劇場版少女探偵島都9ー岩本承平の驚愕File❺【解決編】
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「結城君!」
都が目を覚ました時、彼女はログハウスの部屋の十字架に磔にされ
「ひひひ」
下劣な笑いを浮かべて、白倉一馬が部屋に入ってきた。
「寝顔がかわいかったよ。都ちゃん、時折結城君って名前を呼んで
ニチャッと笑う白倉。都は物凄い憤怒の形相で白倉を見つめた。
「お前が結城君を」
都の怒りに満ちた声に白倉は「へひゃひゃひゃ」と笑った。
「怒っているのに、女子高生探偵はあられもない格好で何も出来な
いきなり乗馬鞭でハーフパンツにピンクのブラウスの都の胸をもて
「大好きな結城君を撥ね飛ばした白倉だよ! 結城君を撥ね飛ばした白倉が、今都ちゃんのおっぱいぐりぐりして
「ぐっ」都は苦悶した。目から涙が出てしまう。支配欲に白倉は「
「俺は君を人質に岩本と交渉するんだ。岩本は君を大切に思ってい
この男は自分を岩本と交渉できる計略家だと思っているらしい。都
「八木正平に罪を擦り付けた警察署の人間のデータだよね」
都はじっと白倉を見つめて言った。
「何だ、知っていたのか。ここは警察署長の別荘。僕と警察署の偉
まるで青春の思い出とばかりに話す白倉。
「警察署にはいろんな市民のデータがあってさぁ。障害がある女の
白倉はまるで自分に酔っているように話を続けた。目は焦点があっ
「最初はね。普通に通学中の女の子を3人、普通にレイプしている
彼は回想の中でうっとりとしていた。下校中のエルの目の前に現れ
「でも所轄の警察署長がえらいパパがいて僕自身も偉いぼっちゃま
大喜びで興奮して鞭でテーブルを叩く白倉。こんな奴が結城を撥ね
「そんな事って」
田んぼの畦道をぶっ飛ばすセダンの助手席で呆然とする鈴木。長川
「あー、たまにあるよ。公務員が半グレの相手を適当にやった結果
「ホラーじゃないですか」
「そんなホラーが警察でも実現しちまったのさ」
運転する長川の目が鋭くなった。
「でも、それをよりにもよってあの南唯という朝倉の奴隷が、平仮
白倉は悪魔のように笑った。
「あの女の子を殺したんだ。朝倉の部下が、川の水をお風呂に入れ
「八木正平君のあだ名だね」
都はじっと白倉を見つめた。その声は怒りで震えていた。
「そうだよ。そして八木正平も。一柳が騙して船に乗せ、そこで大
「やっぱり、お前は根本的に間違っている」
都は言った。
「だって…お前を殺そうとしているのは」
都がそう言った直後だった。
「痛い、痛い、痛い」
そんな声が白倉の背後から聞こえてきた。
「岩本じゃない?」
千尋がすっとんきょうな声をあげた。結城はベッドで天井を見なが
「最初に都のヒントになったのは八木家に石を投げていた女の子。
結城は天井に向かって言った。
「八木正平本人だ」
目の前に立つ八木正平に白倉は目を見開いた。八木正平は白倉が引
「あぎゃああ」八木正平は泣き叫んだ。
「待って、岩本の指紋がほとんどの現場から出ているんだよね」
千尋が聞くと結城は喋りだした。
「朝倉社長が殺された事件では、八木正平は岩本が来る3時間前に
「でもマンションから八木さんが出た記録は」
瑠奈が聞くと、結城は「それが今回の話の味噌なんだ」と言った。
八木正平は十字架にかけられた都の右手のロープに「がうがー」と
「ぎゃあああ」
絶叫が響いた。
「マンションの事件では岩本が犯人だと特定され、しかも岩本が逃
結城は病室のベッドで天井を見ながら言った。
「滝山警部補を殺したのは岩本本人だろう。岩本は滝山を皮を剥い
「あ、あいつを…」千尋が驚愕した。
「岩本は交番の物置に隠れ、咄嗟に滝山の死体を身代わりにして窓
「う、うそ」秋菜が目を見開く。
「だから滝山が八木正平の姿をした存在に痛め付けられる姿が映っ
結城はため息をついた。千尋も秋菜も瑠奈も呆然としていた。結城
「八木のヤバいところは本人は全くトリックを使うつもりがないと
八木正平は手足を引きずりながら壁に追いやられる白倉に無表情の
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その様を見て、都は必死で縄目をほどこうとする。もう片方の左手
怯え苦しむ白倉。
「助けて、死にたくない。お願いた助けてくれ」
涙を流して両手でおもねる。
「謝ろう。お前の無罪を証言しよう。お前の好きな児童文学も買っ
もう何もかも遅いというのが、この男にはわかっていない。
八木正平は白倉の前に仁王立ちした。自分を船から突き落とした中
「痛い」
縄脱けして岸辺に這い上がった時、唯が痛みの中でいなくなったと
「痛い…」
唯の笑顔、唯の悲しそうな顔、好奇心いっぱいの顔、唯のマンショ
「痛い、痛い」
八木正平の顔は無表情であったが涙がぼろぼろ出ていた。
「痛い、痛い、痛い」
ゆっくりと白倉の方に手がのびる。
「ヒイイい」白倉が死の恐怖に絶叫した。
都が八木正平を後ろから抱き締めたのはその直後だった。
「わかってるよ」
都は言った。
「わかるよ、ジョーへーさんが、南唯さんが大好きだった事も、唯
都は足に十字架が絡まったままで脱臼していた。それでも八木正平
「でも、ダメ。そんな事をしちゃダメ。そんな事をしたら。ジョー
八木正平の目が見開かれた。
八木正平は都の脱臼した足を見た。
「痛い?」
八木正平が悲しそうに都に向かって首をかしげる。そして都の脱臼
だが次の瞬間、都は突き飛ばされた。銃声が聞こえた。次の瞬間八
「や、八木さん」
都はにやつきながら銃を構える白倉を物凄い目で見つめた。
「次はお前だ、島都」
白倉は折れた手で拳銃を都に向けた。
「何が痛いだ? 俺が助からないといけない理由は俺が偉いからだろう。何でこいつ
白倉は拳銃を震わせた。恐らくまともに狙えない。こいつの懐に飛
「化け物め、死ね」
白倉は銃を構えて絶叫した。
ドアが開いたのはその直後だった。
「白倉、銃を捨てろ!」長川警部が叫んだ。白倉は物凄い形相で長
同時に八木正平も仰向けに倒れた。
「ジョーへーさん、ジョーへーさん」都は泣き叫びすがり付いた。
「しっかりして、今助けるから」
八木正平は仰向けになりながら都を見た。
「痛い?」
八木の質問に都は目を見開いた。だがすぐに飛びっきりの笑顔で答
「痛くないよ」
「良かった」
八木正平はそれだけ呟いた。そして死んだ。
「都。彼が殺人犯の」
長川が都の背後から安らかな八木正平の死に顔を見つめた。
「違うよ」
都は小さな声で言った。
「この人は心優しい武人に戻ったんだよ」
警察署で行われた記者会見で署長は冷や汗をかきながら「私たちが
それを足にギブス巻いた一人の眼鏡を反射させた記者は聞き入って
(八木正平さんに感謝する事ですね。彼が私にもたらした全治3ヶ
会見席では警察幹部の制服を来たシチューの材料が、身勝手な弁明
八木久光の家ではささやかな葬儀が営まれた。都と結城も八木久光
和室に棺が安置されたていた。結城は焼香を上げるとき相馬に一礼
メルは高校の制服のまま、和室に安置された棺の前で肩を震わせて
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「君がそんな事をしなくてもいいんだよ」
と八木久光はメルに言った。
「君は被害者なんだ。そして警察に脅された。怖かったろう。仕方
「ダメです」
メルははっきり言った。
「私が嘘をついたから、八木正平さんは無実の罪で有罪になりまし
メルの視線に「君は勇敢だな」と八木久光は棺を見つめた。
「私なんかよりも勇敢だ」
八木久光ふらふらと棺に向かって歩き、傍にいた都に言った。
「私が嘘をついた理由。この子を守りたかったからなんだ」
八木久光は呟くように言った。
「この子は発達障害があって、環境の変化にパニックになっていた
八木久光は棺の前に座り込んだ。
「だが取り返しのつかない間違いだったんだ。お前は私よりも、先
八木久光は棺にすがりついて慟哭した。
島都はその傍らでそれを無表情で見ていた。じっと、まるで何も出