少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

死神トンネル殺人事件❹

【容疑者】
・本多華凛(16):高校1年
・太田純也(16):高校1年
・松岡哲士(16):高校1年
・石田理奈(15):高校1年
・青野ひろ子(36):民宿経営
森庄司(38):ディレクター
・冴木麗子(28):アナウンサー
・平本宗司(45):カメラマン
 

 

 
7
 
「ようこそ…高野瑠奈」
ゴムマスクの人物はゆっくりと下着姿の高野瑠奈の気絶した体に白装束を着せながらおぞましく笑った。
「君はこの殺人劇のメインキャストだ。そしてもう一人」
ゴムマスクの怪人は斧を片手に猿轡をかまされ必死で呻く女性の方を向いた。それは冴木麗子だった。彼女は手錠を装着され、両足もアンクレットで封じられ、暗いトンネルの中で泣き叫んでいる。彼女は白いシーツの上に寝かされている。
(逃れようとしちゃだめだな)
怪人は残虐に思案しながら斧を片手にゆっくり近づいてくる。
(これは君を包み込む聖骸布なんだから)
そういうとゴムマスクの男は斧を振り上げる。そして斧が手首をぶった切り、凄まじいうめき声とともに冴木麗子の手が手錠と一緒に飛ぶ。腕を切断された腕を無茶苦茶に振りながら冴木麗子は目を血走らせた。
 
 山形県道44号を走る長川警部の軽自動車。急いで民宿に向かっている。
「やっぱり瑠奈ちんは犯人に狙われていたんだよ」
都は唇を震わせ、目をらんらんとさせて前を見る。
「もし瑠奈ちんに何かあれば私のせいだよ。私が松岡君の言う通り、みんなで一緒に遊んでいれば、瑠奈ちんは」
「まだ犯人に襲われたと決まっているわけじゃないだろう」
長川警部は前を見ながらルームミラー越しに目くばせする。
「なぁ、都」
長川警部は言った。
「この先に温泉街があるから。お前をそこで降ろしていいか」
「警部?」
都は目をぱちくりさせた。
「お前に今私が持っている有り金渡して、温泉街で何も考えずに風呂入って美味しいものを食べて、溶けさせたい気分だ。その間に私は高野さんたちを探しに行くから」
「何言っているの?」
「都のお母さんのことがあってから、お前に事件に関わらせることはいい事なのかずっと考えていたんだ。お母さんの事、青野望美さんの事。そして今回の高野さんの事。お前は何度も大切な人を失うかもしれないという怖い思いをし続けている。普通の人間が耐えられるレベルじゃない」
長川はハンドルを握った。
「もう知らねえでいいじゃないかよ」
「瑠奈ちんは私の友達だよ」都は言った。
「その高野さん自身がそう考えているんだよ」
長川は言った。「彼女は私に相談もしていたし、今日行くときだって、民宿で私に言ったんだ。都に無理はさせないで欲しい。辛そうにしていたら温泉にブッコんで欲しいってな。お前の友達もそうだ。お前の友達はみんないつもお前に協力してくれているのに、今回は手伝わないでみんな海で遊んでいたろ。みんなお前が何もかも嫌になったときに受け止めるつもりなんだよ。だから敢えて捜査する都の横にいなかったんだ」
都が前を見る長川の顔を助手席で見た。
「わかった」都は頷いた。
「温泉に連れて行ってよ…みんなも一緒に。事件が解決したら。私たちを温泉に連れて行って。パフェ食べたい」
都は長川の肩をゆすった。「バナナとホイップとプリンが乗ってるの!」
「みんな連れていくのか」と長川は目を見開いて唖然と都を振り返った。「前前前!」と都が慌てる。長川は前を見た。そしてため息をつく。
「安い町営の風呂ならな」そして言った。
「お前みたいな奴に出会えたこと、事件を追えた事を刑事として誇りに思う」
 
 長川警部の自動車が宮内トンネルの前に到着した。
「どうしよう、都ちゃん」
殺人現場のテープが貼られたトンネル前の道路で狼狽える民宿経営の青野ひろ子(36)が都の肩を抱く。
「2人に何かあったら」
「電話にも全然でないし。もう3時間も帰ってごねいの」
と石田理奈(15)が半泣きになっている。
「すまん、おらがサッカー見だぇって先さ帰るような事すちまって」と松岡哲士(16)が眼鏡の奥の目を焦りで震わせる。
「落ち着いて」
都は自分に言い聞かせるように言った。
「居なくなったのは、大体ここら辺だよね」
都は理奈に確認した。
「うん」理奈は涙で熱くなった顔で頷く。
「青野さん。ご心配な気持ちはわかりますが、今は民宿にいてください」
長川は青野ひろ子に言った。
「連絡が来るかもしれませんし。ひょっとしたら2人が戻ってきているかもしれません」
「わかりました」
青野ひろ子はそう言って民宿へと走っていった。
「おい!」
突然大声がしてその場にいた全員がその声の方向をライトで照らしだした。
「太田君」都が安心したように言った。
「どうすたってLINE見でバイト先がらすっ飛んでぎだんだよ。都、もう大丈夫だぞ」
その時だった。突然コール音が鳴り響いた。都がピンクのガラゲーを取り出す。
「瑠奈ちんだ」
都は通話ボタンを押した。
「瑠奈ちん、瑠奈ちん」
都が電話に向かって叫ぶ。
-た、助けて…
 瑠奈ではない別の女性の声が聞こえてくる。
-助けて…殺される…殺される…
「冴木麗子さんですよね。アナウンサーの」都が声を上げる。彼女は咄嗟に音量を最大にして長川警部にも翳した。
-冴木…麗子…警察に…
「警察官の長川警部がすぐそばにいるよ!」都は叫んだ。
―おさがわ…警部…助けて…私…手がないの。足もないの…目の前には髪の長い女の子が白装束で倒れていて…
冴木の震えるような声が聞こえてくる。
―痛い…痛い…警部…助けて。
「どこにいますか」
―殺人現場のトンネル…民宿の方の出口。
この時、手足を切断された冴木麗子は息もだえだえにトンネルの出口を見た警察のテープで封鎖された出口の向こうにある月夜に照らされた景色を見て、冴木は声を震わせた。出口からは高校生の声が聞こえる。ライトが木々を照らすのも見える。
―森ディレクターが殺された場所に私はいるわ!
外の全員が思わず目の前の警察のテープが貼られたトンネルを見つめる。
―早く助けて…殺される…助けて…ぎゃぁあああああああああああああああ。
突然スマホに絶叫が響き渡る。この時、冴木は自分に斧を振り下ろすゴムマスクの怪人を見た。
―助けて、殺さないで、ぐがぎゃぐお、げえええええ
その悲鳴とともにスマホは切れた。
「じょ、冗談じゃねえぞ」
太田は顔面蒼白になり、宮内トンネルによじ登り始めた。そしてトンネルの入口へと斜面をよじ登った。
「待て太田君!」
長川警部が慌てて追いかける。
 都も必死でトンネルによじ登った。真っ暗なトンネルをライトで照らす。
「瑠奈…瑠奈! しっかりしろ! 瑠奈」
「高野さん」
そこにはシーツに寝かされている少女がいた。血だらけのシーツの真ん中で少女が仰向けに寝ていた。少女は死に装束姿だった。眠っているように目を閉じたその少女は、高野瑠奈だった。
 顔面蒼白になる島都。しかしいくら脳が拒否しても目の前には白装束を着せられた高野瑠奈が倒れていた。都の脳裏に母の遺体と、棺桶の中で花に埋まった青野望美の遺体が過った。
 長川と太田が必死で揺り起こし、呼吸を確認する。
「うっ」
瑠奈がうめき声をあげた。
「大丈夫。気絶しているだけだ」
長川は言った。
「ケガは、ケガはしてないの?」
長川警部は瑠奈の装束の胸の間などを見ていた、その間に理奈が太田と松岡哲士の目を隠す。
「いや、ケガらしいケガはないぞ。
「良かった」
都は声を震わせた。
「しかし冴木さんは犯人に連れ去られたな。それに本多さんの行方も」
「クソッ」
太田は大声でわめきながらトンネルの奥へと走っていた。
「待でゴルァアアアア」
「太田君! 都。高野さんを頼む」
長川警部はトンネルの奥へと太田を追いかける。
「み、都…」
瑠奈がふと目を開けた。そしていきなり都の肩を掴んだ。
「都、華凛が…華凛が」
瑠奈は必死で半泣きになりながら叫んだ。
「華凛がゴムマスクの男に首を絞められて…華凛が」
「そ、そんな…」
都の顔が真っ青になる。マンションのベランダで都の話を聞いてくれたあのジト目のそれでいて心の優しい少女の顔が蘇った。
「駄目だよ…そんなの駄目だよ」うわごとのように呟く女子高生探偵。絶対嫌だよ…そんなの…華凛ちゃんは…華凛ちゃんは」
「私がどうかしたの」
と本多華凛がジト目で立っていた。
「華凛ちゃん、死なないでえええ。死んじゃやだぁああああ」
都が華凛に抱き着いて号泣した。そして「あれ」と目を点にする。
「華凛! 首絞められて大丈夫だったの」
瑠奈が華凛の肩を両手で持つと華凛は「そうだ。ゴムマスクの男が私の前に来て…あれ」
とキョトンとする華凛に瑠奈は抱き着いた。
「良かった。本当に良かった」
「私は死なないよ」
と華凛は都と瑠奈をなでなでして優しく笑う。
「でもどうしたの。みんな揃って秘密の儀式でもやってたの」
「それどころじゃないよー」
理奈が半べそかきながら怒った。
華凛を助けるために長川警部とかがトンネルの奥に行っちゃったんだから」
「マジで?」
華凛はショルダーバックから懐中電灯を取り出すと都の手を引っ張った。
「行くよ!」
 
 トンネルの反対側の正面に温海地区の役場と川、さらに向こうに温海温泉駅が見える。
「長川警部!」と都が叫び「純也!」と華凛が懐中電灯で闇の中を照らす。反応はなく、2人は斜面を降りた。
「都…」
長川がペンライト片手に都を呼んだ。
「長川警部…冴木さんは」
「いない。参ったよ。太田君までいなくなるし」
長川はため息をついた。「だがもう応援は要請してあるし、とにかく君らは」
「純也、何すてるの」
と華凛が温海川の河原にいた太田に声をかけた。太田は振り返った。そして悲鳴を上げた。
「ひいいい、華凛のお化げ!」
「失礼な奴だな、おめ」とジト目の華凛。「生きてるよ」
「でも華凛ゴムマスクの奴さ首絞められだんだべ。てっきり殺されだのがど…良いっけ」
太田は座り込んだ。華凛はそれを優しい目で見つめる。
「ありがど」
「だが冴木麗子は行方不明か」
長川警部はため息をついた。
「あの悲鳴は尋常じゃなかった」
「それにトンネルの内部に放置されたシーツの血…早くしないと」
都は力強く言った。
「うわぁああああああっ」
太田が急に悲鳴を上げた。
「純也、今度は誰のお化げ見だの」華凛が呆れたように純也に声をかける。だが華凛は「都」と戦慄した。河原にゴムマスクの怪人が立っていてこっちを見ていたのだ。いや、体の部分は木の杭のようだ」
「こんなところに案山子か」
長川は声を緊張させる。そしてゆっくり案山子に近づいた。
「うわぁあああっ」
太田がまた悲鳴を上げた。
「太田君」
都が太田を見ると、太田は真っ青な表情で「何がふんだっけよ。都、われ。おらの足の下にあるもの、見でぐれねが。嫌じゃねえっけらでいいがらよ」と声を震わせる。都は太田の足元にある何かを見つめた。
「人間の手首だよ」
都はゆっくりと言った。太田は顔面蒼白になった。
長川は弾かれたように杭に置かれたゴムマスクを外した。梟首された冴木麗子が物凄い表情で目を見開き、歯ぐきから出血した状態でこっちを見ていた。
「ひいいっ」
華凛は都に抱き着いた。都はその生首を目を見開いたまま凝視した。
 
8
 
「なんで死にざまだ」
古市警部補はパトカーの回転灯をバックに生首を見上げた。ビニールシートの上には手首が横たわる。
「古市警部補、足の指など数本が草むらから発見されました」
と警官が古市に敬礼した。
「しかし胴体などはまだ発見には至りません」
「了解した。やはりダムの放水で流されたか」
古市警部補はため息をついた。
「ダムの放水?」と長川。
「この日のこの時間に大体放水があるんですよ。これは海まで捜索範囲を広げんとな」
古市警部補は全員を振り返った。
「それで、死体を発見するまでの間に何かいろいろあったと。そのいろいろというのを聞かせてもらいたいですな」
その時カメラマンの髭サングラスの平本宗司(45)が「嘘だろぉ」と絶叫した。
「なんで、なんで麗子が」
平本の表情は悲しみよりも怯えに支配されていた。頭を抱えて動き回る。
「嘘だろう。そんな、そんなぁ。じゃぁ、やっぱり…あの時の」
「あの時って」
古市警部補がじっと睨みつけるが、平本宗司は「知らない、何でもない」と声を上げるだけだった。
 
 温海役場の会議室を警察が借りて、事情聴取が行われた。平成デザインの真新しいデザインの事情聴取が行われる小会議室でまず長川警部が古市警部補に報告した。
「とりあえず関係者たちのアリバイ状況をまとめると、まず私たちが針本医師が死亡した県道44の鉄橋を調べているとき、20時43分に都の携帯に石田理奈さんが電話。高野瑠奈さんと本多華凛さんが3時間たっても戻ってこない。助けてって電話だったんです。というのも石田理奈さんと松岡哲士君はサッカーの試合を見るために海水浴から先に民宿に帰っていまして。ちなみにその時間太田純也君はアルバイトに行っていたようです」
「うんうん」と長川警部の横で都が頷いた。
「ちょっと待ってください。なんでこいつがここにいるんですか」
と古市警部補。
「お気になさらず」
長川は華麗にスルーした。
「続けると、石田理奈さんと松岡哲士君が犯行現場のトンネル前で私たちと合流。すぐ後に太田君が私たちの所に合流しています。21時ちょうどだったと思います。青野ひろ子さんが民宿に戻り、その直後に都に高野さんのスマホから着信があり、出ると冴木麗子が出ました。冴木は都や私と会話しつつ、自分が宮内トンネルにいる事、既に手足を切断されている事、目の前に白装束の女の子が倒れている事を伝え、その後悲鳴が聞こえてきました。すぐにトンネルの中を捜索し、血みどろのシーツにくるまれた高野瑠奈さんを保護。その直後に彼女と一緒に襲われたと言っている本多華凛さんが合流しました。その後太田君と一緒にトンネルの奥に逃げたと思われる犯人を追跡してあつみ温泉駅方面出口に出ましたが犯人は結局取り逃がし、警察に応援を要請したのは21時05分、これはトンネルを走りながら通報しました。そして死体を見つけて再度通報したのは21時13分です。この時には都と本多華凛さんと合流しています」
「ちょっと待ってください」
古市警部補は長川に前のめりになった。
「ええ、被害者の電話があったとき、私たちはトンネルの南側にいたんですよ。被害者のいるすぐ近くの。そして被害者の電話から多くとも前後4分、いやおそらくは3分以内に高校生全員および民宿の青野ひろ子さんが集まっています。そして被害者の首が北側出口にあった事を踏まえても、犯人が南側出口から出る事は物理的には不可能です」
長川は言った。古市は面食らって、
「ちょっと待ってください、警部殿。本多華凛、それに青野ひろ子は電話の時間姿を見せなかっただろう。本多華凛はバイクを使えば3分くらいで北と南の出口を往復…」
「首を運ぶために移動した現場のトンネルはどうするんですか」
長川は現場の地図にマーキングされたトンネルを見た。
「トンネルの長さは1.4㎞あるんですよ。それをバイクで盛大に走ればトンネル内で反響して絶対にバレますし、徒歩で死体抱えて1.4㎞歩くのは3分じゃ絶対不可能ですよ」
「こういうのはどうですか」
古市は説明した。
「警部殿と彼女が」古市はお菓子をポリポリしている小柄な女子高生を睨みつけた。
「彼女が聞いたのは実は被害者の声を録音したレコーダーだった」
「会話は成立していますし、あれがレコーダーじゃない事は私が保証します。録音したのは警察に渡してありますからそちらの解析次第ですが、確かに冴木麗子は私の会話に受け答えはしていました」
「となると犯人は相当ガタイのいい男でしょうね。女性とは言え冴木麗子の体を抱えてトンネルを全力疾走。そして温海川でバラバラにしてゴムマスクをつけたオブジェとして設置」
古市はため息をついた。
「体格的にそれが出来そうなのは太田純也だけだが。彼はスマホで冴木麗子が助けを求めた時には警部殿と一緒にいたんでしょう」
「ああ、それに彼は私と一緒に洞窟を真っ先に走っていたが、死体なんか持っていなかった」と長川。
「でもナップザックとかは持っていたんでしょう。水着とかタオルを入れる。あれにバラバラにした死体を折りたためば」
古川が指摘する。
太田君が私の前からトンネルの中で姿を消したのはほんの30秒くらいだ。私はすぐに彼を追ってトンネルに入ったからな。あ、ただ…彼は高野さんを助け出した後全力疾走で犯人追いかけたからな。トンネル暗かったし肉眼で確認できなかった時間はもう少し長かったと思う」
「それだ」
古市は言った。
「実は犯行現場は北側の出口だったんだ。そこに転がされていた冴木を殺害してバラバラにして」
「警部がすぐ後ろを追いかけてくる状態で?」
都は目をぱちくりさせる。
それに冴木さんは殺される前に目の前に瑠奈ちんが転がされていたことも証言しているし、第一に冴木さんは『殺人現場のあったトンネルの民宿のある方の出口』ってはっきり言ってるんだよ。それは冴木さんはトンネルの出口から外の景色をこの目で見たからなんだよ」
都のドングリ眼の上で眉毛がきっとする。
「つまり物理的に完璧なアリバイが成立するって訳か。都のダチと民宿のおかみさんには」
「ううん」
都は首を振った。
「太田君に関しては犯行が可能なシチュが一つだけあるよ」
「え」長川警部は目を見開いた。
「冴木さんが嘘をついていた場合。脅されたのかそれとも犯人と一緒に怪しい事を考えていて犯人に裏切られたのかはわからないけど、あの冴木さんの悲鳴が全部お芝居だったとしたら? 太田君は長川警部が自分を見失っているうちに冴木さんと合流し彼女を殺害。胴体は川に流して首にゴムマスクを着用して私たちの前に出現させた」
「なるほど」古市は考え込んだ。
「トンネルの中で人を殺すのはリスクが大きいけど、川沿いのプレハブ小屋とかに隠れれば殺人がバレる危険性も下がるし、時間も稼げると思う」
都は言った。
あの血の付いたシーツは注射器とかであらかじめ抜いてあった血だと思う。だって瑠奈ちんの白装束には血はほとんどついていなかったし」
「そういえば」
長川は目を見開いた。都は頷いた。
わざわざ瑠奈ちんが誘拐されて白装束に着替えさせたのも犯人が冴木さんに嘘をつかせるためにセッティングをしたのかもしれない。私たちに嘘だと信じさせる暗証番号みたいなものとして」
「なるほどな」
長川警部は頷いた。
「もしそうなら結果はすぐにわかるだろう」
古市は都を見る。
 その時廊下の扉が開いた。若い刑事が部屋に入ってきた。
「どうだった。鑑識の結果は」
「実は…発見された頭部と手首の死亡推定時刻が違うんです」
刑事の顔は青ざめていた。
「どういうことだ」古市が立ち上がった。
「頭部の死亡推定時刻は遺体発見時から30分以内です。おそらく殺害されて15分程度で発見されたのでしょう。ですが…
刑事は唇を震わせた。
「手首は少なくとも死後1時間以上が経過しているんです」
古市と都は同時に立ち上がった。
「ちなみに切断時の生体反応は」と長川が聞くと、刑事は「ありました」と答えた。
「つまり冴木麗子は私たちに電話をかけてきたときには、本当に手首を切断されていたって事か」
長川警部は驚愕した。
「ちょっと待ってくれ。手首を切断されてまででっち上げに協力する人間はまずいないし、脅迫にしろ被害者はもう殺されると思って電話口で本当のことを言いだす可能性だって十分あるぞ」
と古市警部補は長川と都を見る。
「ああ、全く犯人にとってメリットなんてない」
長川は考え込むように言った。都は目を見開いて立ち尽くした。