少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

劇場版少女探偵島都9ー岩本承平の驚愕File❺【解決編】

9

 


「結城君!」
 都が目を覚ました時、彼女はログハウスの部屋の十字架に磔にされていた。都は目を見開いた。夜のルクスの低いその部屋にはおぞましい拷問器具が並べられ、人間を固定するベッドがあった。都はぞっとした。
「ひひひ」
下劣な笑いを浮かべて、白倉一馬が部屋に入ってきた。
「寝顔がかわいかったよ。都ちゃん、時折結城君って名前を呼んでさ」
ニチャッと笑う白倉。都は物凄い憤怒の形相で白倉を見つめた。
「お前が結城君を」
都の怒りに満ちた声に白倉は「へひゃひゃひゃ」と笑った。
「怒っているのに、女子高生探偵はあられもない格好で何も出来ないんだ。きひひひ」
いきなり乗馬鞭でハーフパンツにピンクのブラウスの都の胸をもてあそぶ白倉。
「大好きな結城君を撥ね飛ばした白倉だよ! 結城君を撥ね飛ばした白倉が、今都ちゃんのおっぱいぐりぐりしているよ」
「ぐっ」都は苦悶した。目から涙が出てしまう。支配欲に白倉は「ひひひ」と笑ったが、「おっとやり過ぎるのはまずい」と鞭を引っ込めた。
「俺は君を人質に岩本と交渉するんだ。岩本は君を大切に思っているようだからね。君の身柄を盾にして、岩本が殺したそうな犯罪者のデータを提供するんだ」
この男は自分を岩本と交渉できる計略家だと思っているらしい。都は白倉を真っ直ぐ見た。結城君を撥ねたこいつにだけは負けたくなかった。
「八木正平に罪を擦り付けた警察署の人間のデータだよね」
都はじっと白倉を見つめて言った。
「何だ、知っていたのか。ここは警察署長の別荘。僕と警察署の偉い人たちのセックスパーティーの会場。滝山なんか無礼講で一番楽しんでいたな」
まるで青春の思い出とばかりに話す白倉。
「警察署にはいろんな市民のデータがあってさぁ。障害がある女の子、保護者が頼りにならない女の子、家族が逮捕された女の子とか、世の中には被害者になれない女の子がいっぱいいるんだよ。けひひ。そういう女の子はまともな恋愛なんて出来ないんだからさ、けひひ、俺たちが女の喜びを教えてあげているの」
白倉はまるで自分に酔っているように話を続けた。目は焦点があっていない。
「最初はね。普通に通学中の女の子を3人、普通にレイプしているだけだったんだ」
彼は回想の中でうっとりとしていた。下校中のエルの目の前に現れてナイフをちらつかせている回想を。
「でも所轄の警察署長がえらいパパがいて僕自身も偉いぼっちゃまが犯人だとわかるとさ、忖度っていうの? よりにもよって別の人間を犯人に仕立てあげようとしたの。それが母親の上司の朝倉に性奴隷にされていた南唯ちゃんを連れ戻そうとして暴れた八木正平。裁判は呆気なかったね。3人の女の子は簡単に脅せたし、八木正平だって無理やり取り調べ室にホットプレート持ち込んで、奴の手を焼いてやれば指紋が出ないことが逆に証拠になる。この一件で無実の人間に罪を着せた警察署長も弱味を握られてみんな僕の子分。警察署が僕のセックスの王国になった訳さ」
大喜びで興奮して鞭でテーブルを叩く白倉。こんな奴が結城を撥ね飛ばしたのだ。都の目に憎悪が浮かんだ。殺意が浮かんだ。

「そんな事って」
田んぼの畦道をぶっ飛ばすセダンの助手席で呆然とする鈴木。長川警部はハンドルを握りながら驚愕する鈴木に言った。
「あー、たまにあるよ。公務員が半グレの相手を適当にやった結果つけこまれ、課長クラスまで半グレの手先になり、役所を市民に対する暴行や恐喝の場所として提供しちまう事件。普通の市民が役所に相談に行ったら知らない半グレが役所職員を従えて会議室に入ってきて恐喝を初め、それに応じて金を払うよう公務員が恐喝や暴力の手助けをするとか…」
「ホラーじゃないですか」
「そんなホラーが警察でも実現しちまったのさ」
運転する長川の目が鋭くなった。

「でも、それをよりにもよってあの南唯という朝倉の奴隷が、平仮名で書かれた自分がされたことのメモと、朝倉と滝山と俺が撮影したレイプビデオのデータを、手紙で八木正平に託そうとしたんだ。よっぽど八木正平君を助けたかったんだろうな。純情なしゅきぴって奴? それをあいつに代わって当主になりたい一柳が見つけて俺らに知らせた。だから」
白倉は悪魔のように笑った。
「あの女の子を殺したんだ。朝倉の部下が、川の水をお風呂に入れてさ。あとは俺と朝倉と一柳と滝山で裸にした南唯ちゃんを生きたまま沈めたんだ? コナンのトリックで殺される女の子に興奮する変態の気持ちがわかったよ。泣き叫んで最後までジョーへー、ジョーへーって」
「八木正平君のあだ名だね」
都はじっと白倉を見つめた。その声は怒りで震えていた。
「そうだよ。そして八木正平も。一柳が騙して船に乗せ、そこで大好きな女の子を殺された事を知ったあいつの顔面白かった! 岩本の仕業に見せかけるって言って、霞ヶ浦に沈めてやったよ。アヒャヒャ」
「やっぱり、お前は根本的に間違っている」
都は言った。
「だって…お前を殺そうとしているのは」
都がそう言った直後だった。
「痛い、痛い、痛い」
そんな声が白倉の背後から聞こえてきた。

「岩本じゃない?」
千尋がすっとんきょうな声をあげた。結城はベッドで天井を見ながら言った。
「最初に都のヒントになったのは八木家に石を投げていた女の子。あれは南唯を強姦した八木正平にではなく、親友の八木正平を裏切り、彼と南唯が親しい仲ではないと証言した八木久光への憎しみだったんだ。そして怪人二十面相、あれはシリーズ26の空飛ぶ二十面相までしかなかった。1-26までのデスマスで書かれ人が死なない話だ。多分共感力が強い八木正平の好みに南唯が合わせてプレゼントしたんだろう。俺たちは岩本が南唯をレイプし自殺に追いやった八木正平を岩本が殺し、その姿で殺人をしていると考えた。しかし違ったんだ。この事件の犯人は」
結城は天井に向かって言った。
「八木正平本人だ」

目の前に立つ八木正平に白倉は目を見開いた。八木正平は白倉が引き抜いた銃を叩き落としたが、その勢いは白倉の腕を着信アリみたくイビツにへし折った。
「あぎゃああ」八木正平は泣き叫んだ。

「待って、岩本の指紋がほとんどの現場から出ているんだよね」
千尋が聞くと結城は喋りだした。
「朝倉社長が殺された事件では、八木正平は岩本が来る3時間前に朝倉の部屋で朝倉を殺害。岩本はその三時間後に来て自分が殺そうとしていた朝倉が死んでいるのを確認して、さらに佐竹さんたちに岩本自身が目撃された」
「でもマンションから八木さんが出た記録は」
瑠奈が聞くと、結城は「それが今回の話の味噌なんだ」と言った。

 八木正平は十字架にかけられた都の右手のロープに「がうがー」と獣のような声を出して噛みつくと強靭な顎で引きちぎった。その間に足を引きずり逃げようとする白倉。だがその足に銛が突き刺さっていた。
「ぎゃあああ」
絶叫が響いた。

「マンションの事件では岩本が犯人だと特定され、しかも岩本が逃亡する所も見られているから、いちいちマンション内部で不審人物は探されない。だから八木は恐らく中庭のベンチにでも堂々と佇み、警部が防犯カメラの回収を行った後に警察官の前を堂々と通って外に出たんだ」
結城は病室のベッドで天井を見ながら言った。
「滝山警部補を殺したのは岩本本人だろう。岩本は滝山を皮を剥いで滝山に変装し、恐らく自分以外の人間が復讐をするのを止めようとしたのだろう、交番で待った。だが八木は滝山と誤認した岩本と戦闘になり、岩本の手足をへし折り制圧した」
「あ、あいつを…」千尋が驚愕した。
「岩本は交番の物置に隠れ、咄嗟に滝山の死体を身代わりにして窓から脱出した。恐らく重傷のまま必死で逃げたはすだ。もし物置に滝山の死体がなければ、岩本は逃げ切れず殺されていただろう」
「う、うそ」秋菜が目を見開く。
「だから滝山が八木正平の姿をした存在に痛め付けられる姿が映った防犯カメラと滝山が岩本に殺された物的証拠がある死体の両方が残され、八木正平が岩本承平と同一人物だという証拠になっちまった。そして警察病院での一柳の事件。これはトリックも糞もない。八木正平は素顔でセキュリティを突破し、警官を制圧し、一柳を殺した」
結城はため息をついた。千尋も秋菜も瑠奈も呆然としていた。結城は話を続けた。
「八木のヤバいところは本人は全くトリックを使うつもりがないというところだ。岩本もそれに対する警察の対応も本人が制御出来ない運を全て利用しているんだ。だが警察も俺らも犯人は岩本だと思い込んでいるから、何か奴の計算された策謀の結果だと思い込んでいた。それが奴に、八木正平の復讐に、最強とも言えるプラス要素を与えてしまった。IQ70弱の知的障害者にな。だが一方で奴は、八木正平は岩本に匹敵する化け物だ」

八木正平は手足を引きずりながら壁に追いやられる白倉に無表情のまま「痛い、痛い」と呟いた。

10

 その様を見て、都は必死で縄目をほどこうとする。もう片方の左手の縄を解こうとして爪が割れた。その間にも白倉が八木に拷問され絶叫する。
 怯え苦しむ白倉。
「助けて、死にたくない。お願いた助けてくれ」
涙を流して両手でおもねる。
「謝ろう。お前の無罪を証言しよう。お前の好きな児童文学も買ってやるぞ」
もう何もかも遅いというのが、この男にはわかっていない。
 八木正平は白倉の前に仁王立ちした。自分を船から突き落とした中に、一柳と白倉、朝倉、滝山がいた。みんな笑っていた。きっと唯を殺した時も。水の中で唯が感じた苦しみと恐怖を感じた
「痛い」
縄脱けして岸辺に這い上がった時、唯が痛みの中でいなくなったと感じた。
「痛い…」
唯の笑顔、唯の悲しそうな顔、好奇心いっぱいの顔、唯のマンションで助けを求める怖くて泣いている顔、裁判所で傍聴席から叫んで退廷させられる唯の必死の顔、いつも「大丈夫」と笑う唯。
「痛い、痛い」
八木正平の顔は無表情であったが涙がぼろぼろ出ていた。
「痛い、痛い、痛い」
ゆっくりと白倉の方に手がのびる。
「ヒイイい」白倉が死の恐怖に絶叫した。
 都が八木正平を後ろから抱き締めたのはその直後だった。
「わかってるよ」
都は言った。
「わかるよ、ジョーへーさんが、南唯さんが大好きだった事も、唯さんがいなくなって悲しいことも、唯さんの苦しみや怖かった事が悲しくて辛くて堪らないことも、全部わかるよ」
都は足に十字架が絡まったままで脱臼していた。それでも八木正平を抱き締めるのをやめない。八木正平は無表情のまま泣いていた。
「でも、ダメ。そんな事をしちゃダメ。そんな事をしたら。ジョーへーさんも唯さんも私も、痛い」
八木正平の目が見開かれた。
八木正平は都の脱臼した足を見た。
「痛い?」
八木正平が悲しそうに都に向かって首をかしげる。そして都の脱臼した足に優しく触れた。そして彼女の足のロープを外してあげた。
 だが次の瞬間、都は突き飛ばされた。銃声が聞こえた。次の瞬間八木正平はうつ伏せに倒れた。都の目が見開かれた。八木の背中に血が広がっていく。
「や、八木さん」
都はにやつきながら銃を構える白倉を物凄い目で見つめた。
「次はお前だ、島都」
白倉は折れた手で拳銃を都に向けた。
「何が痛いだ? 俺が助からないといけない理由は俺が偉いからだろう。何でこいつ本位なんだよ」
白倉は拳銃を震わせた。恐らくまともに狙えない。こいつの懐に飛び込み、近くに散らばっている拷問道具のピックで。都の目がぎらりと光った。だが次の瞬間、八木正平が物凄い表情で都を守るように立ち上がった。銃声が放たれ、八木の胸に穴が開いたが、八木は倒れなかった。「痛い、痛い」八木はブツブツ言っていた。
「化け物め、死ね」
白倉は銃を構えて絶叫した。
 ドアが開いたのはその直後だった。
「白倉、銃を捨てろ!」長川警部が叫んだ。白倉は物凄い形相で長川に銃を向けた。長川は迷いなく白倉の眉間に銃弾を叩き込んだ。白倉の脳みそが後ろの壁に飛び、白倉は仰向けに倒れた。
 同時に八木正平も仰向けに倒れた。
「ジョーへーさん、ジョーへーさん」都は泣き叫びすがり付いた。
「しっかりして、今助けるから」
八木正平は仰向けになりながら都を見た。
「痛い?」
八木の質問に都は目を見開いた。だがすぐに飛びっきりの笑顔で答えた。
「痛くないよ」
「良かった」
八木正平はそれだけ呟いた。そして死んだ。
「都。彼が殺人犯の」
長川が都の背後から安らかな八木正平の死に顔を見つめた。
「違うよ」
都は小さな声で言った。
「この人は心優しい武人に戻ったんだよ」

 警察署で行われた記者会見で署長は冷や汗をかきながら「私たちが被害者の少女たちに今回判明した真犯人の、白倉警部に引き合わせたのは事実ですが、決して犯人だとわかって引き合わせた訳ではなく…」と弁明していた。
 それを足にギブス巻いた一人の眼鏡を反射させた記者は聞き入っていた。彼は思った。
(八木正平さんに感謝する事ですね。彼が私にもたらした全治3ヶ月のお陰で、貴方方は少し寿命が伸びたのですから)
会見席では警察幹部の制服を来たシチューの材料が、身勝手な弁明を続けていた。

 八木久光の家ではささやかな葬儀が営まれた。都と結城も八木久光の願いで参列した。
 和室に棺が安置されたていた。結城は焼香を上げるとき相馬に一礼したが、あの嫌な野郎だった相馬兵庫が号泣していた。恐らく八木久光に辛辣だった理由は、「やだやだ」と泣き喚きながら両親に退室させられている少女と同じなのだろう。
 メルは高校の制服のまま、和室に安置された棺の前で肩を震わせて手を合わせた。
「ごめんなさい、ごめんなさい」

「君がそんな事をしなくてもいいんだよ」
と八木久光はメルに言った。
「君は被害者なんだ。そして警察に脅された。怖かったろう。仕方がない事なんだ」
「ダメです」
メルははっきり言った。
「私が嘘をついたから、八木正平さんは無実の罪で有罪になりました。それが明るみになったとしても、私が体験したことはみんなが知らなければいけない事だと思います。だってこんな事件を2度と起こさないようにするには、それしかないから」
メルの視線に「君は勇敢だな」と八木久光は棺を見つめた。
「私なんかよりも勇敢だ」
八木久光ふらふらと棺に向かって歩き、傍にいた都に言った。
「私が嘘をついた理由。この子を守りたかったからなんだ」
八木久光は呟くように言った。
「この子は発達障害があって、環境の変化にパニックになっていた。だから留置施設とかに耐えられるはずもない。早く出してあげたかった。だから、桐山弁護士の口車に乗ってしまった。正平の言うことを妄想だと言えば、有罪でも早く決まって出られると」
八木久光は棺の前に座り込んだ。
「だが取り返しのつかない間違いだったんだ。お前は私よりも、先代の誰よりも強くて優しい武人! その武人を裏切り私は名誉を踏みにじった。それがこんな結果を招いた。お前はどれだけ孤独で辛かっただろう。正平、許してくれ、許してくれぇ」
八木久光は棺にすがりついて慟哭した。
 島都はその傍らでそれを無表情で見ていた。じっと、まるで何も出来なかった結果を、目に焼き付けるように。

 

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おわり