少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

能面高原殺人事件❹7-8 転回編2

7

【容疑者】
元山孝信(54):議員。小売店社長。
三竹優子(27):元山の愛人。
・岩沼達樹(39):議員専属医。
・青山はすき:女子大生
・江崎レオ(21):大学生
・槇原玲愛(20):女子大生
・川又彰吾(58):ロッジオーナー
・三枝典子(18):ロッジ従業員。
・昌谷正和(59):不動産業者

「瑠奈ちん!」
都は絶叫しながら窓の外から闇に連れ去られてようとしている親友の高野瑠奈を助けようと窓を開けて飛びかかろうとした。すると彼女の体はすーーーっと落ちていく。窓の外には不気味なお経が聞こえて、落ちていく下には不気味な能面が都を串刺しにせんと日本刀を空に向けて突き出している。
 それが自分の体に突き刺さる瞬間、都は目が覚めた。
「瑠奈ちん!」
都が飛び起きた瞬間、目の前に彼女を覗き込んでいた秋菜がいて、おでこに盛大にごっちんしてしまった。
「きゃぁっ、あたたたたた」
「あ、ごめんごめん。秋菜ちゃん…瑠奈ちんは?」
「今乙女の着替え中」
瑠奈がブラジャーの上に保温性のあるシャツを着こみながらその上にセーターを着る。
「し、師匠…朝ごはんですよ
秋菜がおでこを押さえながら言った。

「結城君寝不足だねぇ」
都がダイニングで目玉焼きを食べている結城君を覗き込んだ。
「こいつが爆睡していたせいでな」
朝食のご飯を典子にお替りする勝馬を見ながら、結城はため息をついた。
「俺一人で不動産屋さんを見張っていたんだよ」
「私を見張っていても無駄なんですよ。私は犯人じゃないんですから」
不機嫌そうな昌谷。
「そうだ…都。この昌谷さんも東館で窓の外から不気味なお経みたいな声聞いていたんだってさ」
結城が味噌汁しゃばしゃばしながら都に言った。
「えっ」
都が目を見開いた。
「本当ですって…吹雪の中から何かが響くような声が…」
昌谷の声に都の目が見開かれた。彼女は突然脱兎のごとく椅子から飛び出し走り出す。
「おい、都…飯の最中だぞ! すいません、ちょっとこのままで」
結城は川又にお願いしてから、都の後ろを追いかけて走り出した。
 都は殺された元山社長の部屋に立っていた。
「都…どうしたんだ」
現場の部屋で真っ直ぐその窓から東館に目を凝らす都…。
「結城君…ちょっとみんなにも協力して欲しい事があるんだよ」
都は無表情で言った。
「協力?」
結城は訝し気に聞いた直後、目を見開いた。
「わかったのか!? 第二の事件の何かトリックが…」
と声を震わせた。都は頷いた。
「うん、私の推理が正しければ、元山社長の殺人ではアリバイトリックが使われていて、そのアリバイで真犯人は鉄壁のアリバイトリックを手に入れたんだよ」
都の真っ直ぐな目を見て結城は頷いた。
「わかった…。高野たちを呼んでくる」
その様子を廊下で黒い影がじっと見つめていた。不気味に見開かれた目が、爛々と震えている。
―何と言うことだ。私が元山を殺した殺人トリックの正体に気が付いたというのか。こうなれば最後の殺人を急がなければ…。

 社長の死体のあった東館前の丘の上。結城と瑠奈は戦慄していた。
「嘘…実験、成功しちゃった」
瑠奈は声を震わせた。
「でも一体これに何の意味が」
結城は驚愕と疑問が同居した声を上げる。
「とにかく戻るぞ…」
結城は瑠奈を促して歩き出した。
「これであの本館にいる連中のうち何人かのアリバイは崩れた」
「でも、そうだとしてもわからない所はあるよ」
結城の後ろを追いかけながら瑠奈は言った。
千尋が聞いたあの吹雪の中のお経…あれには何の意味が」
瑠奈の声が聞えていないかのように結城はしばらく歩き続けた。

―殺してやる…殺してやる。
 日本刀を手にした能面が雪原を歩いて標的へと向かっていく。能面はゆっくりと歩きながら雪原を歩くある人物の背後にゆっくりと近づいていく。
―さやかの苦しみを思い知るがいい。お前がこの連続殺人事件の最後の犠牲者になるんだ。岩沼達樹!

 5分くらい歩いて残り3分の1となったときだろうか。
「このあたりが俺らがお経を聞いた場所だ」
と結城は言った。吹雪が少し強くなり大分ホワイトアウトに近くなっている。こんなところで不気味なお経が聞こえちゃたまらないと歩みを進める結城と瑠奈。
 だが、聞えてきてしまった…恐ろしいお経の声が吹雪の中で。
「結城君!」
瑠奈が悲鳴を上げて結城に縋りつく。
「まただ」
結城は歯ぎしりした。このお経が何の合図なのか、何の意味があるのか。分かっているのは少なくとも何か恐ろしい事が起こる前兆だという事だ。真っ白い吹雪の世界から、あの能面が現れるのか…。結城は鼓動を抑える様に瑠奈を背中に回して必死で音の発生源を探ろうとする。
「結城君!」
瑠奈が結城に縋りつくように悲鳴を上げた。結城が咄嗟に振り返ると、物凄い形相をした岩沼医師がこっちを見ていた。
「お前ら…何をしているんだ」
岩沼の顔には恐怖が浮かんでいた。何か恐ろしいものを見ているような恐ろしい形相。それは今聞える唸るようなお経を聞いている事によるものなのか…。その時だった。彼の背後に黒い影が吹雪の中から現れた。それは能面を付け日本刀を付けて蓑を羽織った、ああ、この事件の殺人者「能面鬼」の姿だ。
「岩沼後ろ‼」
結城が絶叫し、岩沼が振り返った瞬間日本刀が振り下ろされ、刃物が岩沼の肩にざっくり食い込んだ。どう考えても骨まで達するくらいに。
「ぐぁああああああああああああ」
岩沼が絶叫して雪の上に倒れた。日本刀は肩に食い込んだままだった。
「た、助けてくれっ」
「高野‼ 岩沼を頼む」
結城が踵を返して雪闇に消えようとする殺人者を追いかけようとしている。
「待って」
瑠奈は大声をあげた。
「私ひとりじゃ運べない。凄い傷よ。放っておいたら死んじゃう」
結城は倒れて痙攣している岩沼を見下ろした。刀が食い込んだ状態で真っ赤な血の海を雪に作りながらうつ伏せに震えている。
「くそっ」
結城は震えている岩沼を置いてロッジの方に走り出した。
「人を呼んでくる。これじゃぁ動かす方がやばい」
結城が声を上げた直後だった。突然激しい爆発が発生した。見ると東館横にある納屋から黒い煙が上がっているのが見えた。
「どうしたんだ!」
ロッジの方から川又オーナーを銭湯に江崎や昌谷などが飛び出してきている。
「うわっ、なんてことだ」
遠くで炎を上げている納屋を見ながら、オーナーは悲鳴を上げた。木造の古い納屋はあっという間に炎に包まれ、そのまま崩れ落ちた。
「結城君!」
都が心配そうに声をかける。
「さっき能面が現れた。そして岩沼がこのざまだ」
結城は肩に刃物が刺さったまま苦しむ岩沼を見た。
「大丈夫。私は自衛隊で衛生隊員をやっていました」
川又は震えている岩沼を抱き起した。
「男性の方は運ぶのを手伝ってください」

「どうです。岩沼さんは」
彼が救護を受けている部屋から出てきた川又オーナーに瑠奈と千尋は心配そうに聞いた。
「肩の傷は酷いですが、血管や神経は無傷でした。しかしギリギリ大丈夫だったというレベルです。犯人は明らかに強い殺意で彼を襲ったんでしょうね」
川又は救急箱を瑠奈に渡した。
「すいませんがちょっと納屋の様子を見てきます。不本意かもしれませんが岩沼さんの様子を見ていていただけませんか?」
「わかりました」
瑠奈は頷いた。
「本当、瑠奈さんや結城君に怪我なくて良かったです。犯人、後ろから日本刀で襲ってくるような凶悪な人ですから。本当に何もなくて良かったですよ」
三枝典子が心配そうに瑠奈を見た。
「本当、生きた心地はしなかったわ」
瑠奈は少しげっそりして胸を押さえた。
「結城の野郎。ちゃんと瑠奈さんを守れって言うんだ。俺だったら犯人をぺちゃんこにしてやるって言うのに」
勝馬が拳を叩く。
「悪かったな。寝坊助野郎」
結城がいつになく暗い顔で言った。
「お前…納屋は大丈夫なのかよ」
「元々ぼろかったし燃えていた屋根とかは吹雪で飛ばされて火は消えたよ」
結城はオーナーの前で言った。
「それよりオーナー、ちょっと全員の所在を確認してくれませんか?」
「え」
結城に言われて川又オーナーが怪訝な顔を押した。
「またアリバイ確認?」
槇原玲愛が談話室から歩いてきて腕を組む。
「いいえ…生存確認です」
結城は声を震わせた。
「納屋から人間の焼死体が出てきました」

 東館前の雪原。焼け落ちたがれきの下で熱硬直した人間の黒焦げ死体を前に秋菜は「ううううっ」と口を押さえてしゃがみ込んだ。
「助けて…気持ち悪い…」
「大丈夫…大丈夫…」
都は震えている女子中学生探偵助手の背中をさすった。
「都」
結城が2人の少女の背後から声をかけた。
「誰か行方の分からない人はいたの?」
秋菜が口を押えながら呻く。
「いなかった。全員生きてたよ。大学生チームも昌谷もオーナーも従業員も、岩沼もね…」
「そっか」
都は少しほっとした声を出した。
「しかしそうなると…都…これはとんでもない事になったぞ。俺たち以外に得体のしれない人物がずっとこの吹雪の中見つかる事もないまま潜んでいたって事になる」
トタンが風でめくりあがり、眼窩が溶けて歯がむき出しになった焼死体の顔ががこっちを向く。秋菜が目を覆った。
「うん」
都は頷いた。

8

「なるほど…つまりこう言うことか」
ロッジのロビーで包帯が巻かれた肩を押さえながら、岩沼はへらへら笑った。
「こいつは偉そうにこの事件では俺たちの誰かが犯人だって偉そうに言ってくれていったんだが、結局得体のしれない誰かがこの近辺に潜んでいたってオチだったんじゃないか。何がアリバイだ…。ふざけやがって」
「本当、いい迷惑でしたよ」
昌谷もじろりと都を見る。都はソファーに座って下を向いたままだった。ただ打ちのめされているというよりは何か思案しているように見えた。だが昌谷はそれに気が付かず一方的にまくしたてる。
「犯人だと疑われて、こんなところで一晩明かす羽目になって。どう責任を取ってくれるんですか」
「別に師匠が犯人だと決めつけたわけじゃないですよね」
多分昌谷の文句が頭に入っていないであろう都に代わって秋菜はぴしゃりと言ったが、岩沼が意地悪く反応する。
「お嬢ちゃん。そうは言っても僕が襲われた事件ではこの女子高生探偵に責任があるからな。こいつが犯人は俺たちの中にいるって言うもんだから俺は第三者の存在など気にせず散歩に出かけたってわけだ。だが犯人に襲われた。かなりの重傷だ。治療費は請求してやるからな」
「何か言ったら?」
江崎がひにひに笑う。
「君の推理のせいで岩沼先生が襲われたんだからさぁ。一言謝ったらどうだろう」
「うるせぇ。こんな時に一人で吹雪の中フラフラ出歩く方が悪いんだろう。内部だろうが外部だろうが、なんで都さんが責任取らなきゃいけないんだ」
勝馬は江崎に掴みかかろうとするのを千尋が手で制しながら強い口調で江崎に抗議する。
「そうよ。この事件みんな部屋にいたり仕事していたりしてバラバラだったんでしょ。全員にアリバイはないんだから、まだ納屋の焼死体が本当に真犯人かなんてわからないじゃない」
「へっ、仮に焼死体が真犯人じゃなかったとして、俺を襲った男が何故この中にいるって話になる。僕を襲った事件以外じゃね、ここにいる全員、従業員や大学生諸君含め、全員に何かしらのアリバイがあるんだよ」
岩沼が小馬鹿にしたように千尋を見る。
「そうだよ、大体真犯人じゃなきゃ、なんで誰にも知られずこのロッジに潜んでいるんだよ!」
江崎が大声を出した。
「やめなよ。江崎君」
槇原玲愛が江崎を宥める。
「もしあの黒焦げになった人が犯人だとすれば、犯人は岩沼先生を切りつけた後、納屋に放火して自殺って事じゃない。つまり私たちはもう安全。犯人は死んじゃっているわけだしね」
「俺は殺されてよかったって言うのか」
岩沼がじろりと玲愛を見つめる。はすきが後ろでオドオドしている。
「高校生探偵が間違えるって事は冤罪が起こるって事だろう? ふざけんじゃねえぞ。お前のせいで俺らは殺されていたかもしれないんだ」
江崎が女の前で都を怒鳴りつける。都は一瞬江崎を見上げて、まるで能面のような抑揚のない声でつぶやいた。
「そうなんだよ。私なんで真犯人は内部犯って思い込んだんだろう」
「知るかよ!」
江崎はイラついていた。

「気にすんなよ、都」
廊下で結城は小柄な女子高生探偵の頭をなでなでした。
「お前のせいじゃない…。お前は事件解決の為に精一杯頑張ってるんだ」
「ううう、でも気になるよ」
都は考え込んでいた。
「どうして私は外部犯だと考えずに私たちの中に犯人がいるって思い込んじゃったんだろう」
「あれは第一の事件でのトリックがな」
結城が声を上げた時、都はハッと何かに気が付いた。
「そうなんだよ、結城君! 私は今までまんまと犯人の罠にハマったんだよ」
都は興奮した様に結城に小柄な体を背伸びして手をバタバタさせた。
「でもそうだとしたらそれに何の意味があったんだろう」
結城が何かを答える前に、都は自分で自分に質問して廊下を歩き回った。これは都が何事件の核心に迫った時見せる癖だった。結城は小柄な女子高生探偵が知恵熱出して何か考えているのをじっと見つめた。
「ふふふ、どう?」
瑠奈が笑顔で結城の横に歩いてきた。
「ああ、第2の事件のトリックは分かっているんだ…。つまり犯人はやっぱりこのロッジにいた連中の中にいる。生き残っている探検部と秋菜以外の7人の中にな」
「だから結城君都が怒られてても何も反論しなかったのね」
瑠奈が笑った。
「ああ、あいつの邪魔はしたくなかったしな。俺の見立てではこの事件は、第一の事件でアリバイトリックを仕掛けた意味、第二の事件のアリバイトリックと俺たちが聞いたお経の正体、第三の事件で見つかった焼死体の正体…。この3つの大きな謎があるんだ。そしてあいつはこの3つの謎を一度に明らかにする最後のピースを探している。最後のピースが埋まれば…あいつは一気に真実にたどり着く」
結城はじっと都を見た。瑠奈が「うーん」と考えてみる都を優しく見守っている。
「何か、都の頭の中で起こっているみたいね。凡人の私たちには想像も及ばない何かが」
「想像も及ばない…何か…か」
結城が呟いた。
「そう、トリックって言ったら氷の氷柱とかを使ったトリックしか考えられないような私たちには考えつかないような何かを掴み取ろうとしているのよね」
「いや…」
結城は廊下でふと目を見開いてかわいい童顔を丸くして純粋に何かに気がつた都の表情を見ていった。彼女の頭の中で「氷柱」というキーワードがこの事件を難しくしていた全ての謎を洗い流すように全て明らかにしていた。
「もう謎は解けたみたいだ」
結城は言った。
「瑠奈ちん」
都がにっこりと力強く笑いながら、瑠奈を見て徐に言った。
「氷柱の事話してくれてありがとう。私やっとわかったよ」
「わかったって…」
瑠奈が声を震わせる。都は頷いた。
「第一の事件で犯人が日本刀が落ちるアリバイ工作をした理由、第二の事件のトリックと千尋ちゃんが聞いたお経の正体…第三の事件の焼死体の正体…全部が瑠奈ちゃんがさっき言った氷柱で一つの答えにまとめられるんだよ」
都はじっと結城を見た。
「都…それじゃぁ」
瑠奈は緊張した様に都に言った。都ははっきりと言った。
「うん…最後の謎ピースは埋まったよ! 出来上がったパズルには犯人の顔がくっきり見える」
 その直後だった。三枝典子が息を切らして階段から今いる廊下に駆け上がってきた。
「結城君、瑠奈さん、都さん! 警察の雪上車です。私たち助かりました」

 恐怖に苛まれた高原のクローズ・ド・サークルはあっさりと開け放たれた。雪上車の警官が殺人現場に勝馬によって案内され、雪上車の無線で応援を求めている。
「やったぁあっ」
玲愛がぴょんぴょん跳ねて青山はすきに抱き着く。
「私たち助かったんだ!」
「警察…来てくれたんだ」
秋菜がロッジの前で立ち尽くした。だがそれを押しのける様に肩を包帯で補強した岩沼医師が警官の前に立ちふさがった。
「おい、警官。僕を真っ先に連れていけ…僕は怪我人でお前らにとっては天上の存在に近い県議会議員で社長の個人ドクターだぞ」
「そのどえらい先生はこの事件で全員死んだがな」
昌谷がじとっと憎しみと軽蔑のまなざしで岩沼を見た。
「もうお前にはお前を支えてくれるスポンサーなんざいないんだよ」
その言葉に岩沼は一瞬顔をひきつらせたが、すぐに享楽的な顔をしていった。
「大丈夫ですぜ。僕はこの殺人事件を手記として出版するんだ。間違いなく大儲け確実でしょうぜ。だって県議会議員とその愛人がくたばったんですから。それを近い立場から書けば、僕の知名度は安泰だ。ヒャハハハハハ」
狂ったように笑う医師を見て、千尋が小さな声で「最低」と呟いた。
 そんな醜悪な医者をじっと見つめる黒い影がいた。その影はさやかの復讐の為に必ずこの岩沼を殺してやると誓っていた。

 茨城県警の長川警部が到着した。読者諸君なら知っているだろうが、都とは顔なじみの30歳の女性警部である。
「都」
長川は規制線をくぐってロッジに入って都を見た。
「都…思った通りの結果が出たぞ」
「そっか…それじゃぁみんなを帰してあげて…」
都は長川警部を振り返った。
「みんなアリバイがあるし、犯人は見つかった誰だかわからない焼死体なんでしょ」
都は言った。
「そう言うことにはしているが」
長川は怪訝な顔をした。
「大丈夫…。私の推理が正しければ…犯人は絶対に動くから」

 茨城県県央地域のスーパーマーケットの裏に黒い犯人はいた。この人物こそが高原で3人もの人間を殺害した恐るべき殺人者「能面鬼」だった。その人物はスーパーの裏にあるプレハブ施設に入って来る。
がちゃりと扉を開けて犯人が入ってきた場所は、じめじめした不快な匂いがこもっていた。その中で手錠で後ろ手に固定され、柱に固定されている数人の人影があった。その人物は恐怖の目で黒い影を見上げた。
「終わったよ」
黒い影は囚人に言った。そして徐に錠前を外し始めた。
「一人を除いて全て死罰が下った。さぁ家に帰るんだ…これは君たちの年間の給料だ」
黒い影は用意していた茶封筒を渡した。
「さぁ、君たちの家族の所に帰るんだ」
殺人者に札束が入った封筒を受け取った若者たちは…しばらく戸惑っていたが、やがて茶封筒を受け取ると一人また一人とプレハブから出ていった。
 黒い犯人はその場に立ち尽くしていた。
 あと一人…あと一人殺せば全てが終わる。さやかが無残に殺された苦しみから永久に解放される。あと一人…岩沼達樹をこの手で殺せば。
 黒い影はナイフをスラリと抜き放って鈍く光る刃物を見ていた。
「こんにちは」
突然さやかの声がした気がして犯人はびくりと体を震わせてその方向を見た。一人の少女がにっこり笑って立っている。女子高生探偵島都だ。
「ふふふふ、高原ロッジで3人の人間を殺害した犯人とそれを可能にしたトリックが分かったよ」
都は笑顔のまま真っ直ぐ堂々と犯人の前に立った。
「犯人はあなたです」


さぁ、全ての謎は明かされた。
この事件の犯人とその人物が持つ鉄壁のアリバイを手に入れたトリックは?
【犯人はこの中にいる】
・岩沼達樹(39):議員専属医。
・青山はすき:女子大生
・江崎レオ(21):大学生
・槇原玲愛(20):女子大生
・川又彰吾(58):ロッジオーナー
・三枝典子(18):ロッジ従業員。
・昌谷正和(59):不動産業者