少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

劇場版少女探偵島都-少女X殺人事件❶

 

1

 

 

わたしの兄弟たちよ。あなたがたが、いろいろな試錬に会った場合、それをむしろ非常に喜ばしいことと思いなさい。

あなたがたの知っているとおり、信仰がためされることによって、忍耐が生み出されるからである。

ヤコブへの手紙 第一章

 

-2016年、茨城県県南地域

「天におられる私達の父よ」

と教会の孤児院の食堂で牧師が祈りの言葉を捧げた。

「天におられる私達の父よ」子供たちが復唱する。

「皆が聖とされますように」「皆が聖とされますように」

「みくにが来ますように」「みくにが来ますように」

「御心が天に行われる通り、地にも行われますように」「御心が天に行われる通り、地にも行われますように」

「私達の日ごとの糧を今日もお与え下さい」「私達の日ごとの糧を今日もお与え下さい」

「私達の罪をお許し下さい私達も人を許します」「私達の罪をお許し下さい私達も人を許します」

「私達を誘惑に陥らせ得ず悪からお救い下さい」「私達を誘惑に陥らせ得ず悪からお救い下さい」

「アーメン」「アーメン」

「どうぞ、食べてください」と牧師の西条憲太郎が子供たちを促すと「いただきまーす」と子供たちはつみれ汁を食べ始める。

「牧師先生。このつみれって何なの」

元気そうな男の子はつみれを箸でつまんで持ち上げる。

「何の肉なの」

「ああ、それはね」

能面のような表情の西条牧師は男の子に教えてあげようとしたときだった。

「いやぁあああああっ」突然一人の7歳くらいの少女が頭を押さえて座り込んだ。

「有菜ちゃん大丈夫?」「どうしたの」

子供たちが立ち上がり、頭を押さえて震える少女を助け起こそうとする。しかし少女はその手を振りほどいて恐怖に目を見開いて涙を流しながら恐怖に震えていた。

「その肉は駄目、その肉は駄目、その肉は駄目!」有菜は頭を押さえて泣きながら拒否する。

「だ、だってその肉は、その肉は…」

「どうしたのかな」

西条牧師は立ち上がって震えている有菜という少女に手を伸ばす。西条の手が少女の瞳に映り込んだ。

「やだぁあああああああああああ」

少女は床に落ちたナイフを手にすると、それを振り下ろした。教会の近くに落雷が落ちた。

 

-7年後。茨城県南地域、市民病院

「秋菜。来てくれたんだ」

平本絵美理というポニーテールの14歳の少女が笑顔で病棟の病床に寝たまま声をかけた。

「う、うん…」

結城秋菜がなんだか緊張したような悲し気な表情で頷く。

「そんな泣きそうな顔をしないでよ。今私は我が生涯一片の悔いなしって心境なんだから」

と絵美理はラオウみたく拳を突き上げて見せる。

「だから秋菜、今度の大会は私の分まで頑張れよ」

と絵美理は秋菜の背中をバンバン叩いた。しかし秋菜は顔を覆ってぐすぐす泣き出した。

「私、絵美里に勝ちたかったよ…」

「はははは、そりゃ残念だっかねー」

と絵美理は頭を撫でた。

「大丈夫。私は死なないから。私ね、人を助ける仕事をする目標があるんだ。この病気を通じて」

絵美理は秋菜を抱きしめながら笑った。

「この病気になって良かったって…絶対思えるようにするのが目標」

絵美理は秋菜を見て優しく笑った。

「だから応援してよ。私も秋菜を応援するからさ」

「うん」秋菜は真っ赤になって頷いた。

「あ、お客さん?」

ショートの少女が秋菜とは別の中学校の制服姿で入って来た。

「あ、秋菜紹介するね」

絵美理は少女を紹介した。「彼女は私のクラスの友達の山口有菜」

「どうも」

ジト目でクールな表情の少女、山口有菜(14)は会釈した。

「彼女は愛宕中学の結城秋菜。私のライバル。心配してきてくれたの。はいはい、泣かないの」

と秋菜をなでなでする絵美理。

「それで、今日は何か私にくれるの? お菓子とか」

「違うよ」とジト目の少女、山口有菜は色紙を手にした。

「教会の子たちからメッセージ」

「えええ、嘘! 健太のも、高次のも、実来のもある♪」

と絵美理は嬉しそうに色紙を見た。「達者でなって…健太らっしいや」

「教会の子って」と秋菜が目をこしこししながら聞く。

「私が住んでいる孤児院だよ。絵美理もよく遊びに来てくれるし、前の大会で絵美里が秋菜ちゃんを倒した日には、みんなで教会でパーティーをやったんだから。ご馳走様でした」

と秋菜に頭を下げる有菜。

「ええーーー。私その日一日中泣いてたのに―」と秋菜は真っ赤になって抗議する。

 

「今日、来てくれてありがとね」

病院の前の並木道で秋菜に対して有菜は微笑した。

「なんか、私が泣いちゃうなんて恥ずかしいけど」秋菜はオーバー姿でモジモジする。

「いや、秋菜ちゃんがいなかったら、きっと私が泣いていたよ」

有菜はスマホの待ち受け画面を見せる。ディズニーランドをバックに有菜と絵美理ともう一人の少女が屈託なく笑っている。

「大切な友達なんだ」秋菜が呟くと、有菜は頷いた。

「2人ともあんな重い罪を犯した私を友達として受け入れてくれたんだよね」

「重い罪?」秋菜が目をぱちくりすると、有菜は「いや、こっちの事」と手を翳した直後だった。

「有菜さん。ごきげんよう」と能面のような無表情の牧師、西条憲太郎(38)がじっと見降ろし、有菜は振り返って顔面蒼白になった。西条牧師は能面のような笑顔でにっこり笑って

「何の話をしていたんですか」

と有菜に確認した。

「何でもありません。先生」と有菜の表情は明らかに怯えていた。

「そうですか。なら一緒に帰りましょう。それとも、もう少しお喋りしてから帰りますか」

「い、いえ」有菜が上ずった声を出す。牧師は秋菜を見つめた。

「君も、牛久の子ですか」

「い、いえ、私は守谷に住んでいます」と秋菜は声を震わせた。

「なら、常総線の駅ですね。では僕らはこれで」と西条は有菜を連れて歩き出した。

(なんだろう)秋菜はその場に立ち尽くした。

(重い罪って)

 

-1週間後

「都をポスターに…ですか」

高層ビルのレストランで水戸の夜景を前にして長川朋美警部は目を見開いた。

「ええ、私たちヤングセイバー社のポスターのモデルに、島都さんを起用したいのです」

「ほ、ほえ?」都は目をぱちくりした。

「CMモデル…やってみませんか」

西口秋生(32)という眼鏡にくせ毛のスーツ男性が都を見つめる。

「も、モデルって…エッチな写真撮られるの」

都は思わずパフェのスプーンを取り落とす。

「一応非営利団体なものですから、報酬は出ませんが、社長の神峰良は第一線で活躍してきた俳優。もし都さんが希望するなら芸能プロダクションとも。かなり脈はあると思いますよ。なぜなら都さんを指名したのは、社長なんですから」

「どうしよう、長川警部」

都が黒スーツの長川の袖をクイクイする。

「な、なんか難しい事を言っている」

「簡単に言えばだな」長川はため息をついた。

「神峰良というロリコン犯罪で捕まって芸能界から追放されたおっさんが社長の子供を救う団体の広告塔になってくれって事だ」

「ろ、ロリコン!」Σ(゚д゚lll)ガーンという表情の都。

「実は被害者の聴取は私もやっててな。全員都みたいに小柄のショートだった。年齢は都よりちょい年下だがな。まぁ、そういう事で、この話はなかったことにさせていただけませんか」

長川警部は西口を見た。

「そ、そんな、あの事件は社長を陥れるためのハニトラで」

「それを捜査した警察官の前で言えますか」長川は軽蔑するような顔で言った。

「というわけでお引き取りください」

 

「ああ、食った食った」

水戸駅駅前のペデストリアンデッキで長川は豪快に笑った。

「でも子供たちの為になる仕事だったのかもしれないんだよね」

都は心配そうな顔をしているが、長川はその頭をぐしゃぐしゃした。

「いいんだよ。芸能界に顔が利くとかいう文句が5年前性犯罪やらかすときそのまんまなんだ。都をどういう目的で勧誘しているのか一目瞭然だぜ。しかもただ働きだぜ」

長川は缶ビール片手に喚く。

「都の後見人になっておいてよかったよ」

 

「こんなんが都の後見人かよ」

結城は自分のマンションの自分のベッドでいびきをかいている女警部を見た。

「もう、長川警部風邪ひくよ」

都が毛布と布団をかけてあげる。そして一緒にぬいぐるみを寝かせてあげる。そしてスマホでかしゃっすると、画面を見て、結城竜の従妹の秋菜と一緒にクスクス笑った。

「まぁ、それはともかくだ。今意外な客が来ているぞ」

結城がジト目でため息をついた。

 部屋にかしこまって座っているのは、見るからにヤンキーな連中だった。その一番手前で北谷勝馬が胡坐をかいて座っている。

「ったく、この前喧嘩やらかして謹慎処分だっただろう」

結城が首を振る。都は

勝馬君、お久しぶりー、会いたかったよー」と元気に勝馬とハイタッチする。

「で、何のようなの。師匠に勉強を教えてもらいたいの?」

と中学2年生の秋菜が腕組をする。

「いや、違うんです。実は板倉から相談がありましてね」

勝馬が板倉を見た。細目の金髪モヒカンの少年、板倉大樹が緊張した面持ちで

「じ、実は、実は恋の相談なんです!」

板倉の純粋な表情を見て、都と結城と秋菜が口を開ける。

「こ、恋の相談…」都は目を真っ白にして耳から蒸気を出している。

「や、やめろ。フロッピーディスクに4K動画ぶち込む様な極悪非道な行為は」

と結城。

「ぜ、是非都さんの推理力をお借りしたいと思いまして」と勝馬

「いやいやいや、男女の恋愛とか推理するものじゃないから」

そういう結城の横で都の顔が真っ赤になり鼻血が出ている。

「師匠おおおおおおお。戻ってきてください」と秋菜が都をブンブン振っている。

「とにかくだ」結城が勝馬に言った。

「愛だの恋だのそういうのは、都にとって一番カオスな分野なんだ。そういうのは薮原…いや、あいつはマニアックすぎるから、高野だ。高野なら教えてくれるだろう…」

「それで板倉君は誰の事が好きなの」

と秋菜はじーっと板倉を見る。「私の知ってる人?」

「い、いえ…僕も名前は知らないんです」板倉は下を向く。

「スーパーの店員さんなんですから」

「バイトの子みたいです」勝馬は頷いた。

「年齢は俺らと同じくらい、レジ打ちや商品陳列の仕事をしています」板倉は声を上げる。

「お、俺一目ぼれしちゃいやしてね。それで、1日10回菓子を買いに行ってるんです」

「仕方がないからパシリに使っているんですが」勝馬は思い出した。

「レシート…半分は払うから出しとけよ」

勝馬は板倉のポケットの中にあるレシートを取り出させた。

「ドンぐらいスーパーに通っているんだよ」

と結城はテーブルの上に広げられたレシートを呆れたように見た。

「凄いね」都は目をぱちくりさせた。スナック菓子のレシートをどんぐり眼で見る。

「本当に朝から晩まで何回も通っているんだ。毎日」

「ストーカーじゃねえかよ」と結城が呆れた声を出す。

「それで…俺告白しようと、店が終わる時間に従業員出口で待っていたんですが、彼女出てこなくて」板倉が都に言う。

「夜中の2時閉店だぞ。あの店。頑張るねぇ」

と結城。

「俺、あの子に告白したいんです! あの子の名前とか推理してください!」

と板倉は都に頭を下げた。

「やめた方がいいと思うぞ」結城はため息をつく。

「多分向こうも変なモヒカンが付け回していると気づいているんだよ。それで従業員出口でふらついているお前を見て危険を察知して別の出口から出たんだ」

結城はため息をついた。

「そうとは限らないと思うよ」

都はレシートを見て目をぱちくりさせた。

「私の推理が正しければ、板倉君の初恋の人、とんでもない事件に巻き込まれているかもしれない」

都が板倉を見る目は真剣そのものだった。

 

2

 

「と、とんでもない犯罪ですか」

板倉が呆然とした表情で言うと、都は頷いた。

「その女の子の命に関わるかもしれない犯罪にね」

都は真剣な表情で板倉を見た。

 

茨城県庁

神峰良(58)という法人代表は議会で証人として証言した。

「日本の児童の貧困率はG7でも最悪、OECDでもチリやメキシコなどに近いほど深刻な状況になっています。現在では多様性という名のもとにひとり親家庭が急増し、結果的に子供を育てられないという無責任な女性が増えているのです。そして多くの子供が劣悪な児童養護施設で過ごし、さらに教育の機会や住居契約の手段を失い、貧困が固定化しているのです。今コロナで多くの若者が路上で食べ物を施されなければ生きていけない、そういう状況が広まっています。そこで我々のプロジェクトは、親に恵まれない子供たちの為に養育から就業、住居の斡旋まで全てを面倒を見るという、画期的な構想を持っています。今日は県議の皆さんにこの構想をお話ししたいと思っています」

神峰は大袈裟に手を振りながら演説している。その演説を西条牧師が傍聴席から無表情で見ている。

 同時刻。議会事務所。若い女性職員が電話に出た。

「はい、茨城県議会事務所です」

女性職員の耳に機械音が聞こえて来た。人工音声のようだ。

-今から茨城県議会のトイレが爆発する5分以内にトイレから全ての人間を避難させろ議会棟2階のトイレだ。

 女性職員は該当するトイレの中に入り、「誰か、誰か中に誰もいませんか」と声を上げた。その直後だった。ゴミ箱が発光してトイレから凄まじい音が聞こえた。

 

「このレシート…同じ日の朝の9時7分、次に10時34分、12時38分、15時19分、18時5分、20時17分、22時51分、そして夜中の1時43分」

結城の家のリビングのテーブルに並べられたレシートを都は指さした。

「そんなに何度も自分のレジにモヒカン野郎が現れたら怖いわ!」と結城が突っ込んだ。

「そんな。普通にレジに並んだだけだよ!」

結城に対しては不愛想な板倉。だがその後恋に恋する表情になり

「あの子からお菓子を買えるだけで、僕は幸せなんだ」

と天井を見上げ、結城と秋菜は唖然をする。

「それなら余計におかしいよ」と都に言われて板倉は「そんなー」と情けない声を出すが、都が言いたいのは別の意味だった。

「よく考えてみてよ。9時から夜中の2時まで働いているよ。私たちと同じ高校生が朝の9時から夜中の2時まで働くかな? しかもお昼休憩もなしに」

「そういえば」結城は都を見た。

「9時から2時までって17時間労働だぞ。高校生のアルバイトじゃねえ。てか高校に行けねぇ。仮に中卒で正社員として働いているにしても違法だ」

「それに…」都はレシートをチェックしている。

「レシートを見る限り、5日連続でこんな感じで働いているみたいだね」

「そ、そういえば、変だなって思ったんです。でも双子とかかなって思ったんですけど」

板倉がおどおどするのを、結城は「何でだよ」と突っ込んだ。

「今が夜の11時か、ちょっとそのスーパーに行った方がいいな」

と結城は腕組をして考え込んだ。

「その子はどんな子なんだ」

「普通に大人しそうで、真面目そうで…でも笑顔で接客してくれるんだ」と板倉。

「もし今日いるとしたら6日連続か」

結城はため息をついた。

 その時だった。

「はい、はい」とスマホに向かって緊張しながら喋る長川警部が出てきた。

「了解しました」と長川はスマホを切った。

「悪いな。君ら。事件があって本庁に呼び出し食らった。糞、さっきまで水戸にいたのに」

と長川はコートを着る。

「事件なのか」と結城が長川に聞く。

「爆弾が県議会で爆発した」

長川は唸った。

「ま、マジかよ」結城は少し驚いた。

「最も、音がデカいだけで破壊力はないタイプの爆弾でな。至近距離にいた女性職員も無傷だったようだ。だが犯人は『これは警告』とか言っているらしくてな。今度はデカい爆弾を本当に爆発させるかもしれないんで、捜査一課は本庁に召集だ」

と長川はため息をついた。

「それじゃ仕方ないね」都は笑った。

「なんだ。私が必要な話でもあったのか」と長川。都は首を振った。

「ううん!」都は女警部の手を握って「気を付けてね!」と言った。

「おう、都も風邪ひくなよ」

そういって長川は慌ただしく結城のマンションから出て行った。

「爆弾か」

結城は呟くように言った。

 

「い、いた」

板倉がスーパーのレジに立って接客している若い少女をトイレットペーパーを顔の部分にかざしながら示した。

「ま、マジかよ。あの子か」

結城はトイレットペーパーを顔にかざしながら声を出す。

「知ってるの結城君」

都はムーニーマンを翳しながら結城の顔を見る。ちなみに勝馬は捜査で人数が増えるとヤバいという理由で留守番だ。

「いや、バイトから帰る途中でこのスーパーに立ち寄ったことがあってさ。丁度1週間前だよ。あの子大体この時間にいたんだよ」

結城はため息をついた。

「と言う事は彼女は1週間1日も休まずに朝9時から夜2時まで働いているって事か」

板倉は歯ぎしりする。

「おそらく開店や閉店の準備を含めると、19時間とか働いているだろうな。1週間で153時間。法律の3倍」

結城は唖然とする。

「多分スーパーから出入りしてないって言うのは、職場に泊まり込んでいるんじゃないかな」

「そういえば」

板倉は店内を見回した。

「あの男子もあの女の子も毎回いるなぁ」

と板倉は呆然とする。板倉が一目ぼれした少女A(15)と長身の少年B(15)、別の眼鏡の少女C(15)は黙々と働いていた。

「おい、都。これって」

結城が都のいる方向を見つめた。しかし都はいなくなっていた。

 

 島都はスーパーのバックヤードにいた。そして事務室の前の手すりに手錠が3つ。それに電気ヒーターが設置されていた。壁には神峰良という人物が子供を抱えて悪魔から逃げる不気味なポスターが。

「そこで何をしている!」

突然都の背後から声が聞こえ、びっくりして振り返った都に物凄い形相のスーパーの店長熊田栄太郎(49)が警棒を持って立っていた。

「お前はここで何をしているんだ!」と熊田店長は都を物凄い形相で見つめ、都は「あわわわ」していたが、その時背後から

「ナターシャ! ナターシャ、ユ・ガミ・ネエナ。チキショオオメエエエ」

と結城が都を抱き上げた。

「シー・イズ・マイ・ドーター。アイ・ウォン・トー・トイレット。ユーアー・ペドフィリア! マイ・ドーター・オンリー・ナイン・オールド! ファッキング・ロリータ!」

結城が喚くと、店長はニコッと笑って

「アイムソーリー。トイレット・イズ・パーキング・エリア」

「OK、アンダスタンド」

結城は都を抱っこするとバックヤードから観音ジュラルミンドアを通って売り場に戻った。板倉が呆然と突っ立った状態で出迎える。

 

「私9歳なんだ」

都が公園のベンチでじーっと結城を見る。

「で、お前何か見たのか」

結城は都を見つめた。

「見たよ。手すりに手錠が固定されていた。4つ分。それに電気ヒーター。多分誰かを一晩中監禁して凍死しないように電気ヒーターをつけているんだと思う」

「おのっれえええええええええええええええ」

板倉は激怒して立ち上がる。「あの店長を挽肉にしてやる」

「落ち着け。頭を使え」

結城はなだめた。

「今乗り込んでも労働問題にされるだけだ。だがな。店の営業時間が終わればだな。あの働いていた奴らは多分店長に手錠で監禁される。そこを長川警部に調べてもらうんだよ」

「現行犯逮捕って訳か」

板倉が目覚めたように結城を見る。

「労基違反だと警察は動かないが、未成年者を手錠で監禁していたとなれば話は別だ」

結城は板倉を納得させようとする横で都は考え込んでいた。

「でもその場合おかしな事があるんだよね」

女子高生探偵は結城を見る。

「もしあの3人が監禁されて働かされていたとすれば、お店のレジで働いている時に助けを求める事は出来るはずだよ。お客さんに監禁されています、助けてくださいって言うとかさ」

「わからないぜ」結城は言った。

「洗脳と言う手口を使えば、いつでも逃げられる状態なのに逃げたり助けを求められなくなるって言うだろ」

「それなら、あの手錠は必要ないはずだよ」と都。

「それに監禁されて無理やり働かされているのなら、家族とかが騒ぐはずだし、あの女の子もあんな笑顔で接客なんか出来ないと思うけどなぁ」

と都は結城を見上げた。

「それに、あの手錠は4つだった。あの店で働かされている人は3人、1個多いんだよ」

「どういうことだ」結城が都を見つめる。遠くて消防車やパトカーの音が聞こえる。

「なんか消防車の音が多くないか」

結城が声を上げた直後、パトカーに先導されるようにピンクのセドリックが走っている。

「あ、長川警部だ」

都はじp-っと見つめていたが、

「消防車、スーパーの方から聞こえてくる」

と都がスーパーの方を見た。

「そ、そんな。まさかあの子に何かが」

板倉は血相を変えてスーパーに向かって走り出した。