少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

劇場版少女探偵島都6 殺人パンデミック2

3-4

 

 


3

 

「うひゃひゃひゃ。楽しかったぁ。すごい冒険だったねぇ」
都が魔法ステッキ片手に大喜びしている横で、結城と勝馬はげっそりしていた。
「何人最後面のボスがいるんだよ」
10回北斗神拳でぶっ飛ばされた結城が肩をこきこきならす。
「でも結城君、すっごいノリノリでやられていたじゃない」
女の子の部屋でみんなが寝たのを確認した瑠奈が笑顔で笑う。
「そりゃぁ、囚われの姫となった高野が救われる重要な最終局面だぜ。奴らの冒険の最終章を飾る愛と冒険の締めだ。惰性でなんか出来ねえよ」
と結城。
「お疲れさん」
朝食の仕込みをしている優奈が言った。
「すっげぇ、みんな寝つきよかったよ。ここまで久しぶりに遊んだのはこれが始めてだよ。やっぱり一生懸命遊んでくれたおかげだよ」
「いや、まぁ。結城の用心棒という設定じゃなければもっとガキを楽しませられたと思いますが」
勝馬が照れている。
「結城君、勝馬君、来なよ」
都が施設のドアの向こうから、声を上げている。
「すごいよ。プラネタリウムみたい」
都が夜空に手を広げると瑠奈と千尋も「おおおっ」と声を上げる。天の川がくっきり、福島の山々から天球を流れていた。
「やば、なにこれ」
千尋が感心したように言う。
「こんな夜空が見えたことはないねぇ」
優奈が空を見上げた。
「コロナで車が走っていないからかな」
瑠奈が振り返ると優奈は首を振った。「いや、こんなに天の川が見えたのは今日は初めてだよ」
「やべぇ。これは星空というより…宇宙だな。本当に地球って宇宙に浮かんでいるんだ」
結城が空に向かって口笛を吹く。
「あ、流れ星だ。願い事。お母さんがお寿司とステーキ食べられますように」
都が叫ぶと、千尋が慌てて
「ああ、コミケが次こそ再開されますように」と叫び、瑠奈が
「早くコロナが収まりますように」
と声を出した。
 5人の少年少女の頭の上を宇宙は広がり続けていた。
 その時だった。都のスマホに着信があった。
「おや、誰からかな」
「都―。知らないやつの電話には出ない方が」と結城が言ったが、都は電話に出た。
「はーい、誰かな。あ、岩本君? お久しぶりー。今宇宙が奇麗だよー」
「なんだ岩本か」
結城はため息をついた。そして再びぶったまげた。
「岩本だとおおおおおおおおお!」
「し」都が指を立てた。結城は慌てて黙る。
「うん、わかった。この施設をみんなと一緒に出ればいいんだね。了解。今すぐだね」
都は電話を切った。
「結城君。みんなを起こして。この施設を出るよ」
「どういうことだ。説明しろよ」
結城が声を上げた。
「私たちを殺すために、村人が今集落の集会室に集まっている。早く施設を出て逃げないと、みんな殺されちゃうんだって」
「はぁっ? 何を言っているんだ殺人鬼が」
勝馬が言った。
「本当に岩本だったの。いたずらとかじゃなく」と千尋
「声や喋り方は間違いなく岩本承平だった。本当に切羽詰まっている感じだったよ」
都は確信を持って言った。
「でもそれがまた岩本が何かやらかすためのトリックだとしたら?」
瑠奈が真剣な表情で都を見た。「また都を罠にかけるつもりかもよ」
 その時、優奈の声がした。
「みんな。ちょっと来て」
優奈の声に5人は戻った。テレビではヘリ中継がされている。
福島県杉沢市上空です。市街地あちこちで火災が発生しています。路上には大勢の人たちが走り回っている様子が見えますが、停電しているためよく見えません。繰り返します。杉沢市で大規模な停電と火災が発生しているようです。しかし、福島気象台によりますと、杉沢市などで地震などは確認されていないという事です。なぜこれほどまで同時に火災が発生しているのかはわかりません。
 テレビ中継を5人は茫然と見ていた。都は声を荒げた。
「急いで!」

 

 ピックアップトラックや軽トラックに分乗した消防団の連中が教会や孤児院の扉をけ破り、中を調べた。しかしベッドも食堂もリビングも風呂場も誰もいない。クローゼットも全部開けたが人一人いなかった。
「くそっ、察したか」
ニュース報道をやっている液晶テレビを上森団長は苦々しくひっくり返した。
「かまうな。火をつけろ」
消防団が放火なんて信じられないが、ガソリンがバラまかれ、火のついたたいまつが玄関に投げ込まれると、突然施設全体が爆発したようにガラスが割れた。
 その様子を前原と小路も見つめる。小路は猟銃を持っていた。
「山に逃げたんだ。山を追え」

 

全員ロープを手に子供たちは山の中を必死で走っていた。
「みんなよく纏まっててよかったです」
瑠奈が優奈に言った。
「すごいな。みんな優秀だよ」浩紀の頭をくしゃくしゃに撫でながら千尋が息の上がった笑顔を見せると、
「こういう事があるんじゃないかって気はしていて、避難訓練はやっていたんだよ」
と優奈はライトでこまめに全員いるか振り返って確認しながら言った。
「優奈さん。ライトはあまりつけない方がいいよ。彼らはもうすぐ近くまで来てる」
都は爆発があった方向に動くたいまつを見つめた。
「このままじゃ追いつかれる」
「大丈夫。この先の奥に祠があって、その祠の下に地下通路があるの。カタコンベになってて昔の人の骨がいっぱいあるけど、そこに隠れられれば」
優奈は先を急ぎながら言った。

 

「おい、あそこにライトが光っていたぞ」
村人がたいまつ片手に声を上げ、ライトが光った方向に松明が集まりだす。その中の一人、上森が森の中で必死であたりを見回していた時、背後から口をふさがれて頸動脈を絞められ、気絶させられる。木と木の間を通り抜けようとした一番若い前原は、勝馬のぶっとい二の腕を突き出されて思いっきり体を回転させて気絶した。が、その直後に銃声が聞こえて勝馬の肩に穴が開いて血が噴き出した。
「ぐあぁっ」
勝馬が地面に倒れる。レーザーポインターがうごめく勝馬のバイタルを狙っている。
「やめろぉおおおおおお」
結城が叫んだ直後、レーザーポインターは結城の額を確実にとらえていた。
 銃声が響いた。結城の耳を銃弾がかすめた。結城を狙っていた小路は崩れ落ち、その背後に大柄な影が立っている。そいつは小路の猟銃を奪い取ると、間髪入れずに弾を込めて、松明が動く方向に向かって2発発砲。弾がないことを確認すると、小路の死体に突き刺さっていたナイフを抜いて、それを森の中に投げ、かすかに見えていた影が倒れこむ。
「間に合ってよかったですよ」
そこにいたのは骸骨だった。黒い眼窩の奥で赤い目が光っている。殺人鬼岩本承平だった。
勝馬君の肩の傷を押さえてください。決して手を緩めないで」
「お、おう」
結城は勝馬の肩傷を押さえた。
「都さんは僕が助けに行きます」
「ふざけんな」
岩本は息を上げた。「あんな殺人鬼のいう事なんて」
「しゃべるな馬鹿」結城は声を上げた。
「今はあいつを信じるしかない」

 

「いやだぁ、怖い」
突然浩紀が森の獣道で叫んで座り込んだ。
「どうしたんだよ。今歩かないと殺されるぞ」
真がせかす。
「母ちゃんが俺の手を引っ張って樹海に…いやだぁああ、いやだぁあああ」
泣き出す浩紀。その浩紀を女子高生島都が背後からぎゅっと抱きしめた。
「お母さんを助けたいんだよね」
「う、うん」
浩紀が泣きながら都にしがみつく。
「大丈夫。お母さんも一緒に連れて行こう。ね」
都がにっこり笑った。浩紀がうなずいて立ち上がろうとした直後だった。都の首に手が回り、次の瞬間思いっきり締め上げられた。
「都!」
瑠奈が叫んだ。
「動くな。お前ら」爺さんが津川館長みたいな狂った笑顔で都の首にナイフを突きつける。
「やめてっ」
千尋が叫ぶも、別の長身の村人に猟銃で殴り倒され地面に倒された。もう一人猟銃を持った髭の男が優奈の胸をバッドの先でぐりぐりする。
千尋ちゃん! お前ぇええええええ」
都が物凄い形相で爺さんをにらむが、爺さんに頭から腐葉土の地面に落とされ、思いっきり頭を足でぐりぐりされる。
「お前ら、よくも、よくもこの村をこんなにしてくれたな」
「なんで、なんでこんなことを…」
瑠奈が悲鳴に近い声で子供たちを背中にかばいながら声を上げる。
「お前らがコロナを運んできたからだ。お前らが死ねばコロナはなくなるんだぁ」
爺さんが狩猟ナイフを都に振り上げたが、その手が背後から来た別の人間にひねり奪われ、次の瞬間、猟銃を持った背の高い方の男の額にナイフが突き刺さっていた。
「うわぁああああああああ」髭の男が猟銃をパニックになって爺さんの方に発砲。
「伏せて」という都の声に、子供たちが悲鳴を上げて伏せる。爺さんの死体をその辺に捨てたその人物は、必死で弾込めをする髭の男を仰向けに蹴り飛ばし、猟銃を奪って冷静に弾を込めて口の中に突っ込もうとするのを、都が泥だらけになりながら銃身にしがみついて止めた。
「ひいいいい」
髭の男は悲鳴を上げる。
「岩本君。ダメだよ。人を殺すのは…駄目だよ」
骸骨のような形相に、子供たちは震えあがる。
「子供たちが見ていますね」
岩本は銃を離すと弾を取り出した。
「失せろ」
岩本に赤い目でにらまれ、髭男は悲鳴を上げて走り出した。
「都さん、千尋さん、大丈夫ですか」
「うん」都は笑顔で言った。「ありがと。千尋ちゃん大丈夫?」
「何とか」
千尋は首を押さえて立ち上がった。
「下で勝馬君が撃たれました。急所は外れていると思いますが。すぐに手当てを…先生」
優奈は「ひっ」と声を上げた。
「バスを用意しました。子供たちを教会のあった場所に」
「は、はい」優奈は声を上げた。都は「大変! 早く岩本君」と袖を引っ張り、千尋は震えながらも泣き出した子供たちの背中をさすってあげた。

 

 子供たちが燃える教会の前でバスに乗り込み、バスに積載された担架を使って結城と瑠奈が勝馬をバスに乗せた。
勝馬君、重い」瑠奈がうめく中、何とかノンステップバスの床に載せた。
勝馬君、大丈夫。しっかりして」
都が声を上げた。勝馬は薄目を開いて都を見た。
「都さん、エムおばさんによろしく伝えて置いて」
そういうと、勝馬はにっこり笑って、ガクッと目を閉じた。
勝馬君、勝馬君! いうやだぁああああああ、勝馬君死んじゃいやだぁああああ」
都が勝馬に縋って号泣した。
「下らねえ冗談やっているんじゃねえよ」
結城が都に突っ込みを入れて、都と勝馬は「結城君の怒りんぼ」「いいじゃねえか」と結城をジト目で見る。
「とっとと発車しろ。こんな糞村いたくもない」
結城はため息をつき、勝馬はバスを発車させる。燃え上がる施設を後ろの窓から見ていた優奈は突然顔面を覆って泣き出した。千尋が背中を撫でた。千尋の顔にも苦渋が浮かんでいた。
「岩本君…どこへ行くの?」
都は運転席後ろのタイヤの上の特等席に座って岩本に聞いた。
「少なくとも杉沢市からは出ますよ。市街地でも大量虐殺は始まっていますからね。残念ですが在日朝鮮人の居住地区がかなりやられているようです」
岩本は苦渋の表情だった。
「わかった…それともう一つ」
都はじっと岩本を見た。
「岩本君は何人殺したの?」

 

4

 

「施設周辺ですか。9人です。教会周辺で3人、森の中で6人」
「そっか」都は沈んだ声で言った。
「許せませんか」
「ううん。私たちの命を助けるために仕方なくでしょう。正当防衛の範疇だよね」
「ええ」
岩本は言った。
「都さんと話し合いたいのは、一時的な休戦協定の話です。この状況を打開して、施設の子供たち全員を助けるには、少なくともここにいる全員で力を合わせなければいけません。都さんには状況打開まで僕を捕まえようとする行動は慎んでいただきたい。都さんにこんなことをお願いするのは僕にとっても不本意ですが」
「わかった」
都は頷いた。そして射貫くような目で岩本を見る。
「その代わり、私からもお願い。誰かを救うために本当に仕方がない時以外は、絶対に人を殺さないで」
「いいでしょう」
岩本は言った。
「正当防衛以外の不必要な殺人は慎みましょう」
岩本はアクセルを思いっきり踏んだ。目の前にバリケードを設置した村人が猟銃を構えていたのだ。
「来るときに突破したのですが、帰り道には猟銃で強化していますね」
岩本は猟銃を取り出すと、ガラス越しに発砲し、直後バリケードに注射された軽トラックが爆発して猟銃を構えた男が2人吹き飛ばされた。彼らは必死で起き上がってバスをよけると、もう一台の軽トラックの荷台に飛び乗り、他の2人の消防団員残してあとを追いかけた。軽トラックの荷台の男たちは猟銃を発砲し、バスをパンクさせようとする。岩本はバスを急に減速させ、軽トラに追い抜かせた。荷台から男が前のタイヤを狙うが、直後岩本はバスを右に幅寄せして、男たちの軽トラックはブレーキを踏む機会を逸した。
「うわぁあああああああ」
左カーブのガードレールに乗り上げるように軽トラックは空中を回転して崖下に人間と一緒に舞いながら落ちていって、直後崖下が明るくなったが、岩本はバスを止めなかった。
「すっげぇええええ」
真と浩紀が目を見開く。
「うわぁあああああ」千尋が目をむいて呻いた。
「まだ来るぞ」
目の前の路地から消防団のポンプ車が飛び出してきてバスの前の道をふさぐ。法被を着用したおばちゃんが突然ポンプ車の水を噴射した。ガラスが消火剤で何も見えなくなる。だが岩本はバスをよけもせずにアクセルを踏んで消防車に特攻する。ガラスが割れ、ものすごい圧力が岩本にかかり、都は「ぶわっ」と後ろに吹っ飛んだ。
 だが岩本は動じない。水流に撃たれながらまっすぐポンプ車に突っ込み、ビビったおばちゃんがポンプ車を止めると、今度はバスが激しく後ろから追突し、バランスを崩したポンプ車は横転して回転しながら田んぼに転がり落ちた。
「やれやれ」
岩本が言ったとき、突然ガキーンとすさまじい音とともにバス車内のポールに火花が散った。後ろから2台の軽トラが近づいてきて、荷台から運転室越しに猟銃でねらいをつけてくる奴がミラーに見えた瞬間、ミラーが撃ち抜かれた。
「皆さん伏せて」
「きゃぁああっ」瑠奈千尋が叫び、優奈が「みんな伏せて、みんな伏せて」と叫んだ。
岩本は泡まみれで目を回している都の手を引っ張って運転席に載せる。
「え、ちょっと」
「ゴーカートと思ってください」
「ひいいいい」
岩本に言われて都は目を回しながらハンドルを動かす。
「都、前だ、前見ろ」
結城が慌てて叫んだ。岩本はその間に後ろの銃痕だらけの後ろの窓から、後ろ2列の座席に体を固定して一発撃った。それは軽トラ1台目の運転手の額に当たって、軽トラが制御を失ってそのまま用水路のガードレールに突っ込んで爆発して荷台の人間が吹っ飛んで消えた。もう一台のトラックはそれに驚いたのか急ブレーキを踏んで追跡を断念した。
 岩本はもう一台の軽トラから銃の照準を外すと、震えている子供たちを尻目に運転席の都のところに戻る。
「都さん、変わりましょう」
岩本はそう言って、都と運転を変わった。
「結城君」都はハムスターみたいに硬直している。
「さて、これからどこへ行く、岩本」
結城は言った。
「早く勝馬を病院に連れていきたいが」
「それはやめた方がいいよ」
瑠奈がタブレットを翳す。
「これを見て」
タブレットに映し出されたYouTubeの動画中継。杉沢市市街地のあちこちに火の手が上がっている。テロップには「外国人が暴動を起こしているとの情報」と出ていた。
「なんで外国人がって」
結城が声を上げた。
「多分マスコミが市民からの情報を鵜呑みにしたのでしょう」
岩本が言った。
「うわぁっ。大変だこりゃ」
千尋が声を上げた。彼女はスマホTwitterのTLを下にスクロールしている。
ハッシュタグで、地域を守ろうって出来ちゃっている。外国人が暴動とか…日本中のあっちこっちで自警団とかが作られちゃってるよ」
「波及しちまったんだな」
結城は言った。
「あの杉沢市の市街地の混乱や暴動を見て、日本中のメディアが誤報を流し、人々が驚いた。例えばどこか違う都道府県の町で火事が起こったとして、こんな大事件が起こった直後に自分たちの町で火事が起こればどうしても関連付けてしまうだろ」
「それに」瑠奈がタブレットを見て言った。
「意図的に流している人もいるみたい」
Twitterでは総理大臣がファンだという極右のハゲの作家が、Twitterで「今こそ日本人の怒りが爆発する時だ。テロリストを殺せ」とツイートしている。
 東京の新大久保では多くの市民がお店に火をつけて、人々をリンチしている。神戸のモスクには火がつけられ、横浜の中華街でも多くの市民が放火や略奪を行っている。その様子が逐一Twitterに送られてきていた。
「どうするんだ。こりゃ、杉沢市から出たとしても完全に安全じゃねえぞ」
と結城はほぞをかんだ。
「大丈夫」
岩本は言った。
「今こういう時の為に、手は打ってあります」
バスは県道に飛び出した。

 

 杉沢市駅前の歓楽街は炎に包まれていた。そんな中駅前を走る国道には大勢のヤクザが警官に連れ出され、後ろから頭を拳銃で撃たれて処刑されていく。
「どうなっているんだ」
市役所の市長室で塚本源栄市長は頭を抱えた。
「こんなはずじゃなかったのに。こんなはずじゃなかったんだぁ」

 

 茨城県警本部捜査一課。
「なんだと。一晩で殺人の通報が30件?」
長川警部が部下の鈴木刑事に叫んだ。30歳の女警部は冷静沈着だったが、そんな彼女でさえこの事態に一瞬息をのんだ。
 茨城県での殺人件数は令和になってからは大体20件くらいである。え、このシリーズ的にはもっと多い気がする? 気にするな。そんな茨城で年間に20件発生する殺人事件の一報が、茨城県県北、県南、鹿嶋地区で合計30件以上送られてきたのだ。それも1件あたり複数の被害者がいるというのだ。
「なぜ殺人で警備部が動くんだ」
長川は鈴木に言った。「殺人じゃない。ジェノサイドですよ」
鈴木は刑事は長川を見上げた。

 

「それで…」
都は県道を走るバスの中で運転する岩本に言った。
「どうして、岩本君はこの杉沢市にいたのかな。何か理由があってここにいるんだよね。それって今回の大量殺人と何か関係あるのかな」
鈴虫がなく中で、バスは夜の田んぼを走り続ける。子供たちの何人かはガタガタ震えていた。
「僕が直接殺したかったのは市長と懇意にしていた人材派遣会社社長です。もうすでに死んでもらいました。従業員をリンチして2人殺しのうのうと生きているゴミですからね。こいつはコロナで個人営業の飲食店が全部潰れたあと、それを代替するチェーン店を作り、元個人事業主に借金を背負わせて奴隷のように働かせる計画を立てていました。ただ、市長自体はいわゆるネトウヨみたいな奴ですが、盗聴した限りではビジネス右翼と言った方がいいですね。差別的な発言で支持を集めて、カジノとかを誘致し、企業を誘致する。とことん企業には優しく福祉はやらない。そんなタイプの人間です。あとは差別的な真理を言う自分を格好いいと思い込んでいるキャラクターですよ。今回の出来事を望んでいたとは到底思えません」
「ただ」
岩本は顎に手を当てた。骸骨のような顔がロードサイドのコンビニに照らされる。
「虐殺の原因になったかもしれないという出来事なら、一つ心当たりがあります」
岩本に目をぱちくりさせた時、岩本は急ブレーキをかけていた。バスは県道を通り、集落を通過しようとしていたところだった。
「どうした。岩本…」
結城が声を上げた。岩本はため息をついた。
「見てください」
都と結城はバスのドアから降りて、「このバスは附属中学校経由、磐城杉沢行きです。整理券をお取りください」というドアチャイムを尻目に、夜明け前の道を見つめた。その先に何かが転がっている。おびただしい数の死体が、道をふさぐように転がっていた。
―このバスは附属中学校経由、磐城杉沢行きです。整理券をお取りください。このバスは附属中学校経由、磐城杉沢行きです。整理券をお取りください。このバスは附属中学校経由、磐城杉沢行きです。整理券をお取りください―
 空が明るくなり、大量の死体が集落の道路の上に続いているのが見えた。ほとんどが高齢者だった。シャツにズボン姿、もんぺ姿、Tシャツ姿、ステテコ姿…。
―このバスは附属中学校経由、磐城杉沢行きです。整理券をお取りください。このバスは附属中学校経由、磐城杉沢行きです。整理券をお取りください。このバスは附属中学校経由、磐城杉沢行きです。整理券をお取りください―
 都はこれ以上見ていられなくなり、バスに戻った。結城も首を振った。座席に座った都は涙をぬぐいながら、「岩本君、迂回しよう」と言った。