕留められれば、師匠を助けるチャンスが生まれる)
13歳の女子中学生は覚悟を決めた。そして大きく深呼吸をした。
「しょーこーしょーこーしょこしょkしょーこー、●●そんしーーーー」
出鱈目な歌を歌いながら廊下を歩く秋菜。片っ端から扉を開ける。別の部屋には木馬のようなものに跨らされて、天井に向かって腐乱した顔で白い歯をぐわっと開けている女子高生の制服を着た死体があった。13歳の少女はそれを真っ青な表情で見つめた。
 黒い影はその瞬間を待っていた。死体を見ればこんな小さな少女の精神は耐えられますまい。ショックを受けて恐らく麻痺するであろう。その時を襲えば。
 黒い影は呆然と立っている秋菜の後ろからゆっくり手を伸ばしたが、その時、部屋の窓ガラス越しに秋菜と目が合った。秋菜は物凄い表情をしていた。怒りと覚悟の入り混じった凄まじい目だった。その表情のまま、結城秋菜はキッと後ろを振り返った。その真っ直ぐな瞳に直接捕らえられることを黒い影は何とか回避した。
「ハァハァ」秋菜はまた廊下に出た。誰もいない。廊下には一人男性の腐乱死体が転がっているだけだ。
「わーたーしーはー怖くない! へっちゃーらーだー!」
秋菜は別の部屋のドアを開けた。保健室のベッドに縛り付けられ、黒い液体の海に沈んでいる女子高生の制服を着た腐乱死体。秋菜は目から涙が出てきた。
「怖くない、怖くない!」
秋菜はボロボロに泣きながら廊下に転がっている男の顔面が完全に骸骨になった人間の死体をまたいだ。
 殺人者は秋菜が確実に消耗していると悟った。このまま必死で彼女は師匠を探し続けるであろう。一緒にいた少女がいないことで次第に焦るはずだ。その時に一瞬で気絶させる。黒い影は赤い口を三日月の様に歪め不気味に笑った。
 だが不意に秋菜は歩みを止めた。廊下で立ち止まって振り返りもせずに言った。
「お前が師匠を誘拐したんだろ」
13歳の少女の言葉に、廊下に倒れていた腐乱死体はゆっくり起き上がった。いや、この人物の顔は腐乱していたわけではなかった。ぐちゃぐちゃに解け落ちていただけだった。溶け落ちた歯茎がランランと笑う。
「さすが、見事な洞察力。女子高校生探偵島都の助手というだけの事はある」
しゃがれた声。秋菜はその声に向かってゆっくりと振り返った。
「岩本承平」
何百人の人間を殺害してきた、師匠をもってしても捕まえられていない大量殺人鬼が目の前に立っていた。
「お前がみんな殺したんだな」秋菜は言った。
「大体そんなところです」岩本はそっけなく語った。秋菜は空手の構えを見せると岩本の不気味な髑髏のような顔は小さくため息をついた。
別に君と都さんをそこらへんに転がっている腐乱死体と同じ目に合わせるつもりはありませんよ。ただ見てはいけないものを君はともかく都さんに見られたのはよくない。その為お2人にはこの村で見たものの記憶を消してもらいます。その上で結城君たちのいるお家にお返ししますので、ここは降伏していただけませんか」
「記憶を消すって」と秋菜が厳しい目で岩本を見つめた。
オウム真理教が利用していたニューナルコという手法ですよ。また近い記憶を消す手段自体はアメリカで開発されているのですがオウムのような危険な手法ではなくもっと安全な方法を僕はモルモットを使って開発したのですがね」
そのモルモットが人である事は秋菜にも分かる。
「白骨死体と腐乱死体のある廃村をさまよったなんて記憶…中学生の女の子には辛いだけでしょう。大人しく降伏しなさい。あ、迷惑料も少しはずみますよ。それでみんなと美味しいお肉でBBQしたらいい」
「嫌です」
秋菜は構えをさらに深くして即答した。
「師匠にとって、人を殺してそのままなんて事はとても怖い事なんです。そんな怖い思いを師匠にしてほしくありません」
秋菜は覚悟を決めた目で大量殺人鬼を見つめた。「それに、私はさっき師匠にありがとうって言って貰えたんです。その記憶も消したくない」
「実力行使をしなければならないという事ですね」
岩本の声が低くなった。「ですが君のような女子中学生が僕に勝てるとでも」
「前の事件で岩本さんはボコられていましたよね」と秋菜の目が怒る。
「ふ」岩本の骸骨のような口が歪に笑った。「すぐに君は何も見えなくなる」
 
「本当にこの道で合っているのですか」
陳川警部が後部座席の高野瑠奈に聞いた。セダンは山道でロデオみたいにバウンドしている。
「大丈夫です。都が駅から突然消えた理由も、それを弁当屋さんが目撃しなかった理由も全てわかりました」
瑠奈が強い口調で言うと、横に座っていた結城が前の座席にしがみつきながら「今回は高野が推理するのか」と言った。
「大丈夫。絶対都も秋菜ちゃんもいるから」と瑠奈はあわあわする千尋の横で真っすぐ前を見ていった。
 
 秋菜の足刀を巧みに避けた岩本は秋菜のショーパンの股間に手刀を叩きこみ、秋菜は目を見開いた。次の瞬間裏拳で乳房を殴打され、秋菜は九の字に崩れ落ちた。
「うううっ」
「これは空手の試合ではないから、こういう攻撃もあるのですよ。女の子に対して本当は不本意なのですが、一番相手を傷つけず激痛を与えるやり方です」
岩本は廊下に倒れ込む秋菜を赤い目で見下ろした。次の瞬間岩本は秋菜の首を掴んで締め上げていた。秋菜の目がかすかに見開かれる。
「大丈夫。頸動脈を締めて眠っていただくだけです」
岩本の狂気に満ちた声が秋菜の耳に入る。
 その時だった。自動車のライトがさっと廊下を走り抜ける。女子高生の死体のある部屋越しに車が停車し、中からライトの光がいくつも出てきた。秋菜は最後の力を振り絞ってペンライトをポケットから出して、外に向かって照らし出した。それに反応した外のライトの光が一斉にこちらを向く。
「やれやれ」
岩本はため息をつくと意識をもうろうとさせた秋菜を丁寧に廊下に座らせた。
「君の勝ちですよ。君が時間を作ったせいで僕が10人もの人間の命を使ってやろうとしたことが無駄になりました。さすが都さんの師匠と言われるだけの事はある。あ、結城君が来たら言っておいてください。都さんは保健室の死体が寝ているベッドの下に隠してあります。眠っているだけだから介抱したらすぐ気が付くと思いますよ」
髑髏の殺人者は闇の廊下を走って消えた。
「秋菜‼」
結城竜の声が呆然と座る秋菜の後ろから聞こえてくる。
「良かった。秋菜ちゃん!」瑠奈が秋菜を抱きしめた。
「都は?」「お嬢は」と結城と陳川が声をあげた。
「死体がある保健室のベッドの下で…眠ってる」秋菜はそれだけ言って意識を失った。
「死体って」結城と陳川が顔を見合わせ、結城はすぐに立ち上がった。
結城と陳川警部が保健室の表示を確認して部屋に入ると、陳川の「あひゃぁあああああああ」という悲鳴が聞こえてきた。