劇場版少女探偵島都9ー岩本承平の驚愕File❶
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その少年は後に殺人鬼となる運命にあった。
「凄い、地図を読む訓練は完璧だね。最も、君は地図は得意だったからね」
少女は少年から地図を受け取るとそれをくるくると丸めた。
「では今から縄抜けの訓練を始めます」
桜舞い散る穏やかな天気の原っぱで、凛とした表情で少女は少年を見下ろした。少女は11歳の女の子。少年は中学生の制服を着用していた。少年はぽかんとしていたが少女は笑っていた。
「この術を知っていたら、あのおかしな先生が君を縛ってきたとしてもすぐに抜けられるからね」
真っ直ぐな笑顔で少年の瞳を見つめる少女。少年は「あ、あ…」と何かを言いたそうにしていた。少女は何も言わなくていいように人差し指を立てて見せる。
「私はね。探偵に憧れているんだ。探偵になって、いじめで苦しんでいる子の役に立ちたい。いじめとそれを見て見ぬふりをする子供も学校もみんなぎゃふんと言わせるような力を付けて」
少女は少年に向かってニカっと笑った。
「でもね。私女の子じゃん。そりゃ剣道で鍛えているんだけどね。やっぱり純粋な腕力では絶対ハンデがあるんだよね。だからパートナーが必要なんだ。そしてパートナーになってくれるのは君しかいない」
少女は真っ直ぐ少年を見つめた。
「君は凄い力を持っている。そしてとても心が優しい」
少女は少年に手を伸ばした。「もう一度聞くね、私と探偵をやりませんか?」
「おや…随分面白そうな資料ですね」
岩本承平はマンションのリビングのテーブルの上に並べられた肉料理の前で言った。骸骨のように焼けただれた顔の殺人鬼はシチューの完成を待ちながらソファーにだらりと座り、ファイル化された裁判資料を軽く読み漁る。
「レイプ被害者の少女に対してレイプ動画で脅迫して告訴を取り下げさせたり、悪質洗脳軟禁企業の従業員が逃亡したときのスラップ訴訟を指南したり、いろいろ面白そうな案件がありますね。おや」
岩本は新聞の切り抜きをファイルの中で見つめた。
-性犯罪被告執行猶予。恋愛妄想の結果認める。-
「何と、こんな手法で裁判の判決を獲得したのですか。これは酷いですね。被害者の女子高校生は浮かばれませんね」
殺人鬼は加害者の写真を見つめた。八木正平という名前と年齢、有名人の二世のおぼっちゃまらしい甘えたような間抜けそうな写真が添付されている。
「被告は八木正平…ですか」
岩本は八木が性的暴行を行った4人の少女たちの顔写真を見比べた。そこで岩本は一人の少女の顔を見て目を見開いた。しばらくそのファイルを握りしめていた。
「大丈夫ですよ。君の敵は僕が取ってあげますから…おっと」
岩本は立ち上がった。
「次のお仕事の事を考えていたら、せっかくのメインディッシュがダメになるところでした」
岩本はダイニングのIHコンロのスイッチを切り、人間の生首を手でつかんでテーブルに無造作に置いた。
「やはり、人体料理では頭蓋骨脳みそシチューは外せないですねぇ。弁護士の脳みそですから、頂けばこちらも頭がよくなるのでしょうか」
殺人鬼は第三者に変装すると、シチューの原料の弁護士事務所兼自宅マンションを出て、シチューの原料の保有する高級車を転がし、マンションの駐車場を出た。骸骨のような表情で歯をカチカチならしながらニュータウンの通りを走る。その歩道を1人の小柄な女子高生が買い物袋にニンジンやジャガイモを入れてルンルンと歩いていた。
「今日の晩御飯はシチュー♪、今日の晩御飯はシチュー♪」
「晩御飯が何であってもお前嬉しいよな」と結城竜という大柄な男子高生がため息をついた。
「バイトの給料日前でカレー麺でも大喜びだし…って」
立ち止まった都にぶつかりそうになる結城。
「どうしたんだよ、都…」
「あれ」都はマンションのベランダを指さした。
「なんかベランダにいっぱいカラスが集まっているよね」
「カラスの勝手だろ。でも確かに妙だよな」結城も夕闇の中、カラスが20羽以上集まっているのを見上げる。するとマンションの主婦が管理人を道路に連れ出してきて「ほら見てください」と声をあげる。
「確かに変だ。ちょっと鍵を開けて確かめてみますよ」と管理人は中に戻る。都と結城は顔を見合わせると、管理人の後を追いかけた。
部屋の中ではカラスがシチューの残りとか肉料理の残りとかをついばんでいた。かーかー。
「これは凄まじい現場だな」
長川警部は口を押えた。マンションに並べられた肉料理は機捜と鑑識に調べられている。
「猟奇殺人者の装飾というより、普通に夕ご飯にした感じだね。ご飯はパックだし」
と加隈真理が眼鏡を反射させた。
「それと部屋の指紋、DNAから見て、犯人は岩本承平に間違いない。ガイシャは弁護士の桐山兵馬、52歳。ネットでもいろいろ評判の悪い弁護士だね」
「クソッ…岩本か。そして第一発見者がこのマンションの管理人と住人の主婦と、高校生2人」
マンションの廊下で「長川警部おっはー」とゲンキンな都。
「もう夕方だよ」女警部はツッコミを入れた。そして頭をかきながらため息交じりに結論を言った。
「犯人は岩本だ」
都の目がぱちくりする。結城は「マジかよ」と声をあげた。
「防犯カメラを確認したら死亡推定時刻にこのマンションに入り込み、出て行った奴がいた。本人はセキュリティで依頼人の会社社長の清水と名乗っていたし、眼鏡をかけたサルみたいな面も本人に確かに似ているらしいが、微妙に骨格が違うのと、本人が2日前から行方不明だったらしい。間違いなく清水って社長を殺して変装の上で桐山弁護士に接触したんだな」
「警部」
鈴木刑事が長川に小声で言った。
「ちょっと状況がヤバいかもしれません。岩本がどうも被害者の弁護士の資料を物色した形跡があります。ファイルもいくつかなくなっていて、次の犠牲者の物色をした可能性があります」
「何だと」
長川の顔に焦りが見えた。
「八木正平君…」
夜の闇の中、殺人鬼は霞ケ浦に浮かぶプレジャーボートの上で漬物石を抱っこさせられた状態で縛られてデッキに寝転がされている20歳の大柄な青年、八木正平(20)を見下ろしながら冷徹に笑った。
「君は4人の女の子をレイプしたのだ。そして君は全く反省していない。裁判所で被害者の女の子と相思相愛だなんて妄想を垂れ流し、寄りにもよってその妄想を弁護士が心神耗弱の証拠だとして提出、それが採用されたせいで君は執行猶予になった」
「ムーーーー」ガムテープを口に貼られた八木正平は悲痛な声を上げる。
「そのせいで、君の被害者の女の子は絶望して自殺したのだ。君の相思相愛という妄想が採用されたせいで君が執行猶予になったという現実を受け止められなくてね」
殺人者は情けなく倒れ、物凄い声をあげて顔を真っ赤にしている八木の顔を足先でいたぶりながら宣告した。
「そんな君を岩本承平は許さない…と言う事だ」殺人者の笑顔が八木の目を見開かせる。これまでも人を殺してきた人間の悍ましい狂気の笑顔が目の前にあった。
「だから君は殺されるのだよ。わかるね」
「ムウウウウウウウ」八木正平の顔は真っ赤になる。
「さぁ、落ちろ。誰も助けに来ない。苦しい永遠の闇に」
殺人者はそう笑うと八木正平をボートの後部デッキから湖に蹴り落した。ドボンという音が聞こえる。
「さようなら…」
殺人者は暗い水の中に向かって笑った。
-キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴る高校。
「で、結局その日はカレー麺だったよ」探検部の部室で結城はため息をついた。
「岩本君の食生活には大きな問題があると思う。早く捕まえて正しい献立を食べさせないといけないね」
と都はフンスしていた。
「そのうち脳にプリオン出来そう」と薮原千尋はげんなりした声を出した。ベランダで北谷勝馬が洗面器に頭突っ込んで汚らしい声を出している。
「今回の事件、都は解決しないの?」
と瑠奈が聞くと、「まぁ、都が頭をひねってどうにかするタイプの話じゃないからな」と結城は言った。
「じゃぁ都に一つ、頭をひねってどうにかするアルバイトを頼んでもいいかな。実は弟の友達の叔父さんの話なんだけど」
高野瑠奈が都に手でお願いポーズをする。
「人探しをしてほしいんだ」
都は目をぱちくりさせた。
「人探し…?」
「そう、伝説の剣術師範と言われた八木久光という人がいるんだけど、その人の息子が1週間前にいなくなったんだよね。その息子さんを探して欲しいって話なんだ」
「え、子供が1週間もいなくなるってヤバくない?」
と千尋。瑠奈は「ううん」と首を振った。
「いなくなった人は20歳の男性なんだけど…ただ4人の女子高校生や中学生に性的暴行をした事で逮捕されて執行猶予判決を受けて出てきたばかりの人なんだよね」
「あ、なんかネットでやっていたわ」
「女の子を4人も襲っておいて執行猶予って何だよ‥‥って騒がれてた」
瑠奈も頷いた。
「その人のお父さんはまたやるのではないかって心配していたんだけど。この人知的障害があるらしくて、友達もいなかったしお金もないから、1週間どこで何をしているのか見当もつかないみたい。だから都ならもしかしてって思って。やった事は最低だから断ってもいいんだけど」
2
ニュータウンから少し離れた農家と鎮守の森と田んぼが連続するエリア。八木と書かれた大きな屋敷の盆栽が投げ込まれた石で破壊された。
「ぶっ、な、何だぁ」結城竜という高校1年生の男子高生が、家の応接室でお茶でむせながら言った。
「ああ、気にしないでくれたまえ。時々そうやって石を投げられるのですよ」
と白髭と和服姿が大河の俳優みたいな八木久光(63)剣術家は苦笑して、結城とその横で美味しそうに和菓子を食べている島都という小柄な女子高生に微笑みかけた。
「大方息子の事が原因だろう」
そう久光が眺める先で、「馬鹿野郎、私の友達に酷いことしやがって」と6年生くらいのショートヘアの女の子が門の外から叫ぶと走り去っていった。
「その息子さんの人探しが依頼…ですか」
と結城。
「ああ」八木久光は壁に掲げられた八木家当主の剣豪たちの写真を見つめながら言った。
「私の息子、八木正平を見つけて欲しいのだ」
久光は正平の写真を都と結城に見せた。写真の男は八木久光と違い、体はデカいがいかにも間抜けでパッとしない表情の若者だ。
「息子には軽い知的障害があってな。警察には捜索届は出しているのだが、やはり積極的には探していないみたいなのだ。いなくなったのは昨日の朝。彼はその日病院に行き治療をしてもらうことになっていたのだが、当方もどうしても外せない用事があってな。それで我々の一番弟子の一柳時彦君に運転を頼んで病院に行く事になったのだ」
久光はため息をつく。
「私がいけないのです」
一柳時彦(38)という30代くらいで細長くカマキリみたいな顔の八木久光の一番弟子が申し訳なさそうに頭を下げる。
「突然運転中に交差点で一時停止をしていたら、突然後部座席から飛び出して行ってしまったのです。気が付いたときには藪の中へと消えてしまって」
「君のせいではないよ」久光はため息をついた。
「このような突発的な行動をとるような子ではなかったから。君が対処できる状況ではなかった」
そして久光は都と結城に頭を下げた。
「頼む。息子を探してくれないか。息子があれだけの事をしてしまった以上、我々の流派ももう終わりだろうが。だがそれでもかわいい一人息子である事には変わりはないからな」
都は考え込んでいたが、笑顔でがしっと拳を翳して「わかりました。正平さんを絶対見つけます!」と立ち上がった。
「おいおいおいおい、そんな約束をしていいのか」
八木久光の屋敷で、結城が慌てて立ち上がった。
「だってこんなに正平さんの事を心配しているんだよ! 何とかしてあげたいじゃん」
と都。
「いや、行方不明者を探すなんて大変な事だぞ。一介の高校生の手前がどうこう責任とれる話じゃない。それに」
結城は一瞬久光を見てから小声で言った。「相手はお前みたいな女の子を4人も襲って執行猶予になった犯人だぞ。お前に何かがあったら」
「大丈夫だよ。八木正平さんに襲われたら結城君に守ってもらうから」
けらけら笑う都と結城は久光の苦笑する顔を交互に見ながら結城は焦って、そしてため息をついた。
「ではこうしましょう」
結城は久光に言った。
「行方不明者捜索に関しては本人の意思で全く別の土地にいる可能性もあるので、身柄を発見して連れて帰るという保証は出来ません。ですが一柳さんでしたっけ。貴方の車からなぜ八木正平さんが急に走り出したのか。尋常ではないその状況の真実を解き明かすことについては全力を尽くしましょう。理由が分かればどうにかなるかもしれませんし」
「心得ました」
久光は頷いた。
「それじゃぁ、がさ入れいっていいですか。正平さんのお部屋を見たいです!」
都が「はいはーい」と挙手してお願いしたので、久光は「是非お願いします」と一礼した。
「これが八木正平さんの部屋ですか」
結城は行方不明になっている八木正平の部屋を見回した。あと10年で子供部屋おじさんになりそうな部屋だった。
「おおお」都は本棚に黄金仮面がずらっと並んでいる背表紙を見つめた。結城はそれを見つめた。
「ポプラ社の江戸川乱歩の本ですか。学校の図書館にありますよね」
「私も読んでました」都が「鉄塔王国の恐怖」を取り出して上に掲げながら久光に報告した。
「そういえばお前の読書感想文、全部これかズッコケ三人組だったって高野から聞いたな」
結城がため息をつくと八木久光の表情が暗くなった。
「実はこの本が正平の性的な欲望を発露させるきっかけとなったと裁判で認められたのです」
久光はため息をついた。
「この本は彼の友人がくれたものだったのですが、児童書にも関わらず殺人鬼が少女を監禁、誘拐して残虐に殺してしまうという作品もあったらしくて」
「江戸川乱歩はエログロフェチでも有名ですからね」と結城。都は「怪人二十面相」から「二十面相の呪い」までポプラ社シリーズが番号順に綺麗に並べられているのを見た。
その時だった。
「貴様、無礼だぞ!」
庭先で言い争う声が聞こえた。縁側に出た八木久光は庭先で喚いた一柳に「お客様が来ているのだぞ」と制した。一柳が慌てて謝罪する。
「相馬君来ていたのか」
と八木久光は長身で野心丸出しの若いイケメン成金っぽい青年、相馬兵庫(30)に声をかけた。
「息子さんが失踪したと聞いて、心配になって来たのですよ。万が一にでも息子さんが再犯したらそれこそ大変でしょうからね」
意地悪く笑う相馬。
「最も、息子さんに有罪判決が降りた以上、この八木流もおしまい。ですが私がそれを継承すれば、まぁ相馬流の下という事にはなりますが再興させて見せますよ。久光先生。何なら久光先生を師範として雇ってもいい。先生は裁判所での御発言で社会的批判も見事回避なされましたからね。おや、そこにいるのは」
相馬は( ゚д゚)ポカーンとしている都に正対した。
「警察官の弟子たちが話題にしていた、女子高生探偵の、確か島都さんですね。ひょっとして八木先生の御子息の捜索依頼でここに」
「し、し、守秘義務です」と都がバッテンサインをつける。
「まぁいいでしょう。でもこの先生が息子を愛しているかは微妙ですよ」
相馬は鼻でせせら笑う。
「だって、この先生は法廷で無罪を主張している息子の弁護側証人として出廷したのに、息子が不利になる証言をしたんですよ」
「先生の気持ちを踏みにじるな!」
一柳が絶叫に近い声を出した。そして声を震わせる。
「先生が、どんな気持ちでお坊ちゃんに関する証言をしたのか。お坊ちゃんに真人間になって欲しいという願いが込められているからこそ」
「踏みにじってなどいませんよ」と相馬は言った。
「ただ僕はそこのJK探偵の捜査の参考になればいいと思っただけです」
相馬はケケケと笑いながら踵を返して去って行った。
「何だあいつ」
結城は呆れたように言った。立ち尽くす久光に都は聞いた。
「パパさん。裁判でどんな証言をしたのですか」
Σ(・ω・ノ)ノ!となる結城。「ちょ、それ今聞く?」と思ったが久光は憔悴しながらも静かに言った。
「息子の裁判での態度は酷いものだった。4人中3人の被害者の女の子が勇気を出して正平を犯人だと証言した。被害者の少女との恋愛関係を妄想して喋っていた。だから私は証言したんだ。息子は引きこもり状態で被害者とは誰も交友関係はなかったと。息子にきちんと反省して罪を償って貰いたかったのだが」
八木久光の家の庭先に立つ都を庭の竹やぶから骸骨が見つめていた。
(残念ですが、八木正平は既に殺害されていますよ)
殺人鬼岩本承平は都が事件に介入した事を悟ると、さっと竹藪の闇に消えた。
1人の若い女性、大宮なつは(21)がスーツ姿でタワーマンションを見上げていた。少し体が震えている。彼女はセキュリティの前に立って、部屋番号を押した。しかし応答がない。その時、一人の長身の馬面の男性が中から出てきたので、それを利用してマンションの敷地に入った。
803号室インターフォンを押す。8階のマンションの共用廊下でブラウスの胸を押さえながら反応を待つ。それを隣のドアからおばさんが訝し気に見つめた。大宮なつはは震える手でドアノブに手をやろうとする。
「あんた、大丈夫かい」
とおばさんは声を出した。大関みたいな図体のおばさんは怯えた表情のなつはの前に立つ。
「この前もこの男の部屋の前に高校の制服を着た10代の女の子があんたみたいな表情で立っていたのよ。何かよくない状況なんじゃないの」
「い、いえ。大丈夫です」なつはは声を震わせる。
「大丈夫じゃないのよ」おばさんはなつはに言って聞かせた。
「その子、自殺しちゃったんだから…川に飛び込んで」
おばさんはなつはをじっと見つめた。「あの男に今度こそは聞き出してやる」
おばさんはドアノブに手をかけた。その時ドアノブが回り、ドアが開いた。
「鍵が開いているわね」
おばさんが真っ暗な部屋の中を見つめた。物凄い匂いが2人の鼻腔をくすぐった。
「な、なにこれ」
おばさんが鼻を抑えたとき、部屋の中で何か黒いものがゆっくりと立ち上がった。それは真っ赤な目をこちらに向けた。外の廊下の光に照らされたそれは骸骨だった。骸骨の殺人鬼岩本承平は直後、ベランダのガラスを開けると、そのまま飛び降りるように消えた。
「ちょっと、ここは8階よ」
おばさんがドスドス部屋に入ると、ベランダから身を乗り出した。骸骨は下の階のベランダの手すりを1階ずつ掴むようにして見事な運動神経で立体駐車場の車の屋根に着地すると、そのまま身をひるがえして闇に消えた。
「一体何なの?」
おばさんがため息をつく、なつはが部屋の電気を付けた。その直後だった。その部屋の床に広がった大量の血痕と、最早人の形をしていない何かが散らばっているのが照らし出された。
「ひっ」なつはは目を見開いた。おばさんはそれを見て「ぎやぁああああああああああああああああ」と奇天烈に絶叫した。