死神タワー殺人事件❺【解決編】
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【容疑者】
・益田愛(15)高校生
・姫川瑠偉(22)スイミングインストラクター
・萱野厚樹(51)萱野産業社長
・香川哲(50)萱野産業役員
・岩本承平(20)萱野産業従業員
・野田武(26)ライフセイバー
・小山理恵(54)パート従業員
・ヒゲヒグマ恩田(43)エアロビクスインストラクター
・宮崎新(38)マンション管理人
・鷺沼淳司(60)茨城県警警部補
「貴方はそんなことされていい人じゃない」
小山理沙は泣きそうになりながら必死でこちらに訴えかけた。
(どうしてでしょう)
犯人の心は言った。
(どうしてあなたを助けてあげられなかったのでしょう。貴方を恐怖と苦しみから、助けてあげられなかったのでしょう)
犯人は苦悶に満ちた自問自答をし続けた。
「そう」
あの時と全く同じ目をした少女がスポーツセンターの事務室でゆっくりと話し出していた。
「このコンプレックスのタワーマンションから萱野社長を突き落として殺害し、新交通システムで香川さんを轢き殺させ、そしてショッピングモールの水槽に岩本さんを沈めて殺した犯人」
都はゆっくり呼吸をしてこちらを指さした。
「それは貴方です」
指をさされた鷺沼淳司はゴムマスクの中で目を見開いた。一同が目を見開く。
「貴方が3人を殺害した犯人です」
そういう都に長川は声を震わせた。
「都、さっき鷺沼は犯人じゃないって…」
「そ、そうですよ」姫川瑠偉が声を震わせた。
「鷺沼先生には完璧なアリバイがあるんですよ。スタジアムで私と一緒にいました。ゴムマスクの下が別人なんてありえません。VIPルームには指紋認証があったんですよ」
「それに第一の事件では警察署で会議中だったと大勢の警察官が証言している。ゴムマスクを外した事や、捜査の経験を質疑応答形式で話していて、本人なのは間違いないとプロの警察官が話している」
と長川警部。
「確かに鷺沼警部補のアリバイは完璧だよ」
都はじっと鷺沼を見つめた。
「そのアリバイをどうこう言う前に、私はこの3つの殺人事件にある共通点を2つ見つけたんだよ。その共通点は」
都は鷺沼警部補を振り返った。
「この3つの殺人事件が物凄く残酷で被害者に恐怖と苦しみを味合わせて殺している事。そしてもう一つはそれを鑑賞している人間がいたって事だよ」
鷺沼の目がゴムマスクで見開かれた。
「第一の萱野転落死の事件では白い仮面の怪人、2つ目の事件ではAGTの車内で岩本が香川が殺される瞬間乗車していた。そして第三の岩本がショッピングモールの水槽で溺死した事件では貴方、鷺沼警部補がそれを見ていたよね」
都は鷺沼を見つめた。
「な、何が言いたいんだ、都」
長川がひきつったように笑った。
「この共通点に気が付いたとき、私は犯人が仕掛けた恐るべきアリバイトリックに気が付いたんだよ。犯人が考えた恐ろしい発想、それは自分のアリバイを針とか糸とかトリックで作るんじゃない。完璧なアリバイを持つ人間を殺してすり替わればいいという発想なんだよ」
「何…だと…」
長川警部は驚愕した。
「貴方は本物の鷺沼警部補じゃない」
都はゴムマスクの男を見つめた。
「もう定年で今までの人間関係をぶっち出来る鷺沼は、貴方にとって格好の入れ替わりの相手だったんだよ。貴方の正体は第三の事件で死んだ事になっている…」
都は一呼吸置いた。そして言った。「岩本承平さんだよね」
結城と長川はあのデブを思い出して驚愕した。ゴムマスクの男は目を見開き、一瞬驚愕したようだった。しかしすぐに不敵な笑みに戻る。
「その根拠は」と野田武が呆然として言った。
「タイミングだよ」都は言った。
「警察署で、スタジアムで、新交通システムの車内で、岩本と鷺沼の2人が生きて同一世界同一時間に存在している事が確認されている間、萱野と香川の2人は殺されていた。そして今容疑者になった人みんながここに来ている。と言う事は物理的に入れ替わる事が可能だったのは、岩本さんだけということになるよね」
「じゃぁあのモールの水槽に沈んだのは」
と小山理恵。
「本物の鷺沼警部補だったんだよ」
都は言った。長川は呆然としながら都を見る。都は長川を一瞬見て話を続ける。
「多分顔を切り刻んでピラニアに襲わせるという名目で分からなくしたんだよ」
都の発言にぶったまげたヒゲヒグマ恩田の顔パーツが飛び出て「ひー」と声を上げる。
「ちょっと待ってください」
と宮崎管理人が声を上げた。
「岩本がモールの水槽に沈められた後に、鷺沼警部補はゴムマスクの下を見せていましたよね。その中には岩本なんていませんでしたよ」
「そ、そうだ…ゴムマスクを今取って見せてくれよ」とヒゲヒグマ恩田。
鷺沼はゆっくりとゴムマスクを取って、火傷で溶け堕ち、歯茎が見えた骸骨のような顔を見せた。全員が目を見開き、恩田が泡を吹いて座り込む。
「都…」
長川が都を見つめるが、都は目を閉じて言った。
「長川警部。警部は岩本さんにカマかけたんだよね。公表されていない二重密室殺人というアリバイを岩本さんに主張させるために、岩本さんをわざと厳しく追及した。でも岩本さんは怯え切って小山理沙さんの事をゲロりつつも、二重密室については言及しなかった」
都は岩本を下から見上げた。
「貴方はそういう人だよ。この復讐殺人を成功させるために、自分が苦しまないとか、痛くないとか、助かりたいとか、そういう考えは一切ない。岩本さん、貴方はやってのけたんだよ」
都の目がギラリと光った。
「自分で自分の顔の肉をそぎ落とすという芸当をね」
長川も結城も、その場にいた全員も驚愕した。
「あの、まだ大きな謎が残っていますよ」
と宮崎が声を上げると都はニコッと笑って「二重密室トリックですよね」と言った。
「ではそれを簡単に再現してみましょうか」
都はそう言ってじっとゴムマスクの男を見つめた。
マンションの26階。都は廊下の萱野厚樹の部屋の前で益田愛に向かっていった。
「愛ちゃん。密室殺人そのものを教えられている愛ちゃんには今から警部になってもらいます。萱野社長が落ちてきた後、みんなはこの部屋のドアにやってきて、ドアを開けます。別に何か怖いものがあるわけじゃないから、愛ちゃん、開けてみて」
都はそう言って部屋の鍵を愛に渡す。
「う、うん」
と愛はキーを回してドアを開けると、部屋のフローリングに蝋燭と焼き切れたロープの痕跡があった。
「あ、これ時間が来たら切れるトリックだよね」
愛は都を見た。
「となるともうこの部屋に犯人はいないから…」
愛はあたりを見回してテーブルの上にある鍵に気が付いた。そして青くなった。
「これがあるって事はひょっとして犯人はまだこの中にいるって事?」
愛はあわあわして「さ、探さなくちゃ」と声を震わせた。
「ほら、愛警部の命令だよ。結城君、警部、部屋を探さなくちゃ」
都に言われて、結城と長川は「お、おう」と素直に寝室やバスルームやなんかを探す。
「そうやって」
都は家じゅうのドアを開けて寝室の布団を引っぺがす長川警部、和室の押し入れを探す千尋、クローゼットに頭突っ込む結城を愛に示して見せて、「部屋を探してみたんだけど、結局誰もいなかったんだよね」と都は笑顔で言って、手を叩いて「みんな集合」と結城、長川、千尋を玄関に集合させた。
「あれ」
姫川瑠偉が違和感に気が付いた。びしーっと敬礼している薮原千尋を見つめて
「彼女いたっけ」
と声を上げた。千尋は頭を掻いてわざとらしく会釈する。
「そうなんだよ」
都はじっとゴムマスクの男を見つめた。
「千尋ちゃんにはみんなには内緒でこの部屋の押し入れに頭突っ込んだ状態で待機してもらった。犯人は警察官の格好をして犯人を捜す格好のママ待機していた。私たちは自動落下トリックの痕跡を見つけて、こんなものを仕掛けている以上犯人はどこか別の場所でアリバイを作っていると思って、部屋には犯人はいないと思った。でも部屋の鍵が見つかったが為にやっぱり犯人はいるかもって事になって、部屋中を探した。最初から玄関のかぎを開けてそのまま一気に全部の部屋を探したら、こんな脱出トリックすぐにわかっちゃうと思う。だけど一つ段階を踏む事で、犯人は今の千尋ちゃんみたいに警官隊に紛れ込んだんだよ。部屋に放置されていたロープと蝋燭はそのためのガジェットだったんだよ」
都はゴムマスクの男に正対した。
「防犯カメラの映像でチェックしたよ。突入した警官が15人、待機、交代、その他いろいろを見ても、明らかに突入の時と比べて警察の数が一人多いんだよ」
マンションの廊下が静まり返った。全員が呆然とゴムマスクの男を見つめていた。
「犯人は何でこんな消失トリックをする必要があったんだ」
長川警部は都に聞く。
「警察への挑戦か? 世間をあっと言わせたかったのか?」
「ううん」都は首を振った。
「多分、岩本さんはそういう事に全く興味はないと思う。そもそも二重密室トリックに理由なんてないんだよ」
都はゴムマスクの男をじっと見つめた。
「なぜならあの不可思議消失はある目的を達成する過程で偶然発生した、犯人にとって何のメリットもない事象なんだから」
彼女の目がゴムマスクの男を射抜いた。
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「あ、ある目的の為?」
恩田が呆然とした表情で言い、その後ろで関係者全員が唖然とした。
「さっきも言ったように、この事件では3つの殺人全てで残虐な殺人を鑑賞する人間がいた。犯人はこのタワマンで恐怖の中で落ちていき、その無様な死体を鑑賞する人間、第二の事件では犯人はAGTの車両の下に挟まて、生きたまま引きずられて死んでいく被害者を足元で感じていた。そして3番目の事件では犯人は水中でもがきピラニアに食べられていく被害者を犯人は見ていた」
都は玄関からロープが散らかった部屋とベランダからなびくカーテンを見つめた。
「出来るだけ長く見たかったんでしょう。被害者の死を。だからわざわざ警察官がいる中を脱出するガジェットとしてロープと蝋燭を準備した。だからこそ水槽の上のパイプに引っ掛けられる氷フックを準備した」
ぞっとして愛と千尋は息をのんだ。
「テメェ」長川の表情が怒りに歪む。
ゴムマスクの男は不意に肩を鳴らして笑った。
「ふふふふ、くくくくく、あははははは」
狂ったように笑うゴムマスクの男。
「証拠があるのですか。僕が鷺沼警部補と入れ替わっているという証拠が。警察を定年になった僕が」
さっきと明らかに喋り方が違う。全員がこいつは鷺沼ではないと悟った。
「都のノートがあるぜ」
結城はゴムマスクの男を睨みつけた。
「鷺沼にサインして貰った都のノートの指紋とお前の指紋を照合すれば」
「結城君それは無理だよ」
都は言った。
「あの時岩本さん、貴方は私にわざとぶつかって私のペンとノートに触ったよね。あれは私の手帳とペンがいずれ成り代わりトリックの証拠になると踏んでの事でしょう。私の手帳には鷺沼さんと岩本さんの指紋が出てくる。だけどゴムマスクのこの人と水槽の死体の指紋と照合して、どっちが本当の鷺沼さんのものかなんてわかりっこない」
「警察官は指紋を全員登録されているはずだ」
と長川はゴムマスクの男を見た。
「あんたの指紋を鷺沼と照合して」
突然ゴムマスクの男は長川に向かって掌を翳した。指紋がある指の腹がボロボロになっている。
「昨日ちょっと火傷しちゃいましてね。水槽の岩本の死体と同じように指紋がぐちゃぐちゃに…」
と鷺沼は不敵に笑った。長川はこのゴムマスクの人物の狂気とも思える行動に歯ぎしりする。目の前にいる得体のしれないモンスター。怖い表情の長川を都は笑顔で振り返った。
「大丈夫だよ。長川警部」
都は力強い笑顔で言った。「物的証拠はあるから」
ゴムマスクの男がじっと都を見つめた。
「長川警部は昨日、鷺沼さんからゴムマスクを受け取った時、指に血がついてそれを洗うの忘れていたよね」
ゴムマスクの男から不敵な笑みが消えた。長川の目が見開かれる。
「別に鷺沼警部補の指紋もこの人の指紋も証拠にする必要はない。でも長川警部の車のハンドルに警部の指紋でスタンプされた鷺沼警部補の指紋があったら…」
都はゴムマスクの男の目が驚愕に見開かれるのを見た。
「そしてその血のDNAが水槽の死体と一致なんてしちゃっていたら」
都はじっとゴムマスクの男を見つめた。結城、長川、千尋、そしてその場にいた全員。ゴムマスクの男は目を閉じた。沈黙が流れた。
「ここまでか」
ゴムマスクの男はため息をついた。
「この子のおっしゃる通りです。僕は岩本承平。萱野、香川、そして鷺沼を殺した犯人は僕ですよ」
ゴムマスクの男、岩本は静かに言った。穏やかな目で都を見つめると、彼はふっと笑った。
「警察に僕のトリックが暴かれるとは思っていなかった。だが君を初めて見たときから、もし僕のトリックを暴く人間がいたらそれは君だと思っていました。小山理沙さんと同じ目をした君が…ね」
「何を言っているの!」
姫川は絶叫した。
「物流倉庫で…私と愛理の前で、理沙さんの首吊り自殺を見せて喜んでいたじゃない」
「この事件で一番つらかったのはあれですよ。僕は痛みも飢えも感じない体なので、別に自分の顔の肉をそぎ落とすなど特に何も感じませんでしたが、唯一あれだけは辛く苦しかった。僕を唯一助けようとしてくれたあの人の尊厳を踏みにじってしまったのですからね」
岩本の声が悲し気に震えた。
「ですが、人の命を奪って何の罰も受けない人間に死罰を与えるという使命の為に、あいつらに怯え腰巾着として弱い人間を踏みつけるクズを演じるために、理沙さんに許していただくことにしたんです」
「あ、あなたは理沙とどういう関係だったの?」
と小山理恵が大声で問うた。岩本はゴムマスクの向こうで悲しげに笑った。
「僕が暴力を萱野や香川から受けていた時に、僕を助けようとしてくれた方ですよ。話をしたのはほんの数分でしたが、生まれてからこれまでの奴隷としての人生で、彼女は僕の尊厳を守ろうとしてくれた数少ない人だったんです! 当たり前だと思っていた僕の扱いを間違っている、虐待だと言ってくれた人だったんです」
岩本は全てを吐き出すように言った。
「ですが、彼女は僕を助けるために警察署に行き、そこで萱野と繋がっていた鷺沼に裏切られ、警察署から奴らに監禁され、凌辱されました。萱野と香川は理沙さんの首吊り死体を、凌辱された体を見せて、どのように苦しめ、凌辱し、殺したのかを面白可笑しく話しました。その時僕は…感じた事のない苦しい感情を感じたのです。これまでの人生物心付いた時からあらゆる虐待を受け続けても感じる事がなかった感情が…あの人の恐怖と苦しみを想像したとき、未来を奪われた無念を想像したとき、もう助けてあげる事も出来ない現実を突きつけられた時…」
血を吐くように岩本は感情を高ぶらせた。
「どうにも止まらないのですよ。どうすればいいのかわからないのですよ!」
自嘲気味に笑う岩本。しかしゴムマスクの中で目が泣いていた。小山理恵が口を押え、涙をボロボロ流して震えていた。岩本は震えながら言葉を紡いだ。
「そしてこいつらが萱野のマンションから初めて愛理さんと瑠偉さんを連れてきて、僕に理沙さんの死体を使って脅すように命じました。僕は笑顔で理沙さんの死体を前に瑠偉さんを脅しながら、笑顔で考えていました。こんな僕が生きている理由。それは理沙さんを殺し瑠偉さんたちまで苦しめ搾取する萱野たちのようなクズどもを殺戮する事だとね。萱野をベランダから吊るした時、怯え恐怖するあいつを見ていると、嬉しいと感じました。僕でも嬉しいとか楽しいとか感じる事が出来たのですよ」
岩本はゴムマスクの下で狂気に目を光らせ、最後ににやりと笑った。しかし再びゴムマスクの下で穏やかな表情になり、都を一瞥した。
「ですが、まさか真っすぐな理沙さんのような目をした少女が僕の前に現れて、僕の計画を暴くなんて…こんな事あるんですね」
岩本はにっこり笑い長川警部に手を差し出した。長川はため息をついて岩本に手錠をかけた。
「瑠偉さん。愛理さんは既に安全な場所に保護してあります。この刑事さんは信用出来ますから、話しておきますよ」
岩本は呆然とする瑠偉を振り返ると「さぁ、長川警部行きましょう」と言ってマンションの廊下を連行されていこうとする。
「岩本さん」
都は声をかけた。ゴムマスクの岩本が振り返る。
「岩本さんが感じたあの感情は、憎しみって言うんだよ」
都は笑顔でにっこり笑って言った。岩本は軽く笑って「ありがとう」とだけ言うと、そのまま連行された。
「あの人…」
瑠偉が声を震わせた。
「私や愛理が酷い事をされそうになった時、必ず大きな失敗をして萱野や香川にボコボコにされていた。私は助かりたくて、あいつ何で馬鹿なんだろうって思っているだけだったんだけど」
姫川はそこまで言って顔を覆って崩れ落ちた。小山理恵も口を押えて号泣し、野田、宮崎、恩田は呆然と見送っているだけだった。
都は悲し気に岩本が消えたエレベーターの方を見て立ち尽くしていた。
3か月後-。ショッピングモールのシネコンやアパレルフロアは大勢の客で賑わっていた。
AGTが駅のスクリーンドア定位置に停車し大勢の利用客が下りる中、車内の液晶ニュースを都と結城は呆然と見つめていた。岩本死刑囚…脱獄のニュースを。
高層ビルの屋上展望室で団地やスタジアムやショッピングモールやターミナル駅やを見ながら、長川警部はため息をついた。
「あの男は萱野産業関連の業者として、東京拘置所に出入りし、フェンスやセンサーに仕込みをしてパラシュートを隠していた。そしてあの屋上運動場が使われるのを何カ月も待っていたんだ」
「ありとあらゆる状況を想定するのがあの岩本って人だよ」
都は両手でガラスを触ってターミナル駅に停車する特急列車を上空から見つめた。
「自分が捕まることも想定していたんだよ」
「でもあいつ自分の顔を焼いたり、指紋消したり、なんか自分が助かることを想定していない感じがするよな。今更死刑になりたくないって逃げだすタイプか? 裁判でも素直に罪を認めていたらしいし」
結城が都の後ろでため息をついた。
「あの人、私に言ったんだよ」都は外を見ながら言った。
「自分には人を死に追いやっておきながら罰を受けないクズに死の罰を与える使命があるって」
「ちょっと待て」
結城が都を見つめた。
「あの人は私が今まで見てきた犯人とは違う、恐ろしい犯人だよ。脱獄した以上このまま何もしないなんてあり得ない」
都はじっとガラス越しに何かを見上げた。
「きっとあの人は、また私の前に現れる。恐ろしい殺人事件を計画して…。だけど…」
都は決意に満ちた声で言った。
「そんな事、絶対に許さない」
おわり