地獄ムーバー殺人事件❷
3
【容疑者】
・播磨博英（35）社長
・高砂みやび（13）従業員の娘
・城比美子（33）社員
・川越俊太（25）社員
・鷲尾ヒロシ（31）重役
・岡あやの（22）社員
・ロドリゲス松本（36）
・スタンコビッチ平間（38）
パトカーがAGTの高架下の夜のビル街の大通りを通り抜ける。
「AGTとPRTのおかげでかなりバスが減ったな」
長川朋美警部はターミナル駅の駅前広場に捜査車両を止めると手袋を片手にショッピングモールに入る。吹き抜けのエントランスのエスカレーターを上がり、アパレルやスマホショップを走り抜け、閉鎖されたPRTのりばに走りよる。
「おいおい、所轄の警官が少なくないか」
と長川が言うと「スタジアムで試合が終わった直後で、こいつが止まっちゃったからAGTに乗客が集中して大混乱だよ」と鑑識の眼鏡加隈真理がスクリーンドアをどんどんした。ブルーシートに寝かされた播磨の死体に手を合わせる長川と部下の鈴木。
「死因はとんがった10㎝以上の何かで肺に穴をあけられ、喉にも穴をあけられている。かなり苦しんで死んだだろうね」
と加隈は眼鏡をキラーンとさせた。
「ひでぇ」
長川はため息をついた。
「死体はこのPRTとかいう乗り物に乗せられていたんだよな」
長川が言うと鈴木は「はい、この車両に乗せられ、この停留所に流れてきました。ドアが開いたときには死んでいたようです」と報告した。
「車内に防犯カメラは付いているのか」
「はい。それが何ですが…」
鈴木はタブレット端末を長川に見せる。
「被害者が乗車したのはスタジアム駅です」
防犯カメラに13歳くらいのキャップの少女が播磨社長を肩で支えて座席に座らせている。そして車両から降りてそのまま播磨は座席に座っていた。
「実はそれからこの停留所までムーバーが一回も停止せず、当然誰かが出入りした形跡もありません」
鈴木の言葉通り、岡あやのが被害者を起こそうとし、異変に気が付いた鷲尾ヒロシが必死で心臓マッサージをしていた。
「被害者はムーバーが動いている間苦しんでいる様子を見せるのですが、その後動かなくなっています」
「と言う事は、あのCAPの少女が怪しいな」
岡あやのに抱きしめられ号泣しているCAPの少女を長川は見つめた。少女は「社長! 社長! いやぁあああああ」と号泣していた。
「社長の後ろのムーバーで後を追いかけたようだし、しかし彼女は中学生だろう。犯人なのか」
「違うと思うよ」
都が声をかけた。「だって私スタジアム駅でこの子がムーバーの座席に社長さん座らせる様子を見ていたけど、社長は普通にみんなの前で元気してたもん」
「本当か、都」
長川は目の前の小柄な女子高生のどんぐり眼を見つめる。
「ちょっと待てよ。これがもし毒物だったら防犯カメラに映らないように一瞬で殺せると思うが、アイスピックみたいなもので肺に穴を開けるなんて芸当を防犯カメラに隠れてやるのは結構至難の業だぞ」
長川は考え込んでから、都を見つめて「ってなんでお前がいるんだよ」と素っ頓狂な声を上げた。
「何でって、鈴木刑事に呼び出されたんだよ。目撃者捜しの為にスタジアム駅近くの防犯カメラの映像に私たちが映っていたから、直接迎えに来てくれたんだ」
と都はにっこり笑った。結城は「まさか今日も殺人事件に巻き込まれちゃうとはねー」とへこへこ笑った。長川は「…あっそ」とため息をついた。
「まぁスタジアム駅の防犯カメラをチェックすれば一発だろう。状況から考えて乗車直前の犯行だという事は間違いないからな」
「その防犯カメラは動いていないようだぜ」
結城は腕組して言った。「どうも昨日の夜に斧を持った変質者がぶっ壊していったらしいんだ」
「はい」鈴木刑事は長川にタブレットを見せた。スタジアム駅のスクリーンドアが映り込んでいる。その時フラフラと歩いてくる黒いマントにゴムマスクの怪人。それが手に非常用の斧を持ち、監視カメラを見上げる。
「これが今日の午前2時です」鈴木が補足した。
そして不気味な怪人は防犯カメラに向かって斧を振り上げ、次の瞬間砂嵐になった。
「当局は悪戯だと思っていたようですが」
と鈴木が言うと「今回の殺人事件の犯人が何らかの意図をもってぶっ壊したかもしれんと言う話か」
と長川はタブレットを見ながらため息をついた。
「可能性は高いでしょうね」
長川は現場で立っている社員4人と少女1人を見つめた。
「あなた方のうち、鷲尾ヒロシさん、岡あやのさんの2人がここで待っていらっしゃったって事ですよね」
「え、ええ」
ロン毛の背広男、鷲尾ヒロシ（31）は目をそらしながら返事をする。代わって岡あやの（22）が前に出ておずおずと説明した。
「私が車内で播磨社長を揺り起こそうとしたとき、播磨社長はもう意識はない状態でした。それで鷲尾主任が救命措置を…」
「なるほど…」
長川は警察手帳にチェックする。
「それでスタジアムの駅で見送ったのはあなた方ですな」
長川は眼鏡の女性城比美子（33）、爽やか青年の川越俊太（25）を見つめた。
「社長をお見送りしてから私たちは帰宅しました」城は言った。
「しかし君は後から来たムーバーに乗り込んだのだよな」
CAPにシャツの少女高砂みやび（13）を見ると、みやびが号泣しながら肩を震わせた。
「は、はい…社長と一緒に乗車するのは失礼でしたから。だから後から来たムーバーに乗車したんです。私は、社長の家に住んでいましたから…」
と声を震わせてから号泣した。
「どうしよう! 私父さんに捨てられて社長に引き取っていただいたのに。これから妹とどうやって生きていけば」
顔を覆うみやびを西野刑事が支える。
「お父さんに捨てられた?」
と長川警部は言った。
「彼女の父親は元々この会社の従業員だったんです」
城比美子が説明する。
「ですが会社のお金を数千万円横領して逃げたのです」
と眼鏡をくいっと上げる城比美子。
「社長は」鷲尾ヒロシは泣き崩れるみやびを見つめながらため息をついた。
「父親が会社の金を横領したにも関わらず彼女とその小学生の妹を引き取りました。本当に素晴らしい人格者だったのにどうしてこんなことに」
臍を噛む鷲尾。だが川越と岡の2人はそこから目をそらした。それを長川は目ざとく見つけた。
「それで、都」長川は目を閉じてから都を見つめた。
「高砂みやびさんと城さん、川越さんが何か不審な動きを播磨社長にはしていたか」
「そんなことはなかったと思うよ。城さんも川越さんも播磨社長に何かを刺すような仕草はしなかった。ムーバーの中までは見えなかったけど」
と都。
「ムーバーの中にいたのはみやびさんだけだが」
顔を覆って泣くみやびを見つめる長川。だが加隈は「いや、防犯カメラの映像の中で彼女は両手が防犯カメラに見える形で播磨さんをムーバーの座席に座らせていた。針を肺に撃ち込むのは不可能だよ」と眼鏡を光らせた。
「だがムーバーの中で播磨社長は苦しんで意識を失っているのがはっきりわかるからな」
長川は考え込んだ。
「犯行は播磨社長のムーバーが発車するスタジアム駅で行われた可能性が高いんだ」
長川がため息をついた。そしてロドリゲス松本（36）とスタンコビッチ平間（38）を見つめた。
「君たち、何か見なかったか」
「何も見ていないわ。ガハハハと社長さんは笑っていたし、そのままムーバーにあの子に支えられて乗り込んだ。乗り込む直前までご機嫌だったわよ」
とロドリゲスが分厚い唇で喋る。
「ま、マジか…」
長川はため息をついた。
「ちょっと待て…って事はスタジアム駅でムーバーに乗せられてからこのターミナルモールで死体発見までの完全な無人運転のPRTの車内の完全な密室の中で、犯行は行われたって事か」
と長川はタブレットでムーバーの座席に座っている播磨社長を見つめる。
「しかもムーバーの中は監視カメラで撮影されていて、車内において播磨社長に近づいた人間もいない…つまり完全な密室殺人だ」
長川は都を緊張した笑顔で見つめた。
「ちょっと待て」と長川に結城が挙手をした。長川は「おや」と言う顔をして結城を見る。
「都…長川警部…こうは考えられないか」
結城はじっと長川警部を見つめた。
「あのムーバーの中での播磨社長がぶっ倒れるの、苦しむ様子…あれが演技って事はないか?」
都と長川が目をぱちくりする。
「つまり犯人と播磨があらかじめ示し合わせて、ムーバーの中で播磨社長に苦しむ演技をさせる。そしてぶっ倒れた播磨社長をこの乗り場で助けるふりをして本当に殺害する」
結城はドキッと目を見開く鷲尾ヒロシのロン毛社員を振り返る。
「な、何を」
狼狽える鷲尾を結城が眉毛を動かしながら見つめる。
「貴方の救命措置。そのロン毛とデカい体のおかげでカメラから死角になってよく見えてないんですよ」
「何を言っているんだ」
鷲尾が怒り狂った結城の首根っこを掴んだ。
「私が何を言えば播磨社長がムーバーの中で死んだ人間の演技をしてくれるというんだ」
結城は動じずに長川に首根っこ揺すられながら言った。
「長川警部、一応この人のバッグとかを調べてみてくれ。オフィス鞄に恐らく凶器のアイスピックが隠されているはずだぜ」
「一応調べさせて貰っていいですか」長川は鷲尾に言った。
「貴方の嫌疑を晴らすうえでも」
（来たぁーーー）結城は目をキラーンとさせた。（さぁ暴れろ泣きさけべ観念しろ）
「ち」鷲尾はバッグを長川につきだした。
「ほらよ。調べればいいだろう」
あっさりと長川に渡す鷲尾。結城は（あれ）と目をきょとんとさせた。
（こんなにあっさり見せているって事は、ひょっとして犯人じゃないのか）
ふてくされた鷲尾に滝汗になる結城。長川は鈴木にバッグを持ってもらい、チャックを開けた。新聞紙に包まれた何かが出てきた。新聞紙を引っぺがすと、血まみれのアイスピックが出てきた。
「な、何」呆然とする鷲尾。顔面蒼白とはこのことだった。
「わ、鷲尾」城比美子が眼鏡を反射させて呆然とする。
「違う。これは俺じゃない。誰かにはめられたんだ」
そう狼狽え喚く鷲尾の肩を掴む長川。「続きは署の方で」
「人殺し、なんで社長を、社長を‼」
突然高砂みやびが鷲尾に掴みかかる。
「うわぁあああああ。放せええええ」と鷲尾が西野と鈴木に連れていかれて、岡あやのが「そんな、嘘」と声を震わせ、川越俊太が立ち尽くす。
「おおおおおおおお」都が結城に拍手、拍手する。
「凄い、冴えている。結城君ピカソみたい」
「ピカソの意味が分からないが、ま、たまには俺が推理するってのもいいだろう」
結城は幾分得意げに言った。その様子を黒い影がじっと見つめていた。その顔は邪悪そのものだった。
（わかるわけがない…この密室殺人が…）
犯人の目が血走る。
（これで…全てが終わる…）
4
「どうだ、だてに俺もお前の相棒をやっているわけでもないだろう」
結城はショッピングモールのフードコートで向かい側の高架ターミナル駅に発着する特急列車を見ながら言った。都は「あ、それなんだけど」とハンバーガーをパクパクしながら言った。
「結城君の推理は間違っているよ」
「何‼」結城が椅子からずり落ちた。
「いったいどこが間違っているんだ。どこにも不備はない事は間違いないだろう」
結城は都を見つめた。都は目をぱちくりさせて「だってそんなことしても鷲尾さんには何のメリットもないじゃん」と言った。都はメロンソーダをちゅーっとやってから
「結城君がこれから人を殺すって時のことを考えてみてよ」
と言われ、結城は小学生の時に本当に人を殺した時のことを思い出してジト目になった。
「例えばホテルとかでさ」
結城はこのショッピングモールと一体化している高層ホテルを思い出した。
都は言葉を続ける。
「高層ホテルの部屋とかで被害者に密室の中で死んだふりをさせて、ホテルのボーイさんを呼び出して知り合い何人かで死んでいるように見える被害者を確認しました。その後でみんなが警察を呼びにいったり慌てているうちに本当に被害者を殺しました」
「よくあるトリックだな」
結城はため息をついた。都は結城を見上げて
「そんなトリックを使ったとき、犯人にとって部屋の中にホテルキーがあるのとないのでは、どっちが都合がいいと思うかな?」
と目をぱちくりさせた。
「そりゃ、まぁ部屋の中にキーがあった方がいいな。自殺に見せかけられるかもしれないし」
「そう、自殺に見せかけられるかもしれない状況なのに、わざわざ凶器の包丁とかをホテルの部屋から持ち出して、自分のバッグに仕舞うなんて事するかな」
「確かに…」
結城は都に言われて考え込んだが、すぐに身を乗り出して都に主張した。
「だが犯人はPRTのスタジアム駅の監視カメラをぶっ壊したんだろう。多分スタジアム駅にいた人間に罪をおっかぶせるつもりだったんじゃないか」
「あのPRTの車内にも監視カメラはあるんだよ」
都は言った。
「そして播磨社長に死んだふりを車内でさせる事が出来る犯人ならそんなことは知っているはず。スタジアム駅の車内でどんな画像が撮影されているのかわからないのにこんなトリックを実行なんか出来ないと思うんだよ。下手すれば自分に全ての疑いがかかってしまって、さっきみたいにバッグの中の凶器がバレちゃう可能性だってあるのに」
「確かに…」
結城は幾分がっかりした。だがすぐに思い出して「長川警部に知らせなくていいのか」と言った。
「大丈夫だよ」都は笑った。
「長川警部も怪しい点には気が付いているから。真犯人を油断させる必要があったからとりあえず鷲尾さんを連行しただけだよ」
「ちぇ、俺だけかよ」結城は椅子にどかっと座り込み、都はふてくされた彼をなでなでしてあげた。
「だがよ、今の話だとそれは犯人にも言える事なんじゃないか」
と結城は都に言った。
「犯人は今回完璧な密室を手に入れた」結城は椅子にもたれながら都を見る。
「現場の密室は完全密閉で人が出入りできない空間。しかも動く乗り物だ。そして監視カメラで監視されている。しかも被害者が苦しんで動かなくなるところまで撮影されているんだ」
結城は見せられた画像を思い出した。
「小さいムーバーだから監視カメラから隠れられる死角もないし、沿線のプライバシーに配慮して窓ガラスは夜には鏡に変換される新素材が使われているから、監視カメラには窓ガラスに反射した車内も映り込んでいて、アリンコ一匹隠れられないくらい網羅されている。しかもターミナルモール駅の監視カメラに映り込んだムーバー到着時の鷲尾と岡さんの動きが車内のカメラの2人の動きと完全に一致しているからディープフェイクとか切り取りとか挿入とかもあり得ない。完璧な密室だ。つまり、」都の言った推理だと犯人推理として」
「真犯人がこの完璧な密室を作る動機として、鷲尾さんに罪を擦り付けるというものがあるよ」と都は言った。
「だとしたらお前はこの完璧な密室を解き明かさなくちゃいけなくなるぞ」
と結城はため息をついた。
「都は何か推理が出来ているのか。この不可能動く密室殺人のトリックは」
結城が言うと都は「うーん」と唸っていた。
「私はやっぱりあのスタジアム駅の監視カメラが壊されていた事に、何か意味があると思うんだよね」
「でもあの時はあのみやびとかいう女の子と川越という兄ちゃんとオカマ2人、そしてあの比美子だっけ、邪馬台国っぽい名前の…」
「あ、この前瑠奈ちんが家族旅行で行ってた」
都が手をパタパタさせる。
「あれは吉野ケ里遺跡だよ。邪馬台国の遺跡じゃねえ。今邪馬台国はどこにあったのか未だにわかってねえんだ」
結城はシネマコンプレックスの方を見つめた。
「何せ中国の昔の本とかに適当な情報が書いてあるだけでな。それに合致する日本の遺跡が見つかってねえんだ」
都は結城竜をじーっと見つめた。目を見開いている。
「そうだ…そうだったんだよ」
都は立ち上がった。
「犯人がスタジアム駅のカメラを壊したのはそういう理由だったんだよ」
都は立ち上がった。そしてスマホを取り出す。
「長川警部! ちょっと確認して欲しい事があるんだけど」
－そうだ、都…丁度いいところにかけてくれた。
長川の声が興奮していた。
AGTが高架を通過する大通り。その大通りに面している高層アパート。1階がSEVEN-ELEVENやマクドナルドが入っており、2階、3階は事務所になっている。大通りにはパトカーが多数集結していた。
長川はアパートのエレベーターの中で都と結城を見つめて言った。
「鷲尾の奴のPCとかを漁ったりしたら、いろいろ出て来てな。高砂みやびって女の子がいただろう。あの子生活支援の見返りに播磨社長からあるチャイルドマレスターの医師の性接待に使われていたんだ。それから鷲尾と城比美子のやり取りから、高砂みやびの父親はどうも娘2人を人質に非人道的な奴隷労働を強要されていた事がわかったんだ。高砂はその後失踪している」
「で、このアパートはどちら様のマンションなんだ」
と結城。
「チャイルドマレスターの医師だよ。とにかくパクっといた方がいいという判断を私がやってここに来たんだが」
エレベーターを出て内廊下に大勢の鑑識が出入りをしているという事で結城は事態を察した。
部屋の中では眼鏡をかけた中年男性が物凄い形相で喉を押さえ、泡を吹いて仰向けで死んでいた。都は小さくため息をついた。
「遅かった」
「死因は毒物。この山吹色のカステラに仕込まれていたみたいだね」
加隈真理鑑識は牛乳瓶眼鏡を光らせ、床に散らばる食べかけのカステラを指さした。
「まさか2人も仏を見るとはね」
長川はため息をついた。
「山吹色のお菓子か…それにしても妙だな」
と長川は言った。
「このカステラ…箱のわりに小さいぞ」
長川は結城と顔を見合わせる。
「まさか別の人間が一緒に食っていたとか。そしてそいつがこの医者が死んだ後で部屋を出たとか」結城が思案するが
「その可能性は低いね」
と加隈真理は指摘した。
「この部屋の室内で鍵が発見された」
「じゃぁまた密室殺人かよ」
結城がため息をつくが長川は「いや」と医師の死体を覗き込んだ。
「今回は毒殺だからな。犯人が菓子を渡してすぐ現場を離れればいいわけだし、そもそも犯人がこの部屋に入っていない可能性もある。PRTの事件みたいな不可能密室ではないよ」
その時鈴木が背後から敬礼して声を上げた。
「別班からの報告です。播磨興行の本社を捜索し、高砂みやびさんの妹を保護。監禁に関与していたとして城比美子の身柄を確保しました。鷲尾ヒロシもこの件で逮捕する方針が県警より通達されました…それと」
鈴木が都を見た。
「都ちゃんが言ってくれた確認の件、あのオカマさん2人の監視カメラのPRT監視カメラの状況をチェックしたよ。都ちゃんの言っている事に間違いはなかった」
「やっぱり」
都は小さく言った。
「犯人がスタジアム駅の監視カメラを破壊した理由、完全なムーバーの密室の中で殺人を実行した方法…そして今回の医師毒殺の意味…結城君」
都はじっと結城竜を見上げた。
「全部わかった」
翌日。PRTのスタジアム駅。ペデストリアンデッキの前に都、結城、瑠奈が立っていた。うだるような暑さの中、雑居ビルやコンベンションセンター、AGTの高架が通っている。
「連れて来たぜ」
長川警部がある人物を連れてPRTの駅入り口に現れた。
「長川警部ありがと」
都は笑った。その人物は「あの、何で私は呼び出されたのでしょう」と幾分緊張した声を出した。
「それは」
都は笑顔で言った。
「貴方たち2人が考えた殺人計画を明らかにするためです」
そう言ってから、少女探偵は目を見開き驚愕するその人物を見つめた。
「この走るPRTのムーバーの中で監視カメラで観察されたまま、播磨社長は殺害されました。ですがこれは犯人が仕組んだ巧妙な密室トリックだったんです」
都がそう言うと瑠奈がスマホをタッチしてPRT乗り場のスクリーンドアを開けた。
「さぁ、あなたも一緒に乗ってください。この完璧なムーバーの密室トリック…その全てが明らかになります」
島都は殺人者をじっとPRTのホームから見つめた。
【挑戦状】
さぁ、全ての謎は解き明かされた。
このPRTムーバーの中で完璧な密室殺人をやり遂げた犯人のトリックは。
・高砂みやび（13）従業員の娘
・城比美子（33）社員
・川越俊太（25）社員
・鷲尾ヒロシ（31）重役
・岡あやの（22）社員
・ロドリゲス松本（36）
・スタンコビッチ平間（38）
