少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

魔法少女殺人事件ファイル5

魔法少女殺人事件 解決編
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島都:「私が憧れていた、『魔法少女未来-青春編』撮影現場に、本物の女子高生探偵として呼ばれた私と結城君と秋菜ちゃん。でも、ロケ現場となった岩窟城で次々と殺人事件が発生し、密室で人気俳優の本郷さん、松原マネージャー、ADの本郷さんが殺害された。死体はなぜかドライアイスで冷やされ、首を切られていた。3人は桜ちゃんの妹、穂乃果ちゃんが死んじゃった3年前の事件に関与していたんだけど、3年前の事件で無関係のはずの秋菜ちゃんが胸をナイフで刺されて重傷、そしてやっぱり無関係なはずの清水ADさんも殺害された。そしてこの館のオーナーで行方不明になっていた山川さんも同じように殺害されていた」
 
島都「大丈夫、全ての真実は見つけた、犯人はあなたです!」
 
■容疑者
・早見桜(20):女優。都の憧れの存在。
松原時穂(28):マネージャー
・向井慶太郎(21):俳優、アイドル。
・川沼梓(17):女優。
本郷匠(44):俳優
・副島卓彌(61):映画監督
・下北岡正嗣(29):カメラマン
ウメコデカメロン(47):タレント
清水想(23):AD
・甲本丈(46):芸能プロダクション社長
山川仁:岩窟城オーナー
 
9
 
「この館で4人の人間を殺害した・・・犯人「屍蝋鬼」はこの中にいます」
 ロビーに全員を集めた都は、ここにいる全員を見回して言った。
「なるほど・・・犯人を指摘する前に答えてもらおうか・・・」
向井慶太郎が腕組をして嫌味たっぷりに言った。
「最初に本郷が殺された事件。あの事件で秋菜ちゃんが解いた、凍らせた死体を窓に立てかけ、それを滑り台にして鍵をくわえさせた生首を上窓からゴミ箱に転がしたってトリックだっけ? あれ、結城君が死体を短時間で凍らせることはできないって、否定されたんだよな。あれ以外にトリックがあったというのかい?」
「ううん、あのトリックは秋菜ちゃんのトリックがそのまま利用された、つまり秋菜ちゃんの推理は正しかったんだよ」
都は言った。
「で、でもじゃぁ、犯人はどうやって本郷さんの死体を1時間で凍らせたのよ。液体窒素を使ったとしたら部屋に痕跡が残っているし、死後硬直だって死後12時間経たないと滑り台になるほどガチガチにはならないでしょう」
ウメコが憮然とした表情で聞く。
「確かに本郷さんの死体が1時間であそこまで硬直するわけないです。でもそれが別の人間の死体だったら? 例えばあの死体・・・首から下は行方不明になっていた山川オーナーの死体だったとしたら・・・・」
「なっ」
一同が息を飲んだ。
「そう、あの部屋にあった死体は、首から下は山川さんの死体だったんです」
「ちょっと待って! 山川さんの死体・・・さっき見つかったじゃない!」
梓が大声を上げた。
「あの死体も・・・首から下は別の人間のものだったんだよ・・・そう、この事件でなんで殺された死体は首を切られてドライアイスを詰められていたのか・・・・その答えは、第一の事件の密室トリックを完成させる死体入れ替えトリックを紛らわせるために、首と胴体の冷たさが違うと私たちにバレないようにするためにされたものなんだよ」
都は言った。
「それじゃ、山川の首と一緒に見つかった胴体は誰のものなんだ・・・?」
甲本が震える声で聞く。
「それに答える前に・・・・私はこの事件ですごく気になったのは、トリックの方法というよりは、『なんで第一の殺人事件では密室トリックが仕掛けられたか』なんだよ。トリック自体は現場の状況から考えれば誰かは一度は思いつく状況だし・・・。それにどう見ても自殺じゃない死体が密室にあったって、警察はなにか方法があるだろうと思って徹底的に捜査するだけだし、自殺に見せかけるか、密室の中にいる別人に罪を着せるか・・・そういう理由がないのに密室なんて作ったって意味がない・・・。でもその答えが、私に犯人を教えてくれたんだよ」
都はゆっくりと息を吐いた。
「私は第一の殺人事件がこの事件のメインとなるトリックで、第二の事件、第三、第四の事件で猟奇的にドライアイスを使われていたのは、胴体入れ替えトリックを紛らわせるためとトリックの痕跡を消すための見立て殺人だと思っていたんだよ。だけどそうじゃなかった。むしろこの事件の味噌は第三の事件、清水さんが地下室で殺された事件にあったんだよ」
「まさかあれも、死体が上と下で違っていたのか?」
と副島監督。都は大きく頷いた。
「あの死体は首は清水さんだったんだけど、体は最初に殺された本郷さんだったんだよ。あの事件は清水さんが生きている姿が最後に目撃されたあと、その死体を切り刻んで裁断に添える時間がなかったという理由でここにいるみんなにアリバイが成立したんだよね。でも実は祭壇の飾りつけが清水さんが生きてみんなの前にいるときに既に終わっていたら?・・・あとはバラバラにされて祭壇に添えられた本郷さんの死体の上に清水さんの首を載せるだけで、犯行は1分で完了しちゃう。このトリックに必要なバラバラ死体の祭壇という舞台を、第一の事件のただの見立てに見せかける事が、第一の密室トリックの第一の理由だった」
「となると、犯人は」
下北岡がおもむろに全員を見回す。
「本郷様とマネージャーの殺害時刻にアリバイがなくて、最後の事件にアリバイがある人物」
「もっと絞れるぞ」
副島が言った。
「最後に地下室を見て回ってから隠された本郷の死体を引っ張り出して、地下室でバラバラにする時間があった人間だ」
「私は少なくとも清水さんの死体が見つかる1時間前には、あの地下室で何もないことを確認しているんだよ」
都は言った。
「つまり、犯人はその時間から清水さんがいなくなるまでの間に姿を見せなかった人」
そんな人間は生き残っている人間では2人しかいなかった。そのうちのひとり甲本を都はスルーした。
 都はその人物の前に立った。
「梓ちゃん・・・清水さんの死体が見つかった時、清水さんの顔に殴られた跡があったのを見て、『誰かに殴られたんだろう』って言ったよね。でも梓ちゃんはずっと3階にいたって証言しているし、清水さんが甲本さんに殴られてから死体で見つかるまで一度も会っていないはず。なんであの首の殴られた痕が、犯人によって付けられたものじゃないってわかったのかな?」
梓が俯いたまま震えだした。
「あ、梓・・・・お前だったんだな」
甲本が声を上げた。
「お前だな、トリックで4人を殺したのは!」
「てめぇ・・・・」
向井が怒りの表情で梓に詰め寄る。
「梓ちゃんは犯人じゃないよ」
都ははっきりと言った。
「この第三の事件のトリックを仕掛けられる人間はもうひとりいたよね」
「え、そんな人は一人もいねえだろ」
向井がドスを利かせる。
「ううん」
都の瞳はいきがったタレントの表情を一変させた。
「清水さんがいるじゃん」
全員の表情が凍りついた。
「馬鹿な。清水が自分が殺されるためにあの祭壇を整えたっていうのか?」
副島が呆然として言った。
「そうだよ。あの死体のバラバラ胴体は清水さんのものじゃなかった。って事は清水さんなら予め隠されていた本郷さんの死体をバラバラにして」
都は言った。
「この事件、第一、第二の事件は真犯人と清水が共犯でやった事だったんだよ。ここで第一の事件、犯人がなんであんな無茶な密室トリックを仕込んだのか・・・・その第二の理由がわかってくるよね。そう、この第一の事件は真犯人が共犯である清水に、第三の事件で清水に本郷の死体を飾り立てるよう指示を与える動機付けのためになされたものだったんだよ。この第一の密室は私たちを騙すためじゃない、共犯者を騙すためのものだった。真犯人はこの第一の密室の矛盾点をカバーするための『見立て殺人』という名目で、清水に本郷の死体を飾り立てるという行為を命じたんだよ。犯人は、私が死体の入れ替えトリックに気が付く可能性も考えていた。だから第三のトリックを行う事が不可能なアリバイトリックを確保することで、自分は容疑を逃れようとしたんだよ!」
都は言った。
「正直に言うと、私は犯人の策略に一度はまんまと引っかかっちゃったよ。途中までは本当に梓ちゃんが犯人だと思った。それを修正させたのは、ただ犯人にとっては3つ予想外だったんだよ」
「3つの予想外?」
桜が力のない声で聞いた。
「第一に、本当に罪を着せようとしていた甲本さん、あなたが梓ちゃんを呼び出してその動物以下の欲望のはけ口にした事。さっき内緒で甲本さんの部屋を探したとき出てきたんだけど、脅迫状は多分第三の事件で真犯人が甲本さんを部屋に引きこもらせるための罠だったんだよ。甲本さんの性格からしてあの手紙見せられれば『人殺しと一緒にいられるか』って、推理ドラマ見たいに部屋に戻ると犯人は考えていたんだよ。でも、実際は甲本さんは梓ちゃんにあんな事をしてしまったせいで、梓ちゃんには完璧なアリバイができちゃった事。犯人は梓ちゃんに罪を着せたくはなかったから、梓ちゃんにアリバイがあるというのは却って良くないことだった」
「ど、どういう事なの?」
梓ちゃんが怯えたような声を出した。
「犯人は私が死体の入れ替えトリックに気が付くと知っていたんだよ? だとすればそのトリックでアリバイのある人が却って疑われちゃうじゃん」
都は言った。
「二番目に、梓ちゃんが、第三の事件の時秋菜ちゃんを刺しちゃって共犯者と相談するために3階に上がってきた清水さんの殴られた顔を、たまたま廊下で見ちゃって、よりにもよって私の前で、それを思わず口に出しちゃった事・・。桜ちゃんにとって、この梓ちゃんの何気ない一言が、私が梓ちゃんを疑う一言になると、すぐに気がついた。だから第四の事件で、私と梓ちゃんが甲本の部屋に入った直後に、空き部屋に隠してあった死体を引っ張り出して廊下に起き、梓ちゃんのアリバイを確保しようと無茶なことをしちゃったんだよ。第四の事件は犯人”の”梓ちゃんを庇ったわけじゃない・・・犯人”が”梓ちゃんをかばったんだよ!」
この時点で梓は都が誰を犯人として告発しようとしているかを悟り、都の肩を掴んで首を必死で振った。しかし都は秋菜の為にまっすぐその人物を見て、告発を続けた。
「そして3つ目が清水さんが本郷の死体を飾り付けているところを見た秋菜ちゃんを刺しちゃった事・・・・」
都はふーと息を吐いた。
「だから清水さんの首を置いた犯人は、その直後に秋菜ちゃんを見つけて、彼女を助けるために地下室を出ないで大声を上げる羽目になった」
都の言葉でここにいる全員が顔を震わせた。犯人がわかったからだ。
 都は悲痛な表情で、犯人を指さした。
「この事件、4人を殺した『屍蝋鬼』は、あなたです・・・・桜ちゃん!」
 
10
 
「嘘よ!」
梓は絶叫した。
「桜ちゃんが犯人なわけないじゃない! 今言ったことは全部あなたの推測よ!」
「推測じゃないよね」
都は梓をじっと見た。
「梓ちゃんは知っていたはずだよ。桜ちゃんの部屋に入った清水さんが、その後一度も部屋をでないで、なぜか地下室でその死体が見つかった・・・。それは桜ちゃんが首をリュックに入れて地下室に持っていったため。もちろんそのあと時間を置いて死体が出てくれば、こんな不可思議現象を梓ちゃんが体験することはなかったんだろうけど、桜ちゃんは秋菜ちゃんを助けようと、第一発見者になった」
梓ははっとしたが、すぐにうつむきながら最後の抵抗をした。
「そんなの・・・全部想像よ。それに桜ちゃんが犯人なら女手一つで清水さんの死体をどこに隠したのよ。あれからみんなで家を探し回ってそんなことできる余裕はなかったじゃない!」
その目は涙で滲んでいた。
「そのトリックもわかってるよ」
都は言った。
「桜ちゃんは、第三の殺人を演出したあと、清水さんの胴体に山川さんの服を着せ、山川さんの首とドライアイスをおいて、第四の殺人を演出したんだよ。副島さんがさっき言った疑問はこれで解消だよね。本当にうまい隠し場所だよ。死体そのものが見つかるのは仕方がなくても、それを誰の死体か錯覚させられるんだから・・・・死体の首と胴体が離れている意味は、それぞれの殺人においてそれぞれ別の意味があった。その意味を全て、犯人は胴体の交換トリックで消化したんだよ。松原マネージャーだけがバラバラじゃなかったのは、別に女の人はかわいそうだからじゃない。女の人の体は交換トリックに使えなかったからだよ!」
「でもDNA鑑定すれば一発でトリックが暴かれちゃうでしょ!」
「そして警察が踏み込んだ時に、DNAや指紋とかで3つ死体の身元が首と胴体でそれぞれ違っている事が判明し、死体を使ったトリックが暴かれるのも犯人は計算済みだった。そして、桜ちゃんが甲本さんに罪を着せるための究極のアイテムが甲本さんの荷物から見つかって、警察は甲本さんを捕まえるはずだった」
「究極のアイテム?」
梓が声を震わせる。
「服だよ」
都は言った。
「松原さんの服はそのままとして、山川さんの服は清水さんの死体に着せ、本郷さんの服は山川さんに着せればいいけど、清水さんの服はどうすればいいんだろう。あの地下室の状況では清水さんに着せることは出来ない。そう、桜ちゃんはどうしても余ってしまう清水さんの服を甲本さんの荷物から警察に見つけ出させることで、甲本さんに全ての罪を擦り付けるつもりだった・・・だけど、桜ちゃんはそれは出来なかった。万が一梓ちゃんが疑われた時に、自分が名乗り出ることが出来なくなるから・・・。多分今もこのリュックの中にあるはずなんだよ!」
都は桜の愛用のリュックを指さした。
 桜は俯いたままだった。
 下北岡が桜のリュックを受け取り、ひっくり返した。血まみれの清水の服が出てきた。
「な、なにかの間違いだよ」
梓が都の両肩を掴んだ。
「都ちゃん言ってたじゃない。桜ちゃんが復讐なんか絶対できない・・・妹さんが脳死状態で死んでいった姿を見たから、そこの甲本社長みたいな憎い相手でも殺せないって・・・・その言葉を信じるって」
「今でも私はその言葉を信じてるよ」
都は悲しく笑った。
「でも、穂乃果ちゃんと同じことがもう一度起こるとすれば? 梓ちゃん」
梓の顔が真っ青になった。
「まさか・・・桜お姉ちゃん・・・私の日記を・・・・」
梓がガタガタ震えだした。
「ごめんね。梓ちゃん。この前私たちの相部屋で、梓ちゃんの日記見ちゃったんだ・・・。だって・・・・梓ちゃん・・・様子が・・・・・穂乃果の時といっしょだったんだもん・・・・」
桜は目に涙を浮かべながら笑った。
「それで知ってしまったんだね。山川、本郷、松原、清水が梓ちゃんにしていたこと」
都は言った。
「本郷が首絞めプレイに相変わらずハマっている事、梓が・・・こんなにいい子が死の恐怖と陵辱を味わっている様子が、日記には書いてあった。妹と同じだった。穂乃果の時と・・・・。そしてこのままじゃ梓も穂乃果と同じ運命をたどることもわかった・・・」
肩を抱きしめて大粒の涙を流す桜に、都は何も言えなかった。
「そんな、酷いよ。桜ちゃんせっかく女優の世界で世界で活躍できるところなのに・・・誰よりも命の大切さを日本中に訴えていたのに・・・・。なんで私なんかのために・・・・人殺しなんて・・・・どうしてよ!」
桜は真っ青な顔で梓を見た。
「あいつら、プレイを録画して梓ちゃんにメールで添付して送信していたわ。私は梓ちゃんのMACから、それを見つけた。7分の動画を見たとき、私は穂乃果が殺されていると勘違いしちゃった・・・私、人が死ぬのが怖いって言ってたよね。でもそれ以上に怖くて、酷い動画だった。松原と清水はドラマ制作の権利を買うために、梓を本郷と山川に売っていたわ。穂乃果の時と同じようにね・・・・動画が終わったとき、私はやっと現実に戻ることができた。全身冷や汗が出て・・・体が震えて・・・このままじゃ梓が死んじゃう、このままじゃ梓がって・・・・」
桜の顔が徐々に狂気を帯びていく。そのぞっと光る瞳に、都は魔法少女の体に取り付いた言いようのない悲しい深淵を見た気がした。
「それでもやっとファイルをUSBに入れて・・・警察に持っていこうとしたの・・・・でも、その時穂乃果の時の警察の対応を思い出したの・・・あいつら、甲本たちの言葉を全部鵜呑みにして、私たちの話を全然聞いてくれなかった。挙句の果てには『画像が出回れば罪を背負うのはお前たちの方だ』って刑事に怒鳴られたわ・・・・大人は絶対私たちを助けてくれない・・・。その時、私の頭の中で私自身の声がしたのよ・・・・本当はわかっているんだろうって・・・・そう・・・・・命の大切さなんて・・・私は何も分かっていなかったのよ・・・・本当は人の命は強い人間によって簡単に踏み消されるってのが真実だった・・・・結局私は穂乃果の時と同じように、梓を生贄にして魔法少女を続けていたのよ! そんな人間が命の大切さなんてテレビで表現しても嘘に決まっているじゃない」
桜が甲本をぞっとするような冷たい表情で見た。
「殺人計画を立てて、山川の館に奴を殺しに来る時まで、私は心の中で絶対に人殺しはできないってどこかで思ってた。でもこの館で山川に正対したとき・・・体が勝手に動いてあいつをメッタ刺しにした・・・・その時、私が魔法少女じゃない・・・・殺人鬼だってこともわかったの。あれだけ人が死ぬのが怖かったのに、山川を殺したとき、ものすごく落ち着いている自分がいて、体が物凄く冷たかった・・・。鏡に山川の血に染まった私が写ってて、その姿は殺人鬼そのものの姿だったよ・・・」
「お姉ちゃん・・・」
梓が涙を流した。ウメコと副島が戦慄をたたえた目でその様子を見つめる。
「この瞬間私は感じたわ・・・今までのテレビの魔法少女は嘘だった。みんなの前で悪い奴を愛と正義でいい子にする優しい魔法少女はウソの姿だったのよ。本郷を殺した時なんか、私笑っていたわ・・・その血にまみれた私のこの姿こそが本当の私だった・・・・。梓ちゃんの為なんかじゃない・・・私は人殺しだから人を殺したのよ・・・・。私は笑いながら本郷を殺し、松原を、清水を殺し・・・・そしてその血に染まった手で都ちゃんが大好きだった魔法少女未来を絞め殺しちゃったのよ!」
桜は冷徹な表情で都を見つめた。
「そして、今、私は人を殺したいと思っているの・・・・許しがたい悪魔を私は殺さないといけないのよ」
桜は上着の下から軍用ナイフを取り出して、甲本に向けた。
「ひっ」
それを見た甲本が後ずさる。
「山川や松原がいなくなったことをいい事に、また梓に手を出して! あんたの事は生かしてあげるつもりだったけど、もう二度と穂乃果のような存在を出さないためにも、ここで殺しておくしかないわね」
桜の声は憎しみではなく恐怖と絶望に震えていた。
「やめて、桜ちゃん!」
梓が絶叫した。「もう私のために手を血で染めないでええええええええ」
「だめなの・・・梓・・・・もうこうするしかないの・・・・私は怖くて仕方がないの・・・・もうあいつらのせいで女の子が苦しんで死んじゃうのは」
桜は都を見て、悲しく笑った。
「ごめんね・・・・都ちゃん・・・・・」
桜は小さく笑った。そして、目の前の殺意に腰を抜かす甲本に向かってナイフをかざして走り込んだ。
「ひぎゃあああああああ、やめろぉおおおお」
恐怖のあまり甲本が絶叫する。
都は桜に向かって走り出した。
「ダメェええええええ」
その刹那、桜の脳裏に最愛の妹穂乃果の悲しげな泣き顔が映った。桜にとって、自分の殺意を止めるには、この方法しかなかった。
甲本をかばおうとした都は、それを止めることはできなかった。桜はナイフを自分の胸に深々と突き立てた。
「桜ちゃん!」
都の絶叫の中、桜はものすごい形相で自分の胸にナイフを突き立てていたが、やがてその場に崩れ落ちた。だが桜は最後の力を振り絞って体からナイフを引き抜き、床が血に染まった。
「桜ちゃん!」
都は桜を抱き起こし、必死で傷口を抑えた。
「いやぁあああああああ、桜ちゃん、桜ちゃん、やだぁあああああああああああああああ」
梓がパニックになって泣き叫ぶ。
「な、何てことを・・・」
後ろでウメコがオロオロする。甲本は床にへたりこんでいたが、やがて床に落ちていたナイフを手に取ると
「キヒヒヒヒヒ」
という奇声をあげて玄関から外に飛び出した。自分の罪が暴かれることが避けられなくなった自暴自棄だった。
「桜ちゃん! 桜ちゃん!」
体を痙攣させる桜に都を呼びかけた。
「都ちゃん・・・・・ごめんなさい・・・・・私がこんなことをしたばかりに、秋菜ちゃんを・・・・でも大丈夫・・・テレビ局に山川の人体と一緒にここで惨劇が起こるっていう手紙を送った・・・・もう・・・すぐ・・・・警察が・・・・・」
「わかった・・・わかったよ! 桜ちゃん」
 
館の外に出た甲本は、ここで館に到着した茨城県警のパトカーと遭遇した。
「何をしている!」
血みどろの凶器を持った甲本に、都の知り合いの女警部、長川朋美が拳銃を向ける。
「キエエエエエエエエエエエエ」
甲本は刃物を長川に向けて走り出したので、長川は拳銃を発射した。冷静に発砲された縦断は甲本の刃物を掴んだ右手に命中、甲本は絶叫して倒れた。
 甲本を確保しながら、長川は大声で怒鳴りつけた。
「お前、この血みどろのナイフで誰を傷つけた!?」
 
「都ちゃん・・・・・私は・・・・結局・・・・・誰も助けられなかった・・・・・」
桜は虚ろな目で梓を見つめた。
「私は結局・・・・自分だけの考えで・・・・・人を4人も・・・・ゴホッ・・・・魔法少女・・・・失格・・・・ごめん・・・私は・・」
「うううん」
都は涙をボロボロ落としながら、桜に言った。
「桜ちゃんは、魔法少女としてずっと殺人鬼になっていく自分と戦っていたじゃない!? こんなに手に火傷をしてもマネージャーさんを助けようとしたし、秋菜ちゃんだって必死に助けてくれた・・・・今だって・・・。殺人者になる自分と戦うなんて、中々できることじゃない・・・私はわかっているよ。桜ちゃんが本当は誰も殺したくなんてなかった事・・・・ごめん、止めてあげられなくて・・・」
都は限界だった。これ以上は涙のせいで何も言えなくなっていた。
「嬉しいなぁ・・・・・」
桜は笑った。
「嬉しいなぁ・・・・憧れていた・・・・名探偵に・・・・嬉しいなぁ・・・・・」
そこで桜は力尽きた。意識を失い、呼吸が止まり、体が冷たくなっていく。
 都はその亡骸の涙を拭いてあげながら言った。
「桜ちゃん・・・それでも・・・・私、桜ちゃんを許せないよ。桜ちゃんは魔法少女として、憎しみだらけの正義じゃなくて、愛の力で悪い人たちをいい人にした・・・。生きて償っていいって・・・いつも言ってた・・・。そんな桜ちゃん・・・私大好きだった。それなのに・・・・どうして、どうして死んじゃうのよぉおーーーーーーーー。桜ちゃん!」
彼女の慟哭と同時に、長川警部がロビーに入ってきた。
都の絶叫は、秋菜を見守る結城にも聞こえた。
 彼は、何が起こったのか察した。
 
「秋菜ちゃん、よかったよぉおおおおお」
5日後、都が病室で秋菜に抱きついて頬ずりしていた。
「もう、秋菜ちゃんまで死んじゃったらと思うと、わだぢはもう・・・・・スピスピスピーーーーーー」
都の回線はショート寸前だった。
「はい、回収」
千尋が都をつまみ上げて病室から連れ出そうとする。その時秋菜は都のカバンを指さした。
「師匠! 魔法少女未来ちゃんのストラップ外しちゃったんですか?」
「うん・・・」
都は言った。
「私が殺しちゃった人だし・・・・」
「いけません!」
秋菜はビシッと言った。
「そんな事したら、桜ちゃんが悲しみます・・・・」
秋菜は言った。
「桜ちゃん、私の肺の中に血が溜まってきて、怖くて苦しい時にずっと手を握ってくれていたんです。私のことを怖くないようにずっといてくれました! あの時の桜ちゃんは人殺しじゃありませんでした! 魔法少女未来ちゃんは嘘の人じゃありません! 人殺しが事実でも、魔法少女未来ちゃんだって事実です!」
「ああ・・・そうだな」
結城は言った。
「お前の推理の場所に行く時、あいつはなにか覚悟を決めていた。多分、川沼に罪が着せられそうになったら証拠を出して自分から名乗り出るつもりだったんだろう・・・。あいつは恐怖に支配されていただけじゃない。絶望的な状況でも人を殺し続ける自分自身と戦っていたんだ。お前が大好きだった・・・魔法少女としてな」
都はその時、何故甲本を殺そうとしていたように見えた桜が自分を刺したのか・・・その理由がわかった気がした。
「そうだよね、でも生きて戦って欲しかったな」
都は悲しく笑った。
「これ」
瑠奈が魔法少女未来のストラップを都の手に置いた。都はそれをカバンについけた。
「都さんの事です。また事件に巻き込まれます。偉大な高校生探偵の宿命です。その時未来ちゃんと一緒に戦って上げてくださ・・・・どびどびどbにいいいいいい」
彼女の隠れファンだった勝馬がボロボロに泣いている。5日間ずっとこの調子らしい。
「うん、そうだよね! ありがとう、勝馬君」
都は笑った。
「結城君、帰ろ!」
「おう」
少女探偵は結城を引っ張りながら、一歩歩みだした。
 
おわり