逃亡者北谷勝馬5-6
5
「どうしたんだい」佐久間が聞くと勝馬は佐久間の手を取った。
「母ちゃんが警察に捕まった」勝馬はそう言いながら道路とは反対方向の田んぼのあぜ道を走った。
7年前-。
小学校の昇降口で高野瑠奈はいきなり男子にシャツの上から胸を触られた。
「あ、あ…」顔を真っ赤にして硬直する少女。男子は「すげー、柔らかかった」と言いながら友人3人と一緒に逃げようとした。
「うりゃぁあああああ」と突然、都がその男子の股間を思いっきり蹴り上げる。男子が火星語を発しながらのたうち回る。
「瑠奈ちんにエッチな事をしたらこうしてあげるから!」
都は大きな目に涙を浮かべながら宣告した。勝馬はそんな都の後ろから声をかける。
「都さんが手を出すことないですぜ。俺が創始した男子エロ道に反する行いをした外道どもは、俺が責任を持って締め上げまさぁ」
と指をバキバキ鳴らす勝馬。
「ひいい、中学生2人に勝ったという伝説の」情けない悲鳴を悪ガキが挙げる。
「か、勝馬君、勘弁して」
「もう、いい」と瑠奈が勝馬の赤いTシャツを引っ張った。
「次にやったらお前をフルチンにしてやるぜ」と勝馬は言い捨てて、都が瑠奈を連れて行くのについて言った。
「さすが勝馬さん、格好いいです」と板倉大樹が鼻水たらしつつ黒いランドセル背負って勝馬についていく。
「おい、母親…」
学校の教室で頭を下げている都のお母さん(軽度知的障碍者)に、眼鏡をかけた小学校教諭木本太郎は威圧的に言った。
「お前、娘のしつけはきちんとするって言ったよな。なのに2週間でこの様かよ。あ? やっぱり施設に預けてくれねえかな。お前みたいなガイジの母親が子育てなんか出来る訳ないだだろうが。おっ?」
そういいながら、木本は都の母親杏子を蹴っ飛ばした。
「お母さん!」都は大声をあげた。
「酷いよ。先生、暴力振ったのは私なのに!」と都が泣きながら木本を突き飛ばそうとする。
「うるせぇ」
木本が怒鳴りつけた。
「とにかく、次学校で何か問題やらかしたら、お前の見ている前でお前の母親殺すから」
眼鏡の教師は冷酷に言った。その様子をスマホのカメラがドアの隙間から撮影していた。
校庭を呆然と歩く都。そんな都の後ろから母親の杏子がガバッと抱きしめてきた。
「都‼ 偉い‼ よく瑠奈ちゃんを守ったね」
杏子は凄く嬉しそうだった。
「で、でもそのせいでお母さんが」
都は自分を抱きしめるお母さんの手に縋り付いた。
「あ、私晩御飯のカレーの事考えてた。っふふふふ。私あんな先生に殺されないから、だから」
お母さんは都を後ろからむにゅむにゅした。
「だから都は何も心配しないで、正義の味方でいてくれていいんだよ。都凄く格好いいから、私幸せ」
「あの時撮影した画像を」
公園で高野瑠奈はスマホに向かってしゃべった。
「私は木本先生に送ったの。Gメールで特定されないようにして。もし島さんのお母さんにこういう事をしたら、これをネットでばらまくって言って。そしたらすぐに都が誘拐される事件があって…。私先生に聞いたんだ。何で島さんは病院に行く事になったんですかって。そうしたら、木本先生、それを都のお母さんの逆襲だと思ったらしくて」
木本は職員室で瑠奈の前でヘラヘラ笑った。
「あのアマ、俺を脅迫しやがったんだ。だからガイジの為の学校に電話して。あのアマに子育ての能力はありません。このままだと手遅れになるって。ガイジの学校の先生はプロだからよ。ガイジの母親なんかいかようでも黙らせられる」
小学4年生の高野瑠奈は真っ青になった。
「ごめん、都」瑠奈の声が震えた。だが、都は電話で即答した。
-ありがとう。瑠奈ちん。
「え」
都の声に目を見開く瑠奈。
-瑠奈ちんが、私と私のお母さんを助けてくれたって事だよね。へへへへ、そうか、そういう事だったんだ。
都の電話から聞こえてくる声は本当に嬉しそうだった。
「でも、そのせいで」
-裏切ったのは木本先生だよ。でもこれで事件の真実を解く手がかりがつかめそうかも知れない。
マイクロバスの車内で都は電話を切ると、千尋に聞いた。
「千尋ちゃん。高田涼ちゃんの制服、どこの高校の制服だかわかるかな、黄色いリボンとスカートがかわいい」
「んん」千尋が考え込む。だが答えたのはスタッフの内郷智子だった。
「それなら、みらいの森高校だよ」
「ああ、つくばみらい市にある。って、内郷さん何で知っているんですか」
千尋が素っ頓狂な声を出した。
「だって私はあの高校で教師をやっていたのよ。でも千代川ってババァ教師のいじめで転職したんだけど」
と内郷はため息をつく。都はじっと千尋を見つめた。
「とにかく、涼ちゃんに会ってみる必要があるよ。多分この事件は私と涼ちゃんが誘拐された事件に繋がっていると思うから」
「よし、都は高田涼さんに会いに行くみたいだし、私たちは守谷に帰って勝馬君の家で待機しようか」
瑠奈が大きく伸びをした直後だった。突然全員のスマホが鳴った。全員がスマホを見つめる。
「ちょい待て」
結城が呆然とした。Lineでは勝馬が『やべぇ、母ちゃんが警察に捕まったらしい。6号線の廃校に隠れてる』と通信してきた。
「ちょ、どうして…」板倉がキョドりだす。結城は恐慌状態の勝馬の舎弟を他所にしばらく冷静に考えていたが、やがてハッと何かに思い当たった。
「まさか、あのセダンにドラレコがあって、妨害した軽トラを容疑者として警察に確保するよう指令が行ったとか。それで6号線の飲酒運転の検問かなんかでナンバーが同じ軽トラが捕まったんだ」
「だったら何で勝馬君と佐久間さんは逃げ出せたの?」
と瑠奈。結城は少し考え込んだ。
「多分勝馬の母ちゃんが荷台に人載せて捕まったら面倒だと思って、あらかじめ下ろしておいたんだろう。くそ、敵も頭が切れるぞ」
結城はさすがに焦りを見せて都に電話した。
「都、LINEは見たか? 俺らはその廃校って所に目星をつけて行ってくる。お前はみらいの森高校に行って、高田涼に話しを聞いて事件の真相を暴くんだ」
-私もそうお願いしようと思ってた。ありがと。結城君。
都の声。直後に千尋からLINEが来た。「勝馬君がいる場所はここだよ」と廃校を交流センターに使用しているかすみがうら市の施設の位置リンクと、「例の連絡先」と書かれた電番が貼り付けてあった。
国道をワンピースとメイド服を後ろに乗せた2台のバイクが走っていた。並行する追い越し車線で「何あれ」とパリピ系の若者がカメラを回していた。
「とにかく、ここに隠れて居ましょう」
アニメのJKキャラのパネルが立っている教室に座り込んだ勝馬。夕闇が少しずつ広がっている。
「俺のダチが来てくれるぜ」
勝馬はリュックからオニギリを出して佐久間に渡した。
「なんか、君を見ていると懐かしい気がするんだ」
佐久間は言った。
「何か、思い出すんだよ。名前も顔も思い出せないけどさ。なんか君みたいに不器用ででも僕の為に一生懸命になってくれる何かがいた気がするんだ」
「そりゃ、良かったじゃねえか」
勝馬は言った。
「そんな一生懸命になってくれる奴がいるって事は、記憶が戻る前のお前はどんな形であれ、グッドだって事だ。俺も早く記憶を取り戻したお前とダチになりてぇ」
勝馬がオニギリをもごもごしながら言ったときだった。
「うっ」
突然佐久間は頭を押さえた。
「ど、どうしたんだ…」オタオタする勝馬に佐久間は頭を押さえて声を震わせた。
「何か頭の中に」
佐久間は目を少し開いていった。「何か見えたんだ。女の子が」
佐久間が一瞬見た女の子…。それはまさに都が会おうとしている高田涼という少女と同じ輪郭であった。
「ついたよ」
内郷智子は赤いミニで都と千尋をみらいの森高校まで送り届けた。校門のない前衛的なデザインの令和的な建物だ。
「ありがとうございました」
礼をする都に「用事が終わったら連絡して」と車を降りて声をかける内郷。その時だった。
「内郷先生‼」突然2人の女子生徒が声をかけてきた。制服はまさしく高田涼が着ていた制服だった。
「あの…涼と直の事で来たのですか」
ポニーテールの黒髪の大人しそうな少女が緊張した声色で聞く。
「佐久間さんと…」内郷はそこで真っ青になって都に深刻な声で質問した。
「ひょっとしてあなたの言っていた佐久間さんって、佐久間直さんの事?」
都は目をぱちくりさせた。「ほへ?」
6
「私は西野佳苗、こっちは坂口夢愛です」
と学食のテーブルでポニーテールの少女西野佳苗(16)が、ショートでカチューシャの坂口夢愛(16)を紹介する。
「島都でーす」「薮原千尋でーす」と元気な2人。その横で内郷智子は「元教師の内郷です」と言った。
「良かった、先生元気そうで。自殺未遂とか聞いちゃったときは、本当に心配したんだから」
と西野佳苗は内郷を揺すった。「ごめんなさい」と内郷は小声で言う。
「これが私たちの写真。科学同好会だったんだよ」
坂口夢愛はスマホの画像を見せる。そこには部室で楽し気に自撮りする西野、坂口、教師の内郷、そして高田涼と佐久間直、そう都が納屋で一度だけあった少女がいた。
「涼ちゃんと佐久間さんは友達だったんだ」
都が写真を見て呟いた。
「5年生の時から…涼が私たちの小学校に転校してきた時からね。それ以来私たちはずっと腐れ縁。それで科学同好会まで作っちゃった」
佳苗が笑った。
「繋がったね。7年前の事件と今回の事件」
千尋の耳打ちにも都は首を振った。
「ううん。却って謎は深まっちゃったよ。だって涼ちゃんが佐久間さんに出会ったのは5年生。私と涼ちゃんが事件に一緒に巻き込まれた1年も後だよ。事件当時は別人同士。なのに何で同じ上岡って人に」
都は自分と千尋そっちのけで内郷とおしゃべりし始める2人のJKを見た。
「でも内郷先生が先生を止めちゃって。涼も直もここ1、2週間学校に来ていなくて。本当怖かったんだから」
と夢愛。
「千代川って先生がいじめたせいだって聞いたけど」千尋の声に。
「そう、あのセンコー最低」と西野佳苗がテーブルをバンと叩く。
「あいつが内郷先生を虐めた理由って…あ…」
夢愛が言葉を濁すのを、都は「佐久間直さんが実は男の子だって事かな」と夢愛を見ていった。
「え、マジ」と千尋。
「瑠奈ちんと服を交換するところを見て、何となくそんな気がしたんだよ。今佐久間直さんが危ないかもしれないから、知っている事話してくれないかな。それと涼ちゃんにも会いたいんだけど。家とかわかるかな」
「あ、危ないって」と夢愛が不安そうに都を見た。
「大丈夫。今は佐久間さんは都さんの友人に匿われているから」と内郷がフォローする。
「涼家にも帰ってない」佳苗が心配そうな声で都の質問に答えた。
「あの子、養護施設から学校通っているんだけど。直が学校に来なくなってから、養護施設にも帰っていないみたいで」
「よ、養護施設っていつから?」
都が目を見開いて呆然と聞いた。
「5年前。私たちが5年生の2学期からかな」
都が呆然としている事に何か誤解したのか、佳苗が必死で言葉を続けた。
「でも涼も直もいい子だよ。涼は科学知識が豊富で手先が器用で、変な小道具とかいっぱい作っているけど、でも中学の時にいじめられていた私を助けてくれた。凄く優しくて友達想いの強い子なの!」
「直だって。別にエロいことの為に自分の性別を黙っていたんじゃない。凄く怖くて戸惑っていただけ」と夢愛。
「わかるよ…」都は小さな声で言った。そして何かを振り払うように次の質問に行く。
「どうして佐久間さんが学校来なくなったのかわかるかな」
都がそう言ったとき「私が千代川のいじめに耐えられなくて自殺未遂までして教師を辞めたから」と内郷がぽつりと言った。
「私は千代川が佐久間さんにあるフリースクールを薦めようとしていたのを止めようとして、それで千代川にいじめられたの。私が耐えられなくて、あんなことしたせいで、佐久間さんはフリースクールに行くように言われて」
内郷は声を震わせた。「私は、生徒を見捨てたんだ」
「内郷先生のせいじゃない!」と夢愛が大声で諭すように言いながら内郷智子の手を握った。
「でもちょっとおかしくない?」千尋は都に言った。
「佐久間直さんが連れていかれたのはフリースクールだよね。それは親が同意しないと連れていかれないんじゃないの? それにそりゃ、変なヨットスクールみたいなところから逃げて、連れ戻しの追っ手が来るのはわかるよ。だけど、その子を連れ戻すために黒メガネがスタンガンとかワゴン車とか、警察権力を味方につけるとか大げさすぎるよ。フリースクールは表向きで何か国家的陰謀とかがあるんじゃない? それに都が7年前に誘拐された事件だって。あれとどう繋がってくるの。少なくとも上岡って奴は都を誘拐した人間と同一人物なんだよね」
千尋はずっと考えていた事を都にぶつける。都はその質問には答えないで、夢愛と佳苗に質問をした。
「佐久間直さんのおうちってわかるかな」
佐久間直の家は近くの公団団地だった。
「おばさん、急にごめんなさい」と佳苗が都、千尋、内郷先生を優しそうな佐久間直の両親に紹介しようとする。
「どうしてもおじさんとおばさんに会いたいって」
佳苗の言葉を手で制して都は眼鏡をかけた温厚そうな40父に聞いた。
「佐久間直さんが連れていかれたフリースクールって、何ですか」
「え」と両親が顔を見合わせる。
「佐久間直さんはこのフリースクールで暴力を受けています。今私の友達が保護していますが、警察もなぜかそのスクールの味方で、このままだと連れ戻される可能性があります。このフリースクールは佐久間直さんがトランスジェンダーである事と、何か関係があるのですか」
都は立て続けに両親に質問をした。両親がうろたえる。
「ぼ、暴力…」
ショックを受けた母親が父親を見る。都の言葉に衝撃を受けたのは、佳苗と夢愛も同じだった。
「暴力って、直が?」と夢愛が呆然と声を震わせる。
夢愛、そして4人の少女たちを見て、父親はため息をついた。そして椅子に座ったまま語りだす。
「そのフリースクールと言うのは、脱グルーミング協会という名前です。紹介したのは千代川先生で、上岡という人ともう一人木本太郎さんという教育作家さんがうちに来ました」
「ちょっと待ってください。全員聞いた名前なんですが」
千尋は呆然としたが、都の目は謎が今つながった事を確信していた。
「続けてください」都に促され、呆然とする佳苗、夢愛、内郷智子の前で父親は言葉を続けた。
「私は娘の、いや、息子の性的指向を理解しなければと思っていました。むしろ、今まで気づいてやれなかったのが申し訳ないと思っていました。だから娘の事を理解しなければ…そう思って勉強しようとした矢先に、千代川先生が木本先生と上岡光秀理事を連れてきたのです」
「お前らは娘を虐待している事に気づかないのか」
木本はまさに都が今いる団地のリビングで1か月前喚き散らした。
「お前らが、直さんが自分をトランスジェンダーだという教育をしたから、グルーミングをしたから、直さんは自分を男だと思い込んでしまったんだ。あ? 人間は物理的に生まれ持った性とは別の存在にはなれないんだ。それなのに、こんなことが起こるのはな‼ お前らが自己満足でしかない薄っぺらい理解親君ごっこに、今女性の権利を脅かそうとするトランスカルトって奴が漬け込んでいるからなんだ」
「欧米ではグルーミングは虐待だという価値観が浸透しています」
上岡光秀(42)が言うと、千代川珠代(51)が「お父さん、お母さん、頭のおかしなカルトによって娘さんの人生を滅茶苦茶にしていいのですか!」と迫った。
「ちょっと待ってください。そんなトランスジェンダーの子供の理解者になる事はグルーミングとは言いませんし、トランスジェンダーは親の教育で思い込まされるものではありません。ましてやそれで親が虐待で告発されるなんて、欧米でだって嘘だと思いますよ」
内郷智子が信じられないという表情で両親に言った。
「そ、そんな…」と父親は呆然とした。
「何時間もそうやって攻められた後で、今度は娘さんとの思い出を話させ、そこから攻めるみたいなことを繰り返されて、私たち、おかしくなって」
母親は号泣した。「直、ごめんなさい、ごめんなさい」
「ちなみにいくら払ったんですか」と千尋が意地の悪い質問をする。
「300万円。それから生活費に200万円振り込む予定です」
「悪徳商法ですよそれ」内郷は言った。千尋も横で腕を組みながら都を振り返る。
「悪徳商法でしかないそのフリースクールが、こんな警察権力まで味方につけて、直さんを無茶な方法で連れ戻そうとしているのかねぇ」
「その原因はこれだよ」
都は部屋のテーブルの上に置いてあったパンフレットを手に取る。脱グルーミング協会のチラシには賛同者として国会議員や政財界の大物が並んでいた。
「うわぁー。こっちは国会議員。こっちはホテルチェーンのトップ、こっちはプロの野球選手。何だこれは、たまげたなぁ」
千尋が呆れたようにたまげて見せる。
「つまり、施設での虐待が発覚すれば、ここの人たちの社会的地位も名誉もがた落ちって所か。だから警察に圧力をかけてでも佐久間直さんを連れ戻し口を封じたいって事か」
「でも、何でこんな偉い人が。ノーベル賞の授賞者もいるよ」
と信じられないという様に西野佳苗が都と千尋を見つめる。
「トランスジェンダーはLGBTでも一番差別や偏見がきつい性指向って言われているの」
内郷智子が説明する。
「保守って言われている人だけではなく、フェミニストや左翼って言われている人にも、性犯罪予備軍とか、人権や存在を認めるだけで女性が安心してトイレに行けなくなるとか、実は怪しい団体が勝手に作った性犯罪を自由にするための病気とか、そういうことを言う人がいっぱいいる。当事者に対して理解のある両親に対してもグルーミングだとか言ったりね」
「ハリー・ポッターの作者もそんな思想を持っているって話、聞いたことある」
千尋が都に言った。
「つまり政治家とか社長とかそういう偉い人にも、この上岡って人に賛同する人がいるって事だよね」
都はスマホを取り出した。
「とにかく、結城君に電話する。早く合流しないと、先にあいつらに勝馬君と佐久間君が捕まったりしたら。殺されてしまうかもしれない」
夕闇の国道を2台のバイクが走るのを、1台の黒いセダンが追跡する。
-とにかく気をつけろよ。奴らは陽動で、わざと我々から遠ざけようとしているのかもしれない。
セダンの車内にスマホ越しに上岡の指示が聞こえる。
上岡の運転するワゴン車がゆっくりと学校の裏手に停車する。
「駅前にも待機させておいたし、奴らが逃げ込む場所は大体限られている」
そして懐中電灯の光が校内に走るのを見て、不気味な黒メガネが不敵に笑った。